怠惰に創作

妄想だけでは話が進まないので……。

アンリ・マーユ戦4

宇宙暦197年8月26日9:00。ゲーディア皇国摂政、ネクロベルガーの宣戦布告演説と時同じくして、ゲーディア皇国対外政策局は、エレメスト統一連合政府に対して最後通牒を突きつけて宣戦布告する。

皇国の宣戦布告を受けて、連合政府は直ちに前線に赴く遠征艦隊司令部に報告。それを受けて艦隊司令部は全艦隊に第一種戦闘配備を命じるのだった。

元々連合は惑星標準時の正午までに、遠征軍6個艦隊をもって要塞アンリ・マーユを完全包囲し、皇国に対して最後通告として12時間の猶予を与え、その間に何らかの回答が得らえなければ戦端を開く構えだったが、皇国に先手を打たれる形で開戦となった。

戦端が開かれると同時にアンリ・マーユを中心に周辺に強力なジャミングが発せられ、遠征艦隊のレーダーや通信、誘導兵器の使用が制限される。しかし、その後は皇国からの直接的な攻撃は無く。岩石群に囲まれたアンリ・マーユは不気味な静けさを守り続けた。

9:10

連合軍遠征艦隊は、第一戦闘配備のまま全速力でアンリ・マーユに接近しつつ艦隊を左右に展開、急展開で包囲を完成させつつ要塞占拠の為の揚陸部隊の準備を進める傍ら、要塞周辺に配備された岩石群の除去のため編制中だった工作部隊の編成を急がせる。

9:30

工作部隊の編成が終わり、工作艇を出そうとしたとき、皇国軍に動きが現れる。要塞周辺の岩石群の一部が遠征艦隊に向かって放たれたのである。

突如として行われた岩石ミサイル(ロケット?)攻撃に対して艦隊は主砲のビームによる岩石の迎撃を開始する。

戦艦、巡洋艦を中心に無数の光の筋が放たれ、比較的ゆっくりと向かってくる岩石群を次々と消滅させていく。岩石と思われていたものは単なるダミーバルーンで、ビームの熱によって次々と蒸発していった。

しかし、消滅した岩石の変わりに大量の、「アンチ・ビーム・パウダー【Anti・Beam・Powder】」が放出され、戦場全体を満たす様に広がって行く。

これによって連合・皇国両軍は誘導兵器とビーム兵器の両方を使用不可能となり、遠征艦隊司令部では皇国軍の真意が分からず一時混乱したものの、当初の作戦通りという何の変更のない行動に出る。

9:40

遠征艦隊は「A・B・P」が異常なほどの高濃度に散布された後も、次々とダミー岩石を放って来る。もはやダミーバルーンであり、内部には大量の「A・B・P」が詰まっている岩石を無視して前進するが、一定の時間ないし距離になったら破裂するよう設定されている様で、その後も自動的に破裂しては「A・B・P」が散布され続けて、通常であれば1,2分程度で効力を無くす「A・B・P」が、常に一定の濃度を保つという結果になっている。

そんな中、最初の被害が報告される。巡洋艦「フース・ターム」が、ダミーバルーンだと思って回避運動をせずに岩石に体当たりしたところ、本物の岩石だった為に船体を損傷するという被害を受けたのである。程度としては小破程度の損傷であったが、それを皮切りに、あちらこちらの艦隊で被害にあう艦船の報告が艦隊司令部に届く。

隊司令部は慌てて岩石を回避するように厳命するも、ジャミングの影響での連絡の混乱もあり、計178隻もの艦船が損害を受け、そのうち駆逐艦3隻、巡洋艦1隻が大破するという事態になるのだった……。

 

 

 

ゲーディア皇国軍パイロット「メヴィ・ヘルター」は、ネクロベルガー総帥の宣戦布告演説を、自機の狭いコックピットの中で効いていた。狭いと言ってもコックピット内には大人が3人が無理をすれば入れる広さはある。が、狭いと言われれば狭いのである。

演説が終わり、戦争が開始されたにもかかわらず、周囲は静かでメヴィには戦闘が始まったという実感も湧かず、只ボーっとにシートに背を預けて出撃の時を待つ。

コックピット内は、生命維持や通信などの必要最低限の機能だけが生きていて他はダウンしているので可なり薄暗く、暇を持て余したメヴィはその薄暗くて静かな環境を利用して、精神統一するため目を閉じ瞑想を始める。眠ってしまいそうな状態ではあるが、現在外で起こっている状況を鑑みれば、逆に緊張による興奮状態と言った方がよく。其れを落ち着かせるためにも彼は瞑想に入る。

時間的にはどれ位たったのだろうか。瞑想を始めて体感で十数分したところで通信が入り、瞑想時間が中断される。通信相手は同じ小隊のパイロットである「ジャス・ヴィングス」伍長である。大柄の黒人で見た目は厳ついが、少々気弱なところがあり、パイロットとしての腕は悪くないが、基本に忠実で生真面目な人物である。

 

『軍曹、ヘルター軍曹』

 

メヴィはどうせ暇を持て余しての通信だろうと初めは返事をしなかったのだが、しつこく声を掛けてくるので、此方も暇を持て余している身のため相手をすることにした。 

 

「如何した伍長」

『やっと返事した……』

 

返事が返ってくるのが遅い事に不満の色を見せながら、ジャス伍長は会話を続ける。

 

『ちょっと遅くないですか? 本当に戦争始まったんですかね?』

「総帥の演説聴いてなかったのか?」

『聞いてましたよ。でも全然何も起こらなんですけど』

「お前作戦の概要知ってんのか?」

『知ってますよ! 馬鹿にしないでください!』

「だったら心配するなよ。俺たちは待ってればいいんだよ」

『ですが……。あれからもう40分以上たってるんですよ。流石にトイレ行きたくなっちゃいましたよ』

 

するとそこに別の人物から通信が入る。

 

『おやおや、ヴィングスちゃんは作戦開始前にトイレに行ってないんですか? 駄目な子ですね』

『だ、誰がダメな子ですかスタッハード伍長! 言っときますけど我々がコックピットの中で待機して彼此2時間位になるんですよ! トイレにも行きたくなります』

 

通信に割り込んで来たのは同じ小隊の「ローク・スタッハード」伍長で、いつも明るく細かい事を気にしない性格で、青、赤、紫に染めた髪に身体の至る所にタトゥーを入れた女性パイロットで、生真面目なジャスを何時も揶揄っている。

 

「トイレならここでしちまえ、パイロットスーツにはそういった機能もある事ぐらい知ってるだろ?」

 

パイロットスーツには長時間の任務中の生理現象に対応するために、そう言った装備も施されている。

 

『嫌ですよ!』

『ジャスちゃん漏らしてもいいんだよ』

『誰が漏らしますか! そういうスタッハード伍長は如何なんですか!』

『あたし? もうしちゃったけど』

「えっ!」

『エッ!』

 

ロークの驚きのカミングアウトに、メヴィは思わずジャスと共に驚きの声を上げるが、当の彼女は冗談だと言わんばかりにふたりの反応に大笑いする。

 

『それより軍曹。何か音楽かけてくださいよ』

「あん? ああ……あれか、あれは俺が戦闘中に上がるために聞いてるだけだって知ってるだろ」

『ええー、だから軍曹はいつも一人でどっか行っちゃうじゃないですか。アタシ、軍曹の音楽センス良いと思ってたんで、聞きたいなーって』

『おい軍曹』

 

ここで、今まで小隊メンバーの会話を沈黙をもって聞いていたであろう小隊長が会話に入ってくる。

 

『軍曹、これは実戦だ。練習の時の様に単独で突っ込むなよ。命令だぞ』

「分かってますとエンガー中尉殿」

 

メヴィが所属している小隊の隊長「カシュー・エンガー」中尉は御年25歳とまだまだ若いのだが、何時も苦虫を潰した様な顔をして眉間にシュワを寄せている為、見た目はずっと老けていてベテランパイロットの様な風格がある。なので怒ると普通に怖い人物である。

エンガーは、メヴィの言葉に思うところがあるがそれ以上口を挟まなかった。と言うか挟めなかったというのが正解かも知れない。その直後にガタンと何かが外れる音がし、機体が揺れだしたのだ。これは出番が来たという合図で、小隊メンバーたちから会話が無くなる。顔は見えないが、みな一様に緊張しているであろうことは分かる。メヴィは何時でも発進出来る様に機体の起動手順を始める。

いよいよだな……。

メヴィは緊張の面持ちで起動手順を踏み、低い電子音と共に機体の全機能が動き出したことを全身で感じとる。薄暗かったコックピット内が明るくなり、同時にメヴィの目の前のモニター画面にガスマスクを付けた兵士の様な異様な姿のものが映し出される。

機動装甲兵【マヌーバー・アーマード・ソルジャー「Maneuver・Armored・Soldier」】一般的には略称の「M・A・S」或いは「ソルジャー」と呼ばれる人型機動兵器で、皇国軍が極秘裏に開発した新兵器である。

全長は15m、体重33t、歩兵の様に手持ち武器を切り替えて多目的な作戦に従事できる汎用性と、宇宙空間での機動性、新技術によって開発された合金による複合装甲による耐久性など、あらゆる新技術を盛り込んで開発された兵器である。

メヴィ達が乗っている機体は「ア・クー」という愛称が付けられた機体で、型式番号はMAS-001Cb/A2である。

するとモニター画面の隅にカウントダウンが表示される。

 

『そろそろ時間だ。お前たち、訓練通りにやればいい。敵を倒す事では無くて生き残る事だけを考えろ』

 

隊長のエンガーの言葉にジャスもローグも「了解」と了承したが、メヴィは敢えて返事はせず、隊長もその事に一々問いただす事もない。 

カウントダウンが0になり、真っ暗だった周囲が暗幕を一気に降ろされたが如く星々がきらめく宇宙空間になる。

目の前に広がる宇宙空間、その中で人気は目に映るのはエレメスト統一連合政府の遠征艦隊の艦艇群の姿である。

彼らは連合艦隊の真っ只中に放り出されたのである。

 

「なるほど、濃いな」

 

メヴィは測定器を見て、この宙域のA・B・Pが異常濃度になっていることを確認する。

それが終わると自分が持ち込んだ機器に手を伸ばしてスイッチを入れる。機体内にヘビメタの爆音と奇声が流れる。それに触発される様にメヴィも奇声を上げる。

 

「行くぞ行くぞ行くぞォォォォォォ!!! イェァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!」

 

奇声を上げたメヴィは、隊長の命令を忘れて単機で連合軍艦隊の真っ只中に突貫していくのだった……。

アンリ・マーユ戦3

宇宙暦197年8月26日。

ネクロベルガーの宣戦布告演説が終わった直後、遠征艦隊全体に司令部から第一種戦闘配備が通告され、遠征艦隊は要塞を包囲するように左右に展開しつつ前進する。更にその直後にレーダーがホワイトアウトし、司令部や各艦隊との通信が遮断された。

原因はアンリ・マーユ要塞から発せられた強力なジャミングである。そのため広範囲にわたってレーダーや通信、誘導兵器の機能を阻害され、武装がミサイル主体のラッキーセブン号は戦闘力を半減させられたようなものであった。

 

「こっちの強みを潰したか……」

 

ベクスはジャミングでレーダーがホワイトアウトし、他の感とも通信が出来なくなったとの報告に舌打ち混じりに呟く。

 

「当然の処置です。予想できたはずですが……」

「分かってるよ。他の艦との連絡はレーザー通信で、此方から連絡艇を飛ばす事は無いだろうが一様用意しておけ」

「了解」

 

ビオラの指摘に言われなくてもと思いつつ、ベクスは命令を発する。

 

「心配しなくてもこっちにはビーム砲が装備されてますって」

 

ブランが2度目の改装の際に装備された127㎜単装ビーム砲を自慢するかのように会話に入ってくる。

 

「でも単装一基では弱くないですか?」

「それはそれおれの操船技術で……」

「お前たち! 戦闘は始まってるのだ静かにしろ!」

 

単装砲一基だけの装備に不安がるサーサに、ブランが自身の操船技術を誇示するような言葉を発しようとするが、それはビオラの怒号で阻止させられる。

こうして「ラッキーセブン号」艦橋内は静かになる。

一旦静かになると、ベクスを始めクルー達に言い知れぬ緊張が現れる。一分一秒がこんなにも長く感じた事が無いと思うくらい時間の経過が遅く感じられて仕方なかった。

今回の遠征は連合政府から独立自治権を許されておきながら、軍備を拡張して世界に要らぬ緊張をもたらす態度を取り続ける皇国に対しての遠征だあったが、その圧倒的ともいえる戦力に戦わずに敵は降伏するという風潮が遠征艦隊内に蔓延していて、その事をベクスは危惧していたのだが、いざ開戦となると自分自身の中に戦争が起きてしまったことに未だに現実味を帯びていない事に気付く。

おれも他の奴らと同じだな……。

自身の心の中に戦争は起らないという楽観した気持ちがあったことに、ベクスは正直苦笑してしまいたいくらい愚かだったとも思ったが、今はそれよりもこの戦場を生き残ることが先決と意識を敵要塞に集中する。

 

「ああーー!!」

 

突然、ブランが雄叫びを上げたため、ベクスは驚いて巨漢の操舵士に顔を向ける。

 

「チョット驚かせないでくださいよ中尉!」

「そうですよ。心臓が飛び出すかと思いましたよ!」

 

サーサとトムが自分たちを驚かした操舵士に抗議し、ベクスは心臓をドキドキさせながら言葉には出さなかったが彼女たちに賛同した。

すると、艦長席のひじ掛けに置いていた腕をビオラが掴んでいる事に気付いて彼女を見る。

 

「し、失礼しました」

 

ビオラは自分が艦長の腕を掴んでいる事に気付くと、軽く誤って手を離し、照れ隠しか軍帽を目部下に被りなおす。流石の鬼の副長も驚いたらしい。

この艦に限らず、今回の遠征に参加した将兵の中で実戦を経験した者は多くない。4年戦争勃発から45年、終戦から41年、それほど立つと嘗ての将兵の殆どが退役してしまっている。いくら軍人家系で厳しく育ったとはいえ、今回の初めての実戦、緊張して当然である。そこにあの雄叫びである。驚いて当然である。

ベクスは結構可愛いとこあるじゃないか。と思いつつも、今はそんなことをしている場合ではないと気持ちを切り替える。

 

「リヴァル中尉、こんな時にふざけるなよ」

「だって艦長。あいつら宣戦布告したくせに全然動かないじゃないですか」

 

確かにブラウの言うとおりである。開戦から10分が経過したが皇国がやった事と言えばジャミングでレーダーや通信を阻害しただけで、未だに戦闘艦一隻も発進していないのである。これは如何見てもおかしい。

一体的は何を考えているのか……。

ベクスが皇国軍の普通では考えられない行動を取っている事に疑問を持ちつつも、敵の狙いが何なのか分からず苛立ちだけが募って行く。

何故動かないのか? あの要塞の周囲にある岩石群は何なのか? 敵は我々を待っている? 頭の中を色々な可能性と疑問とがごっちゃになって目まぐるしく交錯する。

本来ならこういう事は艦隊司令部が行うものだが、ベクスは自身でもそういった考察をし、命令と照らし合わせつつ勝つための、或いは生き残るための行動を取るのである。

だが今回は敵が何もしてこないのである。艦隊から要塞に肉薄するには要塞との距離的と艦隊の進行速度で計算するに約一時間程かかる。そこから揚陸艇を出し、要塞内に陸戦部隊を送りこんで制圧する。これが目下の遠征軍の作戦である。

通常であれば敵の防衛艦隊との間に艦隊戦が展開し、それを蹴散らし、要塞の砲撃やミサイルに晒られつつも揚陸艇を発進させるというものだが。今回は敵の防衛艦隊は皆無である。その代わりと言っては何だが岩石群があるが、これは揚陸艇を発進させるには邪魔だが工作部隊によって容易に退かすことも出来る。多少時間はかかるだろうが苦ではない。まさかその時に基地から砲撃をするのか? いやそれも現実ではない。艦隊の攻撃で要塞の砲台を破壊すればいい事なのだから。

考えすぎだ、俺らしくない。

何があっても結局は自分が出来る事は限られているのだから、やれることだけをやればいい。と、取り合えず開き直って余計な事を考えるのを止めた。 昔はともかく今はそうしているのだから……。

 

「艦長! 前方、要塞から岩石群が飛んできます!」

 

開戦から約30分が経過したころ、トムから皇国軍に動きがあったことを告げる報告がなされる。しかもそれは要塞周辺にある岩石を飛ばしてきたというのである。

 

「石っころ投げて来たのか? 原始人だな彼奴ら、これなら文明人の俺らの勝ちだな」

 

皇国軍が岩石が飛んで来たことに対してブランがいち早く皮肉を言う。

結局飛んできた岩石群は、艦隊の前衛艦隊のビーム砲によって尽く消滅した。

 

「フン、石っころ位で最強の連合軍艦隊が倒せるかよ!」

「いや待て、いま消滅したって言ったよな」

「は、はい。岩石はビームの熱で消滅しました」

 

トムからの報告にベクスは思はず席から立ち上がる。

 

「艦長?」

「あれは岩石なんかじゃないダミーだ!」

「ダミー? あゝ確かに幾ら高温のビームだからって岩が消滅なんかしないか。砕けるだけだよな」

 

アンリ・マーユ要塞周辺の岩石は岩に見せかけたダミーだった。では一体何でそんな手の込んだことをした? 新の疑問がベクスの頭を持たれかけた時、その答えが報告される。

 

「か、艦長! 戦域全体にアンチ・ビーム・パウダーが急速に散布されています! いったいどこから……」

「どこからって、単純に考えればあのダミーに詰まってたって事だろ!」

 

ブランの言葉にベクスも同意見だった。 

アンチ・ビーム・パウダー【Anti・Beam・Powder(A・B・P)】は、磁気を帯びた細かい粒子を散布する事によってビームの拡散消滅させる対ビーム防御用の兵器である。但し、一度散布されると空間周囲に拡散してものの1,2分で効果を消失してしまうので、艦船などがビーム攻撃からの一時凌ぎで散布するものである。

だが、今回直径20m前後の岩石ダミーに詰められたA・B・Pが艦隊のビーム砲の直撃で破裂して周囲に一斉散布され、さらに無数のダミーが次から次に破裂したことで超高濃度のA・B・P場が出来てしまい、艦隊は誘導兵器に続いてビーム砲も使用不可になってしまった。

 

「これが狙いか!」

「か、艦長? 何か分かったのですか?」

「彼奴らはおれたちの攻撃手段を封じたんだよ」

「ですがそれでは敵も攻撃できませんが、それに何の意味が……」

 

確かにビオラの言う通りで、ジャミングとA・B・Pで攻撃を封じられるのは連合軍遠征艦隊だけではなく、皇国軍もその影響を受けてしまうのである。これでは両者戦闘出来ずにただズルズルと何もできずに時間だけが過ぎていくことになる。

 

「このままなら我々は敵の攻撃を受けずに要塞に肉薄できますし、工作部隊も揚陸部隊も安全に作戦を行う事が出来ます」

「本当にそう思うか?」

「……ふぅ……思いません」

 

溜息交じりにビオラは応え、ベクスもそれに同意するように頷く。

そして皇国軍の一連の不可解な行動に何の意味があるのか、終始疑問しか出てこないのだった……

アンリ・マーユ戦2

モニターに映る第243駆逐隊司令は、憮然とした表情をしていた。

 

「僕はポークではない! ポートだ!」

「ああ済まない。間違えた」

「ワザとだろうが! いつもいつもお前は……」

 

隊司令の丸みを帯びて膨張し、両頬の肉が垂れ下がった顔は怒りの言葉を発する度にブルブル震える。その膨張したブルドックの様な顔を見るだけで、モニターに映っていない体系も容易に想像できる。

ブルドッ……ポート司令は、自身が指揮する隊の一隻が勝手に戦闘配備を始めた事と、その艦の艦長に呼びつけられた事に不満を隠すことはなかったが、部下の艦長の話を一様最後まで聞く。

 

「それで、貴様は皇国が戦端を開くと?」

「その可能性は大きいと思うんだが……」

「いつもの感か?」

「俺の感はよく当たるってお前も知ってるだろ?」

「お前ってな、僕は上官だぞ! いくら同期だってなれなれしくするな! 敬え!」

 

ポークことグンタフ・ポート中佐はベクスの宇宙軍士官学校時代の同期である。ベクスが少佐に昇進して駆逐艦の艦長になった時期には、彼は大尉で別の駆逐艦の副長をしていた。その後、とある問題でベクスが大尉に降格して輸送艦の艦長になって燻っている間に、彼は昇進を重ねて駆逐隊司令にまでなったのである。

因みに、隊(小隊)は同じ艦が4隻集まって形成される連合宇宙軍の最小艦隊編成で、戦艦なら戦艦隊、航宙母艦なら航宙隊、巡洋艦なら巡洋隊、そして駆逐艦が駆逐隊と呼称される。が、基本的には隊(小隊)単体で行動する事は偵察・哨戒任務に就く事が多い駆逐隊(稀に巡洋隊が付くことも)くらいで、他の隊は単独で行動する事は無く、幾つかの組み合わせっで戦隊を形成し、その戦隊単位で任務にあたる事が殆どである。

 

「あ、悪かった悪かった。ポーク司令殿」

「ポークじゃなくてポートだ!」

 

艦長と隊司令の会話に周りのクルーたちは可笑しくて笑いをこらえるのに必死になっていて、副長のビオラも、その事に気付いて注意したいのだが、モニター越しに居る隊司令の前では憚られると表情を強張らせるにとどまる。

 

「俺みたいな一艦長の意見じゃ司令部も取り合ってくれないだろうからな」

「それは一隊司令の僕だってそうだと思うが……」

「だったら戦隊司令に報告してくれ、其れならいいだろ」

「それはそうだが……」

 

通常、下の者が直属の上司に報告し、その上司が上に報告するというものだが、これだと途中で上申の必要なしと判断されてしまうとそこで途切れてしまう。この危険を回避するためには下の者が直接最上位に報告するのがいいのだが、それはそれでその間にいる上官との確執を生むことになるし、最上位者にそう簡単に会う事や聞き入れてもらう事が難しい。これらのことを踏まえたうえで、ポートは太いソーセージの様な指で自らの顎をさすりながら考え込む。

 

「一様報告はする」

 

ポートは同期の誼でベクスの感を信じて報告する事を告げる。

 

「艦隊司令部まで届くかはわからんぞ。それに、司令部がそんなこと考えていないとは思えないけどな」

「それだったら別にいい、今回の遠征はなまじ相手を圧倒する戦力だから相手は闘わずして降伏すると、戦争は起らない雰囲気に包まれている気がしてな」

「まぁ、それは……」

 

ベクスの指摘にポートは歯切れの悪い相槌を打たので、彼もその一人であったことが分かって内心呆れる。

 

「それじゃあ、頼みましたよポーク中佐殿」

「ポークじゃ—――」

 

最後に悪戯する子供の様にポートを怒らせてから通信を切らせたベクスは、思わずニヤニヤしてしまうのだが、隣のビオラの形相を見て自分の餓鬼っぽさを反省する。

 

「それで、如何します艦長?」

 

副長の怒り交じりの質問に、生きた心地がしないながらもここは艦長らしくは出来ないか……トホホ。

 

「勝手な事はするなと言われたからな……このままでいいだろう」

「分かりました」

 

一様、報告すべきことはしたとしてラッキー7号は大艦隊の真っ只中で唯一第Ⅱ種戦闘配備のままで司令部からの回答を待つ。

 

「艦長! アンリ・マーユ要塞に通常通信が入っています!」

 

突如、通信士のサーサがアンリ・マーユ要塞に皇国本星からの通信が張った事を報告する。

 

「通信? 暗号化?」

「いえそれが……通常通信です。しかも音声だけです」

「艦長」

「要するにおれたちにも聞いてくれって事だろう。ラブレット少尉」

「はい」

 

サーサは受信したアンリ・マーユ要塞に入った音声通信を艦内に流す。

 

『……政……ネクロ……ベルガーである』

 

驚くべきことに、通信はゲーディア皇国摂政「ネクロベルガー」からのものだった。

 

「うわ~、悪の親玉出た~」

 

ネクロベルガーの声にブランがいち早く反応する。

 

「親玉って……。もっと他に言い方無いんですか中尉」

「何だよ、そうだろ? 人権剥奪法なんてもんがある国なんて悪の国だろうがよ」

「それはそうだけど……」

 

ブランの言葉にトムは反論できずに黙り込む。そんな彼氏を助けるように今度はサーサが会話に入ってくる。

 

「中尉は言葉の響きだけで判断しているようだけど、人権を剥奪されるのは犯罪者だけですよ。理不尽に一般の市民から奪う訳じゃないんです」

「そうそう、そうですよ中尉。もっと勉強しないと」

「確かに犯罪を犯したやつは悪いけどよ。だからって人権奪っていいのかよ。人間だぜ彼奴らだって!」

「「そ、それは……」」

 

珍しく正論を言うブランに、サーサ&トムは反論できずに口ごもる。

 

「そこまでだ。お前らうるさくて何言ってるのか聞こえないぞ」

「何だよ艦長、聞いてんのかよ。以外に真面目」

「お前な、これは宣戦布告の演説だぞ。……多分」

 

初めは自信ありげに言ったものの、やはり自信がないのか「多分」という言葉を付けたしたため、クルーたちから一斉にため息をつかれる。

 

「お前たちね。俺かだって……」

「艦長、もう黙っててください」

「は、はい」

 

ビオラにピシャリと言われてベクスはシュンとしてしまう。それを見てクルーたちが一斉に笑い出すが、それに対して鬼の副長が米神を引く付かせる。

 

「お前ら一々笑ってるんじゃない!」

 

艦橋が静寂に包まれ、ネクロベルガーの演説だけがはっきりと聞こえる様になる。

 

『……この理不尽な要求に我々は断固とした態度で臨まなくてはならないのである! よって我がゲーディア皇国は、エレメスト統一連合政府に対し、宣戦を布告する!』

 

しかし、演説も佳境に入っていて、結局、途中に何を言っていたのかほとんど分からず宣戦布告の言葉を耳にするのだった……

アンリ・マーユ戦

「ふぅ~」

 

ラッキー7号こと駆逐艦「DY²-777」の艦長ベクス・ホワイトは、艦橋入り口のドアの少し前で頻呼吸を繰り返したり、身嗜みを整えつつ中に入る事を躊躇していた。

 

「何してるんだ艦長?」

 

かけられた声に驚いて背後を見ると、機関長のサガ・ペリリウス大尉が立っていた。

 

「何だ機関長か……」

「何だとはご挨拶だな。如何せ副長が怖くて入れないんだろ?」

 

機関長の言葉に反論したかったが全くその通りだった為、ベクスは口を開いただけで何も言葉が出てこなかった。

 

「ほら艦長、こんなとこに居ても何も解決しないんだからとっとと入る」

 

自身よりも年上の機関長に諭されるようにベクスは艦橋に入る。

艦橋に入ると案の定、艦橋にいる者全員の視線が降り注ぐ。特に副長のビオラ・ルアンのそれは痛い。極力それを気にしないようにベクスは艦長席に腰を下ろす。

艦長席は艦橋の丁度真ん中に当たる所にあり、一段高くなっていて決して広くはないものの、そこから艦橋全体を見渡す事が出来る。艦長の前には各クルーの席があり、ベクスから見て真正面が操舵席で、操舵士のブラン・リヴァル中尉が座っている。彼から見て右側には船務士のトム・グレファン少尉、その隣に通信士のサーサ・ラブレット少尉が座っている。ブランの左側には砲雷士のリオン・スター少尉が座り、その隣にはAI内臓の船体管理補助システムが鎮座している。このシステムのお陰でクルーたちは24時間職務に就く事も無く、そのための交代要員もいらず、最悪の事態が起こっても、自動操縦、自動戦闘などを熟すことも出来る優れものである。

とは言え、エレメスト統一連合軍では極力人の力が基本で、戦闘艦を完全自動化させる事は特定の条件以外では禁止されている。これは過去に起きた事件が原因なのだが、それはまたの機会に……。

そんな彼らを見ていたベクスは、クルーたちの背中が小刻みに震えている事に気付く。如何やら笑いをこらえて居る様だ。ここは艦長としての威厳を保つには、厳格に注意しなければならない。

 

「お前ら真面目にやれ!」

「艦長もですよ」

 

間髪入れずに入った副長の言葉にベクスは何も言えなくなってしまい。その様子に遂にクルーたちは笑いを堪えられずに大笑いする。

ベクスは恥ずかしさから軍帽を目部下にかぶって背もたれにずり込む。

 

「お前たちもいつまで笑ってる!」

 

副長の声は小鳥のさえずる様な美しい声でありながら人を射抜くような鋭さがあり、それがクルー全員を射抜いて艦橋が一瞬で静寂に包まれる。

ベクスは流石はと思って目部下に被った軍帽を上げて頼れる副長を見やるが、彼女からは「艦の指揮を預かる者として、これぐらいやっていただかないと困る」と言った視線を返されたので、再び軍帽で顔を隠す。

 

「ああ……あの、ウォホン!」

「ところで副長、おれらを呼んだのは何だ」

 

ベクスは咳払いで気を取り直して本題に入ろうとしたが、機関長に先を越される。

 

グレファン少尉」

「はい」

 

副長は船務長に声を掛けると、トムが端末を操作する。すると、艦長席と操舵席の間に設置されてある機械から3D映像が現れ、ジャガイモのような形の物体が映し出されている。

 

「これを見てください」

「アンリ・マーユ……だな」

「そうですね」

 

ベクスと機関長は映し出された立体映像をまじまじと見る。そこに映し出されているのは第4惑星第2衛星「アンリ・マーユ」の姿で、ここはゲーディア皇国宇宙軍の最重要拠点であり、ベクスたち遠征艦隊が現在向かっている場所でもある。

 

「これが先行している偵察隊から送られて来た現在のアンリ・マーユとその周辺の様子です」

「んん……?」

 

ベクスは3D映像のアンリ・マーユの周囲に無数の細かな点がある事に気付く。それは衛星を取り囲むように無数にある岩石で、正確な数は分からないが万はあるだろう。

 

「これは……」

「はい岩石です」

 

副長の至極当然の答えに「それは見ればわかるよ!」と突っ込みたかったが、彼女もそれ以上答えようがないのは分かっているので、その事には触れずにベクスは腕を組んでこの状況について思案する。

 

「皇国の艦隊はいないのか……」

「はい、アンリ・マーユの周辺はいません。ですがジャミングが酷くて探知が覚束無いようですが……」

「それは不思議だな。艦隊が出撃してないなら戦いにならんだろう。ってことは皇国は降伏する気か?」

「機関長それは早計かもしれませんな。第一、要塞周辺にはジャミングが掛かっている訳ですから、それに要塞周囲のあの岩石群は何でしょう」

「わからん」

「多分、我々が容易に要塞に近づけさせないためのものだろう」

「何だ。それでは皇国はおれらと戦争すると!?」

「まだそうと決まったわけでは……それなら要塞だけでの戦闘は避ける筈、近くに艦隊がいないのはどうしても解せない」

 

ベクスと機関長と副長は考え込んで無言になる。そこにブランが声を掛ける。

 

「新兵器があるとか」

「どんな兵器だ?」

「それは分かりませんが……。でも、噂はありますよ」

 

確かにブランの言うとおりである。かなり前から皇国は新兵器を開発しているという噂があった。だが、皇国内にそう言った兵器を開発している秘密の工場などの怪しげな施設は無く。情報部も証拠を掴んでいないため、あくまでも噂の域を出ないものではあるが、この手の噂は根強く残っていて、情報部もあきらめてはいないようなのだが……遠征が始まった今では、直接確かめるという状況になってしまっている。

そういう意味では鬼が出るか蛇が出るか分からないというのが、今回の遠征の不安要素でもある。とは言え、宇宙艦隊の半数が参加するこの作戦に、皇国軍がいかなる兵器を作ろうとも数の優位で圧倒できると思っている者が多いのも事実である。

 

「まぁ、此処は司令部の判断に任せるのが妥当だろう」

「そうだな」

「確かに」

 

副長も機関長も納得したところで駆逐艦艦橋での細やかな軍議は終わり、機関長は持ち場に戻るために艦橋を後にし、副長も艦長席の左側に側に自分の席について自分なりの分析を試みようとする。

ベクスは艦長席に身を預けてぼーっとモニターに広がる漆黒の闇とそこを航行する艦船群を眺める。

なんだか眠くもなってきている。だが、船務長の声に眠気が覚める。

 

「艦長。もう間もなくアンリ・マーユに到着します」

 

モニターに拡大投影されたアンリ・マーユの姿が映る。闇に浮かぶその姿は、先ほどの3D映像のように無数の岩石群を纏ってベクスの目に異様な光景に映り、意味もなく不安を煽ってくる。

……これは何かがある。

ベクスは直感を信じて誰ともなく声を掛ける。

 

「これは不味いかもしれない」

「はぁ?」

 

呟き程度の声にしかならなかったものの、近くにいたビオラが微かに聞こえたらしく、訊き返そうと声を掛ける。

 

「副長、艦を何時でも戦闘が出来るようにしてくれ」

「……分かりました。総員、第Ⅱ種戦闘配備!」

 

何時に無く真面目な表情のベクスに、ビオラもうなずいて戦闘配備を取らせる。

 

「ありがとう副長。それとポーク中佐に連絡を、一駆逐艦の艦長の感では司令部は動かないだろうからな」

 

そして自身の直属の上司でもある第243駆逐隊司令官に通信を入れるのだった……

遠征艦隊

宇宙暦197年8月、エレメスト統一連合宇宙軍はゲーディア皇国に対して遠征艦隊の派遣を決定。「遣外連合艦隊」の名称の許、宇宙軍の保有する宇宙艦隊の半数に及ぶ6個艦隊が作戦に参加する事となる。

作戦参加艦隊は、アフラ(月)からは第6艦隊、新設の第12艦隊。

L1宙域防衛要塞「アーシャ」駐留艦隊から第2艦隊(連合艦隊総司令部)。

L2宙域防衛要塞「アル・マティ」駐留艦隊から第9艦隊。

エレメスト統一連合軍・外部惑星防衛要塞「ラオシス」駐留艦隊から第5艦隊、第10艦隊、計6個艦隊(戦闘艦艇数1752隻、輸送・補給等、補助艦艇数約1200隻)が参加する一大遠征となった。

そんな遠征艦隊の中に一隻の駆逐艦があった。第12艦隊第3分艦隊第24駆逐戦隊第243駆逐隊所属のミサイル駆逐艦「DY²-777」である。

ユーゴ型駆逐艦として宇宙暦167年に第1次軍備再建計画の時に建造され、その後2回の改修を経てパウリナ条約の下で廃棄される予定だったが、皇国との関係悪化で解体されずに残され、今では他のユーゴ改型と共に艦隊の艦艇数を押し上げるのに貢献している。

その艦長であるベクス・ホワイト大尉は艦長室で暇を持て余し、あくびをしていた。

なんとも緊張感のない事だが、彼を知る者はいつも「のんべんだらり」としていて緊張感のない人物として周囲には認知されていて、「いつもの事」という事でかたずけられる事だろう。

しかし彼のことを最もよく知っている者は、嘗ての覇気が無いと嘆いただろう。

嘗ての彼は士官学校を優秀な成績で卒業し、30歳で少佐になって駆逐艦の艦長に抜擢されるほどだったのだが、正義感が強く、不正を見て見ぬ振りが出来ない性格が幸いして上官と衝突を繰り返し、遂には大尉に降格して輸送艦の艦長に回される事になったのである。

それ以来彼は人が変わったように職務に身が入らなくなり、「適当に頑張っていればいいよ」と周囲に漏らすようになっていた。

そんなベクスではあったが、彼自身は今遠征に疑問を持っている。今回の遠征理由が少し稚拙だからである。無論これは彼が受けた印象からきているものなので、遠征自体を否定するものではない。

連合宇宙軍は遥か45年前に起きた4年戦争以来、戦争というものを経験していない。しかしそれに反比例して軍の規模だけは肥大して行っていた。これは第4惑星にゲーディア皇国という敵性国家、とわ言わないまでもそうなり得る国家があるため自然と軍事強化が進む傾向にあり、皇国から平和条約の締結を打診されて一時は軍縮傾向になったものの、ふたを開けてみれば連合は軍縮の進行をあーだこーだと言い訳して遅らせ、それでも規定を厳守して軍縮を推し進めた皇国側をあざ笑い、何時しか軍事力を背景に皇国を降伏させるつもりだったのかもしれない。

しかし、その事が逆に連合を陥れる結果となったのは否めない。ただでさえ軍事力に差があったのに更に開いてしまうのだから皇国軍部の心情は想像に難くない。そしてそれは軍部によるクーデターという容で現れ、それ以降、両国間での軍拡(表面上は軍拡も軍縮も行わない停滞期を装い)が推し進められていったのである。

そして遂に皇国がパウリナ条約を破棄(自分から提案して破棄するって……)して軍拡を宣言し、連合としても大々的に軍拡する事が出来るようになったが、今現在連合は不景気で、反対に皇国はエネルギー鉱石等の輸出で経済的にも絶好調で軍拡のスピードが予想以上に速いことから、まだ軍事力に大きな差がある今しかないと判断しての遠征だというのがもっぱらに噂である。

そんな事で戦争するなよ!

噂を聞いてベクスは内心そう思いたのだ。これが今遠征を稚拙と判断した理由である。とは言え、軍人として上からの命令は絶対だからと渋々承諾(承諾も何も自分の意志は関係ないのだが……)したのだった。

お陰で駆逐艦の艦長に返り咲く事が出来た。ただ階級は大尉(駆逐艦の艦長は基本的には少佐)のままなのだが……。

「あ~あ、かったるいな~」

ベクスはまた大口を開けて欠伸をする。更に先ほどから眠気も感じて来ていた。

「……昼寝でもしようかな」

すると呼び出しのブザーが鳴る。ベクスは昼寝でもしようと言った矢先にブザーが鳴ったので、悪い事をしようとして見つかったかのように慌ててそれに出る。

 

「ど、ど、ど、ど、如何した!」

 

慌てたため声が上ずった状態で出てしまったベクスに対して通信機の向こうの人物は冷静な言葉をかける。

 

「如何なさいましたか艦長?」

 

冷静でいてしかも何処となく冷たさのある声に、ベクスは思わず固唾を飲む。内線の相手は、彼がこの艦内で最も苦手としている副艦長のビオラ・ルアン中尉だったからだ。

 

「ああーああー副長。ああ……なんだ……俺は別に昼寝……じゃないや……」

「昼寝?」

「あ、イヤ、あのね。昼寝しようと思っただけで、昼寝はしてはいない……」

「艦長もう間もなく作戦宙域に到着します。艦橋に上がってください」

「あ、はい……。喜んで」

「それで、作戦任務中に昼寝をしていた件はあとで」

「いや違うって! 昼寝はしてないって!」

 

ベクスは弁解しようとしたが、その時には既に通信は切れていた。

顔から血の気が引いて眠気が吹っ飛んだベクスは、重い足取りで部屋を後にしたのだった……。

 

ベクスが通路に設置されたスライドハンドルを掴んで通路を進んでいく。艦内は重力が無く、壁に備わっているハンドル状の突起を掴んで移動するのが一般的である。だがこれがこの艦が旧式である事を物語っている。現在建造されている最新鋭艦などでは「疑似重力装置」が備わっていて、艦内でも重力下と同じように行動が出来るのだが、旧式であるユーゴ型には備わっていない。2回目の改修の時に設置する予定だったのだが、結局設置されないままだった。

ベクスが通路を進むと反対側から艦医のロイ・ホースト中尉が現れた。

 

「おや、艦長どうしたんですか? 顔色が悪いようですが……健康診断しますか」

「なんでやねん! 普通診察だろ」

 

とりあえず突っ込みを入れつつベクスは気持ちを落ち着ける。これから副長の処に行かねばならないのだ。しかも勘違いした彼女に会いに行かねばならない。

怖い……。

 

「副長に呼ばれてね」

「あゝそうでしか。それはご愁傷さまで」

 

副艦長の怖さは艦内の轟いており、ホーストは哀れな艦長のこの後の事を思いお悔やみの言葉を言って送り出す。

ベクスは軍医の言葉に思うところがあったが、その事は口にせずに別の話をする。

 

「もうすぐ作戦宙域に到着するので、一様医務室で準備して待機していてください」

「準備? 健康診断の……」

「なんでやねん! 戦闘が起こった時の負傷者の手当だよ!」

 

ベクスは軍医に突っ込みを入れつつ艦橋に向かうのだった……

設定1

【人物紹介】

ベクス・ホワイト・・・・・駆逐艦「DY²-777」艦長。階級・大尉。宇宙歴157年生まれ。

士官学校を優秀な成績で卒業し、30歳で少佐となって駆逐艦の艦長になる。しかし、若さと理想から正義感が強く、それが幸いして上官とのトラブルが絶えず、そのためか大尉に降格して輸送艦の艦長になる。

この一件で軍への理想を失ってやる気を消失し、それ以降は余り職務に専念する事が無くなり、周囲から「昼行燈」と揶揄されるようになる。

ゲーディア皇国への遠征のための軍備増強策の一環で老朽駆逐艦の艦長に返り咲くも、階級はそのまま留め置かれている。

名前の元ネタは「ペガサス級強襲揚陸艦2番艦・ホワイトベース

 

ビオラ・ルアン・・・・・駆逐艦「DY²-777」副艦長。階級・中尉。宇宙暦173年生まれ。

代々軍人を輩出している家系の生まれで、7人兄弟の4番目。

黒髪に黒い瞳、端正な顔立の美女なのだが、軍人家庭に生まれたために非常に厳格で融通が利かず、自分にも他者にも厳しい性格。そのため「昼行燈」と評されるベクスとは最悪な関係であるが、性格故に職務には忠実。

名前の元ネタは「ペガサス級強襲揚陸艦7番艦・アルビオン

 

ブラン・リヴァル・・・・・駆逐艦「DY²-777」の操舵士。階級・中尉。宇宙暦171年生まれ。

身長188cmで筋肉に包まれた屈強な身体をしている黒髪白人男性。軽薄でダジャレ好き、何時も他のクルーを揶揄っては喜んでいる。そのため他のクルーから「脳筋オヤジ」と言われるが、その時は決まって「俺はまだ20代だ!」と言い返すのがお決まりのパターン。

船務士のトムを勝手に子分にしている。

名前の元ネタは「ペガサス級強襲揚陸艦5番艦・ブランリヴァル」

 

トム・グレファン・・・・・駆逐艦「DY²-777」の船務士。階級・少尉。宇宙暦177年生まれ。

物静かで暇なときはゲームをしているオタク気質な金髪白人男性。そのお陰かどうかは分からないが、博学で色々な雑学を知っている。

ブランが自分の事を子分呼ばわりしている事に迷惑している。

通信士のサーサとは恋仲で、その事でブランに揶揄われる事があり、其れでも迷惑している。

名前の元ネタは「改ペガサス級強襲揚陸艦・グレイファントム」

 

サーサ・ラブレット・・・・・駆逐艦「DY²-777」の通信士。階級・少尉。宇宙暦178年生まれ。

金髪碧眼の白人女性。外見と声が幼い事を気にしている。

船務士のトムとは恋仲で、それをネタに揶揄うブランの事を嫌っている。

名前の元ネタは「ペガサス級強襲揚陸艦4番艦・サラブレット」

 

リオン・スター・・・・・駆逐艦「DY²-777」の砲雷士。階級・少尉。宇宙暦178年生まれ。

黒髪にブラウンの瞳の男性。不愛想で非常に無口。必要なこと以外喋らない。しかし、それは人との接し方が分からないためそうなっているだけで、ホントは人と会話が出来たらいいと思っている。が、いざ人と話すと硬直して上手く話せず、相手に不快な思いをさせたのではないかと日々後悔している。

名前の元ネタは「ペガサス級強襲揚陸艦6番艦・スタリオン」

ロイ・ホースト・・・・・駆逐艦「DY²-777」の衛生士。階級・中尉。宇宙暦166年生まれ。

青味がかった黒の髪色をした男性軍医。クルーに対して口煩くメディカルチェックを進めていて、医務室に通信が入るたびに「健康診断か?」と聞き返す。

名前の元ネタは「改ペガサス級強襲揚陸艦・トロイホース」

 

サガ・ペリリウス・・・・・駆逐艦「DY²-777」の機関長。階級・大尉。宇宙暦148年生まれ。

初老の黒人男性。基本的には機関や艦内整備、ダメージコントロールなどはAIにまかされてはいるが、不測の事態に対要するため機関士、応急士はある程度の人員がいて、彼はその長を務めている。

普段は温厚だが怒ると副艦長よりも怖いと噂されている。

名前の元ネタは「ペガサス級強襲揚陸艦1番艦・ペガサス」

 

【兵器紹介】

名称・「DY²-777」

カテゴリー・駆逐艦

艦型(艦級)・ユーゴCUSTOMⅡ(C2)

全長・178m

所属・第3惑星エレメスト統一連合宇宙軍遣外連合艦隊・第12艦隊第3分艦隊第24駆逐戦隊第243駆逐隊。

エレメスト統一連合軍が宇宙暦167年に行った第1次軍備再建計画によって建造されたユーゴ型ミサイル駆逐艦を現代改修した戦闘艦。

宇宙暦173年に結ばれたパウリナ条約に際して破棄される事が決定するものの、ゲーディア皇国を警戒した連合軍が処分を遅らせたために破棄される順番が回ってこず、その最中、皇国との関係悪化を機に破棄されずに現代改修をされるも、艦隊には復帰されず(一様、パウリナ条約を厳守して)その後も留め置かれていたが、宇宙暦196年の皇国による一方的な条約破棄により、2度目の現代改修を経て艦隊に復帰する。

現代改修はされてはいるが、既に30年が経っている老朽艦である。

名称は駆逐艦を意味する「Destroyer」の「D」と、ユーゴ(Yugo.)の「Y」、2回の改修を受けているので「²」そして建造順の777番目である。

777と7が並んでいる為、他の者から「ラッキー(セブン)号」と呼ばれている。

武装

127㎜単装ビーム砲✖1(2回目の改修時に装備)

連装レーザー機関砲✖8(1回目の改装時に増設)

ミサイルランチャー✖30(前部18門、後部12門)

乗員人数・32名

 

 

開戦

宇宙暦170年1月、ゲーディア皇国初代皇帝「ウルギア・ソロモス」は、帝位を娘の「パウリナ・ソロモス」に譲り退位した。

2代皇帝(女帝)となったパウリナは、対立関係を深めつつあったエレメスト統一連合政府との友好関係の強化を図る。

4年戦争中、同盟を結び、戦後は独立を認めた統一連合政府であったが、本音としてはアフラ解放戦線と同じく独立を認めず、戦争前の連合による世界統一が目的だったのだが、長引く戦乱で疲弊した連合にはもはや独自の力だけで戦争を早期終結させることが困難なところまで来ており、苦肉の策として政府首脳陣は皇国の戦争協力を要請することとなったのである。

これまで戦争協力を頑なに誇示してきた皇国であったが、連合からの自治権を認める条件に戦争参加を快諾、連合側として戦争の早期終了に貢献したのである。

そんな経緯の許生まれた皇国を連合が快く思っていないのは必定で、連合は故有れば皇国と一戦交えると噂されていた。しかし、戦争で疲弊した連合は国内経済や都市再建を優先して軍事は後回しにされ、更に再建での膨大な量の資源は皇国から購入する事となり、皇国は一気に資源輸出国として飛躍的に経済発展していくことになる。

特に、第4惑星でしか産出されないレメゲウムと呼ばれる鉱物(のちに他の資源小惑星にもある事が判明)は、圧縮して結晶化する事で膨大なエネルギーを取り出す事の出来る鉱物で、それによって皇国は政治的にも経済的にも有利な立場になって行く。

そして宇宙暦167年、国内再建が一段落した連合は、急速に発展する皇国を警戒して第一次軍備再建計画を発表、皇国を仮想敵国とし、急速に軍備拡張路線を突き進む。

一方、皇国では当時は余り軍事に力を入れていなかったものの、連合の動きに危機感を持ち、資源輸出によって得た潤沢な資金力を持って軍備拡張を進める。

こうして両国が軍拡競争へと向かう中、世界中の人々が再び戦争になるのではないのかと不安を抱える事になる。

そんな中、皇帝となったパウリナはこの対立構造を解消するため奔走し、宇宙暦173年に両国の発展と平和を願った平和条約の締結にこぎつけるのである。通称「パウリナ条約」と呼ばれるこの条約は、これ以上の軍拡を禁止して両国の協議によって軍縮を行うというもので、同年に第1回軍縮協議が行われる。ここでは具体的な軍縮案は提示されなかったが、翌年の第2回には提出された軍縮案がほぼ可決するに至ったのだった。

これで世界が平和になる。4年戦争のような悲劇が無くなると思われた宇宙暦177年7月、皇国でクーデターが勃発して2代皇帝パウリナが幽閉される。「7月事件」と呼ばれたそのクーデターの首謀者はパウリナ条約に反対する軍部将校たちで、3代皇帝にパウリナの兄のサスロ・ソロモスを据えて軍事政権を樹立したのである。

この政権の誕生に警戒を強める連合だったが、意外にも軍事政権はパウリナ条約を破棄する事は無く、表面上は条約を結んだままであった。しかし、軍縮に対しては一切を停止しこれ以降両国が軍縮を進める事は無くなったのだった。

ここから皇国内に暗雲が立ち込める事になる。まず手始めに宇宙暦180年にはクーデターを起こした軍部将校たちが、皇帝サスロの命を受けた近衛軍によって粛清されるという「5月事件」が起こり、その後も近衛軍による政治犯やその疑いがある者の粛清(虐殺)が頻発し、皇国内はサスロの恐怖政治によって支配されて行くのであった。

更に対外政策においては、皇国が秘密裏に軍拡をしているという情報により、連合との関係が完全に冷え切ってしまい、連合も水面下で軍拡の準備を行う事になり、世界は一気に緊張状態になって行くのだった。この時期、戦争が起こらず年を越して新年を迎える度に「奇跡の1年」「2年」「3年」と続いていき、何時これが止まるか、いつ終わるとも知れない恐怖と不安が世界中に蔓延して行くのだった。

宇宙歴189年4月、とある施設を視察するため向かっていた最中、サスロが乗った公用車が何者かによって襲撃される事件が起きた。この襲撃により皇帝サスロは死亡。一緒にいた近衛軍司令官も皇帝と運命を共にする。

突如、皇帝とその皇帝の片腕として恐怖の象徴であった近衛軍司令官の死は皇国に衝撃を与えた。そして皇帝を襲撃した者たちはその勢いに乗って皇国首都ミシャンドラ・シティへ軍を向かわせたのであった。彼らは民主主義を掲げ、専制政治である皇国を打倒し、新たな民主主義の国家を築こうと立ち上がった者たちで、それは軍内部にもいて彼らが一斉に蜂起したのだった。

しかし、彼らのクーデターは未遂に終わるのだった。当時の皇国軍総司令官「サリュード・A・T・A・ネクロベルガー」元帥の迅速かつ的確な指揮のもと、情報が錯綜してパニック状態の軍を立て直してクーデター軍を鎮圧したのである。

それ以降、ネクロベルガーは影の支配者として皇国を動かしていく。

4代皇帝に先々代の皇帝パウリナの娘であるノーヴァ・ソロモスを戴冠させ、自らは摂政となり、政治と軍事の両方の実権を握る。

更に宇宙暦195年にノーヴァが不慮の死(暗殺説あり)を遂げると、当時6歳の彼女の息子「ウルキア・ソロモスⅡ世」を5代皇帝に付けて自身は再び摂政となる。

さらに翌年の1月3日に、ネクロベルガーは平和条約パウリナ条約を破棄、皇国軍の再軍備拡張を公に宣言する。

これを受けて、連合軍も翌日に極秘裏に進めていた第二次軍備再建計画を公に発表し、当初小規模だったものを大規模体制に移行する。

そして宇宙暦197年7月、エレメスト統一連合軍は、ゲーディア皇国に対して宇宙艦隊の派遣を決定。同年8月中頃に宇宙艦隊の半数である6個艦隊を第4惑星へと派遣する。

一路第4惑星へと向かった統一連合宇宙軍・遠征艦隊は、同年8月26日午前9時、その眼前に皇国軍の最前線基地ともいえる第4惑星の第2衛星「アンラ・マーユ」に到着するのだった……