怠惰に創作

細々と小説の様なものを創作しています。設定など思い付いたように変更しますので、ご容赦ください。

H計画とミシャンドラ学園 FILE5

第1102研究所での「H計画」の取材を終えた俺は、クリミヨシ博士のご厚意に甘えて予約してもらったホテルで一夜を明かす。

一応ホテルに着いた時に、事の経緯をクエスにメールはしておいた。流石に取材と言う事で彼奴からも許可は貰ったし、このホテルの料金は既に博士が支払っているので、シェルクさんからも許可が下りている。

ま、食事代は自腹だけどな。

博士が取ってくれたホテルは寝泊まりが出来る程度の簡易的なもので、食事は出る筈も無く、近くの飲食店に行かなければならない。そう言う訳でホテルの近くには色々な飲食店やサービス店が軒並み揃っているので探す苦労はない。ただ、一応ここは学園の敷地内の筈なのだが、明らかに風俗店も混じっていて、そういった意味では「大丈夫なのか?」と心配させる場所でもある。

という訳で、俺は明日の取材に備えて早く休む事にする。

本当だったら盛り場に繰り出したいんだぜ俺だって、でもよ、先行くモノが無ければこの世は人に厳しい世界なのさ。ま、要するに金が無いから出歩けないって事だ。本当に寂しい限りだ。クエスの野郎はケチだ! 取材費ケチりやがって、大ケチだ! と言いながら別の誰かさんの顔を思い浮かべつつ、俺は明日に備えて眠る事にした。明日の朝が早いのは間違いないしな。

 

「あ~あ、風俗か‥‥‥耐えろ俺!」

 

俺は健全な反応を抑えつつ、無理やり目を閉じて眠りについた。

 

やっぱり眠れねぇ‥‥‥。

 

 

☆彡

 

 

翌朝、俺は寝不足気味の身体を叱咤し、早くにホテルをチェックアウトした。

今日の予定としては、まずH計画で生まれた子供たちが集まる「保育センター」に向かう事にした。

保育センターはミシャンドラ学園の敷地内にある施設で、そこに第1102研究所で生まれたエッグの子供たちが送られる。そこで6歳になるまで育てられているた後、ミシャンドラ学園に入学する流れになる。

ゲーディア皇国では、学校の年度始まりが1月下旬頃で、終わりは12月上旬から中旬頃となっている。書類上の入学である1月1日までに6歳になっていて、1月1日~12月31日までに7歳の誕生日を迎える子供が新入生となるのだ。

要するに保育センターはミシャンドラ学園への入学年齢になるまでの間の子供たちの生活の場と言う訳だな。

センターに着くと案内の人がもう待っていた。まったく連絡はしていなかったのだが、何でこの時間に来ることが分かったのか不思議である。

とまぁ、そう言った詮索は後にして、取材に集中する事にしよう。

案内をしてくれるのは、今日取材を許可された一部屋の保育室長の女性である。優しい笑顔が素敵なおば‥‥‥女性の方だ。

保育室長を見ていると俺のお袋を思い出す。まぁ、赤ん坊を相手にするにはそういった母性溢れる女性が適任と言う事だな。

聞くところによると保育室長には4人のお子さんがいて、既に全員が成人されているそうだ。前々から保育室長になる様に打診されていたのだが断って居たそうで、子供たちが皆成人した事を機に保育室長の職を受ける事にしたそうだ。見るからに子育てのプロって感じだな。

因みに保育室長の4人のお子さんは息子が3人の娘が1人で、娘さんに関しては彼女と同じく此処で保育士として働いているそうだ。

さて、俺は保育室長の案内で保育センタを中を見学させてもらった。保育センターは10の建物が集まって構成された施設である。なんせ毎年1万人の子供たちが来て6歳になるまで育てられているのだ。10ある施設の建物に其々1000人の子供たちが振り分けられて育てられ、各年齢によって部屋が分かれている。

その内部だが、まず1階は0歳児と保育士や事務員の事務所や食堂などの職員専用の階になっている。2階から上が子供たちの部屋なのだが、緊急時に素早く駆け付けられる様に保育士などの職員の控室もある。その他には各部屋の子供たちに遊ぶ大部屋や食事をする部屋など様々な部屋もあり、ひとつのフロアがとても広い施設になっている。

1歳児が2階、2歳児が3階、3歳児が4階と続いて行く。4歳児からは部屋が階を跨いでいる。何故そうなるのかというと、其々の年齢に合った部屋にするためなのだそうだ。0歳児から6歳児でずっと同じ部屋を使う訳には行かないと言う訳だ。抑々0歳児の部屋は赤ん坊が睡眠のために使う部屋で、大きな部屋に1000ものベビーベッドが備え付けられているだけなので、とても成長した子供たちが使うには狭すぎる。そのため他の階に其々の年齢に適した部屋割がなされている。4歳児にもなればある程度の広さの部屋が必要になるため、階を跨ぐ事になる訳だ。因みに5歳と6歳児の部屋も4歳児の部屋と変わらない広さなので、そこからはミシャンドラ学園に入学して空いた階の部屋に、次の子供が入るシステムになっているそうだ。

続いてこの施設の職員についてだ。

保育センターのひとつに建物に子供が約6千人居るのだが、それに劣らず職員の人数も多い。職員は子供を育てる保育士の他に事務方を務める事務員や技術員がいる。事務員や技術員の人数は少数だが、保育士の人数が全体の大部分を占めている。当然と言えば当然だが、その人数は1000~1500名ほどいて、保育士一人当たり5~7人の子供を見る計算になる。結構大変そうだが、各部屋には一般家庭の住居と同じ様にハウスキーパーが備わっているし、育児ロボットもいるため手は足りているそうだ。

次にその保育士だが、保育士には正規保育士と準保育士の二通りいて、正規保育士は当然だが正社員で、準保育士は所謂アルバイトという扱いになっている。正規保育士と準保育士の人数の比率は4対6で準保育士の方が多く、さらに男女比で言うと正規保育士が8対2で圧倒的に女性が多いのだが、準保育士はほんの僅か女性の方が多いだけで、ほぼ男女とも同じ人数である。これは準保育士になった人たちの多くが結婚して子育てをする時のための予行練習として夫婦で働く事が多く、男女の比率が同じになる理由らしい。しかも、男性の中にはパートナーの妊娠を機に、短期バイトで入っている男性が結構いるのだそうだ。要するにパートナーが出産したら此処を辞めて奥さんの子育てを手伝うと言う事だな。

しかし、そんな事をしたら本業の方は如何するのだと疑問に思って質問したら、長期の育児休暇を取って此処で働いているのだと言う。要するに奥さんの妊娠が分かった日から育児休暇を取り、出産するまで此処でバイトをすると言う事だ。出産すればここでの経験をもとに育児の手伝いが出来ると言う事らしい。

皇国の男って子育てに前向きなんだなと思う。勿論エレメストでも子育ては夫婦で力を合わせるが、なんだか最近は強迫観念めいたものを感じる。共に働き、共に家事をし、共に子を育てる。男女平等が根付いている。嘗ては男が外で働き、女が家事をする分業制だったらしいが、今やすべて男女で均等にと言う事だ。正に平等という訳だ。極端な話になるが、家事をしない男はダメ人間で、就職できない女性もダメ人間、そんな風潮がある。多分そのせいだろう。いやそれだけでは無いのかもしれないが、年々結婚するカップルが減って来ている。しかも、結婚しても子供を作らない夫婦もいるそうで、それが此処最近の出生率に低下に繋がっている。と、何かの記事で読んだよ。

まぁ、その記事を書いた人物の言い分は、そんなに男女平等と言って同じ仕事をするのではなく、夫婦で話し合ってそれぞれが得意な事を担当すれば良いと言いたかったのだろう。夫婦生活を長続きさせるには、お互いの負担を均等にする事が肝心だと言っていた。もちろんこれは同じ仕事を均等に分けると言うのではない。それに人には得手不得手と言うものがある。不慣れな夫に家事を手伝わせて大惨事になってしまい、妻が大激怒と言う話はよく聞くが、著者から言わせれば、夫に不慣れな家事を任せた妻にも責任があると言っている。出来ない事をやらせて出来る訳が無いと言う訳だ。そうならないためにも夫婦で話し合って分担するべきだと言うのだ。

しかし、これを変な意味に採った奴らがいて、「結婚すると大変だ。自由にひとりで暮らす方が良い」と解釈して(何処をどう読んだらそうなるんだ?)エレメストでは結婚率も出生率も低下の一途をたどっている。何とも上手く行かないモノである。

他には、人間は経済的に豊かになると子供を余り作らなくなり、貧しいと子沢山であると言っている者もいる。今やエレメストの殆どの人間が(皇国も同じだが)経済的に豊かであり、それが結婚・出生率の低下の原因だとも言われている。

ま、出生率の減少の原因については専門家に任せるとして、エレメストでは結婚・出生率の低下止めようと、あの手この手と悪戦苦闘しているが、皇国では人工的に子供を作る事で解決しようとしている。序に人種も統一して、である。

俺としてはやはり人工的に子供を作るなんて‥‥‥やめよう。此処で答えを出すのが今日の目的ではない。

俺は保育センターの取材を終え、昼食を取るためレストランに向かった。朝食から夜になるまで何も食べれなかった昨日の轍を踏まないためだ。

 

「さてと、午後からはミシャンドラ学園か‥‥‥一体何が待ち受けているのやら」

 

俺は午後からのミシャンドラ学園の取材に期待と不安を持ちながら、レストラン探しに向かう。

何食べよっかな~♬

ミシャンドラ学園は、ゲーディア皇国の首都であるミシャンドラ・シティ地下3階層の7割もの土地を保有している学園である。

この学園の設立は皇国第3代皇帝サロスが親政を始めて1年後の事である。元々この土地は科学技術の発展を国の重要事項としていた初代皇帝ウルギアが、今の皇立科学研究所の土地として様々な実験施設を立てたのが始まりとされる。しかし、ウルギア帝が崩御した後、徐々に科学技術研究所の予算は削減され、研究がストップするなどの様々な理由から、使われなくなった建物がまるでゴーストタウンのように残ってしまったらしい。誰も使わない施設が密集したこの地域に目を付けたサロス帝である。そしてその空いた施設を再利用してできたのが、ミシャンドラ学園と言う訳だ。

まぁ、俺はこれがサロス帝の業績とは思ってないがな。彼奴は阿保だ。下半身の化け物だ。放蕩の限りを尽くしてウルギア帝に勘当されて離宮に幽閉された馬鹿皇子だ。なんせ皇帝に即位したという発表がなされた際には、殆どの国民から不安がられ、受け入れられなかったと言うのは有名な話だ。だが皇帝になり、彼を操っていた軍事政権が崩壊して親政を行うと、思ったほど悪くなかった事で初期の頃は国民からも受け入れられている。しかし徐々に本性が露となり、後半には誰もが恐れる独裁者、「狂皇」になって暗殺の憂き目に遭っている。

ただこの時期の公式には「サロス帝は父帝に離宮に幽閉された事で改心し、自ら帝王学を学び、国政に強い関心を持った」事になっている。が、実際は以前も話した通り離宮で仕えていた若い侍女をピーしてピーさせてしまったために、侍女のフィアンセに離宮に乗り込まれて殺されそうになったのだ。とても改心したとは思えない。だが表向きは改心して国政に励む賢帝とヴァサーゴ公やネクロベルガーによって喧伝され、実像を大きく捻じ曲げられいる。

さて、サロス帝の振り返りはこれ位にして、今日はお待ちかねミシャンドラ学園の内部に潜入‥‥‥じゃなかった取材に行く。

 

「初めまして、今日学園を案内いたします。学園長代理のカレル・レッジフォードと申します」

「ああどうも、ジャーナリストのブレイズ・オルパーソンです」

 

俺は学園長代理のレッジフォードとの軽い挨拶をする。学園長代理は物腰の柔らかい人で、見た目は笑顔の優しいおじさんと言った感じだ。5、60代と言った処だろう。

 

「いや~、まさか取材の依頼が来るとは思ってもいませんでしたよ。しかも連絡を受けた次の日だなんて、アハハハ、普通だったらもっと前にアポを取りますよね」

「え、あ、す、すいません‥‥‥」

「クリミヨシ博士から連絡を受けた時には、『えっ! 明日?』と思わず口に出してしまいましたよ。あの人は強引だ」

「え、あ、はい。すいません‥‥‥」

 

優しい笑顔と物腰とは裏腹に、レッジフォードの今回の取材に対する言葉の端々には棘があり、俺は申し訳なく只々謝る事しか出来ない。やはりこんな唐突な依頼は無いだろう。只々申し訳ないと思うだけだ。いい訳をすると今回の取材はクリミヨシ博士の提案であって、俺個人の考えではないのだが、何故かそんなこと言えない雰囲気と言うかそもそも俺もこの学園の取材はしたいと思っていたから飛び付いてしまった訳で、言い訳出来ないと思っている。

とは言え、此処で学園長代理の嫌味を延々と聞いている訳にも行かないので、早速だが取材に取り掛からせてもらう。

 

「で、では、取材の件を‥‥‥」

「あゝそうですな、では参りましょうと言いたいのですが‥‥‥」

「はい?」

「如何いった場所をご見学したいのですかな? 当学園は見た通り広いですからな、1日で全部を見て回ることは難しいでしょう。何か目的は御ありですか?」

「え、ああ‥‥‥学園側の提示したので構わないのですが‥‥‥」

「そうしたいのはやまやまですが、なんせ昨日の今日の事ですからな‥‥‥」

「ええああ、何かすいません」

 

確かに昨日の今日では学園側もなにも用意する事が出来ないだろう。そういう意味では見せたいものを見せ、隠したいものを隠す事は出来ないから有りのままの学園の姿を見る事が出来る。いい様に解釈するとそうなる。

さて如何したものか‥‥‥。

 

「そう言えば学園長『代理』と言いましたね。学園長にはお会い出来ないのですか?」

「あゝ学園長はいませんよ」

「どちらかにお出かけとか‥‥‥」

「いえいえ、あの御方は入学式と卒業式の時にだけしかこの学園にいらっしゃらないのですよ」

「入学式と卒業式だけ!?」

「ええ、お忙しい方ですから。それにあの御方の代理と言われるのは私だけでなく色々な省庁に居ます」

 

うん? 色々な省庁に代理がいる? あれ、そんな話何処かで聞いた様な‥‥‥って言う事は、もしかしてこの学園の学園長ってまさか‥‥‥。

 

「が、学園長のお名前は‥‥‥」

「え、ネクロベルガー総帥閣下ですが‥‥‥ご存じなかったのですか?」

「え、あ、す、すいません、ご存じなかったです。ですが総帥は此処の運営資金の出資者だったと思うんだすが」

「まぁ、そうですな。総帥閣下は当学園をサロス帝に提案した創設者であり、皇帝陛下が暗‥‥‥ご崩御されて公費が打ち切られた後の学園の運営資金の出資者となっています。今この学園が存続で来ているのも総帥閣下の資金力のお陰と言う事になりますな。ですのであの御方は当校の学園長と理事長を兼任していると言っていいでしょう。ですが、総帥閣下が学園の業務を熟すには‥‥‥」

「まぁ無理ですよね」

「その通りです。ですから私の様な代理がいます。あの御方は軍の最高司令官としての職務がありありますし、摂政として行政にも携わっています。とても兼任した各省庁の長の任を熟す事は出来ないでしょう」

「確かに異常なくらい兼任してますよね。素人目には代理を置く位なら兼任しなければ良いと思っています」

「あれほど兼任する事になったのは、サロス帝の総帥閣下のへ信頼の証と言いましょうか、総帥閣下に兼任して貰えば何とかなると考えていたようでして‥‥‥」

「あの異常なまでの兼任はサロス帝による信頼の証であると?」

「だと思いますな」

 

レッジフォード代理の話では、サロスは不祥事を犯した省庁の大臣や長官を更迭した際の後任に、やたらとネクロベルガーを指名したらしい。それだけサロスのネクロベルガーへの信頼は大きいと言うか、ただ単に彼しか信じられる人物がいなかったと言っていいかもしれない。そう言った意味ではサロスにも一定の同情する余地も生まれる。しかし、当然身一つしかないネクロベルガーがこれ程の職務を全うすることは不可能で、本人も困っていた様だ。大体任命されると一度は辞退していようで、そうなると必ずサロスが「皇帝命令」という伝家の宝刀を振りかざして半ば強制に付かせたようだ。そうなればネクロベルガーも辞退する事は出来ず受けざる負えなくなり、結果的に多くの役職を兼任する事になったのだ。

しかし、もちろん彼が全ての仕事を熟せるわけがない。そこでその対策としてネクロベルガーが取ったのが、自らが選んだ人物を代理・代行として各省庁のに派遣したのだ。そのため皇国政府内には代理とか代行と言った肩書の者が結構いる。それは裏を返せば代理・代行がいる部署は、そのトップがネクロベルガーである事の証明と言えるのである。

そう言った意味では、近衛軍長官の兼任を断れたのは稀なケースだ。ただこれには訳がある。元々近衛軍長官は4大公の一族が務める事の出来る地位であったのを、サロスがゴリ押しでネクロベルガーに就任させたと言う事情があったため、それを盾に辞退できたのかもしれない。

そうなると、サロスが暗殺されて自由になった今なら、全てを辞退して代理・代行達を正式に大臣や長官などに任命すればいいのに何故そうしないのか? やはりトップとしての権力に取りつかれているのか? それとも何か他に理由があるのか? うーん分からないな。まぁ今はそれは置いておこう。

 

「つかぬ事を聞きますが、ネクロベルガー総師が学園長を辞退して貴方を正式な学園長に任命するとかは無いんですか?」

「そんな恐れ多い事を‥‥‥。確かにそれでもいいのですが、我々代理の者達は総帥閣下に認められたと言う事でこの地位に誇りを持っています。我々にとって最も危惧すべきは総帥閣下の期待を裏切り失望させる事であって、正式か代行かなどと言う些細な事は気にしないのですよ。現に我々はほぼそのすべての業務を自身の裁量で行っております。それで良いのですよ」

「な、成程‥‥‥」

 

さらにレッジフォードは、自分がネクロベルガーから才能御認められ、高い信頼を得ている事を自慢を交えて力説する。俺はそれを愛想笑いを浮かべながら聞き流しつつミシャンドラ学園の本館へと案内される。本館と言うのは学校施設の中の中心となる建物の事で、そこから幼年部、初等部、中等部、高等部の4校舎に繋がっている場所だ。玄関口の建物と言ったらいいのかな?

因みにこの本館には主に職員室や校舎長室、保健室や食堂などがある。そのため本館自体はかなり大きい。

 

「おお、広いですね」

「まぁ皇国1の巨大校ですからな」

 

ミシャンドラ学園校舎本館入り口は只々広いとしか表現できない、語彙力を無くすような大きさだった。入り口は広く天井も高い。通常の学校の2、3倍。イヤ、それ以上はあろうかという広さだ。玄関に入っただけで圧倒されてしまった。

 

「処で何を見学されますか?」

 

俺が広い玄関に圧倒されている横で、レッジフォードが声を掛けて来る。そうだった、俺は学園の取材に来ているのだ。こんな所で燥いしまって少し恥ずかしくなる。

 

「そ、そうですね。まずは学校の‥‥‥授業風景などを見たいですね」

「まぁ、そうなりますか‥‥‥」

 

俺の要望を聞いてレッジフォード代理は少し考え込む。まさかここで無理とは言わないだろうが、何故考え込む必要があるのか少し不安である。

 

「わかりました。では高等部の授業を観ますか」

「お願いします」

 

そう言うとレッジフォード代理は高等部校舎のある通路に歩みを進める。如何やら考え込んだのは、どの校舎の授業風景を見せるかと言う事だったらしい。変に勘ぐってしまいイヤな汗が出てしまった。

高等部校舎は、まぁ広くて高い校舎である。外観からもその高さが目立ち、校舎と言うより高層マンションというと言い過ぎだが、6階建ての校舎で1、2階に1年生、3、4階に2年生、5、6階に3年生の教室がある。しかも、その教室は廊下を挟んで左右のあり、1クラス50人の教室が片側10の計20教室あるのだ。それが2階に跨ってあるため全部で40クラスあり、1学年の生徒の人数は2000人と言う事になる。これは幼年部から高等部ですべて同じなので、この校舎全ての生徒の人数は2万4千人と言う事になる。

なかなかの人数だ。俺の通っていた高校の全校生徒の4倍以上はいる。所謂マンモス校ってやつだな。だが、それでもある疑問が残る。そうH計画で毎年ここに送られる新入学生の人数は1万人もいるのだ。1学年に1万人だとすると、1学年2千人のこの校舎では全く合わない。さらに元々ここは親の居ない子供たちを受け入れる学校なので、そういった子供たちも入学するはずだから1万人以上と言ってよいだろう。それらを受け入れるには不十分である。と言う事は、他にも此処と同じような学校施設があると言う事だ。

 

「生徒数から考えると此処の収容人数は足りていませんね。他にも似たような校舎があるのですか?」

「ええありますよ。此処は最初に改装して出来た第1校舎です。他に5校舎、第6校舎までありますな」

「6校舎も‥‥‥」

「いえいえ、今第7校舎の改装中です」

「そうなんですか? でも改装中とは? 建築じゃなくて?」

「此処に有る建物はすべて元科学研究所の使われなかった施設や破棄された施設を改装して校舎なりにしているのです」

「あゝそう言えばそうでしたね。ウルギア帝が科学技術を重視したため第3階層一帯は科学技術の研究のための施設が乱立していたとか、それを改装して校舎にしたと」

「そう言う事です。校舎だけでは無く学生の寮やレストランやホテル、各種店舗も元々はそういった施設を改装してできたものです」

「成程」

「あまり変わり映えしない同じ作りの建物が多いので、それが良かったと思います」

「良かったとは?」

「校舎の形がみな同じって事です」

「あゝそう言う事ですか」

 

レッジフィールド代理によると、この第1校舎は学園敷地内のほぼ真ん中に位置する校舎で、他の校舎は学園敷地の端の方にあるのだそうだ。校舎の場所を分散する事で、その周辺に寮を作って生徒に移動のストレスを無くすためだそうだ。学園はかなり広いので、そういった方法は必要だろう。

 

「それでは1年の1組の教室を観ますか?」

「あゝお願いします」

 

俺は入り口から最も近い1年1組の教室の事業風景を見る事にした。