怠惰に創作

細々と小説の様なものを創作しています。設定など思い付いたように変更しますので、ご容赦ください。

Z計画 FILE6

俺たちは旧刑務所施設の立ち入り区画から少し離れた場所を目的地に設定し、そこまで自動運転でキャンピングカーを走らせる。

その間、俺とクエスは観賞ルームで映画鑑賞と洒落込んだ。

リコは如何したって? 万が一の事を考えて運転席にいるよ。ついさっきまで締め落とされて寝てたのに、目が覚めた時は結構元気だったぜ。なれって怖いねぇ。

とは言え、野郎ふたりで映画鑑賞と言うのも味気ないものだ。今観賞している映画は俺らが生まれるずーっと昔に放映されたもので、ある犯罪組織の殺し屋である主人公が、ひょんな事から組織と揉めた事で見せしめに恋人を殺され、その復讐をたった一人で行うと言うストーリーだ。

この映画、実は昔見た事があるためラストは知っている。主人公が犯罪組織をひとりで壊滅させるんだが、結局は戦いで傷付いた主人公自身も恋人の写真を見ながら死んじまうんだ。バットエンドってやつだ。それを知ってか知らずかクエスはソファーに深く座って可なりリラックスした状態で見ている。一見すると映画に集中している様にも見えるのだが、只ボーっと見ている様にも見える。微妙だ。どっちだ?

う~ん、居心地が悪いぞ。映画はネタバレ状態、隣は野郎、こんな事なら車窓から荒野を延々に眺めていた時の方がよかったよ。リコと代わればよかったとこの期に及んで後悔している。今からでも変わるか? そうするとクエスと居るのが嫌だと言っている様なものか‥‥‥。

さて如何したものか、この無駄に時間だけを浪費する状況を打開したいが‥‥‥。

 

「なぁ‥‥‥」

「ああ?」

 

こう言う時の対処法はひとつだけだ、取りあえず何の脈絡も無くクエスに声を掛ける。ただ如何繋げようか‥‥‥そうだアレを聞いてみるか。

 

「お前さ‥‥‥」

「何だ?」

「何で雑誌社なんてやってんの?」

「なんだ急に?」

「え、別に何てことないんだけど、何でかなぁ~って」

「・・・」

 

急に黙り込みやがった。まさか聞いちゃいけなったのか? しょうがねぇな話題変えた方がいいか? そうすると如何しようか‥‥‥セイヴァさんの事でも聞こうか? それとも気乗りしないがリコの事を聞くか?

 

「まぁ、別にいいけど」

「なんだよ良いのかよ!(#^ω^)」

「何に怒ってんだお前?」

「怒ってねぇよ! で、何でなんだ?」

「そうだな‥‥‥親父の影響って奴かな。俺の親父も新聞社で働いてたんだ」

「へぇ~、そう言えばお前も新聞社に勤めてたんだよな。何で辞めたんだ?」

「‥‥‥はじめっから全部話すから黙ってろ!(# ゚Д゚)」

「あ、は、はい‥‥‥」

 

自分のペースで話したいのは分かりますが、何も怒らなくてもいいでしょよ。

 

「俺の親父は俺も勤めていた皇国最大の新聞社『デイリー・バルア』のレジエラ支社の社会部の記者だったんだ。息子の俺が言うのも何なんだがまぁまぁ優秀だったんだぜ。お陰でよく親父と比べられて本当ウザかったぜ。まぁ其れは置いといて、パウリナ様が即位した翌年にミシャンドラ支社に行く事になったんだ。ある意味栄転だぜ。なんたって首都だからな、政治部の花形だよ」

「へぇ~」

「この国の首都って特殊だろ?」

「あゝそうだな、一般市民が住んでいない首都なんて歴史上見ても此処くらいなもんだろうからな」

「あゝ、国民も国政よりも市政、自分が住んでいる都市の貴族が馬鹿やらないかが気になるだけだ。だけど国の政治を知らないじゃすまされない。そのため各新聞社は挙ってミシャンドラに支社を置くんだ。そこに俺たち家族を伴って引っ越したって訳」

「えっ!? お前もミシャンドラに行ったのか?」

「まぁな、親父も首都なんて普通は住めるもんじゃないから家族も連れて来たかったんだろうな。でも、あんまり良くなかったぞ。店は無いし、遊び場みたいなものも無かったからな。俺ら一般人の子供が貴族の遊びなんて出来ないからな、退屈だった事を憶えているよ。子供心に故郷とも言えるこのレジエラに帰りたいって思ってたぜ」

「まぁ、皇族による皇族のための首都なんだからな」

「あゝそうだな。まぁ悪い事だけじゃなかったぜ。パウリナ様に直接会う機会もあったしな」

「ああ、お前の性癖を覚醒させてくれた女帝様の事か?」

「・・・」

 

冗談交じりに言った一言に、クエスは軽蔑の眼差しで俺を黙視した。

 

「わ、悪かった。冗談だよ冗談、話続けてくれ‥‥‥」

「‥‥‥最初は良かったんだ。親父もミシャンドラ支部への転勤に喜んでもいたしな。まぁ、当時子供だった俺にはピンと来なかったけどよ。でも、徐々に親父は疑問を持つようになったんだ」

「疑問?」

「簡単な事さ、当時国政を握っていたのは宰相サウル・ロプロッズの野郎だ」

「そうだったな。確か息子のディーノが女帝と結婚したんだよな」

「あゝそうだよ。あの野郎の息子がパウリナ様を誑かして結婚したんだ。皇族と結婚するからにはそれ相応の格が必要だからな。本来なら下院議員のロプロッズ家がパウリナ様と結婚できる訳がないんだ。それをあの宰相が狡猾な手段で成し遂げたんだ。ディーノは娘のノヴァが生まれた時に子爵の称号を得てるが、本当は子爵になるのは結婚前だったんだ。それを辞退して男爵になってる。親父が男爵の爵位を得て上院議員になったんだけど、子爵になったら父親越えになるからな。それを憚った事になってる。まぁ、貴族たちの心証を気にしたんじゃないか? 知らんけど。そしてパウリナ様が皇帝になった事で親父は上院議員議長となって、さらに宰相の地位をも手に入れた。それにベリト・シティの暴動を気にベリト伯を失脚させ、自身がベリト伯になってるからな。ちゃっかりしてるぜ」

 

如何やらクエスはロプロッズ親子が嫌いらしい。まぁ、彼奴のパウリナ帝への想いからすると気持ちは分かるよ。でも、親父の方は兎も角、息子は純粋にパウリナ帝の事を愛してたと思うな。勿論パウリナ帝もディーノ・ロプロッズの事を愛してたんじゃないかな。資料漁りや取材をした感じではそう思える程夫婦仲は良かった。

まぁ、此奴のは単なる嫉妬だろう。イヤだねぇ、男の嫉妬ってのは‥‥‥。このままコイツの愚痴を聞くために話し掛けた訳じゃないので、そろそろ本題に戻って貰おう。

 

「で、お前の親父は如何したんだ? 宰相に抱いた疑問てなんだ?」

「ああ、要するに都合よく自分の行動を正当化し、敵対する者を国家犯罪者扱いするような記事を書かせたんだよ。権力を持ったばっかりに皇国はあの馬鹿宰相の私物と化しちまったんだ」

「えらい時代にミシャンドラにいたんだなお前」

「まぁな、マスメディアが権力者の言いなりになるなんて歴史上よくある事だ。正にその空気感を俺は子供ながらに肌で感じてたって事だ」

 

俺はチョットだけ失敗したと思った。此奴の経験は取材するに値するものだ。前にパウリナ帝の話を聞いた時に、彼女を賛美する言葉しか言わないから女帝に色ボケしたガキの話ししか聞けないと思い、それ以降此奴から話を聞こうとも思わなかった。

まぁ良い。今聞けばいいんだからな。イヤ、ちょっと待てよ。これって結構なネタなのでは?

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ」

 

俺はこの会話を録音するため、腕時計式の端末を操作する。

 

「如何した?」

「この会話録音しようと思ってな」

「何でだ?」

「俺民間人ばかり取材してたからよ、当時の現場の記者の話しって貴重だろ」

「俺が取材してたわけじゃねぇぞ、俺の親父だぞ」

「それでも貴重だよ」

「まぁ確かにそうかもな。でもお前の取材って打ち切られたんだろ?」

「打ち切られたとしても俺個人の興味があるから完成させたいの」

「あゝそうか、結構な事で。もう良いか?」

「ああ続けてくれ」

「あーあー、ゴホン‥‥‥あーあー」

「そういうのイイから」

「だってよ、取材した事はあるけど取材を受けた事なくてよ」

「そんなんじゃねぇよ。気楽に話してくれよ」

「分かったよ」

 

気を取り直してクエスの話を聞く。彼奴が言った通りもう打ち切られたので記事にする事は無いが、それでも皇国の歴史ってのに俺自身興味が湧いているので完成させたい気持ちはある。予算も無いからチョットずつにはなるだろうがな。まぁ、俺のライフワークにでもしようかな。な~んてな。

 

「え~とそれでよ‥‥‥あゝそうだ。親父も疑問を持ちながらも本社の意向だからってそうせざる負えなかった。で、その後にあのクーデターで軍事政権が出来たんだが、彼奴らも宰相とやってる事は同じで自分たちに都合のいい様にメディアを操作したんだ。最初はしたがっていた親父だったけどよ、遂に一念発起して真実を世間に知らせることにしたんだ」

「真実? 軍事政権に逆らったのか?」

「まぁな、表向きは軍事政権の言いなりになってたが、裏では『ミシャンドラの真実』て記事を載せたんだよ。同志を募ってな‥‥‥。あゝイヤ、誰かは知らないが同志を募ったんだ。親父はそれに参加したんだよ」

「バレなかったのか?」

「バレたよ。俺の親父は免れたが憲兵隊に何人かしょっ引かれてたみたいだ。だけどミシャンドラの真実は、その名の下に真実を伝えたいって言う記者魂を持った記者が募ったって奴かな。横の繋がりも薄いからほぼ個人と言ってもいい。だから誰かが捕まっても他のメンバーが芋づる式に捕まる事は無いって訳」

「成程ね、記者個人の真実を伝えたい気持ちで書くか‥‥‥記者の鏡だな」

「まぁな、ここは首都の特性上国民は市政には関心があっても国政には無関心になりがちだ。だから首都で何が起こっているのかを知るにはメディアだけが頼りなんだ。嘘偽りのない真実を書くのはマスメディアの使命なんだ。それなのに本社の連中と来たら完全に宰相や軍事政権の言いなりさ。だが親父は違った、例え表立ってではなくても国の中枢で起こっている不祥事や危機を国民に知らせる義務を怠らなかった。正にミシャンドラの真実は皇国の良心、マスメディアの鏡だよ」

 

俺がクエスの親父さん、しいては「ミシャンドラの真実」のメンバーを記者の鏡と言った事を自分の事の様に喜んで、彼奴は腕を組んでウンウンと何度も頷いて居る。

言っとくが、お前の事じゃないぞ~。

 

「じゃあ、お前が新聞記者になったのは、当時の親父さんの後ろ姿を見てたからか」

「違うぞ」

「えっ!? 違うのかよ!」

「言っとくがこの事を知ったのは大分後の事だからな。当時の俺は『親父の仕事大変そうだな~』って位にしか思ってなかったぞ」

「何だよ感心して損したぜ」

「うるせ~な~。しょうがねぇだろ。自分で言うのは何だがまだ15やそこらのガキだぞ」

「じゃあ何で新聞社に入ったんだ?」

「あゝん、そりゃ‥‥‥親父のコネで入れるかな~って思ってよ‥‥‥」

「うわぁ~、ゲスい動機」

「うっせぇな! 俺の事は如何でもいいんだよ!!」

 

キレられました。って言うか、最初はお前が新聞記者になった動機を聞いたんですけどね。覚えてますか俺の質問。いつの間にかお前の親父さんの話にすり替わってるんですけど。まぁ、今はそっちの方に興味沸いてっから別にいいんですけどね。

それに親父に影響されとか言ってなかったか? ありゃ嘘か? コネは影響じゃないと思いますけどね、クエスさん?

 

「サロスの奴が3代目の皇帝になった時、国民が戦々恐々としてたのは知ってるな?」

「ああ、サロス・ソロモスは皇族の中で唯一国民に不人気な人物だったからな」

「そうさ、パウリナ帝にはディーノの野郎との間に娘が居たけど、軍事政権下では身が危険だとアフラに亡命した。あゝアフラに亡命してたのは後で知った事だけどな。だから残る皇族はサロスだけって事だ。死んだアルデル皇太子に子供が居たらこうはならなかったんだけどな。だけど、皇帝になったサロスは国民が思ってるほど無能ではなかったんだ」

「それに付いて俺は補佐に付いたネクロベルガーの手腕だと思ってるがな」

「俺も同感だ。あんな馬鹿にアレだけの事が出来るとは思わねぇよ。でも表向きはサロスが無能ではなかったって事になっちまうんだけどな。最初は親父も危惧してたんだ。だってサロスだぞ。飲んだくれて二日酔いで爆弾テロを免れて、ウルギア帝にキレられて皇位継承権を剥奪された挙句、離宮に幽閉されたんだぞ。幽閉中に仕えてたメイドに手を出して、その彼氏に殺されそうになったんだぞ。阿保だぞ。だから親父たちミシャンドラの真実も阿保の周りを調査したんだ。だがこれが何にも出ないんだな」

「出ない?」

「正確に言えば王宮に奥で彼奴が何してるのか分からないって事だ。王宮に使える侍従なんかの使用人は口が堅い堅い。多分、取材NGって緘口令が敷かれてたんだろうな」

「まぁそうだろうな。こうなったらお前の親父さんもお手上げってとこか?」

「ああ、表向きは特段に悪い所は無かった。ロプロッズ宰相や軍事政権みたいなゴタゴタは無かった。だからミシャンドラの真実はなにも書けなかったんだ。普通に支部から上がる記事が真実みたいなものだからな。だからミシャンドラの真実は解散になったんだ。うーん、解散てより自然消滅って感じかな」

 

表向きはちゃんと国政を進めているサロス帝を国民も歓迎した。あれ程人気のあったパウリナ帝が宰相の暴走と言う理由が有れど、国内を混乱させ、それを人気の無いサロスが皇国の平静を取り戻したのだ。その立役者はネクロベルガーに因る処が大きいが、それでもサロス帝への国民の期待は大きくなった。それもこれも初期の低評価とのギャップって奴かな。

 

「それに丁度この頃に親父は本社のあるバルア・シティに移動になったしな」

「じゃあ、お前もバルア・シティに?」

「イヤ、俺とお袋はレジエラに帰ったよ。親父ひとりでバルアに単身赴任だ。俺は大学受験に勤しんだしよ。レジエラ大学にも無事入ったしな‥‥‥」

「お前大学行ってたのか!?」

「何驚いてんだよ! 俺が大学行って何が悪い!」

「あゝイヤそう言う訳じゃあないんだけど‥‥‥話続けてくれ」

 

エスが大学に進学していた事に何故か驚いてしまった。高卒じゃなかったんだな。なんとなく高卒っぽく見えたんだけどな‥‥‥。うん? 俺も大学ぐらい言ってるぞ! 有名大学じゃないだけだ!

 

「暫く平和な時期が続いたんだが‥‥‥。やっぱり放蕩皇帝の本性が徐々に表にも出て来たんだな」

「まぁな、集めた資料って言うか、市民の声を聞けばなんとなくわかる」

「それとお前、サロスの最後は知ってるだろ」

「あゝ知ってるよ。何の視察だったか忘れたが、視察に向かう途中に襲撃されて殺害されたんだろ。近衛軍長官のダーゲルハルトと一緒に」

「あゝサロス皇帝暗殺事件だ。そのあと反サロスが武装蜂起して首都を襲撃した。しかし、首都内防衛軍(※)によって鎮圧されて武装蜂起自体は失敗したんだ」

 

反サロスの地下組織で多かったのは一般市民だ。後半のサロス帝の政治はまさに独裁国家さながらの混沌とした状況だった。まぁ、専制国家だからしょうがないと言えばそれまでだが、少なくとも初期は良かった。だが、段々とサロスが暴君化し、それに反対する者を近衛軍やその指揮下に組み込まれた憲兵隊によって弾圧される様になる。そしてその力でねじ伏せる手法は、国民のみならず貴族にも及んだのだ。この貴族の不満を抑えるのにヴァサーゴ公は四苦八苦していた様だ。

 

「サロスは徐々にその本性を露にした。予兆は184年ぐらいだ。サロスがある女に手を出したんだ」

「ある女?」

「侍女だよ。まだ16歳の少女だったらしいぜ」

「何でそんな少女が侍女を!?」

「母親が侍女でそれで彼女も侍女見習いになったらしい。見習いと言っても給料がいいからな。で、」

「サロスに目を突けられた」

「あゝそうだ。如何もサロスは貴族御用達の高級娼婦を毎晩侍らせていたからな。羨ましい‥‥‥じゃなくて、それに飽きて‥‥‥」

「侍女見習いの少女に手を出したと」

「そうだ。彼奴は酒に女にギャンブル好きのクズだからな、今までは王宮の奥でひっそりと高級娼婦と宜しくやってたんだろうが、それだけじゃ物足りずドンドンエスカレートして行ったんだ。噂じゃ王宮の地下にでっかいカジノがあるらしいぜ。それに暗殺されるまでに31人の女性を『強姦』して17人の女性を妊娠させちまったんだよ。こっちは真実だぜ。サロスが死んだ後に訴えを起こしたからな」

「マジか‥‥‥」

「と言っても、サロスが生きてた時には逆らえるものじゃねぇ、その少女の母親も軍人だった父親も泣き寝入りだ。流石にネクロベルガーにも止められなかったって訳。それが切っ掛けでタガが外れて段々と暴君化して行ったんだよ。イヤ、本性が表に出て来たって言う方が正解かな。それを助長したのが近衛軍長官だ」

「何? 何で近衛軍長官が?」

「彼奴はネクロベルガーをライバル視していたみたいだな」

「はぁ? 何でネクロベルガーを」

「ほら、サロスにとってネクロベルガーは無くてはならない存在だろ、それに取って代わろうとしたんだよ。まっ嫉妬だな。男の嫉妬は醜いねぇ~。そのために彼奴はサロスが喜ぶことはなんでもしたんだ。サロスはドンドンと暴君化して行き遂には国税を取るまでになったんだ」

国税を取る?」

「お前らのもと居たエレメストだと国税が取られるのは当たり前だろうが、こっちじゃ国税は無いんだ。市税だけでな。だから俺らはレジエラ・シティに税金を納めているだけだ。で、国には都市の統治を任された貴族が市税の一部を上納してるんだ。言ったらそれが国税って事になるな。だが、サロスは国民からも税を徴収するって言いだしたんだよ」

「一応、聞いているよ」

「まぁ、お前も取材してたからそれ位は知ってるか。国民がサロスの事を嫌ってるのはそのためだ。重税を課せられた事を根に持ってるって事だな。しかも、毎年新しい徴税を貸したもんだから国民の不満が爆発、怒りは右肩上がりよ」

 

右肩上がりって‥‥‥。その表現方法で合ってるのか?

まぁ、為政者が国民から嫌われる理由の最たるは重税だからな。サロスはその轍を踏んだって事か‥‥‥。

 

「そして遂には反皇帝、反サロスを掲げた地下組織が誕生したんだ。そう言うのが出来ると、陰からそれをサポートする者が出て来る。要するにサロスに不満のある貴族や軍人が支援したって訳。その中心人物がアガレス公だったって噂だ」

「大物だな、何となくわかるよ。ライバルのヴァサーゴ公に主導権を握られたのが余程気に要らなかったってんだろ?」

「そう言う事だ。しかもクーデター自体が失敗したけど、彼奴は自分は知らぬ存ぜぬって顔をしてたってよ。図太いねぇ貴族ってのは」

「まぁ、権力者の常套手段だな。裏でコソコソ人を操り、不味くなったら切り捨て自分は関係ないって顔するのはよ」

「まったくだ。だがよ、俺はこの事件の黒幕は別にいると思ってる」

「別? 誰だ?」

「ネクロベルガーだよ」

「はぁ!?」

 

俺は驚いた。ネクロベルガーがサロス帝を暗殺した黒幕だというのだ。

サロス帝とネクロベルガーはサロスが幽閉された時期に、今までつるんでいた貴族の不良息子たちが全く彼に会いに来なかったにも拘らず、唯一彼の許に通い親交を深めたのがネクロベルガーである。サロスが皇帝となった後も、事ある毎に必ず彼を呼んで相談する仲である。ネクロベルガー無くして今のサロスは無かっただろうし、サロス無くしてネクロベルガーも今の地位にまで上り詰める事が出来‥‥‥たかもしれないが、大分早く出世した事には間違いない。それ位二人の絆は硬いのだ。クエスの話しだと近衛軍長官のダーゲルハルトが皇帝に近付くために小細工していた様だが、俺が取材した感じだと、ふたりの絆が壊れた様な描写は無かったはずだ。クエスの妄想では無いのだろうか‥‥‥。

 

「邪推しすぎじゃないのか?」

「そう思うか? お前『事件の犯人は、それによって最も得をした人物が犯人』って言う言葉知ってるだろ?」

「ああ知ってるよ。要するにお前はサロスが暗殺された事でネクロベルガーが最も得してるって言いたいのか?」

「そう言う事だ。今この国で最も権力を持っているのがネクロベルガーだ。今の皇帝もお飾りみたいになっている。貴族に政治家に官僚、経営者‥。この国の政財界のトップたちがみな彼奴の顔色を窺ってるんだ。何でか分かるか?」

「まぁ、それは‥‥‥」

「奴は軍部のトップであり、その軍部は奴に心酔している者も多くほぼ一枚岩と言っていい。軍事力と言う強力な暴力装置を従え、皇帝を陰から操って貴族を抑え込んで権力を手中に収め、この国の半数以上の企業を子会社化し、お前も知っての通りこの国の主要資源であるレメゲウム鉱山の全体の3分の1以上を所有している。この国の軍事、政治、経済の全てがネクロベルガーと言うひとりの人間が手にしているんだ。ゲーディア皇国はネクロベルガーの国と言ってもいい過ぎじゃないんだよ」

 

確かにクエスに言う事も一理ある。サロス帝の政治は言うなればネクロベルガーの政治と言ってもいい。サロスはネクロベルガーにしか心を開いていないし、よく二人だけで密談していた。そうして決められた草案をヴァサーゴ公とその派閥の有力貴族に検討させはするが、その際にはもう根回しが済んでいて(当然ネクロベルガーの仕事)、殆ど議論もせずにほぼ草案のまま施行されているのだ。あの人権剥奪法もそう言った経緯の中でほぼ議論なしで施行されたのだ。

それに、ヴァサーゴ公としても自分の権力はサロス帝に寄与しているし、其れには皇帝と密接な関係にあるネクロベルガーの存在は重要だったはずだ。ライバルのアガレス公が失墜したとは言え、彼と彼の派閥はまだ健在で、虎視眈々と復権を狙っている。そんな状況の中、気に入らないと言う理由だけで縁を切っていい話ではない。ネクロベルガーがサロスを使って自分色にこの国を塗り替え、そして‥‥‥。

 

「用済みになったサロスを排除した。って言いたいのか?」

「そう言う事だ。筋は通てるだろ?」

「まぁな、あり得ない話ではないが‥‥‥。証拠は無いんだろ?」

「まぁな、俺の妄想の話しってとこだ。でもあり得ない話じゃねぇ」

「そうだな‥‥‥」

「今や彼奴はこの国で出来ない事は何もない。だからだよ、俺はそのために常にアンチネクロベルガーであり続けたいんだよ。そのためには新聞記者で駄目なんだ。俺が雑誌社をやってるのは其の為さ」

「成程な、そう言う事か。でも、新聞記者になったのは親父さんのコネだろ」

「うっせぇ!」

 

何となくディック・クエスと言う人物の事が分かったような気がする。まだ気がする程度だけどな。

 

「あゝそうだ。親父も近衛警察に捕まってるんだ」

「えっ!?」

 

唐突に話を変えられて俺は驚いた。イヤ彼奴の親父さんの話だから関連はしてるのか。

 

「186年頃にミシャンドラの真実も再び活動を始めたんだ」

「サロスの本性が徐々に漏れ出て来たからか」

「あゝそうだ。その時は親父は関係なかった。なんせバルアの本社で結構な地位に付いていたしよ。丁度その頃から俺もデイリー・バルアのレジエラ支社に就職してたぜ。何かミスすると直ぐ親父と比べられて先輩方に弄られて本当ウザかったがよ」

「ご愁傷様」

「まぁ其れは良いとして、その頃からミシャンドラの真実が復活してたんだが‥‥‥当然、近衛軍が黙っちゃいない。検閲なんかで厳しくメディアを取り締まったが、ミシャンドラの真実はさっきも言った通り元々は真実を伝えようとする記者が個人で記事を上げててな、見つけるのは困難。捕まったとしても他のメンバーに付いて何も知らない。近衛警察や憲兵隊も苦労したんじゃないかな」

「だろうな」

「だがメンバーは次々と逮捕され、遂には親父にも逮捕状が出たんだ。親父は元メンバーだが今は関係してはいない。それでも奴らからしたらアウトなんだろうな。親父が逮捕されたって聞いて最初は何かの間違いだったと思ったが、親父がミシャンドラの真実のメンバーだったと聞いて納得もした。親父ならやりかねないってね。とまぁ、そこから親父に付いて色々調べて親父がしていた事を知ったって訳」

「よく調べられたな」

「親父記録残してたから」

「おい! お前の親父さん大丈夫か? そんなの見つかったら一発アウトだぞ」

「まぁ昔から色々と豆に記録するのが癖だったからな。これも親父らしい処だ。それに家族にしか分からない秘密の暗号で厳重に保管してたよ」

「まぁ事が事だけにそれ位はしてないとな。処で親父さん如何なったんだ?」

「親父は運が良かったよ」

「どう言う意味だ?」

「言葉通りの意味だよ、そのあとすぐにあのサロスが襲撃されて、程なくして無事釈放されたんだ」

「そうなのか、其れは良かったな」

「まったくだ。捕まった者の中には拷問で死んじまったって噂もある。そう言う意味では親父は運が良かったよ。まぁ、その一件で新聞社は辞める羽目にはなったけど、今は悠々自適に暮らしてるよ」

「そっか‥‥‥」

 

拷問を受けて死んでしまった人達には悪いが、クエスの親父さんが助かってチョットホッとしている。しかし、ひょんな事から3代皇帝サロスに付いて聞く事が出来た。もう打ち切りになったから記事にしてもだが、有意義な話は聞けた。この話は一旦終わったが、次は何を聞こうか。そうだな、皇帝襲撃事件の全容でも聞いてみるか。

俺はクエスに皇帝襲撃事件の全容を聞こうとしたその時、部屋のドアが開いてリコが入って来た。

 

「先輩たち酷いっス。変わって欲しいっス!」

「何だよオメェー音楽聞いてるから大丈夫って言ってなかったか?」

「でもやっぱりズーッと居るのはきついっス! 変わって欲しいっス!」

「そうだな話も終わったし、俺が変わってやるよ」

 

俺としてはまだ聞きたい事が山積みなんだが、クエスはソファーから立ち上がって出口の方に向かっていたので呼び止めずにそのまま行かせた。俺としては皇帝襲撃事件の話も聞きたかったが致し方ない。その話は次の機会の取って置こう。

俺はチョットした満足感を感じながら、次なる話し相手であるリコに声を掛けた。

 

 

 

 

 

※首都内防衛軍・首都の内部を防衛する守備隊。近衛軍の宮廷警護隊が王宮区域しか守らないのに対して、首都内部全体を防衛する部隊。

宇宙暦181年にネクロベルガーの発案の許に結成され、部隊は1個歩兵大隊を基本とし、その他に、極力首都内部を損傷させないために重火砲類の装備がされていない軽火砲装備の車両の小、中隊等で編成された混成部隊。

部隊は首都の中心部の王宮区以外の東西南北の区域を防衛し、「東部方面守備群、西部方面守備群、南部方面守備群、北部方面守備群」の4群がある。