怠惰に創作

細々と小説の様なものを創作しています。設定など思い付いたように変更しますので、ご容赦ください。

Z計画 FILE4

ワッカートから刑務所コロニーでの生活の話を聞く前に、ゲーディア皇国の警察組織に付いて軽~く説明しておこうと思う。

まず最初に皇国における警察組織のトップが「皇国中央警察本部」である。施設は首都ミシャンドラの地下1階層にあり、長は「中央警察本部長官」である。

主な職務内容は、警察に関する法律に基づいて警察組織全体の管理・運営して行く行政組織だ。

次に紹介するのが「市警本部」である。此方はミシャンドラ以外の72の都市にある警察組織で、所謂「現場」の警察と言った処だ。我々が警察と聞いて思い浮かべる警察業務を行う組織である。施設は各都市の地表面部にあり、長は「市警本部長」である。

そして、その市警本部の下で一般市民が住む居住階層で直接的な警察業務を担当しているのが「地区警察署」である。所謂「所轄」と言う奴だ。此方は各地下階層を4つのエリアに分け、そのエリアの警察業務を執り行っている。長は「地区警察署長」である。

因みに、皇国では防犯カメラと野良い‥‥‥警察犬が要るため基本的なパトロールを行う必要もないし、事件があれば野外・屋内に関わらず、犯人の目星はある程度ついてしまう。のだが、未だに鑑識などの科学捜査は健在だ。これはもしこれらが使用出来なかった時の保険と言ったとこだろう。そして現場の調査と警察犬やカメラからの情報と擦り合わせて事件を解決するのだ。お陰で皇国の犯罪検挙率はほぼ100%と言われている。この国で犯罪をするには防犯カメラ等が関係ない犯罪をするに限る。ま、犯罪なんてしないに越した事は無いが‥‥‥。

さて、皇国ではこれら警察組織の他にもうひとつ警察がある。それが「警察局」だ。

警察局は、「皇国親衛隊情報本部」の内部部局の1つである。

親衛隊情報本部内には、他にも「国家保安情報局」と言う所謂「政治(秘密)警察」があるのだが、この警察局はそれとは別に通常の警察業務を行っている。

彼らの主な業務は首都ミシャンドラの治安維持だ。皇族の他には貴族や政治家、官僚や軍人とその家族と使用人しか住んでいない首都ではあるが、人が住んでいる限りトラブルは付きものである。そう言ったトラブルに対応するのが彼らの仕事である。勿論刑事事件に限るが‥‥‥。

それにミシャンドラは他の72の都市と違い防犯カメラも警察犬も無いので、そういったモノに頼らない捜査も彼らには求められている。

もうひとつの国家保安情報局も、政治警察なので警察である。説明する必要も無いだろうが、彼らの主な仕事は対テロや不穏分子の捜査・逮捕や防諜などである。俺は彼らと関わりたくは無いな。うん。大人しく慎ましやかに暮らしていれば、かかわる事のないから俺はそうする事に決めている。

あゝあと宮廷内で起こった事件に対応する「近衛警察」と言うのがある。流石に宮廷内でのトラブルは親衛隊と言えども介入出来ないので、こういった組織がある様だ。

とまぁ、これがゲーディア皇国における主な警察組織だ。

そんな警察に捕まった犯罪者たちがぶち込まれるのが「刑務所コロニー」である。

刑務所コロニーに付いての資料は少ない。あっても軽く外見の事だけが書かれていて、内部情報は書かれていない。書かれている事と言えば、第4惑星の軌道上にあるスペースコロニーで、通常の居住用コロニーの半分くらいの大きさの円柱型コロニーである事くらいである。

そして、その内情は極秘で、刑務所コロニーに付いて一般市民が知っている事は殆ど無いそうだ。そうは言っても、出所した元受刑者が語る事はあるだろうと思うだろうが、皇国ではそう言った事は殆ど無いらしい。理由としては「前科」が付かない事が大きいと思われる。元受刑者・犯罪者と言う肩書は、一般の人からすれば恐怖や嫌悪の対象でしかない。また犯罪を犯すのではないかと警戒され迫害される。そうなると自暴自棄になり再犯を犯す恐れがあるため、前科を付けずに受刑者だった事は秘匿されるのだ。そのため自らが受刑者だった過去を話さない限り、元犯罪者とバレないのだ。

一応警察のデータベースには過去の事件と犯罪者の記録は残ってはいるらしいが、それを見るには警察関係者で結構面倒な手続きが必要との事だ。

無論、直接的に被害を被った人たちなら犯人の顔を憶えてはいるだろうが、世間一般の人からすれば、前科が付いていない人の過去は本人の口から語られない限り明るみに出る事は無い。とは言え、ニュースになれば誰かは覚えていると思うだろが、皇国のニュースの放送の仕方が可なりユニークなのである。事件が起こって解決してからニュースとして放送されると言う形式をとっているのだ。例えば「何月何日何時にどこそこで事件が起こり、何月何日何時に犯人が逮捕されました」と言った具合に、世間に事後報告する様に放送しているのである。これは、事件が起これば殆ど犯人の目星が付いてしまい、数日以内に解決してしまう事が関係しているのかもしれない。その時にチラッと犯人の顔が映るだけで終わってしまうので、被害者以外の人々には犯人の顔を憶えている者が少ないのだ。

もっとも、他人の過去をほじくり返そうとする者は何処にでも居るものだから、バレる時はバレるものだがな。うん? 俺もその一人か?

では、前科を付けない事の意図は何だろうか? 先程もちょっと触れたが、刑務所で罪を償って出所した人間に、まっさらな気持ちで再出発をしてもらう事を第一に思っての処置だと思う。これは賛否分かれる処だと思うが‥‥‥。

あと他には、刑務所コロニーには脱獄の心配がないと書かれている。如何してかって? 刑務所コロニーは宇宙空間にあるため、外に出た瞬間にアウトだからだそうだ。

では、ここからはワッカートによる刑務所コロニーでの体験の話を聞こうと思う。

「俺は警察に捕まったその日の内に『セレン・オビュジュウ』に連れて行かれたんだ」

「セレン・オビュジュウ?」

「あゝやっぱり知らねぇか‥‥‥」

 

俺の反応に、ワッカートは「えっ知らないの?」と言った表情をしたが、それが小馬鹿にしたような顔だったので、俺はムッと来た。別に悪気があって言った訳ではないだろう‥‥‥イヤ馬鹿にしてるのか? まぁ‥‥‥まぁ、そんな事でイラついていたら時間がいくらあっても足りない。そこは目を瞑って話を先に進め事にしよう。

 

「知らなくて悪かったな。なんだよセレン・オビュジュウって?」

「セレン・オビュジュウは刑務所コロニーの名称だよ。俺たち囚人はセレンって呼んでるけどな」

「あゝそうなんですか‥‥‥!? そんなこと何処にも書いてなかったぞ!」

 

俺は刑務所コロニーの名称を始めて知った。刑務所コロニーは刑務所コロニーと呼ばれていると思っていた。なんせ刑務所コロニーに付いて書かれている資料は数少ないし、書かれていても刑務所コロニーとしか書かれていないのだ。分かるわけがない!

 

「イヤな、色々話す序でにあそこの正式名所も教えた方がいいかと思ってよ。隠している訳じゃないんだろうが、大体どこでも刑務所コロニーって呼んでるからよ。知らないと思ってな! 感謝していいぞ」

「そりゃどうも。まぁ、俺はそう言った専門用語や一部でしか使われてない名称を知るのは嫌いじゃない。教えてくれた事には感謝するよ(態度にムカついたけどな!)」

「フッ、でもよ、あの時は吃驚したぜ。まさかこんなに早くセレンに行く破目になるとはな。2、3日警察署の牢屋に入れられた後に行くと思ってたのに捕まって直だぞ、心の準備ってものが必要だろ?」

「この国は刑事裁判は無いからな」

「まぁな、逮捕された瞬間、俺は人間じゃなくなっちまったんだ。心の準備なんて考慮される訳ねぇんだけどな」

 

振り返りになるが、皇国で人権剥奪法が施行された事で刑事事件の加害者は裁判を受けずに刑務所コロニー(セレン・オビュジュウ)にぶち込まれるのである。しかも、刑期は第1種犯罪者なら「無期」である。但し、「模範囚」になれば最短で3、4年で出られるとさっきワッカートから聞いたばかりだ。それが例え殺人などの凶悪犯罪を犯した者であってもだ。しかし、言い換えれば模範囚認定されなかったら一生刑務所暮らしと言う事になる。要するにシャバに出たかったら品行方正で居ろと言う事だ。

 

「セレンに行くシャトルには俺の他にも何人か乗ってた様な気がするが、あの時の俺は頭の中が真っ白になてて周囲の事なんか如何でもよくて憶えてねぇな」

「まぁ、逮捕された直後は大体頭の中真っ白になるかもな。俺もヤバい奴らに捕まって監禁されたときは頭真っ白になったぜ」

「俺の場合は、酔っぱらって何の記憶も無かったから青天の霹靂ってやつだな」

 

ワッカートは一息ついてウィスキーの入ったグラスを手に取り、それを一口飲んでから先を知りたがる俺の方に視線を向けて続きを話し始める。

 

「セーレンに到着した俺たちがシャトルから降りると案内ロボが来て俺たちを囚人住居区に案内したんだ。そんときに囚人居住区の入り口の上にデカデカと看板が掲げられていたな」

「なんて書いてあったんだ?」

「『労働こそ自由への道』だってよ」

(労働こそ自由への道? どっかで聞いた事のある様な‥‥‥)

「如何かしたか?」

「あゝいや、続けてくれ」

「最初は何言ってんだと思ったが、後で意味が分かったよ」

「真面目に鉱山労働に従事したら出所出来るって事か?」

「あゝそうだよ。それから居住区に入ってずらっと並ぶ独房の前で、案内ロボにとんでもないこと言われたよ」

「なんて言われたんだ?」

「『鍵ガカカッテイナイ独房ヲヒトツ選ンデクダサイ。ソコガ貴方ノ部屋デス』だってよ」

 

俺は驚いた。何とセレンでは、受刑者の独房は受刑者自身で選ぶのだと言う。そんな刑務所など聞いた事がない。

さらに驚いたのは、独房の出入りは自由と言う事だ。独房は内側からしか鍵を掛けられない仕様になっていて、受刑者は独房に居る時は鍵をかけて自分のプライベートな空間を確保できるのだそうだ。幾ら脱獄の恐れがないからって緩すぎないか? まぁ、独房の天井には監視カメラが付いてるらしいので全く自由と言う訳ではない様だが、それでも受刑者に対して緩すぎると思うのは俺だけではないと思う。

それと囚人はネクロベルガーのレメゲウム鉱山の採掘労働者でもあるが、労働に従事するかどうかも本人の自由意思なのだそうだ。こんな自由な刑務所があってたまるかと思ったが、無論そんな旨い話は無い。収監直後のワッカートも、これ幸いにと鉱山に行くのをサボタージュしていたらしいが、1ヶ月が過ぎた頃には労働に従事したらしい。

 

「何で気が変わったんだ?」

「あれは俺がぶち込まれたから1ヶ月以上たったころだったかな。食堂で飯食ってたら後ろのテーブルにいた奴らがこんな噂してたんだよ。『彼奴、遂にいなくなっちまったな』って」

「いなくなった? 如何いう事だ?」

「なんでもそいつ半年前にぶち込まれた奴なんだが全然働ないらしいんだが、遂にレベル上げられたんだってよ。それでも働ないからそんでいなくなったみたいだ」

「‥‥‥どういう事?」

「だ・か・ら!」

 

噛み砕かれて説明された。受刑者にはレベルがあって収監された受刑者は余程の事がない限りレベル4から始まり、模範囚になると1年経つ毎にひとつずつレベルが下がって行って、最後にはレベル0になると晴れて出所出来る。逆に言えば態度が悪い者は一生出られなくなると言う話だったが、これには続きがあったのだ。生活態度の悪い受刑者の中で、鉱山労働に全く従事しない受刑者は、ある程度期間が経つとレベルを引き上げられるそうだ。レベルは最高6まであって、上がるのに必要な期間は不明だが、レベルが引き上げられて5になり、それでもさらに労働に従事しないまま一定の期間が経つとレベル6に引き上げられる。そうなった受刑者は人知れず別の区画に移されるのだそうだ。

因みにワッカートの話しだとレベルが1になっても別の区画に移されるそうだ。レベル1の場合は1年間、自分が刑務所に入っていた期間に起こった出来事や、今現在の世間一般の時事ネタをしれたり、出所後の生活のためのサポートなどの期間となるそうだ。職業訓練所みたいだとワッカートは言ったが、彼自身は別にそれに関しては受けなかったらしい。実はレベル1は怠惰に暮らしても必ず1年後には出所できるので、ワッカートは特に何もしなかったそうだ。だから出所後の今もレメゲウム鉱山で働いているってわけだ。大方の受刑者は資格を取って出所後の就職に役立ててると言うのに、勿体ない事する奴だと内心思った。

要するに労働に従事しないとレベルが引き上げられ、最期にはどこぞに隔離されるって寸法だ。まさに居住区入り口の看板が示す通り、『労働こそ自由への道』である。

それとレベル6の受刑者が別の場所に移された後、如何なってしまうのかは誰にも分からないそうだが、噂だけは飛び交っている様だ。まぁ、ロクな事にはならないだろうから此奴は仕事をする気になったんだ。因みに模範囚と判断されるには、週5日鉱山で8時間以上の労働に従事する事、労働中の勤務態度、他の受刑者とトラブルを起こさない事、が主な条件らしい。

 

「にしてもレベル6の受刑者は如何なるんだろうな‥‥‥」

「ま、色んな噂は会ったけどよ、特に多かったのは人体実験だな」

「人体実験? まさか‥‥‥」

「まぁ、実際にレベル6がどんなとこかは知らねぇし知りたくもねぇ。多分他の受刑者連中にもそう思ってるぜ。それに受刑者は人間じゃねぇんだぞ。あそこじゃあ何されても文句は言えねぇからな」

「まぁ‥‥‥人権剥奪法と言っても、聞いてる限りは特に受刑者が酷い目に合ってる感は無いな」

「確かに生活自体はそんなに悪くなかったぜ。仕事してトラブルさえ起こさなければ出る事は出来るんだ。俺はアソコの生活に不満を思った事は無いと断言は出来ねぇが、生活するだけなら悪くなかったぜ」

「そうか‥‥‥」

 

人権を剥奪されてどうにでも出来る。しかし、ワッカートの話を聞く限りでは受刑者には自由意志が認められていて、真面目に努めていれば出所の機会は誰にでもあると言う事である。

ワッカートの話を聞いて思ったが、セレン・オビュジュウは一種の篩いの様なモノなのかもしれない。受刑者に居住区内は自由に生活させるが、その中で自分の罪を反省し償う意思を見せた者は社会に復帰させ、そうでないものは一生隔離する。だから刑期を決めずに無期にするのかもしれない。考えとしては的を得ているのかもしれないが、これも賛否分かれる処だろう。

 

「そう言えば刑務官は何してるんだ? 受刑者が自由にしてたら、刑務官とトラブルに発展しないか?」

「大丈夫だ。刑務官なんか居ないからな」

「へぇ? 居ない!?」

「あゝいねぇよ。居住区は受刑者しかいない」

「じゃ、じゃあ、さっき食堂で飯食ったとか言ってたけど、食事とかそういったモノは如何するんだよ!」

「あそこは全部管理AIとロボットがやるんだよ。食料とかの物資は俺たちが来たのと違う港から搬入されて、調理用の機械で調理されて、食堂にある自販機のボタン一つで好きなものが食べられるってわけ」

 

驚いた事に刑務所コロニーには刑務官は居ないのだと言う。全施設を管理しているのは「AI管理システム」と、それに従事する各種のロボットだけで管理されていると言うのだ。受刑者は他の受刑者としか人間と接触する事が出来ないのだ。嘘だろ! エレメストでは考えられない話だ。皇国の人々は全人類のトラウマとなったあの事件を忘れてしまったのだろうか‥‥‥。

 

「怖くねぇか?」

「AIがか?」

「ああ‥‥‥」

「もう何世紀も前の話しだろ?」

「そう言う問題じゃないと思うがな‥‥‥」

 

確かに皇国はAIシステムがエレメストより普及している感がある。もう何世紀も前の事だが、人類はAIに頼り過ぎた結果とんでもないことになったのだ。その過去が今も人類には深い傷となっていると思うのだが‥‥‥。

 

「気にすんなって、別にロボットも人型じゃねぇし、案内ロボも調理鍋みたいな形して可愛らしい声で案内してたぜ。」

「だからそういう問題じゃない!」

 

管理をAIに任せるのは、受刑者以外の人間を無くす事で余計なものを備え付けさせないためだろう。刑務官などの人間がいなければ、彼ら用に緊急時の宇宙服だのなんだのと用意する必要もある。其れだと万が一にも受刑者に奪われて脱獄されてしまう恐れもあるし、刑務官が人質にされて刑務所内で籠城される事もある。そう言った事を起こさないための処置なのだろうし、管理もしやすいと言う訳だ。最悪コロニー内の全員を殺しても、全員人ならざる者達だから心も痛まないと言う事か‥‥‥。これも人権剥奪法のメリット? なのか?

( ´ー`)フゥー...ちょっと気が滅入るな‥‥‥。

ここで話を変えてワッカートの刑務所ライフを聞く事にした。

受刑者が生活している独房は、ワッカートの見立てでは広さは15㎡程あり、机と椅子一式に、個室になっているトイレが付いている。隣との防音性も良く、ドアも頑丈で外から中が見えない様になっているそうだ。そのためここに引き籠っても良いが、食事などは食堂で採るため独房からは出なくてはならない。他にシャワー室や娯楽施設やトレーニングルームまである。それに外の情報を知る術はレベル1にならないと無いが、図書室もあって様々なジャンルの電子書籍があるとの事だ。時間も起床時間や就寝時間などが厳しく決まっている訳ではなく。鉱山への出勤も、2時間に1回のペースでシャトルが出ていて、そのどれかに乗ればいいらしい。勿論シャトルはセレンと鉱山を往来するだけの無人シャトルだ。

 

「至れり尽くせりじゃないか」

「だから言っただろ。生活するには悪くないとこだって」

「そうだな」

「だからあの爺さんも住み着いてたんだろうな」

「あの爺さん?」

「俺に模範囚になれば出所出来るって教えたくれた爺さんだよ」

「あゝそう言えば、お前1年無駄にしたとか言ってたな」

「あゝそうさ、もっと早くあの爺さんに合ってれば5年もかからず出所出来たのによ」

 

ワッカートの話によると、その爺さんに合ったのは収監されて1年が経とうとした頃だったそうだ。その頃の彼奴は、レベルが上がって別の場所に連れていかれる対策として週に2回ほど鉱山労働に従事ているだけで、殆ど漫然とした生活を行っていた。だが、ある日の鉱山での労働中に、その爺さんがサボっている処を他の若い囚人に注意されている処を目撃したのが初めての出会いだそうだ。

 

「テメー爺! 何サボってんだ!」

「まぁまぁ、おりゃこの歳だ。少しは休ませろ」

 

凄い面幕の若い囚人に対し、爺さんは気にする事無くやんわりと対応していたが、それが気に入らなかったのか、若い囚人は爺さんの胸倉を掴んだそうだ。そこで見ていられなくなったワッカートが仲裁に入り事なきを得たのだ。その時に助けた爺さんに気に入られたワッカートは、ここでの事を色々教えてもらったと言う訳だ。

だがここに一つの疑問が残る。刑務所側は何故受刑者達に模範囚になれば出所出来ると最初に言わなかったかである。ワッカートは爺さんに合わなかったら模範囚になどなっておらず、もしかすると今でもセレンに収監されたままだったかもしれない。

 

「なんつうかな‥‥‥罪を反省する奴は言われなくても真面目に刑に服すからって言ってたな。爺さん」

「んん?」

「例えば凶悪犯がそれを聞いて上面だけで模範囚になって、4年程で出所したらどうする?」

「非常~に不味い」

「そう言う事。だから俺はその日から心を入れ替えて真面目に働いたの」

「心を入れ替えてねぇ‥‥‥」

「何だよ!」

「いや別に‥‥‥。で、爺さんは如何したんだよ?」

「今もセレンにいるんじゃないかな? 死んでなけりゃあな」

「オイオイ物騒なこと言うな」

「だってよ、俺と会った時に既に70超えてたんだぜ」

「そっか、幾ら人生100年って言っても、その歳での肉体労働はキツイよな」

「また誰かに絡まれてたりしないといいんだがな‥‥‥」

 

爺さんのことを心配してか、ワッカートはグラスを傾けつつ遠目になる。

結局、ワッカートはその爺さんから名前は教えてもらえなかったそうで、今でも爺さんと呼んでいるのはそのためだ。その爺さんだが、もう30年以上刑務所にいるらしく、シャバに家族も知り合いもいない天涯孤独の身で、そのため刑務所で骨を埋めると言っていたそうだ。爺さんが収監された当時は刑務所施設は地上にあり、その頃の生活は俺らが思い浮かべる刑務所の生活と同じで、結構厳しかった様だ。それが変わったのが人権剥奪法が施行された事にある。丁度それに合わせるかの様に完成していた刑務所コロニー「セレン・オビュジュウ」により、地上の刑務所にいた囚人は全て此方に移されたのだ。

コロニーをひとつ完成させるのに2、3年はかかると聞いたが、その時から人権剥奪法が考えられていたのか? それとも本当に偶々偶然に同じ時期に法の施行とコロニーの完成が重なっただけなのか‥‥‥?

因みに嘗ての地上刑務所だった施設は、今どうなっているかは不明だ。

 

「そんで2年程立った頃かな。そこで見たんだよ」

「見た? 誰を?」

「・・・」

 

ワッカートが訝し気な顔で俺に視線を向ける。

えっ? 俺なんか変なこと言った?

 

「あのな、お前何の目的で俺に話聞いたんだよ」

「あっ! グリビン医師か‥‥‥?」

「お前なぁ、確りしろよな」

「面目ない‥‥‥」

 

すっかりグリビン医師の事を忘れていた。俺は医師に会った時の事を改めてワッカートに聞く。

 

「あの時の事は良く覚えてるぜ。なんせ鉱山なんて場違いの場所に白衣着た初老の男と親衛隊員がゾロゾロと来たからよ」

 

事の概要はこうである。親衛隊員10数人ばかし引き連れたグリビン医師が鉱山にやってきて、手にしたタブレットを見ながらとある受刑者を指差したのだ。すると、親衛隊員がその男を連れて行ってしまったのだそうだ。

後で爺さんから聞いて連れていかれた受刑者が殺人犯だと聞かされ、同じ殺人犯であるワッカートも、何時か連れていかれるのではないかと気が気ではなかったそうだ。結局はお迎えは来なかったと言う事だが‥‥‥。

ただ問題がある。親衛隊が絡んでいるとなると可なりやばい。俺は彼らとは拘わらないように慎ましやかに生きると決めたのだ。さて如何したものか‥‥‥。

 

「親衛隊の中に偉そうな士官様がいてよ。博士がそいつの事『ヴァレナント大尉』って呼んでたな」

「ヴァレナント‥‥‥大尉‥‥‥そうか‥‥‥」

「如何した? 急に元気なくなったな」

「イ、イヤな、急に親衛隊が絡んでいると知ってな‥‥‥」

「まぁな、親衛隊に逆らって保安情報局の奴らにしょっ引かれたくねぇもんな」

「あゝそうだな‥‥‥今日は色々話してくれた助かったよ」

「へぇ、もういいのか?」

「充分だよ。それじゃあ謝礼は後日な‥‥‥」

「オウ」

 

俺は親衛隊と聞いて一気にやる気をなくしてしまう。俺こんなにビビりだったっけ? と思いつつ、後はワッカートと連絡先を交換し、また何か聞きたかったら連絡すると言って彼と別れてR&Jを後にする。

 

「(*´Д`)はぁ~。親衛隊か‥‥‥まぁ、明日クエスに全て話して判断を仰ぐか」

 

あとは社長判断に任せる事にして、俺は家路に就くのだった。