怠惰に創作

細々と小説の様なものを創作しています。設定など思い付いたように変更しますので、ご容赦ください。

Z計画 FILE1

俺はクエスの依頼を受け、とある鉱山労働に従事する事となった。

それもこれも、今は亡き3代皇帝サロスの残した3大闇計画なるもののひとつ、「Z計画」について調査するためである。

俺は雑誌社からあの五月蠅いアパートに戻り、翌日に役所に向かった。当てが外れたのでやはりレメゲウム鉱山で働きたいと申し込むためだ。昨日の今日で来た俺に、あのオカルト好きな男性職員が前日に会った時よりもニコニコ顔で迎えてくれた。

何だろう、俺が鉱山で働くだろうと予測してその通りになったとかか?

考えても仕方が無いので、俺は鉱山労働について男性職員から聞く事にした。すると役所の人からある地図と一覧を見せられる。第4惑星内にあるレメゲウム採掘場の分布地図と、鉱山名(番号)の一覧である。

 

「結構ありますね」

「そうですね‥‥‥今稼働中の採掘場は大小合わせて5913ヶ所あります」

「ハァ‥‥‥」

 

俺はディスプレイに映る採掘所の一覧をスクロールしながら、当たり障りのない返事をする。

 

「何処で働かれますか?」

「えっ!? じ、自分で選ぶんですか? こういうのは求人がある処から優先的に決まって行くもんじゃないんですか?」

「まぁ確かに空きが無ければ近場の採掘所で働くことは出来ませんが、結構どこも常時求人はしています。ですから自身が暮らす都市に近い所の採掘所で働きたいと言うの希望はすんなり通りますよ」

「そうですか‥‥‥」

 

自分で好きな処を選べると聞いてラッキーと思った。5913ヶ所もあるレメゲウム採掘場、その何処かに任意で行かされたのではグリビン医師の情報が手に入るか分からないからな。一応、クエスの師匠の爺さんが残した記録によれば、グリビン医師が目撃されたのはネクロベルガー所有の鉱山で働いた事がある元工夫たちだったので、そこを狙うのが妥当だろう。

 

「う~ん、こんな事聞いて変に思うかもしれませんが‥‥‥」

「ハイ、何でしょう?」

「ネクロベルガー総帥の所有する鉱山てどれですか?」

 

俺はチョットした賭けに出た。この国の実質的指導者であるネクロベルガーはレメゲウム鉱山を幾つか保有していて、実際に其処でグリビン医師は目撃されている。だが敢えてそこで働きたいと言うと、何故そこでなくてはならないのかとあらぬ疑いを掛けられる恐れがある。だが、俺の質問に対して男性職員はさして不思議がる事も無く、ネクロベルガーが保有している鉱山の一覧を見せてくれた。

正直拍子抜けしたよ。緊張した自分が馬鹿に思える程だ。

 

「総帥閣下が保有している鉱山は‥‥‥現在2110ヶ所ありますが‥‥‥。どちらが宜しいでしょうが?」

「えっ! に、2110! そんなにあんの!?」

「ハァ、1か所でも結構な収入ですのに羨ましいですよね」

 

羨ましい処の騒ぎじゃねぇぞ。そこからの収益は一体どれほどになるか、分かってんのかこの人は! 5913の内の2110って3分の1以上あるぞ! 

ひょっとするとネクロベルガーって世界一の金持ちなんじゃ‥‥‥。

ああ、まぁ、其れは良いとして、だけど、そんなにあるとは知らなかった。ほんの数か所、あっても10ヶ所ぐらいかと思っていた俺にとっては予想外の数だ。

 

「何でそんなに? サロス皇帝からのプレゼントなんでしょ?」

「よくご存じで、先代の皇帝陛下が総帥閣下の日頃の労をねぎらう意味で欲しいモノを聞いた処、レメゲウム鉱山が欲しいと言ったとか。エレメストの方にもそう言った話は広がってらっしゃるんですね」

「だからってそんなに?」

「まぁ、総帥閣下はエネルギー庁長官の肩書もありますから、色々とあるんじゃないですか?」

「い、色々ねぇ‥‥‥」

 

ゲーディア皇国には資源開発省と言う機関がある。第4惑星で産出される資源(鉄などの鉱石)の管理や開発等の政策を主に行う機関で、その外局として特別にエネルギー庁と言うものがある。これは当然エネルギー鉱石であるレメゲウムの採掘管理、新たな採掘所の開発政策、そこから得られるエネルギーの安定供給政策などを所管する機関である。まさかそこの長がネクロベルガーだったとは‥‥‥。今度彼に付いてよく調べたいものだ。歴代皇帝の調査が終わったら、次はネクロベルガーに付いて調べてみるのもいいかもしれない。保安親衛隊に目を付けられない程度に‥‥‥な。

それより今はZ計画だ。

爺さんの資料からは何処の採掘場で目撃されたのかは記されてはいなかった。爺さん自体も鉱山で働きながら工夫たちに話を聞きまくった訳では無いだろうからな。街で元工夫っていう人間から取材して得た情報だろう。しかし情報が少なすぎるな。X計画の調査は結構やってるんだがな。まぁ、その過程で軍が関係してると分かって、それが新兵器開発計画じゃないかと睨んでこれ以上首を突っ込むのをやめたんだ。下手に突っ込んで国際問題にでもなれば、最悪戦争になるからな。そうは言うが本当に新兵器開発かどうかは分からないんだ。まぁ触らぬ神に祟りなしか。

それにX計画はまぁまぁ調査が進んでいたが、ZとH計画に関しては殆ど調査した形跡がない。

まぁ、90代の爺さんが調査するには体力的に無理があるか‥‥‥。

資料がないなら自分で調査するしかない。気を取り直して取材のための鉱山労働場所を選ぶ。

こういうのは近場からってな。俺は最も近い場所から調査するのがセオリー? かは分からないが、余り変な行動を取って変に勘ぐられても嫌なので、2110ヶ所あるネクロベルガー所有のレメゲウム採掘場から「レジエラ」に最も近い「123番」採掘場を選んだ。

俺は労働契約を123番採掘場の人事担当者と通信で取り交わし、明日から早速働く事となた。詳しい仕事内容は明日説明するそうだ。

嫌だな~肉体労働。

契約も終わり、俺は役所を出ると明日からの肉体労働に備えて今日は真っ直ぐ塒に帰る事にした。

テッド・グリビンは、宇宙暦130年にエレメストの第59メガ・シティ「サンノクイン」で生を受けている。両親も科学者とゆう生粋の科学者一家に育ち、彼も生命科学を学んで20代で博士号を取得。主に生命倫理学と言う分野に精通している。

科学に付いて俺は素人だからチンプンカンプンだが、その筋じゃあ有名人らしい。

俺は爺さん資料に「医師」と書かれていたので、てっきり医者なのかと思っていたが、科学者だった様だ。しかもエレメスト出身の。

職場も決まり、部屋で色々とグリビン医師の事を調べていたらエレメストからの移住者である事が分かったので、同然そちらの方も調べてみた。その結果、彼は結構エグめな人生を送っていることが分かった。

生まれてこのかた科学者としても成功し、科学界のサラブレットとして順風満帆の人生を送っていた博士であったが、ある事件を切っ掛けに人生の下り坂を迎える事にになった。それは今から20年程前の事で、下り坂と言うか真っ逆さまと表現してもいいかもしれない。

20年前の宇宙暦173年、学会である研究の発表を終えて帰宅したグリビン博士が目にしたものは、無残にも惨殺された妻と当時16歳の娘が首を吊っている姿だった。

すぐさま警察は周囲の聞き込みと防犯カメラなどの映像から3人組の強盗がグリビン邸に押しかけ、彼の妻を殺害し、その後、娘を強姦したのち金品を奪って逃走。娘の首吊りに関しては強盗たちに強姦されたことを苦にしての自殺だと発表された。この凄惨な事件は当時は結構大きな事件になっていた様だ。俺は知らなかったけどな。なんせこの頃の俺はまだ10歳だったんだ。殺人事件に興味を持つ歳じゃない。まぁ、中には殺人事件に興味持つ10歳もいるかもしれないけど、俺はそんな子供じゃなかった。

早速、警察の捜査によって事件から1週間程で3人の強盗犯の内、2人が逮捕された。ひとりはグリビン邸で庭師のバイトをしていた20歳の青年で、グリビン邸の内情に詳しい人物である。事件当日、屋敷の防犯設備が解除されていたのも彼の仕業だったことが取り調べで分かった。もう1人は彼の学生時代からの友人で、お金に困っていて借金もしていた様だ。しかし、最期のひとりの人物が可なり厄介な人物だった。何と統一連合政府の大物議員の息子だったのだ。

なんだかよくあるパターンだな。

大物議員の息子と聞いて警察は慎重に慎重を重ねた調査した。もし逮捕して間違いでしたでは済まないからな。って強盗してるんだから大物議員の息子だろうが何だろうが逮捕しろと思うのだが、如何も捕まったふたりも3人目の事となると供述が曖昧になるらしく、ここに来て急にその議員のバ‥‥‥息子にはアリバイがあった事が分かって逮捕に踏み切れなかった様だ。しかし、アリバイがあるなら犯人ではない事になるが、その後も警察は息子の身辺調査と事件時の足取りを捜査している。その事からも警察はアリバイが嘘の可能性があると判断していたのだろう。しかし、相手が相手だけに慎重にならざる負えない事も事実で、当時の記事を読んでいるだけにも拘らず、警察の対応にもどかしさを感じてしまう。

そうこうしている内に、警察にある「朗報」がもたらされた。それは強盗ふたりが捕まってさらに1週間が経った頃に、ある男の自殺死体が発見されたのである。通報を受けた警察が現場に駆けつけると、首を吊った遺体と遺書が置かれていて、その内容は自分がグリビン邸強盗事件の犯人のひとりであると書かれていて、ふたりが捕まって逃げられないと判断して自殺すると言うような事が書かれていた様だ。さらに周囲の人々からも、その自殺した人物が捕まったふたりとよくつるんいた事も証言され、警察は自殺者の遺書の通りに他のふたりが捕まり逃げられないと悟っての自殺だと断定し、事件は解決を迎えたのだった。

結果的に議員の息子のアリバイは成立し、彼は無関係だったって事になる。警察にとっては朗報だったかもしれない。

まぁ、俺からすれば、その自殺した青年がバカ息子の身代わりに自殺に見せかけて殺されたとみるがな。で、俺と同じ考えを持っていた人物が居た。グリビン博士だ。

事件解決してから丁度1年が経った頃、今度はその大物議員の息子が行方不明になる。彼は警察の捜索から5日後に死体で見つかったのだが、その死体があったのがグリビン博士の個人研究所だった。博士が殺したのは確実で、すぐさま警察は逮捕状を取って博士を探したが、その時には既に博士は国外(惑星外)に逃亡した後だった。要するに博士の逃亡先が第4惑星だったって事になる。

因みに博士は事件以来すっかり塞ぎ込んでしまい、その研究所にたったひとり引きこもって怪しい研究をしていた様だ。周囲の住人からの聞き込みでは夜な夜な悲鳴の様な声が聞こえたとの情報もある。ホラー映画かよ。

ただここでチョット可笑しな事があった。それはバカ息子の遺体の事なのだが、彼は発見当時電極やら何やらが身体中に付けられていて、まるで何かの実験をしているようだったと記事には書かれている。如何やら博士は殺した後に色々と実験をしていた様だ。これは何とも奇妙な話だ。自分の家族を殺され、捕まる事なくのうのうと生きていた議員の息子を、色々な人体実験で苦しませて殺したと言うならまだ分かる。しかし、博士は殺してから人体実験をしていたのだ。これは一体どういうことなのか? 博士は死体を弄る趣味でもあったのか? これには新聞記事ではないのだが、後日当時の記者がゴシップ誌に面白い考察を述べている。グリビン博士は妻と娘の日を受け入れられず、精神が侵されてしまい、そして科学の力で彼女たちを生き返らせようとしたのではないかと推測していて、議員の息子はその実験に使われたのではないかと言うのだ。だから殺した後で生き返らせようと実験した。と、書かれている。

何ともバカバカしい記事だ。あのオカルト好きの役所の男性職員が好みそうな記事だけどな。

人を生き返らせるなんて今の科学をもってしても出来ない事だ。それとも‥‥‥本当にそんな事‥‥‥議員の息子は死んだままなので成功はしていない。まぁ、深く考えるのは良そう。なんだかうすら寒くなって来た。

エレメストから逃亡した博士は上手い事ゲーディア皇国に渡って、そして皇国では医師として細々と暮らしていた様だな。流石にあんな事件を起こしたら科学者として堂々とはしていられないだろう。それに皇国での生活に付いては余り分かってはいない。まぁ当然と言えば当然だが、博士はひとり暮らしで周囲の人との交流も全くない様だ。仕事は医師だったようだが‥‥‥そんなんで医者やってられるの? 疑問だな。

処で‥‥‥如何やって医者になった? 医師免許って持ってたのか? 生命科学の博士号もってれば医者にはなれるのか? それとも皇国でまた習得したのか? まぁ、これ以上は分からない事をあれこれ考えても実りが無いので止めるとして、その後は如何いう経緯かは分からないが、サロス帝の計画のひとつ「Z計画」に関わった様だ。

 

「あーあ、明日は鉱山労働か‥‥‥行きたくねぇ」

『ダッタラサボッテワタシトイイ事シマショウ。ア・ナ・タ‥‥‥💖』

「壊すぞ」

『アアモウ怖イ~。ワタシガ壊レルト~、ココノシステム使エナクナルヨ~」

「昨日も言っただろ、俺はハウスキーパーの無い処に住んでたんだよ。別にお前なんか無くてもいいんだよ!」

『ビンボーダッタノネ』

「よし壊す!」

『ゴ、ゴメンナサーイ!』

 

俺はテーブルの上に置いてある金槌を手にすると、ハウスキーパーは謝ってその後静かになった。

昨晩クエスの雑誌社から帰って来てから、ず―————————————————っとハウスキーパーの奴が卑猥な言葉を掛けて来たので、キレてぶっ壊してやろうと偶然に見つけた金槌(何であんな物が有ったかは不明)を手にしたら、急に命乞いしやがったので、如何やらシステムを壊されたくはない事が分かった。機械の癖に殺(壊)されるのを恐れている様だ。まぁ、それでもチョコチョコと変な事は言って来てるんだが、金槌を持てば黙ってくれる様になった。

一時は如何なる事かと思ったが、金槌ってすげぇーな。偶然にも対処法が早く見つかって良かったぜ。

今までの住人がノイローゼになってこの部屋から去る羽目になったのも、要するにハウスキーパーが無い生活など考えられなかったからだろう。其れ位ゲーディア皇国の人々はハウスキーパーに依存していると言う事だ。だからシステムをシャットダウンするなんて思いもしなかったのだろう。

それにしてもあの受け答えと言い自由奔放な言動と言い、死(破壊)を恐れる感情の様なものと言い、AIの癖に人間みたいなやつだな。

まぁ、AIってのは人工知能だから人間を模しているんだけどな。

人間みたいなAI‥‥‥。俺は急に第3惑星エレメスト統一連合が出来た歴史的経緯を思い出して身震いした。統一連合の結成にはAIが深くかかわっているのだ。

 

「いやいやいや、考えすぎだな、あれからもう何世紀経ってると思うんだ。今のAIにあんな事が出る筈がない。人型も兵器も無いしな。‥‥‥ハァ、寝よう」

 

俺は気味の悪い想像を無理やり頭の彼方へと追いやり、明日の肉体労働ために早々と就寝する事にした。