怠惰に創作

細々と小説の様なものを創作しています。設定など思い付いたように変更しますので、ご容赦ください。

初代皇帝とバルア事変 FILE2

ロビーで待っていたのは高校生位の女の子だった。俺が来るのに気付くと、座っていたソファー椅子から立ち上がって此方に近付いて来る。

 

「ブレイズ・オルパーソンさんですか?」

「ああ……そうだけど……」

「私、ステイシー・ミリガンと言います」

「ハァ……」

 

ステイシー・ミリガンと名乗った礼儀正しい女の子に対して、俺は思わず素っ頓狂な声を漏らし、何処で会ったのか思い出そうと頭をフル回転させる。身長は160㎝位、180㎝の俺からすれは小さく見える。彼女自身も見上げる様に俺を見ている。背中に掛かる位に伸びた黒髪、顔は結構可愛く、同年代の男子にモテているかもしれないと思えるほどだ。もし俺が同年代だったら付き合いたいと……ゴホン!

たが、過去に彼女に会った記憶を見つけることは出来なかった。仕方ないので手っ取り早く聞く事にする。

 

「何方でお会いしましたか?」

「いえ、私ではなく祖父が‥‥‥」

 

———祖父? 

祖父と言う事は彼女のおじいさんと言う事である。ますます分からなくなりかけた時、俺の脳裏にある老人の顔が浮かんだ。

あれは3日前のことだ、何時もの様にハンさんを伴って取材に出た時の事である。あの時は少し遠出し様と思い、第4惑星都市計画最後の都市である「アロンド・マリウス・シティ」に行って取材をする事にした。

朝早く出た甲斐あって午前中にアロンド・マリウスに着く事が出来き、さっそく俺たちは取材をして回る。正午を過ぎ、取材も一段落した俺たちは、偶々見つけたレストランで遅い昼食を採る事にした。そこで、昼間から酒を飲んでいる二人の老人に出会ったのだ。多分常連の類だろう、昼食時を過ぎて余り客が居なくなった店の奥のテーブルで飲んだくれていて、酒が無くなって追加を要求すると同じタイミングで店員が追加のボトルを持って来ていた。酔っているのは一人だけで、もう一人の老人は余程強いのか、それとも余り飲んでいないのか、さほど酔っている感じはなく、酔っぱらっている老人に心配そうに言葉を掛けていた。

俺は少し興味が湧いて隣のテーブルに座り彼らの話に聞き耳を立てる。

 

「何で死んじまったんだ……」

「お前さんは酔うと何時もそれだね。あれからもう23年も経ってるんだぞ」

「うるせー! 彼奴は彼奴は……」

 

ふたりの老人の会話に出て来た23年と言うキーワードに、更に注意深く聞き耳を立てる。23年前と言えば、バルア事変が起きた年である。たかがこれだけでこの二人が事変と関係してると結びつけるのは早計かもしれないが、何故か俺の感がそう言っているのだ。何かあるかもしれないと‥‥‥錆びついてなければだが‥‥‥。

 

「おい、お前なんだ!」

 

不意に酔っぱらっている老人が、俺が会話を盗み聞きしていることに気付いて、座った眼で此方に顔を向ける。

不味いと思ったが、此処は話を聞いた方が良いと思った俺は、席を立って彼らの許に行く。

 

「私はエレメストから来た記者でして、この国の歴史を調べているんです。もし宜しければお話をと思いまして———」

 

俺は出来るだけ礼儀正しく話を聞こうと思ったんだが、記者と言う言葉がいけなかったのか、それともエレメストから来たと言うのがいけなかったのか、行き成り激昂した老人は、自分が飲んでいたウイスキーのボトルを俺に向けて投げつけて来た。

———あぶな!

咄嗟にボトルを避けて難を逃れる。背後でボトルの割れる音がし、これはヤバいと感じつつも、もうひとりの素面の老人に視線を向ける。すると、こちらも俺に対して懐疑的な視線を向けていたので、此処は退散するべきだと思いつつ顔を酔っぱらっている老人の方に向けると、視界一杯ににボトルが映り込み、その直後に俺の世界は闇に閉ざされた。そして俺が気が付いたのは病院のベッドの上と言う訳だ。

 

「あの時はお爺ちゃんが‥‥‥祖父がすみませんでした」

 

俺は今では傷も痛みも無いおでこを触りながら、謝る少女を苦笑しつつ見る。今の医療技術に掛かれば、あの程度の事なら1日もあれば綺麗サッパリ完治するのだ。気にしなくてもいいと思ったが、せっかくなので可愛い女の子に謝られてみた。あの時はふたつめのウイスキーのボトルに気付くのが遅くれて避けられず、おでこに直撃して俺は脳震盪を起こして倒れてしまった。当然店は大騒ぎになった‥‥‥らしい。その時に彼女も来たらしく、俺の顔は知っていたのだ。

わざわざ誤りに来て若いのに良い子だなと思っていると、ふとあの老人の会話のことを思い出して記者魂と言うか、興味本位と言うか、何かが聞けるのではないかと彼女に取材をする事にした。

 

「えっ!? しゅ、取材ですか?」

「そうそう、君のお爺さんには聞きそびれちゃったから、大丈夫だよ、知ってる事をちょびっと聞かせてくれればいいだけだから、話したくない事は話さなくていいから」

「は、はい‥‥‥」

 

少しぎこちなくなりながらも受けてくれそうな雰囲気だったので、俺は気が変わらないうちにと質問を始める。

 

「君のお爺さんは23年前にご友人を無くされたようだけど、何があったのかな? あの様子だと可成り親しい間柄だったと思うんだけど‥‥‥」

「お爺ちゃんとシェーラーさん‥‥‥レストランでお爺ちゃんと一緒にいた人です。それと死んだダンさんは昔の仲間だったんです」

「仲間? 学生時代とか? 何かの活動で?」

「え~と~‥‥‥」

 

何かとても言い難そうだったので、これは効けないかとも思ったが、しばし考えた結果彼女は話す決心をしてくれた。

 

「傭兵仲間だったそうです」

 

俺は驚いた。この国で傭兵と言えば4年戦争の時の義勇軍が有名である。もしかしてと思い、聞いてみる。

 

「もしかして義勇軍の?」

「はいそうです。ですからあなたが何か聞こうとしたのを衛警だと思ったみたいです」

「衛警? 衛警って※近衛警察の事?」

「そうです」

「でも衛警って組織はもう皇国にはないでしょ? 何で今頃‥‥‥」

「実はお爺ちゃん最近アレでして‥‥‥。偶になんですけど、自分が23年前の時の自分だと思っていて、私の事もマーゴってお母さんの名前で呼ぶし‥‥‥」

 

突然、彼女の顔が曇ったので母親と何かあったのだろうと思い、重苦しい空気になる前に話を進める。

 

「なるほど。じゃあ、何故、衛警に取り締まられていると? それにいきなりウイスキーボトル投げつけられたら、本当の衛警だったらそく逮捕じゃない?」

「そうなんですけど、お爺ちゃん昔から結構そう言う事して捕まってたらしいんです。シェーラーさんが言ってました」

 

彼女の話を聞いて、あの酔っ払い爺さんは、可なりパワフルで無鉄砲な人物だったのだと思い、そんな人に不用意に話しかけてしまった自分の迂闊さを反省しつつ、まぁ、傭兵やってたような人だからな。と納得もする。

結局、その後も彼女と話したが、これと言って得られる事も無く、取材を終えて彼女は重ね重ね謝罪しつつ帰って行った。

一様、女の子なので送って行こうかと言ってみたが、彼女から帰ってきた言葉は、「ここじゃあ、防犯カメラや警察犬がそこら中にあるから誰も手出しなんかしませんよ」と言われ、確かにそうだと苦笑した。

ステイシー・ミリガンから得られた情報は、彼女のお爺さんと一緒に飲んでいたシェーラー爺さんが、元義勇軍兵士で4年戦争を一緒に戦った事。更にそこにはダンと言う人物もいて、彼が23年前に死んだ事。何故かあの爺さんが衛警を目の敵にしていた事である。

 

「さて、如何したものか?」

 

思わず呟きつつ俺はミリガン爺さんの事を調べてみようかとも思ったが、頭を振る。

———俺は何をやってるんだ。俺の仕事はこの国の歴史を調べる事だろ? 変な好奇心から道を外れたら彼奴に何言われるか‥‥‥。

俺は湧きあがる好奇心を無理やりやり奥へと押しやり、本来の仕事に取り掛かる。

 

「次は二代皇帝か‥‥‥」

 

俺は次なる取材資料を纏める作業に入った‥‥‥

 

※「近衛警察」・ゲーディア皇国近衛軍内のある一部署。正式名称は「近衛軍安全保障局警察部」通称「衛警」である。皇族関連の事件を専門に調査する警察組織で、「バルア事変」の時は多くの衛警捜査官が調査に当たった。

宇宙暦191年に安全保障局の廃止に伴い衛警も廃止され、捜査員たちは通常の近衛兵として各近衛部隊に再編入されている。