怠惰に創作

細々と小説の様なものを創作しています。設定など思い付いたように変更しますので、ご容赦ください。

新居と就職活動

俺は就職活動の一環として仕事をボイコットしていたディック・クエスに代わり、先輩にあたる筈なのに、なぜか後輩になったリコ・ヘイドと共に皇国で生活するための拠点となるアパート「M-078」号に来ている。

そこには事故物件扱いされている部屋があり、オカルト雑誌て食いつないでいるクエスの雑誌社は、その部屋がなぜ事故物件となったかを取材し、心霊現象の是非を問うと言うのが目的だ。しかし、残念ながらオカルトの類は無いだろう。なんせ今日からそこに俺が住むわけだし、役所の役人がハウスキーパーの不具合で事故物件扱いになっていると明言していたからだ。可哀そうな後輩君は無駄足を踏む事になる。

 

「如何したんすか先輩? まさかお化けが怖いんですか?」

「は? んなわけねーだろ!」

 

俺がお化けが怖いと思ってニヤニヤしているリコを無視して、俺はアパートの玄関へと進む。

ま、ニヤけてられるのも今の内だ。

俺の目の前には長方形の箱型のアパ一トがある。役所の話だと、地下3階の居住区のアパートは30階建てで、ひとつの階に20ほどの部屋がある。一棟600部屋ある計算だ。外観はどれもこれも同じで代わり映えせず、それが規則正しく並んでいる物だから自分の住んでいるアパートが何処なのか迷ってしまいそうな心配がある。一応、アパートの側面にでかでかとアルファベットと三桁の数字で番号が表記されているので迷う事は無いのかもしれないが‥‥‥。

まぁ、もし迷子になっても携帯端末の道案内機能があるから問題は無いか。警察犬もいるし。

都市の地下2、3階居住区は、所謂団地構造になっている。都市の中心部である巨大支柱のある中心部(支柱区画)を起点に、北部、東部、南部、西部という4つの「部」と言われる大きな区画に分かれていて、さらにその部がA~Zの「区」と呼ばれる小さな区画に区分けされている。その一区内には100棟のアパート群が立ち並び、他にもそこの住人が生活する上でのインフラが整備がされている。区は支柱に近い所からA区、B区、C区、D区‥‥‥の順番に区分けされていて、当然ながら繁華街でもある中心部に近いA区は家賃が高く、最も遠いZ区は家賃が安い。

因みに、俺の住むアパートはM区にあるので丁度真ん中辺りだ。可もなく不可もなくと言った処だろう。

俺は取材の事もあってきょろきょろと辺りを見回すリコを引き連れ、アパートの玄関から中に入る。ガラス張りのアパート玄関の自動ドアを抜けると、奥にもう一つのガラス張りのドアがあり、そこも抜けて行く。しかし、これがリコには不思議だった様で驚いた表情で俺の後に付いて来る。

 

「ど、如何いう事っすか?」

「何が?」

「何がって、始めてなのに中に入れることがっすよ!」

 

まぁ、リコの反応も頷ける。皇国の居住施設は各部屋にハウスキーパーが付いているのだが、当然ながらアパート全体を管理するハウスキーパーも存在する。これが入って来る人物がこのアパートの住人かそうでないかを瞬時に判断し、住人だったら先程の様に難無くドアが開くのだが、そうでない場合はドアは開かず、その人物がどの部屋の誰に会いに来たのか用件をハウスキーパーが確認する。そして確認が済むと住人の部屋に連絡が行くのである。もしその住人が留守だった場合は用件を聞いて住人が帰ってきた時に伝える。と言う具合になっていて、部外者はアパートの住人から許可を貰わなければ建物内部に入る事すら出来ないのである。

まぁ、普通なら用件があれば電話やメールで済ませてから来ると思うがな。取りあえず的な感じでついている機能かも知れないが、俺としてはサプライズ登場が出来ないのが残念である。

あと、当然ながら住人から拒否られる者も居る。例えば別れた彼氏(彼女)が合いに来たとか? そう言った住人が会いたくない人が来た時は断る旨をハウスキーパーに伝えれば、その言葉を伝えてくれる。その時、面と向かっては言えない様な言葉でも、そのまま伝えてしまうので、キレて暴れだす者も居るのだそうだ。

AIならもっとやんわりとした言葉に変換する機能があって然るべきだと思うのだが、そこらへんは機械故の頑固さと言う事なのだろうか‥‥‥。

まぁ、そうなったらハウスキーパーの判断で警察に連絡が入り、警官が来るまでドアを開けずに閉じ込めてしまう乱暴な機能も付いている。無論ドアはガラス製なので割って逃走する者も居るだろうが、そうなったら修理業者に連絡が入り、修理費は割った本人に請求される。なんせ顔認証などの機能があるのだから人物特定はお手の物だ。何処の誰なのか、職業や住所などが調べられて一発で身元が割れてしまう。それに人権剥奪法の施行でこの国はそこら中に防犯カメラがある。例え顔を隠していてもカメラで1秒も漏らさず撮られ続けるので逃げようがない。無論請求を拒否することは出来る。だがそうなると、その人物は器物破損で逮捕され、修理費の他に犯罪迷惑料1万ルヴァーが課せられる。それで、その迷惑料はアパート管理人の懐に舞い込む事になるのだ。だからアパートの管理人はキレやすい不審者ウエルカムだ。なんせ修理代は不審者持ちだし、さらに金も入って来る場合もあるから良いこと尽くめだ。

 

「オルパーソンさんですね、お待ちしておりました。このアパートの管理人のリン・カーニンと申します。気軽にリンと呼んで下さい」

 

俺が不思議そうな顔をしているリコとアパート内に入った処で、目の前にある管理人室のドアが開いて管理人が出迎えに来る。

 

「ああどうも、今日からご厄介になるブレイズ・オルパーソンです」

「ええああ!? えーとー‥‥‥。つ、付き添いのリ、リコ・ヘイドです!」

 

20代前半と言った処だろうか、若い女性管理人が俺たちを迎えてくれた。彼女は部屋着なのか白のタンクトップにジーンズと言ったラフな格好で、黒髪の白人女性で美人である。隣にいるリコが顔を赤くして緊張しているのが見て取れ、俺はヤレヤレと思いながらも自分の部屋、あの事故部屋へ案内してもらう。

 

「その前に登録が先です」

「ああ、そうでしたね。エレメストではハウスキーパーの無いアパートに住んでいたもので‥‥‥」

「そうなんですか、此方にはエレメストやアマルからの移住者も多く住んでるので住人の方たちと早く打ち解けると思いますよ」

「だといいんですけどね」

 

俺は管理人のリンと何気ない世間話をしつつ、管理室内にある登録パネルを操作する。すると、その様子を羨ましそうに見ているリコの存在に気付く。彼奴は俺とリンの会話に入りたいようだが、何を話したらいいのか分からずにオドオドしている。

可愛い奴だと思うよ。ホント。

部屋の登録とは生体認証キーの登録で、その部屋の登録者の顔や指紋、声紋、静脈、虹彩、耳介‥などを登録し、それらをドアの認証装置で各部屋を担当するハウスキーパーが読み取り、OKならドアの鍵が開くシステムだ。因みに登録もしてないのに俺がアパートに入れたのは、役所が俺の書類上のデータをアパート側に送信しているためで、一応このアパートの住人として登録されていたためで、部屋の生体認証キーの登録はアパートで直接行う事になっている。

登録も終わり、俺たちはリンに連れられて目的に部屋に向かう。

 

「それにしてもこんな若い管理人さんだったなんて知らなかったよ」

「そ、そ、それ」

「あゝいえいえ、父と母が今手が離せないんで、私が代わりと言うだけです」

「そ、そ、そう」

「そうだったんですか、それにしても美人な管理人さんに案内されて幸せです」

「ぼ、ぼ、ぼく」

「そんな美人だなんて、私より美人な子は一杯いますよ」

「そ、そ、そん」

 

ひとり出産でも手伝っている奴が居るが、それを無視して俺はリンと会話しつつ目的の部屋に向かう。

部屋へ行くまでの間の会話でリンの事が少しわかった。彼女は現在大学3年生で、両親と3人でこのアパート「M-078」を管理している。ふたつ上の兄が居るが、アパート管理の仕事を嫌って現在は他のシティで就職し、そこでひとり暮らしをしているそうだ。彼女の両親にはここで暮らしていれば近々会う事もあるだろう。

 

「チョット先輩、知ってるんだったらなんで言ってくれなかったんすか!」

 

俺がリンと楽しそうに会話しているのを邪魔するかの様に、リコが小声で取材先の事故部屋が、今日から俺が住む事になる部屋だと言わなかった事に少々不満気味に尋ねる。その不満にはリンと親しげに話した俺への嫉妬も含まれていると邪推する。

 

「事故物件と聞いて何となくそうじゃないかと思ったんだけどよ。確信が無くてな」

「ここらで事故物件なんてここにしかないですよ。確信なんて要らないっス」

「あゝそうか悪かったな、でも良かったじゃねぇか、あの美人の管理人にガチガチに緊張して取材交渉しないで済んで」

「べ、べべべべべべ別に僕はそんな緊張なんてしてないっス!」

「こちらです」

「ハ、ハイ!」

 

部屋の前に到着してリンが俺たちに声を掛けると、リコは大きく上擦った声で返事をする。俺はそれが可笑しくてニヤニヤしながら見ていると、それに気づいたリコが恥ずかしさからか顔を真っ赤にして俯く。

青春て奴だ~ねぇ~。

 

「如何しました?」

「イヤイヤ何でもないです」

 

俺が「313」のプレートが付いたドアの前に立つと、先程登録した生体認証キーが作動して部屋の鍵が解除されドアが僅かに開く。俺はこの曰く付きの部屋に「いざ!」と心の中で気合を入れつつ僅かに空いたドアを手で押して中に入る。俺が中に入ると人を感知して部屋の明かりが点き、一切の家具も無いだだっ広い部屋が照らし出される。

一応、俺が今まで宿泊していた「バルア・シティ」のホテルにある荷物を新居に持って来る様にホテル側に頼んだが、まだ来ていないようだ。まぁ、俺もさっき生体認証キーの登録をしたばっかだから当然か。それに取材でこの国に来た時の荷物だけだから大したものはないしな。

さて、エレメストのアパートの家具は如何しようか? 一応、業者に頼んで持って来てもらう事も考えたが、いま考えてみるとそちらを処分してこっちで新たに買った方がいいとも思っている。ただそうなると先行くモノが心配である。俺に残された資金(取材費の残り)は僅かだ。‥‥‥やっぱり業者に頼んで‥‥‥いや、半ゴミ屋敷状態になっていたあそこの物を持って来てもらっても‥‥‥。難しい問題だ。もう少し落ち着いてから考えよう。

 

『お帰りなさいませア・ナ・タ💖』

 

行き成り艶っぽい声がして俺はギョッとした。

 

「先輩、もう女の人囲ってるっスか!?」

「んなわけねーだろ! ってか、ここにはさっきまで鍵かかってたんだ、入れる訳ねぇだろ!」

「じゃあなんっすか、今の色っぽい声は?」

「知らねーよ!」

「あの~、これがこの部屋が事故物件扱いされてる所以です」

「「はぁ!?」」

 

リンの説明だと、このハウスキーパーは出来た頃からこの調子だったそうだ。やたらと誤解を生む様な発言を勝手に乱発し、最初は面白がって住む者も、最終的にはノイローゼ気味になってここを去るのだという。

例えば、ある一人暮らしに男性には、夜な夜なあの艶っぽい声で喘ぎ声を聞かされ続けられた結果、それによって性的欲求を爆発させた男は、近くを通りかかった女性を襲って逮捕されてしまったとか。

ある30代前後の夫婦が住んだ時は、旦那には浮気を誘発させる様な事を言う一方で、奥さんには自分磨きを進めた結果、旦那は浮気相手の女性に入れ込んで高価なプレゼントし、奥さんの方はエステ通いやホストに入れ込む様になり、両者共借金まみれで離婚してしまったとか。

ある一人暮らしの女性に対しては、部屋に連れ込んだ彼氏を誘惑して仲を裂いたとか。そう言った話がボロボロとリンの口から語られる。

イヤイヤ欠陥品処の話じゃないですやん!

役所で最初の管理人が面白がって直さなかったと聞いているが、俺は今の管理人は直さないのかと疑問に思い聞いてみると、業者に頼んで直すと可成りのコストが掛かると言う事で、ケチな父親はそれを渋って住居者には自分で修理するか、出て行ってくれと言っているそうなのだ。

その問題の修理費だが、都市の地下1階に住む様な裕福な者なら兎も角、地下3階に暮らす様な者が払える金額では無く、未だに修理されていないのだそうだ。

 

「一体いくらかかるんですか?」

『1億ルヴァーよダーリン💖』

「オメーに聞いてねーんだよ!」

 

チャチャを入れて来るハウスキーパーを怒鳴りつけると、リンが苦笑しつつ答える。

 

「確か4万5千ルヴァーだったと思います」

「うわ~凄いっすね、ここいらに住む人たちの平均年収の倍じゃないっすか」

「業者に設定のやり直しを依頼しないんですか? 建てた時からの不具合なら無料で直してくれるんじゃ‥‥‥」

「建てた当初ならそれも出来たと思いますが、今更と言った感じでしょうか」

「そう言うもんですか‥‥‥」

 

俺は目眩がした。家賃が安いと聞いて二つ返事で住む事を決めた。なんせ俺は今までハウスキーパーが付いた家に住んだ事が無い。だからそれに頼らなくても生きていけると思って簡単に考えていた。如何も予想とは大きく違う不具合の様だ。

まさかこんなモノと一緒に暮らす羽目になるとは‥‥‥。しかも、修理には給料2年分もかかると来たもんだ。とは言え、今から止めますとも言えないので取りあえず俺の忍耐が続く限りは住んでみる事にした。

 

「いろいろご不便でしょうが頑張ってください。私たちも出来るだけお力になります」

 

不便この上ないうえに頑張らないと住めないのかと思いつつ、リンには「大丈夫と」作り笑いをして別れた。あとはリコとふたりでこれからの事を話すことにした。変な意味ではないぞ、この事故部屋の取材についてだ。

 

「って言うか、先輩の部屋って事っスよね。取材なんて出来ないですよ」

『取材なんて初めて~。もっと早く言ってよ~すっぴんなのに~』

「黙れ!」

『イヤぁん、そんなに怒らないで~』

「先輩、僕は帰ってことの顛末を編集長に報告するっす。それではお幸せに」

「おい! 俺も行くよ」

「ええ~どうしてっすか~」

「取材に協力したら俺を採用するって条件だっただろ!」

「あーそう言えばそんな事言ってましたね」

『ええ~、もう逝っちゃうの? 早くな~い、私はまだ逝ってないのに~』

「こいつをどうやって壊して寄ろうか」

『キャー強姦よー! 助けて~』

((# ゚Д゚)殺意)

「まぁまぁ先輩落ち着いて、こんな調子じゃ1日も持たないっすよ。一緒に雑誌社に帰りましょう」

 

ハウスキーパーに殺意を向ける俺をリコが宥め賺して部屋を出る。

確かにリコの言う通りだ。こんな調子じゃ1日も持たん。なので、後輩君の言う事を聞いてと言うか、俺もこんな部屋に居たくないのでクエスが待つ雑誌社に行く事にした。

 

「クソ、どんな不具合かと思ったら、とんでもねぇあばずれAIじゃねぇか!」

「あ、あばずれAIって何すかそれ‥‥‥」

「ク、クソ!(ただでさえ彼女と別れて欲求不満気味なのに、あんなの聞かされたら本当に強姦しちまいそうだ)」

「先輩、今なんか良からぬこと考えません出した?」

 

俺は思わずドキッとしてリコを見る。

 

「何も考えてねぇよ! さっさと行くぞ!」

 

俺は疑いの眼差しを向けるリコの背後に回り込み、此奴の背中を押しながらアパートを後にする。

 

 

俺はリコと共にディック・クエスが編集長をしている雑誌社に行く。雑誌社は俺のアパートと同じM区内にあり、車で10分もかからない雑居ビルの中にあった。

 

「ここか? ‥‥‥それに目と鼻の先には‥‥‥」

「そおっす、先輩と初めて会ったR&Jがあるっす」

 

雑誌社のある雑居ビルから道路を挟んだ向かい側の並びに、シガークラブ「R&J」の看板が掲げられた店が見える。徒歩1、2分という所だろうか。

何だよこんなに近くにあったのかよ。

一通り周囲を見てから俺は雑居ビルの中に入る。彼奴の雑誌社は5階にあり、エレベーターを降りて左手側に廊下が延びていて、そこには3つフロアがあり、その一番奥が雑誌社の事務所である。と言うか、リコの話だと5階のフロア全てが雑誌社らしい。奥から二番目が資料室、そして一番手前がクエスの部屋らしい。

 

「何だ彼奴ここに住んでるのか?」

「そうっス。でも水回りが無いから寝泊まりするだけっす」

「もしかして一回もシャワー浴びてないとか‥‥‥」

「大丈夫っすよ。近くにサウナやランドリーがあるからそこを利用してるっス」

「そりゃよかった不潔な奴では無いんだな」

「そりゃ~11人の女性にプロポーズするには清潔感が無いといけないっす!」

 

確かにその通りだと納得しつつ、俺は後輩君の後に付いて廊下を進んで一番奥の事務所の中に入る‥‥‥前に、俺はクエスの奴が如何いった生活をしているのか確かめ様と、彼奴が寝泊まりしている部屋のドアのガラス部分から部屋の中を覗こうとしたが、カーテンが掛かっていて見れなかった。

チクショウ!

 

「何してっすか? こっちっす! 中を除いても何もないっすよ」

「分かった分かった」

 

俺は五月蠅い後輩君の声に中を除くのを諦めて、リコに続いて事務所の中に入る。

事務所のドアはガラス張りだが、外から中が見えない様に衝立がしてあり、その衝立を超えると従業員の仕事場となる。一番奥に机があり、多分其処が編集長の席だろう。誰も座って無いのでまだクエスはまだ帰って来ていない様だ。左手側には3つの机が並んでおり、やはり誰も座っていないが、大方3つのうちのどれかが後輩君のだろうと予想は付く。そして右手側には入り口側に長いソファー、反対側には一人用のソファー椅子がふたつテーブルを挟むように配置されていて、多分来客用の応接空間と言った処であろう。さらにその奥には入り口側を向いた机がひとつあり、そこにひとりの女性が座って空間に浮かび上がっているディスプレイと睨めっこしている。

 

「セイヴァさん、只今戻りましたー」

 

後輩君から「セイヴァ」と呼ばれた女性は、空間に浮かんだディスプレイを手で抑える様にして消すと、此方に無表情な顔を向ける。

眼鏡型の端末を掛け、栗色の髪を頭の上でお団子状にした髪形で、仕事ができる女性感が半端ない人だ。ただ此方を見てからずーっと見つめ続けて来ている。そのお陰で俺もリコもその目力に圧倒され、何もしていないはずなのに何か悪い事でもしてしまったような感覚に陥る。蛇に睨まれた蛙の気分とはこう言う事を言うのだろう。

すると、急に彼女は立ち上がってコツコツとヒールの音を響かせながら此方に近付いて来た。

何か知らんが怒られる~💦

 

「お帰りなさいヘイド君、ずいぶんと早い帰りね。事故物件の調査取材はもう終わったの? それにこちらの方は? それと編集長は何方かしら?」

「え、あー‥‥‥その~」

 

セイヴァの質問攻めに「あー」とか「うー」しか言えなくなっている後輩君に、助け舟を出してやろうと俺はふたりに会話に割って入る。

 

「俺はブレイズ・オルパーソン。今日から厄介になる者だよ」

「今日から‥‥‥? 内に就職するって事でよろしいのですか?」

「そうです」

「編集長から聞いてないのですが‥‥‥」

「そりゃまぁ、今日R&Jでクエスに話付けたばかりですから」

「ホントですか?」

 

俺の言葉が本当なのかセイヴァ女史はリコの方に顔を向けて問いただす。

 

「本当っス」

「そ、俺が取材に行きたくないと駄々こねた彼奴に代わって———」

「あゝ! それを言っちゃ駄目っす!」

「え?」

 

慌てて俺の口を塞ごうとしてきた後輩君に驚いていると、無表情で不愛想な顔のセイヴァの表情が変わってはいないのだが、何故か怒りの色を帯びたことが分かり、ゾクッと背筋に冷たいものが走る。

あ、あれ? 俺なんか変な事言いましたか? セイヴァさん?

 

「そうですか編集長が貴方に取材の代わりを‥‥‥へぇ~」

 

表情は相変わらずの無表情のままだが、何故か不気味な笑みを浮かべているように感じて、又しても背筋に冷たいものを感じる。

表情は変わって無いんだ本当に! それが怖いんだけどね!

 

「もう駄目っす終わったっす。先輩のせいっス!」

「何で俺のせいなんだよ!」

 

後輩君の理不尽な言葉にイラっとしたが、確かこのセイヴァと言う女性には只ならぬオーラを感じ、この後クエスが戻ったら修羅場になると覚悟を決める俺だった‥‥‥。

すまんなクエス。俺の口が軽いせいで‥‥‥(笑)