怠惰に創作

細々と小説の様なものを創作しています。設定など思い付いたように変更しますので、ご容赦ください。

2代皇帝と7月事件(事変)

「7月事件(事変)」は、宇宙暦177年7月7日にゲーディア皇国で起こった軍部によるクーデターである。7月7日に起きたたので7月事件と呼ばれ、他にも「7・7事件」とか、7が4つも続いている事から「ワン・フォー・セブン事件」とも言われているようだ。

兎に角、この事件はゲーディア皇国を揺るがす大事件となったが、事の発端は事件より1ヶ月以上前の5月27日に起こった「ゲネル暗殺事件」である。この事件は、皇国軍国防軍(※1)の北部方面軍司令官「ラード・ゲネル大将」が、何者かによって暗殺されると言う事件である。

このゲネル大将と言う人物は、「パウリナ条約」に反対する軍部「反条約派」のリーダーであり、宰相サウルとは激しく対立していた人物である。それ故、彼の暗殺は宰相サウルが裏で糸を引いていると思われ、軍部、特に北部方面軍から激しく糾弾される事となったのだ。当のサウルは「証拠が無い」として関与を否定し、更に軍部と同じく宰相とは反目している近衛軍も宰相を擁護し、事件は調査中として棚上げ状態となった。

此処で何故、宰相と反目している近衛軍が宰相擁護の立場を取ったかと言う疑問が出ると思う。それは彼らの最大の存在意義は皇帝護衛であるからろう。簡単に言えば「宰相は気に入らないが陛下は護らなければならない。軍部は陛下すらも手にかける恐れがあるから今の内に弱体化させよう」と言う事である。

これは彼ら貴族が騎士の称号を持ち、嘗ての騎士道を重んじる教育を受けているからに他ならない。当然ながら皇国建国に活躍し、ウルギア帝から貴族の称号を授けられた者たちに騎士道精神があるかは疑問だが、皇国の貴族制は確立して以降の貴族として生まれた世代にとってはその教育に一定の効果があったようだ。とりわけ騎士道には女性に忠節を尽くして守ると言う思想があるので、女帝であるパウリナを守るのは、まさに騎士道精神にかなうものであるだろう。そう言う事もあり、若い近衛士官たちはロマンチストが多いと言われている。その証拠に、若い近衛士官たちの女帝に対する忠誠はかなり高い。

勿論、貴族には女性もいる。流石に彼女たちに騎士の称号は与えられてはいないが、多くの女性が騎士の称号を求め、近衛軍に士官していて、男性士官と同じくらい女帝に対して忠誠を誓っている様だ。が、彼女たちからすると騎士道精神とは如何いったものになるのだろうか? 女性を守ると言うのは男性目線だから‥‥‥女性士官はやはり主君を守るって事になるのか? そ、それともまさか‥‥‥百‥‥‥。

話を戻すが、この決定に軍部は不満を募らせ、クーデターへと発展する。と言うのが歴史の流れなのだ。そこで私はクーデターに関して、当時の重要人物とコンタクトを取る事に成功した。以下は彼とのインタビューの内容である。

 

オリバー・ストー大佐 装甲第1連隊長(当時)

 

オリバー・スト―大佐(当時)は北部方面軍所属の装甲第1連隊長として、クーデター軍の首都制圧戦に参加し、主力部隊である第1旅団と共に活躍した人物である。

その後、准将に昇進して、新設された機甲第17旅団の司令官となり、その8年後に退役している。

ストー氏が何処で知ったか知らないが、私の事を知っていて、話がしたいとあちらから連絡して来たのだ。皇国に取材で住み込んで2週間が過ぎ、如何やら私の事は噂になっているようだ。如何いう噂かは知らないが‥‥‥。

そこで私はさっそく彼に連絡を取り、翌日、彼の家に行く事にした。

ストー氏は真っ白な白髪頭のダンディな老人で、孫たちと戯れる姿は、正に優しいお爺ちゃんと言った感じだ。彼が皇国を揺るがす様な大事件に参加していたとは思えない印象を受けた。

 

———准将閣下、今日は取材をお受けいただきありがとうございます。

私はもう退役してるのだ、准将も閣下もよしていただきたい。

(ストーは真っ白な髪を手で撫でつける)

———分かりました。ではストーさん、あなたはあの事件の際、最も重要な首都制圧作戦に1部隊の将として参加していたのですね。

さよう、当時の私は北部方面軍所属の装甲第1連隊長だった。本来は第1旅団だけで行う作戦だったが、思った以上に近衛の抵抗が激しくてね。私は援軍として向かう事になったのだ。

ま、元々そのような事態に備えて第1旅団と共に首都に向かったんだがな。ただ我々の使命は首都周辺の監視と言った処か、宰相が逃げだしたら撃ち落とすみたいなね。

抑々宇宙都市内での戦闘を機甲部隊が行うのは避けたいだろ。その強力な火力で大変な事態になりかねないからね。

(ストーはソファーの背もたれに寄り掛かる)

———おっしゃる通りです。宇宙都市内での戦闘は専ら歩兵中心です。

あの時の機甲部隊の任務は、対戦車兵器用防御を施した戦車で歩兵の盾になる位でしょうな。多少の砲撃はしましたが、被害を最小限に抑えられるよう慎重を期しました。

———可なり大掛かりな作戦だったと思いますが、それを1ヶ月ほどで決行するのは並大抵の事では無いように思いますが、如何いった経緯だったのですか?

簡単な事だ、あの作戦は前々から計画されていたんだよ。ゲネル閣下の指揮の元ね。

———事前に計画されていたのですか?

その通りだ。閣下は皇国を救うには、もはや軍事行動に打って出るしかないと思っておられた。我々も心は同じだった。5月の時点で既に7月7日に決行する事になっていたのだ、この日は北部方面軍の全体演習を行う予定だったからね。誰にも疑われず軍を動かすのには都合が良かったのだ。

———なるほど、では北部方面軍だけで計画を進めたのも、その演習があったからなのですね。

それもあるが‥‥‥。

(ストーは言葉を止め、少し悩む。話していいか判断しているのだろうか?)

条約反対は国防軍全体の総意だったのは確かだ。まぁ、今考えると北部方面軍の者達だけだったと言う事になりますが、あの時は皆そう信じてた。だが、そのために力押しで事を進めるかに付いては意見が分かれるところだった。特に南部、西部両方面軍は元帥閣下(※2)の言葉を厳守して、そういった行動に出る事に反対していたからな、お陰でゲネル閣下とは険悪な状況になっていた。恥ずかしい話、この時の国防軍は可なり乱れていて連携など取れていなかった。

———そうだったんですか、私はてっきり軍は反条約で一枚岩になっていたものとばかり思っていました。あの事件の際にも他の3方面軍は緊急事態に可なり混乱していたようですが、軍同士は戦闘状態にならず、ただ静観するだけだったので、てっきり何かの確約があったのかと。

事前の話し合いは何もないよ。東部は兎も角、2方面軍司令官とは対立状態だったと言ってもいい位だよ。それに対立して居なくとも、下手に話して宮廷警察の耳に入ったら事だからね。

———確かに。

なんだかんだ言っても、彼らの心中は我々と同じ反条約だったからね。下手に動かず状況を見極めたかったのではないのかな。

(ストーはソファーから上半身を起こし、顔を近付け小声で話す)

キミ、国防軍がどれだけ削減されたか知っているかね?

———イヤ‥‥‥軍事機密じゃないんですか?

ハハハ、今とあの当時とでは全く違うよ。ウルギア陛下の時代は各方面軍は司令部と3個軍団で編制されていたんだが、条約により2個軍団に削減され、更に軍団も3個師団から2個師団に減らされた。

———かなりの数ですね。

それに対して連合は如何だ。テロやゲリラ対策と言って地上軍の削減は進まず、宇宙艦隊は資源を再利用するために解体に手間取ってるとか言って一向に削減しない!

(連合に対する怒りからか、ストーは声を荒げて表情も険しくなる。その顔は軍人のそれである)

———す、すみません。連合の国民としてすいません。

あ、イヤイヤ、すまない。君が謝る事ではないよ。それにわが国でも国防軍は大幅に削減されたのに対して、近衛は増強されたしね。

———近衛軍は増強されたのですか?

この事は当然公にはなっていないが、増強されたのは確かだ。君はサウルと近衛が、言い換えると貴族たちと対立状態だと思っているかね。

———はい、取材や公になっている記事にはその様に。職業柄全てを鵜吞みにはしませんが‥‥‥。

そうだ、それは後付けだよ。例え平民だったとしても彼は政治家で、あの頃は貴族だった。権力を持った者には最大限の笑顔を見せる。腹に中でどう思っていようともね。

確かに貴族たちはサウルの事を嫌っていたかもしれない。だが表面上は笑顔を見せていたし、サウルも貴族との関係が壊れる事は極力避けていた。近衛の増強もその一環だろうな。

———何処にでもある、よく聞く話です。確かに、両者にそう言った関係であるなら暗殺事件で近衛軍が宰相を擁護した理由も分かります。あゝでは、その暗殺事件に関連してひとつ質問をいいですか?

構わんよ。

———ゲネル大将の死で計画が白紙になる事は無かったのですか?

あったさ、私だけではなく皆そう思っていた。だから暗殺があった翌日に、今後の事を話し合うために集まったのだ。

———ではその会議で予定通りに決行する事になったのですね。

まさかそうなるとは誰も予想していなかったけどね。

———と言うと?

ゲネル閣下は条約反対の急進派のリーダーとして、それに賛同する者を引き付けるカリスマ性を持っておられた。だが後任となる方々は如何もな‥‥‥。

(ストーはその時の事を思い出したのか、ヤレヤレと言った感じで首を振る)

———史実では、新たなリーダーに第一軍団のトマス・ロイナント中将、サブリーダーに第5軍団のコール・ド・ダルメ中将がなり、二人のタッグによって、クーデターを成功させた事になってますね。

フッ‥‥‥まぁ、そうだな。

(行き成りストーが吹き出す)

 ――—!?

すまんすまん、笑いたくもなるさ、あの御二方がね‥‥‥。記者さんあの二人が如何なったか知ってるだろ?

———はい、蜜月は長く続かずって奴ですよね。

蜜月どころか彼らは犬猿の仲だよ。

———確かに仲は宜しくなかったようですが、ゲネル大将の死で一致団結して上官の無念を晴らしたと‥‥‥。

本気でそう思っているのかね?

———ですよね。人間そう簡単に‥‥‥行きませんか。

そう言う事だ。自分は会議に出席するのが少し憂鬱だったよ。あの二人が次のリーダーの座を賭けた対立に終始するだろうと予測できたからね。

———そう言えば、方面軍副司令官は如何なんですか? 彼はその後、大将に昇進して後任の北部方面軍司令官になってますよね。事件の1年後ですが。

ああ、あの方はそういった事には関わりたがらなかった。だからあの会議にも出席しなかった。

———それって‥‥‥ボイコットですか?

まぁ、条約には反対の考えは我々と同じだった。ゲネル閣下に心酔もしていたしね。だが、その反動か閣下の死で急速に意欲を無くしてしまったようだ。もしかすると閣下の様にはなれないからと、リーダーになる事から逃避しただけかもしれないがね。

———なるほど、分かりました。では、次に会議の話の内容についてお聞かせできる範囲で良いので、お聞かせください。

話せる範囲か‥‥‥。

(ストーは腕を組み、ソファーに深く上半身を預ける) 

自分が正しいと思った事をやればいい‥‥‥か。あの場にいたと言うのに‥‥‥。

———えっ? 如何されました?

イヤ、こっちの話だ。

(ストーは改まった表情で俺を見る)

君は何故自分にこんな話をするのか質問しなかったね。

———ああ、その質問は最後の質問にしようと思ってたのだすが。

そうだったのか、だが、今言っとくよ 。私はね、自分が体験した事を墓場まで持っていくつもりはなかったんだよ。つもりだったんだが、ある方の言葉でそうするべきでは無いと思うようになった。しかし、こんな話、家族や友人にする様な事でも無いし、かと言ってこの国のマスコミもね。そんな時だ、連合から来て色々とこの国の歴史を調べている君の噂を聞いた。だから連絡したんだ。

———そ、そうだったんですか。

で、会議の話だが———

———あゝはいはい。

(急に話を本題に戻され俺は慌てる)

まず会議室に入って真っ先に驚いたのは、今までは居なかった人物がいた事だな。

———それは誰ですか?

総帥だよ。

———はい? 総師ってまさか‥‥‥。

さよう、現在この国を実質的に統治している、ネクロベルガー総帥の事だよ。 

 

 

 

※1・皇国国防地上軍は北部、南部、東部、西部の4方面軍に分かれていて、首都「ミシャンドラ」を中心に、東西南北各地域の防衛を担っている。

※2・ドレイク・ネクロベルガー元帥。