怠惰に創作

細々と小説の様なものを創作しています。設定など思い付いたように変更しますので、ご容赦ください。

Z計画 FILE7

丸一日以上キャンピングカーを走らせ、俺たちは目的地に到着した。と言っても、正確にはここからまだ少し行かなければならない。要するに立ち入り禁止区域近く、自動運転で行けるギリギリの処と言う訳だ。ここからはキャンピングカーに搭載されている4輪バギーで進む事になる。

 

「と言う訳で、留守番頼むな」

「分かったっス! って、なんで僕が留守番なんっスか!!」

「何でって、バキーは2台だけだからな。俺と此奴で終わりだ」

「不公平っス! 僕も行きたいっス!」

「お前行っても役に立たないだろ」

「何すかそれは! 役に立たないってどういう意味っスか!」

「言葉通りだ。今日は新人カメラマンもいるしな」

 

エスとリコの十八番である言い争いを聞きながら、新人カメラマンとは俺の事か? と疑問に思う。確かに元はカメラマンだったがよ。今じゃあ立派なジャーナリストだ、聞き捨てならねぇな。まぁ、ブランクはあるけど‥‥‥。

結局クエスは編集長命令でリコをねじ伏せ、俺と旧刑務所施設に行く事になった。当然リコは不満たらたらだが、編集長には逆らえない。後輩の悲しい処だ。クエスに付いて新聞社を辞めた事を後悔してるかもしれない。

まぁそんな事は置いといてだ、俺たちは宇宙服に着替えて4輪バギーに乗り込む。4輪バギーは手動運転だけの車両で、通常の自動車と同じ操作方法である。と言っても、今では殆どの自動車が自動運転なので手動で運転する機会はまずない。俺も一応免許を取ってはいるが、ここ最近は運転していない。エレメストならタウンに暮らしている連中は未だに手動の車両を使っているらしいが、シティ以上だとほぼ自動運転だ。シティで手動運転したければカーレース場にでも行くしかない、そこなら自由に車を運転する事が出来るし、そこが教習所の役割も果たしている。あとは‥‥‥軍に入隊するだな、軍用車両は未だにに手動運転だ。理由は言わずもながらだ。

まぁそんな処かな、車でシティ間を移動する時も手動運転になる場合がある。此方は基本的に自動運転で、万が一にも自動運転システムが故障した場合に限る。当然シティ外には修理屋もいないし、自分で治す事が出来なければ手動で運転する事になる。運よくタウンでも見つかればいいが、そううまくはいかないから手動運転になる。

まぁ、滅多になる事は無いないんだが、それはそれ、万が一にだ。そもそもその故障の原因が車が動けなくなる様なものだったら手動も自動も関係ない。それに車で別のシティに行くには可なりの長旅になるし、場所によっては舗装された道路がない場合もあって実際に車で行くのは相当な物好きくらいだ。普通はシティ間を行き来する時は、トレインやエアバスを利用するもんだ。そっちの方が安上がりだしな。

キャンピングカーを出た俺たちは、岩と砂だけの地表をバギーで疾走する。タイヤに巻き上げられた砂ぼこりが宙を舞い、さながら小さな砂嵐の様である。暫く走ると、前方に小高い丘がみえて来た。

 

『おい、あの丘の向こう側に旧刑務所があるみたいだ。一旦あの丘から様子を見よう』

 

宇宙服の通信機器を通してクエスの提案が聞こえたので、俺はその丘の方に視線を向ける。丘は100mあるかないかの高さで、一旦あの丘の頂上から旧刑務所施設の様子を見るのもありかと提案を受ける事にした。

 

「あゝ分かった」

 

俺たちは丘の麓でバギーを止めて丘を登る。緩やかな傾斜とは言え、エレメストなら登のに苦労しそうな丘だが、この星の重力の低さのお陰で差ほど疲れる事なく頂上に到着する。

 

「此れが旧刑務所施設か‥‥‥」

 

丘の頂上まで登った俺たちの眼下に旧刑務所施設が姿を現す。

旧刑務所施設は三方を高い崖に囲まれた場所にあり、正面の出入り口の前には川? と思しき溝が横切っている。無論水は流れていないが。三方を崖に囲まれ、正面は川? まるで受刑者の脱走を阻むかの様にも見えるが、そもそも第4惑星には空気が無い。無いと断言してしまうと語弊があるが、限りなく薄く、宇宙服無しでは外に出る事が出来ない。なので、どっからか宇宙服を調達しなければ脱獄は不可能、そして宇宙服など刑務所で調達することは不可能、よってこの刑務所からは脱獄が不可能と言う訳である。

 

「へぇ~、結構大きな施設だな」

『まぁな、ゲーディアが皇国になる前からある施設だぜ』

 

俺は丘の頂上でしゃがみ込んで持って来たカメラの望遠機能越しに旧刑務所を眺める。カメラ越しに見る施設にはまだ新しさ(廃墟にしてはと言う意味)はあるが、何処にでもある廃墟そのものである。中を調べない事には何とも言えないが、外観から見ればこの施設が使われている様子が無い。

 

「う~ん、見たところ生きてる感じはしないな」

『フッ、まだまだだな』

 

外観を見て素直に感じて言った独り言を、クエスはの奴は俺がこの施設は使われていないと断言したと取った様だ。しかも鼻で笑いやがった。こういう所が嫌なんだよ。

 

「何だよ!」

『幾ら立ち入り禁止区域の中にあると言ってもな、大ぴらに施設を稼働している筈がないだろ』

「わーってるよ! 内部の1部分だけが動いてるって言いたいんだろ」

『あゝここでお前にイイ事を教えてやろう。第4惑星で生きるために知っておかなきゃならない豆知識をな』

 

先住者面して急に上から目線で話して来るクエスにイラッとしたが、その口ぶりから第4惑星で生活するためには必須な事みたいなので、此処は大人になって大人しく聞いてやることにした。ただし、俺の顔の筋肉は引き攣ったままだがな。ヘルメットの宇宙線防止のバイザーのお陰で奴から俺の表情は見てないのが幸いだ。これでもししょうもないこと言ったら彼奴のバイザー叩き割ってやる(危険行為ですので絶対真似しないでください)。

 

『第4惑星じゃよく砂嵐があってな』

「砂嵐?」

『あゝ、結構大きくてな、年に数回惑星を覆いつくすくらい巨大な砂嵐が起こるんだ。重力が小さいから砂とかチリとかが舞い上がり易くてよ、だから巨大になるんだとよ。それが起こると建物なんかが砂に埋もれちまうんだ』

「そんなにでかいのか? 俺見た事ないぞ」

『砂嵐は都市の外だからな、中に居る俺たちには分からねぇよ。シティの中に居れば殆ど関係ないからニュースにもならねぇんだ。砂嵐の情報が欲しいのは今の俺らみたいに都市外に出る時だけだ。だから宇宙港なんかは情報を気にしてるはずだ』

「へぇ~、其れじゃあ今は大丈夫なのか? 俺何にも気にして無かったけど」

『大丈夫だ。この時期は余り砂嵐は起こらねぇし、それに巨大でもエレメストの竜巻みたいに何でもかんでも吹っ飛ばすような威力はねぇ。ここは大気が薄いからな、だから万が一にも砂嵐が起こってもキャンピングカーに避難すれば何とかなる」

「そうなのか‥‥‥っていうか、キャンピングカーに戻るってのもアレだぞ!」

『何だ、ビビってんのか?』

「ビビってねぇし!」

 

確かに巨大砂嵐と聞いて内心ちょっとビビったのはビビった。あくまでもちょっとだ! それにクエスの話しじゃ見た目ほどではないらしいから、まぁ大丈夫だろう。此奴の言葉を信じなきゃならないのが癪だがな。

 

「それより何で砂嵐の事なんか言ったんだ? 今関係あるのか?」

『大ありだよ。よく見てみろあの施設、綺麗だろ?』

「だからそれが何だ‥‥‥あ!」

『気付いた様だな』

「あゝなるほどな、砂に埋まってないって言いたいんだろ?」

『そう言う事』

 

俺は先程クエスが第4惑星で起こる巨大砂嵐は建物を砂で埋めてしまうと言った事を思い出し、この旧刑務所施設が全然砂に埋もれていない事に気付く。

 

『都市などの人が使っている施設は巨大砂嵐の後に砂の除去作業が行われてるから問題ないが、使ってない施設の砂を除去する理由は無いだろ?』

「そうだな、砂が除去されてるって事は使われているって証拠か‥‥‥」

『そう言う事、其れじゃあそろそろ行くか』

「あゝ‥‥‥!?」

 

俺たちが旧刑務所に潜入しようと立ち上がった瞬間、急に辺りが暗くなる。暗くなったのは黒い影が俺たちを覆ったせいだ。かなり大きい。と言う事は‥‥‥上空に何かあるって事だ!

俺は身体を仰け反らして空を見上げる。宇宙服来てると上下左右に向けないので、身体ごと向かないといけないのが不便だ。

 

「う、嘘だろ‥‥‥」

 

見上げた先に見えたのは、巨大で細長い楕円形に近い浮遊物体だった。その物体は巨大な宇宙船の艦底部分で、陰になって薄暗くなってはいるが、赤紫色で前後を向いた3連装の砲塔が2基付いている。その事からも今俺たちの頭上に居るのが軍艦である事を物語っていて、俺はその軍艦が何なのかも知っている。

 

インヴィンシブル級だと!?」

 

俺は軍艦の特徴的な艦底部分の2基の主砲塔部分を見て、それがゲーディア皇国宇宙軍のインヴィンシブル級※宇宙戦艦である事が分かった。この戦艦は、皇国宇宙軍の艦隊旗艦を務める様な艦艇である。それが何故単艦でこんな所に来たのか理解不能である。

単艦?

俺は単鑑だと思ったが、本当に他に艦艇が居ないのか思わず周囲を見渡した。だがやっぱりインヴィンシブル級一隻だけの様だ。何で旗艦戦艦が単艦で行動してるんだ? イヤ、今はそんなこと如何でもいい、可なりヤバい状況だ、此処から逃げた方がいい。

 

「お、おい不味いぞ、ここから‥‥‥」

 

俺がここから逃げた方がいいとクエスの方に身体を向けると、彼奴は俺を置いてサッサと逃げてましたとさ。じゃねぇよ!!

 

「おいまてコラ! ひとりで逃げるんじゃねぇ!!」

 

俺もすぐさま彼奴の後を追って丘の上からバギーを置いてある麓まで転げ落ちるように逃げる。バギーに乗り込んだ俺は、エンジンを掛けてアクセルを思いっ切り踏み込んでバギーを急発進させた‥‥‥。

 

☆彡

 

インヴィンシブル級6番艦「インヴィティション」のブリッジでは、クルーたちが逃げて行く2台のバギーの様子をモニター画面越しに見ている。

 

「逃げたようですな」

「そうだな‥‥‥」

 

副長の言葉に艦長はモニター画面を見ながら短く応える。

 

「如何します艦長。5番砲塔なら今からでも狙えますよ」

「止めておけ」

 

砲術長がうすら笑いを浮かべながら艦長に砲塔を動かす許可を求めると、その表情から冗談を言っていると悟った副長が、例え不法侵入者であっても民間人に軍艦の砲を向けるなどシャレにならないため止めるよう窘める。

 

「心配しなくても撃ちませんよ副長。ただ砲塔が動けば彼奴らもっとビビってちびっちまうかと思いまして」

「下品な発言は辞めていただきたい」

「ヘイヘイ、航海長様は生真面目でいらっしゃる」

 

現在この艦は竣工したばかりで、クルーの訓練も兼ねての処女航海を行っている最中である。しかし、訓練中にある命令が入って今現在に至るのだ。

 

「にしてもあの‥‥‥バレナイゾだったか?」

「ヴァレナント大尉ですよ」

「あゝその大尉様だ。いけすかねぇよなぁ、行き成り通信入れて来たと思ったら『立ち入り禁止区域に侵入者が入った。直ちに追い払ってもらいたい』だってよ。何様のつもりだってんだよ!」

「まぁ確かにアレは偉そうと言えば偉そうでした。あくまでも艦長の方が階級は上なんですからもっと礼儀と言うものがあると思います。自分もああ言う人物は好きになれません」

「だろう、艦長が理由を聞いたら『我々は総帥閣下の特命を受けている。無用な詮索は御自身の立場を危うくしますぞ』とか言いやがったんだぜ! 親衛隊の奴ら総帥の名前出せば何でも許されると思ってんじゃねぇのか?」

「あれには内心ムッと来ました。それに彼は親衛隊と言っても警察局の刑務所所長だったはずです」

「ふざけやがって、只の刑務所の1所長が上官でもある艦長に命令するなんてよ。ってか、俺たちより階級下じゃねぇか!」

 

砲術長の言葉に航海長以下他のクルーも同意と言った表情になる。

 

「まぁそう言うな。惑星の重力圏内での航行訓練を先にやったと思えばいい。副長、頼んでおいた訓練スケジュールの変更は如何なっている?」

「既に出来ております」

 

ヴァレナント大尉の命令の後に、艦長が副長に要望していた訓練スケジュールの変更が終わっているかを聞き、副長も既に終わっている事を告げる。

 

「うちの艦長は人の出来が違うねぇ。どっかの刑務所所長とは大違いだ!」

「砲術長、私の代わりに怒ってくれるのは有り難いが‥‥‥もうそれ位にしておけ」

「でも艦長‥‥‥分かりました」

 

砲術長は渋々艦長の言葉に従う。

 

「そろそろ我々も訓練に戻る。総員気を引き締めろ」

「「イエッサー!!」」

 

ゆっくりと旧刑務所施設上空を飛行していたインヴィティションのメインエンジンに火が入り、その場から離れて行くのだった‥‥‥。

俺はバギーをかっ飛ばして逃走する中、上空の戦艦が気になってミラー越しに後ろを確認する。インヴィンシブル級の艦底部分の主砲は、上空から地上へ向けて砲撃する事が出来る。その威力は折り紙付きで、インヴィンシブル級単艦で地上部隊を一方的に蹂躙できる位の戦闘力がある。まぁ、地上部隊に十分な対空装備がないとだがな。そのためこれまでクローズアップはされていないが、ゲーディア皇国内での騒動(内乱)時には両陣営は宇宙軍を自分に引き込むか、或いは如何動きを封じるかがカギとなっていた様だ。そもそも宇宙艦隊が出撃した内乱は、ソロモス事変位なものであろう。後のクーデター等では宇宙艦隊は結局出撃していないのだ。最終的には中立を決め込む場面も多いしな。と言う歴史の話は置いといて、まさか民間人に主砲を使う事など無いと思うが、万が一こちらに向けて攻撃でもしたらひとたまりもない。

しかし、俺の考えは杞憂だったようだ。戦艦は高度を上げ、ゆっくりとその場から離れて行く姿が見えた。

 

「おい、離れて行くぞ」

『だから何だ! また戻るわけにもいかないだろ』

「御尤もで‥‥‥」

 

エスの言葉に同意し、俺たちはそのままキャンピングカーの停めてある場所まで戻る事にした。

 

「で、何であんな事した?」

「え、あー‥‥‥そ、その~‥‥‥」

 

現在俺とクエスとリコは、装甲車(歩兵戦闘車)の内部で軍の取り調べを受けている。

何故そうなったかと言うと、俺たちがキャンピングカーに戻ったら軍の装甲車が停まっていて、宇宙服の兵士数名がキャンピングカーの周辺をうろついていたのだ。キャンピングカーに戻れば確実に軍に捕まるのだが、バギーでレジエラシティに戻る事も出来ないし、そもそもリコを見捨てる訳にも行かないのでジタバタせずに素直に軍に投降したと言う訳だ。

 

「雑誌の取材で‥‥‥あの施設を調べようとしました」

「何? 雑誌の取材? お前ら記者か? 雑誌の取材に何で廃棄された刑務所に用があるんだ?」

 

尋問している強面の軍曹で、体格の良さもあって可なり高圧的に見える。なので俺たちは余り顔を合わせない様に俯き加減で彼の尋問を受けている。

すると俺たちの事を調べていた兵士が結果を上官に報告する。

 

「軍曹、彼らはクエスマガジンと言う小粒雑誌社の社長と記者とカメラマンです」

「何? 本当か?」

「おい小粒ってのは聞き捨てならないぞ!」

「あゝん? クエスマガジンなんて聞いた事ないからな、小粒なんだろ?」

「クッ!」

 

一等兵の心無くも的を得た返しにクエスは言い返せず黙ってしまう。その様子に俺は笑いが込み上げて来てしまって堪えるのに苦労する。横をチラリとみると如何やらリコも同じらしい。

 

「え、クエスマガジンて‥‥‥月刊オカジンの?」

 

すると奥の方から別の兵士の声が割り込んで来る。驚いた事にその兵士は小粒雑誌社の唯一の掲載マガジンの事を知っている様だ。

 

「何だお前知ってんのか?」

「俺よく読んでるからな」

「何を掲載してんだ?」

「オカルトものだよ」

「オカルト!? お前そんな物信じてるのか? 子供じゃあるまいし」

「はぁ!? お前だっていつまでも巨乳美女だの言ってるじゃねぇか! お前の方が子供だ! ママのおっぱいでもシャブってろ!!」

「んだとこら! テメーこんなとこでそんな事言ってんじゃねぇ!」

 

俺らの見ている前で一等兵同士が胸倉掴んで一側即発の状況になる。この兵隊さんたち仲悪いのでは?

 

「貴様ら真面目にやらんか!!」

「「ハ、ハイ!」」

 

しかし、二人の兵士の一側即発の状況は、強面軍曹の一喝で呆気なく終了する。

部下たちの見苦しい争いを収めた軍曹は、全くと言った感じで溜息を付きながら俺たちの取り調べを再開する。こえぇ~よ。

 

「まぁ、こいつらの話しでお前らが記者だと言う事は分かった。で、何故あんな所にいたんだ?」

 

俺はクエスとリコに一瞬だけ目配せして、ここは月間オカジンの取材と言う事で通す事にする。

 

「いやぁ~‥‥‥あの旧刑務所は放置されて廃墟になってるでしょ、ああいった処には心霊現象とか起こるんです。で、ですから‥‥‥」

「取材しようと侵入したと、立ち入り禁止区域だと知っててか?」

「は、はい‥‥‥すいません反省してマス」

「反省してるっス」

 

俺たちは一斉に項垂れて反省していると強面軍曹にアピールする。俺らの様子を見た強面軍曹は暫く考えた挙句軽く溜息を付く。

 

「まぁ、今日の処は良いとしよう」

「「「えっ!?」」」

 

思いも寄らない強面軍曹の言葉に俺たちは同時に驚きの声を漏らす。まさかこんなに簡単に許してもらえるとは思ってもみなかった。

 

「我々も連絡を受けてここに来ただけでな、別にこんな使われてもない施設に興味本位で侵入する物好きなど好きにさせてやればいいと思ってるんだ。命令じゃなければこんな所に来たりはしなかったさ」

「そ、其れじゃあ‥‥‥」

「あゝ、もう帰っていいぞ」

「えっ!? 良いんですか軍曹?」

「何だ不服か? だったらお前が取り調べするか?」

「あ、いえ結構です」

 

一等兵も自分で取り調べをするのは面倒臭いと思って軍曹の提案を拒否する。

以外にも強面軍曹は形式的な尋問をしただけで俺らを返してくれた。大事にはならなかった事に俺らはホッと胸を撫で下ろしてレジエラへの帰路に付く。但し、俺らがちゃんと帰るかしっかりと装甲車で先導されはしたが、それでも特に何もなく雑誌社へと帰還する事が出来た。

本当に何事も起こらなければ良いんだがな。何故だろうか、無性に嫌な予感がする。考えすぎだといいが‥‥‥。

 

 

☆彡

 

 

某所

ヴァレナント大尉は、旧刑務所施設に侵入を試みた不届き物の資料が映るディスプレイを眺めている。一通り見終えると、控えていた部下に声を掛ける。

 

「小粒の雑誌社か、そのあと彼らは如何した?」

「ハッ! レジエラに帰しました。担当した分隊長は釘を刺して置いたとの報告を受けています」

「釘を刺した? それで彼らが黙るとでも?」

「あ、は、はぁ‥‥‥。分隊長はそのように」

 

ヴァレナントの部下はあくまで自分の意見よりも、取り調べをした分隊長(軍曹)の言葉を上官に告げる。

部下の言葉にヴァレナントは怪訝な表情を見せる。

 

「甘いな、この手の連中は諦めが悪い。きつく注意したところで止めるものか」

「では大尉は奴らがまた旧刑務所に潜入を試みると?」

「いや、今日の一件もある。おいそれとは動かぬとは思うが‥‥‥潮時か」

「はぁ?」

「大事を取って博士にはアソコから退去して例の研究所に移ってもらう。まだ十分に整ってはいないがな。それに、博士も家族の顔が見れなくて不満を訴えていると報告にあった、丁度いい機会だ。少尉」

 

ヴァレナントは部下の少尉に声を掛け、少尉も背筋を伸ばして命令を聞き漏らさぬよう上官を注視する。

 

「直ちに研究所の移動を執り行ってくれ。くれぐれもぬかるなよ、何ひとつあの場所に証拠を残すな。いいな」

「ハッ!」

 

少尉はヴァレナントに敬礼し、踵を返して退出する。

少尉が退室した後、ヴァレナントは背もたれに身体を預けて今一度侵入者の資料に目を向ける。

 

「こちらも此方で手を打つか‥‥‥」

 

一言呟くと、何処かへ連絡を取るべく通信端末を手に取るのだった‥‥‥。

 

 

☆彡

 

 

俺は一旦雑誌社に戻ってから帰宅する事になった。

昨日は結構色々な事があった。丸一日キャンピングカーで走り、旧刑務所施設に付いたかと思ったらインヴィンシブル級戦艦のお出迎えを受け、軍の取り調べを受けたのだ。雑誌社に着くと、待っていたジェルヴァさんから軍から連絡を受けて気が気ではなかったと告げられた。何時もは無表情の彼女だが、俺たちが無事に帰って来て一安心したのか安堵の笑顔を見せてくれたのは嬉しかったな。やっぱり美人の笑顔は良いものだ。

俺たちは今後の事を話し合い、取りあえず今は目立たず静かにZ計画の調査を進める事にした。ま、要するに諦めてないって事だ。クエスの言い分は、幾ら立ち入り禁止だとは言え、廃棄された一施設如きに近付いただけで戦艦で追い払われる事なぞないと主張し、あの旧刑務所には何か隠された秘密があるはずだと断言した。それについては俺も同意見だ。しかし、具体的な事は明日話し合う事にして、今日は各々帰宅する事になった。彼此3日は家を開けているからな。

はぁ、帰ったらまた彼奴の声を聞く事になるのか‥‥‥ま、彼奴の声を聞くのも久しぶりだな。

何時もはうざいハウスキーパーだが、久しぶりだと思うと悪くは無いとも思える。それよりは今は帰って熱いシャワーを浴びてベッドに潜りたい。

 

「ま、今は何も考えずに帰るか」

 

俺はタクシーを呼んで帰宅する。

アパートに到着した俺は、タクシーを降りて中に入ろうとしたら急に一匹の犬が俺の前に躍り出て来た。

 

ワンワンワン!

 

犬種は「パグ」と呼ばれる小型犬で、俺の前で吠えながら短い巻尾を思いっ切り振ってグルグル回っている。何かをアピールしている様にも見えるが、それにしても見れば見る程本物そっくりの犬だ。外見や仕草、どれをとっても本物の犬を思わせる。これでロボットと言うんだから驚きである。エレメストじゃロボットをここまで本物に似せて作ってはいない。一発でロボットと分かる様に作られている。

 

「如何した? 何か用なのか?」

「用があるのは私だ」

 

俺の前でグルグル回って何やらアピールしている犬に声を掛けて屈んで撫でると、不意に女性の声がしたので俺は声のした方に顔を向ける。すると、そこには黒のロングヘアの美女が立っていた。ビシっとスーツを着こなし、キャリアウーマンと言った感じだ。しかし、整った顔立ちもさることながら、俺の目が釘付けになったのはそのふくよか過ぎる胸部である。イヤ、見てはいけないというか、失礼なのは重々承知ではあるが自然と視線が行ってしまうのだ。これが男の悲しいサガだ。

 

「何処見てるのかな?」

 

女性は胸を隠す様に腕を組むつつ笑顔になる。その笑顔を見た瞬間、俺の背筋に冷たい物が触れたような感覚に陥った。

ヤバい、何かヤバいぞこの女!

 

「あゝすいませんね。これ貴女の犬ですか? 可愛いですね。それじゃあ俺はこれで」

 

直感がこの女性はヤバいと告げているため、俺はその直感を信じてこの場からさっさと立ち去ろうと歩き出す。

 

「待ってもらえないかな、ブレイズ・オルパーソンさん」

 

俺は女性の横を素通りしてアパートに入ろうとしたが、急に彼女が俺をフルネームで呼んだため立ち止まって振り返る。

如何して俺の名前を知っている?

 

「あ、あの~、どっかで会いましたっけ?」

「イヤ」

「それじゃあ何故俺の名前を知ってるのかな?」

 

相変わらず目の前の美女に対して俺の直感が警告を発している中、会った事もない女性が自分の名前を知っている事への興味が勝ってしまう。しかも美女だし。

 

「私の名前はマリア・ブルジューノ。警察局刑事部第1捜査課第3班の捜査員だ」

「え!?」

 

彼女が名乗った瞬間、俺の脳内は真っ白になって何も考える事が出来なくなってしまうのだった‥‥‥。

 

 

 

 

 

※【インヴィンシブル級宇宙戦艦】

全長・363m

武装・330mm3連装ビーム砲塔✖5、艦首ミサイル発射管✖6基、4連装機雷発射管✖2、4連装レーザー機銃✖24

☆ゲーディア皇国宇宙軍が、エレメスト統一連合宇宙軍のフロイゼン級戦艦を超えるべく建造した宇宙戦艦。

ネームシップは「インヴィンシブル」ではあるが、1番艦は皇帝の座乗艦である「カイザー」であり、インヴィンシブルは2番艦の名称。その他に3番艦「インヴィジブル」4番艦「インヴィディア」5番艦「インヴィクタス」そして6番艦の「インヴィティション」の6隻が建造され、カイザー以外は各艦隊の旗艦となっている。

【登場クルー】

艦長・戦艦インヴィティションの艦長。階級は大佐。人格者で、クルーたちの人望も厚いベテラン艦長。

副長・戦艦インヴィティションの副長。階級は中佐。真面目な性格。艦長の要望に即座に対要する優秀なサポート役。

砲術長・戦艦インヴィティションの砲術長。階級は少佐。少し不真面目で冗談を言うムードメーカー。しかし、艦長の事は尊敬している。

航海長・戦艦インヴィティションの航海長。階級は少佐。副長以上に生真面目で砲術長とは良く衝突するが、クルーとしては信頼し合っている。