怠惰に創作

細々と小説の様なものを創作しています。設定など思い付いたように変更しますので、ご容赦ください。

Z計画 FILE2

翌朝、俺は昨晩早く就寝した事と、ハウスキーパーへの対処法を見つけた事への安心感から気持ち良く起きる事が出来た。

 

「いや~、今日も一日頑張るとするか~」

『頑張ッテネ。ア・ナ・タ』

 

朝一番にハウスキーパーの声を聴いてテンションが少々下がったが、これ位の事なら、まぁ我慢できる。にしても結婚はしていないが、ハウスキーパーが女性のいい声で優しく言葉を掛けてくれるのは、ひとり身である俺にとっては正直なところ有難くもある。まるで新婚夫婦みたいで満更でもない。

 

『頑張ルノハ良イケド、夜ノ分ノ体力ハ残シテオイテネェ』

 

前言撤回‥‥‥。イヤ、これが普通なのか? 結婚した事の無い俺には分からん!

えっ? 前の彼女とどうだったかって? それは‥‥‥まぁ、何と言うか‥‥‥。この話は止めにしよう。

ハウスキーパーに付いては無視して俺は出勤の準備に取り掛かる。洗面所で顔を洗って歯を磨き、これから鉱山労働なので力仕事と思い確り朝食を取る。作業着などは出勤の時に支給されると言うのでそれなりの服に着替えていざ出勤である。

レメゲウム鉱山は、「鉱山」と言う呼び名からよく山の中を採掘して行くと思われがちだが、殆どは地中を掘り進んでいる。勿論、山の中も掘り進める事もあるが、8割方は地中である。

この第4惑星には、第3惑星と同じく様々な鉱物が産出される。それら鉱物資源をエレメストやスペースコロニー、宇宙ステーションに輸出する事でゲーディア皇国は潤っている。

過去には、これらの独占を目論む鉱山開発企業が行政と癒着して利益を独占していた時代もあったが、今は鉱山開発は全て皇国が運営し、その収益は国家予算の一部に充てられている。

そんな様々な鉱物の中で最も重要で、第4惑星でしか産出されないものがある。それが「レメゲウム」と名付けられた新物質である。

発見当初はただの砂の一種として扱われて見向きもされなかったものの、発見者の「モートン・レメゲル」博士が20年もの歳月をかけて研究した結果、ほぼ100%に精製された高純度のレメゲウムの塊を、特殊な方法で圧縮加工する事で結晶化し、その結晶体が高エネルギー物質になる事が分かったのだ。この結晶化したものを「レメゲウム・クリスタル」或いは「レメゲタル」と呼ばれている。

レメゲタルの特徴として特出すべきことは、少量でも一定した熱エネルギーを長期間にわたって発生させる事である。何故その様な特性を持っているのか今もって解明されていないらしいが、この特性から安定したエネルギーを少ない量で長期間確保する事が出来る様になり、まさに夢のエネルギー物質と呼ばれているのである。そのためこの物質は人類の歴史を変えたとも、宇宙暦を代表する物質とも言われ、人類の生活の様々な処で広く利用され続けている。

ただ、当然ながらデメリットもある。安定性が高く取り扱いやすいとはいえ、放射性物質であることには違いなく、使用後は放射性廃棄物として厳重に処理をしなくてはならない。そこはウランやプルトニュウムとも似ている。そのため一般家庭では使われる事は無く、専ら発電所や宇宙船で使われている。

あと、圧縮して結晶化させる際に体積が7分の1以下になってしまうので、これをデメリット扱いする事もあるが、これはそうしないとエネルギー物質にならないので致し方ないと思う。過去には、もっと体積を残して同じ効果は得られないかと研究が行われていたみたいだが、今の処実現はしていない。

この様なデメリットもあるが、人類は新しく手に入れたこの夢のエネルギー物質の恩恵を受けているのだ。

しかし、これは専ら第4惑星でしか産出されないため、長らくゲーディア皇国が独占状態であった。人類がエネルギーに依存した生活をする限り皇国は潤って行くのだが、当然ながらそれを苦々しく思っている連中も多く、エレメスト統一連合政府の中には「皇国に自治を与えたのは間違っていた」「第4惑星を取り戻すためには戦争もやむ無し」と発言する危険な人々もいる位である。

ただ、この考えは次第に薄らいでいった。理由は簡単、第4惑星以外でもレメゲウムが取れる事が判明したからである。それが第4惑星と第5惑星の間の小惑星帯、通称「アステロイドベルト」と呼ばれる宙域である。この小惑星帯の中にレメゲウムが豊富に含まれた小惑星が発見され、連合政府はこれらを第3惑星周辺のラグランジュポイントまで曳航して採掘作業をしている。しかし、それでも今現在エレメストはレメゲウムの5割以上を皇国からの輸入に頼っている。

エレメストでは再生可能エネルギーによる発電が進んでいるので、レメゲウムによる恩恵はやや低いと言われるが、こと宇宙になるとそうは言っていられない。宇宙でも太陽光や太陽熱を利用した発電は行われているが、それは宇宙都市やコロニーに対するエネルギー供給であり、軍事目的、宇宙戦闘艦などのエンジンやビーム砲のエネルギー源などは此方で賄う方が効率が良いのだ。

とまぁ、レメゲウムの説明はこれ位にして。って言うか、今までにもチョコチョコ説明してた様な気がするが‥‥‥。

 

『御客様、到着致シマシタ』

 

タクシーの音声で我に返った俺は、いつの間にか目的地に付いていた事を知ってタクシーを降りる。

 

「それじゃあ、また帰りに」

『了解イタシマシタ』

 

皇国の車は全て自動運転システムのタクシーで、個人で車を持っている者は居ない。エレメストも専ら自動運転の電気自動車であるが、都市部から離れたタウン(町)などでは普通に手動運転車があり、しかも、旧時代の遺物とも言える化石燃料を必要とするモノも使われている。あとは物好きが車を自分で運転したいと手動運転車を持っている位だ。

あ、そうだ。軍の車両も手動運転車だった。

今日は取りあえず出退勤時に迎えに来る様に予約しておいたので、帰りにまたあのタクシーが迎えに来る事になっている。

まぁ、タクシーなんて見た目はどれも同じだから本当に今のタクシーが迎えに来るかは分からないが‥‥‥。

気を取り直して俺は新しい職場に向かう。それがこの「レジエラ・エネルギー公社」である。此処がレジエラ・シティ周辺のレメゲウム採掘場を管理している。

公社の建物内に入ると、ロビーに幾つかの椅子が置かれていて、そこにふたりの男が腰かけていたので俺も彼らの近くの空いている椅子に座る。それから5分ほどすると、ひとりの作業着姿の中年男性がやって来る。

 

「え~と~。新人さんですね?」

 

俺たち3人に話しかけてきた中年の男性に、三者三様に返事をする。

 

「え~と~。確認しますが‥‥‥123番採掘場希望のオルパーソンさん、バラーズさん、ワッカートさんですね」

 

なんだ3人とも同じとこかよ。そんな事を思っていると、中年の作業員が自己紹介をする。

 

「え~と~。私は今回皆様に作業内容を説明しますイーロン・エイプと申します」

 

エイプさんは腰が低く、見た目は痩せていて鉱山で働く男‥‥‥感の欠片も無い人物である。さらに喋り方も何処となく頼りなさそうな感じを醸しだしていて、全体的に頼り無さが滲み出ている人物である。可成り失礼なことを言ってるのは重々承知だが、見た目や喋り方で判断するとそう言う事になってしまう。それでも新人を教える立場なのだから結構この業界に長く居るとみている。もしかするとグリビン医師の事を知っているかも知れないので、あとでそれとなく聞いてみようと思う。

まぁ、今はそれより仕事に慣れる事だ。幾ら1週間だけとは言え、仕事をいい加減にしていると誰からも相手にされないからな。人から色々な情報を得るにはまず信用を得るのが肝心だ。

 

「え~と~。皆様此方へ」

 

エイプさんは「え~と~」と言うのが口癖らしい。俺たちは彼の案内で奥へと進む。すると俺たちは公社の外に案内される。そこには数台のバスが止めてあり、その一台に乗る様に言われる。バスの中には他にも作業員らしき人達が乗っていて、俺たちが乗るとバスは動き出して宇宙港へと向かった。そこから短距離シャトルに乗り換えて123番採掘場へと向かうのだ。

途中外の景色を見たが、何処までも続く荒涼とした砂と岩の大地が広がっているだけで何もない。しかもそこは空気も薄く、宇宙服無しでは生きて行く事さえ出来ない死の大地なのである。

30分ほどすると、シャトルは123採掘場の離着陸場に降りたった。そしてそのまま123番採掘場の建物に併設された格納庫の中へと入って行く。

シャトルが止まるり格納庫内に空気が満たされた事を知らせるブザーが鳴ると、作業員たちが一斉に立ち上がってゾロゾロとシャトルを降りて行く。

俺も作業員達と一緒に降りようとしたが、エイプさんに呼び止められたので残る。

 

「え~と~。この様にして採掘場には行きます。では降りましょうか‥‥‥」

 

呼び止められた理由がその言葉を言うためなのかと疑問を持ちつつ、エイプさんを先頭にシャトルから降りて行く。

123採掘場は、採掘場の多数派である地面を掘り進む方式の採掘場である。まずは掘り進むべき場所の上に建物を建てる。これは大気はあるが薄く、限りなく宇宙空間と言っていい第4惑星の地表面の性質上、作業員が一々宇宙服を着なくても働けるように空気を坑道内に送る施設や、それらを動かす電力を供給する発電所、職員を運ぶシャトルを収納する格納庫やその他諸々の施設を内包した建物である。

そして作業員はまず地面にぽっかりと空いた縦穴の底へエレベーターで降りて行き、そこから地下を縦横無尽に伸びた無数の坑道を通って先にある採掘現場まで行く。

鉱山労働は俺がイメージしていたのと少し違っていた。採掘などの力仕事はもっぱら機械が行っていて、作業員は掘削機などの機械を動かす「運転者」と、故障した機械を修理する「修理者」、あとは建物で働く事務方と現場監督(管理者)である。そして俺の付いた仕事は、機械のアシストとも言うべき仕事をする「労働者」である。掘削機は掘削したレメゲウムを含んだ土砂を運搬車の荷台に乗せて後方の集積所まで運搬するのだが、これが結構大雑把で多くの土砂を溢している。そこで俺たち労働者がスコップ片手に零れた土砂を運搬車の荷台に乗せるのである。

やっぱり力仕事である。それに労働者って何だよ! そのままやんけ!

因みに俺が想像していた鉱山府は鶴嘴を使ってカンコン、カンコン坑道を削って行く仕事かと思っていた。すいません。こんな知識しか無くて‥‥‥。

俺たちは早速作業を始める。因みにエイプさんは俺らにその事を話すと上に行ってしまった。如何やらあの人は事務方の人らしい。道理で頼りなく見えたわけだ(納得)。

掘削機は仕事の開始と共に硬い岩盤を掘削しはじめ、そのあとを落盤が無いように補強しながらゆっくりと掘り進んで行く。そしてブザーが鳴って集めた土砂を掘削機の後方で待機している運搬車の荷台に一気に落とし入れる。すると、見る見る内に土砂が零れていく。

もうチョット優しくやれないのかこの機械は? そんな疑問が俺の頭を過った。それ位大雑把な入れ方である。

一応、零れながらも荷台に山ほど土砂を積んだ運搬車はそのまま走り去り、続いて空の運搬車が掘削機の後ろに付く。その空の運搬車に俺たち労働者が総出で零れた土砂を入れるのである。

 

「おい、新人ども! 次の土砂が出て来るまでに零れた土砂を荷台に入れんるんだ!」

 

見た目通りの屈強な先輩労働者が、物凄い勢いで零れた土砂をスコップですくって荷台に入れながら叫ぶ。

 

「ハ、ハイ~!」

 

俺たち新人3人も、ヒイこら言いながらそれに付いてスコップで地面に落ちている土砂を荷台に入れて行く。そしてブザーが鳴ると先輩労働者がその場から離れる様に叫び、俺たちはその場から離れる。するとブザーが鳴り終わると共に土砂が一気に落とされ、荷台に山の様に土砂が積まれて地面にも大量に零れる。如何やらあのブザーは土砂が機械から出て来る合図らしい。

此れって自動なのか? 手動にした方が安全では?

そんな事を思いながらまた零れた土砂をスコップで荷台に乗せる。単純だが可なりの重労働である。俺は1時間もしないうちに腕がパンパンになた。

作業が始まって1時間が経過した頃、新たに屈強な男が6人来て俺たちと交代する。如何やら1時間おきに交代しながら作業を繰り返す様だ。これは有り難いが、1時間で俺のパンパンになった腕が治るかどうか心配であるが‥‥‥。

休憩は1時間もあり、しかも1時間毎に交代する度に休憩があるので、8時間労働のうち実質4時間しか働かないと言ってもいい。こう聞くと可成り楽な仕事に聞こえるが、その1時間で腕が千切れそうになる。

当然ながら俺を含めた新人3名はへとへとになったかと思うと、ひとりだけ平気な奴が居た。ワッカートである。彼は見た目は色黒の肌でガッチリした体格をしている。THE・鉱山労働者と言った感じだ。ただ、見た目に反して物静かで、何処となく近寄り難い雰囲気を醸し出している。

そうは言っても俺も元記者の端くれ、そういった人物にも取材した経験から俺は余り躊躇する事無く声を掛けた。

 

「あんた全然平気そうだな?」

 

ワッカートは、俺に声を掛けられて驚いた表情を見せたものの直ぐに無表情に戻す。

 

「ああ、前にも働いていたからな」

「そうなのか? でも新人だよな。前働いていたとこは如何なったんだ?」

「色々あってな‥‥‥だからまた此処で働く事にした」

「色々って?」

「色々だよ。お前だってなぜここで働いてる?」

「俺は‥‥‥」

 

ここで俺は口籠る。元エレメストの記者で、ここにはグリビン医師に付いての情報を得るために来ているなどと言えるだろうか? そんなこと言って変に警戒されるのも避けたい。確かに彼の言う通りだ。

 

「色々だ」

「フッ‥‥‥」

「何だ何だ男同士気味の悪い会話して」

 

ワッカートの会話にバラーズが割り込んで来る。するとワッカートは俺はこれ以上会話に入らないと言いたげな表情でその場から離れる。

 

「何だよ行っちまったのかよ」

「あんたが気味悪いなんて言ったからじゃないか?」

「それなら俺も混ぜてもらいたいな。俺たち同じ日に就職した者同士だろ」

「それもそうだな‥‥‥。じゃあバラーズさんは何故この仕事を?」

「お、何かあんたリポーターみたいだな」

 

リポーターみたいと言われて思わずドキッとしたが、それ位で俺の目的を悟られた訳では無いので平静を装ってリポーターらしく質問を続ける。

 

「俺か? 俺は昨日この国に来たんだよ。家族と一緒にな」

「えっ! 昨日来た? もしかしてエレメストから?」

「そうだよ。移民て奴かな」

「奇遇ですね、俺もエレメスト出身なんですよ」

「そうだったのか!? じゃあ、あんたもスラム出身なのか?」

「イヤ‥‥‥違いますけど‥‥‥?」

「えっ! 違うのか? そうか‥‥‥。イヤね、てっきり移民なんてスラム出身や紛争で焼き出された者が行き場を求めてるんだとばかり思ってよ」

 

バラーズは中肉中背と言った見た目で、家族がいると言う事なので俺より年上かもしれない。言動から彼がスラム出身者であることが分かり、さらにそこから抜け出すために皇国に来たらしいことが分かった。

 

「差支えなければ聞かせてください。まだ休憩時間はたっぷりありますから」

「あゝん? ‥‥‥それもそうだな」

 

バラーズは俺に移民の理由を聞かれて戸惑ったような表情を見せたが、それは一瞬の事で、自分が皇国に来る経緯を話し出した‥‥‥。

レイ・バラーズは妻と1歳になる子供を連れて皇国に来たのは昨日の事で、その日の内に役所で住居と此処への就職を決めたらしい。

まぁ、決めたと言っても職の方は役所で扱ってるのはレメゲウム鉱山での雇用しか受け付けてないのだが、住居はレジエラの地下3階都市部のY地区だそうだ。可成り端っこの方だが、その代わりなのか3ヵ月家賃無料らしい。

え、如何いう事? 俺、聞いてないんだけど‥‥‥。

バラーズの話では、Z、Y、Xの3地区は3ヶ月間無料らしい。

気を取り直して‥‥‥。彼は、エレメストのシティ「セトルス」のスラム街の生まれだそうだ。

エレメストでは、「メガ・シティ」計画で溢れた人々を賄うために旧国家時代の首都や経済都市がそのまま使われている。その数は約1000ヶ所以上で、その殆どのシティに大小の違いはあれどスラム街が存在している。

俺も記者時代にあるスラム街の取材をした事があるが、そこを牛耳るギャングに目を付けられて拉致監禁された事がある。3日後に無事に解放されたものの、あの時は死を覚悟したし、そのあと暫くは悪夢に魘された。もう悪夢は見ないがその時の恐怖は今でも忘れらない。

スラム街は基本的にシティの問題である。大都市であるメガ・シティはゲーディア皇国と同じくガッチガチのAIによる都市管理システムのお陰で、スラム化する余地ない都市である。しかし、今だにAIの管理システムが都市全体まで行き渡っていない(※)シティでは、様々な処に死角があり、メガ・シティを追われた者、シティで職にありつけなかった者たちが集まり暮らすエリア、それがスラム街だ。

当然ながらシティの行政はあれこれと対策を行ったものの、どれもこれも上手く行く事は無かった。勿論、好転したモノもあったがスラムを無くすまでには至らなかった。全ての人々を救うことは人員や資金面の問題もあり、しかもスラムにはそこを牛耳るマフィアやギャングなどが縄張りとしている処もあるため一筋縄ではいかないのである。

それにスラム街の犯罪率の高さは深刻だ。スラムを牛耳るマフィアやギャングたちが縄張り争いに明け暮れ治安が悪く、生活苦で犯罪を犯す者も多い。さらにスラムから一般の街に薬物や銃などが流失し、一般の街での犯罪率を上げる結果にもなっている。警察もスラムの治安の悪さにしり込みして取り締まりも余り意味をなさず、そのため行政がスラムの住人を救おうとすると、一般市民の中には「税金の無駄遣いだ!」と言って反対する者も居る始末である。

因みにシティの下のタウンだが、あそこはそこに住む住人に自治を預けているため行政不介入である。ある意味、連合政府から見捨てられたと言ってもいい場所だが、統一を謳っている連合としてはあまり気分の良いものではないと聞く。

ただ近年タウンは減少傾向に向かっていると聞く。理由としてはテロリストのや反連合政府ゲリラの存在がある。その話は今関係ないので話すのは止めて置くが、タウンを焼き出された住人がシティに流入する事により、スラムの規模が大きくなるのではないかと懸念されている。

まぁスラム街の説明と現状はこれ位にしてバラーズの話しだが、彼は「セトルス」シティと言う都市から家族と共に来たと言っていた。セトルスは俺も訊いた事がある。何でもでっかいスラム街があり、世界のTOP10に入る有名なスラム街である。

但し、あそこはそこを牛耳るマフィアが住人の生活を援助していると聞く。そのため子供の教育も行き届いており、マフィアのルールさえ守っていれば比較的暮らしやすい場所であると噂で聞いている。だが、バラードの話を聞くとそれほど良いものではないらしい。

 

「マフィアの下請け‥‥‥ですか」

「あゝそうだよ。俺もスラムのルールを守らなかった奴を仲間と共に袋叩きにしたり、薬物をセトルスの街で密売してたんだよ。サツに捕まったのも一度や二度じゃない」

「そ、そうなんですか‥‥‥(この人結構危ない人?)」

「でもよ、俺たちはマフィアのお陰で教育を受けられたり安全に生活出来たんだ。それ位のことをするのは当たり前って暗黙のルールになってたんだ」

「成程、では何故皇国に移住を?」

「子供がよ‥‥‥」

「子供‥‥‥のためですか?」

「そうだな平たく言えばそうなる。俺さ、3年前にレイプされそうになっていた女を助けたんだよ」

「もしかして‥‥‥」

「そ、それが今の連れだ。そしてあいつとの間に子供も出来てよ。勿論、学校へ行く歳になればマフィアから援助を受けられる。俺は熱心にマフィアの下請けやってたから彼奴らに結構顔が利いてよ、結婚や出産時に結構もらったんだよ。だけどよ、ふと考えたんだ。これでいいのかって」

 

その頃のことを思い出したのか、急にバラーズは遠くを見る様な目に成って無言になってしまう。

幾ら1時間も休憩があるとは言え、余りゆっくりもしていられないのだが‥‥‥。あゝイヤこの休憩時間で全て聞こうとは思ってはいないが、彼の移住の理由を結構気になっているのだ。記者の感と言うか、如何も子供のためと言う理由だけでない様に見えるんだ。イヤ、まぁ、記者の感とかかっこいいこと言ったけどよ、要はお預けを喰らったまま仕事したくねぇ~。って言う好奇心丸出しの理由なんだけどな。

 

「彼奴は‥‥‥スラム出身じゃないんだ」

「えっ?」

 

唐突にバラーズが漏らした言葉に俺は「何が?」って思ってしまった。そんな俺を無視して彼は彼の奥さんに付いて話し始める。

バラーズの妻は、チンピラたちにレイプされそうになったのを彼が助けた女性である。ドラマのワンシーンみたいだ。

マフィアの下請けを数多くやっていてチョットした有名人だったバラードに、チンピラたちは不満を口にしたものの何もせずに去って行った。しかし、その後に事件が起こった。助けた彼女の顔を見た瞬間、彼の全身に稲妻が走ったらしい。

要するに一目惚れしちまったって事だ。

話を戻すと、彼女はスラムの出身ではなく都市中心部の人間らしい。所謂富裕層の人間てことだが、普通ならばスラム街に彼女の様なお嬢様が足を踏み入れる事は無いのだ。だが彼女は、ある理由でスラムに来たらしい。その理由とは家出である。

 

「家出?」

「ああ、親から逃げて来たんだと」

 

彼女の両親は富裕層であるためか可なり厳格で格式に拘る人物で、彼女以外にもふたりの兄妹が居るのだが、親の言付けを守り優秀な二人に対して彼女は色々な点で他のふたりより劣っていた様だ。そのためか兄妹のふたりが親から可愛がられるのに対して、彼女は良く叱られていたらしい。そんな生活が嫌で彼女はこれまで何度か家出を繰り返していたが、その都度、警察に補導されて家に戻されて親に叱責される日々を送っていたそうだ。そんな彼女が最期の頼みと逃げ込んだのがスラム街だったのだ。

ただ、親からは逃げられたものの、当時17歳の彼女がスラム街で当てもなく彷徨っていれば、遅かれ早かれ目を付けられる。案の定、彼女はチンピラに襲われてあわやと言う処をバラーズが運よく通りかかったお陰で助かったのだ。

その後はとんとん拍子に行ったそうだ。家の無い彼女と自分のアパートで暮らす事になり‥‥‥

 

「へぇ~、17歳のタイプの女性を家にお持ち帰りに‥‥‥」

「おい、チョ、チョット待て! 変な想像するなよな! 最初は知り合いの女性に預けるつもりだったんだよ! だけど彼奴がどうしてもって言うから‥‥‥」

「そう言う事にしておきましょ」

「おおい!!」

「で、彼女との初夜は如何でしたか?」

「してねぇよ!」

 

話が逸れたので戻ると、そのまま彼女と自称何事も無く生活している内に‥‥‥まぁ、何時かはそう言う事になり彼女が妊娠したので結婚する事になったのだそうだ。

だが、子供が生まれ、彼女との結婚生活を送る中でバラーズの心の中で「本当にこれでいいのだろうか?」と言う思いが強くなっていったのだそうだ。

元々彼女はスラムの出身ではない。しかも、スラムに来て初日にあの様な目に遭った事もあって余りアパートから出る事は無く、部屋で子供の相手をするのが日課となっている。バラーズとしては彼女に外に出て買い物や色々な場所に行って楽しんでもらいたいと思っているが、それはスラム街で彼女が受けたトラウマを思えば無理な事である。そのため一念発起して皇国の移住に踏み切ったのだそうだ。

では何故ゲーディア皇国だったのだろうか? 答えは簡単マフィアの存在である。彼らから見ればスラム街を出る事は裏切りと思われてもおかしくない。そのためエレメストの他の都市に逃げても彼らの手が伸びて来る。そのため皇国へと逃亡したのだ。

 

「人権剥奪法‥‥‥」

「ハイィ?」

「人権剥奪法なんてとんでも法律がある国だけどよ。俺らにとってはそれがもしかして俺たち家族を守ってくれるんじゃあねぇかと思ったんだよ」

「は、はぁ‥‥‥。それにしても随分色々喋ってくれましたね。俺みたいな今日出会ったばかりに人間に」

「なんかさ、昨日入国の時に嘘や隠し事するのが馬鹿らしく思っちまってよ」

 

バラーズ一家が皇国の宇宙港に来た際の入国審査で、職員に行き成りこう言われたそうだ。

 

「このパスポートに書かれている名前と生年月日でよろしいですか? もし偽造で偽名なら元の名前で登録することも出来ますよ」

 

と言われたらしい。その時バラーズは窮してしまったのだそうだ。偽造パスポートだとバレたのか、それともカマを掛けられたのか、どちらか分からずに黙り込んでいると、彼の妻が偽造パスポートである事を話して職員に謝ったのだそうだ。

しかし、職員は偽造パスポートであること自体は気にも留めず、居住するなら名前を本名か偽名かどちらを使うのか役所に着くまでに決めて欲しいと言っただけだったのだ。それで彼女が「本名で」と言うと、何とその職員はふたりのパスポートをゴミ箱に捨ててしまったらしい。

 

「あれいくらしたと思ってんだ! 知り合いの偽造屋に5万ルヴァーも払ったんだぞ!   それをあの職員何の躊躇もなく捨てたんだ!」

「ハイハイ落ち着いて‥‥‥」

「だってよ、高い金払って作ったのによそれをポイだぜ。ってかパスポートってそんなにポイポイ捨てていいモノなのか!?」

「良くないと思いますけど、偽造パスポートですからね‥‥‥( ̄∇ ̄;)ハッハッハ」

 

高額偽造パスポートを捨てられて怒りを露わにするバラーズを何とか落ち着かせようとしていると、背後に人の気配を感じて振り返る。すると、そこには腕を組み、物凄い形相でふたりを睨む先輩労働者が立っていた。

俺とバラーズの顔から血の気が引く。

 

「お前らいつまで休憩してるつもりだ?」

 

俺はすぐさま時計を見ると、既に休憩時間が終わってから20分以上経過していた。

 

「す、すいません今すぐイッキマァァァス!!!」

 

俺とバラーズはスコップを掴んで慌てて現場へと走りだした‥‥‥

 

 

 

※・シティのAI管理システムは、専ら都市中心部だけがその恩恵を受ける形となっている。郊外に行くにつれて重要な箇所以外は旧国家時代と変わらない。その中で貧民が集まる場所が出来、徐々にスラム化して行ったのである。