怠惰に創作

細々と小説の様なものを創作しています。設定など思い付いたように変更しますので、ご容赦ください。

犬を連れた独裁者 FILE2

現皇帝であるノウァは、軍部(北部方面軍)が起こした7月事件によって身分を隠してアフラに亡命せねばならなくなった。

しかし、そこでの隠れた生活に疲れた彼女は、護衛役の近衛士官の息子であるエアニスと恋仲になり、しかも子供まで身籠ってしまう。この事が発覚したのは「サロス帝暗殺事件」の4か月前の事で、その頃にはすでに妊娠3ヶ月だったそうだ。

一応、エアニスの妹が皇女様と兄との仲に気付いていて、妊娠自体もいち早く気付いていたらしく、それとなく母親に相談し、頃合いを見て母親が父親である近衛士官に話した事で発覚したと言う事らしい。

因みのこの話は、ノウァ皇女が帝位について3年後に、エアニスの妹で皇帝付き侍女の「アニー・プラトニー」が出した、ノウァ皇女の亡命時代の日々を綴った「亡命皇女」の内容を掻い摘んだ説明になる。

これを聞いた父親の近衛士官は烈火の如く怒ったらしいのだが、皇女様と息子が真剣だと言う事と、すでに妊娠までしてしまったからには如何する事も出来なかった。と言った処だろう。幾らなんでも皇女様のお腹の子を下ろすなんて、一近衛に過ぎない彼には出来なかっただろうしな。

とは言え、大問題であることは間違いない。皇族ともなれば、その婚姻関係にも非常に神経を使う事である。抑々皇族と婚姻関係になると言う事は、その人物だけでなく、その家族にも大きな権力が与えられると言っても過言ではないし、歴史上、そうやって外戚として権力を振るった者は枚挙に暇がない。

現に皇国では、ノウァ帝の母親はであるパウリナ帝は、夫のディーノの父親であるサウル・ロプロッズが権力を手にした事で下級貴族から上級貴族となって、最期には皇国宰相の地位にまで登りつめたのである。その後どうなったかは言わずもがなだが、皇国に大きな混乱を招いたのは事実である。

いま気付いたんだが、母親のパウリナ帝も、娘のノウァ帝も、結婚相手が低い身分(と言っても一応貴族だが)の出身者だったんだな。今後、彼女に何か良からぬことが起きなければいいが‥‥‥。

皇帝の婚姻と言えば、多くの娼婦を侍らせ31人の一般女性と関係(ほぼ強姦らしい)を持っていたサロスにも、意外にも正妻と言うものが居たそうだ。名前は「アリーゼ・ジーネ・クロイル」2代目ヴァサーゴ大公・リーンハルト・マティーアス・クロイルの娘だ。

宰相ザクゥス大公との関係を考えれば当然だな、彼は孫娘をサロスの嫁にしたんだ。ただ夫婦関係は完全な仮面夫婦だったようだが‥‥‥。

それに比べれば、ノウァ帝とエアニスの夫婦仲は良好なようだ。取りあえずあの近衛士官の家族はロプロッズの様な権力に取りつかれてはいない様にも見える。

では話を戻そう。

この「皇女妊娠事件」と仮に名付けようか、この事件は発覚時にはノウァ帝と近衛士官の家族内での事であって外には一切漏れてはいない。抑々ノウァ帝はアフラでは殆ど外出していないので、近隣住人にもその存在を知られていなかった様なのだ。だから外部にこの事が漏れる事は無かったのだ。

なので、公にはサロスの死後、皇国の使者がノウァ帝を迎えに来た時に初めて発覚したのである。

妹の著書には、皇女を迎えに来た使者は3人の皇国軍人だったそうだ。

まぁ、ネクロベルガーが遣わしたのだから軍人であっても不思議ではないが、その内2人の士官は皇女が妊娠していると聞いて尋常でない狼狽っぷりを見せたらしい。

まぁ当然だよな、しかも相手は護衛任務に当たっていた近衛士官の息子となると問題になるわな。

一応、近衛軍の士官たちは中下級貴族で構成されているのだが、皇女の結婚相手となるとやはり上級貴族以外には無いと思う。それなのに、迎えに来たら中級貴族である近衛士官の息子とそんな事になったらそりゃ驚くだろう。

ただ2人の上官に当たる「シュヴィッツァー」少佐と言う人物だけは沈着冷静で、この事実を聞いても眉ひとつ変えず、直ぐに本国へ連絡する様に他のふたりの部下に指示を出したみたいだ。

アニー女史は著者の中で、その少佐が余りにも冷静で感情が無かったため怖かったと回想している。感情が無いとはネクロベルガーそっくりだな。その少佐はミニネクロベルガーと言った処だろうな。

まぁ、その少佐の事は置いておくことにして。すぐさまその皇女妊娠の報は本国へと伝えられ、それによって予定を変更してノウァ皇女の帰国が半年先延ばしされたのだ。

この処置は、既にノウァ皇女が妊娠7か月以上たっていた事を鑑みて、帰国して出産するより、このままアフラで出産した方が母体への悪影響が無いとの判断だったようだ。

あとは産後の体調の経過を見て帰国すると言う事になったのだろう。経過によっては帰国がもっと先延ばしされてかも知れないと書かれていた。

お陰でネクロベルガーの摂政期間も延びる結果となったのだ。

此処でノウァ皇女帰国にはチョットした疑問があり、俺なりに考察してみた。

先ず最初の疑問は、何故ネクロベルガーは身分を隠して暮らしていたノウァ皇女の所在を知っていたかである。

彼はサロスが暗殺され、その後の反サロス勢力のクーデターを鎮圧した直後にシュビッツァー少佐らを使者に送っているのだ。これは驚くほど動きが早すぎると言える。

本来ならノウァ皇女の生存、所在の確認、そして使者を送ると言う手順を踏んで迎える筈なのだが、もうすでに知ってたかのように迎えの使者を送っているのである。

あくまでこの時のノウァ帝は、身分を隠してアフラに潜伏していたのだ。皇国では消息不明扱いになっていたようである。それを見つけると言う事は、以前からに捜索していたか皇女側から何かしらのコンタクトがあったとしか思えない。

しかし、ノウァ帝の当時の立場からすれば後者はあり得ないと考え、以前から捜索されていたと考えるのが妥当だ。すると一体だれが何の目的でとなる。

先ず考えられるのは、サロス帝や宰相のザクゥス大公がネクロベルガーに探索させたと言う事だ。彼からすれば、先帝であるパウリナ帝の娘は、自分たちに敵対する勢力に利用される恐れがある。そのため、先んじて対処(保護の名目での幽閉、または暗殺)しなければならないはずである。

それに関連しては、ヴァサーゴ大公家の政敵でもあるアガレス大公家も行方を捜していた筈である。彼らにとって皇女は、自らの派閥の再起のための武器になるのだ。探していて当然であるが、ネクロベルガーを使ってとは考えにくいので、此方の方は考えなくてもいいだろう。

ぶっちゃけネクロベルガーが実は裏でアガレス大公家と繋がっていたと言うなら話は別だが、それは無いと思う。多分‥‥‥。

ふたつ目に考えられるのは、ネクロベルガー自身が探索していたと言う事である。

此方の理由は、うちのクエスなどが良く言っているサロス暗殺の黒幕がネクロベルガーと言う陰謀論の根拠となる説だ。

要するに、サロスが制御できなくなった際の首のすげ替えのためにノウァ皇女を探したと言う話だ。だからサロス死後にアレだけスピーディーに皇女を迎える事が出来たと言うわけだが、まさか皇女が護衛を務めている近衛士官の息子と恋仲になって、子供まで作ってしまうとは想定外だっただろう。ノウァ帝は、亡命時代は匿われている家から殆ど出ていないので、もし仮にネクロベルガーが皇女(と言うより近衛士官の家族)を発見して監視していたとしても、妊娠には気付かなかったかもしれないからな。あるいは気付いていたからシュヴィッツァー少佐は驚かなかったとも考えられるが‥‥‥これについては分からんな。

まぁ、知っていたか知らなかったはネクロベルガーにとっては何方でも良かったのかもしれない。皇女が帰国するまでの期間が延びれば、彼が摂政としての延命がなされる訳だし、彼にとっては悪い話では無い様に思える。

とは言え、皇女が帰国して皇帝に即位した後もネクロベルガーは摂政であり続けたのだから、延びた延びないは余り関係無いかも知れないがな。

イヤ、でも新皇帝の一声でネクロベルガーが摂政を解任され、宰相のフローグ子爵が補佐する事も十分考えられるたのだ。ネクロベルガーとしては何かしらの手を打つ期間はあった方が良かったのかもしれないな。例えば皇国議会の議員を買収するとか‥‥‥。

ネクロベルガーは現状から起こりうる未来を正確に予測し、それに逐一対応していたと言う事だな。普通に出来る事ではないが、ネクロベルガーはそれをやってのけたと言える。あるいは本当にただの強運の持ち主なのか? 結果から見るとどちらにも取れる。

まぁ、それについては一旦置いておいて、ふたつ目の疑問に取り掛かろう。それはノウァ帝の父親の行方である。

7月事件で、ノウァ帝は父親のディーノ・ロプロッズ伯と一緒に皇国を脱出し、アフラに亡命したのだ。だが、帰国時に彼の姿は無い。亡命皇女では、宇宙暦180年の2月頃に何も告げずに突如行方をくらませたと書かれている。

宇宙歴179年の4月に皇国で軍事政権が崩壊し、サロス帝の親政が行われた。と言うニュースが世界中に報道された頃から少し様子が変になったと亡命皇女では書かれているが、当時はアニー女史も気が付いていなかったらしく、行方をくらませた後に振り返って見れは様子が変だったと言う程度のものだったようだ。

結局、それ以降連絡が取れなくなったために、ディーノの所在は分からずじまいだそうだ。ただ噂程度の話なら幾つかある。例えば幽閉されたパウリナ帝を救出しようと皇国に戻って捕らえられて処刑されたとか、身分を隠してサロス暗殺事件に参加したものの首都攻防戦で戦死した。或いは逃亡したなどの話がある。しかし、実際にはどれも憶測の域を出ないもので、生きているのか死んでいるのかさえ不明なのだ。

ただ、娘が皇帝になったのに未だに出てこない処を見ると、死亡している確率が高いと俺は見ている。

其れに父親が居なくなったノウァ皇女は大変ショックを受けていたようで、食事も殆ど喉を通らなくなって衰弱していたと書かれている。結構危なかった様だが、そんな彼女を真摯に支えたのがエアニスだった訳だ。そりゃ、恋心も芽生えるってもんだ。

どっちが告白したんだろうな? やっぱり皇女様かな? いくら何でもエアニスの方からって事は無いだろう。身分の壁って言うのを弁えてるだろうからな。一体皇女様は如何言ってエアニスに迫ったんだろうな? 何でこう言う事書いてないんだろうな?

個人的には興味をそそるが、抑々亡命皇女は暴露本では無いからこう言うところは描かないのか? 皇女と兄貴は隠れて付き合ってたと言っても、家の中でのふたりの会話とかで気付いてたんだろからそういうのも描いて欲しかったぜ。

ゴホン、話が逸れましたので戻します。

さて、ノウァが4代目皇帝となる事になったのだが、彼女が帰国するまでの6か月間のに皇国でも結構ゴタゴタがあった様だ。

その最たるものが、サロスの後継者問題である。

イヤイヤ、サロスの後継者はノウァだろと思うかもしれないが、サロスには高級娼婦の他に、31人の女性と関係を持ち、うち17人の女性を妊娠させているのだ。それら子供を持った女性が、我が子を皇帝にと思ったとしても、無謀とは思うが何ら不思議では無いだろう。そして実際にそれは起こったのだ。ただこれに関しては、予想通りサロスは子供を一切認知していなかったため、宮廷側も最初は突っぱねたのだ。

しかしDNA鑑定で血縁が証明されている事もあり、宮廷側も何かしらの手を打たないと色々面倒になると考えた様で、この騒動の早期幕引きのために彼女たちを買収する事にしたのだ。要は金の力で解決したって事だな。

一応、皇族と認めるが、後継者に関して一切口を挟まない事を条件に、可なりの額の生活保障を約束する事で彼女たちを納得させたんだ。

これに対して殆どの女性は納得した様だが、ひとりだけ、モニカと言う女性だけはいくら保障の条件を引き上げようと納得しなかったそうだ。

彼女曰、サロスは自分の子供だけは認知したと言っているのである。だが、他の女性の手前、皇子として迎える訳にはいかず、離れて暮らす事を強いられたのだと言い。何時か皇子として迎えると約束もしたと訴えたのだ。

まぁ、体のいいその場凌ぎの口約束だろうが、モニカはそれを信じていた様だ。

う~ん、これに関しては如何いったらよいか分からん。サロスは己が欲望のために彼女たちと関係を持ったのだ。自分の立場を利用して彼女たちに拒否する権利を与えず、性的行為を強要したとされる。それによって妊娠すると自分は知らないとばかりに彼女たちを捨てる。最低のクズ野郎だ。

だが、そこでサロスが死んだからといって、自分の子供を皇帝にと考える彼女たちの神経も如何だろうとも思う。まぁそうなれば、自分は皇帝の母親、つまり皇太后になれるって思ったのだろうか? あるいはそれをネタに只お金をせびりたかったのだろうか? もし後者なら彼女たちの思惑は当ったと言える。多額の生活保障が約束されたのだからな。

もし本当に皇帝になれると思ったのなら、17人の子供の誰がなるのかと争いの種になりかねないんだが、上級貴族も流石にその子供たちの後ろ盾になろうとは思わなかった様だ。

やっぱりお金、だったんだろうな‥‥‥。

そうなると、一人モニカと言う女性だけは本当にサロスの言葉を信じていたんだと思うと心が痛むが、最終的にモニカは逮捕される事になる。

なかなか自分と子供を受け入れない宮廷側に、モニカは怒りを露わにして政府の施設を放火してしまったそうだ。

気持ちは分からんでもないが、そんな事をすれば自分で自分の首を絞める様なものだ。案の定、彼女は放火罪で逮捕されてしまい、その逮捕劇によって一連の騒動は一応の終息を迎えた。

因みにモニカの息子だが、今はミシャンドラ学園に居るらしい。父親は暗殺され、母親は放火罪で無期懲役の収容所送りだ。しかも放火罪で無期懲役なのは、サロスが施行した「皇帝令第1号(人権剥奪法)」でだからな。皮肉なもんだ。

ま、ひと騒動はあったがノウァ皇女は無事帰国し、宇宙暦189年11月11日に戴冠式を挙げて晴れて第4代皇帝になった訳だ。

え~と~、今回は何だかノウァ帝の話になってしまったな。ネクロベルガーの話をしたかったんだが‥‥‥。まぁ、ネクロベルガーは摂政としてノウァ帝を支えてるから良しとしよう。

次はちゃんとネクロベルガーの話をしよう。そうだな。皇国親衛隊の話なんてのは良いかも知れないな。

 

 

「あれは総帥が中等部の2年生になった頃だったでしょうか‥‥‥」

 

レッジフォードは顎先を手で摩りながら当時の事を思い出しつつ語りだす。

 

「総帥と同じクラスにサテオス・ショーン・フィプロクと言う生徒が居ましてな」

「はぁ‥‥‥」

「彼の祖父も御父上も軍の高官でして、彼は‥‥‥まぁ、何と言いますか、家族の地位もあって少々乱暴な処のある生徒でした」

「要するに親の地位に胡坐をかいた不良生徒と言う事ですか?」

「元も子もない事を言いますね、まぁ早い話がそうなんですが‥‥‥」

「その彼が何か?」

「貴方がおっしゃる通り彼は乱暴な生徒で、自分の意にそぐわない者には暴力に訴えるのも辞さない生徒でしてね、周囲の生徒からは嫌われていました。勿論表面上は彼のご機嫌を窺いますが、しかし裏に回れば‥‥‥」

「陰口をたたかれるわけですか」

「まぁ、お察しの通りです。この時すでに退役されていましたが、彼の祖父のフィプロク中将は軍の大物ですし、御父上も軍の重責を担う地位に付いていますからね、軍人の子息通う軍学校ではあまり逆らう事も出来ないのですよ。生徒たちの親の上官でもありますからね。それにたとえ逆らったとしても彼には勝てないでしょうしね」

「はい?」

「あゝ彼、中等部1年の時に既に身長が180㎝以上もありまして、相当な巨躯の持ち主なんですよ、体重も100㎏は越えていたんじゃないですかね。そんな巨漢の相手に喧嘩なんて吹っ掛けるには結構な勇気が必要だと思いますよ。確か今では2m以上ある筈ですよ」

「へぇ~、そんなにでかいんですか‥‥‥。確かにそんなのが前から来たら道開けちゃいますよね」

「そうなんですよ。ご家族の地位とその体格のお陰で教師すら彼には逆らえなかったんですよね。ま、何と言いますか、やんわり注意するのが精一杯と言いますか」

「先生も大変ですね」

「ええ、まぁ‥‥‥それでですね。そんな彼にも態度を変えない生徒が居ましてね」

「あゝ其れが若き日のネクロベルガー総帥だった訳ですか」

「その通りです。あの方は学生時代は誰とも交友を持たない主義だったので、彼にも素っ気ない態度でした。サテオス君は英雄ドレイク・ネクロベルガー元帥の息子とお近づきになりたかったでしょうが、本人の態度がアレではね。だからと言って他の生徒のように癇癪を起す訳にも行きません、そんなことしたら軍での御父上の立場が悪くなります」

「確かに。で、如何なったんですか?」

「ええ、まぁ、彼も総帥の事はいけ好かない奴だと思ったかもしれませんが、表面上は何事も無く収まりましたよ。ですが、ある事件が切っ掛けでガラリと関係が変わる事になったのです」

「ある事件?」

「盗難事件です。クラスで盗難事件が起きてその容疑者がサテオス君なのです」

「窃盗ですか? 流石にそれは人権剥‥‥‥皇帝令第1号が無い当時としても大問題ですよね」

「そうです。軍の重鎮の息子が窃盗と言う事もありまして、当初軍学校側はこの事を秘匿して内々に処理しようと思っていたのです。なので憲兵隊にも通報していませんでした」

「でもその言いかとだと発覚したのでは?」

「そうです。何故か憲兵に通報した者が居たらしく、憲兵隊が軍学校に乗り込む形となりました」

「で、事件の方は憲兵隊が解決したのですか? やはり犯人は彼だったんですか?」

「まぁ、事件そのものは単純なモノで、ある生徒のロッカーから貴重品が盗まれたと言うものです。その貴重品を持っていた生徒がサテオス君に寄越すよう迫られていたらしいのです。彼はその生徒の事を普段からイジメていたようで、話を聞いて私もサテオス君を注意したのですが‥‥‥」

「効果なかったと?」

「アハハ、お恥ずかしい話ですが、あの頃の彼は自分が何をしても周りが言い返せないと思っていたようですね。それは生徒だけでは無く教師たちもです。私もその一人と言ってもよいですな」

 

レッジフォードは当時の情けない自分を思い出したのか、笑いながらも表情が暗くなっていく。

 

「ではイジメられていた生徒が寄越さなかったから盗んだと言うんですか? 流石にチョット飛躍と言うか乱暴と言うか‥‥‥」

「それだけ聞くとそうですが、ある生徒が犯行時刻と思われる時間帯に彼がロッカールームに入るのを見たという証言をしまして、それに決定的だったのが彼の鞄からその貴重品が出て来たのです」

「完全に黒ですね」

「ええまぁ、そう思われますよね」

「違うのですか?」

「結果から言いますとサテオス君は白でした。犯人は貴重品を盗まれた本人です」

「はい?」

「結果から聞くと如何いう事かと思いますでしょ?」

「ええ、まぁ‥‥‥ただ、もしかして狂言だったって事ですか? その虐めを受けていた生徒が彼をハメようとしてこの様な事件を起こした。みたいな?」

「その通りです。その事を私が憲兵隊に話したんです」

「学園長代理の貴方が? あなたが解決した‥‥‥訳では無いですよね。そうするとネクロベルガー君がですか?」

「ええ、その通りです。あの当時全員がサテオス君を犯人だと決めつけていました。なのでロクな捜査もせずに憲兵隊も彼を犯人だと断定したんです。まぁ、彼の鞄に盗まれた品があったのが決定的でしたが、それに待ったをかけたのが総帥です。あの方は私に事件の謎が解けたと言って、サテオス君が犯人ではなく貴重品を盗まれた被害者の生徒の狂言だと看破したんです。そして私にその事を憲兵隊に話して欲しいと言いまして」

「なぜ貴方に?」

「私が担任だったと言う事と、生徒の自分より教師である私からの方が憲兵隊も納得すると見たのでしょうな。結果的のそうなりましたしね」

「成程。いじめの仕返しにしては思い切った事をしましたね。その後の彼は如何なったんですか?」

「実は犯人はその生徒だけでは無いんです。クラスのほぼ全員と言っていい生徒がこの事件に関与していまして」

「え、ほぼ全員⁉」

「そうなんですよ。日頃からサテオス君の事を快く思っていない彼らが計画した復讐だったんです。だから誰も彼もサテオス君を犯人だと決めつけたし、犯行時刻に彼がロッカールームに入って行ったのも、彼らから呼び出された結果だったみたいです。その証言した生徒も勿論仲間です」

「サテオス君以外、クラスの全員が共犯だったと」

「ただ彼らの誤算が総帥が彼らの協力者ではなかった事でバレたと言う事ですか」

「何故ネクロベルガー君はその様な事をしたのですかね? 学園長代理の話を聞く限りでは、他人と関わらないような生徒だったのでしょ?」

「正直あの方の考える事はあの頃からよく分からなかったんですよ。何故そう言う行動に出たのか、正義感だと言うならイジメられている生徒を守ろうとしたはずですが、それに付いては我関せずだったですからね」

「確かに‥‥‥」

「普段から人と接しないからサテオス君が如何なろうと我関さずを貫いても不思議ではないかったんですが、この時だけ急に事件の真相を解明したんですよ。でも結果的に丸く収まったんですよ」

「丸く収まった?」

「ええ、日頃の鬱憤が溜まった生徒たちによる復讐でしたからね。貴重品も本当に盗まれた訳ではないですし、結局誰も捕まる事も無く収まりました。それにこの一件で懲りたのか、サテオス君も丸くなりましたよ。そして彼は自分を救ってくれた総帥に感謝して一方的にボディガードみたいなことをやり始めたんです」

「あゝ其れがネクロベルガー君の取り巻きと言う事ですね」

「そうです。サテオス君からしたら恩返しのつもりだったのでしょう。今では親衛隊警備局の次長をしてますからね、彼」

「え、親衛隊になったんですか? イヤそうか‥‥‥」

 

俺の予想が当たっちまった。学生時代のネクロベルガーの取り巻き連中は親衛隊になるんじゃないかと思っていたが、本当に成っちまったのかよ。

まさか未だにその事を恩に感じているとか? そのサテオスって奴相当義理堅いな、中等部では誰もが嫌う乱暴者だったんだろ。変わるもんだな‥‥‥イヤ、本質的には義理堅人物だったのかもな。

 

「親衛隊の前身である総帥警護連隊の中に、ガード隊って言う7人ばかしの隊がありまして、そこの隊長として総帥個人のボディーガードをやってたんですよ。しかも彼を含む隊の隊員7名全員が総帥に何かしら恩を受けて取り巻きになった同級生や下級生たちなんです」

「そうなんですか‥‥‥」

「特にサテオス君はかなり巨漢だったからいい盾になったでしょうね。正に要人を守る盾、ボディガードに相応しい人材だったって訳ですね」

 

確かにそうかもしれないが、それについて俺は如何答えていいのか分からんぞ。何だろう。そう聞くと彼が都合のいい人間の盾見たいで哀れに聞こえてくる。

 

「総帥警護連隊が総帥親衛隊と名称を改め組織が大きくなるにつれてガード隊も警護隊と名称を変えて大きくなりました。と言っても、警護隊は総帥の私的なボディーガード組織ですので、今でも30名程度の小隊クラスの人数しかいませんけどね。初代隊長も当然と言うかサテオス君ですよ」

「そうですか」

「今は結構偉くなってしまいましたが、今でも総帥のボディーガードは自らの役目だと思っているらしいですよ。たった1回救った恩で、此処までになるとは総帥も思わなかったんじゃないですかね」

「かも知れませんねぇ」

 

余り人とは拘わらず何を考えているのか分からない人物が、ふとした事で助けられると何故自分なんかをと思ってしまうかもしれない。そして恩を返さなければと思わせたのかもな。なんたって何考えているのか分からないんだからな。恩を返さないとどんな事になるか分からないと来たら、ちょっとした強迫観念になっても可笑しくないよな。しかも相手は何も要求する訳でもないから余計に考えるだろうしな。

そこでサテオスは、自分の巨漢な体格を利用した一種のボディガードを願いだたのだろう。そしてネクロベルガーはそれを快くとは行かないまでも受け入れたのだ。その瞬間にサテオスはネクロベルガーに受け入れられたと思ったのだろう。なんせ最初は英雄の息子とお近づきになりたかったみたいだしな。それが自分のやるべきことだと思ったのかもしれないな。だからボディーガードとして常にネクロベルガーの傍にいたし、それは昇進して警護隊から外れた後も思いはそのままって事か。

ネクロベルガーは無感情だが人を操す術を心得ているのかもしれないな。人は見た目で決まると言うから本来は人当たりの良さそうな態度で人に近付くのだが、彼は真逆で来ているのかもしれない。一種のギャップ萌え狙いなのか? 見た目と行動のギャップ、普段無表情で何を考えているか分からない人物が、急に優しかったり助けてくれたりすると、それで見る目が180度変わるアレなのか? それで人の心を捉えているのかもしれないが‥‥‥まだ何とも言えないな。

そうだな、もう少しネクロベルガーについてレッジフォードに聞いてみる事にしよう。