怠惰に創作

細々と小説の様なものを創作しています。設定など思い付いたように変更しますので、ご容赦ください。

2代目皇帝と7月事件(事変) FILE2

———ネクロベルガー総帥が居たのですか?

あゝそうだ。ゲネス大将が座る議長席を挟んで左側がロイナント中将、右側がダルメ中将が座っていたが総帥が座っていたのはロイナント閣下の隣だった。会議室で彼の存在に気が付いた時は驚いたよ。多分他の者も驚いただろう。そして内心歓喜したものだ。

(ストーが嬉しそうな表情になる)

———歓喜した?

英雄の息子だよ。彼がこの会議に出席したと言う事は、我々の行動が正当化されたと言ってもいい。あの当時、軍でドレイク・ネクロベルガー元帥を敬愛していない者は軍部内に居なかったのではないかな。その息子である総帥も優秀な人物で人望もあった。あの当時は彼の存在は世間一般には如何だったかは知らないが、軍内部では十分あったのだよ。元帥ほどでは無いにしろね。

あゝそうだ、あの当時はまだ准将だったがね。

———准将ですか。

(俺はふと思った。当時ストーは「大佐」で、ネクロベルガーは「准将」。二人の歳の差は29歳もあり、親子ほどと言っていいだろう。そんな若造が自分の上官だったら一体どんな気持ちなのだろう?)

———失礼を承知で申し上げるのですが———

親子ぐらい年の離れた彼に嫉妬しなかったかと言いたいのかね?

(ストーの表情が少し不快感を示す)

———え、ええ、まぁ‥‥‥そうです。

(言いたい事をズバリ当てられて、俺は恐縮し、恐る恐る肯定する)

確かに総師の昇進は異常と言わざるを得ない。彼は軍人と言うよりは官僚と言った方が良いかもしれない。飛び級で大学に入学して18歳で卒業、そのまま軍に入隊した。しかも少尉待遇でだ。我が国では、一般大学生は在学中に士官候補生になるための教育を受ける事が出来る。そして大学を卒業すると軍に入隊する訳だが‥‥‥。その時は全員が准尉になるんだ。要するに准士官としてまずは始めると言う決まりになっている。だから入隊時に少尉と言うのは異例中の異例、初めての事でね。英雄である御父上のコネでは無いかと噂されたよ。

———まぁ、そう言われても可笑しくないですね。

入隊の時に体力測定があるのだが‥‥‥体力的には‥‥‥まぁ、あれだな、分かってもらえるだろ。

———えっ!? ああ、まぁ‥‥‥。

(ストーは余りネクロベルガー総帥の事を悪く言いたくないようで、俺にそれとなく仄めかして同意を得て来た。あからさま過ぎるとは思うが‥‥‥要するに体力は無いと言いたいのだろう)

だが事務能力には優れていてたのは確かだ。軍務省では引っ張りだこだったようでな、省内のあっちこっちの部署へ移動になっていたと噂に聞く。

———噂ですか?

私は軍務省の人間では無いので噂程度の事しか知らないのだ。彼自身は英雄の息子として有名だからね。色々と噂にはなっていたよ。それは毎年移動になってはその都度昇進しているんだから色々とね。

そうだな‥‥‥あの会議の時は確か‥‥‥人事局に居たのかな? いや、それは前で軍務局で予算を扱ってたのかな? まぁ、何と言うか噂を聞く程度の人間には、こんな感じと言う事だ。

———そ、そうですか‥‥‥。

(内心ネクロベルガーの話はいいから本題に入って欲しかった。まぁ自分で蒔いた種の様なものだが‥‥‥。ただ、ストーは殊の外上機嫌で話しているので、話を途中で通断させるタイミングが見つからず、結局、彼が満足するまで聞かされる事になる。この人は完全なネクロベルガーシンパの様だ)

あゝ後———

(まだあるんかい! と俺は思ったが、可能な限り顔に出さない様に務める)

宇宙軍と地上防衛軍両方の参謀本部に在籍した事があったな。 中佐の時だったかな? 後、こんな話を聞いた事がある。

(俺は「はいはい、英雄に付きものの逸話ですか、気が済むまで話してください」と思いつつも、表面上の態度は興味深々と言った感じで聞く)

ある日、同期入隊の士官が総帥の昇進の速さを妬んで「お前の昇進は親の七光りなんだよ」と面と向かって言ったそうだ。

———これは悪意ある一言ですね。まぁ、そう言われても可笑しくないでしょう。しかし面と向かってとはまた‥‥‥。

そう言われた総帥が、如何返答したか分かりますかな?

(何処となくストーは自分の事の様に自慢気に聞いて来る)

 ――—いえ、普通でしたら怒る処ですね。或いは歯牙にも掛けないか。如何なったのですか?

「七色に光れない親の元に生まれてしまった君に同情するよ」と、その士官に同情の意を示したんですよ。

———そ、それは‥‥‥まぁ、アレですね。此方も悪意ある一言ですね。

総帥を怒らせ様と思ったんだろうが、逆に盛大なカウンターを喰らう羽目になったんだよ。思わぬ反撃を受けたその士官は、顔を真っ赤にして総帥に掴みかかろうとしたらしいんだが、周りにいた者たちに取り押さえられて事なきを得たそうだ。

(ストーはネクロベルガーの返しが殊の外気に入ってるのか、腕を組みつつうんうんと何度も頷いていたが、何かを思い出した様な表情になる。一瞬、違うエピソードでも聞かされるのかと思って冷やりとする)

あゝそうだ、会議の話だったね。つい話が逸れてしまって申し訳ない。

(ストーが思い出したのがエピソードではなく、話の本題だったことに俺はホッと胸を撫で下ろす)

我々は各々席についた早速会議が始まったが、そこで会議を優位に進めようとして声を上げたのがロイナント中将だ。自分が総‥‥‥准将を———

———言い難かったら総帥閣下でよろしいですよ、私は分かりますから。

ああ済まないね。要するにあの方を会議に招いたのはロイナント中将と言う訳だ。これによってあの方は自分が会議を主催しようとしたらしいが、無論ダルメ中将も黙ってはいない。

———彼に何か秘策でも?

次の皇帝についての秘策がね。

———次の皇帝。

さよう、我々の行動の目的はパウリナ条約の破棄だ。それにはパウリナ陛下に在位されては困るのでね。陛下には退位してもらい、次の皇帝によって正式に条約を破棄してもらうと言う筋書きだよ。

———でしたらこの会議で3代目の皇帝が決まったと言う事ですか?

いや、この時にはパウリ陛下の後継者を誰にするかの話し合いの段階でね。次の皇帝が誰かは君も知ってると思うが、この時はまだパウリナ陛下後継者は1人娘の「ノウァ」皇女が第1継承者で、ロイナント閣下は彼女を皇帝に据えるつもりだったのだ。

———ですがパウリナ帝の次の皇帝はノウァ皇女では‥‥‥。

さよう、彼女は次の皇帝ではない。要するにダルメ中将はノウァ皇女ではなく、別の人物を皇帝に据えようと提案して来たのだ。ロイナント閣下、元い第1軍団派は先ほども言った通りノウァ皇女の即位を考えていた。だが、皇女殿下は当時若干9歳で、皇帝として幼過ぎると言うのがダルメ中将、元い第5軍団派の意見で、皇女殿下の即位に反対の意思を示したのだ。

———ではダルメ中将がサロス帝を?

あの方が指名したのはバルア大公・エルバルト閣下の次男、「フローグ・ソロモス」子爵だ。

(俺は驚いて言葉を目を丸くする。実際に3代目皇帝となった人物とは違ったからだ。ストーの話を聞く限り、この時点では違っていたと言う事だ。ではいつ? 歴史ではクーデターが始まった時には既にサロス皇子が3代目になっていたのだ)

キミが驚くのも無理はないね。実際に3代目皇帝となったサロス帝はこの時点で誰も次期皇帝と思っていない。たぶん誰の頭の中にもなかったんじゃないかな。私もそうだ、存在すら忘れていたよ。

———では一体なぜサロス帝が誕生したのですか? クーデターの時には既にサスロ皇子が皇帝になる予定だったのでしょ? ですがストーさんの話だとクーデター計画の段階では第1軍団派はノウァ皇女を、第5軍団派はフローグ子爵をそれぞれ推していた。そしてどちらが次の皇帝になるべきかと対立していた。

よく言う間を取ってと言う事かな?

(俺は微妙な感じでストーを見る。多分顔もそんな感じだろう)

冗談だよ。会議は終始ロイナント閣下と第1軍団派の将軍方と、ダルメ中将と第5軍団派の将軍方の言い争いになってたね。何方が正当性があるかとか、皇帝としての威厳やらなんやらとね。エレメスト連合が如何反応するかと言う事も話題にしてたね。

だがどれもこれも平行線をたどって決着が付かず、会議は明日改めて行う事になったのだよ。

———そうだったんですか。ではストーさん自身の意見は如何だったんですか?

私かね?

(ストーは少し驚いた表情をし、腕を組むとソファーの深く背を預ける)

私が‥‥‥あの会議には連隊指揮官以上の者たちが多数参加してね。私も装甲第1連隊長であるため会議に参加しただけだよ。だからあの会議では私なんぞは下っ端のペーペーだった。自分の意見など無かったよ。ただ命令に従い全力を尽くすのみだ。とは言っても私は第1軍団に所属している身だからね。あの当時の考えはロイナント閣下と共にあると言っておこうかな。

(ストーは話し終えると、深くソファーの背もたれに預けていた上体を起こす)

———分かりました。それではその翌日に再開された会議に付いて話をお伺いします。

その前に私は少し疲れた。休憩にしないか?

———え、ああ、そうですね分かりました。少し休憩にいたしましょう。

(時計をみると結構いい時間が経っていたので、俺は休憩の提案に同意する)

処でキミは甘い物は好きかね?

———甘い物ですか? ええ、まぁ、嫌いではありませんが‥‥‥。

それは良かった。実話ね、この近くに新しくオープンしたスイーツ店のチーズケーキとガトーショコラの大ファンでね。今日キミが取材に来るからと息子夫婦に買って来てもらったんだよ。お茶でもどうだね。

———それじゃあ、お言葉に甘えていただきます。

(こうして俺はストー准将がファンになったと言うケーキを味わう事になった。チーズケーキとガトーショコラの両方を味わい、紅茶を振舞われた。俺は珈琲派なのだが、出された紅茶はケーキに合って美味しかった。と言う訳で、ハンさん一家への御見上げとして買って帰ろうと思った)

 

そして休憩が終わり、俺は新たな話を聞く事となる。それは「ノウァ」皇女でもなく、「フローグ」子爵でもなく、あの時点で名前すら出ていない「サロス・ソロモス」が如何にして3代目皇帝になったのか、その経緯の話である。