怠惰に創作

細々と小説の様なものを創作しています。設定など思い付いたように変更しますので、ご容赦ください。

2代皇帝と平和条約 FILE2

「パウリナ条約」とは、宇宙暦173年に第3惑星エレメスト統一連合と、第4惑星ゲーディア皇国との間に結ばれた軍縮案を基本とした平和条約である。

宇宙暦156年1月15日、月(アフラ)解放戦線の降伏によって4年戦争が終結し、翌16日に連合と新アフラ政権(キッポス党)との間で終戦協定が結ばれた。それと同日に連合は皇国とも協定が結ばれる。戦争末期に密約により、連合の同盟国として参戦した皇国は、この協定により、両国の利益を守り政治的干渉をしないと言う条約を結んだのである。

連合としては本来、宇宙移民の独立など認めない方針であったが、戦争の長期化によって疲弊した状況で、皇国の協力を得なければ戦争に勝てないと判断した連合は、独立自治を認める事を条件に、秘密裏に皇国と同盟を結んだのである。

ただ、これには別の意見もある。戦争は連合単独でも勝利できるが、戦後に余力を残すために敢えて協力を仰いだとする意見だ。これは、もし単独での戦争勝利に固執して勝利したとしても、消耗は激しいものであり、そこに付け込まれて皇国が攻めてくるような事にでもなれば、連合に果たしてそれらに耐えられる余力はあったのだろうか? そう考えると、皇国との協調路線で行く方が、連合にとっても、今後の為になると踏んだのではないだろうか‥‥‥。

勿論、月の独立を阻止する戦争の筈が、別の独立国家の成立を許す結果となってしまた事に、連合は歯痒い思いだっただろう。皇国に対する感情は決していいものではない。しかし、そういった内の感情を抑えて、新たな世界の構築と言う命題の元、連合は表面上は皇国と良好な関係を築いていた。

一方の皇国は、連合が自国の成立を快く思っていない事は百も承知である。そこで彼らがとった行動は、連合の国家戦略を狂わせるものだった。

連合への資金や資源の援助する一方、戦時特需と豊富な地下資源の輸出による利益も相まって、好景気での国家運営を始める事が出来た皇国は、その豊富な資金力で連合経済へジワジワと侵食を始めつつ、自国では大規模な軍備強化に力を入れ始めたのである。

これから経済を回復のために軍縮を進めていた連合にとって、皇国の軍備拡張は安全保障上での最大の問題であり、ここに至って連合は軍事の維持と経済の回復と言うに両面での政策を余儀なくされ、これが戦後復興に大きな障害となるのである。

軍事費の削減で得られると思っていた経済への予算が下りず、経済回復が中途半端になり、その結果、一向に復興しない状況に多くの国民が不満を持ち、それにより連合からの分離独立を声高に叫ぶ者が現れ、彼ら分離主義者が旧国家の再建を目指す事態を招いてしまい、その収集のため軍が派遣され、それによって軍に予算が回り、復興の予算が削られ更なる不満を呼び‥‥‥と、戦後の連合は経済的に不況が続く事となる。

すると、それに付け込んで皇国への憎悪を掻き立てることで、国民の結束をうながし、嘗ての4年戦争前夜に近い状況の持って行こうとする者もいて、両国に暗雲が立ち込める事となったのである。

4年戦争の二の舞になる事だけは避けたいと思ったパウリナ帝は、それを回避するための秘策として「パウリナ条約」を発案し、外交局を通じて連合外務省に打診したのである。この条約に則り両国が軍縮を進めることで、連合は軍縮で浮いた予算を戦後復興に回す事が出き、皇国としても国民に戦争は起らないという安心感を与え、第3惑星圏と第4惑星圏の双方に、恒久的な平和が訪れた事を知らしめる条約となると期待されたのである。

だが、当然と言っていいのか連合の軍部にとっては、受け入れられるものでは無かった様だ。条約が締結された時期は戦後から約20年近く経っており、遅いとはいえ復興も進んでいたので、彼らにしてみれば「復興は順調に進んでいる、軍事費を削減する様な条約は不要だ!」と言うのが本音かもしれない。しかし、大勢的には条約締結へと傾いた連合は、軍部の反対を押しのけて条約を結んだのである。

かくして「パウリナ条約」は締結されたのだが、この事で、連合軍内部の宇宙軍省と地上軍省の両省の激しい論争を生む事となる。軍縮に反対であった両省は、出来るだけ予算削減を抑えようと必死に「カットするならうちではなくあっちを!」と言うニュアンスで論争になったのである。

地上軍省の言い分は、「現在、地上では分離主義2大勢力によって、テロやゲリラ戦が起こっており、これらをほっておくの事は出来ない」と主張する。

分離主義2大勢力とは、ひとつは中央大陸の中心から西側にかけて広がる砂漠地帯に居住する砂の民と言われる民族で、彼らは連合が結成される前の統一戦争時にも最後まで抵抗したのである。独自の宗教を持ち、神権を重視する彼らは、神に与えられた土地を守るため戦っており、連合としても、その土地の支配権は彼らに任せてやんわりと間接統治する事で何とか彼らを取り込む事が出来たのだ。

そんな彼らとの関係が崩れたのが、4年戦争後の復興支援問題である。一向に支援され無い事に不満を持った彼らは、「彼ら(連合)は、自分たちだけ復興して我らを見捨てた。ここに至って自分たちで復興する。我らには神の加護がある」と宣言して独立したのだ。連合はそれを抑えるため軍を派遣、内乱となっている。戦闘は泥沼化し、宇宙暦193年現在も続いている。

もうひとつは中央大陸の南東部の密林地帯である。五つの旧国家が同時に国家再建を宣言して同盟を結び、「南部連盟」と称して連合から独立したのである。当然、連合は鎮圧のために軍を派遣し、約1年の激しい戦闘の末、南部連盟を崩壊させた。が、指導者層や敗残兵力は密林に逃げ込みゲリラ戦を展開、それに手を焼いた連合は「密林に逃げた猿に人間が本気になる事は無い、南部連盟は崩壊し、秩序は戻った」と負け惜しみ的(☚悪意あり)な勝利宣言で戦争を強制的に終結させた。

だが、その後も彼らは密林から周辺都市にテロを仕掛け、その度に部隊が派遣されるものの、密林でのゲリラ戦で何の成果もあげる事無く撤退している。勿論、派遣された部隊は一定の成果があったと報告しているが、ほとぼりが冷めればテロが頻発し、部隊が派遣されて‥‥‥の繰り返しである。

この戦いも、残念ながら今でも続いている。南部連盟時代の指導者や指揮官たちは捕らえられたり戦死したり、或いは病死により今は殆ど残ってはいないだろうが、彼らの遺志を継いだ者がテロを継続しているのだ。連合側も今では直接部隊を送ってはおらず、もっぱら連合政府の依頼を受けた民間軍事会社や傭兵たちが当たっている。

とまぁ、これらの他にも小さな内乱やテロ事件は頻発しているが、上記の2件以外は大体鎮圧されている。が、そういった事から、地上軍省は予算削減を免除しろと言っているのだ。

一方の宇宙軍省にも言い分がある。「此方も2つの問題がある。ひとつはアフラ解放戦線の残党の問題である。きゃつ等は月面都市や宇宙コロニーに対するテロ行為、軍民問わずの海賊行為など枚挙にいとまがない! それにゲーディア皇国の軍事力は脅威であり、今なお軍拡しているのだ。その影響を真面に喰らうのは宇宙軍だ!」と主張し、予算削減の免除要求をしたのである。

だが、皇国自身が軍縮を主とする条約の締結を求めて来たので、「皇国の脅威は無くなった」と地上軍省に痛い所を突かれると、宇宙軍省は「そんなものカモフラージュに決まってる!」と言い返して、話は平行線をたどる事となるが、一週間にも及ぶ会議の結果、地上軍省は30%、宇宙軍省は42%の予算削減で話はまとまる。ただ、宇宙軍省の方がカットされた比率が多いため、彼らの不満の中で会議は閉会され、宇宙軍省と地上軍省の対立関係が深まったともいえる。

戦争が終わり平和な時代を迎えた以上、軍事力は単なる金の無駄遣いでしかなく、縮小されるのは必然だと思う。連合としても、戦時中は国費の大半を軍事に回していたので戦後すぐに軍事費を削減し、復興支援費に回したかったのだろうが、戦後1年も経たない内に皇国の軍備拡張が報告されると、ある程度の軍備は必要と十分な削減がされなかった。その気持ちは分かるものの、今現在の連合と皇国の軍事力を見てみても、大差で連合が有利であり、復興費をケチってまで予算を回す意味もないと思っている。

そんな時に提示された「パウリナ条約」は、戦後の混乱収まらない連合にとっては希望の光になったと私は思うのである。

次は、パウリナ条約締結後のゲーディア皇国の動向を話そうと思う。