怠惰に創作

細々と小説の様なものを創作しています。設定など思い付いたように変更しますので、ご容赦ください。

H計画とミシャンドラ学園 FILE8

応接室から出た瞬間、レッジフィールド学園長代理が振り返って何か含みのある笑顔を俺に見せて来た。

何だろう? とっても不気味な感じがする。俺は、取りあえずその不気味な笑みの真意を確かめる事にした。

 

「な、何ですか?」

「いえ、お時間はどの位あるのかと思いまして‥‥‥」

「ああ‥‥‥。どの位かかるモノなんでしょう?」

「クラブ活動は授業終わりから就寝時間の22時まで続きますが‥‥‥」

「えっ! そんなに?」

「言うなれば自由時間みたいなものですからね。生徒たちの意思で就寝時間直前までクラブ活動を続けられますよ」

「あゝそうですか‥‥‥」

 

レッジフィールドの話だと、ミシャンドラ学園のクラブ活動は、この学園に通っている生徒たちの自由時間と言う事らしい。授業が終わり、そのまま帰ったとしても寮の部屋で時間を潰すだけなので、クラブ活動をしている方が幾分か意義ある時間を過ごせるという訳だ。勿論、やる事があればクラブに参加しなければ良いだけだしな。

 

「別にこの後の予定とかはないので幾らでもかまいませんよ」

「あゝそうですか、では取りあえず夕方くらいまでにしましょうか」

「夕方以降は何かあるのですか?」

「流石に夕方以降になるとクラブ活動を続ける生徒が減りますね。大体の生徒は寮に戻ります」

「成程、其れじゃあ、夜は寮にいる生徒たちに話を聞こうと思うのですが、大丈夫でしょうか?」

「ええ、かまいませんよ」

「ありがとうございます」

 

思いのほか気なく生徒たちと話す事を許可して貰えた。学園長代理や教員の話だけでなく、此処で生活している生徒自身からも学園について話を聞かないとな。

 

「まずは校舎内にある文化部から見て行きましょう」

「よろしくお願いします」

 

俺はレッジフィールドの後に付いて行き、各文化系クラブ活動をしている教室へと案内される。

先ず最初に見て回ったのが校舎内のある文化系のクラブだ。吹奏楽や合唱に放送、科学や美術などのお馴染みのクラブの他に、ゲームクラブや復刻クラブ、研磨クラブなど、何それというクラブもあった。

ゲームクラブはその名の通りただゲームをするクラブだ。テレビゲームやカードゲームにボードケームなど、ゲームと名の付くモノなら片っ端から集めて楽しむだけのクラブだそうだ。何とも羨ましくも思うが、遊ぶだけではなく、中にはオリジナルのゲームを作った生徒も居て、一般販売もされているらしい。結構人気がある様で、発案者の生徒には、売り上げが収入として入って来ているらしい。

学制のみで商売とかを許可しているのかと聞いたら、レッジフィールドに「何か問題でも?」と不思議そうな顔をされた。

俺の通っていた高校は、バイトすら結構厳しかったんだよな‥‥‥。

次に復刻クラブだが、最初名前だけ聞いたら何のクラブだと小首を傾げたが、要は嘗て流行っていたモノで今は失われてしまったものを復刻させるクラブらしい。俺が見た時にはカセットテープなるモノを復刻させようとしていた。復刻させて如何するのだとも思ったが、生徒たちがやりたいと言えば学園側は出来る限り支援するらしい。

その次の研磨クラブは、見てすぐに分かった。何かをひたすら研磨するクラブだ。何が楽しいんだか‥‥‥。

他にも文化系クラブはいろいろある。例えば、教科クラブがある。文学に数学、歴史に地理等々、通常の授業で行う教科をクラブで受けられるというクラブだ。学園の授業よりも先に先にと学んでしまうため、クラブの生徒たちは授業の時に他の生徒に教えられる程になる。授業の見学の時に補助教員と一緒になって生徒を教えていたあの子たちという訳だ。そう言った生徒は、将来教員となって、この学園の教員となる者もいるそうだ。

勉強があまり好きではなかった俺からすると、わざわざクラブでも授業を受ける気が知れないが、結構人気がある様だ。病気で休んだりして授業を受けられなかった生徒はもちろんの事だが、大学受験の勉強のためにこのクラブを利用する生徒もいるそうだ。

まぁ、そう考えると結構需要はある様だ。俺も大学受験の時はヒィーヒィー言いながら勉強したもんだ‥‥‥。

 

「何でもかんでもクラブにしてしまうって感じですね」

「まぁ、此処は申請さえすれば、一応はクラブとして認められますからな。他にもまだまだありますが如何しますか?」

「そうですね文化系はこれ位で、今度は運動系のクラブを見学をしたいですね」

「そうですか。では、外に出ましょうか」

 

校舎内の文化系クラブを1時間かけて見て回った。他にもまだまだあると言われたが、文化系クラブばっかり見学する訳にも行かないので、俺は次は運動系クラブの見学を所望し、レッジフィールドと共に本校舎から出る。

俺は、レッジフィールドが用意した車に乗り込み、運動場や施設が点在する第1校舎の外周部へと向かう。

移動中の車内でも、レッジフィールドはクラブに関してあれやこれやと話して来る。

クラブ大好きやなこの人。

 

「まだお見せしたい文化クラブも色々ありましてね、勿体ないですな」

「そうなんですか、結構回った感があるんですがね」

「ハハハ、今のペースでひとつずつクラブを見て回って居たら、全部回るのに2、3日はかかりますよ。それにこの第1校舎内には無いクラブもありますからね」

「と言いますと?」

「別の校舎にあるクラブの事です」

「ああ、ここには全部で六つの学園校舎地区があるのでしたね。そこにはあってここには無いクラブがあるという訳ですか」

「そうなのですよ。先ほども言いましたように、生徒の要望があればクラブが出来てしまうので、次から次へとクラブが出来て、私でさえ全部を把握しておりません」

「そうでしたね。其れでは、もしここの生徒が他所の校舎のクラブに入りたいとなったらどうするのですか?」

「授業が終わった後にその校舎まで行くのですよ」

「えっ⁉ 別の地区の校舎にワザワザ行くんですか?」

「大丈夫ですよ、専用トレインもありますから」

「ああ‥‥‥。それもそうですね」

 

この地下3階層の広さは600㎢あり、その内の約400㎢の土地がミシャンドラ学園のエリアとなっている。そこに第1~第6の学園校舎地区、職業技能学校地区、事業教育センター、教員の住居地区、繁華街があるのだが、ハッキリ言ってすべての土地を使用している訳ではない。所々建物は立ってはいるのだが、実際は使用されていない建物も結構ある。さらに言えば、各学園校舎地区はある特定の場所に集中しているのではなく、学園エリアのあちらこちらに点在しているので、学園校舎地区間も可なり距離が開いていて、本来なら気軽に行き来できる距離ではない。そこで利用されるのが、学園校舎地区間を行き来する専用トレインである。これを使えば校舎間もある程度スムーズに往来できるという訳だ。

 

「他の方法としては、同じクラブを立ち上げるか、リモートで参加するという手もありますね」

「あゝ成程。参加したいクラブが自分の校舎になかったら自分で作ってしまえと言う事ですね。あとはリモート参加も可能だと」

「そう言う事です。自分がやりたい事は自分のやり方で参加する。それが当学園のモットーなのです」

「成程」

 

ミシャンドラ学園では、生徒たちに自分で考える力を付ける事を重視している。そのため教員たちも、生徒からの様々な質問に対して答えるのは勉強ぐらいなもので、その他の事柄については自分で考え自分で判断する事を重視させている。勿論、生徒から質問されれば、教員は何かしら答えるだろう。しかし、教員自身が出した答えを強要する様な事はなく、それを聞いた生徒自身が考えるヒントにするだけである。

ま、生徒自身が、その答えをそのまま採用すると言うならば、それも自由だとも言えるが、子供は大人の言葉に染まりやす。そのため学園では、それ等を鵜呑みにせず、取捨選択して自分の考えにする事を教えているらしい。これも特別授業で教えている事だそうだ。

クラブ活動ひとつとってみても、もっと言えば授業以外は、ほぼ生徒たちは自分の意思で行動しているのだそうだ。流石に授業は決まった事をやるし、病気などで止む負えない理由が無ければ、基本全員参加である。サボりは許されない。ま、どこも一緒か。

まずは自分の事を自分で確りできる様にする。それがこの学園の教育方針という訳だ。

まぁ、放任主義だそうだからな。生徒一人一人に考えさせるというのが此処の方針だと言う事が嫌と言うほど分かった。

それはクラブ活動でも同じで、特に運動系クラブがそうなのだとか。

基本的に運動系クラブは、一軍と二軍に分かれている。これはプロスポーツの一軍、二軍とは違い、本気か遊びかに分かれているのだ。

どういう事? と思われるかもしれないが、要は一軍は大会での優勝や将来プロのプレーヤーを目指す生徒が入る処で、二軍はそのスポーツをただ純粋に楽しみたい生徒が入るクラブなのだそうだ。要は遊びって事だ。

このふたつの軍は場所も分かれている。まぁ、そりゃはそうかも知れない。一軍の部員が大会などに向けてストイックに練習している隣で、二軍の部員がワイワイキャッキャと遊び半分で同じスポーツをプレイしているのだ。人によってはムッとして集中出来ない部員も出て来るだろう。そうならないための配慮ってとこだ。

その他にも一軍と二軍の違いがある。一軍は基本入ったら一途にそのクラブに居続ける生徒が多い。幼年部から高等部まで、ずっとそのクラブに所属している生徒が殆どである。当然、将来を見据えているからそうなるのは必然だ。

一方、それに対して二軍の方はというと、基本遊びでやっているので、出入りは自由、今日はあのスポーツをやりたい気分だと思えば、何時だって自由に参加できる気楽なクラブとなっている。だから二軍に参加する生徒は基本的に暇つぶしで、広く浅くをモットーに、自由気ままにクラブ活動を楽しんでいる生徒と言える。正規の部員は殆ど居ないと言ってもいいかもしれない。

 

「記者さん、着きましたよ」

 

そうこうしている内に、外周部へと到着し、俺たちは運動系クラブの見学に向かう。

さて、俺が運動系クラブを見て回る中で、レッジフィールドは特に珍しいものを中心に案内してくれた。幾ら時間に余裕があるとは言え、ひとつずつ回るのは時間が足りないので、お馴染みのクラブは避けて、宇宙都市でこんなクラブが有るのかと思うものを中心に案内された。その中でも特に驚いたのが、ウォータースポーツやウィンタースポーツまであると言う事だ。宇宙都市でだ。

先ずウォータースポーツだが、水泳や水球などはまだ分かるが、サーフィンやスキューバーダイビングなどもあるのだ。特にスキューバーダイビングクラブに関しては、バカでかいビルのような施設の中にあった。その施設の9割方が水槽になっていて、ぶっちゃけ、ただの巨大な水槽と言っていいような施設である。ただ外見は何処にでもあるビルと同じで、中に入ると前面水槽! ってな感じで圧迫感があった。そんな巨大水槽に入るには、外付けの階段を上って屋上に行き、そこにぽっかりと空いている入り口から水の中に入って行くのだそうだ。結構高いからエレベーターが欲しい処だ。そこまでしてスキューバーダイビングがやりたいのか? と思ってしまう。

サーフィンクラブは、施設内に波を人工的に作れる装置があるプールというだけで、スキューバーダイビングクラブに比べれば、言っちゃ悪いけどスケールが下がる。

そしてウィンタースポーツだが、当然スキーやスノーボード等の出来る雪山が作られているのだがこの施設も馬鹿でかかった。スキューバーダイビングクラブの施設よりも大きいかもしれない高い施設内部に、人工の雪山を作り、定期的に人工雪を降らせていると言う代物だ。そこで部員たちはスキーやスノボーを楽しんでいるという訳だ。しかも先程運動系クラブは一軍と二軍に分かれていると言った通り、この施設もそれぞれふたつあるのだ。

相当金懸かってるな。そりゃ学園の維持費に100億ルヴァー以上も掛かるよ。

それから外周部には運動系クラブしかないと思ったが、意外にも文化系クラブもいくつか存在していた。その中で、俺は刀剣クラブなるのものに興味を持ち、見学させてもらう事にした。

刀剣クラブは、所謂刀鍛冶である。今では絶滅した職種ではあるが、それを生徒たちが復活させたのである。文化系クラブでありながらこの場所にあるのは、火を使うというのはもちろんだが、設備も特殊であるため外周エリアに配置された様だ。

刀剣クラブの施設には、炉や名前の分からないモノが並んでいて、古い映像や昔を描いた映像作品などで観た事のある物があった。正直俺は何を如何して使うのかさっぱりだったが、それを生徒たちだけで、いちから作り上げたというのだから恐れ入る。話を聞くと、試行錯誤の末、丸5年かけて作り上げたそうで、本格的に刀を打てるようになったのは、2年程前だそうだ。話を聞く限り刀剣クラブの生徒たちの熱量に驚かされるばかりだ。

俺は刀剣クラブの生徒たちに、「よく最後までやり遂げたね」と称賛したが、その言葉に生徒たちからは、途中「何でこんな事やっているのだろうか?」と挫けそうになったなどの苦労話を聞く事が出来た。

そりゃそうだろう。今は無くなったものをいちから作るとなると、相当な苦労があるだろう。幾ら資料があると言ってもだ。

俺だったら半年、イヤ、1ヶ月で諦める自信があるな。自慢になんないけど。

俺からすると、刀や剣など最早映像の世界でしか見た事のない代物だ。今ある刃物は専らキッチンナイフなどのナイフ類だけだし、最近では調理器具も発展してナイフを使は無くても料理が出来てしまう時代である。そのためキッチンナイフすらない家庭もある位だ。

ただ、刀剣自体が無くなっても、形だけは存在はしている。特に皇国の近衛軍士官はサーベルを携帯していし、通常の国防軍であっても、自身が貴族である事をアピールするかのようにサーベルを携帯している者もいるらしい。

それにエレメストでも、何かの儀礼や祭事の際に、古代の民族衣装を着飾る時に剣を携帯しているのを見た事がある。そう言う意味では完全に無くなったとは言い難いが、それでもそれらは工場で作られた模造品である事が多く、本格的な殺傷能力がある刀剣では無いだろう。映画やドラマの小道具と同じで形だけと言う事だ。

まぁ、本物が全くない無い訳でもない。ただ殆どが美術品として博物館に収納されているか、金持ちの道楽でコレクターされたものが殆どだ。

さて、刀剣クラブの部員も2年前から刀剣を打っている様だが、現在剣としてあるのは一振りだけだそうだ。2年で1本とは何とも寂しいが、それだけ剣を打つのが難しい作業と言う事だ。幾らシミュレーションしようとも、実際に打つのとでは、全然勝手が違うだろう。実際に部員たちは何度かチャレンジして、やっと一振りだけ剣としての形になったと言っている。

ただその一振りも、剣と言う道具としてはガラクタ同然と言っていた。

何時か博物館に収蔵されている刀剣よりも優れたものを作りたいと、部員たちは熱く語ってくれたが、俺の率直な感想は、申し訳ないが「果たしてこの子たちは何を目指してるのだろうか?」である。

一通り、というか全部は見ていないのだが、いい時間にもなったので、一旦、本校舎に戻る事にした。

空はすっかり真紅に染まり、夕焼けが美しい‥‥‥。宇宙都市でけどね! 全部人工的に作り出した演出だけどね!

 

「いや~、語彙力が無いですが、凄いものを見せてもらいました」

「色々あったでしょ」

「ええ、特にあの刀剣クラブはクラブの域を通り越している感じがしました」

「あれは凄く苦労したようですよ。今の時代、刀工なんて職業は無いですからね。資料を探して手探り状態で作ってましたよ」

「部員たちの熱量に圧倒されっぱなしでしたよ」

 

ドスン、ドスン、ドスン

 

俺は、レッジフィールドと話ながら停めてある車の処に向かっていると、何やら地響きらしきものが聞こえて来て、思わず周囲を見渡した。

すると、向こうの方に学園の生徒たちが集まっている場所があり、その前を何か巨大な人の様なものが歩いている姿が見えた。

 

「あ、あれは一体何だ⁉」

 

俺はそのモノを近くで観ようと人だかりに向かって走る。

それは高さ10m、イヤ、14、5mは有ろうかという人型のロボットで、俺の目の前の道路のような広い舗装された地面を歩いている。

 

「なんだこれは⁉」

「おじさん知らないの? 新しい作業用ロボだよ」

「お、おじ‥‥‥」

 

人だかりはこの学園の生徒たちで、俺が思わずつぶやいた言葉に、初等部くらいの男子生徒が反応して答えてくれた。だが其れよりも、俺の事を「おじさん」呼ばわりとは、何か心にグサッと来た。

 

「こら、これ位の歳の人にはお兄さんて言わないと可哀そうだろ」

「あゝそっか、御免ね、お兄さん」

「イ、イヤべ、別に、お兄さんでも、お、お、お、おじさんでもどちらでもいいぞ」

 

今度は中等部くらいの男子生徒が、俺くらいの歳におじさんと言うのは「可哀そう」と言って来た。可哀そうと思う心が失礼だと思うぞ! そう言う事は思っていても口に出さないもんだぞ!

 

「ハァハァハァ‥‥‥。チョ、チョット待ってください記者さん!」

 

俺に遅れてレッジフィールドが、息も絶え絶えになりながら走って来た。心障を受けた俺は、顔を引きつらせながら運動不足気味の学園長代理を見る。

この学園の教育は如何なっているのか? と、思わず言いたくなったが、ここはグッと我慢してあの巨大ロボットの事を聞こうと思ったが、それは俺の隣のガキンチョが作業用ロボだと言っていたから聞かなくてもよい。

問題はその作業用ロボが歩いている場所だ。第1校舎の敷地の隣のだだっ広い舗装された平地である。柵で囲っているので、第1校舎とは別の施設か何かだと思うのだが、そこに新型ロボがお披露目されていると言う事になる。何故ここなのか疑問が浮かぶ。こんなに生徒に見られていいのか?

 

「あそこは何ですか?」

「ハァハァハァ、あ、あそこですか?」

 

レッジフィールドは、俺の質問に呼吸が整うまで待ってくれとばかりに手を振り、荒い呼吸を整えている。

 

「ハァー‥‥‥。あそこは昔、兵器の実験場として使っていたものです」

「兵器の実験場⁉」

「ここはその昔、全体が皇立科学研究所の敷地であった事はご存じでしょ」

「ええ」

「その時も広すぎて研究施設だけではなく、その他の施設もあったんです。特に軍は兵器の実験場を幾つか作っていて、あそこはそのひとつなのです。確か第2兵器実験場だったかと」

「じゃあ、あれは軍の新兵器!」

 

その瞬間、俺の脳裏に「X計画」の言葉が浮かんだ。

 

「だから新型の作業用ロボ出って言ってるじゃん。僕の言った事もう忘れたの? 頭お爺ちゃんじゃないか、おじぃ兄さん」

「お、おじぃ!」

「こらこら、やめなさい」

「は~い」

 

レッジフィールドに窘められ、初等部のガキンチョは不承不承の体で学園長代理の言葉に従う。

こ、このガキンチョ、頭握りつぶしたろうか(# ゚Д゚)

 

「昔はそうだったというだけですよ。それにあれはただの宇宙作業用のロボットです。人間と同じ動きが出来る最新型だとか」

「そ、そうなんですか‥‥‥」

「それに、もしあれが軍の新兵器だとして、学園の校舎が隣にある場所で運用試験などしますかね?」

「あゝ其れもそうですね‥‥‥」

「我々学園は、広い敷地面積を所有している割には使っている場所が限られていますでしょ。そう言った使っていない場所を企業などに提供しているのですよ。ま、使用料は取りますがね」

「ちゃっかりしてますね」

「ハハハ、余っているモノを有効活用するだけですよ。それより戻りましょうか?」

「あゝええ、そうですね‥‥‥」

 

本当に作業用ロボなのだろうか? 学園長の説明を聞いても、あの巨大ロボが作業用ではなく、兵器になるのではないかという疑問が頭から離れなかった。人型ロボット兵器など、アニメの世界の話であって現実的では無いとも思う。しかし、俺は後ろ髪を引かれる思いでその場を後にした‥‥‥。

 

 

皇国軍需局・局長室

 

「局長、例の試験機の試験運用の結果です」

 

軍需局局長「グリックス・マテリエル」大将は、部下からの報告に、読んでいた資料から目を放して部下の方に向ける。

デスクの前で背筋を伸ばして立っている部下に、マテリエル大将は、報告書を受け取るため手を差し出す。

 

「見せたまえ大佐」

「ハッ!」

 

大佐と呼ばれた部下は、一敬礼をしてから小脇に挟んでいた報告書を上官に渡すため一歩前に出て報告書を手渡し、すぐに下がって定位置に戻る。

マテリエル大将は受け取った報告書に目を通すと、顔を部下に向ける。

 

「で、実際に見てきた君の目から見て、例の機体はどう映ったかね?」

「ええ、データが示す通り地上での運用はまずまずと言った処です。試験課題もあぶなけなくパスしていましたし、兵器開発部の士官たちも満足していました」

「そうか」

「ただ‥‥‥」

 

大佐は言葉を挟んだが、言い難そうな表情で言葉を詰まらせる。

 

「如何したのかね。意見があるなら遠慮する事は無い」

「ハッ、試験については問題無かったのですが‥‥‥。学園の生徒が試験の様子を見ていたもので‥‥‥」

「それについては気にする事はないよ」

「ですか‥‥‥」

「学園側には宇宙作業用の新型機体の運用試験だと通達してある。それに学園にスパイなど潜り込める筈も無い。杞憂だよ」

「は、はぁ‥‥‥」

 

大佐はまだ納得してはいないが、上官から問題無いと言われれば、それ以上は何も言えない。

 

「そんな事より、これで残すは総合評価試験のみとなったな」

「はい」

「ダ・ハーカのベンツェラーも来るのだろ?」

「はい、准将は今計画の中心人物でもありますから、自ら機体の説明を行うようです」

「張り切っているという訳か。あゝそう言えば、キミは彼の士官学校時代の後輩だったな」

「はい、准将は2期先輩に当たります。家族ぐるみで親しくさせて貰っています。なので、准将が戻って来られると聞いて夫人も子供たちも大喜びでした」

「そうか‥‥‥。ま、せっかくの機会だ。ベンツェラーには総合評価試験終了後に、家族との時間を過ごさせたいと思って居る」

「それは良いお考えで、准将も喜ばれると思います」

 

マテリエル大将は、持っていた報告書をデスクの上に置き、顔の前で両手の指を組んで両肘をつく。

 

「では大佐、ベンツェラー准将だけではなく、総合評価試験には私や兵器開発部に軍需産業の重役、それに総帥閣下もいらっしゃる。万事怠りなくな」

「ハッ!」

「下がってよい」

 

大佐は敬礼して踵を返し、局長室を後にする。

1人っきりになったマテリエルは、椅子から立ち上がって背後にある窓の方に歩いて行く。そして眼下に広がる景色を見ながらふと呟く。

 

「13年か、長かったな‥‥‥」

 

マテリアルが、これまでの事を思い返して出た言葉だった‥‥‥。

 

 

 

 

 

【皇国軍需局】

・ゲーディア皇国軍の兵器などの軍需物資の生産、兵器開発や技術研究などを統括する機関。