怠惰に創作

細々と小説の様なものを創作しています。設定など思い付いたように変更しますので、ご容赦ください。

犬を連れた独裁者 FILE8

貴族に付いては後日と言う事にして、次はネクロベルガー総帥の国内外での評価に付いて話そうと思う。

先ずはゲーディア皇国内での評価だ。

専制国家の支持率など信用出来ないと思うかもし得ないが、それは国家の元首である皇帝に関してだけで、その他の国家要人に付いては調査があり、ある程度支持率も分かっている。それが改ざんされている恐れはあるが、その中でもネクロベルガーは比較的改ざんの恐れがない人物である。

あんまりそういった事には無頓着らしい。政治家(軍人)にしては珍しいタイプだ。

結果から言うと、ネクロベルガーは概ね支持率は高い。その理由として大きいのはバラマキ政策が挙げられる。

政策とは言ったものの、彼がバラ撒くのは自身の資金、すなわちポケットマネーなので厳密にいえば政策ではないのだが、資金力にモノを言わせて国民に金をバラ撒いて国民の支持を集めてるとも言える訳だ。

最たる例が前回も話した第31都市「フォラス・シティ」でのパンデミックだ。この時ネクロベルガーは、フォラス・シティの全市民に対して毎月1000ルヴァーを1年間支給している。これ以外にも色々な援助や資金提供を行っていて、特に市民に対して救済に託けて多額の寄付をする事が多い。なので国民からはの評価が高い。

無論、ネクロベルガーのこれらのバラ撒きに対し、人気取り偽善行為などの非難の言葉もあるが、多くの国民からは生活の助けとなるため喜ばれているのは確かだ。

一方、国の中枢を担う議員や貴族たち、その他にも軍内部、それに経済を握る経営者や資産家と言った有力者からは如何思われているかだ。これに至っては何か特定の調査が行われている訳では無いため支持率は分からないのだが、取材等で聞いた噂話程度ではあるが、それらを整理してみて分かった事は、彼らからの支持率は高くないと言わざるを得ない。

例外を上げるなら軍部だ。此方は支持率はほぼ100%に近いだろう。サロス暗殺事件のドサクサに紛れて反対派を粛清したしな。イヤ、反対派がサロス暗殺に加担していただけで、彼からしたらラッキーだっただけかもしれないな。

軍は兎も角、その他の国の中枢を担う者達から支持を受けていないと言う訳だ。

当然の事だが、面と向かってネクロベルガーに敵対する者はいない(そんなことしたら親衛隊に睨まれるからな)。要は、腹の中ではあまり快く思っていない者が多いという訳だ。

特にネクロベルガーのばら撒きには彼個人の資金を使っているので、国の資金が使われている訳ではない。そのためネクロベルガーが勝手に援助してしまうと、市民から「総帥個人が国のため国民を救済するのに、なぜ国や領主貴族は民を助けないのだ!」と非難される恐れがある。それを避けるには彼に先んじてやらなけらばならないのだが、給付するにも色々と手続き等が必要なので、そこまでスピーディーに行えないのが実情なのだ。

それに対してネクロベルガーはと言うと、自分のポケットマネーを使用するためすぐに給付が出来てしまうのだ。

まぁ、こっちの方も実際にやると色々大変なのだろうが、ネクロベルガーには彼の手足となる総帥府の連中や親衛隊がいるため、彼らを使って行っているのでかなり早い。お陰で議会や貴族の給付はネクロベルガーの後塵を拝する訳だ。

しかも、ネクロベルガーが給付した金額よりも高額で無いと、また非難の種になるため高額給付にならざる負えないのだそうだ。そう言った事もあり、議員や領主貴族の面目丸つぶれになりかねないため、彼らからは余計な事をするなと思われているのだろう。

まぁ、住んでる市民からしたら有難いのだが、統治している者からしたら迷惑この上ない事なんだろう。例のフォラス・シティのパンデミックの時も、ネクロベルガー自身は給付を続けるつもりだった様だが、領主のフォラス伯爵や皇国議会からの要望で、1年で停止したと言うのが専らの噂である。ま、あくまでも噂だけどな。

こうして見ると、ネクロベルガーは国民のために金集めをしている様にも見える。多くのレメゲウム鉱山を所有し、多くの企業に投資したりと金になる事を貪欲に追及している。傍から見たら単なる金の亡者なのだろうが、その理由が市民が窮地に立った時にばら撒くためなのだ。

そのため一部の人々からは偽善者と呼ばれいるそうだが、これは彼の生活環境がそうさせたとも言える。

彼の義理の両親であるネクロベルガー夫妻は慈善活動家としても有名で、そんな親の影響を受けてネクロベルガー自身も慈善活動に力を入れているのかもしれない。

それにしても異常なほど金を集め、それを下々にばら撒いている姿は常軌を逸していると言っても過言ではないけどな。

因みに、彼自身の生活費は軍の最高司令官としての給料で賄っている。まぁ、至って普当たり前の事なのだが、よくある質素倹約などの生活自体を切り詰めて‥‥‥と言った話ではない。むしろ、まぁまぁな高給取り(実際いくらもらっているか知らんけど)の筈なので、一般の人よりかは裕福な生活を送っている。実際そこからは一銭たりとも他人に寄付する気はないらしい。あくまでばら撒くのは鉱山や投資などで稼いだ資金だけである。そこの処はキッチリと分けている様だ。

総括するとネクロベルガーの皇国での評価は国民の多くが支持していて、皇国中枢や有力者たちは、表面上は支持しているが腹の中では分からないと言った処だろう。起業家や有力者からすると、元々大金持ちであるネクロベルガーは、献金し様が賄賂を贈ろうが彼らの思惑通りには動いてくれない。かと言って、下手に対立しようものなら親衛隊に目を付けられる事になるのだから、上っ面だけでもいい顔をしていなければならないと言う訳だな。もし何かしようものなら、最悪全財産を没収されて投獄されてしまう恐れもある。この国でネクロベルガー以上の権力者、有力者は居ないのだ。例え皇帝と言えども‥‥‥。

しかも質が悪い事に、ネクロベルガーはそうなって欲しいとさえ思っている節があるのだそうだ。何故、皇帝令1号(人権剥奪法)なる法律をサロスに施行させたのか、それは彼が犯罪者を利用するためで、要は犯罪者を自らの特別労働者(奴隷)として好きに使うためなのだとか。しかも、それが有力者であれば多くの財産をも没収する事が出来るため、ネクロベルガーとしては一石二鳥なのだ。

但し、財産に付いてはネクロベルガーが没収するのではなく、その有力者の住民登録された都市や、所有する不動産などの資産がある都市の領主貴族が没収する事になっている。これは領主貴族にも一枚噛ませる事で、有力者と領主貴族を癒着させないためらしい。

有力者からしてみれば、何かあれば自分を裏切って財産を没収して来る領主貴族とは、とてもじゃないが手を結ぶ気にはならないだろうと言う考えなのだろう。

有力者の悪事に加担した貴族が、何のお咎めも無く、しかもその有力者の財産を没収出来ると言うのは可なり不公平にも思えるが、皇国の法律、特に犯罪に関しては不平等な記載が多いのだ。考えとしては、不平等にする事で、自身の罪を逃れるために仲間を警察に売る者が現れやすくなり、犯罪の早期解決に繋がると期待されている、との事だ。

確かに犯罪者同士が疑心暗鬼になれば組織犯罪は減る。かもしれないが‥‥‥。

例えばエレメストでは、証人保護プログラムがあって、犯罪組織などを内部告発したり事件の証人を保護する方がある。しかし、如何も皇国にはそう言った制度が無いそうなのだ。これでは御礼参りを気にして誰も告発しない様に思うのだが、意外な人物からの告発があるらしい。それが犯罪組織のボスなのだそうだ。如何いう事かと言うと、犯罪組織のボスが、部下に命じて起こした犯罪を警察にチクる事で、その実行犯の部下は捕まるものの、命じたボス本人は警察に協力したと言う事で、罪には問われないのだ。

一体全体どうしてこんなトンデモな法律が有るのかと言うと、防犯カメラがそこら中に有る皇国では、犯罪は例えカメラのない建物内であっても、少し調べれば犯人が分かってしまう。そうなると、すぐに組織のボスが黒幕であると分かるため、ボス自身も逮捕されてしまう。だが、其れだと犯罪組織が無くなり犯罪者が減ってしまい、そうなるとネクロベルガーとしては、彼の鉱山で働く特別労働者(受刑者)が減る事になる。そのためボスを残す事で、特別労働者(犯罪者)の供給を絶たないようにしているのだと言うのだ。だから犯罪組織のボスは、部下に罪を擦り付けて無罪放免になれるのだとか。

本当にトンデモナイ事だ。しかし、ボスが自身の保身のために自分を警察に売るとバレたら如何する積もりなのだろうか? 果たして部下たちは組織に、ボスに忠誠を誓えるだろうか? 確かに犯罪組織内部は疑心暗鬼でごちゃごちゃになるかもしれない。一時期、犯罪組織のボスが部下に殺される事件が頻発していた様だし、今現在、皇国にこの手の犯罪組織が居ないのは確かだ。この法律の影響かもしれないが、犯罪組織も様々である。地下深くに潜って気付かれていないだけかもしれないし、元々上下に繋がりが全く無い組織だってある。そういう時は如何なるのだろう? やはり捕まえ易い下っ端だけが切り捨てられて、上はのうのうと犯罪を続けるのだろうか? それはそれで可笑しな話だと思うのだが‥‥‥。

まぁ、下っ端も理由は如何あれ、抑々犯罪に手を染めた時点でアウトだから同情の余地は無いのだろうが‥‥‥。

又しても話が逸れてしまった。話を戻して、今度はエレメストでのネクロベルガーの評価だ。

エレメストでネクロベルガーは概ね独裁者となっている。犬を連れた独裁者と揶揄しているのもエレメストだけである。

兎に角、エレメストではネクロベルガーと言うか、ゲーディア皇国自体にのレッテルを張りがちだ。貴族も政治家も序に軍隊も親衛隊も悪で、皇国国民は彼らによって自由を制限され、搾取にあって辛い生活を送っているのだと、エレメストの報道関係者はよく報じている。

一応、エレメストと皇国は国交も正常だし、貿易もしているのにトンデモナイ言われようである。来てみれば分かるが、貴族は至って真面に都市行政を行っている様に見えるし、国民も其れほど搾取されている様には見えない。日常の自由だってエレメストと殆ど変わらない。

当然完璧とは行かないが、それはエレメストだって同じだ。とは言え、この手の報道をエレメストの多くの人々は信じているのだ。

理由としては、ゲーディア皇国はとりわけ観光地と言う訳ではないので、この地に赴くエレメストの人間はそれほど多くないと言う事が挙げられる。来るのは専ら仕事や移住者で、彼らも一々エレメストに向けて情報を発信する事も少ないのだ。そのためニュース報道だけが皇国の内情を知る手段の大部分を占めていて、信じてしまう人が多いと言う訳だ。

俺だって来る前までは全部とは言わないまでも、信じていた部分もあるからな。

他にも、エネルギー問題もある。昨今のエネルギー事情で大きなウエイトを占めているのが皇国のレメゲウムである。エレメストでは一切産出されないこの新たなエネルギー物質は、今の人類にとって重要なエネルギー資源となっている。そのためこのレメゲウムの輸出を皇国が止めるだけで、エレメストはパニックに陥るのだ。

一応、エレメスト統一連合政府も、所謂「レメゲウムショック」を避けるために、小惑星帯でレメゲウムが取れる小惑星を見つけてはせっせと採掘してはいるのだが、それでも未だに6割以上を皇国に頼っているのが実情だ。しかも、皇国の3分の1以上の鉱山をネクロベルガーが握っているため、レメゲウムの価格にも総帥様の意思が反映してるって訳だ。

こう言った事情もエレメストの人々から見れば、皇国に対する不安を掻き立てる原因にもなっている。今の価格は産出が始まった初期の頃と比べると、5倍近くまで上がっているため、これ以上あがるとエレメストの人々の家計にまで響いてしまう。もうすでに響いている人も居るだろうな。

あと付け加えるなら、エレメスト連合政府内に親皇派と反皇派との対立構造がある。言うまでもなく、親皇派は皇国と良好な関係を結ぼうとする一派で、反皇派は皇国に対して強硬な態度を取っている一派だ。今ではゲーディア皇国とは全く関係ない政策に対しても意見を対立させている有り様だ。こう言うのも皇国に統一連合政府が掻きまわされていると思われていて、皇国に対する不信感にも繋がっている。

こう言った多くのエレメスト国民が不信や不安を抱えている中で、歪んだ報道による情報が入れば、誰だって皇国をと思うようになって行く訳だ。それだけ連合政府や有識者たちが、ゲーディア皇国を恐れている証拠なのかもしれない。

皇国は皇帝による専制政治を行っているとエレメストでは報道されているが、しかし皇帝がトップではあるものの、実際に国を統治しているのは議員などの行政に携わる者たちである。皇帝は高い権力を保持(皇帝の権力は憲法より上)してはいるが、実際その権力を行使したのは3代目のサロス帝くらいで、ウルギア帝もパウリナ帝も行使していない。そう言う処でふたりはエレメストでも一定の評価されている。

国民に対しても皇帝は実質的に統治はしておらず、実際の統治者は領主貴族であり、各都市自体はその領主貴族によって様々な政治形態で行政を執り行われているのだ。そこには専制(独裁)もあれば民主的な政治もある。と言うか、何方かと言うと民主的な都市が多い。なかには権威主義的な都市もあるものの、市民が生活している都市自体はエレメストと同じ民主的な国家? と言ってもいいだろう。それに、自身が住んでいる都市の政治体制が嫌なら、自分にとって住みやすい都市を選択すればいいだけで、その自由は保障されている。

一部例外はあるにせよ、ゲーディア皇国に民主的な都市が多いのは、領主貴族の多くが元々エレメスト統一連合政府出身の議員や官僚で構成されているからだと思う。エレメストでは独裁体制専制政治は悪と刷り込まれているからな、専制や独裁が良くないと思っていなければ、実質永久領主である領主貴族がワザワザ民主的な政治を行う理由が考えられない。

選挙が無いから、今迄みたいな国民の人気取りはしなくていいし、皇帝に睨まれなければ死ぬまで領主で居られる。なので、全領主貴族が専制統治を布いてもいいのだが、実際はワザワザ市議会議員のポストを作って市民による投票で市議を決め、議会での話し合いで行政を行っているのだ。

これもエレメストでの刷り込み効果なのかもしれないな。

ただ、エレメストの人々は口々に専制政治や独裁政治は嫌だと言う意見が多いのだが、実際に皇国に来てみて、専制政治の都市の人口を見てみると、意外にも少なく無い事が分かる。第2都市「アガレス」や、第3都市「ヴァサーゴ」は、専制政治の都市ではあるものの、皇国でもトップ5に入る人口の多さを誇っている。

これは多分、領主貴族の政策が順調なら、別に専制や独裁でもいいと思う市民が多いと言う事だろう。面倒な選挙に行かなくてもいいんだからな。

あ、言っとくが俺は面倒だとは思ってなかったからな! 選挙に行くのは国民の義務であり、投票によって自分の日々の生活が決まってしまうんだからな! ま、俺が投票した奴は必ず落選するんだけどな。‥‥‥何でだよ!

え~と~、話を戻そう。

皇国で専制都市が此処まで上手く行っている理由のひとつとして挙げられるのは、皇帝の存在が大きいだろう。皇帝の一声で領主貴族の首が飛ぶのだ。例えば体制に不満がある市民が集まってデモなどが起こった場合、領主貴族はそれを抑えなければならない。だが、何時まで経っても解決できない(昔は私兵を動員できたが今は出来ない)と、皇帝から領主貴族は領主失格の烙印を押されてしまい、その座を下ろされてしまうのだ。なので貴族にとっても、おいそれと市民の不満を招くような政策を施行する事が出来ないと言う訳だ。まぁ、これは前にも説明してるよな。

一応、皇帝と貴族は切っても切れない間柄なので、この手の事柄はなあなあになってしまう事もある。しかし、皇帝が毅然とした態度を取る事で、貴族たちに上下の関係をハッキリさせ、身を引き締めると言った意味合いもあるのだ。

これが一種のストッパーとなって専制体制の都市でも滅茶苦茶な政策は施行されず、例え施行されたとしても、充分な説明をする事で市民に納得してもらうよう努力するのが領主貴族の勤めになっている。

市民だって馬鹿ではない。如何してもやらなければならない政策ならば、懇切丁寧に説明すれば分かってもらえるはずだ。

それに何も100%の市民に分かって貰えばいい訳ではない。所謂51%の法則で、僅かであろうと過半数を超えればいいのだ。それを面倒と説明責任を放棄すれば市民との信頼関係が崩れてしまい、何をやっても悪い方向に取られてしまう。

抑々領主と民は税金の取る側と取られる側の関係にあるので、大概の事で拗れるんだ。そのため信頼関係は重要だ。

ま、何処に行ってもこればかりは上手く行かないものだが、だからと言って投げやりになるのも良くないと俺は思っている。歩み寄るのが重要なのだ。綺麗事に聞こえるかもしれないが、綺麗事でもいいじゃはないか。綺麗事だと切り捨てていると汚い世の中になってしまう。世の中汚いと愚痴っている人がいるが、その人自身が綺麗事を綺麗事だと言って切り捨てていれば、世の中が汚いのはその人自身にも責任があると俺は思うのだ。

最近はエレメストでも選挙の投票率の低下が問題になっている。場所によっては50%を切る都市もあるほどだ。選挙に行きたくないと思っているエレメスト国民の諸君、皇国の専制都市はお薦めだ。なーんてな。

冗談はやめてこれも深刻な事だ。政治家を選ぶのは自分の生活を守ることに直結する。選挙で投票しないと言う事は、自分の生活が如何でもいいと言っている様なものだ。その癖、国の方針に従わないと言うのでは、それは立派な犯罪である。自分ではクズみたいな政治家に従わないのが正義だと思っているのだろうが、クズでも国の方針を決定させれば、国民はそれに従わなければならない。従わなければ犯罪者と同じである。

だから選挙は重要なのである。クズや無能を選ばないためにも、国民が確りとした目で選ばなければならない。

俺、ちゃんとした人を選んでいるつもりなのに、何で当選しないんだ? 不思議だ。

こうならない為(こうならないって、俺みたいに当選しない人を選ぶと言う意味じゃないぞ!)にも確りとした目を持つべきだ。例え投票したとしても、面倒だからと適当に選ぶのは選ばないのと同じである。自分の生活を守る為にも確りと立候補者の主義主張には耳を傾け選ぶべきである。

イヤ、俺、結構確りと考えてるんだけどな‥‥‥って言うか、何で俺はエレメストの選挙の話してるんだ? 今はゲーディア皇国‥‥‥じゃなかったネクロベルガーのエレメストでの評価の話の筈なのに‥‥‥。

まぁ兎に角だ、よく考えて投票しろって事だ。じゃなかった、エレメストでのネクロベルガーの評価は悪いと言う事だ。完全に悪の独裁者と言った感じだな。それに比べてノウァ帝の評価は上々である。まぁ、彼女美人だし、同じく美人女帝だった母親のパウリナ帝もエレメストでは一定の人気があった。彼女はパウリナ条約で戦争をしない皇帝として平和主義の象徴とされていて、エレメストの国民からも好意を持たれていたんだ。それに美人だし‥‥‥。

見た目の事ばかり気にしてると思うなよ! 見た目は重要だ! 美男美女ってだけでその他の人間よりも収入が高いし出世も早い。人は見た目じゃないとか言うけど、やっぱり見た目なんだよ! 

イヤ、まぁ‥‥‥あゝそう言えば、俺の元カノが俺の事を「貴方は何かが足りないイケメンよ」って言ってたな。あれって如何いう意味なんだ? あの時は軽く流したけど、今思うと腹立って来るな。何かが足りないってないんだよ!

まぁ、まぁいい、そんな事は如何でもいい‥‥‥。

ハァー‥‥‥何だか気分が落ち込んで来たのでここで終わろうと思う‥‥‥。

明日はH計画とクリミヨシ博士への取材だったな。少し早いが明日のために、もう寝るとするか‥‥‥。

 

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犬を連れた独裁者 FILE7

ネクルベルガー総帥は、様々な仕事を兼任してはそれを自身が任命した代理の者に押し付け‥‥‥失礼、任せている。だが、そうなると、彼自身は一体如何いった仕事を行っているのか? と言う興味が湧く。ネクルベルガーの私生活や職務に付いては基本極秘扱いなので、何をしているかに付いては詳しくは分からない。しかし、噂や職務内容についての基本情報を元に解説して行こうと思う。

まず最初は軍の最高司令官である国防軍・総軍司令長官の職務だ。彼は軍人なのでこれが本職である。就任当初は軍政と軍令の両方を兼任した役職だったのだが、後に軍政大臣と軍令本部総長を、軍務大臣と参謀本部総長と改名して各々に仕事を任せている。そのため、実は総軍司令長官はこれと言った仕事が無いらしい。無論、各種会議やらなんやら出席しているとは思うが、一般的な仕事は無いと言ってもいい様だ。職務を両元帥に委任した事で、総軍司令長官は名誉職の様な扱いになってしまったと言う事らしい。

但し、総軍司令長官は、軍の大元帥たる皇帝の代理として統帥権を預かっているため権力は有しているし、その権限は馬鹿高い。有事の際の皇国国防軍の意思決定権は総軍司令長官であるネクロベルガーにある。戦争の意思決定を一人の人間によって執り行われるのは、シンプルで良いとも言える。

エレメストでは、有事の際は宇宙軍省と地上軍省から各々高級参謀が集まって統合作戦司令本部を設立し、彼らの合議によって作戦行動が決められる。過去に一度4年戦争時に結成されているのだが、各々の立場による思惑などが絡みあった結果、初戦の劣勢に繋がったとも言われている。そう言う意味では、柵のない皇国のやり方は良いと言ってもいい。しかし、一人の人間に絶対の権力があると暴走する恐れもあり、どっちが良いとは一概に判断する事は難しい。要するにどっちもどっちと言う訳だな。

まぁ、これはあくまでも戦争が起こったらの話だ。戦争が無ければネクロベルガーは名誉職扱いの職で退役まで過ごす事になる。此れと言った仕事も無く、それでいて給料も貰える。羨ましい限りだ。

さて、本職の軍がこのありさまと言う事で、続くは摂政としての職務だ。

摂政は皇帝の代理として本来なら皇帝が行う執務などを代わりに行っている。執務は国事行為関係などの書類に皇帝が目を通して決裁する事だが、今現在はノウァ帝が行うようになって来ていて、実はネクロベルガーはやっていないらしいのだ。摂政がいる意味ないじゃないか!

まぁ、ノウァ帝ももう立派な大人なので、何時までもネクロベルガーに頼ってばかりではいけないと言う事だろう。当然と言えば当然か。なので、ネクロベルガーは摂政と言うよりも、ノウァ帝の補佐役みたいなものになっている様だ。本来皇帝の補佐役は宰相の役目なんだが‥‥‥。

そうなるとますますネクロベルガーが何をしているのか分からなくなってくる。前回でも言ったかもしれないが、本当に仕事してる? と、チョット疑問に思ってしまうのはこのためだ。何かしらはしているのだろうが‥‥‥。当然ながらセキュリティ上の事でネクロベルガーの日々の予定は極秘扱いだ。正式に何をしているのかわ分からない。お手上げだ。

仕事について謎が多いネクロベルガーだが、私生活も謎に包まれている。

ネクロベルガーは、ミシャンドラ・シティの地表面部にサスロ帝から賜った屋敷が、同シティの地下第2階層の軍区画に家族と住んでいた家がある。しかし、ネクロベルガー自身は地下第1階層の行政区画にある総帥府内の自分の執務室の隣に生活スペースがあるらしく、日々そこで暮らしているとか。遅刻とかはなさそうだ。

冗談はさて置き、警備と言う観点で言えば最も堅牢な住居かもしれない。親衛隊が四六時中警護しているからな。まぁ、邸にいても親衛隊の警護は付くだろうけど。

それに噂レベルではあるが、ネクロベルガーは可なりのインドア派で、公務でもない限り外出する事はほぼ無いそうだ。一日の殆どを執務室と住居スペースを行き来しているだけだとか。引きこもりか? 人の行動をとやかく言うつもりはないが、俺は絶対に嫌だね。仕事でしか外出しないなんて人生損してる。

と言う事で、ネクロベルガーの職務と私生活に付いてはこれくらいしか話せないので、次はネクロベルガーの功績と言うものも語っておこうか。

例えば皇帝令第1号(人権剥奪法)だな。これは公けにはサロス帝の功績? 悪法? と言う事に成ってはいるが、ネクロベルガーが大きく関わっているのは事実だろう。如何考えてもサロスだけじゃあぁねぇ‥‥‥。それにサロスはネクロベルガーとの密談の後に皇帝令を出したんだ。ネクロベルガーが吹き込んだに決まっている! と思っているのはクエスの奴だが俺もその考えには賛同している。

この他にもネクロベルガー(サロス)が行った「私兵禁止法」がある。これは貴族が私兵を持つ事を禁止した法案だ。元々これは貴族の力を削ごうとした軍事政権下で出た案らしいのだが、ネクロベルガーはこれをサロスの持つ皇帝の権限によって実行に移したのだ。

抑々ゲーディア皇国の貴族は、ウルギア帝がクーデターを起こしてゲーディア皇国として独立した時に、協力してくれた者の中で特に功績のあった人物を貴族に任命したのが始まりである。なので元は政治家、高級官僚、高級軍人なのである。そんな彼らは任せられた宇宙都市の行政権を一手に握っており、その中に軍権も含まれていたのだ。

一応、国防軍があるため貴族の私兵には国防の意味はなく、上限も設けられていた。そんな中でも貴族たちは私兵を揃え、趣向を凝らした軍服を着せて貴族としての威厳や権威を示している。各都市で行われるカーニバルなどで、着飾った私兵がパレードを行ったりもしていて、そう言う意味では貴族の私兵は見せるための軍隊とも言える。現在は私兵が居ないため、そう言ったパレードには臨時雇いのパフォーマーが嘗ての私兵が着ていた豪奢な軍服を着て行っているそうだ。

ただ、72の都市に大小さまざまな私兵隊がある事に、国防軍は不快感を持っていた様である。彼らは国を守る軍隊だが、私兵は都市、もっと言うと貴族個人とその一族を守るだけの部隊であり、国防どころか都市防衛にも余り期待できない存在とも言える。そのくせ彼らの軍が連携すれば、国防軍すら脅かしかねない規模の軍隊になるのだ。国防軍でなくとも警戒するはずだ。まぁ、貴族間の派閥抗争のお陰でそう言う事態にはならなかっただろうが、大きな力であることは確かである。

ただこれに対してウルギア帝は、あまり関心を持たなかった様だ。お陰でアガレス大公やヴァサーゴ大公など、一部の貴族は上限規定を破って私兵を増強させてもいる。

此処でひとつ皇帝と貴族の関係についておさらいしておこう。

皇帝は領主貴族を任命し、彼らに各宇宙都市の統治を完全委任してその権限を保証している。そのため領主貴族は自身の統治する都市内では絶大な権力を持っていて、徴税権や法律(条令)の制定も自由に出来る訳だ。その代わりに都市の税収から皇帝(皇国政府)に上納金(大体税収の3%~5%)を収める義務があり、他にも領主貴族は一族から近衛軍将校を輩出したりしている。皇帝は貴族の任命とその権力の保障、そして貴族は皇帝(皇国)に対して上納金を収め、近衛士官となって皇族を守ると言った関係で結ばれている。

勿論、領主貴族が統治者に相応しくないと判断されると、皇帝権限で彼らは罰せられる事になる。処遇は主に三つあり、罪が重い順に爵位の剥奪、当主権限の剥奪又は爵位の降格、謹慎である。

爵位の剥奪は文字通り貴族としての称号である爵位(大公、侯爵、伯爵、子爵、男爵)の剥奪で、その瞬間から貴族ではなくなり一般人になると言うものだ。貴族にとって最も重い処遇だろう。

当主権限の剥奪又は爵位の降格は、領主貴族が当主の座を追われて謹慎処分に処されるものと、貴族の爵位が下がるもののふたつである。ふたつと言っても実質はひとつに等しく、要は当主の座を剥奪されると言う事は、領主貴族(大公、侯爵、伯爵)ではくなると言う事で、その下の子爵に降格になると言う事だ。当然子爵は男爵になってしまう事になる。男爵は通常大きな功績を上げた一般人に与えられる称号で、貴族がその爵位に落とされると言うのは屈辱以外の何物でもない。他の貴族からは嘲笑の対象となる。

当然だが、男爵が降格すると一般人になってしまう。ひとつ目の爵位剥奪と同義と言う事で、男爵位の者にこの処罰は適応されないそうだ。まぁ、ひとつ目の爵位剥奪になる訳だな。

三つ目の謹慎は、主に自宅謹慎に処される場合が多く、よっぽどの事でなければ大体貴族は何かやらかすと邸に数か月から数年(大体1、2年)謹慎する事になる。あとは別の貴族に預けられる場合もあるらしい。

話を領主貴族に戻すと、当主がその座を剥奪された場合、元々決められていた嫡子が跡を継ぐ事が難しくなる、らしい。その理由は前当主と統治方針が被っている場合があるからだそうだ。前当主の統治が行き届かないために騒ぎが起こったのに、また同じ統治方針では意味が無いからな。そのため後継者はその一族の中で皇帝の独断と偏見で決められるが、大体が宮廷貴族から選ばれる。

領主貴族の爵位は、現当主とその後継者だけが与えられるもので、その他の兄弟親戚筋は全員子爵となる。そのためこの国では、子爵位が一番多い。

子爵は、基本的には一族が納める宇宙都市で、市議会議員のひとりとして領主貴族を支えるのが専らの仕事である。貴族と言っても「働かざる者食うべからず」なのがこの国の貴族なのだ。とは言え、貴族も一人の人間であり、全ての子爵が市議会議員の仕事しかしていない訳ではない。外に出てビジネスを始めたり、領主貴族(親)の援助の下、芸術や趣味に傾倒したりなど様々である。

そんな中でも宮廷貴族となって、上院議員としての職務に付くものがある。この宮廷貴族、上院(貴族院)議員になる子爵には、ふたつの目的がある。ひとつは領主貴族からの命令である。幾ら自身の領地(宇宙都市)の行政を一手に任されているとはいえ、宮廷(皇帝)や国そのものの内情を知らねばならない。そう言った情報を得るために宮廷貴族として自身の身内の誰かをスパイでは無いが、送り込む必要がある。

ふたつ目は領主貴族との統治方針の違いにより、出奔した者である。子爵は、市議会議員として領主貴族を支える立場ではあるが、統治方針の違いから対立してしまう場合もある。そうなった場合、殆どの子爵が市議会議員を辞して出て行く事が多く、彼らは大体宮廷貴族になる。この場合、彼らは一にも二にも皇帝との結びつきを強くする事を前提に行動する。理由は簡単、万が一にも自分の一族の領主貴族が爵位降格になれば、自分にチャンスが回って来るからだ。皇帝も自分に尻尾を振‥‥‥失礼、忠実な貴族を次の領主貴族に任命したくなるのは人情と言うものだろう。

お陰で貴族の兄弟仲や親戚仲は良くない場合が多いとか、そう言った噂がある。要するに何かあった場合、私を次の当主に指名してアピールを皇帝にしているって訳だな。浅ましい事この上ない。

因みに、領主貴族の後継者指名は皇帝が行うが、場合によっては摂政や宰相が指名する場合もあり、宮廷貴族たちは彼らにも尻尾を振っている。そう言った思惑やらなんやらが絡みあって領主貴族は選ばれている訳だな。ヤダヤダ‥‥‥。

ゲーディア皇国建国から現在まで約40年近く経っているが、その中でそう言った事例はまだ少数だ。ウルキア帝時代にアンドラス伯爵家とアロンド・マリウス伯爵家の当主が従兄弟に当主を変えられた事例と、パウリナ帝時代に宰相サウルによってベリト伯爵家が改易した3件位だ。ただ謹慎は結構ある様だ。しかしこのまま皇国が続けば、そう言った事例も増えて行く事になるだろう。

話を纏めると、ウルギア帝は貴族に甘かったとも言える。貴族に任命した政治家、高級官僚、高級軍人に支えられて今の地位があるとの思いからか、貴族に遠慮しがちだったのかもしれない。2件ほど領主貴族の当主の座を剥奪して別の者に変える事例はあるものの、ほぼほぼ貴族たちには寛容だったようだ。

そして次のパウリナ帝時代であるが、彼女はエレメスト統一連合と結んだパウリナ条約の事もあり、私兵を増強しようとする貴族に待ったを掛け、私兵の上限を厳守させた。平和を愛し、軍事力を削減した彼女はそう言った意味では信念を曲げていない。貴族たちも彼女のその毅然とした態度には従っていたと言う事だろうか?

あと、リストラされた元私兵を近衛軍に編入させてもいる。貴族の私兵を削ぎ、自身を守る近衛軍の増強に成功したともいえる。ただこれは矛盾も孕んでいる。国防軍は削減したのに、近衛軍だけ増強したのは不味かっただろう。国防軍の不満は爆発して然るべきだ。あと、その陰で宰相サウル直属部隊「宮廷警察」も、リストラされた私兵が一役買っていた様である。

抑々、貴族の私兵たちは、徴募によって市民から集められたいわば傭兵みたいなものである。豪華絢爛な軍服に身を包んではいるが、中身は金で雇われた一般人に他ならないのだ。そのため一部ではあるが素行の悪い者も居て、問題も結構起きている。例えば貴族はアガレス派やヴァサーゴ派などの派閥に分かれているが、それらに所属する貴族の私兵同士が乱闘騒ぎの末に傷害や殺人事件を起こしたり、さらには貴族の後ろ盾を背景に市民に対して暴行や恐喝まがいな事も行っていたりと、可成りやりたい放題だったらしい。あくまでも一部ではあるが、結構ヤバい連中もいた様だ。

そしてサロス帝時代で「私兵禁止法」の施行で貴族の私兵は廃止される事になる。

先程も言ったが、元々は私兵反対の立場である国防軍が政権を担った軍事政権が発案である。だが、施行される前に軍事政権は崩壊してしまったため、私兵禁止は流れるかに思われた。が、ネクロベルガーがサロス帝を使ってその法案を施行させたのである。

此処で疑問に思うのが、貴族たちはよくそんな法案を飲んだなと言う事だ。それに付いては以下のような事情があった様だ。第1に費用面、第2に市民の不満、第3に貴族の国防軍への参加である。

まず第1の費用の面だが、私兵はお金が掛かるものの、しかし1ルヴァーの利益ももたらさないと言う事だ。通常の軍隊なら国防と他国への侵略によって、多少なりとも国益に沿うものだが、貴族の私兵はそのどちらもなさない本当に金食い虫なのだ。そのため各都市の中には、その軍事費に都市の予算が圧迫され私兵放棄もやむなしと考える領主貴族も結構いたのだ。そう言った貴族に「私兵禁止法」は渡りに船だったようだ。

第2の市民の不満の声が大きくなったは、先ほども言った通り、私兵の中には貴族の権威を背景に素行の悪い者も居て問題になっている。警察に通報しても、警察にこれを如何にかできる訳もなく、市民は可なり不満に思っていた様だ。そうなると、市民感情が爆発して暴動に発展する恐れもあり、貴族自身にとっても可なり不味い事になる。暴動にでもなれば、下手をしたら自身の統治能力を疑われ、先ほども説明した通り当主の座を追われる場合だってあるからだ。

そう言う場合、大体の私兵はクビになってしまうのだが、中にはクビにされた腹いせに領主貴族の子供を人質に取って立て籠もり事件を起こした元私兵もいる。そのため、私兵の報復にビビってしまい、おいそれとクビに出来ないと言う何とも情けない貴族もいたそうだ。そう言った事情もあって、堂々とクビに出来る理由が出来たのも歓迎された要因なのだそうだ。

そして第3の貴族の国防軍への参加だ。抑々貴族は基本的に近衛軍の士官になるのが通例で、国防軍には入る事は出来なかった。そして国防軍は基本的に一般の国民(市民)で構成されていて、彼らが近衛軍に兵士や下士官として入隊する事は出来たが、士官になる事は不可能(騎士の称号を得る事が出来た場合を除く)である。しかし、この頃から国防軍にも貴族が入る事が出来るようになったのである。国防軍に入る事で、貴族と国防軍とのわだかまりを少しでも緩和しようとするネクロベルガーの考えの下でそうなったとか。中にはヴァレナント大尉のような親衛隊に入隊する者もいるのだ。これで以前ヴァレナント大尉を検索した際に、貴族なのに何で親衛隊に? との疑問も解消された。

これで貴族が国防軍をどうこうできる訳ではないものの、貴族の言い分もある程度酌む事が出来る様になり、貴族たちが国防軍にある程度信用を持つ事で私兵禁止法に寛容になったともとれる。

此処で国防軍に深く関わるようになった貴族家を2家ほど紹介しようと思う。

ひとつはアスタート伯爵家である。アスタート伯家は、元々エレメスト統一連合軍の軍人であり、ネクロベルガー父が艦隊司令官を務めていた時代に艦隊副司令官だった人物が、第29宇宙都市アスタート・シティの当主となった家である。そう言う意味では元鞘に収まったとも言える貴族家でもある。

現当主の名は「グラウス・ロベール・ホールストック」。アスタート・シティの3代目当主だ。現在39歳で何と国防軍の中将でもある。30代で将官、しかも中将である。結構早い出世だが、それもこれも現当主と言う肩書が生きているのかもしれない。

因みに国防軍での彼の評価は高く、なんと皇国地上軍の精鋭部隊である第1方面軍第1軍団指揮官でもある。将軍として評価の高い彼だが、領主としては如何だろうか? ぶっちゃけ国防軍に居るため領主としての職務はほぼしていない。しかし、行政は市議会議員が代わりに行っているので問題無いそうだ。

もうひとつはセーレ伯爵家である。此方は元々高級官僚の家柄だったようだ。早くからネクロベルガーの才に目を付け、彼に接近した貴族家でもある。

現当主の名は「アルファルド・コルン・エヒュラド」。セーレ・シティの2代目当主で現在55歳である。

彼自身はセーレ伯爵家の当主としての職務に励んでいるが、彼の三男リヴァン(22)が国防軍に所属している。ただこの家はそれだけではなく、長男シーザー(30)は嫡子として父親の仕事の補佐をしているものの、次男ペントス(28)はネクロベルガーの補佐である総帥官房長に、長女ヒルデ(25)は宮廷貴族としてスパ‥‥‥国の行政に携わり、四男ヴァイン(21)と次女ユリア(19)は近衛軍に所属している。

因みに、その下に五男アーサー(17)、三女ドリス(14)、四女ライザ(11)がいて、彼らはまだ学生の身であるが、卒業すれば軍や行政に携わる仕事に就くだろう。

この他にも国防軍に入隊した貴族家の者は何人もいる。まぁ、ぶっちゃけ国防軍と言うかネクロベルガーに近付きたいと言うのが本音だろうがな。そう言う意味ではセーレ伯爵家は可なりの成功を収めている。次男のペントスは、ネクロベルガーの側近中の側近である総帥官房長の座にいるのだからな。セーレ家とネクロベルガーの関係は他の貴族たちよりも強固なものだろう。

あと、セーレ伯爵家の人々は美男美女ばかりだそうだ。何かそう言うプチ情報が舞い込んで来ている。興味無し(# ゚Д゚)!! 美人と言えば、アスタート伯にはふたりの娘がいて、可なりの美少女姉妹らしい。と言うか、貴族のご令嬢はさぞ美人で有ろうよ。

え~、気を取り直して‥‥‥。

セーレ伯は、ネクロベルガーに接近する事で自身の家が発展すると考え、全力で働きかけているのだろう。しかし、長い物には巻かれろとは言うが、その長い物が折れれば一緒に折れてしまうのだ。何かに一点投資は危険だと思う。まぁ、俺の知った事じゃあないけどな。

話を戻して私兵は廃止になったものの、貴族個人を警護する警護官や、邸や市庁の警備に当たる警備員などはいる。彼らは貴族に雇われたのではなく、立派な都市行政の職員である。ま、都市は領主貴族の領地みたいなものだからぶっちゃけ貴族に雇われたとも言えるが、貴族のポケットマネーで雇われた訳ではないので私兵とは別である。それでも貴族とその家族を公私に渡って警護している。ま、そう言う仕事だからな。

今回はネクロベルガーの話なので割愛するが、貴族の話をすると貴族家についても色々調べたくなる。ゲーディア皇国は、俺の居たエレメストと違い都市によっての違いが殆ど無い。エレメストならば自然豊かな惑星であるため、地域ごとに様々な気候に文化などの個性がある。そのため観光地や秘境などが豊富にある。

一方のゲーディア皇国の宇宙都市は、設計上みな同じで個性が無い。そのため都市を管轄する領主貴族の統治方法で違いを出している。如何いう事かと言うと、都市其々がその貴族が思う政治主義によって違いを出しているのだ。元は政治家や官僚なのでそこの処は余り問題はないだろう。

例を挙げると、第1都市「バルア・シティ」は、民主主義に則って都市行政が行われている。5年に一度、選挙によって市議会議員が決められ、彼らによって行政が行われるのだ。勿論ここの領主はバルア大公クラウィン・ソロモスだが、議会を開き市議会議員による話し合いで政治を行っている。バルア大公は、言うなれば議長の様な立ち位置と思っていいだろう。

一方、其れとは真逆なのが第2都市「アガレス・シティ」である。この都市は、完全にアガレス大公による独裁によって政治が行われている。勿論選挙などは無く、行政関連での人員確保は官僚採用試験があるのみである。

他にもヴァサーゴ大公の第3都市など全部で15の都市が領主貴族による独裁政権が布かれている。この他の都市は大体が民主的な政策を取っている。しかし、その民主的都市も、資本主義に習った政治を行っている都市や、社会主義的な政治を行っている都市があるなど様々だ。そう言えば、ベーシック・インカムをしている都市が一か所あったな。財源とか如何してるんだ‥‥‥? 機会があったら調べてみよう。ってかクエスの奴こう言った事には興味無いのか?

と言うように、国自体は皇帝による専制政治なのだが、個々の都市は全然違う政治形態をとっているのだ。これでよく国が纏まっているなと感心する。まぁ、要は貴族が皇帝に対して上納金を収め、近衛士官として皇族を守ってくれるなら他に望む事は無いと言った処か。国民も皇帝より領主貴族の政策に注目している感はある。

ネクロベルガーが貴族の私兵を無くしたかったのは、国防軍が私兵に対して危機感を持ってい居たからと言うより、貴族が内政に注力できる様にしたかったともとれる。そして完全に国防軍だけで国を守るのだ。ま、住み分けって奴だな。貴族も自身の身内が居る国防軍を脅威とは思わないだろう。貴族出身の軍人はその立場から結構な高官が多いからな。

と言う訳で、ゲーディア皇国の各都市は政治に条例にと違いがあって面白い。その違いによって何処に住むかを国民自らが判断するのだ。

因みに俺の住んでいるレジエラ・シティは民主主義路線だ。基本エレメストと変わらないため今の処は住みやすい。選挙は俺が来た前年にあったらしく、俺が選挙に参加するにはあと2年は待たなきゃならないらしい。あゝ其れと市議会議員の任期も都市によって違いがある様だ。俺の居るレジエラは4年だが、他は3年~6年と都市によってまちまちだ。

よし決めた! 次は各都市を調べる事にしよう。

 

 

 

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犬を連れた独裁者 FILE6

ネクロベルガー総帥は、ゲーディア皇国一、イヤ、世界一の金持ちだと言われている。その所以であるが、それは彼が皇国の資源と経済を握っている事が挙げられる。

以前にもチョクチョク話したが、ネクロベルガーは皇国の資源開発や経済発展に対してその強大な権力を持って大きく関与している。

先ずは資源開発だが、資源に関しては、抑々ゲーディア皇国は可なりのポテンシャルを持っている。第3惑星エレメストと同じ固体惑星である第4惑星ゲーディアは、岩石質や金属質で構成されているためそれらの鉱物資源の採掘が見込まれていた。そのため第4惑星開発は宇宙資源獲得のためと言っても過言ではない。

ただ、開拓以前の調査から第4惑星を構成する鉱物資源の種類が、エレメストに比べて著しく少ないと言う報告があったため、専らスペースコロニーや宇宙都市に使う鉄などの資材採掘が目的で、希少なレアメタル等に関しては期待されていなかったのだ。

しかし、その地殻の奥に「レメゲウム」と言う未知の鉱物が発見され、それが高エネルギー物質に変換する事を発見した人類は、第4惑星をエネルギーの宝庫として最重要視する様になったのである。

エネルギーは人類の発展や安定に無くてはならないものであり、それを求めて第4惑星はゴールドラッシュさながらのに賑いを見せたのである。まぁ、これは前にも言った事なのだこれ以上は省くが、第4惑星がゲーディア皇国と名乗った後も、皇国は資源省を創設して資源の開発と採掘を独占的に続けている。

そんな資源省エネルギー開発庁の長官がネクロベルガーである。この役職は前にも触れたがサロスから任命されたもので、彼が多忙に付き実際は長官代理と2人の副長官によって運営され、ネクロベルガー自身は名目上の長官と言う事になっている。のだが、彼の意向に沿って運営が行われていると専らの噂だ。因みにエネルギー庁の役割だが、簡単に言うとレメゲウムの採掘計画と新規鉱山の開発計画を担う部署だ。

さらに付け加えると、ネクロベルガー自身がレメゲウム鉱山を数多くってレベルじゃない程に所有しているのだ。

これはサロスがネクロベルガーのこれまでの労に報いようとして「何か欲しいものは無いか?」と尋ねた処、「レメゲウム鉱山が欲しい」と言った事が始まりとされる。

ネクロベルガーとしては、ひとつかふたつの鉱山が貰えればと考えていたかもしれないが、サロスはそれを聞いて大量の鉱山を渡してしまったらしい。しかも、その後も事ある毎にレメゲウム鉱山を褒美と称して贈ったため、彼は現在皇国で稼働中の鉱山の三分の一以上を所有している。これだけで年間1500億ルヴァー以上の収入になるのだそうだ。

金額がデカすぎて俺にはわかりません。

正に皇帝の権限は法より強しだ。レメゲウムだけではなく、第4惑星の地下資源はすべて皇国によって管理され、その収益は皇国の歳入の一部となる。それなのにポンポンと一個人に贈ってしまう事が出来ると言うのが流石は専制国家の皇帝だと感心するよ。

サロスを調べると彼の行動には驚かされる。ホントに大丈夫か? と思ってしまうが、まぁ、大丈夫では無かったから暗殺されたとも言えるな‥‥‥。

それにネクロベルガーも暗殺のターゲットだったらしいが、其れも納得な理由である。彼を暗殺して彼が保有しているレメゲウム鉱山を新生国家が接収する。と言うのがクーデター側の目論見だったのだろう。

こう言う事があるからクエスが言っている「サロス暗殺の黒幕ネクルベルガー説」を俺が信じきれないのだ。もし仮に彼が黒幕なら、如何してクーデター側の暗殺対象になったのかの説明がつかない。それよりも、彼の持つ鉱山を接収するために暗殺対象になったと言うのが自然の流れだ。

それにネクロベルガーはサロスが暗殺された後にクーデターを鎮圧している。クエスはネクロベルガーが裏切ったのだと言うが、クーデター側がネクロベルガーをどれほど信頼していたのか疑問に思う。ひとつ間違えれば元の木阿弥になりかねない。クーデター側にとってネクロベルガーは信用できる相手だったのか? もし正体を隠していたと言うなら、逆にそんな正体も分からない怪しい人物をクーデター側が信じるだろうか? 慎重に慎重を期さなければならないクーデター側にとって、謎の人物と手を組むと言うのは危険極まりない気もするのだが‥‥‥。

これは今日のテーマとは違うのでこれ位にしよう。

さて、次は経済についてだが、此方もネクロベルガーは大きく関与している。

まずひとつ目は経営学を学べる学校の存在だ。ミシャンドラ経済・経営学校と言うのがミシャンドラ学園の敷地内にある。そこは経済学や経営学を学んだり研究したりと、将来有望な経営者を育成するための学校で、卒業生は申請すれば会社の設立費用やその他諸々の資金を学校が肩代わりしてくれるのだそうだ。そして学校の資金はネクロベルガーが出しているため、彼が出資者となる。まぁ、その代わりに会社の株式は学校側、要するにネクロベルガーが保有するため彼は大株主(支配株主)になる訳だ。

ただ、ネクロベルガーは支配株主なのだが、経営者たちの経営方針に口出しする事はないそうだ。まぁ、経営に付いて彼らは学校で学んで卒業しているのだ。下手に口出しするより彼らに任せた方が良いだろう。これで口を出したら彼らは何のために経済や経営学を学んだのか分からないし、経済・経営学校を卒業するにはテストを受けて合格しなければならないので、それらテストをクリアした人物は可なりの手腕を持っている筈である。

因みに、テストに合格できなかった者は退学するしかないそうだ。これに至ってはその人の能力に因りけりだから仕方ない事だ。勿論何回もチャレンジすればいいのだが、経済・経営学校はミシャンドラ学園と違って学費免除とはなっていない。そのため学費が払えない場合は退学するしかない。世知辛いよな中だよ。

それに卒業して経営者になったはいいが、母校に牛耳られるのはいささか癪だと思う者も居るだろう。学校で学んだ事を自分だけの力で試したいと思う者はいる筈だ。そう言った者達は自力で会社を起こしている。

ただ、学校側に申し出るだけで、1ルヴァーも払わずに会社を設立できるし、皇国最高指導者の後ろ盾(何もしてくれないそうだが、あると言うだけでも何らかの恩恵は受けている筈だ)もある訳だからメリットも大きいだろう。だから殆どの卒業生が学校側に会社の設立を申請しているそうだ。

簡単に言ってしまうと、ネクロベルガーが設立した学校で経営者が育成され、卒業後に彼らの起業資金を出す代わりに大株主として株の配当なんかでウハウハと言う訳だよ! 畜生め!

こんなシステムがあれば、誰だって世界一の金持ちになれるだろうよ。まぁ、やろうと思って出来る事ではないんだがな! これも皇帝サロスの権力と、その後の自分の権力によって築いたものだ。職権乱用も甚だしいじゃねぇか! ふざけんな! って思ってしまう。

こんな感じで権力を笠に金儲けしているネクロベルガーを、うちのクエスは嫌ってるって訳だ。ま、それに付いては俺も同意見だが‥‥‥。

あと、経済・経営学校が設立させた企業が、元々あった企業を圧迫していると言う弊害も起きている。これは彼らが皇国の最高指導者によって作られたため、ライバルとなる企業がビビってしまって遠慮していると言う事だ。

ライバル会社に遠慮していては経営が悪化してしまう。そうやって経営難や倒産した会社が相当数あるらしい。そしてそういったライバル企業を吸収合併して短期間で大企業に急成長する会社もあるそうだ。お陰で今皇国にある企業の約半数以上がネクロベルガーが支配株主の企業だと言われている。

ま、兎にも角にもそれらから入る収益が、また莫大なものになるって言いたい訳だ。

あ~羨ましいを通り越して段々腹立って来た。

だがそれだけじゃない。彼はそれらの資金を使ってミシャンドラ以外の72都市の地下3階層のX、Y、Z地区のアパートを全て買い占めているのだ。そしてそこに住人を住まわせる事で家賃収入を得ている。その他にもネクロベルガーは金になりそうな事はには必ず一枚嚙んでいるとの専らの噂だ。此処まで来ると立派としか言いようがない。

よ、金の亡者!

しかし、これくらい莫大な収入があるネクロベルガーの資産管理についてはよく分かってはいないらしい。とある人物が資産管理を行っているらしいのだが、その人物が公の場に殆ど姿を見せていないそうだ。

ただ、経済・経営学校にはチョクチョク顔を出しているそうなので、そこで働く教員や生徒には知られている。それこで彼らからは「総帥の錬金術師」とか「漆黒の魔女」などと渾名されているそうだ。

「魔女」と呼ばれている事から女性の様だが詳しい事は分かっていない。

だけどよ、魔女って言い切ってる処、絶対に女性だろう。公の場に出てこない事からその姿も謎って言ってるけど、学校の連中には顔見せてるんだろ? なのに彼女の姿かたちの情報が一切ないってんだからおかしな話だ。しかし俺は絶対に女性だろと思う。魔女だもん「女」って入ってるもん。女性で決まりだ!

一応調べてみると、やはり容姿に関しての画像も映像も学校関係者による証言も何も無かった。但し、それ以外の噂話ならごまんとあった。それらには概ねとびっきりの美女で、ネクロベルガーの愛人って言う噂が多いな。

愛人ねぇ‥‥‥愛人だと⁉ 怪しからん!

真面目に話すと、ネクロベルガーの資産を一手に引き受けているのだから可なりの才女であることは認めよう。だが容姿は関しては如何だろうか。分からないから人は想像するしかないが、しかしそれは概ね自分の願望を強く反映してしまうものだ。俺は総帥の魔女が美魔女でなくても構わないっと思っている。俺の美魔女じゃないし、如何でもいいし‥‥‥。う、羨ましい訳じゃないし‥‥‥。

それにネクロベルガーの性格上、彼女は自分の資産を管理するのに必要な人物で、その才能が欲しのだ。容姿なんて如何でも‥‥‥いい訳無いのか? やっぱり男と生まれれば美女を侍らせたいのか? 本当に美人だったら‥‥‥羨ましくないぞ!

あゝもうこれ位にしよう。余り余計な、しかもどう妄想しても答えが出ない事など如何でもいいだろう。今回のテーマとかけ離れている。

最後にネクロベルガーの金の使い道だ。此れだけ莫大な資金を調達しているからには、一体如何いった使い方をしているのかを幾つか話そう。

先ずは、知っての通りミシャンドラ学園の運営費だ。大半が親がいない生徒(半ば強制的にそうなった子供もいるが)たちなので、当然彼らの生活費などもネクロベルガーが出している。可成りの費用を出していると思っていいだろう。無論、教師や従業員の給料も彼が出している。

抑々学園の運営費は、サロスが消費税を国民に課した事で運営費を賄っていた。途中、他の用途も考えて増税に次ぐ増税を始めてしまったが、元々は学園運営のために行われていたのだ。それをネクロベルガーは国民の人気取りのために消費税を撤廃し、そして自らが運営費を支払う様になった。国民は消費税が無くなって嬉しいし、ミシャンドラ学園に通う生徒たちにとっては廃校にならずに済んで嬉しい。いい事尽くめで美談とも取れる話だが、結局は彼の人気を爆上げしただけである。

イヤ、う~ん、いいんだよ、国民もミシャンドラ学園の生徒も、序に言ってしまえばそこで働く教員なども職を失わずに済んだのだから。しかし‥‥‥なんだか納得いかないのは俺やクエスだけじゃないと思うんだよなぁ‥‥‥。

まぁ、これに付いては置いといて、その他には、皇立科学研究所への研究資金の提供である。

基本的に科学研究所での研究費は皇国政府が出しているのだが、それはあくまでも国にとって有益であると認められた研究に限ってである。何でもかんでもホイホイ研究費を出したら金が幾らあっても足りない。なので、国にとって有益であると判断した研究にのみ皇国は研究費用を出しているのだ。

とは言え、有益で有るか否かは研究して見ないと分からない場合もあるだろう。そう言った研究をやらなければ、そこで得られる利益は永遠に得られないのだ。他の誰かが先にやってしまえば後塵を拝する事にだってなる。其処でそう言った怪しい研究に対してネクロベルガーが研究費を出しているのだ。万が一、何か有益な研究成果が出る様な事になれば、自分が独占する事が出来るので又してもウハウハになる。当然上手く行けばの話だけどな。

H計画以外の研究や計画の事も少しだけ調べたが、チンプンカンプンだったし、眉唾みたいな研究も行っている様だ。詐欺じゃねぇえのか? とも思ったが、研究資金を得るには科学研究所内の研究施設で行わなければならないので、一種の監視の意味合いもあるのだろう。当然、金を持ってトンズラする事は出来ない訳だな。

科学技術だけではなく、様々な産業の新技術開発にもネクロベルガーは投資している。自分の子会社以外の企業にも投資しているし、エレメストの企業や第5惑星開拓事業団(※)にも投資している。金が有り余っているから何でもかんでも投資しているって訳だな。

その他の使い道は救済金だ。例えば3年ほど前に、第31都市「フォラス・シティ」でウイルスによるパンデミックが起こった。そのウイルスは感染力が強く、瞬く間に市民に感染してしまい、最初の発症者の発見からから1週間でフォラス市民の10%以上が感染してしまう事態となった。結果的に感染力が強い代わりに致死率が低かった事や、従来の医薬品の中にそのウイルスに効果がある医薬品が見つかった事が幸いし、1年程で終息ている。

とは言え、初期段階ではその感染力に皇国中がパニックとなり、これを受けてフォラス領主のフォラス伯・ルーク・マッヂブルは、すぐさま都市をロックダウンして国に援助を要求した。

元々密閉された宇宙都市ならばロックダウンもしやすかっただろう。なんせ都市からの出入りを遮断するだけでいいんだから。

しかしロックダウンした事でフォラス市民の生活は大きく制限され、過度なストレスを感じる市民も多かっただろう。暫くは外出禁止で自粛しなければならず、その間の経済活動はストップしてしまう。経済的に困窮する市民に対し皇国は給付金を支給するに至ったのだが、これもネクロベルガーがファラス・シティがロックダウンした翌日に、ファラス市民一人ひとりに1000ルヴァーを支給すると宣言して当市民から喝采を浴びたとされている。ある意味、皇国政府はその後に追随する形で給付金を支給したようになってしまった。

こんな感じでネクロベルガーは金になる事には必ず関与し、さらに金で解決する事には惜しみなく出資するのだ。そのため国民からの人気も高い。

金だけだろ? とも思うが、必要な時にモタモタとしているよりスピーディーに支給してくれる方が断然有り難いことだ。決めたは良いが手続きだとかなんだとか言って何時まで経って支給されないと、本当に支給されるのかと不安になってしまう。そんな時にネクロベルガーは直ぐに自腹でフォラス市民一人ひとりに支給したのだ。しかも、1回だけじゃなくて毎月、1年後の終息宣言が出るまでの間だずっとだ。そりゃあ人気も出るだろうよ、特にフォラス・シティの市民にはよ。

序に言えば英雄ドレイク・ネクロベルガー元帥の息子(義理だけど)である事も人気のひとつかもしれないが、何も行動しなければ忘れ去られてしまう。ネクロベルガーは行動し、それによって人気を得ている。

民主主義なら人気集めは政治家にとって必須だろうが、専制君主の国で国民の人気取りって必要なのか? と疑問に思う人も居るだろうが俺は必須だと思う。やはり国で大多数を占めているのは国民であり、彼らの怒らせ団結させることは脅威である。歴史的に見ても多数派の団結を削ぐ事で、国や他国支配を行った例はたくさんある。と言うか支配や統治の基本だと思う。ただネクロベルガーはそう言った分断対立させて統治するのではなく、結束しても自分には反抗しない様に国民を支配する事を選んだのだろう。可成り難し事ではあるだろうが、彼はそのために言い方は悪いが、金をどん欲に集めてばら撒いているのだと思う。

う~ん、色々言って来たが、ネクロベルガーの支配方法がいいのか悪いのか結論付ける事は容易ではないだろう。要するに今そこで生活している人々が良ければそれでいいのかもしれない。よく未来のためにとか言うが、それは今生きている人々にとって魅力的だろうか? 俺はそうは思えない。やはり今生きている人々には今が重要なのだ。5年10年位ならいざ知らず、100年後とか言われても、「100年後の人類頑張れ!」である。我々の今の問題だって、100年前の人々の行動の結果である。だからと言って先人たちを無能な先人と恨んでもどうしようもない事だ。今を自分たちでどう生きるかが重要なのだ。あれが良い此れが悪いと言っても、それ自体にメリットとデメリットがあるわけだし、一概に良し悪しを論じる事は出来ない。ネクロベルガーの支配も今は順調であるため良い政治と言ってもいいだろうが、その10年後、20年後は? ネクロベルガーの死後は如何なるのだろう? そう思うと不安でもある。だが、その時はその時の為政者が責任を負う事になるだけなのだ。彼らが今の人々に良い政治と言われる事をすればそれが正解なのかもしれない。

あ、そうだ、ネクロベルガーって直接政治には関わってないんだっけ。皇国の政治を取り仕切っているのは皇国議会だった。議会で可決した法案を摂政のネクロベルガーに上申して裁可してもらう仕組みだったな。直接議会には参加して無いからネクロベルガー自身で法案を決める事は無いんだよな。

アレ? ネクロベルガーって権力は有るけどあんまり仕事してないんじゃないのか? イヤ、そんな事ないよ‥‥‥ね? あの人仕事してるよね? 最高責任者なんだから、実質皇国を指導してるんだから‥‥‥。

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犬を連れた独裁者 FILE5

ゲーディア皇国国防軍総軍司令長官ネクロベルガー総帥。彼は元々孤児だったそうだ。

彼の両親、要は育ての親であるドレイク・ネクロベルガー元帥(当時は中将)とその夫人であるサマンサには子が無く、そのため彼らは親を亡くした孤児たちの支援活動を行っていた。特にネクロベルガー夫人のサマンサは積極的で、多くの孤児院に訪問して支援活動を行っていたそうだ。生きがいみたいなものになっていたのかもしれないな。

そう考えると、ネクロベルガー総帥がワザワザ自費でミシャンドラ学園を維持し続けているのは、両親の遺志を継いでいるからかもしれない。

そんな最中の宇宙暦152年2月2日、第3惑星エレメスト統一連合に対し、衛星アフラ(月)解放戦線が宣戦布告し「4年戦争」が勃発する。

ちょうどこの時、サマンサ夫人はとある孤児院に訪問しており、そこでひとりの赤子に出会う事になる。その赤子が後のサリュード・ネクロベルガー総帥その人だ。

サリュードとサマンサとの出会いは偶然だった。偶々彼女が訪問する日の早朝に孤児院の前に捨てられていたのを施設の人が保護したのだ。一体誰が捨てたのか? 両親は誰なのか? それらは今もって不明だという。

ゲーディア皇国と言えば、街中に防犯カメラが張り巡らされ、警察(ロボット)犬のパトロールも厳重なためすぐわかりそうだが、それらのシステムはサロス帝の人権剥奪法施行によって強化されたもので、この当時はまだそこまで厳重では無かった。警察犬はいなかったしな。それでも幾つかの防犯カメラに映る事なく彼は孤児院の前に捨てられていたそうだ。何処となくミステリーを感じるな。

事情を聴いたサマンサは、自分が訪問する日に捨てられていた赤子を見て何かを感じたらしく、彼を養子にする事を即決する。

当時、夫のドレイクは、行政長官であるウルギア・ソロモスと共に第4惑星の独立のために動いていたため、数か月前より殆ど屋敷には戻っていなかった。サマンサは夫に相談も無しに独断で赤子を養子にしたのだ。それだけ子供が欲しかったのだろう。施設側もネクロベルガー夫人なら大丈夫だと子供を預けたと言う訳だ。

そして内乱を収め、同年3月1日エレメスト統一連合からの独立とゲーディア皇国の建国を宣言した後、ようやく帰って来たドレイクにサマンサは養子の件を話した。

相談も無く勝手に養子を迎え、連絡もくれなかった夫人にドレイクは怒るどころか歓迎した。彼も子供が欲しかったのだ。そして早速名前を考え始めたのだが、既に名前はサマンサが「サリュード」と付けていた後だった。

まぁ、養子に向かえたはいいが、ドレイクが帰って来るまで名無しと言う訳にも行かないのからな、仕方が無い事だ。だがこれにはドレイクは少々不満だった様で、拗ねてしまったそうだ。皇国の英雄にも可愛い面があるんだな。それでもミドルネームを付ける事で機嫌を直したドレイクだったが、ひとつに決められずに「アーベル・テオバルド・アルフレート」と3つも名付けてしまったと言う訳だ。意外と優柔不断なのか?

因みにネクロベルガーの誕生日は2月3日となっている。本来だったら出会った2月2日となると思うが、その日が4年戦争の開戦日と言う事で、戦争勃発した日が誕生日というのを避けたと言う訳だな。

そしてサリュードは新たな両親の愛情の下でスクスクと育ち、可なり感情の起伏に乏しい人間に育ったのだ。何で?

此ればかりはよく分からない。特段にドレイクら夫婦がサリュードに対してそうなる様な育て方をしたわけではない。イヤむしろ愛情を注いでいた方だが、結果からしたらそうなってしまったと言う事らしい。そのためサリュードは何か感情面に障害があるのではと疑われている。

但し、サリュード自身は両親に対してとても献身的で、感情の起伏が薄いものの親の誕生日などにプレゼント送るなど親孝行な面が多々ある様だ。表面上の感情の薄さ以外は良い親子関係を築いていたと言える。

そんな彼の幼少期の夢は「政治家になる」とこらしい。俺なんかは余り子供らしからぬ夢だと思ってしまうのだが、如何も親であるドレイクの立場が影響しているとも言われている。

ドレイク・ネクロベルガー元帥は、4年戦争で「月の魔女」と恐れられ、統一連合が艦隊戦で勝つ事が出来なかった女性提督「ミリエル・フィル・アルテプス」との戦闘に勝利し、アフラ解放戦線にとどめを刺して4年戦争を終結させたとも言われる英雄だ。国民や若い将兵からの人気は高く、それは今も変わっていない。

だがそんな彼にも弱点はある。彼には政治的野心はなく、ただ軍人としての職務に邁進する人物であった。そう言った人物が政治に翻弄されて身の破滅を招いた事実は歴史上幾つも例がある。だからサリュード少年は、そう言った政治のドロドロしたものから義父を守るためには政治家になるしかないと思った様だ。それだけ聞くと父親思いの良い子だ‥‥‥。

でも結局、彼は政治家ではなく父親と同じ軍人になった。

まぁ、彼が住んでいたミシャンドラ地下第2階層は軍事施設と軍人家族の居住区で締められてる階層だ。だからネクロベルガーも軍学校に通う事になり、軍人になるしかなかったのだろう。

宇宙暦167年、ネクロベルガーは軍学校を卒業して士官学校に入学する。

皇国士官学校には、通常クラスと特別クラスのふたつがある。通常クラスとは、士官学校に入学した生徒たちの事だ。一般の学校で言う処の高等学校に相当し、高等学習と共に士官としての教育も受ける。一般学校と同じで3年の教育期間がある。

そして特別クラスというのは、下士官准士官が士官になるために入るクラスだ。皇国では兵士からのたたき上げは准士官(准尉)までしか昇進できず、更なる昇進を目指したければ士官学校に入学するしかない。基本的な教育期間は2年間で、軍曹或いは曹長を4年以上勤めあげるか、准尉を2年以上勤めた者が入学資格を得られる。

但し、曹長などの下士官に関しては入学前にテストがあり、其れに合格しないと入学できないが、准尉はテストを受けなくても入学できる。

当然だが、サリュード・ネクロベルガーは通常クラスで士官学校に入学している。

宇宙暦170年、サリュードは士官学校を卒業して国防軍に入隊する。国防軍に入隊して彼は、同期生からやっかまれるほどに昇進スピードが速く。それに伴い軍のあらゆる部署に異動していて、ほぼ半年周期で別の部署に異動になっていたそうだ。

その昇進も部署移動も全部父親のドレイクの意向だったことは周知の事だ。軍の規定に背く事ではあるが、それでもドレイクに対して非難する意見は極一部であったらしい。

これは英雄であり、厳格で軍人の鏡のようなドレイクの親バカっぷりが、逆に将兵に好印象を与えとも言われている。心理学にも完璧すぎて近付き難い人物が、ふと欠点や弱音を見せた事で周囲から親しみを持たれる事がある。所謂ギャップ萌えって奴だな。うん? 違うか?

宇宙暦172年、サリュードが軍人になってから2年が経過し20歳になった年に、義母であるサマンサが病死する。享年70歳だっだ。

そして宇宙暦177年に父親のドレイクも死去し、サリュードは両親を失う事になる。この頃のサリュードは25歳で大佐であったが、何故か父親の死に伴い准将に昇進している。何で? そう言う決まり事でもあるのか? 軍人の父親が死去したらその子供が昇進するって? 俺が調べた範囲ではそう言った規定はなかったはずだが‥‥‥これもまた英雄の特権か?

そして忘れてならないのが、この年の7月に皇国を震撼させた「7月事件」が起こっている。クーデター側の会合にネクロベルガーも参加している事は「2代皇帝と7月事件(事変)」でも語っているので省くが、クーデターが成功するとネクロベルガーは少将に昇進し、ベリト・シティ行政補佐官に就いている。

因みにネクロベルガーが北部方面軍より依頼されたのは、サロスの皇帝即位の説得と政治家や官僚たちをクーデター側に寝返らせる交渉役だった様だ。あの当時は、宰相サウルの強権によって逆らうものは例外なく失脚や降格に左遷の憂き目に遭っていた。不満を持っていた政治家や貴族に官僚たちも少なくなかったので、そう言った彼らを抱き込むのがネクロベルガーの任務だったようだ。

そしてクーデターによってサロスが皇帝になり、程なくして軍事政権が崩壊すると、皇帝の信頼と後ろ盾を得たネクロベルガーが一気に台頭する事になるのだ。

此処で余談ではあるが、ネクロベルガー総帥の「総帥」についてだ。総帥と言うと組織全体を指揮する人の意味で、階級とはまた別の敬称なのだが、ゲーディア皇国ではネクロベルガー専用の階級として存在している。

サロス帝時代のネクロベルガーは、多くの役職の長をサロスから任命されている事は以前にも話したと思うが、当然ながら彼の身はひとつでこれらの仕事を熟す事は不可能である。そこでネクロベルガーは、自身が信頼する人物を代理として各所に配置しているのだ。それは国防軍内でも同じで、軍令の長である参謀本部総長(前名称・軍令本部総長)と軍政の長である軍務大臣(前名称・軍政大臣)の軍事のツートップを別の者に任せている。

当初はこのふたつをネクロベルガーが元帥になった際に兼任し、総軍司令長官として両方の職務を熟していたのだ。しかし、サロスに色々兼任させられた事で、総軍司令長官の地位はそのままに、それらを別の者に任せる形を取ったのだ。その際に参謀本部総長と軍務大臣に任命された者を元帥に昇格させ、以降、それらの役職に就く者を元帥に昇格させることが決まる。

嘗て義父のドレイクも、退役したいとパウリナ帝に上申した際に、却下されて仕方なく国防軍最高司令長官の地位はそのままに、軍令部総長と軍政大臣をふたりの上級大将に任せたのと奇しくも同じである。

ただそうなると、ネクロベルガーと参謀本部総長、軍務大臣と3人の元帥が並ぶことになる。参謀本部総長と軍務大臣はいいが、それより上の立場である総軍司令長官も同じ元帥だと格好がつかない。ネクロベルガー自身は余り気にしていなかったとされるが、彼に激アマのサロスはそう考えておらず、結果ネクロベルガー専用の階級である総帥と言う階級が出来たのである。

正式な意味としては「総軍元帥」とでも言ったらいいのだろうか? とにかくサロスによって総帥の階級が出来上がったと言う訳だ。

話が大分逸れてしまったので元に戻すが‥‥‥別にネクロベルガーの解説だから良いのか?

まぁ、そう言う訳で現在のネクロベルガーに至る訳だが。あと、彼は兼任が多いと言ったが、一体どれだけの役職に就いているかというと。まずは本職でもある総軍司令長官だ。此処に参謀本部総長と軍務大臣を兼任していた。その他に皇国摂政、総務大臣財務大臣厚生労働大臣、教育科学大臣、ミシャンドラ学園学園長&理事長、エネルギー開発庁長官などが主にネクロベルガーがサロスによって任命された役職である。で、現在は皇国摂政と総軍司令長官以外は代理に任せて彼自身は肩書だけ持っていると言った感じだ。

もう正式に代理人に任せたらいいと俺なんかは思ってしまうのだがな。一応、参謀本部総長と軍務大臣は完全に別の人物に任せているが、あとは代理が居るだけで正式にはネクロベルガーがその部署や省庁のトップだ。

ざっとではあるが、これがネクロベルガーのこれまでの経歴だ。彼は目立たないが役に立つ。という理由で重用され、そして今や名実ともにゲーディア皇国のトップになっている。皇帝がいるからトップじゃないと言うツッコミは止めてくれ、実質的に彼が皇国の指導者なのだ。だからトップと言っても過言じゃないという意味だ。

では次はネクロベルガーの資産でも調べてみようかな。可成りの資産家で皇国。イヤ、世界一の金持ちだと噂されているのだ。そう言った資産を彼はどうやって築いていったかを話そうと思う。

 

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犬を連れた独裁者 FILE4

皇居周辺での首都内防衛隊とクーデター軍との戦闘、「皇居の戦い」が注目されている「サロス帝暗殺事件」であるが、当然ながら他の場所でも戦闘は行われている。

クーデター軍の一部が皇居目指して攻め寄せる中、地下第1階層の行政区画と地下第2階層の軍行政区画に、それぞれにクーデター軍が重要施設を占拠しようと動いていた。皇居襲撃部隊は、それらのための囮であったのだ。彼らは重武装であったものの、首都内防衛軍並びに宮廷警護連隊を相手にするには兵力不足であり、囮と捉えるのが妥当との事だ。

皇居の戦いは戦闘が激しく注目度は高いのだが、クーデター軍の目的はあくまでも地下1階や2階の重要施設の占拠であるとの見解がなされている。しかし、重要施設を占拠したとして、其の後クーデター軍だけで維持する事が出来たのかと言う疑問もある。ただ、そこには所謂「陰の協力者」と呼ばれる者たちが大勢いるものだ。貴族や政治家、官僚や軍人、彼らは事が成せばクーデター軍に協力して表に出て来るが、失敗すれば我関せずを決め込む日和見主義者である。そう言った者たちも上手く抱き込まないとクーデターなんて起こせないだろう。

今回の場合で言えば、それはアガレス大公とその派閥である。何回も言ってるがヴァサーゴ大公家とはライバル関係にあり、彼を権力の座から引きずり落と虎視眈々と狙っていた。

彼の派閥は皇国貴族内で最も大きい派閥で、此処がクーデター側についたとなれば勢いもついただろう。結局、クーデターは失敗してアガレス大公派はヴァサーゴ大公派に追及されたが、知らぬ存ぜぬを貫き通している。

話を戻してその首都地下区画での戦闘だが、クーデター軍による各地での軍事行動はそれらを実質的に守って居た憲兵隊を大いに混乱させた。サロス暗殺以降、憲兵隊本部には各所からの通報が相次ぎ、非番の憲兵隊員も駆り出されて対応に当たっているが、各所での軍事行動と囮となるテロが頻発して、その対応に火の車だったようだ。そのため戦闘が始まって1時間もしないうちに、行政の中心である議事堂を占拠されてしまうほど憲兵隊は後手後手に回っていた。

因みに憲兵隊以外の軍人は何をしているのかと言うと、主に避難するかクーデター軍に捕らえられて人質になるかの2択だったようだ。それを聞くと情けなく聞こえるかもしれないが、軍行政区画で武装しているのは憲兵隊くらいで、他の軍人たちは拳銃すら携帯していない。と言うか、皇国では銃刀規制法で銃や刃物、それに準ずる危険物を携帯する事を禁じられているのだ。憲兵隊も普段は銃を携帯しておらず、テロやクーデターなどの重大事件でも起きない限り武装許可は下りない。

但し、「武門(軍事)」貴族のみ刀剣の携帯が許されている。武門貴族とは、近衛士官や貴族出身の国防軍士官の事で、彼らはステータスとして刀剣の携帯が許可されているのだ。しかし、ムカついたという理由でそれらを抜刀して人を殺傷することは禁じられている。ただの飾りとも言えるが、貴族としての身分を表す証明書と言った処だろう。

では、一般的に軍隊と聞いてイメージする実働部隊は何処にいるかと言うと、彼らは都市とは別の各所に点在する基地に駐留している。軍行政区画に居る軍人は専ら「官僚軍人」と呼ばれる軍務省勤務の軍人だ。

序に言うと、各基地の地上軍はクーデターが起こった際は、ネクロベルガーから待機命令を受けていて動いてはいない。これはクーデター軍に内通している部隊がいるかもしれないという考えからの処置だろう。それに国防軍の部隊が首都にわんさか来ても混乱するだけだろう。

話を戻して地上での戦闘ではあるが、前にも言った通り東部方面守備群の活躍もあってクーデター軍の予測よりも早く皇居襲撃部隊との戦闘が決してしまったため、此処から彼らによる反撃が行われる事になる。

まず地上での戦闘終結直後に、首都内防衛軍は近衛軍麾下から一時的にネクロベルガーの指揮下に入り、地上を宮廷警護連隊に任せて地下1階の憲兵隊の救援に向かう。行政区画では、議事堂内にいた職員や下院議員たちが人質になっていたので憲兵隊が手を出せずにいたのを、首都内防衛軍は突撃を敢行して瞬く間に議事堂内のクーデター軍を鎮圧してしまった。と言うのも、王宮と議事堂は中央支柱を通ってエレベーターでつながっており、首都内防衛軍はそれを使って議事堂内部に踏み込んだのだ。

こんな事をクーデター側が見過ごしていたのかと、クーデター軍を間抜けの様に思われるかもしれない。勿論、クーデター側も皇居と議事堂を繋ぐ皇族専用エレベーターの存在は知っており、ちゃんと見張りを置いていたのだ。しかし、首都内防衛軍はそれとは別のルートで侵入したのである。

実は、中央支柱エレベーターには皇族専用と近衛軍用の2種類のエレベーターが存在して、皇族専用は頻繁に使われたので知っている者も多く、クーデター軍もそこを見張っていたのだが、近衛軍専用はその存在を秘匿されており、しかも使われたのが今回が初めてで、クーデター側はその存在を全く知らなかったと言われている。まぁ、知ってたらそこにも部隊を配置するわな。そのお陰で首都内防衛軍は容易に議事堂内に入り込む事が出来たと言う訳だ。

それに皇族専用は普通のエレベーターなので、兵員を運ぶに狭すぎて何度も往復しなければならなくなる。それに対して近衛軍専用は、正確な場所は秘匿されているが議事堂内に数か所存在し、一基につき数十人の兵員を運べる広さがあるらしい。

首都内防衛軍の襲撃に、議事堂に立てこもるクーデター軍はパニックに陥る。それはそうだろう。中央支柱エレベーターに近衛軍専用のエレベーターがある事など知らなかったし、彼らは議事堂を取り囲む憲兵隊に意識が向いていたのだ。背後から行き成り別の軍隊が来たとなれば驚かない訳がない。首都内防衛隊は大きな抵抗を受けることなく議事堂内のクーデター軍を鎮圧する事に成功し、人質も負傷の程度は有れど死者を出すこと無く救助している。

議事堂が開放されると一気に形勢は鎮圧軍側へと傾き、クーデター側からは投降者が続出して行く。程なくして、最期まで抵抗していた者達も首都内防衛軍や憲兵隊に鎮圧されてクーデターは終息したのだ。

その後、首都内防衛軍は近衛軍麾下へ戻る事なく、そのままネクロベルガーの指揮下に入り、翌月には「総帥警護連隊」と改名する事になる。

そういった経緯で編制された総帥護衛連隊は、事件の直後に失われた兵員の補充、人事などを経て再編されたものである。主な任務は首都内防衛軍時代とほぼ同じだが、そこに総帥警護の名が示す通りネクロベルガー総帥を護衛する任務も兼ねる事になる。

ネクロベルガーは、ゲーディア皇国国防軍総軍司令長官と言う肩書が示す通り国防軍の全権を握ってはいるものの、彼直属の部隊と言うものは所持していなかった。ここに来て初めて直属の部隊を得た事になる。

同連隊隊長は、皇居の戦いで窮地に立たされた南部方面守備群の救援で活躍した東部方面守備群指揮官の「エルリック・デュラン・ギーズ(当時大佐・194年現在中将)」が就任している。

総帥警護連隊は、首都内防衛軍時代には総指揮官である准将が居たのだが、彼は再編時の人事で移動となっている。この件について一説には准将はギーズ大佐が南部方面守備群の救援を具申した際、それを却下したから左遷されてたのでは? と言う憶測も流れている。

しかも、ギーズ大佐は若い頃はネクロベルガー総帥の父親であるドレイク・ネクロベルガー元帥の副官をしていた事もあり、ネクロベルガーとは何かと縁がある人物である。そのため総帥のコネで連隊長になったとの噂もあるらしいが、俺としては皇居の戦いでの活躍もあっての抜擢と思う。それに、ネクロベルガーとしても人となりを知っているギーズは信用できる人物だったと思う。やっぱり勝手知ったる何とやらだ。

ギーズ大佐は、その後准将に昇進して宇宙歴191年に総帥警護連隊から「皇国(総帥)親衛隊」へと改名されると、少将に昇進して同組織の最高司令長官の座に就く。

そしてギーズ長官の下、親衛隊は大きく躍進して行くことになる。

前にも言ったが、親衛隊と言うとエリート部隊のイメージが強いと思うのだが、皇国親衛隊に関してはそう言った色は薄い。ただ総帥への忠誠が彼らに求められる絶対条件である。しかし総帥を守る部隊という特別なイメージもあり、入隊者の中には、勝手にエリート意識を持つ者も多いそうだ。入隊のハードルの低さと、そういった特別感が相まって志願者が多く、急速に肥大化して行く。

今では兵力30万人以上の大組織になっていて、地上軍、宇宙軍に次ぐ第3の軍と呼ばれている。

では、ここからは親衛隊を構成している大まかな組織を紹介する。

先ずは親衛隊総司令部である。言わずと知れた親衛隊の総司令部である。親衛隊の全てを統括する部署で、初代最高司令長官はギーズ中将とその幕僚たちで構成されている。

総司令部の下に「親衛隊本部」「親衛隊情報本部」「親衛隊特別作戦本部」の3つの本部がある。

まず最初に(皇国)親衛隊本部だが、此方は親衛隊の様々な事務を行う部署であり、組織内には第1局(人事局)第2局(法務局)第3局(経済局)第4局(福祉局)第5局(医務局)第6局(登録局)などの部局があり、これらを管理・監督している。

続いて(皇国)親衛隊情報本部だが、此方は簡単に言ってしまえば親衛隊の諜報機関である。内部部局には「情報局」の他にも、あのマリア・ブルジューノ少尉が所属している「警察局」や、悪名高い秘密(政治)警察である「国家保安情報局」がある。

あと、国家保安情報局を調べていて驚いたのが、局長の次の地位である次長にあの「シュヴィッツァー」少佐の名があった。ネクロベルガーの命で、月に亡命していたノウァ帝を迎えに来たあのシュヴィッツァーだ。

フルネームを「アウロ・シュヴィッツァー」と言い、今は昇進して大佐になっていた。出世したもんだ。

そして最後に(皇国)親衛隊特別作戦本部である。此方は親衛隊の軍隊である。一瞬、何言ってんの親衛隊は軍隊だろうと思ったかもしれないが、親衛隊員は一般隊員と戦闘隊員と呼ばれる2種類に分かれていて、前者を一般に親衛隊と呼ぶのに対して、後者を「武装(戦闘)親衛隊」と呼んでいる。この武装親衛隊国防軍並みの兵器を装備した戦闘部隊であり、それを監督するのが親衛隊特別作戦本部である。

う~ん、通常の軍隊の参謀本部みたいなものなのかな?

武装親衛隊には、正規軍である皇国国防軍と同じように地上軍と宇宙艦隊がある。有事の際には近衛師団と共に首都ミシャンドラを防衛する任務に当たるのだ。

ではその武装親衛隊の中でもいくつかの部隊を紹介しよう。

まず最初に紹介するのは「護衛旅団」である。その名の通り規模的には一個旅団クラスの部隊で、ネクロベルガーが移動する際は必ずこの部隊も行動を共にするため別名「ネクロベルガー旅団」とも呼ばれている。

護衛旅団は、特別作戦本部の中で一般的な実働部隊とは別の警備局所属の部隊である。警備局は、要人護衛とその部隊である警護部隊の手配を主任務とした部局で、中でも特に重要な部隊が警護旅団と「第1警護(小)隊」である。

彼らは警護旅団と同じくネクロベルガーを警護する部隊なのだが、彼の周囲にぴったりと付いて回る、所謂ボディガード的な部隊である。人数も小隊と呼ばれるだけあって少人数で、何かあれば自らの身体を盾にしてでも総帥を守る者達で構成されている。その任務の特殊性から審査が可成り厳しいらしく、親衛隊内で最も入隊する事が難しい部隊と言われている。

因みに総帥警護連隊時代には「ガード隊」と呼ばれていた。

あと、おもしろい話に第1警護小隊のライバルが、ネクロベルガーの異名でもある「犬を連れた独裁者」の由来ともなった2匹のロボット犬、アドルとドルフだそうだ。あの2匹は最もネクロベルガーに近い存在だから嫉妬しているとか。同じ対象を守る存在としてライバル関係にあるそうだ。其処は‥‥‥まぁ良いか。

次に紹介するのが「第1親衛隊師団」である。此方は武装親衛隊の中でも精鋭中の精鋭と言われる部隊である。実戦経験がない部隊なので実際は如何か分からないと言った処だろうが、訓練などでの成績が優秀なんだろう‥‥‥多分。

他には宇宙艦隊があるが、これはネクロベルガーが移動する際に護衛艦隊として従事する艦隊である。一応、首都防衛艦隊と呼称はされているが、何方かと言えばネクロベルガーの座乗艦の護衛と言った処だ。

さて、親衛隊の事も大まかだが紹介したので、次はネクロベルガーについてもう少し深堀して行こうと思う。

 

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犬を連れた独裁者 FILE3

ゲーディア皇国歴代皇帝の歴史取材をしている時から、ネクロベルガー総帥には興味があった。だから取材が打ち切りになったタイミングで暇を見ては色々と調べていた。

その中でも、ネクロベルガーと切っても切れない組織である「親衛隊」に付いては紹介して行こうと思う。

まぁ、親衛隊を本格的に調べる様になったのは、マリア・ブルジューノ捜査官に目を付けられたからなんだけどな。それは良いとして早速紹介して行こう。

ゲーディア皇国親衛隊。またはネクロベルガー親衛隊は、ネクロベルガー総帥や国の要人の警護と、皇国首都ミシャンドラ・シティ防衛を主任務とする軍事組織である。簡潔に言うとこの説明で事足りてしまうが、其れでは前々からちょくちょく言っている事と変わりがないので、前回よりは詳しくなるように解説したいと思う。

親衛隊は、元々「総帥警護連隊」と言うネクロベルガー個人を警護する私的な護衛部隊から始まったが、その前身は「ミシャンドラ・シティ(首都)内防衛軍」である。

首都内防衛軍は軍事政権下で近衛軍に代わり、首都内部の防衛を任務とした部隊だ。

彼らは宇宙歴181年にネクロベルガー総帥(当時元帥)の発案により組織された部隊であるが、元々首都内防衛軍構想は軍事政権下で提案されたのものである。目的は近衛軍の監視である。軍事政権の中心である北部方面軍が、クーデター時に貴族のお坊ちゃんお嬢ちゃんの寄せ集めと馬鹿にしていた近衛軍(特に宮廷警護(連)隊)が、思った以上に勇猛果敢に闘い善戦したことが理由である。要するに「此奴ら貴族の腑抜けとは違うぞ!」と思って警戒したって事だ。

但し、名目上は首都の防衛強化と言う事になっている。これは、クーデター時に首都内防衛を担っていた宮廷警護(連)隊が、クーデター軍の首都侵入に際して何もせずにただ皇居(王宮)の防衛に専念した事で、クーデター軍に呆気なく皇居以外の都市内部を制圧される事態を招いた事もあり、防衛強化と言う観点で宮廷警護隊以外に皇居敷地外の首都内部全体の防衛任務に当たる部隊の設立を考えたのだ。近衛軍の監視と首都の防衛の強化、このふたつを主な目的として軍事政権が発案したのが首都内防衛構想であり、それによって結成されたのが首都内防衛軍である。

しかし、軍事政権が結成当初から内部での対立や権力争いによってゴタゴタしてしまったために、結成は先送りされる事になる。結局、軍事政権がそのまま崩壊してしまった事で、首都内防衛構想は立ち消えとなってしまった。

因みに、首都内防衛構想が一向に実施されないのを良い事に、近衛軍が勝手に「皇都守備隊」と言う独自の部隊を組織して首都内部の防衛に当たらせている。

では、何故ネクロベルガーはその首都内防衛構想を復活させ実行したのか? これに付いてはイマイチ分かっていない。この構想をサロスに上申した際、当時の近衛軍長官のターゲルハルトに猛反対された。

当然と言えば当然な反応だ。ターゲルハルトからすれば近衛軍の縮小は自分の権力の縮小と言っていい。それを許すはずが無いのだ。それにチョコチョコ別組織が混じる事はあっても、ゲーディア皇国建国以来、首都の防衛を担って来たのは近衛軍であり、その伝統と言うかプライドがあるため、首都の防衛に関して国防軍に介入されたくないと言うのもあるのだろう。多分この件についてはターゲルハルト以外が近衛軍長官をしていたとしても反対していただろう。

結局の処、ネクロベルガーしか信用していないサロス帝の鶴の一声で首都内防衛軍は結成される事になるのだが、これによってネクロベルガーとターゲルハルトの確執が表面化したとも言える。

抑々、首都内防衛軍結成は軍事政権下で上がった話で、表面上の目的は兎も角、その最大の目的は近衛軍の監視だからだ。自分たちを監視し抑える部隊をワザワザ配置すること自体、近衛軍からしたら不満以外の何物でもないだろう。既に自分たちを監視しようとした軍事政権が既に崩壊して失われているにも拘らず、国防軍による首都内部の防衛部隊など必要ないはずである。この時点で既に首都内防衛のために皇都守備隊が近衛軍で結成されている。彼らに任せればいいのだ。それなのに何故ネクロベルガーは首都内防衛軍の結成をゴリ押ししたのか? 何故近衛軍と国防軍の対立を生む様な真似をワザワザしたのか? 大きな謎でもある。

謎の真相は兎も角、元々ネクロベルガーの事は気に入らなかったであろうターゲルハルトが、此処であからさまに敵視し出したのは言うまでもない。

対するネクロベルガーだが、彼がターゲルハルトを敵視している描写は無く、必要だからそうしたまでと言うスタンスで当たっていた様だ。感情的なターゲルハルトを内心見下していたかもしれない。政治に感情は不要とでも思っているのだろう‥‥‥多分。

とは言え、人間が政治を動かしている以上、感情は入るものだ。ネクロベルガーのやり方は否定はしないが、感情を入れないというやり方は他の人には無理があると思う。それにネクロベルガー自身も無表情で無感情なイメージはあるが、その冷徹な仮面の下には人間の感情が隠れていていても可笑しくない。もしかしたら何かしらの思惑により、首都内防衛軍結成させたと思う。顔に出ないだけで心の奥底には色々と計算があると俺は思う。多分。

さて、多分ばかりで埒が明かないので話を親衛隊に戻そう。とも思ったのだが、この際なので近衛軍に付いて軽~く説明しておこう。

近衛軍は皇族の警護や皇居のある首都の防衛を担っている軍隊である。真紅の軍服を身にまとい、位が上がるに従い金のモールやらマントなどの意匠が派手になり、士官に至ってはサーベルを帯刀しているなどチョット時代錯誤的な格好をしている。だけど見ている側とすれば見栄えもよく、カッコイイの一言に尽きる。正にロマンあふれる軍服と言ってもいいだろう。

一見すると、見た目重視の派手な軍装の軍隊と言った処だ。機能的に余り戦闘向きとは思えない軍隊でもある。そのため一部では「着飾ったお人形の衛兵」などと馬鹿にされてもいるようだ。

まぁ、別に近衛軍は積極的に戦場に出る訳ではないので大丈夫と言えば大丈夫なのだろうが、仮にも首都防衛を預かる軍隊なので、もうチョット‥‥‥あゝそうだ、士官は派手なのだが兵士となる戦士は普通の戦闘服らしい。一応赤い軍服もあるらしいのだが、それは式典用で普段は簡易的な戦闘服で居るらしい。士官と兵の軍服の格差が激しいのも近衛軍の特徴だ。もしかしたら戦闘になれば近衛士官も戦士(兵士)と同じような戦闘服に着替えるのかもしれないな。

そんな近衛軍の主な部隊には「宮廷警護隊」「近衛警察」「皇都守備隊」「近衛師団」「近衛艦隊」と、大きく分けて5つの部隊がある。

先ず最初に宮廷警護(連)隊であるが、彼らは皇帝やその家族である皇族の警護と皇居(王宮)内やその敷地内を警備する言わばエリート部隊である。

そして、宮廷警護隊の中でも特に優秀な者だけがなれるのが、皇帝や皇族個々人の専属ボディーガードである「皇室専属警護官」である。彼らは基本的に生粋の貴族出身の近衛士官から選ばれており、例え優秀であっても戦士や庶民出身の近衛士官からは選ばれる事は無く、武門系貴族にとっては大変名誉な職である。彼らに求められるのは、皇帝への忠節は勿論のこと、戦闘技術や状況判断力、高い学識や高貴な者としての教養なども要求される。さらに皇帝や皇族に気に入れられなくてはならないため、話術や容姿も重要な要素になっている。そのため彼らは「騎士の中の騎士」とも呼ばれている超エリートであり、皇帝・皇族ひとりに付き大体2~4人ほどが常時警護しており、何かあれば身を挺して要人を守るのが彼らの任務である。

因みに、皇室専属警護官は警護対象と同性と暗黙のルールがあったそうだ。正式では無かったので守っていたのは初代ウルギア帝くらいだったそうだが、何故そんなルールがあったかと言うと、まぁ、アレだな、ノウァ帝みたいなことにならない為だろうな。結局、正式な規定ではなかったため有耶無耶になってしまったと言う事だ。

特にサロスは、彼らの事も信用していなかったので、即位当初は高級娼婦に近衛士官の軍服を着させて周りに付かせていたとも言われていている。そんなので大丈夫か? とも思うかもしれないが、殆ど皇居の奥でヨロシクやっていたのでそれでよかったのだろう。どちらにせよ彼の在位後半では警護官に警護させていた様だ。しかも全員男性で、以外に暗黙のルールを守るタイプ? かも知れない。俺なんかは絶対女性士官を侍らせていたと思っていたので予想外だった。

ハッ、もしかしてそっちに目覚めた⁉ などと気持ち悪い妄想は辞めて次に行く。

次は宮廷内の事件や事故の調査・逮捕などの警察業務を担う「近衛警察」である。此方は宮廷警護隊と一部被る処もあり、しかも宮廷で事件など余り起こる筈も無く(起こったしても内々に処理される。まぁ、その処理を請け負っていたかもしれないが)、そのためこれと言った活躍は無く、専らパレードなどの警備に就く事が多いそうだ。そのため「着飾ったお人形の衛兵」と揶揄されるのは彼らだとも言える。

続いて皇居の敷地以外の首都内部の防衛を任務とする「皇都守備隊」である。この部隊は先ほど言った通り、首都内部に入り込んだ敵との交戦を主任務とした部隊である。主に皇居外の宇宙都市内での戦闘を主眼に置いているため過度な重武装はしておらず、戦闘車両も軽武装したものが配備されている。

首都の内部に敵が侵入した時点でアウトだろうと思うかもしれないが、まぁ、敵国の軍に当たると言うよりも、専らテロやクーデターなどの内乱に対する部隊と言ってよいだろう。先ほども言った通り、北部方面軍がクーデターを起こした際に皇居がクーデター軍に包囲される事態になった。其処で首都の防衛強化の一環で軍事政権が首都内防衛軍を結成するはずが、一向に結成されないため急遽近衛軍が組織した部隊である。

最後はミシャンドラ・シティ外での防衛を任務とした「近衛師団」と「近衛艦隊」である。近衛師団は地上軍3個師団あり、近衛艦隊の1個艦隊とともに首都に攻め寄せてくる敵を迎撃するのが主任務である。

因みに近衛艦隊は、皇帝や皇族が外遊を行う際の護衛艦隊にもなっている。

これが近衛軍の主な部隊である。その中で、皇都守備隊が首都内防衛軍と入れ替わったことで、皇国建国以来初めて近衛軍以外の部隊が首都を守る事になり、彼らのプライドを傷つけたとも言える。

一応、ネクロベルガーも近衛軍長官の任に就いていた時期があるため、彼らの思いも理解していただろうが、それでも国防軍に首都を守らせる事にこだわったのは何故だろうか? もしかして自身の影響がある部隊を置きたかったのだろうか。そこでふと思うのは、首都内防衛軍が後の親衛隊の基になったという事実だ。もしかしたらネクロベルガーは最初から親衛隊結成のために首都内防衛隊を組織したのでは無いだろうか、そう思うと彼の先見性が末恐ろしくもある。

ネクロベルガーにとってサロス暗殺も、その後の混乱とそれを収める首都内防衛軍の活躍も、予測していた事と言う事になる。そしてそのまま首都内防衛隊を親衛隊と言う自身の私兵に変えてしまったのだ。

う~ん、チョット飛躍し過ぎだろうか。結果論とも言えるし、何よりこれだとネクロベルガー陰謀論者のクエスと一緒になってしまう。それは嫌だ!

其れに首都内防衛隊は、サロスにべったり作戦を取ったターゲルハルトの頑張りもあってか、宇宙暦187年には近衛軍の麾下になっている。果たしてそこまで予測できたのだろうか?  下手をすると皇都守備隊として再編されてしまう恐れもある。一応、将兵国防軍のままで近衛軍の士官が指揮する様な人事の変更等は無かったものの、何時までもそのままだとは思えない。ゆくゆくは皇都守備隊が復活したかもしれない。そうなると、その前にサロスとターゲルハルトを‥‥‥とも考えられる。

いや駄目だな、また陰謀論に染まりそうになる。

歴史の事実として、首都内防衛隊は皇都守備隊に置き換わる事なく2年後の宇宙暦189年のサロス帝暗殺に伴う反サロス派との戦闘に突入して見事にこれを鎮圧している。そして首都内防衛隊は半年後に総帥警護連隊と名を改めるのだ。

此処では少し「サロス帝暗殺事件」について語ろう。

サロスが新しく出来た軍の施設へ視察に赴く途中で襲撃を受け、近衛長官ターゲルハルトと共に暗殺されてしまうと言う事件だ。

皇帝と近衛軍トップの同時暗殺により首都はパニックに陥り、その隙を突いて反乱軍が皇居を占拠しようと襲撃したと言うのが「サロス帝暗殺事件」の概要である。

因みにこの時ネクロベルガーも暗殺の対象だった様だが、彼は偶々遅刻して事件に巻き込まれる事が無かったのだ。だがこれもネクロベルガーがサロス暗殺の黒幕説を唱えるクエスの話では、暗殺計画を知っていてワザと遅れたと言う事らしい。

まぁ、証拠も根拠は無いが、根の葉も無い作り話とも思えないのが陰謀論の質が悪い所でもある。もしかしたらそうかもしれないと思えるんだよなぁ‥‥‥。

よく陰謀論を何故信じるのか? と思う人もいるようだが、それは陰謀論が物語だからだと言われている。人は物語りが好きで、そう言った構成で聞かせると信じやすいのだそうだ。

それに対して事件の調査報告書なるものは、調査で判明した事実のみを並べているだけで大方の人々にはつまらないものだ。人はつまらないものに興味を示さない。そこに興味を示したとしてもほんの僅かな人々だ。だが、そのほんの僅かな人の中に、その報告書の抜けている処や調査では分かりようもない事を勝手に想像してしまうのだ。これが陰謀論が生まれる経緯だと言われている。そうなるとただのつまらない資料が物語となって面白みを増し、人々に受け入れられると言う訳だ。

陰謀論に付いてはまたの機会にする事にして話を戻そう。

事件が起きたのは宇宙暦189年4月26日の事だ。10:00頃に、皇帝サロスは近衛長官ターゲルハルトと共に首都の地下第2階層のとある軍施設(場所は伏せられていて不明だが、リホームして新しくなった「士官学校」と言われている)への視察に向かう。

この時ネクロベルガーも同席するはずだったが、サロスに遅れると連絡があり、視察地の軍施設で合流する事になる。此処でひとつの疑問が出ている。ネクロベルガーはこの時一体何処にいたのかと言う事だ。

ネクロベルガーは軍の最高司令官なので、サロスたちが向かうミシャンドラ地下第2階層に居るのが普通である。地下第2階層は軍の中枢として機能しているからだ。しかしネクロベルガーはサロスが唯一信頼している人物なので、皇居の近くに屋敷を構えているのだ。此方にいたとしても不思議ではない。

それに付いては如何もどちらにもいなかったと言われている。理由は簡単で、もし地下第2層の軍事施設(司令部など)にいたのなら、わざわざ一緒に行かなくとも、初めから視察地の軍事施設で合流すればいいのだ。だかネクロベルガーはサロスと一緒に行く予定だった。司令部にいたのなら二度手間である。

そうなると、自身の屋敷にいた事になるのだが、ネクロベルガーの屋敷は皇居の隣にあり、サロス側から迎えをやって一緒に行けばいいのだ。遅れると言ってもそれほどスケジュールが圧していた訳でもない様なので、少し遅れてもネクロベルガーが来るのを待てば問題無かったはずである。

そうなると一体どこにいたのかともなる。公式には何も語られていないので、それも陰謀論者の格好の餌食になっている。隠れて反サロス派に指示を出していたのだと。

それが根も葉もない様に聞こえないんだよな。まぁ、何処にいたのか分からないのをいくら考えても埒が明かないので話を続ける。

皇居は、都市の中央に位置しており、地下の階層の中央柱と一体化しているので、地下階層の移動は皇居からエレベーターで降りる事が出来る。そのため地下階層への移動に関しては概ね安全なのだが、そこから視察地への移動は公用車で向かうため其処で襲撃を受けたわけだ。

襲撃時間は11:13と記録されている。宮廷警護連隊に守られながら高速道路で視察地に向かうサロス一行の目の前で、突然の爆発が起きて急ブレーキをかけた後、すぐさま引き返そうと車がバック仕掛けた時に、後方でも爆発が起きて身動きが取れなくなると、四方八方から武装集団がサロスたちを襲ったのだ。

すぐさま宮廷警護連隊と武装集団との間で銃撃戦が起き、憲兵隊本部に救援連絡が送られ、連絡を受けた憲兵隊本部は武装した憲兵隊を救援に向かわせている。

意外に思うかもしれないが、軍事の中心であるシャンドラ地下第2階層で武装する事が許されているのは憲兵隊だけである。その他の軍人は拳銃すら携帯する事が禁止されている。以前に軍政省庁舎にて若手将校が立て籠り事件を起こした話をしたと思うが、軍人にも拘らず彼らが丸腰であったのは、銃の携帯が禁止されていたからである。

だが、武装した憲兵隊の前に、サロス救助を阻む武装集団が現れこちらでも銃撃戦が起こってしまいそれが原因で憲兵隊の到着が遅れてしまい、サロスとターゲルハルトを含む37名が死亡、襲撃犯も、遅れて到着した憲兵隊に全員射殺される。

なかなか痛ましい事件だが、ここで事件は終わっていない。憲兵隊本部はサロス帝死去によって起こるであろうパニックを抑えるためを事実を隠蔽して「襲撃を受けて負傷したがサロス陛下は生存している」と報道する。

だが、この報道が流れた直後の13:30 ミシャンドラ地表層に潜伏していた反サロス派が一斉に放棄する。各地で爆破テロが起こり、首都内防衛軍は鎮圧のために出動する。

当時の首都内防衛軍の兵力は約1200名ほどで、反サロス派の兵力は200余りだと言われる。ただ当時は反サロス派の兵力が分からず、さらに反サロス派は、数名でひとチームの数部隊が各地で爆弾テロを繰り返しており、これによって敵の数や本体が何処にいるのか分からず、翻弄される事になる。結局、首都内防衛軍の東西南北の各方面群は、皇居へ通ずる街道を防衛する事に専念する事になる。

その間も、各貴族の屋敷から「怪しい集団がいるから捕まえろ」と言う趣旨の電話が矢の様に首都内防衛軍司令部に掛かってきたいたらしい。ただ、首都内防衛軍司令官と近衛軍副長官をはじめとする近衛軍幕僚は、各方面群に皇居防衛に専念するように指示を出して動く事を禁じて居る。これでは7月事件の二の舞とも言える醜態である。

そんな中、14:20頃に南部方面群を反サロスの部隊が攻撃を仕掛ける。

首都内防衛軍の編成は、2個中隊とそれを運ぶ兵員輸送装甲車で構成された部隊で、その中で最も強力な武装は兵員輸送装甲車に設置された12.7mm重機関銃である。

宇宙都市を傷付けない配慮として、余り破壊力の高い武装をしていなかったのだが、それが裏目に出てしまった形となる。反サロス派の部隊は携帯ミサイルなど、ひとつ間違れば都市に大きな損傷を与えかねない武装をしていたのである。その武装の差により南部方面群は行き成り大苦戦を強いられ、司令部に至急救援要請を打診たのだ。しかし、司令部の返答は「そん場に留まり死守せよ」だけであり、同じ頃、東部方面群からも南部方面群への救援に向う許可を求められたがそれらも却下され、各方面群はその場で防衛に当たるよう指示が出される。

これは、南部方面以外にも敵部隊が潜んでいた場合、南部方面群を他の方面群が救援に向かってしまうと、そこを敵に突かれてしまい恐れがあり、そうなると戦線が一気に崩壊しかねないとの判断なのだろう。

だがここで司令部にネクロベルガーがやって来た。この日初めてその所在が確認された瞬間でもある。

ネクロベルガーは、首都内防衛軍司令官や近衛軍幕僚の指令を撤回して、すぐさま東部方面群に南部方面群の救援に向かうよう指示を出す。これには他の幕僚たちが口々に反対意見を漏らしたが、「すべての責任は私が取る!」と一蹴して東部方面群を南部方面群の救援に向かわせた。

そしてこれが大当たりする。側面からの強襲に反サロス軍は大混乱に陥って崩壊、散り散りになって逃走を図ったのである。

こうなるともはや一方的な掃討戦となり、サロス暗殺から始まったクーデター事件は鎮圧されたのである。

 

 

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犬を連れた独裁者 FILE2

現皇帝であるノウァは、軍部(北部方面軍)が起こした7月事件によって身分を隠してアフラに亡命せねばならなくなった。

しかし、そこでの隠れた生活に疲れた彼女は、護衛役の近衛士官の息子であるエアニスと恋仲になり、しかも子供まで身籠ってしまう。この事が発覚したのは「サロス帝暗殺事件」の4か月前の事で、その頃にはすでに妊娠3ヶ月だったそうだ。

一応、エアニスの妹が皇女様と兄との仲に気付いていて、妊娠自体もいち早く気付いていたらしく、それとなく母親に相談し、頃合いを見て母親が父親である近衛士官に話した事で発覚したと言う事らしい。

因みのこの話は、ノウァ皇女が帝位について3年後に、エアニスの妹で皇帝付き侍女の「アニー・プラトニー」が出した、ノウァ皇女の亡命時代の日々を綴った「亡命皇女」の内容を掻い摘んだ説明になる。

これを聞いた父親の近衛士官は烈火の如く怒ったらしいのだが、皇女様と息子が真剣だと言う事と、すでに妊娠までしてしまったからには如何する事も出来なかった。と言った処だろう。幾らなんでも皇女様のお腹の子を下ろすなんて、一近衛に過ぎない彼には出来なかっただろうしな。

とは言え、大問題であることは間違いない。皇族ともなれば、その婚姻関係にも非常に神経を使う事である。抑々皇族と婚姻関係になると言う事は、その人物だけでなく、その家族にも大きな権力が与えられると言っても過言ではないし、歴史上、そうやって外戚として権力を振るった者は枚挙に暇がない。

現に皇国では、ノウァ帝の母親はであるパウリナ帝は、夫のディーノの父親であるサウル・ロプロッズが権力を手にした事で下級貴族から上級貴族となって、最期には皇国宰相の地位にまで登りつめたのである。その後どうなったかは言わずもがなだが、皇国に大きな混乱を招いたのは事実である。

いま気付いたんだが、母親のパウリナ帝も、娘のノウァ帝も、結婚相手が低い身分(と言っても一応貴族だが)の出身者だったんだな。今後、彼女に何か良からぬことが起きなければいいが‥‥‥。

皇帝の婚姻と言えば、多くの娼婦を侍らせ31人の一般女性と関係(ほぼ強姦らしい)を持っていたサロスにも、意外にも正妻と言うものが居たそうだ。名前は「アリーゼ・ジーネ・クロイル」2代目ヴァサーゴ大公・リーンハルト・マティーアス・クロイルの娘だ。

宰相ザクゥス大公との関係を考えれば当然だな、彼は孫娘をサロスの嫁にしたんだ。ただ夫婦関係は完全な仮面夫婦だったようだが‥‥‥。

それに比べれば、ノウァ帝とエアニスの夫婦仲は良好なようだ。取りあえずあの近衛士官の家族はロプロッズの様な権力に取りつかれてはいない様にも見える。

では話を戻そう。

この「皇女妊娠事件」と仮に名付けようか、この事件は発覚時にはノウァ帝と近衛士官の家族内での事であって外には一切漏れてはいない。抑々ノウァ帝はアフラでは殆ど外出していないので、近隣住人にもその存在を知られていなかった様なのだ。だから外部にこの事が漏れる事は無かったのだ。

なので、公にはサロスの死後、皇国の使者がノウァ帝を迎えに来た時に初めて発覚したのである。

妹の著書には、皇女を迎えに来た使者は3人の皇国軍人だったそうだ。

まぁ、ネクロベルガーが遣わしたのだから軍人であっても不思議ではないが、その内2人の士官は皇女が妊娠していると聞いて尋常でない狼狽っぷりを見せたらしい。

まぁ当然だよな、しかも相手は護衛任務に当たっていた近衛士官の息子となると問題になるわな。

一応、近衛軍の士官たちは中下級貴族で構成されているのだが、皇女の結婚相手となるとやはり上級貴族以外には無いと思う。それなのに、迎えに来たら中級貴族である近衛士官の息子とそんな事になったらそりゃ驚くだろう。

ただ2人の上官に当たる「シュヴィッツァー」少佐と言う人物だけは沈着冷静で、この事実を聞いても眉ひとつ変えず、直ぐに本国へ連絡する様に他のふたりの部下に指示を出したみたいだ。

アニー女史は著者の中で、その少佐が余りにも冷静で感情が無かったため怖かったと回想している。感情が無いとはネクロベルガーそっくりだな。その少佐はミニネクロベルガーと言った処だろうな。

まぁ、その少佐の事は置いておくことにして。すぐさまその皇女妊娠の報は本国へと伝えられ、それによって予定を変更してノウァ皇女の帰国が半年先延ばしされたのだ。

この処置は、既にノウァ皇女が妊娠7か月以上たっていた事を鑑みて、帰国して出産するより、このままアフラで出産した方が母体への悪影響が無いとの判断だったようだ。

あとは産後の体調の経過を見て帰国すると言う事になったのだろう。経過によっては帰国がもっと先延ばしされてかも知れないと書かれていた。

お陰でネクロベルガーの摂政期間も延びる結果となったのだ。

此処でノウァ皇女帰国にはチョットした疑問があり、俺なりに考察してみた。

先ず最初の疑問は、何故ネクロベルガーは身分を隠して暮らしていたノウァ皇女の所在を知っていたかである。

彼はサロスが暗殺され、その後の反サロス勢力のクーデターを鎮圧した直後にシュビッツァー少佐らを使者に送っているのだ。これは驚くほど動きが早すぎると言える。

本来ならノウァ皇女の生存、所在の確認、そして使者を送ると言う手順を踏んで迎える筈なのだが、もうすでに知ってたかのように迎えの使者を送っているのである。

あくまでこの時のノウァ帝は、身分を隠してアフラに潜伏していたのだ。皇国では消息不明扱いになっていたようである。それを見つけると言う事は、以前からに捜索していたか皇女側から何かしらのコンタクトがあったとしか思えない。

しかし、ノウァ帝の当時の立場からすれば後者はあり得ないと考え、以前から捜索されていたと考えるのが妥当だ。すると一体だれが何の目的でとなる。

先ず考えられるのは、サロス帝や宰相のザクゥス大公がネクロベルガーに探索させたと言う事だ。彼からすれば、先帝であるパウリナ帝の娘は、自分たちに敵対する勢力に利用される恐れがある。そのため、先んじて対処(保護の名目での幽閉、または暗殺)しなければならないはずである。

それに関連しては、ヴァサーゴ大公家の政敵でもあるアガレス大公家も行方を捜していた筈である。彼らにとって皇女は、自らの派閥の再起のための武器になるのだ。探していて当然であるが、ネクロベルガーを使ってとは考えにくいので、此方の方は考えなくてもいいだろう。

ぶっちゃけネクロベルガーが実は裏でアガレス大公家と繋がっていたと言うなら話は別だが、それは無いと思う。多分‥‥‥。

ふたつ目に考えられるのは、ネクロベルガー自身が探索していたと言う事である。

此方の理由は、うちのクエスなどが良く言っているサロス暗殺の黒幕がネクロベルガーと言う陰謀論の根拠となる説だ。

要するに、サロスが制御できなくなった際の首のすげ替えのためにノウァ皇女を探したと言う話だ。だからサロス死後にアレだけスピーディーに皇女を迎える事が出来たと言うわけだが、まさか皇女が護衛を務めている近衛士官の息子と恋仲になって、子供まで作ってしまうとは想定外だっただろう。ノウァ帝は、亡命時代は匿われている家から殆ど出ていないので、もし仮にネクロベルガーが皇女(と言うより近衛士官の家族)を発見して監視していたとしても、妊娠には気付かなかったかもしれないからな。あるいは気付いていたからシュヴィッツァー少佐は驚かなかったとも考えられるが‥‥‥これについては分からんな。

まぁ、知っていたか知らなかったはネクロベルガーにとっては何方でも良かったのかもしれない。皇女が帰国するまでの期間が延びれば、彼が摂政としての延命がなされる訳だし、彼にとっては悪い話では無い様に思える。

とは言え、皇女が帰国して皇帝に即位した後もネクロベルガーは摂政であり続けたのだから、延びた延びないは余り関係無いかも知れないがな。

イヤ、でも新皇帝の一声でネクロベルガーが摂政を解任され、宰相のフローグ子爵が補佐する事も十分考えられるたのだ。ネクロベルガーとしては何かしらの手を打つ期間はあった方が良かったのかもしれないな。例えば皇国議会の議員を買収するとか‥‥‥。

ネクロベルガーは現状から起こりうる未来を正確に予測し、それに逐一対応していたと言う事だな。普通に出来る事ではないが、ネクロベルガーはそれをやってのけたと言える。あるいは本当にただの強運の持ち主なのか? 結果から見るとどちらにも取れる。

まぁ、それについては一旦置いておいて、ふたつ目の疑問に取り掛かろう。それはノウァ帝の父親の行方である。

7月事件で、ノウァ帝は父親のディーノ・ロプロッズ伯と一緒に皇国を脱出し、アフラに亡命したのだ。だが、帰国時に彼の姿は無い。亡命皇女では、宇宙暦180年の2月頃に何も告げずに突如行方をくらませたと書かれている。

宇宙歴179年の4月に皇国で軍事政権が崩壊し、サロス帝の親政が行われた。と言うニュースが世界中に報道された頃から少し様子が変になったと亡命皇女では書かれているが、当時はアニー女史も気が付いていなかったらしく、行方をくらませた後に振り返って見れは様子が変だったと言う程度のものだったようだ。

結局、それ以降連絡が取れなくなったために、ディーノの所在は分からずじまいだそうだ。ただ噂程度の話なら幾つかある。例えば幽閉されたパウリナ帝を救出しようと皇国に戻って捕らえられて処刑されたとか、身分を隠してサロス暗殺事件に参加したものの首都攻防戦で戦死した。或いは逃亡したなどの話がある。しかし、実際にはどれも憶測の域を出ないもので、生きているのか死んでいるのかさえ不明なのだ。

ただ、娘が皇帝になったのに未だに出てこない処を見ると、死亡している確率が高いと俺は見ている。

其れに父親が居なくなったノウァ皇女は大変ショックを受けていたようで、食事も殆ど喉を通らなくなって衰弱していたと書かれている。結構危なかった様だが、そんな彼女を真摯に支えたのがエアニスだった訳だ。そりゃ、恋心も芽生えるってもんだ。

どっちが告白したんだろうな? やっぱり皇女様かな? いくら何でもエアニスの方からって事は無いだろう。身分の壁って言うのを弁えてるだろうからな。一体皇女様は如何言ってエアニスに迫ったんだろうな? 何でこう言う事書いてないんだろうな?

個人的には興味をそそるが、抑々亡命皇女は暴露本では無いからこう言うところは描かないのか? 皇女と兄貴は隠れて付き合ってたと言っても、家の中でのふたりの会話とかで気付いてたんだろからそういうのも描いて欲しかったぜ。

ゴホン、話が逸れましたので戻します。

さて、ノウァが4代目皇帝となる事になったのだが、彼女が帰国するまでの6か月間のに皇国でも結構ゴタゴタがあった様だ。

その最たるものが、サロスの後継者問題である。

イヤイヤ、サロスの後継者はノウァだろと思うかもしれないが、サロスには高級娼婦の他に、31人の女性と関係を持ち、うち17人の女性を妊娠させているのだ。それら子供を持った女性が、我が子を皇帝にと思ったとしても、無謀とは思うが何ら不思議では無いだろう。そして実際にそれは起こったのだ。ただこれに関しては、予想通りサロスは子供を一切認知していなかったため、宮廷側も最初は突っぱねたのだ。

しかしDNA鑑定で血縁が証明されている事もあり、宮廷側も何かしらの手を打たないと色々面倒になると考えた様で、この騒動の早期幕引きのために彼女たちを買収する事にしたのだ。要は金の力で解決したって事だな。

一応、皇族と認めるが、後継者に関して一切口を挟まない事を条件に、可なりの額の生活保障を約束する事で彼女たちを納得させたんだ。

これに対して殆どの女性は納得した様だが、ひとりだけ、モニカと言う女性だけはいくら保障の条件を引き上げようと納得しなかったそうだ。

彼女曰、サロスは自分の子供だけは認知したと言っているのである。だが、他の女性の手前、皇子として迎える訳にはいかず、離れて暮らす事を強いられたのだと言い。何時か皇子として迎えると約束もしたと訴えたのだ。

まぁ、体のいいその場凌ぎの口約束だろうが、モニカはそれを信じていた様だ。

う~ん、これに関しては如何いったらよいか分からん。サロスは己が欲望のために彼女たちと関係を持ったのだ。自分の立場を利用して彼女たちに拒否する権利を与えず、性的行為を強要したとされる。それによって妊娠すると自分は知らないとばかりに彼女たちを捨てる。最低のクズ野郎だ。

だが、そこでサロスが死んだからといって、自分の子供を皇帝にと考える彼女たちの神経も如何だろうとも思う。まぁそうなれば、自分は皇帝の母親、つまり皇太后になれるって思ったのだろうか? あるいはそれをネタに只お金をせびりたかったのだろうか? もし後者なら彼女たちの思惑は当ったと言える。多額の生活保障が約束されたのだからな。

もし本当に皇帝になれると思ったのなら、17人の子供の誰がなるのかと争いの種になりかねないんだが、上級貴族も流石にその子供たちの後ろ盾になろうとは思わなかった様だ。

やっぱりお金、だったんだろうな‥‥‥。

そうなると、一人モニカと言う女性だけは本当にサロスの言葉を信じていたんだと思うと心が痛むが、最終的にモニカは逮捕される事になる。

なかなか自分と子供を受け入れない宮廷側に、モニカは怒りを露わにして政府の施設を放火してしまったそうだ。

気持ちは分からんでもないが、そんな事をすれば自分で自分の首を絞める様なものだ。案の定、彼女は放火罪で逮捕されてしまい、その逮捕劇によって一連の騒動は一応の終息を迎えた。

因みにモニカの息子だが、今はミシャンドラ学園に居るらしい。父親は暗殺され、母親は放火罪で無期懲役の収容所送りだ。しかも放火罪で無期懲役なのは、サロスが施行した「皇帝令第1号(人権剥奪法)」でだからな。皮肉なもんだ。

ま、ひと騒動はあったがノウァ皇女は無事帰国し、宇宙暦189年11月11日に戴冠式を挙げて晴れて第4代皇帝になった訳だ。

え~と~、ノウァ帝の話はこれ位でいいだろう。現在も彼女が皇帝としてこの国に君臨しているので、歴史上の人物扱いはまだ早い。

それでは次からは本格的にネクロベルガーの話をしようと思う。そうだな、先ずは彼の私兵とも言っていい「皇国親衛隊」の話なんてのは良いかも知れないな。

 

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