怠惰に創作

細々と小説の様なものを創作しています。設定など思い付いたように変更しますので、ご容赦ください。

犬を連れた独裁者 FILE3

ゲーディア皇国歴代皇帝の歴史取材をしている時から、ネクロベルガー総帥には興味があった。だから取材が打ち切りになったタイミングで暇を見ては色々と調べていた。

その中でも、ネクロベルガーと切っても切れない組織である「親衛隊」に付いては紹介して行こうと思う。

まぁ、親衛隊を本格的に調べる様になったのは、マリア・ブルジューノ捜査官に目を付けられたからなんだけどな。それは良いとして早速紹介して行こう。

ゲーディア皇国親衛隊。またはネクロベルガー親衛隊は、ネクロベルガー総帥や国の要人の警護と、皇国首都ミシャンドラ・シティ防衛を主任務とする軍事組織である。簡潔に言うとこの説明で事足りてしまうが、其れでは前々からちょくちょく言っている事と変わりがないので、前回よりは詳しくなるように解説したいと思う。

親衛隊は、元々「総帥警護連隊」と言うネクロベルガー個人を警護する私的な護衛部隊から始まったが、その前身は「ミシャンドラ・シティ(首都)内防衛軍」である。

首都内防衛軍は軍事政権下で近衛軍に代わり、首都内部の防衛を任務とした部隊だ。

彼らは宇宙歴181年にネクロベルガー総帥(当時元帥)の発案により組織された部隊であるが、元々首都内防衛軍構想は軍事政権下で提案されたのものである。目的は近衛軍の監視である。軍事政権の中心である北部方面軍が、クーデター時に貴族のお坊ちゃんお嬢ちゃんの寄せ集めと馬鹿にしていた近衛軍(特に宮廷警護(連)隊)が、思った以上に勇猛果敢に闘い善戦したことが理由である。要するに「此奴ら貴族の腑抜けとは違うぞ!」と思って警戒したって事だ。

但し、名目上は首都の防衛強化と言う事になっている。これは、クーデター時に首都内防衛を担っていた宮廷警護(連)隊が、クーデター軍の首都侵入に際して何もせずにただ皇居(王宮)の防衛に専念した事で、クーデター軍に呆気なく皇居以外の都市内部を制圧される事態を招いた事もあり、防衛強化と言う観点で宮廷警護隊以外に皇居敷地外の首都内部全体の防衛任務に当たる部隊の設立を考えたのだ。近衛軍の監視と首都の防衛の強化、このふたつを主な目的として軍事政権が発案したのが首都内防衛構想であり、それによって結成されたのが首都内防衛軍である。

しかし、軍事政権が結成当初から内部での対立や権力争いによってゴタゴタしてしまったために、結成は先送りされる事になる。結局、軍事政権がそのまま崩壊してしまった事で、首都内防衛構想は立ち消えとなってしまった。

因みに、首都内防衛構想が一向に実施されないのを良い事に、近衛軍が勝手に「皇都守備隊」と言う独自の部隊を組織して首都内部の防衛に当たらせている。

では、何故ネクロベルガーはその首都内防衛構想を復活させ実行したのか? これに付いてはイマイチ分かっていない。この構想をサロスに上申した際、当時の近衛軍長官のターゲルハルトに猛反対された。

当然と言えば当然な反応だ。ターゲルハルトからすれば近衛軍の縮小は自分の権力の縮小と言っていい。それを許すはずが無いのだ。それにチョコチョコ別組織が混じる事はあっても、ゲーディア皇国建国以来、首都の防衛を担って来たのは近衛軍であり、その伝統と言うかプライドがあるため、首都の防衛に関して国防軍に介入されたくないと言うのもあるのだろう。多分この件についてはターゲルハルト以外が近衛軍長官をしていたとしても反対していただろう。

結局の処、ネクロベルガーしか信用していないサロス帝の鶴の一声で首都内防衛軍は結成される事になるのだが、これによってネクロベルガーとターゲルハルトの確執が表面化したとも言える。

抑々、首都内防衛軍結成は軍事政権下で上がった話で、表面上の目的は兎も角、その最大の目的は近衛軍の監視だからだ。自分たちを監視し抑える部隊をワザワザ配置すること自体、近衛軍からしたら不満以外の何物でもないだろう。既に自分たちを監視しようとした軍事政権が既に崩壊して失われているにも拘らず、国防軍による首都内部の防衛部隊など必要ないはずである。この時点で既に首都内防衛のために皇都守備隊が近衛軍で結成されている。彼らに任せればいいのだ。それなのに何故ネクロベルガーは首都内防衛軍の結成をゴリ押ししたのか? 何故近衛軍と国防軍の対立を生む様な真似をワザワザしたのか? 大きな謎でもある。

謎の真相は兎も角、元々ネクロベルガーの事は気に入らなかったであろうターゲルハルトが、此処であからさまに敵視し出したのは言うまでもない。

対するネクロベルガーだが、彼がターゲルハルトを敵視している描写は無く、必要だからそうしたまでと言うスタンスで当たっていた様だ。感情的なターゲルハルトを内心見下していたかもしれない。政治に感情は不要とでも思っているのだろう‥‥‥多分。

とは言え、人間が政治を動かしている以上、感情は入るものだ。ネクロベルガーのやり方は否定はしないが、感情を入れないというやり方は他の人には無理があると思う。それにネクロベルガー自身も無表情で無感情なイメージはあるが、その冷徹な仮面の下には人間の感情が隠れていていても可笑しくない。もしかしたら何かしらの思惑により、首都内防衛軍結成させたと思う。顔に出ないだけで心の奥底には色々と計算があると俺は思う。多分。

さて、多分ばかりで埒が明かないので話を親衛隊に戻そう。とも思ったのだが、この際なので近衛軍に付いて軽~く説明しておこう。

近衛軍は皇族の警護や皇居のある首都の防衛を担っている軍隊である。真紅の軍服を身にまとい、位が上がるに従い金のモールやらマントなどの意匠が派手になり、士官に至ってはサーベルを帯刀しているなどチョット時代錯誤的な格好をしている。だけど見ている側とすれば見栄えもよく、カッコイイの一言に尽きる。正にロマンあふれる軍服と言ってもいいだろう。

一見すると、見た目重視の派手な軍装の軍隊と言った処だ。機能的に余り戦闘向きとは思えない軍隊でもある。そのため一部では「着飾ったお人形の衛兵」などと馬鹿にされてもいるようだ。

まぁ、別に近衛軍は積極的に戦場に出る訳ではないので大丈夫と言えば大丈夫なのだろうが、仮にも首都防衛を預かる軍隊なので、もうチョット‥‥‥あゝそうだ、士官は派手なのだが兵士となる戦士は普通の戦闘服らしい。一応赤い軍服もあるらしいのだが、それは式典用で普段は簡易的な戦闘服で居るらしい。士官と兵の軍服の格差が激しいのも近衛軍の特徴だ。もしかしたら戦闘になれば近衛士官も戦士(兵士)と同じような戦闘服に着替えるのかもしれないな。

そんな近衛軍の主な部隊には「宮廷警護隊」「近衛警察」「皇都守備隊」「近衛師団」「近衛艦隊」と、大きく分けて5つの部隊がある。

先ず最初に宮廷警護(連)隊であるが、彼らは皇帝やその家族である皇族の警護と皇居(王宮)内やその敷地内を警備する言わばエリート部隊である。

そして、宮廷警護隊の中でも特に優秀な者だけがなれるのが、皇帝や皇族個々人の専属ボディーガードである「皇室専属警護官」である。彼らは基本的に生粋の貴族出身の近衛士官から選ばれており、例え優秀であっても戦士や庶民出身の近衛士官からは選ばれる事は無く、武門系貴族にとっては大変名誉な職である。彼らに求められるのは、皇帝への忠節は勿論のこと、戦闘技術や状況判断力、高い学識や高貴な者としての教養なども要求される。さらに皇帝や皇族に気に入れられなくてはならないため、話術や容姿も重要な要素になっている。そのため彼らは「騎士の中の騎士」とも呼ばれている超エリートであり、皇帝・皇族ひとりに付き大体2~4人ほどが常時警護しており、何かあれば身を挺して要人を守るのが彼らの任務である。

因みに、皇室専属警護官は警護対象と同性と暗黙のルールがあったそうだ。正式では無かったので守っていたのは初代ウルギア帝くらいだったそうだが、何故そんなルールがあったかと言うと、まぁ、アレだな、ノウァ帝みたいなことにならない為だろうな。結局、正式な規定ではなかったため有耶無耶になってしまったと言う事だ。

特にサロスは、彼らの事も信用していなかったので、即位当初は高級娼婦に近衛士官の軍服を着させて周りに付かせていたとも言われていている。そんなので大丈夫か? とも思うかもしれないが、殆ど皇居の奥でヨロシクやっていたのでそれでよかったのだろう。どちらにせよ彼の在位後半では警護官に警護させていた様だ。しかも全員男性で、以外に暗黙のルールを守るタイプ? かも知れない。俺なんかは絶対女性士官を侍らせていたと思っていたので予想外だった。

ハッ、もしかしてそっちに目覚めた⁉ などと気持ち悪い妄想は辞めて次に行く。

次は宮廷内の事件や事故の調査・逮捕などの警察業務を担う「近衛警察」である。此方は宮廷警護隊と一部被る処もあり、しかも宮廷で事件など余り起こる筈も無く(起こったしても内々に処理される。まぁ、その処理を請け負っていたかもしれないが)、そのためこれと言った活躍は無く、専らパレードなどの警備に就く事が多いそうだ。そのため「着飾ったお人形の衛兵」と揶揄されるのは彼らだとも言える。

続いて皇居の敷地以外の首都内部の防衛を任務とする「皇都守備隊」である。この部隊は先ほど言った通り、首都内部に入り込んだ敵との交戦を主任務とした部隊である。主に皇居外の宇宙都市内での戦闘を主眼に置いているため過度な重武装はしておらず、戦闘車両も軽武装したものが配備されている。

首都の内部に敵が侵入した時点でアウトだろうと思うかもしれないが、まぁ、敵国の軍に当たると言うよりも、専らテロやクーデターなどの内乱に対する部隊と言ってよいだろう。先ほども言った通り、北部方面軍がクーデターを起こした際に皇居がクーデター軍に包囲される事態になった。其処で首都の防衛強化の一環で軍事政権が首都内防衛軍を結成するはずが、一向に結成されないため急遽近衛軍が組織した部隊である。

最後はミシャンドラ・シティ外での防衛を任務とした「近衛師団」と「近衛艦隊」である。近衛師団は地上軍3個師団あり、近衛艦隊の1個艦隊とともに首都に攻め寄せてくる敵を迎撃するのが主任務である。

因みに近衛艦隊は、皇帝や皇族が外遊を行う際の護衛艦隊にもなっている。

これが近衛軍の主な部隊である。その中で、皇都守備隊が首都内防衛軍と入れ替わったことで、皇国建国以来初めて近衛軍以外の部隊が首都を守る事になり、彼らのプライドを傷つけたとも言える。

一応、ネクロベルガーも近衛軍長官の任に就いていた時期があるため、彼らの思いも理解していただろうが、それでも国防軍に首都を守らせる事にこだわったのは何故だろうか? もしかして自身の影響がある部隊を置きたかったのだろうか。そこでふと思うのは、首都内防衛軍が後の親衛隊の基になったという事実だ。もしかしたらネクロベルガーは最初から親衛隊結成のために首都内防衛隊を組織したのでは無いだろうか、そう思うと彼の先見性が末恐ろしくもある。

ネクロベルガーにとってサロス暗殺も、その後の混乱とそれを収める首都内防衛軍の活躍も、予測していた事と言う事になる。そしてそのまま首都内防衛隊を親衛隊と言う自身の私兵に変えてしまったのだ。

う~ん、チョット飛躍し過ぎだろうか。結果論とも言えるし、何よりこれだとネクロベルガー陰謀論者のクエスと一緒になってしまう。それは嫌だ!

其れに首都内防衛隊は、サロスにべったり作戦を取ったターゲルハルトの頑張りもあってか、宇宙暦187年には近衛軍の麾下になっている。果たしてそこまで予測できたのだろうか?  下手をすると皇都守備隊として再編されてしまう恐れもある。一応、将兵国防軍のままで近衛軍の士官が指揮する様な人事の変更等は無かったものの、何時までもそのままだとは思えない。ゆくゆくは皇都守備隊が復活したかもしれない。そうなると、その前にサロスとターゲルハルトを‥‥‥とも考えられる。

いや駄目だな、また陰謀論に染まりそうになる。

歴史の事実として、首都内防衛隊は皇都守備隊に置き換わる事なく2年後の宇宙暦189年のサロス帝暗殺に伴う反サロス派との戦闘に突入して見事にこれを鎮圧している。そして首都内防衛隊は半年後に総帥警護連隊と名を改めるのだ。

此処では少し「サロス帝暗殺事件」について語ろう。

サロスが新しく出来た軍の施設へ視察に赴く途中で襲撃を受け、近衛長官ターゲルハルトと共に暗殺されてしまうと言う事件だ。

皇帝と近衛軍トップの同時暗殺により首都はパニックに陥り、その隙を突いて反乱軍が皇居を占拠しようと襲撃したと言うのが「サロス帝暗殺事件」の概要である。

因みにこの時ネクロベルガーも暗殺の対象だった様だが、彼は偶々遅刻して事件に巻き込まれる事が無かったのだ。だがこれもネクロベルガーがサロス暗殺の黒幕説を唱えるクエスの話では、暗殺計画を知っていてワザと遅れたと言う事らしい。

まぁ、証拠も根拠は無いが、根の葉も無い作り話とも思えないのが陰謀論の質が悪い所でもある。もしかしたらそうかもしれないと思えるんだよなぁ‥‥‥。

よく陰謀論を何故信じるのか? と思う人もいるようだが、それは陰謀論が物語だからだと言われている。人は物語りが好きで、そう言った構成で聞かせると信じやすいのだそうだ。

それに対して事件の調査報告書なるものは、調査で判明した事実のみを並べているだけで大方の人々にはつまらないものだ。人はつまらないものに興味を示さない。そこに興味を示したとしてもほんの僅かな人々だ。だが、そのほんの僅かな人の中に、その報告書の抜けている処や調査では分かりようもない事を勝手に想像してしまうのだ。これが陰謀論が生まれる経緯だと言われている。そうなるとただのつまらない資料が物語となって面白みを増し、人々に受け入れられると言う訳だ。

陰謀論に付いてはまたの機会にする事にして話を戻そう。

事件が起きたのは宇宙暦189年4月26日の事だ。10:00頃に、皇帝サロスは近衛長官ターゲルハルトと共に首都の地下第2階層のとある軍施設(場所は伏せられていて不明だが、リホームして新しくなった「士官学校」と言われている)への視察に向かう。

この時ネクロベルガーも同席するはずだったが、サロスに遅れると連絡があり、視察地の軍施設で合流する事になる。此処でひとつの疑問が出ている。ネクロベルガーはこの時一体何処にいたのかと言う事だ。

ネクロベルガーは軍の最高司令官なので、サロスたちが向かうミシャンドラ地下第2階層に居るのが普通である。地下第2階層は軍の中枢として機能しているからだ。しかしネクロベルガーはサロスが唯一信頼している人物なので、皇居の近くに屋敷を構えているのだ。此方にいたとしても不思議ではない。

それに付いては如何もどちらにもいなかったと言われている。理由は簡単で、もし地下第2層の軍事施設(司令部など)にいたのなら、わざわざ一緒に行かなくとも、初めから視察地の軍事施設で合流すればいいのだ。だかネクロベルガーはサロスと一緒に行く予定だった。司令部にいたのなら二度手間である。

そうなると、自身の屋敷にいた事になるのだが、ネクロベルガーの屋敷は皇居の隣にあり、サロス側から迎えをやって一緒に行けばいいのだ。遅れると言ってもそれほどスケジュールが圧していた訳でもない様なので、少し遅れてもネクロベルガーが来るのを待てば問題無かったはずである。

そうなると一体どこにいたのかともなる。公式には何も語られていないので、それも陰謀論者の格好の餌食になっている。隠れて反サロス派に指示を出していたのだと。

それが根も葉もない様に聞こえないんだよな。まぁ、何処にいたのか分からないのをいくら考えても埒が明かないので話を続ける。

皇居は、都市の中央に位置しており、地下の階層の中央柱と一体化しているので、地下階層の移動は皇居からエレベーターで降りる事が出来る。そのため地下階層への移動に関しては概ね安全なのだが、そこから視察地への移動は公用車で向かうため其処で襲撃を受けたわけだ。

襲撃時間は11:13と記録されている。宮廷警護連隊に守られながら高速道路で視察地に向かうサロス一行の目の前で、突然の爆発が起きて急ブレーキをかけた後、すぐさま引き返そうと車がバック仕掛けた時に、後方でも爆発が起きて身動きが取れなくなると、四方八方から武装集団がサロスたちを襲ったのだ。

すぐさま宮廷警護連隊と武装集団との間で銃撃戦が起き、憲兵隊本部に救援連絡が送られ、連絡を受けた憲兵隊本部は武装した憲兵隊を救援に向かわせている。

意外に思うかもしれないが、軍事の中心であるシャンドラ地下第2階層で武装する事が許されているのは憲兵隊だけである。その他の軍人は拳銃すら携帯する事が禁止されている。以前に軍政省庁舎にて若手将校が立て籠り事件を起こした話をしたと思うが、軍人にも拘らず彼らが丸腰であったのは、銃の携帯が禁止されていたからである。

だが、武装した憲兵隊の前に、サロス救助を阻む武装集団が現れこちらでも銃撃戦が起こってしまいそれが原因で憲兵隊の到着が遅れてしまい、サロスとターゲルハルトを含む37名が死亡、襲撃犯も、遅れて到着した憲兵隊に全員射殺される。

なかなか痛ましい事件だが、ここで事件は終わっていない。憲兵隊本部はサロス帝死去によって起こるであろうパニックを抑えるためを事実を隠蔽して「襲撃を受けて負傷したがサロス陛下は生存している」と報道する。

だが、この報道が流れた直後の13:30 ミシャンドラ地表層に潜伏していた反サロス派が一斉に放棄する。各地で爆破テロが起こり、首都内防衛軍は鎮圧のために出動する。

当時の首都内防衛軍の兵力は約1200名ほどで、反サロス派の兵力は200余りだと言われる。ただ当時は反サロス派の兵力が分からず、さらに反サロス派は、数名でひとチームの数部隊が各地で爆弾テロを繰り返しており、これによって敵の数や本体が何処にいるのか分からず、翻弄される事になる。結局、首都内防衛軍の東西南北の各方面群は、皇居へ通ずる街道を防衛する事に専念する事になる。

その間も、各貴族の屋敷から「怪しい集団がいるから捕まえろ」と言う趣旨の電話が矢の様に首都内防衛軍司令部に掛かってきたいたらしい。ただ、首都内防衛軍司令官と近衛軍副長官をはじめとする近衛軍幕僚は、各方面群に皇居防衛に専念するように指示を出して動く事を禁じて居る。これでは7月事件の二の舞とも言える醜態である。

そんな中、14:20頃に南部方面群を反サロスの部隊が攻撃を仕掛ける。

首都内防衛軍の編成は、2個中隊とそれを運ぶ兵員輸送装甲車で構成された部隊で、その中で最も強力な武装は兵員輸送装甲車に設置された12.7mm重機関銃である。

宇宙都市を傷付けない配慮として、余り破壊力の高い武装をしていなかったのだが、それが裏目に出てしまった形となる。反サロス派の部隊は携帯ミサイルなど、ひとつ間違れば都市に大きな損傷を与えかねない武装をしていたのである。その武装の差により南部方面群は行き成り大苦戦を強いられ、司令部に至急救援要請を打診たのだ。しかし、司令部の返答は「そん場に留まり死守せよ」だけであり、同じ頃、東部方面群からも南部方面群への救援に向う許可を求められたがそれらも却下され、各方面群はその場で防衛に当たるよう指示が出される。

これは、南部方面以外にも敵部隊が潜んでいた場合、南部方面群を他の方面群が救援に向かってしまうと、そこを敵に突かれてしまい恐れがあり、そうなると戦線が一気に崩壊しかねないとの判断なのだろう。

だがここで司令部にネクロベルガーがやって来た。この日初めてその所在が確認された瞬間でもある。

ネクロベルガーは、首都内防衛軍司令官や近衛軍幕僚の指令を撤回して、すぐさま東部方面群に南部方面群の救援に向かうよう指示を出す。これには他の幕僚たちが口々に反対意見を漏らしたが、「すべての責任は私が取る!」と一蹴して東部方面群を南部方面群の救援に向かわせた。

そしてこれが大当たりする。側面からの強襲に反サロス軍は大混乱に陥って崩壊、散り散りになって逃走を図ったのである。

こうなるともはや一方的な掃討戦となり、サロス暗殺から始まったクーデター事件は鎮圧されたのである。

 

 

 

 

「学生時代の総帥閣下は本当に人との接点を持たない方でして、一応、サテオス君の様な例外がありますが、当時の私はコミュ障ではないかと思う位でして‥‥‥」

 

ネクロベルガーはコミュ障の疑いがあるとレッジフォード学園長代理は語る。確かに学生時代は殆ど人と関わろうとしていないと聞かされたので、俺もコミュ障を疑い出している。コミュ障の独裁者なんているのか? まぁ、エレメストの人々が勝手に独裁者と決めつけているだけと皇国の人は思っている様だが‥‥‥。

 

「その方が今や国の摂政ですからね。驚かれたのでは?」

「いや~、そうですね立派になりましたよ」

「処で話は変わるのですが‥‥‥」

「え、何ですか? 私で分かる事でしたら何でもお答えしますよ」

「ええ、ちょっと気になっていたんですが、この学園は総帥が資金面で前面的に支援しているのですよね」

「ええ、そうですが。その事は既に知っていらっしゃるのでは?」

「ええそうですが、国からの援助は無いんですか? この学園は元々はサロス帝の発案(実際は違うだろうけど)で設立されたのでしょ?」

「あゝそう言う事ですか、其れでしたらサロス陛下がご存命の時は国からの援助で賄っていましたよ」

「その言い方からしますとサロス帝が崩御した後から総帥が?」

「そうです。記者さんはサロス陛下が国民から恨みを買っているのはご存知でいらっしゃいますか?」

「ええまぁ、確か国税を貸したとかで」

「その通りです。ご存知の通り、軍事政権が崩壊してサロス陛下が親政を執り行う事になり、其れから暫くして、えーとー‥‥‥宇宙暦185年頃でしたか、急に国民に税を課すと言われて10%の消費税が国民に課せられました」

「いきなり10%はきついですよね。国民は不満に思わな‥‥‥思ったんでしたよね」

「まぁ、多少は不満に思ったでしょうが、大きな騒動にはならなかったのです。するとサロス陛下は味を占めたのか、翌年には20%に上げると宣言して、流石に国民の怒りは爆発しました」

「えっ⁉ 2、20%! 上がり方がえぐくないですか⁉」

 

国税を課して国民を苦しめた。とは聞いていたが、ここまで上がり方がえぐかったとは知らなかった。歴史調査の打ち切りで意欲を失ったのも原因だが、サロスの調査はその後は全くと言っていいほどしていない。クエス達と旧刑務所に向かった際に話を聞いただけだ。だが、まさかこんなにトンデモナイ上がり方をしていたとは知らなかった。通りで国民に嫌われている訳だ。

 

「確かに性急すぎたとも言えます。ただこの消費税の税収はそのまま学園の維持費に使われていたのです」

「え、そんなに学園の運営が逼迫していたのですか?」

「ええ、まぁ、確かにこの学園のコンセプトとして自由な学がありましたからね。学生は自由の伸び伸びと学、色々なものを知り、興味を持ってもらい楽しませるためにはそれらを提供しなければなりません。それらの費用は結構かかりますし、親を亡くした子供が集まっていたので彼らの普段の生活費や、保育センターから毎年一定数の子供が入学して来ましたので校舎の増設など可なり費用がかさみまして、其れだけ金に糸目を付けずにやっていたツケが回ってしまったと言う事です。そこで消費税で予算を稼ごうと言う事になったようです」

「成程」

「この国の徴税システムはチョット特殊ですから」

「確かにそうですね」

 

ゲーディア皇国の徴税と政治システムはかなり特殊だ。まず皇国自体は国民から税を徴収してない。国民は彼らの住んでいる宇宙都市に税を納める。要するに都市を収めている領主貴族に市税を納めているのだ。

そして領主貴族は集まった税の中から3~5%を国に上納金として納める。これによって領主貴族は皇帝から領主の地位を保証してもらうと言う訳だ。

そして政治も皇帝(国)と貴族(領主)の分担制になっている。

国民(市民)は領主に税を納めるためその都市の政治・経済は領主の領分となり、外交・軍事は皇帝(国)の領分となっている。

さらに法律も国と都市のふたつある。基本となる国の法律と、領主が自身の納める宇宙都市内だけで通じる条例がある。

要するに宇宙都市一つひとつが都市国家の様なもので、領主貴族が自分の領地(宇宙都市)を発展させ、それを纏めて保護しているのが皇国の軍事力や外交と言う訳である。

そのため貴族たちは自前の軍隊を持っていない。一応、ボディーガードや庁舎である屋敷のガードマン的な者はいるのだが、せいぜい2、3百人程度で軍隊とは言えない。まぁ、数的には一個中隊以上いるけど軍隊とは言えないな。

あと警察や高等・最高裁も皇国の領分である。一応、都市にも裁判所はある。所謂地方裁判所みたいなもので、そこで上訴すると国が預かる事になるのだ。

 

国税が無いから国税を取ろうという安易な考えで消費税を導入したのです」

「やっちゃいましたねぇ、親政当初は真面目に政務を執り行っていると高評価だったのに、ここで一気に落としましたね」

「ええ、先程も言いましたが10%の時はまだ国民も我慢していたんです。それが翌年には20%に跳ね上がり、市民の怒りが一気に爆発してデモが頻発したんです。その対策として皇国議会を復活させたのです」

「皇国議会ですか?」

「そうなのです。要するに皇帝の親政ではなく国民によって選ばれた民衆議員による政治、ならば国民も納得するのではないかと思ったのでしょう」

「成程、皇国議会はサロス帝が親政を始めると宣言した際に解散させられましたからね。それによって国政から国民は外されたと言っていい。でも当時の国民は自身の生活に直結する市政ならともかく、国政にはあまり興味が無いから受け入れた、と言うより無関心だったと言った方がいいでしょうか」

「そうですね、ですが状況が一変して国政にも関心を持つようになった。と言う訳ですよ」

「それは良い事ですが‥‥‥選挙が行われたと言う事ですか?」

「いや選挙にはなっていません」

「では皇国議会の議員はどうやって集めたのですか?」

「解散時の下院議員を呼び戻したと言った処でしょうか」

「解散時の民衆議員を呼び戻した?」

「そうです。選挙をするにも費用や時間も掛かりますからな、そこで総帥閣下の出番なのですよ。閣下はこのような事態が起こると予測していたのですな、ですから解散時に下院議員を各省庁の官僚として配置させていたのです。議会再編の時を見越してね。お陰で皇国議会再編の際には9割以上の議員が戻ってきました」

「9割以上ですか⁉」

「何か思う事があって辞退した元議員や病気などで戻れない人もいましたが、ほぼ前の議員が戻ってきてすぐに議会は開かれる事になりました。ただ、消費税20%で変わらずだったので、国民の怒りは収まりませんでした」

「そうだったんですか‥‥‥賄賂じゃなかったんだ‥‥‥」

「賄賂とは何ですか?」

「あゝいえ、なんでもありません!」

 

危ない危ない。ネクロベルガーシンパの学園長代理の前で滅多な事を口走ってしまうとこだった。もう口走ったと言っていいかも知れないが気付いていないからセーフだ!

それにしてもまさかネクロベルガーが議会再編のために議員の再就職先を便宜していたとは。成程、だから皇国議会はネクロベルガーの摂政の任期を延長したって訳か、その時の恩義からって訳だな。

以外にも恩義とかそう言ったものを重要視しているんだな。もっと冷徹な冷たい印象だったんだが‥‥‥。

 

「ですが消費税20%は変わらなかったため国民の怒りは収まらず」

「そうです。そして悲劇が起こったのです」

「ああ、サロス帝の暗殺事件ですね」

「いえ、其の前に近衛軍による国民の弾圧があったのですよ」