怠惰に創作

細々と小説の様なものを創作しています。設定など思い付いたように変更しますので、ご容赦ください。

初代皇帝と4年戦争 FILE3

宣戦布告後、ゲーディア皇国とアフラ解放戦線との初めての戦闘が行われたのは、宇宙暦155年12月28日、月近くにある第1転送ステーション「ホール・ワン」近郊での事である。

ゲーディア皇国艦隊とアフラ解放戦線艦隊が初めてぶつかったこの戦いは、その後の戦局に大きな流れをもたらした戦いだと言われている。

解放戦線は宣戦布告された直後にホール・ワン並びにホール・ツーの閉鎖を命令し、皇国軍の進行を遅らせる作戦に出た。しかし、12月28日には皇国艦隊がホールワンに向かっていると言う報告が入り、解放戦線側は急遽艦隊を派遣することになったのである。

これは解放戦線側からすると驚きの事態だった様だ。通常ホールを通らずに第4惑星圏から第3惑星圏に行くには通常のシャトルでは1ヶ月半かかり、複数の艦船が足並みをそろえなくてはならない艦隊ともなれば、2ヶ月以上かかるのを、彼らは28日で終えたからである。これについては皇国が宣戦布告以前に艦隊を発進させていただけの事ではあるが、それに気づかなかった解放戦線側の落ち度でもある。幾ら同盟国とは言え、皇国は10月の時点で自国民によって結成された※義勇兵の即時帰国命令を出しており、その時点で解放戦線側も皇国の意図を気付いて当然なのである。

だが、現実には解放戦線側は皇国が宣戦布告するまで主だった対処はしていない。それだけ皇国を信用していたのか、或いはカリスマ的指導者を失った混乱が皇国への対応を妨げたのか。どちらにせよ、解放戦線は皇国の動きに対して後手に回らざる負えなくなっているのは事実である。

一方の皇国側も奇妙な動きを見せている。それは最も近いはずのホール・ツーに侵攻した形跡がないのである。この時期、ホール・ワンとホール・ツーは両方とも解放戦線側が所有しており、両方を確保しない限りホールを使用する事が出来ないのである。この点については軍の作戦機密でもあるので資料も無く、当然ながら理由は今もって分かっていない。歴史家、特に戦史研究家などは色々な説を思い付くのだろうが、残念ながら戦史に疎い私では如何いった意図があったのかは分からない。

とは言え、皇国艦隊と解放戦線艦隊との最初で最後の艦隊戦が、この時に行われたのは事実である。

「ホール・ワンの戦い」後にそう呼ばれるこの戦いは、先ほども言った様に2ヶ月の行軍の末に皇国艦隊が向かった場所であり、それに対して解放戦線側は当時最強と言われた第3艦隊を向かわせた戦いである。

両軍の艦隊編制は以下の通りである。

「ゲーディア皇国軍遠征宇宙艦隊

艦艇数・97隻(戦闘艦53隻、補助艦44隻)

隊司令官・ドレイク・ネクロベルガー大将

「アフラ解放戦線軍第3艦隊」

戦闘艦数・45隻

隊司令官・ミリエル・フィル・アルテプス提督

皇国軍の遠征艦隊司令官ドレイク・ネクロベルガー大将は、言わずもながら元エレメスト統一連合第4惑星駐留艦隊司令官である。連合時代の階級は中将であり、第4惑星が独立宣言して時に、ウルキア帝に皇国軍総司令官に任命され、大将に昇進したのだ。無論、統一連合軍の公式には彼は中将のままなのだろうが。

一方の解放戦線の第3艦隊艦隊司令官ミリエル・フィル・アルテプス提督は、別名「月の魔女」と連合軍から恐れられた女提督である。

彼女は月市民からは「月の守護女神」と呼ばれて英雄視されていて、可なり人気があった人物である。しかし、彼女自身はその呼ばれ方を気に入っていなかったようで、「私の何処が女神だってんだ。恥ずかしいからそんな呼び方をするな!」と事あるごとに言っていたらしい。

因みに彼女は身長186㎝で可なりガッチリとした体格をしていて、男勝りで酒豪という女傑だったらしい。しかも自ら「自分は見た目が男だから軍に入ったんだ」と公言していたようだ。

そんな彼女の活躍は第1次アフラ会戦の時にあり、彼女の活躍によって3倍近い連合艦隊に勝利したのを皮切りに、艦隊戦では連戦連勝を重ねていた。その戦術は独特なもので、彼女の艦隊と戦った連合艦隊は、まるで魔法にでもかけられたように彼女の術中にハマり、大きな損害を出して撤退する事を余儀なくされていた。そのため、連合将兵は畏怖の念から「月の魔女」と呼ぶようになったのである。彼女自身はこの渾名を気に入っていて、「女神より魔女の方が私にはお似合いさ」と言ったらしい。

「ホール・ワンの戦い」は、宇宙暦155年12月28日14:35から翌日29日の21:15に終結した。戦いは激戦を極め、両軍ともに50%以上の損害を出して皇国軍の勝利で終わっている。

月の魔女が生涯で唯一の負け戦であり、彼女の最後の戦いになった。そう、彼女はこの戦いで戦死したのである。

余談ではあるが、彼女の搭乗艦が被弾した際に艦橋が誘爆し、それに巻き込まれて戦死したのだが、その際に彼女は「初めて男に負けたよ。いい男なんだろうな……敵の指揮官は……」と独り言の様に呻いて息を引き取ったと伝わっている。

アルテプス提督の戦死は解放戦線、引いては月市民の動揺を生んだ。これは指導者チェイスロアの急死に匹敵するものであったのだ。なぜなら嘗ては第3惑星の地上の半分近くを占領していた解放戦線が、この時期にはその殆どを連合に取り返されており、主戦場は宇宙に移っていて、その戦いにおいて彼女は月の魔女のふたつ名の如く、連合艦隊を惑わせ、勝利を重ねていたのである。

一説には、彼女の死が解放戦線に戦争の敗北を自覚させたとまで言われている。

現にこの後、解放戦線では戦争継続を唱えるアフラ派に対して、宇宙暦156年1月4日にエレメスト派がクーデターを起こして新政府を樹立。同月15日にはエレメスト統一連合に対して無条件降伏している。彼女の死から僅か半月ほどで戦争が終わっているのである。

こうしてゲーディア皇国は同月16日にエレメスト統一連合政府より、正式に独立国家と認められることになる。

戦争開始時は同じ独立国家を目指すアフラ解放戦線と同盟したにもかかわらず、終戦間際には、それを阻もうとしたエレメスト統一連合に協力して戦勝国となり、完全なる独立国家としての道を歩むこととなったのである。

しかしこの事が、ゲーディア皇国とウルギア帝に暗い影を落とす事に成るとは、この時は誰も知る由も無かったのである。

 

とまぁ、書いてみたが、どう見ても4年戦争に重きを置き過ぎているので、此処からは初代皇帝ウルギア・ソロモスが、この時期何をしていたのかをざっとだけだが書くことにする。

簡単に言えばこの時期ウルギア帝は内政に力を入れている。

当時の第4惑星は、連合の植民地支配を受けていると言っても、連合から来る行政官は左遷組ばかりで、彼らの統治は月市民程の不満をもたらすものでは無かった。

更に言えば、半独立状態といってもいいものであり、月に呼応して独立したのも連合と月の戦争に便乗して完全に独立すると言うのが目的で、第3惑星圏での騒乱に関わる気はなっからなかったと言うのが通説になっている。

幾ら遠く離れて半独立状態とは言え、単独で独立宣言すれば連合が潰しにかかるのは目に見えている。そこで同じく独立したがっている月を後押しして同時期に独立した後、月と連合が戦争している間に基盤を固め、戦争で疲弊した※連合に対して外交交渉で独立を認めさせると言うのが皇国の戦略だと言われているのだ。

しかも4年戦争が皇国にとって幸運だったのが、戦争が長引いたために疲弊した連合側から極秘裏に皇国に協力を要請して来たのだ。これは皇国にとって渡りに船だったであろう。そしてウルギア帝は、解放戦線の指導者チェイスロアが幸運にも急死した事をもこれ幸いに、解放戦線との同盟を解消して節操なく連合に付いたのである。

こう言った処は、ウルギア帝の政治家としての才覚を見るに重要な所でもある。情に絆されて何時までも解放戦線と同盟していたらもしかしたら、独立など夢のまた夢かもしれない。そう考えればウルギア帝の行動はやむ無しとも言える。

これとは別に、他の選択肢もあったのではないかともいわれている。

例えばこの戦争で両国をさらに疲弊させ、頃合いを見て戦争に参加して第3勢力になって両国を制圧する選択である。ただこれは人類にとって更なる悲劇になるため、私なんかは選択されなくて良かったと思う。

他には両国が疲弊しきった頃合いに調停役を買って出て、連合、アフラ、皇国と、それぞれの国家体制を築くと言う選択である。これは戦後、月市民が連合よりも、自分たちを裏切った皇国に対して敵愾心を持ったこともあり、もし調停役を買っていれば、月から敵視される事も無く、逆に感謝されていたのではないかとも言われている。あくまでも上手く行けばの事である。

とは言えウルギア帝は月を裏切る選択をし、それによって後に如何なるかは兎も角、独立を勝ち取ったのは事実である。

ここにウルギア帝の外交センスが読み取れるのではないだろうか。と、私は偉そうに思いつつ、次は皇国の政治体制について考える事にする。

 

【解説】

義勇兵の即時帰国命令・ゲーディア皇国のアフラ解放戦線への宣戦布告に先立ち、解放戦線に協力していた皇国義勇軍兵士への帰還命令。

当時解放戦線兵士として戦っていた皇国義勇軍は約46万人で、帰還命令に従わず残ったものも多く、実際に帰還したのは24万人ほど。但し、場所的に帰還が無理だった者もいる。

皇国の宣戦布告で彼らの肩身が狭くなったのは確かで、アフラ事変の際に彼らは戦争継続派であるアフラ派に協力しようとしたが、拒まれ、それが事変の成功に繋がったとも言われる。

戦後は流石にほぼ全員が帰国したと言われている。

※連合に対して外交交渉・ゲーディア皇国は、エレメスト統一連合とアフラ解放戦線との国力差を鑑みて、戦争は連合が勝つと予想していたとされる。ただ、もし解放戦線が勝ったとしても、同じ独立国家を目指すものとして同盟関係は継続されるし、皇国としてはどっちに転んでも良かったと思われる。