怠惰に創作

細々と小説の様なものを創作しています。設定など思い付いたように変更しますので、ご容赦ください。

初代皇帝と4年戦争 FILE2

宇宙暦155年12月1日、ゲーディア皇国は、月(アフラ)解放戦線に宣戦を布告した。

これは当時の世界を震撼させたことは想像に難くない。なぜなら皇国は解放戦線に資金や物資の援助、技術供与をしていたのである。解放戦線に積極的に協力するため軍を送りはしても、宣戦布告するとは誰も思わなかったであろう。

と、ここで連合の政治体制と4年戦争勃発の原因について軽く説明しておこう。

「エレメスト統一連合」は第3惑星エレメストを初めて統一した政権である。元々は107ヵ国の国と地域に分かれて、様々な民族や文化や言語が存在していた。それを統一したのがエレメスト統一連合である。とまぁ、これくらいは子供でも分かる。

そして政治体制だが、行政区は大まかに分けると第3惑星と月(アフラ)と3つのコロニー群が集まった第3惑星圏と、第4惑星の第4惑星圏、第5惑星の第5惑星圏の3つの行政圏が存在する。その内、第3惑星圏は人類の政治の中心であり、母なる惑星エレメストに、エレメスト統一連合中央政府が存在し、人類全体の行政を行っている。その中心は首都「メガトゥロス」であり、其処にエレメストの各都市や月都市群やコロニー群から民主的な選挙によってえらばれた議員たちが、連合中央議事堂にて行政を行っている。

代表議員は各都市にひとりと決められていて都市の数と同じ中央議員がいる。但し、数百の都市を有するエレメストが議員の数では有利に成ることになり、必然的にエレメスト寄りの政策が採用されることが多くなると言う弊害も生んでいる。

現在の第3惑星圏の総人口は約100億で、そのうち第3惑星は約50億、月は約10億、コロニー群は3つ合わせて約40億人となっていて、エレメストと宇宙移民の人口比率は5対5であり、人口比率で言えば同じ人数の議員になるはずと言うのが宇宙移民の主張である。

それと、各月都市やコロニーを統治する議員は選挙によって決められているが、それらを全体的に直接統括しているのは、連合政府に任命されたエレメスト出身の行政長官であり、このシステムに宇宙移民からは不満の声が上がっていて、一種の植民地支配であるとの抗議も起こっている。

因みに第4惑星では、代表を選挙で決めて中央政府に送る事が無く、更に植民地色が強くなっている。

他にも、月や各コロニー群には連合宇宙軍が治安維持として艦隊や地上部隊を送り込んでおり、彼らの半数は第3惑星出身者で、あとの半分は別の地域から集められた者たちで構成されている。

之とは微妙に事情が違うのが第4惑星である。第4惑星では現地の市民を徴用する事が多く、これがゲーディア皇国がすんなり独立できた理由のひとつでもある。

そんな微妙な体勢で始まった連合が腐敗しない訳が無い。よく言われるのが、俗に言う「宇宙に行きたくない病」である。行政長官になった政治家や連合軍の軍人は、宇宙に行くと最短でも12年(軍では4年毎に転勤する)は滞在しなくてはならず、長ければ20年以上母なる惑星を離れたくならない。そこで金や権力を使ってそれらを免れようとする者が後を絶たず、それ故公正性が失われている。

その他にも、当然ながら宇宙に行った者の中には、その地位を利用して不正に利益を得ようとする者もいる。これによる賄賂によって本来の任期よりも早く惑星に戻してもらうなどの不正が横行し、それは連合軍内部でも公然と行われるようになったのだ。

政治の腐敗は市民の不幸である。政治の腐敗を訴える宇宙市民のデモが日を追うごとに増えていき、中には暴動にまで発展するものもある。

この事態に宇宙移民系政治家たちは危機感を募らせて問題解消を訴えるが、エレメスト系の政治家たちは重要視せず、暴動は治安維持部隊に任せられ、当然ながら鎮圧されることになる。これによって連合と宇宙市民との溝は深まり、修復不可能な事態にまで進行し、後の戦争へとつながることになるのだ。

何故こういった事態になったのだろうか? 第3惑星こそが人類発祥の地であり、中心であると言う気持ちが、そういった方向へと向かわせてしまったのだろうか?

まぁ、それについては別の機会に考えるとして、今は第4惑星についてである。

その第4惑星であるが、よく左遷地と言われている。これは、第3惑星圏から遠く(ホールがあるので移動的には遠く感じさせないが)離れた地であるため、連合政府中枢に戻る望みがない為である。それが左遷地と言われる所以である。

因みに第5惑星に関しては他とはまったく事情が違う。かの地はガス状惑星でその周囲には無数の衛星があって、さらに途中には小惑星帯もある資源の宝庫であり、その衛星のひとつに連合の資源管理センターともいえる施設と、資源を産出する企業の施設があってほぼ労働者によって運営されている地である。そのため政治的な立場としては中立な立場になることになる。

話がそれたので戻ろう。

それでは何故ゲーディア皇国はアフラ解放戦線との同盟を切ってまで、エレメスト連合国に協力することになったのか?

それは宇宙暦155年の2月8日にアフラ解放戦線最高指導者である「アリグナク・チェイスロア」が死去したのが大きいだろう。死因は心筋梗塞だと言われているが、暗殺説もまことしやかに囁かれていて、後にその説を基にした映画も公開されている。

この事で解放戦線はアフラ派とエレメスト派の2つの派閥に分かれることになった。これは、アフラ解放戦線がエレメスト統一連合に不満を持ったアフラ市民と、解放戦線に協力した元連合軍将兵で構成されていたためである。チェイスロアのカリスマ性によって統合されていたこれら2大派閥は、当然のことながら彼の死によって分裂することになる。こんな事なら取り込まなければ良かったと思っただろうが後の祭りである。それに当時は人材不足でもあったため、彼らを取り込まなかったら4年も戦う事が出来なかったかもしれない。

とは言え、この内部分裂は戦線に大きな混乱をもたらした。ある時などアフラ派の要人が、エレメスト派の要人を暗殺しようとして、逆に逮捕されるという事件も起こっている。上層部の混乱は戦線全体に飛び火しすることになり、それが皇国が解放軍との同盟維持を考え直す切っ掛けになったのは言うまでもないだろう。

ではここで、4年戦争の流れを簡単に並べてみた。

152年1月30日・アリグナク・チェイスロアが軍事クーデターを起こす。

2月1日・月都市群がエレメスト統一連合からの独立を宣言すると同時に、連合に対して宣戦布告・4年戦争が勃発する。

連合軍、連合宇宙艦隊を急遽結成して月に派遣する。

2月12日・連合軍と解放戦線軍との艦隊戦が起こり、解放戦線の勝利に終わる。※「第1次アフラ会戦」

17日・L1宙域※コロニー群に侵攻する。

22日・L2宙域コロニー群に侵攻する。

28日・解放戦線が※「メテオシューター」による第三惑星に対する爆撃を敢行する。

3月17日・解放軍による爆撃阻止を目的とした連合軍艦隊が解放軍のメテオシューター護衛艦隊と激突。10基のうち7基のメテオシューターを破壊され護衛艦隊の4割を失うものの、連合軍艦隊は8割以上の艦艇を失う。

この後、大きな損害を受けた両軍は講和への道を模索し始める。

4月6日・第3惑星の非武装地帯である軌道エレベーター「イグドーラ」で、連合政府との休戦協定が行われる。しかし交渉は決裂し、戦時条約を結ぶにとどまる。※「イグドーラ条約」

4月20日・解放戦線が第3惑星へ降下侵攻する。これにより主戦場が宇宙から第3惑星へと移る。※「第3惑星侵攻作戦」

その後も随時地上へと増援を送り込み、宇宙暦153年3月までに地上の約半数を占領するもそこで限界が来て、以降戦線は硬直状態になる。

154年4月・1年以上の硬直状態が続き、事態の打開を目指して解放戦線地上軍が大規模攻勢に打って出る。しかし、その情報は事前に連合側に知られており、十分な対策を取っていた連合軍の勝利に終わる。これ以降、徐々に連合軍が解放軍を押し始める。

154年7月・今度は連合軍の大規模反攻作戦が実施する。その情報は事前に解放軍側に漏れていたものの、十分な対策が取れずに敗北、地上でのミリタリーバランスが連合側に傾くことになる。

155年2月8日、アリグナク・チェイスロアが死去する。

4月・皇国からジャミング技術が提供される。

10月・皇国、義勇兵の帰還命令を出す。

12月1日・皇国、月解放戦線に宣戦布告する。

此処までが、4年戦争の始まりとゲーディア皇国が月解放戦線に宣戦布告するまでの大まかな流れである。

これで分かるのは、4月時点では新技術を提供するなど協力体制を維持していたが、10月になって急に義勇兵の帰還を命じた事である。この時点ではもう同盟破棄を決断していたのであろう。

では一体いつ頃決断したのだろうか? これに関してはふたつの説がある。

ひとつはチェイスロアの死後もジャミング技術を提供している事から、4月以降だという説。

もう一つは技術提供はフェイクで、チェイスロアの死後に既に同盟破棄を考えていて、連合との水面下での交渉を始めたとする説である。

どの説が正しいのか、明確には分かってはいない。

ここからは、宣戦布告後のゲーディア皇国の動きを追ってみよう。

 

【用語】

※第1次アフラ会戦・第3惑星の衛星(月)であるアフラ近郊で勃発した戦い。エレメスト統一連合宇宙軍艦隊100隻に対し、アフラ解放戦線宇宙軍艦隊39隻の戦い。

当初は数の上で有利な連合軍の圧勝と言われたが、連合は急遽集めた即席艦隊で、連携が取れず度々混乱したのに対して、解放軍側は少数なれど統一された艦隊運動による巧みな攻撃で勝利を収めている。

※コロニー群・L宙域に設置された居住区用宇宙ステーション(スペースコロニー)の集合体。L1~3宙域の3か所に存在し、ひとつのコロニー群に約十数億人の人口がいる。別名「コロニーサイド」とも呼ばれている。

※メテオシューター・解放戦線が建造した巨大レールガン艦。第3惑星を爆撃する目的で建造され、建造数は10隻。自らを防衛する武装は無い為、護衛艦隊と行動を共にしなければならない。何時頃建造されたかは不明だが、可なり前から極秘裏に建造されていた模様。

※イグドーラ条約・連合政府と解放政府の間で結ばれた戦時条約。条約が結ばれた場所にちなんでつけられる。

条文には、核や生物化学兵器の使用の禁止。大気圏外からの大出量投下、或いは爆撃の禁止。中立国や非武装地帯への不可侵、捕虜への扱い等々が盛り込まれている。

※第3惑星侵攻作戦・解放戦線による第三惑星への大規模侵攻作戦。

元々はL3コロニー群への進行を視野に入れていたが、L3には今大戦においての連合宇宙軍の総司令部である※宇宙要塞「スプンター」があり、攻略は容易では無いと判断され、其れよりも第3惑星にある連合政府中枢を攻略する方に重点が置かれたため作戦開始に踏み切る。

※宇宙要塞スプンター・エレメスト統一連合軍が宇宙軍司令部と大量の艦隊を駐留させるために建設した宇宙拠点。

放棄された資源衛星を利用して建造され、硬い岩盤に守られているので外からの攻撃にも強いと言う難攻不落の要塞。

そのためアフラ解放戦線軍も侵攻を中止したほどである。

東西南北で呼称される4つのドックがあり、その最大収容数は1000隻を誇る。

後にL1宙域に「アーシャ」要塞、L2宙域に「アル・マティ」要塞が設置される。