怠惰に創作

細々と小説の様なものを創作しています。設定など思い付いたように変更しますので、ご容赦ください。

シガークラブ

今日の俺は違う。今日こそ俺は新たな一歩を刻むのだ!

俺は強く心に誓いを立て、目の前にある建物の看板へと視線を向ける。

 

「あの、オルパーソンさん? 無理しなくてもいいんじゃ‥‥‥」

 

傍らにいるガイドのハンさんが、困惑した表情で俺を見ている。言いたい事は分かる。俺が無理している事は行動から誰でもわかる事だ。だが、俺は入らなければならない。この国の歴史と共に、現在の実情も知らなけらばならないのだ!

 

あれは10日前の事、俺が第4惑星に来た最初の日の事だ‥‥‥。

 

「あれは何ですか?」

 

ホテルへ向かうタクシーに乗っていた俺はとある店に目がいった。「シガークラブ」と掲げられた看板。シガーと言えば葉巻の事だ。ただ一軒だけなら俺も気には留めなかったかもしれないが、ホテルに着くまでに何軒か目にしたので流石に気に成ったし、宇宙ではタバコは制限されたものだと認識している。それは、密閉された空間(宇宙都市や宇宙コロニー内部)では、有害だと認識されている煙草の煙を出す事が憚られると言う理由からなのだ。勿論、空調に関しては、ある意味死と隣り合わせの宇宙居住施設である為、最新と言うか過剰なほどの安全対策をしているし、空調で常に綺麗な空気を届けていると宇宙都市建設事業団も発表している。とは言え、そういった企業や政府の言葉を信じない者はいるもので、宇宙暦以前の宇宙移民時代には、「宇宙に行ったら煙草が吸えなくなる」と言うデマが広がり、それを信じた愛煙家たちが、宇宙には往かない運動を起こしたと言う話も聞いた事がある。

 

「はい~、あれはシガークラブと言って、看板が謳っている通りに葉巻をはじめ、シガレット(煙草)、アルコール類、麻薬等の嗜好品が楽しめる場所となっています。店によっては食――—」

「チョ、チョット待った! 麻薬!? いま麻薬って言いましたよね?」

 

思わず聞き逃してしまう所だったが、ハッキリと麻薬と聞こえたので俺はハンさんに問いただす。

 

「はい~そうです。皇国では麻薬は合法です。エレメストでは違法なのでしょ? ですから私はオルパ~ソンさんをあの店には案内は出来ません。ガイド規定にも、外国の方を案内する事は禁止してまして~」

 

ハンさんの話では、元々はゲーディア皇国でも麻薬は違法なものだった。初代皇帝ウルギアも、麻薬犯罪者に対しては重い厳罰に処していた。が、宇宙暦190年10月16日、摂政ネクロベルガー総帥が麻薬を合法化する法案を出したのだと言う。11月1日にはそれが施行され、麻薬は酒、煙草類と同じ嗜好品として売られる事になった。只、物がモノだけに、それらは特定の許可された場所と、幾つかの条件付きではあるが、麻薬を嗜好する事が出来るらしい。

ネクロベルガーの考えは、麻薬犯罪を無くすためだと聞く。

どういう事? と思うかもしれないが、麻薬の殆どはかなり安い値段で栽培し精製されている物なのだが、禁止されている事での希少性と、一度使えば強い依存性により高額でも買うと言う者が後を絶たないので、麻薬は超高額で取引されているのだ。そこでこの国では、原価に毛が生えたほどの金額で国が販売しているのだそうだ。要は安く販売すれば、麻薬を扱う組織は利益が無いので皇国から撤退すると言う考えなのだそうだ。

だとしてもいくら何でも‥‥‥とは思うのだが、如何だろうか? この国はそうやって行くと言うならよそ者の俺がとやかく言えないものなのだろうか?

 

「ですが~、もし、行きたいの言うのであれば、案内しますよ~?」

「いや、結構です」

 

一旦は断ったのだが、その後、ジャーナリストとして麻薬が合法になった国が如何なって行くのか、この国に滞在している間だけでも取材しておこうと言う思いに居たり、今日は、その最初の取材としてシガークラブに入る事にした。一様本筋の歴史取材とは違うためバレたら彼奴に文句を言われそうだが、バレなきゃいいだろうと気分転換の意味も込めて取材する事にし、早速その旨をハンさんに話す。

 

「前に案内すると言ったのは冗談だったんですけどね~」

 

ハンさんは、訝しげな表情で呟き考え込む。

 

「良いでしょう~。私の知り合いが経営している店に案内します~」 

 

OKを出してくれたので、翌日、彼の行きつけの店に行くことになった。場所は第14都市「レラジエ」シティにあるシガークラブ「R&J」だ。

そして目的地に到着したのだが、いざとなると足が竦むものだ。イヤ、合法になったのだから、裏世界の怖いオジサンやお兄さんと対峙しなくていいので楽なのだろうが、何だろう、今まで禁止されていた物が解禁になったと思うと、変な怖さがある。過去の取材で依存症になった人々を見て来た事のあるので、やはり不安や怖さから緊張するものだ。

だが、俺はジャーナリストだ。ブランクがあるとは言え、こうもビビりになってしまったかと思うと正直恥ずかしくもある。昔の俺なら気にせずズカズカと入って行っただろうが‥‥‥。

 

「スー‥‥‥ハー‥‥‥」

 

俺は大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、意を決して入店する。

 

「おお!?」

 

そこは雰囲気のあるバーだった。バーカウンターに数席のテーブル席が並ぶ、何処にでもある様なバーともいえるが、カジュアルシックな内装に、其れに合った音楽が流れるとても落ち着けるバーだ。俺は入った瞬間から気に入ってしまった。

 

「凄いオシャレじゃないですか。ハンさん」

「そうでしょう~。私の高等部時代の同級生の店なんですよ~」

 

俺が店をキョロキョロしていると、奥から感じのいい中年男性が出て来る。

 

「ハン、こんな時間に来るなんて珍しいな」

「ロメオ、今日はお客さん連れて来たんだ」

 

お客と聞いて、その男性は見た目の良い雰囲気そのままに、人の好さそうな笑顔を見せつつ接客する。

 

「ようこそお越しいただきました。私、当店の店主を務めています。ロメオ・エフィリタと申します」

「これ如何も、俺はエレメストから来ましたフリージャーナリストのブレイズ・オルパーソンです」

 

挨拶を終えると、店主の表情が急に変わってハンさんを連れて壁際に行って何やら話し込みだす。そして戻って来ると、不安そうな顔で話し始める。

 

「あの~、申し訳ないのですが‥‥‥ここが如何いった場所かご存じで?」

「分かってますよ、外国人お断りなんでしょ。俺は、客としてではなくてジャーナリストとしてきたんですよ。2,3質問に答えてくださればいいんです」

「そうですか‥‥‥分かりました」

 

店主が了解してので、早速、空いているテーブル席に座る。と言っても、今店にいるのは二人組の男性客が居るだけで、店はガランとしている。現在の時間は午後3時過ぎなので、そんな時間から飲んでいる人は少ないだろう。

椅子に腰かけると、俺は早速取材を開始する。

 

「ここでは麻薬を扱うと言う事ですが、3年前まで禁止されていたものを扱う事になって如何いう心境ですか?」

「如何いう心境ですか‥‥‥元々シガークラブは麻薬云々の前にありまして、宇宙移民時代に「宇宙に行ったら煙草が吸えなくなる!」と、愛煙家が騒動を起こしたって話知ってますか?」

「ええ、まぁ聞いた事は」

「それ以前にも、煙草は肺がんになるとか、副流煙が周囲の非喫煙者の健康を害するものとして忌み嫌われてきた時代もありました。なので、こういった密閉された空間である宇宙都市では猶のこと避難の対象になり易いのです」

「そうでしょうね」

「そこで愛煙家の憩いの場として始められたのが、このシガークラブなのです。更に葉巻はアルコールと相性もいいので、酒類も出す店として始まりました」

「ええ‥‥‥」

 

チョット質問と違う事を話し出したなと思っていると、店主もそれを察したのか、本題に入るような口ぶりで俺の質問に答える。

 

「それで御質問ですが‥‥‥正直如何でしょうか、一様、国が許可を出してますし、決められた規定に則って対処しているとしか言いようがないですね。商売ですし、あちらのドアの奥に‥‥‥」

 

店主が手をさした方を見るとドアが見える。店主曰、シガークラブの殆どは入るとまずはバーになっていて、そこからドアを挟んで奥側が喫煙ルームになっている。そこは個室になっていて、客たちはそこで煙草類や麻薬等を楽しんでいるのだと言う。因みにこの店には30の個室があるらしいが、大きな所だと100以上の個室を備えた店もあるらしい。

更に言うと、今はバーには二人組の男性客しかいないが、奥の個室は30部屋中、24部屋が使用中だそうだ。結構いる者である。

 

「酒、煙草と同じ扱いと言うなら当然未成年者は禁止と思いますが、そういった未成年者が入店しないような対策などはありますか?」

「クラブでは、会員登録されたお客様だけが奥に入れるシステムになっています。未成年者はシステム上、このバーにさえ入る事が出来ません。それと、病院との情報交換で常にお客様の健康状態を把握し、危険であればご利用を断ると言う事もあります。それにお売りするのは1回の使用分だけですし、持ち帰りも禁止させております」

「それも規定に沿ったものですか?」

「そうです。いくら合法になったとはいえ、危険な薬物であるには変わりませんから規定は設けられていますし、我々もそれを厳守してお客様に提供しているのです」

「分かりました。では次の質問――—」

「嗚呼アァァァ———!!!」

 

突然、背後から大声を出されて驚いた俺は、振り返って声の主を探す。

と言ってもすぐに視界に入って来る。なんせ俺たち以外でこのバーに居るのは、昼間っから飲んでいる冴えない男二人だけなのだから‥‥‥。

 

「何でだ何でだ何でだ何でだァァァ———!!!」

 

何が何だか分からなが、様子から可なり不幸な事があった事だけは分かる。少し気に成ったので店主に尋ねる。

 

「あのお客さんどうしたんですか?」

「それが次の質問ですか?」

 

店主の予想外の応対に言葉を窮していると、軽く笑った店主は、謝罪しつつ質問に答える。

 

「あちらのお客様はクエス様とヘイド様と申されまして、ほぼ毎日の様にご来店されるのですが‥‥‥」

 

店主によると、この店はお昼頃にランチを提供しているのだと言う。そこに何時もの様に彼らはランチを食べに来ているのだと言う。二人の関係は職場の先輩後輩の間柄らしい。そして、今日は珍しく先輩のクエスが女性を伴って来店し、ランチの後に女性にプロポーズをしたのだそうだ。

 

「プロポーズ!?」

「はい、ですが断られて今はあの状態でして‥‥‥」

 

何とも悲しい話である。俺自身も彼女に愛想付かされて分かれているので、気持ちはわかる。そして俺自身もああやって酒に逃げていた事を思い出して、何故か他人事では無いように思えて来る。

 

「ハイ? 如何されましたか?」

 

店主が行き成り誰かと会話し始めたので、俺はそちらに顔を向ける。如何やら店の人との通話している様で、耳に嵌めたイヤホン型の通信機器を指で抑えつつ話込んでいる。

 

覚醒剤の場所が分からない? 分かりました。今そちらに行きます」

 

会話がアレなので一瞬困惑したが、これが今のこの国の常識なのだろう。と思いつつ苦笑すると、店主が立ち上がって取材を中座しなけらばならない事を詫びる。

 

「すいません、昨日入った新人店員が商品の場所が分からないと言いまして」

「いえいえ、此方の方がお仕事中にも拘らず、急に取材なんか持ちだしてしまって、どうぞ行ってください」

 

店主は今一度俺にお詫びの言葉を口にし、店の奥へと消えて行った。

 

「さて、如何したものか‥‥‥」

 

急に手持ち無沙汰になった俺は何となく店を見渡したが直ぐに冴えない二人組の方に視線がいってしまう事に気付く。先ほどまで騒いでいたクエスは酔い潰れたのかテーブルに突っ伏して動かない。後輩であるヘイドは暇を持て余したのか、端末を操作して何かの動画を見ている。

 

「如何しましょうか~。我々も何か飲みますか~?」

「俺はいいです。ハンさんだけでどうぞ」

「何方へ行かれるんですか?」

 

立ち上がろうとした俺にハンさんは不思議そうに声を掛けるが、俺はニヤリと笑みを見せつつふたりの男のテーブルに向かう。どうも俺は彼らが気に成る様だ。何と説明したらよいか、同じ匂いがするとでも言えばいいのだろうか‥‥‥。

俺が近づくと、後輩のヘイドが気付いて顔を向ける。

 

「え、な、何すか? もしかして、さっき先輩が騒いだ事への文句ですか? でしたらすみませんでした。本人も反省して‥‥‥ませんが言っときますんで‥‥‥僕の言う事聞いてくれたらですけど‥‥‥」

 

困惑した表情で自分が悪い訳でもないのに、酔い潰れて謝罪できない先輩に代わって謝る後輩の姿に、俺は後輩の鑑のような印象を彼に受けた。それだけそこで寝こけている先輩の教育が大きいのだろう。少し同情する。

 

「いや、そうじゃない。俺はブレイズ・オルパーソン、エレメストから来たジャーナリストなんだけど‥‥‥」

「同業者ですか!?」

 

ヘイドの言葉に俺はやっぱりと思った。この二人には、何処か同じ匂いがしたと思ったのだ。

 

「と言っても、半年前に新聞社は辞めたんですけどね」

「辞めた?」

「ハイ、先輩が何ですけど‥‥‥」

 

後輩君曰、今そこで酔い潰れているクエスは、新聞社の政治部に所属しているジャーナリストだった。因みに後輩君はカメラマンだったらしい。只、上との考えの違いから衝突が絶えず、遂に半年前に新聞社を辞めて雑誌社を興したのだそうだ。そしてこのヘイドは、先輩が心配だからと付いて行ったのだと言う。やっぱり後輩の鑑である。今後、彼は更なる苦労を重ねていく事だろう。

 

「えっ!? って事はこの人は雑誌社の‥‥‥」

「うちの社長兼編集長なんですよ。と言いましても小さな雑誌社です。小粒です。豆みたいな小粒、従業員も僕と先輩含めても3人しかいませんし」

「それでもすごいと思いますけどね。俺なんか‥‥‥」

「俺なんかが何ですか?」

「イヤイヤ続けて」 

 

彼らの雑誌社は、この店から歩いて1、2分位のところにある雑居ビルの5階の一室にあるらしい。今はチョットしたオカルト雑誌が売れて何とかなっているそうだが、今後は如何なるかは分からないそうだ。

そして話は今日のクエスの失恋話に移る。実はこの男、昨日も一昨日も女性にプロポーズしているらしい。と言うか三股していて、一人ずつ声を掛けて断られているのだそうだ。前のふたりに関しては、そんなにショックを受けてはいなかったと言う。当然、まだ他にも彼女が居るのだから。だが、最後のひとりである今日の女性に断られた事はかなりショックだったらしく。今に至っている。

3人の女性の断りの言葉は共通していて、「今は旦那と上手く行っていて、他の男性と重複婚する気は無い」と言う事だそうだ。今の生活が幸せなら当然な言葉である。

此処でゲーティア皇国の結婚制度について少し説明する。この国の結婚適齢期は男女共15歳である。前は成人年齢の18歳で、尚且つ高等部を卒業した者となっていたが、貴族の成人が15歳だったので、それに習って15歳に変更したのだそうだ。但し成人になるまでは保護者の同意が必要である。

それと、皇国の結婚制度は非常に自由度が高く、複数の相手との結婚が認められている重複婚制である。一夫多妻制、或いは一妻多夫制であり、集団婚や同性婚などもOKである。同性婚ならエレメストでも認められているが、基本は単婚である。

その自由過ぎる結婚制度のおかげで、当初は可なり混乱する事になったらしい。聞いた話だと、ある男性の母親は、当然ながら男性の父親と結婚しているが、その状態のまま男性の親友(同級生)と母親が結婚し、更にその親友は男性の妹とも結婚したのだと言う。更に男性の父親は母親とは別の女性と結婚したのだが、その女性は男性の妻で、男性は他に3人の女性と結婚し、その女性たちは、其々ほかにも旦那が居るのだと言う。これだけでもこんがらがるのだが、もっと複雑な家族構成をしている者もいて、カオス状態だったらしい。

しかし、そういった混乱があったにも拘らず、皇国政府は制度を改めず傍観を決め込んだ。何とも無責任な話なのだが、国民自身が混乱による弊害を経験した事で、次第に落ち着きを取り戻し始める。主な混乱の原因と言えば、やはり遺産相続だろう。結婚して家族が増えれば、複雑かつ遺産の額は小さくなるのだから当然だ。この事から次第に結婚熱は冷めて行き、今では多くの国民が単婚に戻っている。

やっぱり一人の女性(男性)を愛するのが良いと俺は思う。でも、複数の女性(男性)に囲まれるのも夢があるな‥‥‥ア、イヤ、結婚していない俺にはよくわからんので、それは置いといてだな、まぁ、何だ、アレだ。

それから更に話は進み、クエスの最初のプロポーズ話になる。何故この後輩はそんなことまで知っているのだろうか? 不思議である。

エスは今日の彼女を含め8人の女性にプロポーズして断られている。その最初の女性は何と彼らの雑誌社で働いているのだと言う。彼女はクエスの幼馴染で、可なり仲が良かったらしい。そのためいけるだろうと踏んでいたが、「あたしレズだから無理!」と断られてらしい。当初は断るための口実だと思ったのだが、半年前の雑誌社発足当時にもう一人女性従業員がいたのだが、彼女の執拗なセクハラと愛情表現に、逃げる様に辞めてしまった事を鑑みると、彼女はレズビアンで間違いないらしい。

 

「じゃあ、今は3人で雑誌社をやってるとか?」

「そうです。小粒ですから、まぁ、社員が少ない分、給料の滞納が無いのが救いですけど、仕事は色々とやらないといけないのが玉に瑕ですね」

「小粒だから?」

「小粒だからです」

「小粒だからか……」

「小粒ですから……」

「小粒か……」

「小粒……」

「こつ———」

「オメーらさっきから小粒小粒って五月蠅いんだよー!!」

 

突っ伏していたクエスが、小粒の連呼に耐えきれなかったのか、怒鳴り声を上げながら起き上がる。

 

「うわぁ! 起きた!」

 

後輩は慌てて立ち上がると俺の後ろに隠れる。迷惑な話であるが、俺は気にせず起きた小粒雑誌社の編集長に自己紹介をする。

 

「ブレイズ・オルパーソン? どっかで聞いた名だぞ」

 

一様、政治家や企業の不正を暴こうと色々やって来ていたが、まさかこんな他惑星の人にも知られているとは正直驚いたし、うれしくもあった。

 

「思い出したぞ。お前あれか、ぽっと出のカメラマンがジャーナリスト気取で政治家たちの悪行暴くとか言って、結局、法を犯したとかでクビになった奴か!」

「(#^ω^)ピキピキ」

「せ、先輩! そんな本人の前でハッキリ言わなくても‥‥‥」

 

俺の後ろに隠れた後輩はそう言いながら離れだすのを感じつつ、俺は売り言葉に買い言葉を言う事になる。

 

「三股かけた彼女全員にフラれたモテない編集長様、そのオルパーソンがインタビューしたいのですが宜しいでしょうか?」

「(#^ω^)ピキピキ」

「も、もう知らないデス」

 

俺と編集長との一触即発的な空気に恐れをなした後輩は、早々にカウンター席へと非難し、俺は彼と差しでインタビューする事になる。最初は静かに互いの神経を逆撫でする様な言葉を言い合ったものの、会って間もない両者は直ぐにネタが尽き、次いでジャーナリスト時代の自慢話になり、更に自分の不幸話合戦になって、1時間もしないうちに意気投合してしまった。

編集長こと「ディック・クエス」は、先ほども言ったように小粒な雑誌社の編集長である。チョットしたオカルト本が売れて何とかやっていけているらしいが、彼自身はそう言ったものには興味無いらしく、幼馴染のレズビアン事務員の趣味らしい。彼がやりたいのは政治や経済らしく、いつかそういった雑誌が出せればと思っている。が、今は潰れない事が重要らしい。まぁ、当然か。

 

「先輩方お話はお済ですか?」

 

穏便になったからか、逃げていた後輩こと「リコ・ヘイド」が戻って来た。

 

「ブレイズ先輩は何しに皇国へ?」

 

いつの間にか先輩になってしまったが、まぁ気にせず皇国に来た経緯を二人に話す。

 

「なるほどこの国の歴史調査ねぇ……」

「歴史ってほど長くないですよ」

「まぁ、そうなんだがとりあえずな」

「何処まで進んでんだ?」

「今から2代目の———」

「パウリナ様か!」

 

突然、クエスが興奮したようにテーブルに手を付いて立ち上がり、迫る様に俺に顔を近づける。

ち、近い……。

 

「おお、そうだけど……」

「何でも聞け俺がすべて話してやる!」

 

立ち上がって何やらぶつくさ言っているクエスに、俺は頭が逝ってしまったのかと思いつつ、一体如何したのかヘイドに聞く。

 

「ああ、先輩、パウリナ様のファンなんです」

「ファ、ファン?」

「子供の頃にパウリナ様に直接会って言葉を頂いて、それ以来、ああ何だそうです」

 

リコの口調から、クエスの幼馴染と言う女性事務員から聞いたのだろうと推測し、それは都合がいいと思った。色々と彼女の事が聞けるし、もしかしたらあまり知られてないエピソードが聞けるかもしれない。自分の興味本位の取材が、幸運にも良い出会いを生んだ事に俺は感謝するのだった……。