怠惰に創作

細々と小説の様なものを創作しています。設定など思い付いたように変更しますので、ご容赦ください。

とある記者の取材録2

俺の名前は「ブレイズ・オルパーソン」フリーランスのジャーナリストだ。と言っても元々はカメラマンだった。自然や動植物の写真を撮るのが主な仕事だったんだが、それだけじゃあ食っていけないから新聞社でカメラマンのバイトをしていたんだ。

そんな俺がジャーナリストになる切っ掛けになったのが、宇宙暦188年にとある大物政治家の不正に関する証拠を偶々つかみ、それを記事にした事だ。俺の書いた記事により、政治家たちの汚職が摘発され、可成り大きな事件になったんだぜ。

25歳と若いながらも、それが切っ掛けで俺は政治家や官僚の汚職、大企業の不正や隠蔽、環境汚染などを暴く正義のジャーナリスト(カメラマン)として俺は世界から注目される事になった。勿論、その裏には法を犯すような擦れ擦れの取材を行ってきたが、 それもこれも正義を行うためだと俺は気にも留めなかった。今思えば有頂天になって己惚れていたんだ。そんな俺についに天罰が下った。

宇宙暦191年5月3日、忘れもしないその日、俺は契約していた新聞社から突然契約解除を言い渡された。理由は今までの行き過ぎた取材が原因なのだそうだ。無論、俺は抗議した。今日までそれらに目を瞑っていてくれた筈の新聞社が、急に不正は駄目だと言ったのだ。しかし、決定を覆す事は出来ず、期せずして俺は仕事を失った。

そういえばデスクの野郎が言ってたな、訴えられなかっただけでも喜べって!

当初は甘く考えていた。他の新聞社なり雑誌社なりをを当たればまた使ってくれると。だがしかし、他の新聞社や雑誌社も俺と契約する事は無く、俺は行き場を失った。

なるほどこれが権力者の力ってやつか。思い知ったよ。

俺はアルコールに逃げ生活は荒れた。愛想をつかして当時付き合っていた彼女が去り、俺は坂を転がる様に落ちていった。

よくある転落話だ。笑えるだろ? 笑えねぇよ!

そんなある日、何時だったろうか‥‥‥。まぁ、宇宙暦193年の何時かだったことは確かだ。腐って居る俺の噂を聞いて当時の同僚が俺に会いに来たんだ。

俺は人に会いたくなかったから居留守を使っていたが、彼奴が仕事を持ってきたと言ったからすぐにドアを開けたよ。自分でも吃驚したけどな。それだけ仕事に飢えていたのかもしれない。我ながら勤勉な事だ。

「よ、元気だったか」

「元気に見えるか? 見えるんだったらお前の目は腐ってる」

「だから言っただろ、危ない橋を渡るのはやめろって」

「うっせ! 危険を冒さないと特ダネなんか取れないんだよ!」

「その結果がこれってわけか?」

そんなことを言われるとぐうの音も出せない。こいつとは俺が契約していた新聞社のジャーナリストだ。俺は法を犯すような擦れ擦れの取材をしているが、こいつは目立たず取材や資料を集めるタイプだ。俺みたいに目立たないのでトラブルに巻き込まれる事は少ないだろうが、注目度なら俺の方が上だ! と見栄を張りたい気分でもあるが、今のこの差を見ると虚しいだけだ。

「そんな無駄話より仕事ってなんだよ!」

「お前もがっつくねぇ」

「うっせ! 仕事があるっているから中に入れたんだ! ねぇなら帰れ!」

「あるよ」

そうしてあいつからの仕事の依頼は、ある国の歴史の作成のための取材と資料集めだった。

「歴史作成? そんなの歴史の教科書見ればいいじゃねえか!」

「教科書に出てない国の歴史だよ。それを基に教科書に採用されるかもな」

「おい、其れってまさか‥‥‥」

俺は歴史に乗っていない国と聞いてピンときた。つい数十年前に出来たばかりの国家の事を。

「察しが良いね。そ、俺が取材してほしい国は第4惑星ゲーディア皇国だ」

依頼はこうだ。まだ出来て40年ほどしかたっていないゲーディア皇国の歴史を作成するそうだ。まだ誰もかの国の歴史を本腰入れてやっていないので、今のうちにって言うのがこいつの考えらしい。そして採用されたらしい。

ただ第4惑星まで行くのが面倒になったので、暇しているだろう俺のところに来たのだそうだ。

何て奴だ。面倒だからと言って俺に仕事を押し付けるとは。こいつの為に俺は何のメリットも無い取材に、あんな遠いところに行く羽目になるのだ。

ふざけるな! 俺はそう思ったね。だから勿論、俺はその仕事を‥‥‥。

 

 

☆彡

 

 

第3惑星から第4惑星に行くには、まずは軌道エレベーター「イグドーラ」と「アストーラ」のどちらかで静止軌道上にある宇宙ステーションまで行き、そこから約72時間シャトル生活(途中のラグランジュポイントにコロニー群があるが無視)をしつつ、月(アフラ)に行って首都アフラ・シティで一泊する。そこから12時間かけて第1転送ステーション「ホール・ワン」に向かう。

転送ステーションとは、グラッフ・ホールマン博士によって作られた転送装置の事で、別名「ゲート」とも呼ばれていて、内径10km、外径11,2㎞のリング状の宇宙ステーションだ。

月から12時間もかかるところにあるのは、今から50年前にホールマン博士がこれの小型化を目指して研究している時に暴走事故が起こり、研究所だった宇宙ステーションもろとも半径100km圏内にあるにある物をすべて飲み込んで消滅するという大事故が起こったからだ。

この事故でホール開発の第一人者であるホールマン博士は多くの研究員と共に消滅し、運悪くその近くを通て行った観光シャトルも巻き込まれてしまうという大惨事が起こった。そんな事があってはホール研究も凍結するしかない。今では万が一ホールが暴走してもいい様にと、近くに何もない場所に設置されているんだ。

それにしても遠くねえか? と俺なんかは思う。

まぁ、ホールに着いてしまえばこっちのものである。ホールは開いている間のエネルギー消費が激しいため、1日の中で開いている時刻が決まっている。シャトルは丁度開いている時刻に着くように出発するため、余りストレスなく通過する事が出来る。時間がズレると次が開くまでその場で待機していなければならない。因みに、ホールが開くのは1日6回だ。

ホールが起動するとリングの内側に水面の様なものが現れ、そこにシャトルなどの宇宙船が通過すると、あら不思議「ホール・ツー」に出て来るのだ。 

「ホール・ツー」からまた12時間ほど進むと、1つの宇宙ステーションに行き着く。「ヘキサス」と呼ばれるエレメスト統一連合軍の宇宙ステーションで、資源衛星を中心に6基の円筒形のコロニーが放射状に敷設されている独特な姿をした施設だ。軍が使っているだけあって、その1基は連合の宇宙艦隊が駐留している軍港になていて、軍民合わせて約500万人が住んでいる。ここでまた一泊してからやっと第4惑星に向かうのである。

長い。いや、昔は何か月もかけて第3惑星から第4惑星に行っていたと思えば、今はだいぶん早くなったのだが。それでも長い。

とは言え、此処まででようやく半分だ。「ヘキサス」からシャトルで72時間かけて第4惑星第2衛星「アンリ・マーユ」に着く。とは言うものの、アンリ・マーユは皇国軍の完全軍事施設なため、寄る事は無い。

「ああ! 戦艦だ! パパ、ママ! 戦艦だよ!」

俺の前の席に親子3人が座っていたのだが、その子供が窓の外を見てそう騒ぎ出したので俺もつられて窓の外に視線を向ける。外には一隻の軍艦が見える。大方アンリ・マーユ要塞から出て来たのだろうが、子供が言う様な戦艦ではなく、正確に言うと巡洋艦である。

確か……「アンティクヴァ級」とか言う名前だったような……。

ま、子供にすれば大砲積んだ船はみんな戦艦なんだろうがな。ここで子供に向かって修正を言うと親に変な目で見られかねないので、黙っている事にした。

それから数時間後、第4惑星第1衛星「ゾディ・アスタ」に到着する。ここは完全民間施設なのでシャトルは此処に入港する。そしてここで小型のシャトルを乗り換えて、遂にゲーディア皇国に到着するのだ。

俺が皇国の73ある都市の中で、最初にその地を踏むために選んだ都市は、第4惑星ゲーディア皇国第1都市「バルア・シティ」である。

嘗てここはエレメスト連合の第4惑星行政府の首都として栄えたのだが、皇国になってから首都専用地として第73都市「ミシャンドラ・シティ」が出来たため、政治の中心地としての機能を失っている。だが、未だに経済と文化の中心地として栄えていて、皇国の全都市中、最大の人口を誇っている。

いや~、長かったな‥‥‥。

俺が皇国について最初に思った気持ちである。俺は彼奴の依頼を完遂するため早速ホテルを探すことにした。せっかく取材費が潤沢にあるだから高級ホテルにしよう。と思いながら……。