怠惰に創作

細々と小説の様なものを創作しています。設定など思い付いたように変更しますので、ご容赦ください。

2代目皇帝と7月事件(事変) FILE3

休憩が終わり、ストー准将との話を再開する。

———では、続きをお願いします。何故候補にも挙がっていなかったサロス・ソロモスが3代目の皇帝になったのかを。確か翌日に会議が再開されて、そこで決まったみたいですね。

その会議に入る前に、その日の晩、あの会議の日の晩ですが‥‥‥。私は第1旅団長のガディ・ブァリー准将と共にロイナント閣下の屋敷に行く事になりましてな。

———目的は? 第1旅団と言えば、クーデターで首都攻略の実行部隊ですよね。ストー氏が一緒だった理由もお願いします。

我々が訪れたのは首都攻略作戦のためだと言っておこう。君も知ってる通り本作戦で首都攻略を直接行う主戦力は第1旅団だ。私の指揮した装甲第1連隊は、最初に少し述べたが万が一第1旅団が苦戦を強いた場合に、すぐさま救援に行けるよう首都周辺で後詰として控えたのと同時に、宰相が万が一脱出した際それを確保或いは撃破するためだ。

——成る程、それと少し疑問に思ったのですが、先程から第1軍団所属の部隊が首都攻略のメインで動いているように思えるのですが、なぜ第5軍団からの部隊が居なかったのですか?

ああ、それはね君、第1軍団と第5軍団の仲が如何なのかという事だよ。

(俺はその言葉を聞いて合点がいった。要は仲の悪い第1軍団と第5軍団とは余り競合させたくないという事だ。大事な作戦中になまじ我を張って変に競い合ってもらってはは困ると思ったのだろう。ただよくダルメ中将が承服したかである。そう考えると、北部方面軍の将兵がどれ程ゲネス大将を信頼していたのかがうかがい知れる

——本作戦は迅速に首都を攻略するのが肝、両中将がいがみ合っている状況では無用な混乱を生むとゲネス大将は考えたのですね?

さよう、本計画は変更せずに行った。あの会議は大将閣下亡き後、作戦を決行するか否か、決行して首都攻略を成功させた後どうするかを話し合ったにすぎん。作戦事態には手は付けなかった。時間もなかったしね。要は大将が生きておられれば、事後処理は閣下の指示通りに動けばよかったのだ。しかしそうも行かなくなったから集まったのだ。だが、軍が立てる新帝が皇女殿下かフローク子爵かで揉めてしまったがね。

———では本題に、如何して皇女殿下でも子爵閣下でもなく、サスロ帝が誕生したかをお話しいただきたい。

あの会議の後、第1旅団長と私が作戦の調整でロイナント閣下の屋敷に行った時、其処に第1軍団副団長のジョー・マール少将と、ネクロベルガー総帥もいたのだよ。

———ネクロベルガー総帥もですか?

そうだ、ロイナント閣下は私たちの意見も聞きたいからと客室での小会議となった。

———何を話されたのですか?

無論、パウリナ陛下の後継者だよ。正当性なら確かに陛下のご息女であられるノウァ皇女が後継者に相応しいのは確かなのですが、年齢がね。

勿論、年齢は余り大した問題では無いのだ。歴史上、権力者によって擁立された幼年王や皇帝は枚挙にいとまがない。寧ろそちらが我々としてのネックになっている様なのだよ。

———幼年皇女を皇帝にして、軍部が実権を握ろうとしていると周囲に思われる事がですか?

その通りだ。我々としても力押しは最小限にしたい。内乱が長期にわたって続けば連合が動きかねんからな。さっさとサウルを排除し女帝には退位してもらう。そして新帝の下で新たな皇国の船出と言う訳だ。無論、我々軍部の掌の上でだがね。

(一応歴史上の出来事となってはいるが、まだ関係者とか色々と存命だと言うのに、そんな事を堂々と言って良いのかな~と、少し心配になる)

だがロイナント閣下の意見は違っていたのだ。

———どういう事ですか?

皇帝不要論とでも言っておこうか、要するに後継者は立てずに軍部が皇国を仕切って行こうとしたのだ。

———軍事独裁政権ですか。

さよう、それがロイナント閣下の本音だったかもしれないな。期せずしてゲネル大将が無くなられ、作戦が成功すれば北部方面軍は軍部の主導権を握れるだろう。その北部方面軍でも実質的に首都攻略をするのは第1旅団、要するに第1軍団が担っているのだ。自分の発言力を強め、ゆくゆくは閣下自身が軍のトップになる腹積もりだったかもしれない。大将の死でロイナント閣下の野心に火が付いたと言う事だな。

———しかしそれには大きなライバルがいますよね。

ダルメ中将の事だな。確かにその通りだ。だがあの方はロイナント閣下の上を言っていたようだな。

———上と言いますと?

後継者にフローク子爵を推薦した事だよ。

(俺はストーの言っていることが理解できずに思わず表情に出してしまった様で、それを見た彼はフッと鼻で笑う。チョット馬鹿にされた気分だ)

君は貴族の序列を知っているかね。

———はい、貴族は爵位の他に序列と言うものがあって、それが‥‥‥例えば第1都市と第2都市なら同じ爵位でも第1の方が上という‥‥‥。

その通りだ。正式な決まりでは無いのだが‥‥‥。まぁ、そう言った事になっている。爵位の枠が都市の番号で決まっているからだと思う。フローク子爵はバルア大公家の者だ。ミシャンドラ・シティが完成し、皇族一家がそちらに移られた後、ウルギア帝の弟であられる皇弟エルバルド殿下が統治を引き継いだのだ。ただ、エルバルド殿下はそう言ったものに興味が無いお方で、統治を任されて半年も経たないうちに長子のクラウィン公爵に大公の位を譲りましてな。

———ハァ‥‥‥。あの、フローク子爵の事ですよね?

そうだよ。クラウィン大公の弟がフローク子爵だ。

———そ、それはお‥‥‥私も知っています。

フローグ子爵が大公家の人間というのは、まぁ知っていて当たり前か。その子爵と懇意なのがダルメ中将なのだよ。

———という事は、そのフローク子爵が皇帝になると、ダメル中将がロイナント中将を差し置いて軍のトップになる事は間違いないですね。

その通りだ。しかもバルア大公家は序列から言って貴族の頂点の家柄だ。だから子爵が皇帝になれば貴族を味方にする事が出来る。皇帝と貴族を味方にすれは近衛軍が味方に成る。貴族の後ろ盾を得たダルメ中将に対抗する手段はあの時の閣下には無かっただろうな。

———確かにダルメ中将の方が一枚上手だったみたいですね。

そう言う事だ。だからロイナント閣下は会議中にひたすら後継者の正当性を訴えて何とかフローク子爵の皇帝継承を阻止したのだ。そして皇帝など不要と考え、軍部が皇国を直接統治するという発想に至ったのだろう。

———しかしそれだとダルメ中将が、第5軍団が黙ってないのでは? 

そこでネクロベルガー総帥が意見を述べられたのだ。サスロ帝‥‥‥この時はまだサスロ皇兄だがね。

———ネクロベルガー総帥がサスロ帝を推薦したと言う事ですか!?

そうだ。後で知った事だが、ネクロベルガー総帥はあの方が幽閉されていた時から懇意にしていたようだ。

(俺は驚いてしまった。歴史上、7月事件は北部方面軍主導のクーデター事件になっていて、ネクロベルガーの名は一切出てこない。彼が北部方面軍とは全く関係ない軍務省の人間だったこともあるだろうが、軍が立てた新帝サスロはネクロベルガーが推薦してをり、彼がこの事件に大きく関与していた事は間違いない様だ)

———サスロ帝とネクロベルガー総帥が親友と評されるくらい仲が良かった事は、資料にもありますので知っています。資料によるとサスロ帝は総帥の父君だある英雄ドレイク・ネクロベルガー元帥を敬愛していて、それが高じて総帥と懇意になったとありますが、本当は前から繋がりがあったと言う事ですか?

そう言う事だ。あの頃の我々はサスロ帝の状況を全く知らなかったからね。知ろうともしていなかった。それは我々だけではないはずだ。皇位継承権を失い、幽閉状態の皇族に興味を持つ者など要ると思うかね? だが、あの方だけは違った。総帥は誰も興味を示さないサスロ帝に頻繁に会っていたのだよ。だからあの方が唯一の心を許せる人物が総帥だったのだろう。

———成る程。サスロ帝とネクロベルガー総帥とには、そのような関係があったのですね。

うん? チョ、チョット待ってください。という事は、ネクロベルガー総帥はダルメ中将の様に、今後の事を考えてサスロ帝を推薦した事になりますよね。実際には彼はサスロ帝によって軍のトップになり、今では押しも押されぬ皇国の実力者です。何故ロイナント中将は止めなかったのですか?

先ほど言っただろ、後で知ったと。あの時点だ誰も総帥がサスロ帝と懇意な中だと知らなかったのだ。ロイナント閣下としたら痛恨のミスだな。

———ハ、ハァ‥‥‥それもそうです‥‥‥ね。

おおそうだ、この時に記録した音声があるのだが‥‥‥聞きたいかね?

———是、是非‥‥‥。でも、よろしいんですか?

構わんよ。

(ここでストー氏が、ロイナント中将の屋敷の客室での会話の一部始終を録音した音声を聞かせてくれた。以下はその内容である)

 ロイナント「皇帝は決めずにこれからは軍部によって国を統治管理して行くのだ。軍部評議会での決定が反映される」

マール「閣下の言う通りです。軍部による行政こそ強国への近道。流石はロイナント閣下」

ブァリー「し、しかしダルメ中将が承服しますでしょうか? なぁ」

ストー「え!? あ、自分もそう思います」

「するとも、奴とてクーデター後の権力は持ちたいのだ。だから自分が推す人物を後継者に用意したのだからな。これならば皇帝にへこへこせずとも好い、此方の方がより強い権力を掴める。奴とて———」

ネクロベルガー「本当にそう思われますか」

「どういう事だ? 何が言いたい准将?」

「ダルメ中将はクーデター後の事を考えておられる。フローク子爵を皇帝とし、その後は皇帝の権力と味方となった貴族や近衛軍、彼らと連携して軍部を把握し自らの権力基盤を固めるつもりです。しかもそれは短期間で行われるでしょう。そうなれば閣下、閣下にはそれに対抗しうる策がおありですか?」

「‥‥‥」

「准将、閣下に対して少し言葉が過ぎるのではないか!」

一体如何しろというのだ? 貴様には何か策があるのだろうな准将」

「まずは皇女殿下よりも正当性が強い方に皇帝になってもらいましょう」

「な、何!?」

「皇女殿下よりも正当性が強い?」

「そ、そんな人物要るのかね。准将」

「居ります。パウリナ帝の兄、サスロ様です」

「サ、サスロ‥‥‥さ‥‥‥ま?」

「ま、待ってくれネクロベルガー准将、幾らなんでもサスロ殿下は‥‥‥なぁ」

「え、あ!? ハ、ハイ……(-_-;)」

「その通りだよ准将、サスロは先帝の怒りを受けて勘当同然で幽閉されたのだ。その時に皇位継承権も失っている。知らないとは言わさんぞ」

「ですが、先帝が崩御されたのちにパウリナ帝が皇族として復帰させたはず」

「!?」

「皇族に戻ったのならば皇位継承権も戻っているはずです。そう考えるのが自然ではないのですか?」

「た、確かに准将の言うとおりだ。サスロなら‥‥‥殿下なら、皇女殿下よりも正当性があると言っても過言ではないが‥‥‥」

「ですが、サスロ殿下には良くない噂が‥‥‥そんな方を皇帝にしてよいものか‥‥‥ダルメ中将もそこに言及するのでは。なぁ」

「ハッ」

「皆皆様の心配はもっともですが、此処は私にお任せください。考えがあります」

「う~ん、ああ、分かった。サスロ様のお守りは貴公に一任しよう。よし、我々はサスロ殿下を擁立する」

(ここで音声は切れた)

とまぁ、こんな感じで話し合いは終わったよ。翌日の早朝、ネクロベルガー総帥はサスロ殿下の屋敷に行き、多分そこで皇帝になるよう説得したのか、手筈通りに事が進んだと報告したのかは分からないが、その足で会議に参加した。

会議では当然ながらサスロ殿下の人となりが問題視されたよ。その時に総帥が皆を説得したのだ。イヤ、アレは説得と言うよりは演説かな。この時の音声も記録されている。効くかね?

———はい、是非お願いします。

(ストー氏がディスプレイを操作すると、先ほどと同様に記録した音声が流れる。)

私は本来ならこの会議に参加する資格の無い者、部外者です。ですがロイナント閣下の要請で参加しております。今回の作戦の目的はサウル宰相を排除し、パウリナ陛下に退位していただく事でパウリナ条約の破棄、或いは凍結を行う事であるはず。事をなした後の行政を軍部が担うのではなく、今まで通り議会に任せるべきです。我々の問題は国家防衛に多大な不安をもたらすパウリナ条約であるはず。ここに来て軍の権力を増大させ、個々の利益を得るための戦いとなれば国民の不興を買い、その気に乗じて連合が政治介入しようとするのは目に見えています。国民の理解無くして国家の大事をなすことは出来ず、皇国そのものが危機にさらされる事となるのです。

心配には及ばすサウロ殿下は軍に造詣が深く、理解のあるお方です。必ずや軍部の要求を受け入れ、軍の地位を保証してくだされます。最早皇帝の権力は軍のものなのです。これ以上何を求める事があるというのですか、軍に対抗する勢力が現れれば、皇帝陛下の名の下に排除できるのです。直接統治はリスクを伴います。古今歴史上において、軍事政権が多くの犠牲を伴い国力を弱めて例は枚挙にいとまがありません。その理由が軍事政権では統制せねば維持が難しいからです。統制は生産性を著しく阻害し、国力を落とす結果となり、これも外部からの格好の標的となるでしょう。それは我々が望むものではないはずです。リスクを取らず、軍の権力を向上するためには事が終われば引くのです。引いたとしても何も問題はない、何故ならこの国で最も強力な力を軍が抑えているからです。後は引き際の良さに国民も好感を持つ事でしょう。国防軍の存在意義は外敵の脅威から国民を守る防壁であり、我々自身が国民に脅威を与える存在となってはならないのです。

今、皇室、議会、貴族、軍部が対立し、皇国始まって以来の暗い国内状況にあり、今作戦が速やかの実行され、新たな皇帝が誕生し、祖国に再び活気を取り戻すために軍は立つのだと、その事を戦いに赴く将兵に胸を張って伝えるべきだと私は思うのです。

ネクロベルガー総帥の演説が終わると会議室は静寂に包まれたよ。全員呆気に囚われていたようだ。だが、それは長くは続かなかった。何処からともなく拍手が起こり、気が付いたら私も拍手していたよ。こうなってはロイナント閣下も、ダメル中将も自分の我を通す事は出来ないだろ?

———そうですね。

(まさか7月事件の裏にこんな事があろうとは‥‥‥)

 

そして宇宙暦177年7月7日10:00、軍部によるクーデター作戦は幕を開けたのであった‥‥‥。「7月事件」の始まりである。