人間には様々な能力や才能がある。
それらは全ての人間の中に秘められたものであり、諸君ら一人一人にも才能はあるのである。
だがしかし、それらはただ単に自然発生するものでは無い、自らが行動し、経験し、学んだ先に備わるものである。
そして自身にどのような才能があるかは、自ら探し当てなければならない。で、無ければ、その才能に気付く事なく生涯を終える事になるだろう。
では如何すれば才能を見つけ出す事が出来るか。答えは好奇心である。
好奇心を持ち、何事にも臆する事無くチャレンジする行動力が必要である。
そのためには、まず自分を知らなければならない。
自分を知る事が自らに秘めたる才能を見つけ出す方法である。その才能こそが自らに自信を与え、行動力を生むのだ。
では自らを知るためにはどうするか、それは自らに興味を持つ事である。自らに興味が無いものに自らを知る事はできない。
そして自分に興味を持つためには、自分を好きにならなければならない。自らを愛さなければならないのである。
人間がまず最初に愛すべき人間は自分自身である。
自分自身を愛した者だけが自分に興味を持ち、自分と言うものが如何形作られていのかを知る事が出来るのだ。
それによって自ら考え、行動し、自制し、自らを守る事が出来るのである。
私の言葉は今の諸君らにはまだ理解できないかもしれない。しかし、諸君らがこの学園で生活する12年間の中で少しずつ理解して行くと、私は信じている。
この学園での学と経験が諸君らの才能を開花させると、私は信じている。
そしてこの学園を巣立った諸君らが必ずや社会で活躍すると、私は信じている。
自らの未来を掴むのは君ら自身である。自らがこれから生きて行くために必要な術を、12年の学園生活で学び吸収してほしいのである。
俺はミシャンドラ学園の学園長「代理」室内の応接スペースでソファー椅子に座り、ネクロベルガー学園長様の有難いお言葉を、テーブルの上に浮かぶホロディスプレイで視聴している。
「如何ですかな総帥の素晴らしい入学式の挨拶は」
テーブルを挟んで向かいに座るレッジフィールドから感想を求められ、正直困惑している。
応接スペースに入ってソファーに座った瞬間、レッジフィールドからこの映像を見せられたのだ。まるで独裁者の演説でも聞いている様な気分になるが、内容はミシャンドラ学園に入学した新入生に向けての言葉だ。
目の前の学園長代理はネクロベルガーのシンパである。余計な事を言って心証を悪くするのは得策ではないので当たり障りのない返事をする事にした。
「先ほど学園長が自らを知ると言っておられましたね。そのためには自分を愛せと、人間が最初に愛する人間は自分自身とも言ってました」
「愛するというのはチョット大袈裟に聞こえるかもしれませんが、要は自分を好きになると言う事です。自分を好きになれば自分に興味が出て来ます。自分とはどんな人間なのか? 好きなモノ嫌いなモノ、何が出来て何が出来ないのか、そういった自分を知るための第一歩が自分を好きになると言う行為です。即ち自らを愛すると言う事です。それにオルパーソンさんが今日ここに来たのも当学園に興味があったからでは?」
「確かにそうですね。今日来たのは興味があったからです。興味の無い事には人は無関心です。逆に興味が無いもの、無い事柄に取り組ませるには報酬など何かしらのメリットでもないと人はやる気になりません」
「その通りです。そして自分に興味を持つ事で自分とは? と客観的に見て考える力を養うのです」
「成程。では生徒たちに自分を愛すために学園では如何いった教育を?」
「そうですな、具体的には放任主義ですかね」
「放任主義ですか?」
「子供たちを放任する事で、自己主張が強く、独創的な思考力が付いて決断力もある生徒になります。他にも自由で寛容性があり、リラックスした性格になります」
「しかし放任主義のデメリットには、自己管理が出来ず社会性にも難がある子供になると言われていませんか?」
「確かにそう言われてもいますね。ですがその事に関しては何も問題ありません。ちゃんとデメリットにも対応しています」
「例えばどのような対応を?」
「そうですな、明確なルールを教えたり習慣的なルーティンを作る等々です。しかしこれは当学園より各シティの養護施設や保育センターの方が力を入れています。勿論、当学園も引き継ぐ形で継続していますが」
「あゝそうでしたね‥‥‥」
ヤバい、保育センターの見学は保育士の方に重点を置いて、余り子供の事は重視していなかった。とんだミスをしてしまった。
言い訳を言うと、子供の方はミシャンドラ学園でじっくり聞こうと思っていたんだ。保育センターはエッグという人工子宮に面食らってしまったから、そのエッグの子供たちを管理する大人の方に目が行ってしまったのだ。結局俺は見てくれに騙される三流記者って事か、反省‥‥‥。って、しょ気てる場合じゃない。ここで挽回するぞ!
「如何かなされましたかな?」
「えっ!? ああ、え~と~、生徒を放任主義で教育するというのは分かりました。実際の取り組みは如何いったものですか?」
「貴方も先ほど教室で見た通り、やる気がある生徒はドンドン学ばせて教員と同じように生徒を教える側になったり、やる気が無い生徒には無理強いしないと言うものです。要するにゆとり教育と言った処ですかな」
「ゆとり教育ですか?」
「そうです。子供たちの好奇心に任せて学ばせるのです。そうすれば子供たちは自分が何に興味があるのかを知り、突き詰め、将来社会に出た時の武器になると思うのです」
好奇心に忠実に行動か‥‥‥興味が湧いた教科は好きに学ばせるが興味が湧かなかった教科は学ばなくていいなんて、幾らなんでも極端すぎないか? そんなに簡単に諦めていいものなのだろうか? もっと何か方法があるのではないだろうか? と、俺などは思ってしまうのだ。例えば生徒たちが興味を引く様な、面白い授業をするとかそういった試みは無いのだろうか? その点の事をレッジフィールドがは如何思っているのだろうか?
「ですが興味を持った教科を重点的に学ばせ、興味がない教科は学ばなくてもよいというのはチョット極端に過ぎるのではないでしょうか。生徒たちが興味を持つ様に面白い授業にしたりとかはしないのですか?」
「当然、全ての教科に興味を持って学んでもらえるように工夫はします。それについては教員に一任していましてね。ふたりの補助教員と話し合って授業内容を決めて貰っています」
「教師しだいですか。実は私の母国のエレメストでは、生徒に興味を持ってもらうためにトンデモ授業をした結果、教員が生徒の親に訴えられた事例がありまして」
「そうですか、我が学園ではそんな事は起こっていません。‥‥‥あゝそう言えば過去に、他校の教師が生徒に興味を持ってもらうという理由で犯罪や性的な表現で授業をしていたと問題になった事がありましたな。それで当学園の教員たちにはそのような事が起こらない様に通達しました」
「皇国でもそう言った事はあるのですね」
「それは20億以上もの人間が住んでいるのです、そういった可笑しな行動をする人間も出て来ますよ。それに当学園はひとりの正教員とふたりの補助教員のチーム制で授業を担当しています。これはそう言った事への予防策にもなります。たとえひとりの教員がズレた授業を考えても、残りふたりが止めれば済む事です。一応、教員たちは事業内容を決める際は、話し合いで教員全員が授業内容を把握し、納得したうえで授業をする様に徹底させています」
「そうなのですか、其れなら安心できそうですな」
「まぁ油断は禁物と言う事ですが、万が一にそんな事が起こったら‥‥‥どうなるでしょうね。総帥がどう判断するか‥‥‥ですが」
あ、これ怖い話になる。話を変えよう。
俺は親衛隊の影がちらついたので話を変える事にした。
「そ、それでは他に取り組みとかはあるのですか?」
「他にですか? そうですね‥‥‥特別授業なんかは如何でしょう」
「特別授業ですか?」
「はい、当校では学習指導要領で決められた通常の授業の他に、特別授業というのが週に1、2回あります」
「どのような事をするのでしょう」
「社会に出た時に経験するであろう様々なモノです」
「ざっくりとしていますね」
「すいません。例えば社会科という教科がありますよね」
「ええ、まぁ。地理とか歴史とかですね」
「他にも政治学や経済学、社会学に倫理学など人間社会を理解するための学問です。例えば当校では皇国の歴史よりもエレメストの歴史、地理も第4惑星よりエレメストの地理の方が時間を割いています。悲しいかな皇国には歴史も地理もエレメストには到底及びませんからね」
「まぁ確かに皇国は建国からまだ40年そこそこですし、人類が第4惑星に移住してからでも約100年と言った処ですか。100年と言えばまぁまぁ歴史があると言えますが、エレメストで人類が誕生して数百万年前と言われてますからそれに比べれば、と言った処ですか」
「そうですね、人類が文明を築いてからでも数千年は経っていますからな」
「で、歴史の授業を受けている訳では無いですよね? 話が見えないのですが‥‥‥」
「勿論です。所謂社会勉強ってやつですよ。例えば挨拶は日常生活で何気なく行っているものですが、そういった挨拶を始めとしたマナーなどを教えています」
「マナーですか?」
「ええ、社会に出て冠婚葬祭などに出たり様々な格式ある式典や会食や宴席などでのマナーがあります。知らないと恥を掻いたりしますから事前に調べたりするでしょう。ですが、そういった付け焼刃では上手くできるかと緊張して失敗する事もあります。そうならないための授業です。もしかしたら一生縁が無いかも知れませんが、憶えておいて損はないでしょう。そう言った諸々の事を特別授業で教えるのです」
「成程」
「他には法や犯罪についても授業をします。これについては別に法律を全部教える様な事は致しません。実際にすると可成りの時間が掛かりますからな。生きて行く中で特に重要な事柄を教え、法律というルールを理解して守る事の重要性を解くのです」
「成程」
社会勉強ね。通常の社会科の授業とは違う社会科の授業っと言う事か? う~ん、社会科の授業ではできない事を特別授業ですると言う事か。
「他にはどんな授業内容を?」
「そうですね。嗜好品が人体にどのような影響を及ぼすか、というのは如何でしょう」
「嗜好品? あゝ煙草とか酒類、お茶やコーヒーなんかもそうですよね。生きるためには必要ないが香りや味なんかで心理的に習慣性を‥‥‥って、まさか!」
「オルパーソンさんの想像通りです。皇国での嗜好品で教育しなければならないもの。そう、麻薬です」
「麻薬の教育!?」
「痛み止めとして医療用にマリファナを使いますが、皇国ではシガークラブで様々な薬物を嗜む事が出来ます。それらの危険性を毎年の様に授業で生徒たちに注意と警告をしています。その他にも酒類やたばこ類などもそれぞれ授業で取り扱っています。過剰なアルコールの摂取が人体に与える影響や、たばこの健康被害などです。それとは別に食品の中での健康に影響を与えるものも教えています。まぁ後者は一般的に食育と言われているものですな」
「成程。特に麻薬に関しては皇国ではエレメストで危険薬物として指定されている殆どが合法ですからね。噂には聞いてましたが、実際にシガークラブを取材した時には驚きました。要するにそれらの危険性を教えていると言う事ですね?」
「その通りです。あのような薬物を使用したらどのような結果になるか、それを教えるのも学園の重要な役目です」
やはり危険薬物が合法というのは皇国内の人々にも思う処があるのだろう。チョット話はズレるがこれについても聞いてみる事にしよう。せっかくだし、教育者としてレッジフィールドが危険薬物についてどう考えているのかを。
「その麻薬ですが、学園長代理はどのようにお考えですか? そもそも危険薬物が合法というのが危険薬物に関する授業をしなければならない一因では?」
「それについては‥‥‥」
レッジフィールドは、俺の質問を聞くなり急に腕を組んで考え込んでしまった。それだけ難しい問題と言う事か。
ただこれは聞いておいた方がいいと思う。幾らシガークラブの店舗内でしか使用が出来ないとはいえ、麻薬を取り扱うのは可なり危険な行為だ。麻薬の管理は法で厳しく定められ、店舗ごとに徹底されているとはいえ、それでも店舗外に持ち出される危険性はある。それを何かの拍子に子供が使用してしまったら目も当てられない。そう言ったリスクを皇国は抱えているのだ。それでも合法にした理由は何なのだろうか?
「麻薬の合法については第一に犯罪組織の資金を断つという名目です。我が国の麻薬はそれこそ非常に安い。オルパーソンさんはエレメストでの麻薬の値段をご存じで?」
「ええまぁ、調査した事はあります。例えばコカインなどは1gの末端価格は90ルヴァー~600ルヴァーでしょうか」
「コカインですか、コカインは原産地では安いのでは?」
「え~と、確か4ルヴァーだったはずです。1回の使用量は大体0、1gですから1回40ブロンと言った処ですか」
「皇国でも大体それ位の金額です。安いから高く売って儲けようとする犯罪組織にとっては皇国は儲けにならない。だから麻薬の密売と言うものは皇国には無いのですよ」
麻薬による事件は無いとレッジフィールドは断言したが、本当だろうか? 以前シガークラブ「R&J」店長のロメオ・エフェリタに聞いたのだが、未成年や中毒患者はシガークラブを利用する事が出来ないそうだ。そのため彼らを狙って麻薬の密売はあるかもしれないと言っていた。彼らになら多少吹っ掛けても買ってくれるだろうしな。この国は入国の時に荷物検査をしないから持ち込むのは簡単だろう。ただ防犯意識が高い皇国で麻薬を密売するなど結構なリスクだ。でも方法が無い訳ではないはずだ。俺は思い浮かばないが、そう言った事を考え出す奴は何処にでもいる。
「確かにそうかもしれませんが、其の為に皇国民の健康や生命に重大な悪影響をもたらす麻薬を合法にするのはチョット‥‥‥」
「だから麻薬に対する認識を持つための授業があるのです。これは当学園だけではなく全ての学校で実施されています。序に飲酒喫煙についても授業をしています。食育に関しては学校によって様々です」
「そうですか‥‥‥」
この話は一旦ここで終わりとしよう。今回の目的はあくまでミシャンドラ学園の取材であって麻薬の合法の是非を議論する事ではない。話がズレてしまったようなので、一旦仕切り直すとしよう。
「すいません。話が逸れてしまいましたね」
「いえいえ、麻薬の合法については皇国議会でも度々議論されていましてな。皇国でも賛否分かれているのです。抑々合法にしたのはサロス陛下ですからね」
「あゝ其れは知っています。それに噂では‥‥‥」
するとレッジフィールドが手を出して俺の言葉を遮る。俺が何を言おうとしていたのかを察しての事だろう。噂の域を出ない話だが、サロス帝自らが麻薬中毒者だったからこんな法律が出来たと噂されている。あくまで噂ではあるが、皇国にとってはタブーとされているだろう。ただ俺としてはそうなんじゃないかと思っている。だってあのサロスだぜ。幽閉時代に侍女を強姦して彼女の彼氏に殺されそうになった。
「特別授業は他にも道徳や宗教観、労働や企業、株や投資、戦争と平和、心理学や性教育なんかもありますね。兎に角、色々ですよ。社会に出て『こんなの学校で習ってないよ』なんて言い訳をさせないための授業、それが特別授業です」
「成程そう言う事ですか」
「あゝそう言えば、面白い授業に嘘と裏切りを教える授業がありましたね」
「嘘と裏切りを教える!?」
余りにインパクトに思わず立ち上がって叫んでしまった。レッジフィールドも俺が行き成り大声を出して立ち上がったので驚いた顔になっている。
驚かせてすまないとは思うが、嘘と裏切りを教えるってどういう事なんだ?
「う、嘘と裏切りですか‥‥‥」
「落ち着かれましたかな、そうです人間は嘘をつく動物です。勿論生物の中には擬態など相手を騙す生物はいますが人間のそれはもっと高度なモノです。それによく裏切ります。それを理解させる授業です」
「もうちょっと詳しく聞かせてもらえますか?」
「詳しくですか? そんな難しい事ではありませんよ。噓や裏切りのメリットデメリット、何故人は嘘を付き裏切るのか、嘘で人を騙す方法に嘘を見破る方法、裏切りを防ぐ方法などですよ」
嘘を付いて裏切る方法? オイオイ詐欺師でも作るつもりか? とんでもねぇ学園だ。まぁ其れを見破る方法も教えるみたいだけど‥‥‥。
でもやはり嘘や裏切りを教えるというのは抵抗がある。と俺が思っている事を見抜いたのか、レッジフィールドはその授業の意図を話し始める。
「例えば自分を大きく見せようとする人間は、嘘をつきますよね」
「まぁ実際は大きな人間じゃありませんからね。盛ったりして大きく見せるだけです」
「だがそれが分かったとしても、嘘を付かれた人にとっては何も関係ないのです。だからその嘘を見破ろうとは思わない。そう言う時は嘘を付いた側は嘘を付きとおせるという訳です」
「う~んと~、ですが嘘を付かれた方は嘘だと知ったら怒るのでは?」
「そうですか、何か不都合な事がありますか?」
「え、イヤ騙されて腹が立つとか、信用したのに裏切られたとか?」
「確かに聞いていた事と違いますが、ただ其れだけです。騙された方にデメリットは無いのです。相手が大きいか小さいなど自分にとって一切関係ない事です。それによって自分が大物になる訳でも小物になる訳でも無いのですから、目の前の相手が小物なのに大物ぶって、それがバレたらただ大物から小物に戻るだけです。勝手に相手の立場が変化しただけで自分自身には何も関係ありません。もし騙されたと思うのは、相手によって自分が変わると思い込んでいる証拠です。何も変わりませんよ。変わるとすれば、相手の行動や言葉によって感化され、自分自身が行動した結果で変われただけです。その切っ掛けを与えてくれた事に感謝するだけです。結局は自分の行動なのです。これこそ自分のためですよ」
「成程、嘘を付かれて怒るのは自分の行動に原因があると」
「そうです、相手が大物か小物かは関係ありません。全ては自己中心に考えるのです。自分がこの人物と付き合いたいと思えば付き合い、付き合いたくないと思えば付き合わなくてもよい、それを決めるのは自分自身です。嘘で一喜一憂するのは、それだけ自分を持っていないと言う事です。自分を知るという意味でも嘘を教えるという授業を行こなっております」
「成程‥‥‥」
「それに裏切りも同様です。自身の立場や利益や心情、それらを鑑みて自分が苦しんでまで他人に忠誠を誓う必要は無いのです。そして裏切られたくないなら相手の事をしっかり理解し、裏切られないようにしなければなりません。ただ『裏切るな!』と頭ごなしに言っても効果はない。必要とあらば人は裏切ってしまうのです」
「成程‥‥‥」
「まぁ今のは単なる一例です。他にも色々あります。特に特別授業は授業内容によっては、幼年部から毎年行うものから中等部や高等部から始めるものもあります」
「相当力を入れているのが分かります」
「当然です。当学園の生徒は親の居ない子供たちです。卒業したら寮を離れて一人暮らしをしなければならない」
「確かにそうなりますね。頼れる親が居ないのですから」
「まぁ中には気の置けない友人と部屋をシェアして暮らしている子たちもいます。他にも恋人同士で同棲したりもしています」
「ふぇへぇ!? ど、同棲!?」
俺が行き成り奇声を上げたので、レッジフィールドは再び驚いた顔をする。
「ど、如何されました!?」
「あ、い、いえ、何でも‥‥‥」
同棲と聞いて衝撃を受けてしまった。まさか高卒で同棲とは。ムムム‥‥‥俺だって彼女と同棲始めたのは26歳過ぎてからだぞ! 結局別れたし‥‥‥許せん!
俺は次から次へと頭に浮かぶ同棲を始めたばかりの甘い生活が蘇り、そして地獄に突き落とされるような別れのシーンを思い起こして絶望する。
「あ、あの‥‥‥大丈夫ですか?」
意気消沈する俺をレッジフィールドが気遣ってくれた。優しひとだ学園長代理! (´Д⊂グスン
「い、いえ‥‥‥お気遣いなく」
「そうですか?」
まぁ高卒同棲の件は置いといてだ。レッジフィールドの話を聞いて、この学園が子供たちに良い教育環境を築いているのは分かる。親の居な子供や虐待を受けた子供が暮らすのがこのミシャンドラ学園である。そう言った意味では、彼らは恵まれていると言っていいだろう。なんたって彼らを保護しているのは皇国の最高権力者なのだから。
但し、俺はまだこの学園を100%信頼している訳ではない。なんたって毎年親の居ない子供を人工的に1万人も作っている国だからな。なんだってこんな事をしているのだろうか? 多くの子供を確保するため? それは一体何のためか。少子化対策とは言っていたが‥‥‥本当にそれだけだろうか? 最近では片親の子供や家出した子供まで学園に迎え入れていると聞く。
う~ん、謎だ。ただの慈善事業か? ネクロベルガーはこの学園の維持に毎年数十億ルヴァー、場合によっては100億ルヴァーを超える資金援助をていると聞く。そこまでして何がしたいんだ? これもH計画の一環なのだろうか?
俺が難しい顔で考えているのを、レッジフィールドが訝しげな顔で見ている事に気付いた俺は愛想笑いをする。
いかんいかん、それらは後で考察する事にして今は学園長代理様の話に集中しよう。
「何か考え事ですか?」
「いえいえ何でもありません。話を続けてください」
「それでは‥‥‥あ~と~‥‥‥。ハイ、要するに彼らが一人で暮らせるように特別授業があるのです。それと同じ位に重要なのがクラブ活動です」
「そう言えばかなりの数のクラブがあると言ってましたね」
「ええ、理事長代理の私でも実際のクラブ数は分かりません」
「そんなにですか?」
「というのも、生徒たちが何かやりたい事を見つけたらそれに関連したクラブが出来てしまうのです。そしてそれらは事後報告でして、まぁ要するにクラブ活動費が必要になったら報告すると言った感じでしょうか」
「え、そうなんですか? それじゃあ予算が要らないって部活は学園側が把握していないと?」
「そうなりますね。だから私も全クラブを把握していないのです」
「そうなのですか、それじゃあ‥‥‥」
さらにクラブに付いてレッジフィールドから話しを聞こうとした時、何やら部屋の外の廊下が騒がしくなる。如何やら今日の全ての授業が終わった様だ。
「授業が終わったようですな、其れではクラブ活動を見て観ますか。話の続きはその都度お伺いいたします」
「分かりました。では行きましょう」
俺とレッジフィールドはソファー椅子から立ち上がり、クラブ活動を見学するために学園長代理室を後にした。