怠惰に創作

細々と小説の様なものを創作しています。設定など思い付いたように変更しますので、ご容赦ください。

2代皇帝と平和条約 FILE3

条約締結後のゲーディア皇国では、パウリナ帝の下、軍縮が粛々と行われた。

しかし、当然と言うか、皇国内でもすんなりと条約が結ばれた訳では無い。条約締結の直前まで軍部は反対を続けており、クーデターを警戒して近衛軍が皇居を護衛するなどの緊迫した状況が続いたのだ。

もし、実際にクーデターが起これば、最新式の武器を優先的に配備する近衛軍であっても、戦力差から考えて圧倒的に有利である正規軍を抑える事は不可能だっただろう。

しかも、近衛軍の将校クラスは貴族の子弟で構成されているため、平民出身者である宰相サウル・ロプロッズにあまりいい感情を持っていない者も多く、サウルは表向きは堂々とした態度で事に臨んでいたようだが、裏ではかなり動揺していて、クーデターが起これば真っ先に国を捨てて亡命しようとしていたと言う噂もある。

まぁ、そんな内乱必死の皇国内の現状を憂いたあの人物が動く。皇国民から英雄と称えられたドレイク・ネクロベルガー元帥である。

 

「諸君たちの気持ちは理解できる。国家の安全保障上、軍が縮小するのは国防を弱める事であって軍人として極めて遺憾な事である。しかし、政府の方針に従うのも軍人の務めである。ただ武器を振るう蛮人でなく軍人として勤めてもらいたい」

 

この言葉に、特に彼を慕う若手の将校たちが不満は残ったではあろうが、一定の理解を示し、軍部の条約反対派による内乱は避けられる。その後、ドレイクは混乱の責任を取って退役を女帝に願い出る。この事は彼を敬愛する多くの者から止められ、パウリナ帝からも認められなかった。宮廷からすれば、いま彼に辞められては、せっかく収まった軍部が暴発しかねないと考えての事だろう。

皇帝に止められてはドレイクも退役を取りやめるしかなく、皇国軍最高司令官としての職務に留まった。当時の皇国軍最高司令長官の権限は、宇宙軍と地上軍の軍政と軍令を兼務する全ての軍権を集約した地位であったが、退役を諦めたドレイクは、けじめ(※1)として軍政(軍務省)、軍令(軍令本部)の権限を、それぞれの長に一任する事を決め、自身は有事の際のみの権限とすることとし、最高司令官の役職は、平時の際は単なる名誉職としたのである。

その後、鳴りを潜めた反条約派ではあったが、裏では色々と工作していたようだ。しかし、全く効果は無かった様で、最終的には前皇帝ウルギアの力を借りようとして離宮まで押し掛けた者もいた様だ。

 

「今はパウリナが皇帝であるため彼女の意向に従え、私は隠居した身である」

 

と言ってウルギアもパウリナ帝の意見に従うようにと伝へ、追い返されたと言う。

そんなウルギアも宇宙歴175年に死去し、いよいよ軍縮を止められそうな存在が居なくなり、パウリナ条約は軌道に乗る。

軍縮によって浮いた予算は他の省庁や国民支援に振り分けられ、国民生活の保護と向上に力を入れる女性皇帝は、皇女時代の優しい性格や容姿の良さも相まって、忽ち国民からの絶大な人気を得る事となる。

この頃に、あの飲んだくれ小粒編集長がパウリナ帝に言葉を掛けられて発‥‥‥まぁ、この話は置いといてだ‥‥‥。

軍縮が軌道に乗り皇国軍は縮小されて行った。だが、此処で新たな問題が生じる。連合軍が規定通りの軍縮を行っていないと言う情報が入ったのだ。この情報に軍部、特に条約反対派はだった軍人たちは飛び付き、女帝に条約停止を求め案が上申される。彼らの言い分は。

 

「こちらが条約通りの軍縮を行っているのに、相手がそれを行わないのは道理に反している」

 

連合出身である私でも、至極当然な言い分だと思う。だが、パウリナ帝は違った。

 

「こちらが誠実に条約を守っていれば、連合側もいずれ条約の重要性が、国際平和のためになると分かってくれる」

 

と、あくまでも連合側を信じ、軍部から上がった条約停止案を却下した。

当然軍部は、これに不服を述べたが如何にもならず、軍部内での条約反対派は再び水面下で行動を起こす事になる。

一方の宮廷派、特に宰相サウルは反対派の動きを警戒し、それらの動きを牽制するため独自に直属の組織を編制する。それが「宮廷警察」である。宮廷と銘打たれているが、構成員は全員平民出身者である。貴族の子弟で構成される近衛軍(※2)に全く信頼を置いていないサウルが、自らの信頼する人間を集めて結成した秘密警察である。

宮廷警察は、クーデターを企てそうな恐れがある高級軍人たちを次々と逮捕し、その後釜に自分の息のかかった者たちを据えて、軍部を自らが統制下に置こうとしたり、更にはサウルの政敵である政治家や貴族までもが、ありとあらゆる言い掛かりで逮捕して政治犯として投獄していく。これには軍人、貴族だけではなく、政治家や官僚など本来なら味方でもある者たちまでの反感を買う事になる。これには女帝からも「やり過ぎ」と忠告されていたが、サウルを止める効果は無かった様だ。

この国内の異常事態に、再びあの人物が動く。ドレイクが宮廷、軍部、貴族、民衆院などの間の調停役を買ってで、内乱が起こらない様に奔走したのである。しかし、生粋の軍人であり、政治にそれほど造詣が深かったわけではない彼には荷が重かったのか、宇宙歴177年3月、高齢であった事もあり、突如倒れて緊急入院する。そして翌月の4月5日、多くの国民の願いも空しく皇国の英雄「ドレイク・ネクロベルガー」は、その生涯を終えたのである。享年80歳。

後日、国葬が行われ、多くの国民が英雄の死を悲しんだ。だが、此処でもあの男はしくじる事となる。

「宰相暗殺計画」国葬に向かう途中、これが計画されているという報告を宮廷警察から受けたサウルは、暗殺を恐れて国葬を欠席したのだ。これには国民からの非難の声もあり、宰相は臆病者であるとの陰口を叩かれる事になる。が、これが更にこの男を過激に走らせる。言うまでもなく自分を暗殺しようとした首謀者を、その疑惑だけで逮捕し、中には裁判も無く処刑すると言う暴挙にもでる。これに終わらず、今まで宮廷警察の職務は軍人や貴族に対して行われていたが、遂には国民に向けても行われる事になる。各都市の警察を自らの強権でもって領主貴族の許可(※3)もなしに指導し、女帝への批判を取り締まると言う名目の下、自分を非難した者たちへの逮捕を行う様にもなって行ったのだ。これには流石の宮廷警察内でも賛否が分かれる事となる。

どんどんサウルが悪い方向へと向かって行く中、パウリナ帝も息子のディーノも、如何にか父の暴走を止めようとした。しかし、もはや手遅れの状態にまで陥っていてた。サウルはふたりの話に聞く耳も持たず、逆に今は国内が危険な状態だからと、女帝と息子を半監禁状態にしてしまう。

一方の軍部でも動きが見られた。ドレイクと言う緩衝材が無くなり、サウルの強権的な行いに不満を募らせた彼らは、もはや条約云々とか言うレベルではなくなり、混沌としてしまった皇国の内情を正すために、元凶であるサウルを排除する。そしてその責任をパウリナ帝に被せて退位を迫る(上手く行けばパウリナ条約を廃止に出来る)。と言うシナリオを描き、そのために行動を起こす。

その他に第3勢力として貴族、とりわけ近衛軍が動き出す。彼らの考えは皇国内の混乱はサウルだけの責任であり、パウリナ帝は関係ないと言うものである。彼らは宰相を排除し囚われの身である女帝を救出し、貴族の中から新たな宰相(摂政)を選んで国を安定させると言う考えの下に動き出す。これは一種のロマンティシズムでもある。悪い大臣を倒し、囚われの姫を救出する騎士を自分たちに重ねたのだろう。

そして、この三者三様の三つ巴の対立を、政治家たちは日和見して今後の身の振り方を考える。それぞれの思惑が絡みついて混迷の色が増す中、事態はあの事件へと発展するのだった。「7月事件(事変)」である。 

 次ではその「7月事件」についての話をしようと思う。

 

 

 

※1・ドレイク・ネクロベルガーは、皇国国防軍最高司令官として自分に集中していた権限を、軍政、軍令、それぞれの長に委譲した。これによって新たに上級大将と言う階級が創られ、皇国国防軍軍政省総長並びに皇国国防軍軍令本部総長に就いた者は、その階級に昇進する事となる。それの伴い元帥号はドレイクだけの名誉階級となった。

※2・近衛軍士官は別名「騎士」と呼ばれ、騎士の称号を持つ者だけがなれる一種のエリート職でもある。騎士の称号は、貴族が成人した時に爵位と共に皇帝から下賜されるものである。ただ、例外として特別な功績を上げた平民に下賜される事もあり、彼らは「平民騎士」と呼ばれ、サウルの組織した「宮廷警察」にも上級警官として所属している。

因みに、近衛軍の下士官、兵士は全員平民であり、彼らは「戦士」と称される。

※3・当時の政争に明け暮れていたのは、専ら土地を持たない宮廷貴族、通称「貴族院議員(上院議員)」で、領主(上級)貴族は自分が統治する都市の都政を重視して、国政には関心を持たない者が多かった。だが、宮廷警察が都市警察に介入して来ると、宰相サウルに不満を持つ者が現れる。とは言え、領主貴族は皇帝から都政の行政権を委任されているだけで、皇帝の意向で剥奪されるため、サウルの背後にいるパウリナ帝の存在は無視できず、表だって逆らう者がいなかった。だが、裏では宰相と対立関係にある近衛軍を支援した。後に近衛軍が宰相と手を結ぶようになると、今度は軍部を支援するようになる。