怠惰に創作

細々と小説の様なものを創作しています。設定など思い付いたように変更しますので、ご容赦ください。

H計画とミシャンドラ学園 FILE4

クリミヨシ博士は何の躊躇も無くH計画について語りだした。一応公けになっているから大丈夫なんだろうけど、あのエッグと言う人工子宮なる機械を見てしまうと本当に公けなのかと疑問に思う。しかも今語っているクリミヨシ博士は、友人だったオームズ博士からその設計図を盗んだのだ。それでも博士は物怖じする様子も無く、H計画について語ってくれた。その態度にチョットした違和感と言うか不安を感じるのだが。俺もジャーナリストの端くれとして、聞けることは聞いておこうと博士の話に耳を傾ける。

クリミヨシ博士の話は長く時より脱線が多かったので、H計画の始まりから今に至るまでの経緯を俺なりに簡単に解説する。

計画が始まる前のクリミヨシ博士は、生命学の科学者としてミシャンドラ・シティ地下3階層区の科学研究所の研究員の一人にすぎなかった。そんな博士がH計画の主任になれたのは、人口子宮「エッグ」の設計図を持っていた事と、彼が皇国に亡命した際、既にH計画の草案とも言える計画を時の皇帝ウルギアに提言していたからでもあった。

1科学者に過ぎないクリミヨシ博士が、ウルギア帝に謁見出来た事を不思議に思うかもしれないが、当時の皇国が科学技術の発展を重視する国策を取っていた事もあり、新しい研究や計画があれば皇帝に謁見して説明する場が設けられていたそうだ。

例を挙げると、4年戦争末期に皇国で開発された通信障害やレーダー妨害を引き起こす「ジャミングシステム」や、ビーム兵器を無力化する「アンチ・ビーム・パウダー」などはこの科学研究所で作られたものであり、この時も開発者はウルギア帝同席で説明会を行っている。

当然博士も自らの理想である「全ての人種をひとつにする」計画を実行に移すため、人工授精と人工子宮を用いて多数の人種・民族を掛け合わせ、人類から人種という壁を無くす。と、皇帝に熱弁したらしいのだが、結果から言うとウルギア帝からは却下されてしまったそうだ。

却下された理由は「余りにも突拍子も無い計画」だからだそうだ。確かに人工授精と人工子宮を使ってエレメストの人間を単一人種にすると聞いて「よし、やろう」とは思わないだろう。

確かに人種や民族、果ては性別などで人は人を差別する。その事で争いが起き戦争にもなっている事は歴史が証明している。が、だからと言って強制的に他人種を掛け合わせると言うのは、チョット乱暴すぎると思われたのかもしれない。仮にそれが良い事だとしても、それを機械で人工的に作り出そうというのは倫理的にどうなのか? と、ウルギア帝が感じたとしても不思議ではない。

とは言え、計画を却下された博士は失意のどん底に落とされた。一時は自殺も考え、持っていエッグの設計図も破棄しようと思ったほどだ。だが、時が経てば自身の研究を受け入れられる時が来るかもしれないと、科学研究所で働く傍ら希望を胸にその日が来るのを待っていたそうだ。

そんな博士に転機が訪れたのが、亡命から25年経った宇宙暦179年の事である。

この年はあの内部抗争に明け暮れていた軍事政権が瓦解した年であり、サロス帝が親政を布いた年でもある。

サロスは過去に博士が父帝に提言した上申書に目を通し(本当にサロス自身が目を通したかは分からないが)た事で計画に興味を持ち、博士に計画を実行に移すよう指示を下した。と、言う事の様だ。

当然ながらサロスはエッグの設計図を博士が盗んだことも承知していたみたいで、それに関しては「断罪する者が居なけらば罪ではない」と言い切ったそうだ。要するに設計図の元々の持ち主であるオームズ博士は既に亡く、さらにその設計図の存在を知っているのはクリミヨシ博士以外存在しないので、設計図の窃盗で博士を訴える者は居ないと同じなので、サロス自身もその事については追及しないと言う事だ。それよりも計画を実行しろって事だな。

勿論その言葉はサロスから直接聞いたのではなく、科学研究所に来た皇帝の使者から皇帝陛下の御言葉として聞いただけである。この頃になると、嘗てのウルギア帝の時代ほど科学技術を重視する事は無くなり、科学者が自身の研究を皇帝の前で説明する場も無くなっていて、その後も博士自身がサロス帝に直接会う事は一度もなかったそうだ。

まぁ、博士が皇帝に合えなかったのは、サロスが後宮に入り浸っていたのが理由だが、博士は皇帝を神格化させるためにそうしたのだと思っている様だ。

う~ん、一理あるが、本当のこと知ったらこの人はどう思うのだろうか? 言わないけどね。

こうなると本当にサロスが計画実行を指示したのか怪しくもある。が、今はそう言った事を詮索する時ではないのだが、頭の中ではあの人物がチラついている。

話を戻す事にして、思いがけない皇帝からの申し出に博士は歓喜した。それはそうだろう、亡命してから25年も経っていたのだから。ただ、それだけ待っていた事もあって最初に皇帝の使者から計画を進めて欲しいと言われた時は、夢か現実かと困惑して実感が湧いてこなかったそうだ。

それでも計画が着々と進むにつれてその実感が湧いて来て、完成したエッグの実物を目にしたときには、嬉しさを爆発させて子供のように燥いでしまったと、博士は少し顔を赤くした語ってくれた。しかも一頻り燥いだ後に、感極まって泣いてしまったらしく、同席していた他の研究員や関係者からはドン引きされたとも語っている。

此処までがH計画が始まるまでの経緯で、次は実際に計画を進めた内容になっている。

まず最初に設計図によって作成されたエッグは「プロトエッグ」と呼称され、3基が製造された。エッグの完成と共に、早速予め用意しておいた胚をエッグ内で培養する試験が行われた。これは受精し培養した胚を子宮へ戻す一般的な体外受精やり方と違いはない。もう何世紀も前から行っている不妊治療の一環だ。ただ今回はそれを機械で出来た鉄の子宮で行うと言う違いがある。

因みに最初に用意した胚は、研究所で働く研究員の男女の中から無作為に選ばれたそうだ。無作為と言っても博士の意向通り人種の違う男女が選ばれている。

試験培養はクリミヨシ博士も不安だった様で、エッグのある培養室に引き籠って様子を見ていたそうだ。博士自身、設計図は持ってはいたがエッグで実際に胚が培養されて胎子になり、子供が生まれる処を見た事は無いのだ。友人のオームズ博士から、エッグから誕生したと言われた息子のアルファを紹介されただけなのである。だから本当に上手く行くのか心配だったのだろう。

博士の心配をよそにエッグ内の胚は細胞分裂を進め、母親のお腹の中で成長して行く様に徐々に胎児の形を成して行く。その様子はガラス窓から見る事ができ、その成長をつぶさに観察し記録できるエッグは研究者たちからも好評だったようだ。

エッグは研究員が交代で24時間体制で見守り、何の問題もなく10ヶ月が経過し、所謂「出産」の時を迎える。出産と言っていいものか分からないが、まぁ此処の研究員は「出産」と言っているので、俺も「出産」と呼称する事にする。

出産は宇宙暦180年の3月1日に無事3人とも生まれている。全員が男子だそうだ。全員男子だったのは偶然の産物で、別に遺伝子操作して男にしたとかそういう訳ではないと博士は言っている。あくまでも他人種を掛け合わせると言うのが彼の考えなので、性別に関しては自然‥‥‥という言葉を使っていいものかはわからないが、手を入れず自然に任せているらしい。

この成功に研究員たちは歓喜し、早速次の授精に移ると共に人工子宮の増産が行われる事になる。行き成り1000基生産したそうだ。作り過ぎだろよ思ったが、結局、現在のエッグの数が1万基なので1000基は可愛いものだ。要するに、これ以降も増産は続けられたって事だ。

無論プロトエッグの方でも常時胚の培養が行われ、その都度何の問題も無く毎回子供を出産している。

う~ん、やっぱり出産って言葉に違和感あるんだよなぁ~。

エッグの量産は1万基でストップしているが、生産中止となった大きな理由はエッグを管理する研究員の不足である。エッグの管理はひとり100基を管理しなくてはならない。これは研究員をサポートするコンピューターがあっての数だ。そしてエッグは全部で1万基あると言う事は、少なくとも100人は必要と言う事になる。他にもエッグは24時間体制で管理しなければならず、さらに労働事情からかひとりの研究員がエッグの管理に携われるのは1日4時間と決められている。単純計算しても600人は必要と言う事である。それに誰でもいい訳ではなく色々と専門的な知識とかも必要で、ただ単に雇えばいいと言う訳ではない。現在この研究所で働いている研究員は650人いるそうで、この員数で1万基のエッグを管理している。

此処で俺は「機械による胎子の培養に、他の研究員はどのような反応を示したか?」と博士に質問してみた。博士自身はエッグを使って人類を‥‥‥と、意気込んでいるが、他の研究員の中には機械による出産に抵抗は無かったのかと聞いたのだ。

博士は「研究員に機械の出産に対する抵抗は無かった」と答えた。

抑々この皇立科学研究所では、新しい研究が行われる際に簡単な研究レポートを自由に閲覧する事ができる。そこでその研究に興味を持った研究員が自主的にプロジェクトに参加を希望するやり方を取っている。研究内容に倫理的に抵抗がある研究員は、初めから研究に参加しなければいいと言う事だ。と、ティア・フッシャルが言っていた事を思い出した。

次いで俺はもうひとつの疑問があったので、序にそちらも質問してみた。そこまで重要と言う事ではないが、それでも気になってしまったので思わず質問したのだ。その疑問とは「エッグで一斉に胚を培養すると言う事は、生まれた赤ちゃんは皆同じ誕生日なのか?」である。

これについての博士の回答は、YESでありNOだそうだ。

如何いう事? と思うだろうが、当初エッグでの培養は、1月1日に出産日が迎えられる様に調節されていたそうだ。何故1月1日なのかと問うと、年の始めと言う事と博士の故郷にある数え年を採用したそうだ。

「数え年とは?」と質問すると、生まれた日を1歳として、それ以降は毎年1月1日になる度に歳を取ると言うものらしい。だから年の初めの1月1日を誕生日にすると決めたそうだ。

何で? という言葉が最初に頭に浮かんだ。まぁすべて同じ誕生日の方が何かと便利なのか? よく分からないが管理しやすいとかそう言った事かもしれないが、博士の答えには疑問符が付く。だがYESでありNOと言ったからには今はそうでは無いと言う事である。博士も「今は1万人の子供たちに365日のどれかが誕生日になる様に胚の培養を調整している」との事だ。

そうなると一体なぜ変更したのかが気になる。なので「なぜ変更したのか?」という質問をする。すると博士は「ネクロベルガー総師からの指示があった」と答えた。ネクロベルガーが同じ日に全エッグで出産をしていると聞いて、個々人が違う誕生日になる様に、胚の培養を2~3基ごとに1日ずらして行うようにと要望があったそうだ。

聞いて驚いた。子供たちに個別の誕生日が付く様に、ネクロベルガー(当時元帥)の指示があったと言うのだ。

内容としては1~10の各培養室の1~3番のエッグは1月1日が誕生日、4~6番のエッグは1月2日が誕生日‥‥‥。と言う具合に出産の時期を1日ずつずらし、1万人いる子供たちが1年365日の内のどれかが誕生日になる様にしたそうだ。

だだ、ネクロベルガーが何故その様な指示を出したのかは博士も分からないそうだ。

しかし、この方法になったお陰で子供たちが個別の誕生日を得ただけでは無く、他にもメリットがあったそうだ。それは1日の出産にかかわる人員が大幅削減された。と言うことだ。これまでは同じ1月1日に全エッグから一斉に子供を出産させなければならなかったので、その日だけ大勢の人手が必要だった。手の空いている他の研究所の研究員や病院の医者や看護師等が応援に搔き集められ、大変な事態になっていたのだが、今では1日2、30基程度の出産で良くなり、出産を担当する専門の人達が毎日出産業務に従事している。

此処までの話を聞いて、ネクロベルガーは効率化を重視してその様な指示を出したと言う事だろう。何故か博士は理由が分からないと言ったが、多分そう言う事だろう。個別の誕生日の方が副産物だろうと俺は思う。

それとH計画が極秘扱いでない事が理解できた。なんせ彼らはエッグの存在を知る事になるし、それに研究所にいる何十万と言う研究員が研究レポートを見るのだから、正直にレポート内容を公表しないと後でトラブルのもとになる。抑々1月1日に他の研究員や医師、看護士が集められるのだ。極秘になんて到底できこない。あからさまに国内外に「人工子宮で出産してます」とは言わないが、別に極秘扱いしていない。知ってる人は知っている知らない人は知らないと言う体でH計画は進められたのだろう。

とは言え、俺はあんまりいい気分がしないので、よく問題になっていないなと思う。やはり研究者と言う種族は、他の人とは違う感覚があるのだろうか?

当然ながら今日も俺がクリミヨシ博士にインタビューをしている間、培養室では出産が行われていた。俺が見学した10番培養室は一番最後になるので、時間的に出産を見学する事は出来なかったと言う訳だ。

それだったら出産を行っている培養室で見学したかったよ! まぁ、過ぎた事は如何しようも無いので気を取り直して次に移る。

次は出産が終わった後の子供たちがどうなるかと言う事だ。エッグは胚を成長させ胎児を作り出産する機械で、赤ちゃんを育てる機能は無い。出産の後は人の手によって育てられるのだ。

生まれた赤ん坊は、まずこの研究所にある保育室で数日間状態チャックを受けた後、ミシャンドラ学園の敷地内にある「保育センター」と言う施設に移され、そこで育てられているそうだ。

そして、保育センターである程度の年齢になると、今度はミシャンドラ学園の幼年部に入学する事になる。幼年部とは小学1~3年生の事だと思えばいい。ゲーディア皇国では幼年部と呼ばれ、その次が初等部でこれが小学4~6年生に当たり、次が中等部、高等部と続いて行く。当然ながら完全なる寮生活になる。今いるミシャンドラ学園の子供たちの何人かはエッグによって産み落とされた子供と言う事になる。今では毎年1万人が入学して来るって事だ。そう考えるとチョットした恐怖を感じるのだが、それは俺がSF映画の見過ぎなのだろうか? 今は考えない事にしよう。

因みに皇国には高校受験と言うものが無いらしい。最初に入る幼年部に受験(お受験)があり、そのあとは高等部までエスカレーター式で行けるので、高校受験が無いと言う事だ。まさか全ての学校でエスカレーター式を取っているとは思わなかった。こう言うのは子供が勉強を怠るというデメリットがあると聞くが、そう言った事に対しての対策とかあるのだろうか? まぁ、そんな事は置いといてだ。

高校を卒業すと、続いては就職か大学受験になる。当然だが就職しても、大学受験を受けてもミシャンドラ学園からは卒業となる。アパートを借りて就職なり大学に行くなり一人での生活が待っている。生徒の中には学園で友達となった者達でルームシェアする者もいるそうだ。あと恋人同士が同棲する事もあるそうで、とても許せん状況‥‥‥いや、失礼。まぁ、要するに個人で一端の経済力を付けるまで生徒同士で協力して生活すると言う事だ。特に大学の費用は学園が出すが、日々の生活費は個人で稼がなくてはならないので、気が置けない仲間同士で協力して生活を送ると言う事だ。

そうやって学園を卒業した後は個人の自由に生活して行くようだ。ただ学園卒業後に付いてはエッグの子供たちはまだ至ってはいない。なんせ最初に生まれた3人の子供たちはまだ14歳でしかない。しかし、いずれ学園を卒業して同じ道を歩むことになるであろう。

専門用語だの話の脱線はあったが、これがH計画の全貌と言う訳だ。人工子宮エッグの存在は俺の中で未だにアレだが、子供は大切に育てられ、教育も受けている。まぁ未来の皇国を背負って立つ子供たちを乱暴に扱うなどナンセンスである。これと言って問題がある計画ではない‥‥‥と思う事にして、H計画の取材を終了する。

クリミヨシ博士の話は脱線したり関係ない事を長々と話す傾向が強かったが、だからとは言わないが可なりの熱量があった。それは純粋に人種と言うものを無くし、差別のない世界にしたいと思っている事が分かる。やり方はアレだけど‥‥‥。

帰り際に俺は博士に最後の質問をしてみた。「何故、惜しげも無く色々な事を話してくれたのか?」と、すると博士は顎に手を当て暫く考え込んでから応えた。「誰かに聞いてほしゅかった」と答えた後、「わたしゅはもはや老い先短い身、だから自分の胸に閉まっていた事を誰かに聞いてほしかったんだと思いましゅ」との事だ。

結局の処、自分の犯した罪も含めて墓場まで持って行かずに、誰かに知って欲しかったと言う事だろうか。それがたまたま俺だっただけの事と言うのだろう。

かなり大胆な事だが、この国ではもう博士の罪が裁かれる事が無いので、そう言った事も踏まえてなのだろう。流石にそう言った事でも無ければ自分の過去の犯罪行為を話すとは考えにくい。

俺は博士と別れて研究所の外に出ると、既に辺りは暗くなっていた。それほど遅い時間に来たわけではないのだが、まぁ原因は分かっている。クリミヨシ博士の話が長かったのだ。本当に無駄話が多かったしな。

取材の事を思い返していると、俺のお腹が盛大に鳴った。お腹の音を聞いて俺はある事に気付く、今日は朝食以外口にしていない事をだ。

早く帰って晩飯にするか、それともどこか近くでレストランでも探すか。俺は何方にしようか悩んでいると、背後から俺を呼ぶ女性の声がしたので振り返る。すると、ターミナルで俺を迎えてくれたティア・フッシャルが俺を呼びながら走って来るのが見えた。そして息も絶え絶えに俺の目の前で来ると、俺に息を整えさせる時間を要求しつつ息を整え、そして質問して来た。

 

「オルパーソンさん、これから如何なさるんですか?」

「此れから直帰しようかと」

「こんな時間にですか?」

「と言ってもまだ19時半ですからね、帰れると思いますが‥‥‥」

「そんなに急いで帰らなくてもホテルを取ればいいんじゃないですか?」

「えっ!? ここ、泊まれるとこあるんですか?」

「ええありますよ。まぁ此処は余っている建物もありますし、それに病院に入院している家族の見舞いや看護などに来た人が寝泊まりするためのホテルとかがあります」

「そうですか‥‥‥。ワザワザそんなことを言いに?」

「クリミヨシ博士が、『せっかく来たんだから今日はホテルに泊まって明日ミシャンドラ学園を見学して見たら』と言ってまして」

「えっ!? ミシャンドラ学園に見学ですか? 行き成り行って大丈夫ですか?」

「あゝその点は博士が話を通して置くと言っておられました。何でも『あそこの学園長は暇だから』と言ってましたね」

「ひ、暇って‥‥‥暇なんですか?」

「私からは何とも‥‥‥」

 

俺の質問にティアは困惑した顔をする。

 

「とにかくホテルに泊まって明日学園を見学したらと博士が言いまして、私はただそれをオルパーソンさんに伝えに来ただけです」

「そうですか‥‥‥」

「それに博士が『あそこのホテルのディナーは最高ですよ』とも言ってました」

「え、ああそうなんですか‥‥‥」

 

何だ。如何してホテルに泊まる事を此処まで押して来てるんだ。あの老人、ホテル側と繋がってるのか? 何かそんなことさえ感じて来た。だがディナーが最高とは腹ペコの俺にはそそるものがある。どうせ今回の費用は経費で落ちるのだから、ちょっと位の贅沢なら大丈夫だろう。

そう思った瞬間、何だろう。シェルクさんの刺す様なあの冷たい視線を感じた様な気がした。

とは言え、ミシャンドラ学園を見学できるなら願っても無い事だ。此処は素直にクリミヨシ博士の厚意に甘える事にしよう。

あくまで取材の延長です。そんな人を射殺す様な目で見ないでくださいシャルクさん!

 

「それじゃあ、博士の厚意に甘えるとしましょう」

「そう言ってくれると博士も喜ばれます」

 

俺はホテルの泊まるのはあくまで仕事の一環だと自分にと言うか、シャルクさんの幻影に言い聞かせてタクシーに乗り込み、ティアに言われたクリミヨシ博士の指定したホテルに行くように伝える。そして車窓から見えたティアが此方に手を振っていたので、俺も手を振替しながら第1102研究所を後する。