怠惰に創作

細々と小説の様なものを創作しています。設定など思い付いたように変更しますので、ご容赦ください。

Z計画 FILE5

砂と岩が広がる荒野を俺は車の窓からボンヤリと眺めていた。

見る人によっては岩の形や大きさ、砂の文様の違いなどでこの荒涼とした荒野の景色を楽しめる人も居るらしいが、俺にはそう言った趣味趣向は無い。だから‥‥‥。

 

「おい、詰まんねぇぞ!」

 

俺はお門違いとは思ったが、退屈過ぎてこの車のドライバーに文句を言う。

 

「うっせぇな! 10分前にも聞いたぞ」

 

隣で運転しているクエスは運転に集中しているのか、こちらに顔は向けずに横顔からでも分かる位に嫌そうな表情になって言る。

すると俺の後ろの座席に座って居たリコが、俺たちの会話に割って入る。

 

「そう言う時は音楽を聴くっすよ」

 

ニコニコしながらお気に入りの音楽を進めるリコだったが、俺は彼の聞いているアイドル系の音楽はよくわからないので丁重に断る。

 

「なんっすか! アイドルの何が悪いっすか!!」

「イヤ、別に悪かねぇよ。俺は余り聴かないって言ってるだけだ」

「偏見っす! アイドルに、彼女達に謝るっス!!」

「んな大袈裟な‥‥‥」

 

ご立腹なリコを宥めつつ、俺は再び窓の外に広がる荒野に目を移す。

まだ人類が宇宙に進出する術を得て間もない頃、既に未来で第4惑星は人類の住みかとなると思われていた。その後も無人衛星による調査や研究が進むに連れて、科学に基く映画や小説などが数多く出回って行る。その中では、第4惑星の居住には二つの方法が語られている。ひとつは「宇宙都市」、もうひとつは「惑星改造」だ。

惑星改造は惑星緑化計画とも言われ、要は第4惑星をエレメストの様に自然溢れる星にしようという事だ。そうすれば人類はエレメストと同じように宇宙服無しで生活する事が出来ると言う事なのだが、結果は知っての通り人類が進めた計画は宇宙都市計画である。これにはいくつかの理由があるのだが、最も大きいのは月面都市での実績だろう。月面に人類が居住可能な都市を建設し、その成功とノウハウを持って、その後もスペースコロニーや宇宙ステーションなどが建設されている。既に実証された建築技術を生かす事が確実と当時の人々は考えたのだろう。

お陰で殺風景なことこの上ない。

 

「ハァ~」

「なんだなんだ、まだこれから何時間も走り続けるんだぞ。今からそんな感じで持つのか? リコみたいに音楽や映画鑑賞でもして暇潰せよ」

「ハイハイ分かりましたよ」

 

俺はクエスに言われるがまま座席を立つと、後ろの部屋に入る。

今現在俺たちが乗っているのは惑星走行用のキャンピングカーで、大型バスくらいの大きさがある。これは宇宙都市外でキャンプ? する時に使うもので、水や食料などを満載にすれば、最大2週間は暮らせるとの触れ込みがあったそうだ。今回の外出は往復でも精々1日ほどなので、そんなに必要じゃないんだけどな‥‥‥。

にしてもレラジエシティから近い場所にあって本当に良かったぜ、遠出だったらキャンピングカーで数日間、おじさん3人で過ごす事になるんだからな。そう言う事なので、1日とは言えども遭難した場合の事も考えて、一応は水や食料は多めに積んでいるので対策は万全だ。ま、遭難なんかしたくないんだけどな! 

とはいうものの、ゲーディア皇国では12時間以上都市外に出る時は、各都市の「救急防災局」に届け出を出さなくてはならないからだ。少々面倒ではあるが、参加者全員の住所氏名、参加者の健康状態、外出する日時と戻る予定の日時などを申告する。そして戻る日時になっても戻らない場合は、捜索隊が派遣されるという流れになるのだ。お陰で今まで遭難して行方不明や命を落とした者は居ないそうだ。それにキャンピングカーには通信手段もあるので遭難する事自体が難しいらしい。

俺はキッチンに備え付けてある冷蔵庫からドリンクを取り出し、グラスを持って隣の部屋に入る。

このキャンピングカーは運転席の真後ろはキッチンスペースで、備え付けのテーブルと椅子があってチョットした憩いの場になって言る。その奥は観賞ルームという部屋があって映画や音楽などを観賞する部屋になっていえる。その観賞ルームから後部に向かって部屋を出ると、短い通路があって、右側にトイレ、左側にシャワールームがある。そして正面には低い階段があり、そこを上がった先にベッドルームがある。因みにベッドは4つで、俺を含めて雑誌社社員全員が泊まれるが、セイヴァさんは雑誌社でお留守番をしている。なので、今はおっさん3人で使っているという訳だ。華が無い。

因みにベッドルームの真下にチョットした格納庫になっていて、そこには小型のバギーが2台搭載されている。他にも下の部分は食糧庫や水を貯めとくタンクにガスタンクや小型の発電機などが備わっている。さらには空気や水の循環機器なども備え付けられており、車体も装甲車並みに頑丈だ。買えば可なり高そうなキャンピングカーである。

やっぱり金持ちなんだな‥‥‥セイヴァさん。

このキャンピングカーはセイヴァさんの父親で、不動産をやっているお父様の所有している車で、その1台をセイヴァさんがプレゼントされたそうだ。他にもあと2台所有しているそうだ。お金持ちって良いな~‥‥‥。

俺は観賞ルームのソファーに座ってドリンクをチビチビやりながら、何でキャンピングカーで都市外を走行する羽目になっているのか、その経緯を思い返す。

事の起こりは昨日、レメゲウム鉱山での調査とワッカートから聞いた話をクエスに報告した時の事だ。

 

「成程、その元受刑者の‥‥‥誰だったか?」

「ワッカートだよ」

「そうだった。そいつに報酬払えって?」

「しょうがねぇだろ色々と話聞かせてくれたんだからよ」

「う~ん‥‥‥」

 

エスは腕を組みながら金庫番でもあるセイヴァさんをチラ見する。しかし、当のセイヴァさんは調べ物をしてクエスの視線を無視している。

 

「わーったよ、払えばいいんだろ」

 

エスぶっきら棒にワッカートへの報酬の件を了承する。

察するにセイヴァさんが反応しないのはOKの意思表示なのだろう。なんせ俺がR&Jでの支払いを経費で落ちないかと聞いたら有無を言わさず断られ、そんなクエスに彼女は親指を立ててグットサインを送っていた。

「ケチ!」と二人を罵ってやったよ。心の中でだけど‥‥‥。

にしてもセイヴァさんは見た目は地味で言葉は悪いが根暗に見えるけど、案外ノリの良い人だったりして‥‥‥。

 

「皆さん集まってください」

 

調べ物が終わったセイヴァさんが声を掛けたので、俺はクエス、リコと共に彼女のデスクに集まる。調べ物と言うのは、ワッカートとの会話で出て来たグリビン医師と共に採掘場に現れた親衛隊士官のヴァレナント大尉と旧刑務所施設の現在の状況に付いてだ。

旧刑務所に付いては施設は勿論、10キロ圏内立ち入り禁止区域となっていた。そこで俺はヴァレナント大尉の方に注目する。

 

「え~何々、ニール・ヴァレナント。27歳‥‥‥」

「話によると2年位前だったか? その元受刑者が大尉を見たってのは?」

「ああ其れ位だな、そうなると当時は25歳位ってとこか。って事は、今は少なくとも少佐くらいには昇進してるんじゃないか?」

「大尉のままっス」

「世知辛いですね」

 

セイヴァさんの一言に俺は苦笑する。

如何やらヴァレナント大尉は出世に縁がない様だ。軍隊階級の適正年齢ってのは知らないが、20代中頃で大尉と言うのは結構早いと思う。以降は昇進していないが‥‥‥。

 

「オイオイ見ろよ、こいつ貴族様だぞ!」

「だから若いのに大尉に慣れたっスね。親の七光りっス」

 

今度はリコの言葉で苦笑する。

そう言うのは思っても口にしちゃいけないよ後輩君。まぁ、本人が目の前にいないから良しとしよう。と思ったが、ふとネクロベルガーが嘗て彼の出世を妬んだ者に「親の七光り」と罵られたときの返しの言葉を思い出す。

確か、『七色に光れない親の許に生まれた君に同情するよ』だったかな? リコに言ったらどんな反応をするか‥‥‥。やめておこう。

 

「しかし何故貴族が親衛隊に?」

「そうですね、貴族なら近衛軍の士官になりそうなものですが‥‥‥」

爵位は子爵か‥‥‥どこの縁者だ?」

「調べてみます」

 

俺の問いにセイヴァさんはすかさずヴァレナントがどの領主貴族の縁者なのかを調べてくれた。できる女性って素敵です。

 

「出ました。ビフロンス伯ですね」

「伯爵様か‥‥‥」

「ええ、彼は現ビフロンス伯の叔父の息子の子供ですね」

「それじゃあビフロンス伯のはとこか?」

「そうなりま‥‥‥はとこですか? 違うんじゃないですか? はとことは‥‥‥」

「オイオイ、ビフロンス伯との関係は如何でもいいんだよ」

 

エスの言葉に確かにと思った俺は、セイヴァさんのデスクに浮かぶPCのディスプレイを注視する。彼は他の貴族同様に恵まれた環境で少年期を過ごした様で、成人すると貴族御用達の「皇立近衛軍高等学校」に入学する。これも貴族なら当たり前の事だ。因みにだが、近衛軍高等学校は貴族のお嬢様も入れる共学だが、彼女たち用のお嬢様学校も存在している。

貴族の子女は15歳で成人を迎えて爵位と騎士の称号を皇帝から賜る。そして近衛軍高等学校に入学するのだが、ここは一種の士官学校と言っても良い。そこで一般教育の他に貴族として、又は近衛士官としての礼儀作法や心得などを学ぶのだ。この時点で領主貴族の嫡子以外の子女は近衛軍に入隊扱いとなっていて、卒業後は正式に近衛軍士官となる。階級は特例なく一番下の「二等騎士」だそうだ。その後は近衛軍士官として職務に就くのだが、希望があれば大学にも進学する事が出来る。そのため殆どの貴族の子女が大学に進学する様で、ヴァレナントもその一人と言う事だ。

大学を卒業後は勿論近衛士官としての職務に就くのだが、その時に大学での成績で階級が決まるらしい。と言うのも、大学に行かなかった者は近衛士官として昇進する者も居るが、大学から戻った時に最初の二等騎士だと不公平? と言う意見が多かった事から成績で階級を決めているらしい。大学での成績優秀者は最初から「上級騎士」になる事が出来るのだそうだ。ヴァレナントも上級騎士になっているので、成績に関しては可なり優秀だった様だ。

其処からヴァレナントは1年ほどして近衛軍から親衛隊に移っている。理由までは書かれていないので分からないが‥‥‥。因みに、上級騎士は通常の軍階級制では「大尉」に相当する。なので、ヴァレナントは近衛時代の階級を落とす事なく親衛隊に入隊出来た事になる。

そして親衛隊に入隊後は警察局に入り、刑務所コロニー「セレン・オビュジュウ」の所長となった。と、経歴に記されている。

 

「階級そのままで別の軍隊に入るって、此れも貴族様の力って奴か?」

「あゝ? 移籍だからじゃないのか?」

 

俺のちょっとした疑問の言葉にクエスは自信なさげに応える。

 

「軍って別の軍に変わる時は一旦退役してから入るんじゃなかったっか?」

「さあな、俺はそんなに軍事について詳しくねぇし、そんなの分からんよ。それにそんなの如何でもいいだろ」

「まぁ其れもそうか‥‥‥」

 

階級に付いては皇国独自の制度があるかもだからよくわからない。調べてみても良いが今はそう言う時ではない。それより今はグリビン医師とヴァレナント大尉の関係だ。

エレメストではグリビン医師は政治家の息子を殺害したとして、生命科学の権威から一転して殺人犯として指名手配されていた。しかし、大物議員のバカ息子を殺したあの日から消息不明となっている。一応、エレメストでは殺人罪には時効が無いから20年近く経っている今でも指名手配はされている筈だが‥‥‥。

実際の処は皇国に逃亡していたと言う事だが、それが判明しても彼を逮捕するのは難しいかもしれない。現在のエレメストと皇国の関係から言って、皇国が連合に逃亡犯を引き渡すとは考えにくい。しかも、彼はZ計画の責任者と目されている。皇国としても重要人物な筈なので、存在自体を隠している可能性が高い。まぁ俺らに、というかクエスの先輩老記者にバレたけどな。

では、刑務所コロニーの所長であるヴァレナンとグリビン医師との関係は何か?

 

「確か、お前の話しだと受刑者を連行したんだったな」

「ああ、そう聞いた。確かそいつは殺人犯で、ワッカート自身も殺人罪で服役してるから何時自分にお迎えが来るかと冷や冷やしてたらしい。結局来なかったけどな」

「その連行された奴どんな犯罪犯したんだ?」

「はぁ? 何言ってんだよ、殺人だよ。俺の話し聞いてなかったのか?」

「そうじゃなくて、被害者は如何いう殺され方をしたかだよ」

「ん? ‥‥‥あゝそうか」

 

俺はクエスが何を言いたいのか理解した。要するに被害者が一体どんな人物で、如何いった方法で殺害されたかを知りたいわけだ。それはグリビン医師が家族を無残に殺された事と大きく関係する。彼の妻は強盗犯にナイフでメッタ刺しにされ、まだ16歳だった娘は3人の男たちに強姦されたのだ。只、如何いう訳かは知らないが娘は殺される事は無かった。だが、強姦され絶望した彼女は首を吊って自殺した。もしその連れて行かれた受刑者が似た様な犯罪を犯していたら。例えば誰かの妻(母親)をナイフで刺したとか、少女をレイプしたとか‥‥‥。そんな奴でも皇国では模範囚になれば最短4年で出る事が出来る。その事を知った医師が彼の中の正義感、或いは復讐心からワザワザその受刑者を大尉を使って連行したとも考えられる。

 

「でも、そんな名前も分からない受刑者の事なんか調べようが無いっス」

「確かにな。オイ、名前とか特徴とか何か聞いてないのか?」

「聞いてない。と言うか、彼奴も知らないんじゃないか、後で聞いたような口振りだったぞ」

「じゃあ、この線からは無理だな」

 

残念だが殆ど情報が無い、連れて行かれた受刑者を調べるのは断念せざるを得ない。

では如何するか?

 

「でしたら‥‥‥」

 

考え込んでいる俺らにセイヴァさんが声を掛けたので、俺たちは彼女に注目する。

 

「受刑者には人権が無いとはいえ、誰でも好きに使っていい訳ではないのでは?」

「あゝ確かに、彼奴の話しじゃあ受刑者は全員総帥様の所有物になると言ってたな」

「でしたらグリビン医師としても許可を貰っていたと言う事です」

「許可? 誰に? ネクロベルガーにか?」

「幾らなんでも総帥様を突くのは不味いだろ。一発で親衛隊に捕まるぜ」

「いえ、総帥ではなくヴァレナント大尉にです。刑務所コロニーの所長である大尉ならば、総帥の代理として受刑者の融通を聞き入れていたとは考えられないでしょうか」

「あゝそれが事実なら大尉ってそこそこの階級のヴァレナントも、結構な権力がありそうに見えるな」

「本当に総帥様の代理ならな」

「でも、それが分かったとしてもあんまり意味が無さそうっス」

 

また出たリコの否定的な言葉。あんまりそう言う事言うもんじゃないぞ。モチベーションが落ちる。

 

「まぁ~確かに、ヴァレナントが総帥様の奴隷(受刑者)を好き勝手出来る立場であって、グリビン医師はそれを目当てに受刑者を融通してもらう‥‥‥。問題は受刑者とZ計画の繋がりが分からんな。そもそも受刑者が医師と何の関係も無いとも考えられる。偶々彼の妻や娘と同じ殺人を犯した受刑者がいて、そいつの事が許せなくて連れて行ったって事は考えられないか?」

「そっスね」

 

エスも囚人とZ計画の関係性に懐疑的になって来た。ワッカートも医師の事をたった1回しか見ていないし、関係ないかもしれない。とは言え、今はそれに賭けてみるしかない。

 

「まぁ、関係あるか無いかはこの際別として考えよう。話が進まなくなる」

「そうだな、それじゃあ何でZ計画に受刑者が必要なんだ? って事だな。医者とか博士と言えば何かの実験ってのが相場だろ。って事は、受刑者で人体実験してるとか」

 

人体実験の言葉に、俺はワッカートの会話の中で同じキーワードを耳にした事を思い出す。それは確か‥‥‥そう、受刑者には‥‥‥。

 

「レベル6だ!」

 

俺は思わず叫んでしまい、その場にいた全員を驚かせる。急に大声出して御免。

 

「なんだ? そのレベル6って?」

「刑務所コロニーじゃ受刑者にレベルが付くんだよ」

「あゝ何か聞いた事あるような‥‥‥」

「そう、そしてレベルが6になった受刑者は何処かに連れて行かれるんだ」

「成程、それがグリビン医師の処に行ってるのか。やっぱり奴らは受刑者で人体実験をしてるんだ。いいねぇ、段々Z計画が見えて来たぜ。あとは何を研究しているかだ」 

「それじゃあ真面目に働いてた受刑者を連れてった訳は何っスか?」

「だから、そいつがレイプ犯だったらどうだ。娘を自殺に追い込んだ犯罪だ。そんな奴が模範囚ってだけで何食わぬ顔でシャバに出るとしたら? それを良しとしない医師がその前に大尉に言って連れて行かせたんだとしたら」

「成程っス。じゃあ、これから如何するっス? いくら何でも大尉が合ってくれるとは思えないっス」

「だよな‥‥‥。門前払いが関の山だな」

 

リコの言葉は正しい。グリビン医師の居所は分からず。大尉も警察局に居るだろうが合ってくれる確率は限りなく0に近い。さて如何したものか‥‥‥。

 

「だったらもうひとつの方を調べるか」

「もうひとつ、なんだそりゃ?」

「前の刑務所だよ」

 

エスは訝しがる俺に既に閉鎖された旧刑務所施設を調べると言いだした。

 

「もう使われてない施設なんか何も無いだろう?」

「なら別に立ち入り禁止区域にする必要はないだろ?」

「う~ん、そう言われるとそうかも知れないが‥‥‥」

 

俺が旧刑務所を調べる事に同意したと見て取ったクエスは、ニヤリと笑みを浮かべながら言った。

 

「お前、車は運転できるか?」

 

☆彡

 

こうして俺らはセイヴァさん所有のキャンピングカー(トレーラー?)で、旧刑務所施設のある立ち入り禁止区域に向かう事になったのだ。

エスはそこにグリビン医師がいて、Z計画もそこで行われていると踏んだのだ。クエスの推理はこうだ。レベル6になると刑務所コロニーから消える受刑者達。彼らは人知れず旧刑務所へと運ばれていて、そこでZ計画が進められていると推察した。Z計画というのは何かの実験で、そのためにレベル6の受刑者を使って夜な夜な人体実験が行われている。と言うのだ。

何の実験かはこれから施設を調べてのお楽しみと言う事だ。『閉鎖された旧刑務所で行われている謎の実験! 皇国が極秘裏に行う謎の実験の正体とは!!』と言う見出しにして雑誌に載せたいらしい。大丈夫かそんなことして? 親衛隊に捕まらないか? 俺、ここに就職した事を後悔しそうだぜ。

俺はこれから始まる命がけと言っても大袈裟ではない調査に緊張を感じ始める。

ヤバい、なんか緊張して来た。お陰で見ていた映画の内容が全然頭に入って来ない。すると、クエスとリコが俺と同じようにドリンクとグラスを持って観賞ルームに入って来る。

 

「どったの?」

「ちょっと疲れたからよ。運転代わってくれよ」

「なんだよ、もう交代か? まだ2時間ぐらいしか走ってねぇぞ。それに運転できるって言っても、最近は殆ど運転した事ねぇぞ」

「いいから変われ! ここらは殆ど平地なんだからよそ見してても運転出来る」

 

しょうがねぇなと思いつつ、ふと疑問に思う。車が止まった感覚は無かった。では一体誰が今運転してるんだ?

 

「今は自動運転にしてるっス」

「だったらそのまま自動運転で良いじゃねぇか! なんでワザワザ代わる必要があるんだよ!」

「馬鹿野郎、今行くところは立ち入り禁止区域だ! そんな処を目的地にしても、自動運転車が向かう訳無いだろ! 『ここには行けません』って断られるのがオチだ。彼奴ら無駄に真面目で融通が利かないからな」

 

まぁ、機械なんてものはそう言うものなんだがと思いつつも、不意に浮かび上がった次なる疑問をクエスにぶつけてみる。

 

「だったらなんで今自動運転に出来るんだ?」

「あゝん? それはちょっと先の適当な処を目的地にしてそこまで走らせてんだよ」

「だったら立ち入り禁止区域ギリギリまで自動で走らせて、禁止区域からは自分で運転したらどうなんだ?」

「あっ!?」

「気付いてなかった見たいっスね」

 

急速にクエスの顔が赤くなっていくのが分かる。しかも、後輩のリコに気付かなかった事を指摘され、よっぽど恥ずかしかったのだろう。すぐさま隣に座って居るリコに八つ当たりのチョークスリーパーを仕掛ける。

 

「うっせぇな! 気付いてたよ! 俺は久しぶりに運転がしたかったんだよ!!」

 

エスは苦し紛れの言訳を叫んでリコを完全に締め落とす。ひとり退場した。

うわ~、災厄な上司だ。などと思いながら俺は失神したリコをベッドまで連れて行き、クエスはキャンピングカーの自動運転の目的地を、立ち入り禁止区域ギリギリの場所まで行く様に設定しに向かう。

 

「設定の変更は終わったぞ」

「ご苦労」

「偉そうだな! リコは?」

「寝てるよ、お前が落としたんだろ?」

「彼奴直ぐ落ちるからよ。まぁ、彼奴が生意気言う度に落としてやってるからな、落ち癖が付いてんだな」

「何時かお前に殺されるんじゃないか?」

「オイオイ物騒なこと言うな」

「あんたが物騒なんだよ」

 

自動運転になって急に暇になり、さらにクエスと二人っきりとなる。会話も途切れて気まずい空気が流れる。

ヤバい、気まず過ぎる。何か話のネタが欲しい。何か無いのか?

 

「あ、あのよ‥‥‥」

「な、何だよ」

 

声の感じからクエスもふたりっきりで居る事が気まずいらしい。さてどうやって過ごそうか。

 

「お前なんでジャーナリストやってんの?」

「はぁ? なんだよ急に」

「イヤ、着くまでの暇つぶしにと思ってよ」

「・・・」

「やっぱダメか?」

「まぁ、別に隠してる訳じゃねぇから良いけど、あんまり面白い話じゃねぇぞ」

「良いよ、只に暇つぶしって言っただろ」

 

こうして俺は禁止区域に着くまでの間、クエスと会話して時間を潰す事にした。