怠惰に創作

細々と小説の様なものを創作しています。設定など思い付いたように変更しますので、ご容赦ください。

犬を連れた独裁者 FILE4

皇居周辺での首都内防衛隊とクーデター軍との戦闘、「皇居の戦い」が注目されている「サロス帝暗殺事件」であるが、当然ながら他の場所でも戦闘は行われている。

クーデター軍の一部が皇居目指して攻め寄せる中、地下第1階層の行政区画と地下第2階層の軍行政区画に、それぞれにクーデター軍が重要施設を占拠しようと動いていた。皇居襲撃部隊は、それらのための囮であったのだ。彼らは重武装であったものの、首都内防衛軍並びに宮廷警護連隊を相手にするには兵力不足であり、囮と捉えるのが妥当との事だ。

皇居の戦いは戦闘が激しく注目度は高いのだが、クーデター軍の目的はあくまでも地下1階や2階の重要施設の占拠であるとの見解がなされている。しかし、重要施設を占拠したとして、其の後クーデター軍だけで維持する事が出来たのかと言う疑問もある。ただ、そこには所謂「陰の協力者」と呼ばれる者たちが大勢いるものだ。貴族や政治家、官僚や軍人、彼らは事が成せばクーデター軍に協力して表に出て来るが、失敗すれば我関せずを決め込む日和見主義者である。そう言った者たちも上手く抱き込まないとクーデターなんて起こせないだろう。

今回の場合で言えば、それはアガレス大公とその派閥である。何回も言ってるがヴァサーゴ大公家とはライバル関係にあり、彼を権力の座から引きずり落と虎視眈々と狙っていた。

彼の派閥は皇国貴族内で最も大きい派閥で、此処がクーデター側についたとなれば勢いもついただろう。結局、クーデターは失敗してアガレス大公派はヴァサーゴ大公派に追及されたが、知らぬ存ぜぬを貫き通している。

話を戻してその首都地下区画での戦闘だが、クーデター軍による各地での軍事行動はそれらを実質的に守って居た憲兵隊を大いに混乱させた。サロス暗殺以降、憲兵隊本部には各所からの通報が相次ぎ、非番の憲兵隊員も駆り出されて対応に当たっているが、各所での軍事行動と囮となるテロが頻発して、その対応に火の車だったようだ。そのため戦闘が始まって1時間もしないうちに、行政の中心である議事堂を占拠されてしまうほど憲兵隊は後手後手に回っていた。

因みに憲兵隊以外の軍人は何をしているのかと言うと、主に避難するかクーデター軍に捕らえられて人質になるかの2択だったようだ。それを聞くと情けなく聞こえるかもしれないが、軍行政区画で武装しているのは憲兵隊くらいで、他の軍人たちは拳銃すら携帯していない。と言うか、皇国では銃刀規制法で銃や刃物、それに準ずる危険物を携帯する事を禁じられているのだ。憲兵隊も普段は銃を携帯しておらず、テロやクーデターなどの重大事件でも起きない限り武装許可は下りない。

但し、「武門(軍事)」貴族のみ刀剣の携帯が許されている。武門貴族とは、近衛士官や貴族出身の国防軍士官の事で、彼らはステータスとして刀剣の携帯が許可されているのだ。しかし、ムカついたという理由でそれらを抜刀して人を殺傷することは禁じられている。ただの飾りとも言えるが、貴族としての身分を表す証明書と言った処だろう。

では、一般的に軍隊と聞いてイメージする実働部隊は何処にいるかと言うと、彼らは都市とは別の各所に点在する基地に駐留している。軍行政区画に居る軍人は専ら「官僚軍人」と呼ばれる軍務省勤務の軍人だ。

序に言うと、各基地の地上軍はクーデターが起こった際は、ネクロベルガーから待機命令を受けていて動いてはいない。これはクーデター軍に内通している部隊がいるかもしれないという考えからの処置だろう。それに国防軍の部隊が首都にわんさか来ても混乱するだけだろう。

話を戻して地上での戦闘ではあるが、前にも言った通り東部方面守備群の活躍もあってクーデター軍の予測よりも早く皇居襲撃部隊との戦闘が決してしまったため、此処から彼らによる反撃が行われる事になる。

まず地上での戦闘終結直後に、首都内防衛軍は近衛軍麾下から一時的にネクロベルガーの指揮下に入り、地上を宮廷警護連隊に任せて地下1階の憲兵隊の救援に向かう。行政区画では、議事堂内にいた職員や下院議員たちが人質になっていたので憲兵隊が手を出せずにいたのを、首都内防衛軍は突撃を敢行して瞬く間に議事堂内のクーデター軍を鎮圧してしまった。と言うのも、王宮と議事堂は中央支柱を通ってエレベーターでつながっており、首都内防衛軍はそれを使って議事堂内部に踏み込んだのだ。

こんな事をクーデター側が見過ごしていたのかと、クーデター軍を間抜けの様に思われるかもしれない。勿論、クーデター側も皇居と議事堂を繋ぐ皇族専用エレベーターの存在は知っており、ちゃんと見張りを置いていたのだ。しかし、首都内防衛軍はそれとは別のルートで侵入したのである。

実は、中央支柱エレベーターには皇族専用と近衛軍用の2種類のエレベーターが存在して、皇族専用は頻繁に使われたので知っている者も多く、クーデター軍もそこを見張っていたのだが、近衛軍専用はその存在を秘匿されており、しかも使われたのが今回が初めてで、クーデター側はその存在を全く知らなかったと言われている。まぁ、知ってたらそこにも部隊を配置するわな。そのお陰で首都内防衛軍は容易に議事堂内に入り込む事が出来たと言う訳だ。

それに皇族専用は普通のエレベーターなので、兵員を運ぶに狭すぎて何度も往復しなければならなくなる。それに対して近衛軍専用は、正確な場所は秘匿されているが議事堂内に数か所存在し、一基につき数十人の兵員を運べる広さがあるらしい。

首都内防衛軍の襲撃に、議事堂に立てこもるクーデター軍はパニックに陥る。それはそうだろう。中央支柱エレベーターに近衛軍専用のエレベーターがある事など知らなかったし、彼らは議事堂を取り囲む憲兵隊に意識が向いていたのだ。背後から行き成り別の軍隊が来たとなれば驚かない訳がない。首都内防衛隊は大きな抵抗を受けることなく議事堂内のクーデター軍を鎮圧する事に成功し、人質も負傷の程度は有れど死者を出すこと無く救助している。

議事堂が開放されると一気に形勢は鎮圧軍側へと傾き、クーデター側からは投降者が続出して行く。程なくして、最期まで抵抗していた者達も首都内防衛軍や憲兵隊に鎮圧されてクーデターは終息したのだ。

その後、首都内防衛軍は近衛軍麾下へ戻る事なく、そのままネクロベルガーの指揮下に入り、翌月には「総帥警護連隊」と改名する事になる。

そういった経緯で編制された総帥護衛連隊は、事件の直後に失われた兵員の補充、人事などを経て再編されたものである。主な任務は首都内防衛軍時代とほぼ同じだが、そこに総帥警護の名が示す通りネクロベルガー総帥を護衛する任務も兼ねる事になる。

ネクロベルガーは、ゲーディア皇国国防軍総軍司令長官と言う肩書が示す通り国防軍の全権を握ってはいるものの、彼直属の部隊と言うものは所持していなかった。ここに来て初めて直属の部隊を得た事になる。

同連隊隊長は、皇居の戦いで窮地に立たされた南部方面守備群の救援で活躍した東部方面守備群指揮官の「エルリック・デュラン・ギーズ(当時大佐・194年現在中将)」が就任している。

総帥警護連隊は、首都内防衛軍時代には総指揮官である准将が居たのだが、彼は再編時の人事で移動となっている。この件について一説には准将はギーズ大佐が南部方面守備群の救援を具申した際、それを却下したから左遷されてたのでは? と言う憶測も流れている。

しかも、ギーズ大佐は若い頃はネクロベルガー総帥の父親であるドレイク・ネクロベルガー元帥の副官をしていた事もあり、ネクロベルガーとは何かと縁がある人物である。そのため総帥のコネで連隊長になったとの噂もあるらしいが、俺としては皇居の戦いでの活躍もあっての抜擢と思う。それに、ネクロベルガーとしても人となりを知っているギーズは信用できる人物だったと思う。やっぱり勝手知ったる何とやらだ。

ギーズ大佐は、その後准将に昇進して宇宙歴191年に総帥警護連隊から「皇国(総帥)親衛隊」へと改名されると、少将に昇進して同組織の最高司令長官の座に就く。

そしてギーズ長官の下、親衛隊は大きく躍進して行くことになる。

前にも言ったが、親衛隊と言うとエリート部隊のイメージが強いと思うのだが、皇国親衛隊に関してはそう言った色は薄い。ただ総帥への忠誠が彼らに求められる絶対条件である。しかし総帥を守る部隊という特別なイメージもあり、入隊者の中には、勝手にエリート意識を持つ者も多いそうだ。入隊のハードルの低さと、そういった特別感が相まって志願者が多く、急速に肥大化して行く。

今では兵力30万人以上の大組織になっていて、地上軍、宇宙軍に次ぐ第3の軍と呼ばれている。

では、ここからは親衛隊を構成している大まかな組織を紹介する。

先ずは親衛隊総司令部である。言わずと知れた親衛隊の総司令部である。親衛隊の全てを統括する部署で、初代最高司令長官はギーズ中将とその幕僚たちで構成されている。

総司令部の下に「親衛隊本部」「親衛隊情報本部」「親衛隊特別作戦本部」の3つの本部がある。

まず最初に(皇国)親衛隊本部だが、此方は親衛隊の様々な事務を行う部署であり、組織内には第1局(人事局)第2局(法務局)第3局(経済局)第4局(福祉局)第5局(医務局)第6局(登録局)などの部局があり、これらを管理・監督している。

続いて(皇国)親衛隊情報本部だが、此方は簡単に言ってしまえば親衛隊の諜報機関である。内部部局には「情報局」の他にも、あのマリア・ブルジューノ少尉が所属している「警察局」や、悪名高い秘密(政治)警察である「国家保安情報局」がある。

あと、国家保安情報局を調べていて驚いたのが、局長の次の地位である次長にあの「シュヴィッツァー」少佐の名があった。ネクロベルガーの命で、月に亡命していたノウァ帝を迎えに来たあのシュヴィッツァーだ。

フルネームを「アウロ・シュヴィッツァー」と言い、今は昇進して大佐になっていた。出世したもんだ。

そして最後に(皇国)親衛隊特別作戦本部である。此方は親衛隊の軍隊である。一瞬、何言ってんの親衛隊は軍隊だろうと思ったかもしれないが、親衛隊員は一般隊員と戦闘隊員と呼ばれる2種類に分かれていて、前者を一般に親衛隊と呼ぶのに対して、後者を「武装(戦闘)親衛隊」と呼んでいる。この武装親衛隊国防軍並みの兵器を装備した戦闘部隊であり、それを監督するのが親衛隊特別作戦本部である。

う~ん、通常の軍隊の参謀本部みたいなものなのかな?

武装親衛隊には、正規軍である皇国国防軍と同じように地上軍と宇宙艦隊がある。有事の際には近衛師団と共に首都ミシャンドラを防衛する任務に当たるのだ。

ではその武装親衛隊の中でもいくつかの部隊を紹介しよう。

まず最初に紹介するのは「護衛旅団」である。その名の通り規模的には一個旅団クラスの部隊で、ネクロベルガーが移動する際は必ずこの部隊も行動を共にするため別名「ネクロベルガー旅団」とも呼ばれている。

護衛旅団は、特別作戦本部の中で一般的な実働部隊とは別の警備局所属の部隊である。警備局は、要人護衛とその部隊である警護部隊の手配を主任務とした部局で、中でも特に重要な部隊が警護旅団と「第1警護(小)隊」である。

彼らは警護旅団と同じくネクロベルガーを警護する部隊なのだが、彼の周囲にぴったりと付いて回る、所謂ボディガード的な部隊である。人数も小隊と呼ばれるだけあって少人数で、何かあれば自らの身体を盾にしてでも総帥を守る者達で構成されている。その任務の特殊性から審査が可成り厳しいらしく、親衛隊内で最も入隊する事が難しい部隊と言われている。

因みに総帥警護連隊時代には「ガード隊」と呼ばれていた。

あと、おもしろい話に第1警護小隊のライバルが、ネクロベルガーの異名でもある「犬を連れた独裁者」の由来ともなった2匹のロボット犬、アドルとドルフだそうだ。あの2匹は最もネクロベルガーに近い存在だから嫉妬しているとか。同じ対象を守る存在としてライバル関係にあるそうだ。其処は‥‥‥まぁ良いか。

次に紹介するのが「第1親衛隊師団」である。此方は武装親衛隊の中でも精鋭中の精鋭と言われる部隊である。実戦経験がない部隊なので実際は如何か分からないと言った処だろうが、訓練などでの成績が優秀なんだろう‥‥‥多分。

他には宇宙艦隊があるが、これはネクロベルガーが移動する際に護衛艦隊として従事する艦隊である。一応、首都防衛艦隊と呼称はされているが、何方かと言えばネクロベルガーの座乗艦の護衛と言った処だ。

さて、親衛隊の事も大まかだが紹介したので、次はネクロベルガーについてもう少し深堀して行こうと思う。

 

 

「ああ、そう言えば近衛軍による国民の弾圧があったのですよね」

「そうです。それが可なり徹底したものでして、それによって一時的に国民は口を噤むのですが、しかしサロス帝の批判が無くなる事は無く、彼らは地下に潜んで活動を続けていくのです」

「確かミシャンドラの真実とか言う記事がネット上に流れたとか?」

「よくご存じで、彼らの記事に重税、近衛軍の暴挙や大貴族の思惑など様々な要因が絡んで起きたのがサロス帝暗殺事件なのです」

「ええ、サロス帝は視察地に向かう途上で襲撃されて暗殺されたんですよね。近衛軍長官と共に」

「その通りです。まぁ私たちは上で起きた恐ろしい出来事を、後のニュースで知ったんですけどね」

「え、じゃあ、クーデターが起きていた時間には何を?」

「何時も通りの授業です。クーデターが鎮圧された後にニュースが流れてそれを見て知ったんです」

「え~、そうだったんですか‥‥‥」

「ま、単なる学校しかない此処を占拠しても意味がありませんからね」

「まぁ、確かに」

「ただお陰でこの施設は国からの支援金が打ち切りになってしまったのです」

「それは何故です?」

「クーデターが鎮圧され総帥閣下が摂政として行政を取り仕切った際に、まず初めに行ったのが消費税の撤廃でした。消費税による歳入で運営していた此処の資金がまるまる無くなると言う事です」

「ですが、今はそのネクロベルガー総帥の支援で此処は運営されているのでしょ?」

「そうです。あの方は消費税を廃止する事で国民からの支持を得るとともに、自身が援助する事でこの学園も維持したのです。素晴らしいとは思いませんか?」

「ええ、そうですね‥‥‥」

 

レッジフォードの話を聞いていると、気に入らないがクエスのネクロベルガー黒幕説の信憑性が増してくる。

サロス帝の消費税による重税は、国政に関心が無かった皇国国民の意識を大きく変える事になった。「何だこの重税は⁉」「あの皇帝正気か?」「皇帝は国民の事を考えているのか⁉」「以外にいい皇帝かと思ったら此れか!」など‥サロスに対する国民の評価は地に落ちただろう。そしてそれを黙らせるためにサロスは近衛軍を使って反対者を弾圧する様になって行く。だがそれは逆効果だ。

3代皇帝の項の最初に、サロスは狂気の皇帝「狂皇」と呼ばれるまでに多くの人々から恨みを買ったと言ったが、これがその顛末である。それら人々の恨みによって彼は消されたと言っても過言ではない。

自業自得、因果応報、サロスの死に対してその様な言葉が浮かんでくるが、今の俺はクエスと同様にそれらは仕組まれている様な気がしてやまない。

摂政として実質的なサロスの後継者となったネクロベルガーによって‥‥‥。

何故なら、彼はサロスの負の遺産とも言える消費税を撤廃した事で国民から支持を得ているのだ。ネクロベルガーが摂政として政治的に何をしたかと聞かれれば、「消費税を撤廃した」たったこれだけなのである。

基本的に皇国の国政は議会の話し合いで決められている。其処で決められた事を上(貴族)院で精査され、それを摂政(通常は皇帝)に上申され、裁決するシステムのため摂政が政策を行う事は基本無い。だが、皇帝の意思は何よりも優先される。それが専制国家であるゲーディア皇国である。皇帝が一言命じれば全てにおいて優先され、それは摂政も同じ(厳密には議会の承認が必要らしい)であり、ネクロベルガーが命令すれば国が動くのである。そして彼が命じたのが消費税を撤廃する事であったのだ。

実はこのとき議会は徐々に税率を下げて行き、最終的に撤廃する案をネクロベルガーに提案していたのだが、彼はそれを突っぱねて廃止を命じたと言われている。それ位インパクトが無ければならないと言う事だろう。そしてそれは見事に当たりネクロベルガーはたったこれだけで国民の支持を得たのだ。勿論、他にもネクロベルガーは色々な事を行っているのだが、それらは国を預かる摂政としてではなく、彼個人としてプライベートな活動である。要するに慈善活動だ。

だがそれは予めネクロベルガーがサロスをコントロールする事で、そうなるように仕組んだのだと、それがクエスの言うネクロベルガー黒幕説である。今の俺もそれが正しいのではないかと思っているのだ。彼奴と同じ考えと言うのが気に食わないんだけどな!

 

「本当にすごい事ですが‥‥‥」

 

俺は次の言葉に詰まってしまった。これは言ってもいいのだろうか? 質問する事が少し躊躇されてしまう。だがここまで来たのだ。なる様になれと、レッジフォードにある質問をぶつけてみた。

 

「ネクロベルガー総帥は素晴らしい事をしていらっしゃりますが‥‥‥あの‥‥‥それは偽善‥‥‥偽善的な事にも見えるのですが、それに付いてはどうお考えですか?」

「ああ‥‥‥」

 

俺の質問にレッジフィールドの顔が強張った様に見えた。やはりこの質問はしない方が良かっただろうか。イヤ、彼のやっている事は概ね慈善活動であり、世の中の金持ちがやる其れっとあまり変わらない。そしてそういった活動は多くの人から支持される一方で、偽善行為だと陰口をたたく者も多いのだ。それはネクロベルガーとて同じであるはずだ。

俺は覚悟を決めてレッジフィールドの次の言葉を待った。

 

「確かに、あの御方の行動は偽善と捉える方も少なくはありません。しかし、あのお方はご自身の事を偽善者などと思ってもいないでしょう。それは例え面と向かって言われたとしてもです。あの御方は偽善者と言うものが如何いうものなのか知っておられる」

 

例え面と向かって偽善者と言われても、ネクロベルガーは自分を偽善者などと思っていない。レッジフィールドの言葉に、嘗て「お前の出世は親の七光りなんだよ!」と面と向かってネクロベルガーに言った者が居る事を俺は思いだす。それに対してのネクロベルガーの言葉は、「七色に光れない親の許に生まれた君に同情するよ」であった。

確かに彼なら偽善者と言われようとも歯牙にもかけないのかもしれない。例えそうだとしても‥‥‥。

 

「学園長代理は何故そう思われるのですか?」

「そうですね‥‥‥」

 

レッジフィールドは俺の質問に対して腕を組んで暫し考え込んで見せるも、何かを思い出したように笑顔になる。

え、な、何? 気持ち悪いんですけど。

 

「記者さんは正義とは何だと質問されたらどうお答えになりますか?」

「えっ! 正義ですか?」

「はい、正義とは⁉」

 

行き成りの質問に俺は困惑する。正義とはだと? ネクロベルガーが偽善者かどうかにかかわるものなのか? だが何の関係も無くこんな質問はしないか‥‥‥。

正義とは何か? 分かってそうで実際に聞かれると返答に困る質問の上位に食い込みそうな質問だ。

 

「え~‥‥‥あ~‥‥‥そ、そうですね‥‥‥。正しい事、人が守るべき正しい道理と言いますか、道徳的な公正に基づく概念と言いますか‥‥‥」

「人が守るべき正しい道理ですか、辞書で引いたみたいな答えですな」

「⁉」

 

だったらお前何だか言ってみろよ! っと思わず叫びたくなったが、俺はグッと堪えて口にはしなかった。褒めてくれ。

ただ表情には出ていた様で、学園長代理は軽く笑いながら謝罪した。笑っている時点で謝罪とは受け取れないが‥‥‥。

 

「申し訳ない。そう言った質問を生徒たちも良くしてくるのです。正義とは? 悪とは何なのか? といった具合に、その時の我々も記者さんと同じような返答しか出来ませんでした」

「ああ、は、はぁ‥‥‥(何だよ一緒かよ、ってかそう答えるしかないわな)」

「ですがあの御方は違いましてな」

「違う?」

「私は学園長代理として学園であった出来事を定期的に総帥閣下に報告しているのですが、その時にその話したんですよ。生徒たちが正義について質問してくると。するとあの御方は何と答えたと思いますか?」

「えっ⁉ ‥‥‥イヤ、我々とは違う答えを言ったと言う事でしょ、想像もつきませんねぇ」

「あの御方はこう答えました。正義とは悪を排除する道具(モノ)だと」

「悪を排除するもの⁉」

「ええ」

「失礼を承知で言わせてもらいますが、子供っぽいと言いますか、まるで勧善懲悪を絵に描いた様な答えですね」

「まぁ、そう聞こえますな。私も最初訊いた時には耳を疑いました。ですが、そうなると次の疑問がわきませんか?」

「え? ああ、じゃあ排除される悪って何だという‥‥‥」

「その通りです。私も思わず同じ質問をしてしまいました」

「そ、其れで、ネクロベルガー総帥は如何答えたのですか?」

 

すると学園長代理は俺の言葉を待ってましたとばかりに口角を上げる。俺は彼の誘いにまんまと乗ってしまった事が気に入らなかったが、ネクロベルガーが如何答えたか気になってレッジフィールドの返答を待つ。

そして俺の期待を受けて学園長代理は答える。

 

悪とは、貴方の嫌いなものだと‥‥‥。