怠惰に創作

細々と小説の様なものを創作しています。設定など思い付いたように変更しますので、ご容赦ください。

鉱山労働と就職活動

俺は応接用の長ソファーに座り、この雑誌社の経理などの事務作業一般を任されているセイヴァこと「シェルク・セイヴァ」の尋問を受けている。以前、俺とクエス達がシガークラブ「R&J」で初めて出会った時に話していた「私レズだから」と言って、クエスのプロポーズを蹴った彼奴の幼馴染でもある。自分を振った女性とよく一緒に仕事する気になるなと俺は思う。俺だったら絶対に無理だ。

感情の起伏が全く顔に出ない彼女にここまでの経緯を話し、何とか納得してもらう事に成功した。

 

「成程、あの部屋は貴方が住む事になったと、そして事故物件扱いされていたのはハウスキーパーの不具合によるものだと言うのですね」

「そうゆう事」

「そうっス」

「そうでしたか‥‥‥今回の雑誌の目玉になると思ったのですが‥‥‥」

 

俺の話を聞き終えると、セイヴァさんは右手で左肘を支えて左手で顎先を掴んだポーズで何やら考え事を始める。俺もリコも彼女の無表情で独特の空気感に話しかけ辛くなってしまい、暫く彼女の様子を窺う事しか出来なくなる。

とは言え、沈黙して居るのも段々と耐えられなくなって来た俺は、さっきから頭に浮かんでいる質問を勇気をもって彼女にぶつけてみる事にした。

 

「ところで事前調査とかしないのか?」

「どういう意味ですか?」

「ほら、俺はアソコが事故物件だと役所で聞いたんだ理由もな。そうすれば取材なんかしなくても、何故事故物件扱いされている理由は分かったんじゃないかって」

「一応取材はしてもらいました。社長に」

「自分で行かなかったの?」

「色々な雑務を熟さなくてはならないので、其れに私は記者では無いですから」

「ああ、そうなんですか‥‥‥」

「そうゆうのは社長とそこのヘイド君に頼んでるんです」

 

すると背後からリコが耳打ちして来た。

 

「記者云々と言うより、セイヴァさん見ての通りですから取材とか無理っス」

 

成程と理解していると、セイヴァさんがジーっと此方を黙視して来る。美人に見詰められるのは男として嬉しい限りだが、こと彼女に見詰められるのは御免被りたい。何故なら視線が針の様に痛いからである。目鼻立ちが整いキリッとした知的な女性で、さらにメガネ型の端末を掛ける事によってそれが一層際立っている。だが、この鋭く人を射抜くような視線と、殆ど無表情なのはいただけない。これでは取材相手は委縮して何も話せなくなる。取材は相手に色々な事を話してもらわなければならないため、出来るだけ警戒心を抱かせない様にしたりして話しやすい環境に持ってくのが鉄則だ。

まぁ、記者じゃないそうだから関係は無いと思うが‥‥‥彼女は普段話をする事とかあるのだろうか? 家族とか友達とかそう言う人たちはいるのだろうか? 悪いとは思うがセイヴァ女史の家族構成や友人関係が知りたくなって来た。

とは言え、クエスに取材の依頼をしたのは失敗だな。あいつのあのやる気の無さを見る限り適当にある事ない事うわさ話を聞いただけで、それをそのまま報告したと言った処だろう。肝心な事は何一つ調べてないから今日のみたいな事が起こるのだ。まぁ、彼奴には天罰が落ちる事を期待しよう。

それから俺は3つ並んでいる机の内の空いているひとつを使わせてもらい、そこでクエスの野郎がどの面下げて戻って来るのかを内心ワクワクしながら待った。

その間、セイヴァ女史は俺の向かいの席でパソコンのディスプレイを眺めて仕事をしている。こっちから見て彼女の机は横向きに置かれているので、彼女の横顔が見える。

横顔も素敵だ。

確かにクエスが告白したくなる気持ちも分かる。だが、レズビアンとはちょっと残念ではある。まぁ、人の性に関してはあまり口を出すのは止めよう。

 

「私の顔に何かついていますか?」

 

セイヴァさんがパソコンの画面を見たまま俺に話しかけて来た。

 

「えっ!? いえ、何でもありません!」

「でしたら私の顔を見詰めないでください、気が散ります」

「す、すいません‥‥‥( ̄∇ ̄;)ハッハッハ」

 

美人なのでついつい見惚れてしまった。俺は彼女の仕事を邪魔しないように、隣の席で年代物のカメラを磨いている後輩君に小声で話しかける。今時そんな物で撮ってるんだと思ったが、此方も人の自由だから突っ込むのは良そう。

 

「何時もあんな感じか?」

「そうっス‥‥‥ああでも社長の前だと表情豊かになるっす。と言ってもほんのチョットだけ、本当に微妙な変化ですけど‥‥‥」

「ああん? そうなのか? そいつは楽しみだ」

「と言っても本当に微妙な変化で分からないかもしれませんよ。僕は分かるのに1年かかりました」

「え、そ、そんなに? 後輩君が鈍いだけじゃないのか?」

「失礼っすね、こう見えてもカメラマンとして人の微妙な表情の変化は見逃さない自信があるっす!」

「フ~ン」

 

俺はリコの話半分で聞きつつ、クエスと彼女の関係をもう一寸突っ込んで聞いてみる事にした。勿論、セイヴァさんには聞こえないくらい小声でひそひそとな。

 

「なぁ、何であの二人一緒に仕事してるんだ?」

「如何いう意味っスか?」

「イヤよ。俺だったら自分の振った女性と一緒の職場は居づらいって言うか‥‥‥」

「あの二人は子供の頃からの幼馴染っス」

「そりゃ前聞いたよ。仲良しな幼馴染だったとしてもよ、フラれたらそれはそれで関係に亀裂が入ってもおかしくないだろ?」

「そうっスね。ただここはセイヴァさんの持ちビルなんス」

「えっ!? 彼女、此処のオーナーなの!?」

 

思わず大声を出してしまった。その声に当然セイヴァさんも気付いて俺の方に顔を向け、視線が合うと彼女はクイッと眼鏡を上げる。

も、もしかして俺たちの階は聞こえてましたか‥‥‥?

後輩君曰、このビルは元々セイヴァさんのお父様の持ち物らしく、彼は他にも数棟のビルを持っている不動産貸賃業者らしい。このビルは彼女の二十歳の誕生日にプレゼントされたもので(誕生日プレゼントがビルだなんて‥‥‥)、彼女はそこからオーナーとして父親の仕事を学んで手伝う事になったそうだ。そんなこんなで半年前に新聞社をクビになったクエスと勢いで付いて来た(勢いだったんだ‥‥‥)リコが転がり込ん出来たと言う訳である。

元々、クエスとセイヴァの父親が学生時代からの親友で、その縁もあって二人は幼馴染になった様だ。クエスの方が5歳年上と言う事もあって、周囲からは幼馴染と言うよりは仲の良い兄妹に見られてたそうだ。その縁があったためこのビルの2階のフロアを貸して貰い彼奴は雑誌社を始めたのだ。しかも家賃はタダだとよ。あと、タダで貸す条件が彼女を事務員として雇う事らしい。だからたとえフラれたとしてもクエスは彼女をクビにしたりは出来ないのだ。

 

「ほぇ~、そんな事情があるんだ」

「そうっス、でもセイヴァさんは社長に甘いっす」

「え、そうなの? そんな風には見えないけど。て言うか、二人が日頃どう接しているか見た事ないから分からんけど」

「絶対にセイヴァさん社長のこと好きっス!」

「え、そうなのか? 振ったんだろ? レズだって言———」

 

すると急にセイヴァ女史がスクッと立ち上がったので、俺もリコも驚いて身構える。

 

「そう言えばお茶の用意をしていませんでしたね。此処に就職するとは言え、オルパーソンさんは今日はお客様でもありますから」

「ああそんな気を使わなくても‥‥‥」

「いえ、私も丁度お茶を飲みたいと思ったので序です」

「そ、そうですか其れじゃ‥‥‥」

「あ、あの~僕は‥‥‥」

「良いです。ヘイド君のも入れて差し上げます」

「ありがとうございますセイヴァさん」

 

セイヴァは部屋の片隅に置いてあるポットの所へ行って3人分のお茶を入れる。取りあえずお茶を入れてくれるので優しい人ではある様だが、如何せんあの無表情では色々と誤解を生みそうだな。

そしてセイヴァはお茶の入ったティーカップをトレーに乗せて持って来ると、俺たちの前に置き、自身はピンクのキューピットを思わせるシルエットの描かれたティーカップをもって自分の席に戻る。結構可愛らしいティーカップ使ってるんだな。そう言う所は女性らしくて安心する。

 

「おおう、帰ったぞ」

 

するとこのタイミングでクエスが帰って来た。社長のご帰還に逸早く反応したセイヴァさんは、すぐさま立ち上がってカツカツと明らかにワザとヒールの音を大きく鳴らしてクエスの許に向かう。こっから修羅場が始まるのかと俺は期待する。

 

「社長‥‥‥」

「うわぁ!? なんだよ驚かせるなよシェルク」

 

セイヴァさんがクエスの行く手を阻むと、彼奴は大袈裟なジェスチャーで驚く。そしてグイグイとあの無表情をクエスの顔に近付け、彼奴をたじたじにさせている。

 

「なぁなぁ今のは如何いう顔だ?」

 

俺はこれから始まる修羅場に内心興奮気味に隣のリコに話しかける。

 

「怒ってるっス」

「やっぱりそうなのか。でも、さっきと変わって無い様に見えるけどな」

「だから行ったっス、セイヴァさんの表情を読むのには2年かかるっス!」

「お前さっき1年て言ってなかったか?」

「そ、そうだったスか‥‥‥気のせいっス」

 

段々後輩君の言葉も怪しく感じて来た。て言うか、この場所に雑誌社開いたのは半年前だよな、リコがセイヴァと一緒になったのは半年前だからそもそも1年も経ってないはずである。と疑問に思ったが、今はクエスとセイヴァの修羅場の行方の方が気になるので、その疑問は後にしよう。

 

「社長、私の調査依頼をすっぽかして何処に言っていたのですか?」

「えっ!?」

 

セイヴァさんの言葉にクエスは一瞬狼狽え、そして俺たちの方を見たので当然ながら俺は生暖かい目で彼奴の視線に応えてやった。そのまま簀巻きにされちまえ!

だが彼奴は一瞬だけ俺たちに怒りの表情を見せただけで、その直後にセイヴァに視線を戻して軽く溜息を付くと、手に持っていた箱を彼女の視線に入る様に持ち上げる。

 

「ほ~ら、シュークリームとエクレアだぞ~。何時も面倒な事務処理を片付けてくれてるからな。社長としての心遣いってやつだ」

 

あ、お菓子で釣りやがった。俺がそう思った瞬間、セイヴァ女史はその箱をクエスから奪い取り、すぐさま踵を返して自分の席に戻ろうとする。が、一旦止まってクエスの方に振り返る。

 

「こんなもので赦されると思ったら大間違いです」

「わーってるよ。最近出来たあの店のシュークリームだ」

 

最近出来た店と聞いたセイヴァさんは素早い動きで自分の席に着くと、早速箱を開けて中身を確認する。こっからでは何が入っているのか見えないが、彼奴の言葉を借りればシュークリームとエクレアが入っているらしい。ただ中身を見た彼女の顔が一瞬綻んだ様に見えたが、其れも一瞬の事で今では無表情に戻っている。そして箱の中からシュークリームを取り出して食べ様としたが、俺らの視線に気付いて食べるのを止める。そして「本当にこんな事で赦さないんだから」と、再度念押しみたいにクエスに言ってからシュークリームにパクつく。甘い物に弱いとは結構可愛いとこあるな、セイヴァさん。

 

「一瞬笑ったような‥‥‥」

「え!? 分かったんスかセイヴァさんの表情が! 分かるのに3年もかかると言うあの表情を」

 

もう如何でもいいわ。と俺が思っていると、クエスからお声が掛かる。チクった事へのお小言だろうか。多分そうだろう。修羅場が見れなくて残念だよ。

 

「おい、よくも彼奴にサボった事チクったな」

「サボる方が悪いんだろ」

「チッ、ま、まぁ其れはいいとして、それにしても取材早く終わったみたいだな。俺はてっきりまだ帰って無いと思ったんだがな」

「取材はしてないっス」

「何だよオメーらもサボりかよ!」

「チッ、しょうがねぇな‥‥‥」

 

俺は同じ事を何度も話すのが少々面倒になりつつあったが、話さない訳にも行かないのであの事故物件の真相をクエスに話す。

 

「って事は何か? 出来た頃からのハウスキーパーの不具合が原因だと、それで面白そうだからそのままにしてあったと、そんで今では高額の修理代が掛かるから直してないと?」

「そう、それが真相。ミステリーの「ミ」の文字も無い話」

「何だよそんなオチかよ。サボって正解だったな」

「おい、取材サボるなんてジャーナリズムの欠片もねぇのかよ」

「うっせぇな! 俺は社会派なんだよ。ミステリーは専門外」

 

後ろにいるセイヴァ女史を怒らせない様に気を使ったのか、クエスは「ミステリーは専門外」と言う部分だけ小声になる。とは言え、俺は此処で雇ってもらう条件として事故物件の取材を肩代わりしたのだ。結果的に取材してないとしても、約束通りここで雇ってもらえるはずである。

 

「じゃあ、俺は今日から雇ってもらえるって事で‥‥‥」

「悪いがそれはまだだ」

「おおい! 約束が違うぞ!」

「お前と別れた後に思い付いたんだが‥‥‥」

 

俺の反応を見るように言葉と止めたクエスに、俺は嫌な予感と約束を破られた怒りとで物凄く嫌な顔をして見せる。

 

「今のお前にしか出来ない仕事‥‥‥取材をやって欲しい」

 

今の俺にしか出来ない取材? 一体何をやらせるのか知らないが、取材と聞いて興味を持った俺は取りあえずクエスの話を聞く事にした。

 

「ああ良いぜ。話だけは聞いてやる」

「フッ、そう来なくっちゃな」

 

エスはニヤリと口角を上げると、俺が使っているデスクに飛び乗って座る。が、その直後にセイヴァ女史に注意されて慌てて居りる。幼馴染に注意されてバツの悪そうな表情になっりつつ、クエスは俺の隣の誰も使っていないデスクに移動し、キャスター付きの椅子の背もたれを前にして座り、仕切り直しとばかりに俺にやってもらいたい取材のを話し始めた。

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エレメスト統一連合宇宙軍【艦隊編制】

【兵器】

①「フロイゼン級改2型」

分類・戦艦

全長・336m

武装・330mm連装ビーム砲塔✖2、220mm連装ビーム砲塔✖4、艦首ミサイル発射管✖6、4連装艦尾機雷発射管✖2、35mm連装レーザー機銃×16

☆「第一次軍備再建計画(※1)」によって建造された戦艦。「88年計画」製の新造艦と代替えして全て退役する予定だったが、皇国との緊張関係から見送られる。建造数は192隻。

1番艦「フロイゼン」2番艦「ドルツィ」など

 

②「ギーリス級」

分類・弩級戦艦

全長・396m

武装・360mm3連装ビーム砲塔✖3、280mm3連装ビーム副砲✖4、艦首ミサイル発射管✖6、4連装艦尾機雷発射管✖2、25mm4連装レーザー機銃✖8、35mm連装レーザー機銃✖16

☆「第2次軍備再建計画(※2)」で建造される予定だった大型戦艦。計画は一旦は凍結されたが、「88年計画(※3)」によって再設計される。本艦は艦隊旗艦として運用され、皇国との開戦時点で12隻建造される。

第1艦隊旗艦「ギーリス」司令官・ピーター・シーモンズ大将

第2艦隊旗艦「イグラード」司令官・アクセロ・トリュード大将

第3艦隊旗艦「ガミンバム」司令官・ジェームズ・ビック大将

第4艦隊旗艦「グラゴース」司令官・ヨハンナ・ガリラ中将

第5艦隊旗艦「リパーブル」司令官・フィリップ・ポー中将

第6艦隊旗艦「リブルトス」司令官・ロイ・バルトマ中将

第7艦隊旗艦「マジェスタ―」司令官・トーマス・D・モーディラン中将

第8艦隊旗艦「エフィールド」司令官・マシュー・レビントン中将

第9艦隊旗艦「リーズ」司令官・サイモン・ファイリ中将

第10艦隊旗艦「ジェーンバラ」司令官・ジャック・スモール中将

第11艦隊旗艦「シレスター」司令官・ジュード・ウルファ中将

第12艦隊旗艦「コンスラート」司令官・マティア・ベルヘム中将

 

③「フラーグス級」

分類・戦艦

全長・341m

武装・330mm連装ビーム砲塔✖3、240mm連装ビーム砲塔✖2、艦首ミサイル発射管✖6、25mm4連装レーザー機銃✖6、35mm連装レーザー機銃✖12、4連装艦尾機雷発射管✖2

☆「88年計画」によって建造された戦艦。もともとはフロイゼン級との代替えとして建造されるも、開戦時点で36隻しか建造されていなかったため、フロイゼン級もそのまま運用されることになった。

1番艦「フラーグス」2番艦「パーリー」3番艦「リーヨン」など

 

④「ルイザー級改型」

分類・航宙母艦

全長・385m

武装・40mm連装レーザー機銃✖24、ミサイルランチャー✖16

航宙艇搭載数・約72機

☆「第1次軍備再建計画」で建造された航宙母艦。海で運用される航空母艦と見た目的に近い。建造数は384隻。

1番艦「ルイザー」2番艦「バンドゥ」など

 

⑤「メリーゴア級」

分類・巡洋航宙母艦

全長・275m

全幅・154m

武装・280mm連装ビーム砲塔✖2、40mm連装レーザー機銃✖8、艦首ミサイル発射管✖6、4連装艦尾機雷発射管✖2

航宙艇搭載数・約40機

☆「88年計画」によって建造された巡洋航宙母艦。中央に巡洋艦に似た船体と、両舷に船体と同じくらいの長さの離着陸用滑走路と一体となった格納庫がある。そのため中央の船体には巡洋艦並みの主砲が装備されていて艦隊戦も熟せるが、当然ながらルイザー級に比べると航宙艇の搭載数が少ない。開戦時点で48隻建造されている。

1番艦「メリーゴア」2番艦「ユーヨーク」3番艦「リフォルニア」など

 

⑥「ソウェード級改型」

分類・巡洋艦

全長・224m

武装・280mm連装ビーム砲塔✖3、35mm連装レーザー機銃✖12、艦首ミサイル発射管✖4、4連装艦尾機雷発射管✖2

☆「第1次軍備再建計画」で建造された巡洋艦。建造数は1344隻。

1番艦「ソウェード」2番艦「ヒウェード」など

 

⑦「ジェプト級」

分類・巡洋艦

全長・242m

武装・305mm連装ビーム砲塔✖2、155mm連装ビーム砲塔✖2、35mm連装レーザー機銃×12、艦首ミサイル発射管✖6、4連装艦尾機雷発射管✖2

☆「88年計画」によって建造された巡洋艦。ソウェート級の代替えとして開戦時点で390隻建造される。

1番艦「ジェプト」2番艦「ロイカ」3番艦「アシュット」など

 

⑧「ユーゴ級改2型」

分類・駆逐艦

全長・178m

武装・155mm単装ビーム砲塔✖1、30mm連装レーザー機銃✖8、艦首ミサイル発射管✖4、甲板ミサイルランチャー✖12

☆「第1次軍備再建計画」によって建造された駆逐艦。建造数は2688隻。

1番艦「ユーゴ」2番艦「DY-001」など

 

⑨「ラビアス級」

分類・駆逐艦

全長・187m

武装・155mm単装ビーム砲塔✖3、30mm連装レーザー機銃✖8、艦首ミサイル発射管✖4、甲板ミサイルランチャー✖12

☆「88年計画」で建造された駆逐艦。開戦時点で780隻建造されている。

1番艦「ラビアス」2番艦「DR-001」など

 

⑩「ロデアン級改型」

分類・補給艦

全長150m

武装・なし

☆「第1次軍備再建計画」で建造された補給艦。

 

⑪「セシイロ級改型」

分類・輸送艦

全長・180m

武装・25mm連装レーザー機銃✖6

☆「第1次軍備再建計画」で建造された輸送艦

 

⑫「アイレク級改型」

分類・工作艦

全長・150m

武装・なし

☆「第1次軍備再建計画」で建造された工作艦

 

⑬「セオニア級」

分類・輸送(補給)艦

全長・200m

武装・30mm連装レーザー機銃✖8

☆「88年計画」で新たに建造された輸送艦。以前までは補給艦と輸送艦に分かれていた業務を兼ねる艦船。

 

※1・第1次軍備再建計画は、宇宙暦162年に開始されたエレメスト統一連合軍の軍備再建計画。

建造された艦船は、88年計画で建造された新造艦と入れ替えで解体される予定だったが、戦力充実の観点から現代改修して使用される。

※2・第2次軍備再建計画は、宇宙歴172年末に行われた2度目の軍備再建計画。

しかし、翌年にゲーディア皇国と結ばれた「パウリナ平和条約」によって、新造艦の計画は凍結され、既存の艦船の現代改修のみにとどまった。

※3・88年計画は、宇宙暦188年以降に軍縮をストップさせたゲーディア皇国を警戒して極秘裏に進められた軍備強化計画。

196年の皇国による「パウリナ条約」破棄以降は大々的に計画を進める。

 

【編制】

☆隊(小隊)・4隻の同一艦で編制された最小単位の艦隊編制。この隊の組み合わせで戦隊以上の艦隊編成が行われる。隊(小隊)司令官は中佐または大佐。

駆逐隊・駆逐艦4隻からなる小隊。単独では主に偵察・哨戒任務や特務隊の護衛に従事する。

巡洋隊・巡洋艦4隻からなる小隊。単独では主に哨戒任務や特務隊の護衛任務を担う。

航宙隊・航宙母艦4隻からなる小隊。航宙隊単独で任務に就く事は無く、必ず巡洋隊や駆逐隊が護衛に付く。

戦艦隊・戦艦4隻からなる小隊。大規模艦隊の旗艦を務める。

工作隊・工作艦3隻からなる艦隊。作戦上工作艦が必要な時に艦隊に追随する小隊。

輸送(補給)隊・輸送艦または補給艦5隻からなる艦隊。物資の輸送や艦船への補給などに従事する小隊。

特務隊・特別任務に従事する小隊。旗艦となる艦船一隻に護衛として一個巡洋隊または駆逐隊が付く。戦隊が各隊から艦艇を抽出して独自編制するものも同じ呼称。

☆戦隊・旗艦となる小隊と、他4個小隊によって編成された艦隊(艦数20隻)。通常の作戦任務に就く最小単位。戦隊司令官は准将。

例)1個巡洋隊と4個駆逐隊で駆逐戦隊。

2個航宙隊と巡洋隊または駆逐隊3個で航宙打撃戦隊。等々……。

☆分艦隊・司令部付き戦隊と4個戦隊からなる艦隊(艦数100隻)。分艦隊司令官は少将。

基本編制・旗艦戦隊(戦艦隊×1、巡洋隊×2、駆逐隊×2)×1

航宙打撃戦隊(航空隊×2、巡洋隊×1、駆逐隊×2)×1

巡洋戦隊(巡洋隊×3、駆逐隊×2)×1

駆逐戦隊(巡洋隊×1、駆逐隊×4)×2

☆艦隊・司令部付き分艦隊と3個分艦隊からなる大規模艦隊(艦数400隻)。艦隊司令長官は大将または中将。

連合艦隊・数個艦隊での大規模作戦で編制される艦隊。

例)「エレメスト統一連合軍・遣外連合艦隊(遠征艦隊)」

参加艦隊・第2艦隊(連合艦隊総司令部)、第5艦隊、第6艦隊、第9艦隊、第10艦隊、第12艦隊。

戦闘艦艇数2400隻。補助艦艇数1500隻。合計3900隻。

ゲーディア皇国軍【人物紹介】

 【人物】

メビィ・ヘルター・・・・・ゲーディア皇国軍パイロット。階級・軍曹。宇宙暦177年生まれ。

所属・アンリ・マーユ要塞防衛軍、第11機動装甲兵団第32機動装甲兵連隊第5戦隊第4(エンガー)小隊ff分隊長。

☆ソルジャーのパイロットとして高い技量を持っているが、ハードロックやヘビメタなどの音楽を愛し、自機のコックピット内でそれらの音楽を爆音で流しつつ機体を操縦する。その際一種のトランス状態になる模様。そのため周囲が目に入らず単独で敵陣に突進してしまい、その事で周囲から諫められるが当の本人は気にしていない。と言うか、トランス状態になるので自分でも抑えられない。

アンリ・マーユ戦で上記の通りに単独で突貫して、敵の空母1隻、巡洋艦3隻、駆逐艦1隻を撃沈し、航宙艇を4機撃ち落としたことから「アンリ・マーユの狂戦士(バーサーカー)」の異名を得る。

 

ジャス・ヴィングス・・・・・ゲーディア皇国軍パイロット。階級・伍長。宇宙歴177年生まれ。

エンガー小隊ff分隊員。

☆メビィ分隊の部下の黒人男性。ソルジャーは2機1組で1個分隊を編制しており、メビィが長機(リード)で彼が僚機(ウィングマン)である。しかし、長機であるメビィが単独で敵陣に突っ込んでしまうため、僚機としての役目を果たせずにいる。

見た目は大柄で厳ついのだが、根は優しく真面目な常識人である。その性格が幸いしてか、小隊内にいる他の2名の変人から日常的に揶揄われる苦労人でもある。

好きな音楽はジャズ。

 

ローク・スタッハード・・・・・ゲーディア皇国軍パイロット。階級・伍長。宇宙暦177年生まれ。

エンガー小隊f分隊員。

☆いつも明るく細かい事を気にしないサバサバした性格だが、不真面目で下品な言動が目立ち、真面目なジャスを何時も揶揄っている。

見た目はスタイルも良く美人と言ってもいい白人女性だが、背中にかかるくらいの髪を青赤紫の3色に染め上げ、身体の至る所にタトゥーを入れ、それを見せびらかす様に露出の多い服を好む。

ハードロック好きで、メビィとは気が合っている。

 

カシュー・エンガー・・・・・ゲーディア皇国軍パイロット。階級・中尉。宇宙暦172年生まれ。

☆メビィたちが所属するアンリ・マーユ要塞防衛軍第11機動装甲師団(兵団)第32機動装甲兵連隊第5戦隊第4小隊、通称「エンガー小隊」の隊長。

いつも眉間にシュワを寄せ、苦虫を潰した様な表情をしているため実年齢より老けて見られ、表面上には出さないが内心気にしている模様。だが、他の者からは威厳に満ちた風格があると評されている。

小隊内に命令を無視して単独で突っ込む者と、奇抜なファッションや言動が目立つ者を抱えて苦労が絶えないが、彼らからは一定の信頼を勝ち取っても居る。

 

【兵器】

☆機動装甲兵「Maneuver・Armor・Soldier(マヌーバー・アーマー・ソルジャー)」

ゲーディア皇国軍が極秘裏に開発した人型汎用機動兵器。通常は「M・A・S」や「ソルジャー」と呼ばれている。

【編制】

「機動装甲兵団(師団)」

兵団(師団)司令部と3個連隊で編成。M・A・S×240機。

番号・軍全体を通しての通し番号。

「連隊(機動装甲兵連隊)」

隊司令部と5個戦隊で編制。M・A・S×80機

番号・軍全体を通しての通し番号。

「戦隊(ソルジャー戦隊)」

隊司令部と4個小隊で編制。M・A・S×16機

番号・各連隊内での通し番号。

「小隊(ソルジャー小隊)」

2個分隊で編制。M・A・S×4機

番号・各戦隊内での通し番号。

分隊(ソルジャー分隊)」

長機と僚機の2機編制。 M・A・S×2機

番号・各小隊の内の番号・記号(小隊内で独自に決めている隊もある。例・エンガー小隊の第1分隊はf分隊、第2分隊はff分隊と呼称)。

アンリ・マーユ戦5

開戦から戦場全体が異様な空間となってはいた。が、連合遠征艦隊は秩序を保って敵要塞に向けて進行していた。A・B・Pによって主砲、副砲に使われているエネルギービームは無効化され、妨害電波によって誘導兵器や通信網が制限された戦場で、しかし皇国も要塞周辺に戦力を出すわけでもなく、主だった動きがないまま時間だけが過ぎていく状態であった。

連合軍将兵にとっては艦隊の周囲を飛ぶA・B・Pを散布しまくるダミー岩石は忌々しい存在であり、かといってダミーだと思っていると本物の岩石が混ざってもいて、おいそれと当たることも出来ない。主砲等とは別の原理である近接戦闘用のレーザー兵器はこの状況下でも使用はできるが、有効射程は近距離に制限されていて艦船の近距離を飛ぶ岩石は攻撃できるが、それはA・B・Pの散布を手伝うか、無駄なエネルギーを使って岩石を砕くだけであり、遠征艦隊としては、八つ当たりにも見える幼稚な事をするよりも、一刻も早く敵要塞に肉薄して揚陸艇を使って要塞内に部隊を突入させる方が建設的と、ダミーの存在を無視して前進するのだった。

だが、連合のこの行動は皇国軍によって導かれた結果だという事に、彼らは最後の瞬間まで気付く事はいなかったのである。

9:45

事態は大きく動く事となる。今まで破裂する度にA・B・Pを散布し続けていた岩石ダミーが、突如別のものを出してきたのである。それは人の形をしたもので、最初それを目の当たりにした連合将兵たちはこう思った。「パワード・スーツが出て来た」と。

パワード・スーツ】とは、連合軍の重装甲歩兵部隊が使う装甲服である。歩兵の戦闘力強化のために開発されたもので、機械的な補助システムによって通常では扱えない重火器を扱え、全身を包む装甲は一般歩兵の携帯火器や、砲弾の破片から兵士を守って生存性を高めている。更に背部にバーニアを装備したものもあり、大ジャンプや短距離の飛行も出来るものもあって空挺団などにも配備されている。

大きさは当初2m強ほどだったが、その後内蔵型の武装や外部取り付け武装などのものも開発され、今では3mまで大型化している。

しかし宇宙用のものは開発されてはおらず、宇宙空間を飛び回るパワード・スーツを目の当たりにした連合軍将兵たちは驚きを隠せなかった。が、それらが装備しているバズーカ砲やロケットランチャーと酷似した武器での攻撃が始まると、そんなもので戦闘艦の装甲を貫通させることは出来ないと嘲笑する者もいたが、すぐにその表情は凍り付く事となる。それらの攻撃で艦艇が撃沈したからである。

まず彼らが皇国軍のパワード・スーツに向けた間違いは、自分たちの知っているそれと同じだと思ったことである。連合軍のパワード・スーツは3mほどに対して、皇国軍のパワード・スーツ(MAS)は全長15mに達して5倍の大きさがあり、装備している武装はどれも連合のそれとは威力が違うものである。ほぼ至近距離で対艦ミサイル(ロケット)を直撃させたようなもので、さらには艦橋や機関部などの艦船のウィークポイントとなる場所をピンポイントで攻撃する事で、絶大的な効果をもたらしたのだ。

ここで連合遠征艦隊はパニックに陥った。連合軍将兵の常識ではありえない事が次々と起こり、味方が沈んでいったからである。

遠征艦隊は狂ったように唯一使える武装である近接戦闘用(対空防御用)のレーザー機銃を乱射して皇国軍の人の形をした兵器に砲火を向けた。しかし、宇宙空間を縦横無尽に動き回る敵PSに躱され、反撃の一撃を喰らって撃沈する艦船は後を絶たなかったのだった……。

戦場は混乱の極みだった。それは「ラッキー7号」と渾名されるDY²-777も例外ではなかった。周囲では飛び回る皇国軍の巨人に味方が次々撃沈され、もたらされる報告はどこそこ所属のなになにが撃沈しただのという報告がもたらされるばかりである。

10:10

通信士のサーサが驚愕の表情で、入ってきた通信を読み上げる事が出来なくなる。

 

「如何したラブレット少尉! 何があった!?」

「か、艦長……。第9艦隊旗艦「リーズ」が撃沈され、司令官、サイモン・ファイリ中将が……戦死したと……」

 「嘘だろ!? 艦隊旗艦は最新の弩級戦艦だぞ! それが沈んだって……」

 

ブランは、連合軍の技術の粋を集めて建造された最新鋭戦艦である「ギーリス級」の撃沈報告に、驚きの表情で呟く。

 

「最新鋭だろうと沈む時は沈む。各員、今は自身の責務に専念しろ!」

 

ベクスはうろたえるブランだけではなく、艦橋クルー全員に言い聞かせるように指示を出す。

すると、船務士のトムが声を荒げる。

 

「艦長! 前方より敵PSが接近!」

 

トムの声に艦橋内に緊張が走る。1機のPSが急接近して来たのだった。

 

「対空防御!」

 

ベクスが命令一下、近接(対空)戦闘用連装レーザー砲が火を噴く。だが、敵の巨大PSはそれを不規則な動きで躱していくと、あっと言う間に艦橋部に肉薄されてしまう。手に持ったバズーカ砲を構え、あとは引き金を引くだけの状態となった次の瞬間、何故か敵PSは何もせずにその場を離脱する。

死を覚悟していたベクスたちDY²-777のクルーたちは、全身から力が抜け、大きくため息をつく。

しかし何故見逃したのだろうか? ベクスたちがそう思っていると、例のPSが味方の航宙艇2機の攻撃に遭い、その時もっていたバズーカを投げ捨てて、サブマシンガンに似た別の武器に持ち替えて2機とも撃ち落としていた事で、あのバズーカが弾切れだったのだと分かる。

 

「弾切れかよ……脅かしやがって」

「で、出も、やっぱりこの艦はラッキー7号ですね」

「そうだな」

 

敵の弾切れのお陰で命拾いした艦内に安堵感が漂うが、副艦長の一言で吹き飛ぶ。

 

「まだ戦闘は終わってないぞ! 気を抜くな!」

「「「イ、イエッサー!」」」

 

命の危機を乗り越え一息ついていたクルーたちだったが、ビオラの檄に背筋を伸ばして再び緊張感を高めるクルーたちだった。

だが、そのビオラ自身も脚が微かに震えているのをベクスは見逃さず、鬼の副艦長も人の子だなと内心ほくそ笑むのだった。

10:15

さらに第5艦隊旗艦「リパーブル」と第10艦隊旗艦「ジェーンバラ」がほぼ時間差が無く撃沈され、それぞれの艦隊司令官フィリップ・ポー、ジャック・スモール両中将も戦死した。

ダミー岩石の中から次々と出て来た敵の巨大PS(パワードスーツ)は、出たとこ勝負のように周囲の艦艇に無差別攻撃を加え、持ち弾薬が無くなるとさっさとアンリ・マーユ要塞に戻って行くという闘い方をしていた。そのため出現から30分ほどで周囲から敵PSの姿がいなくなっていき、艦艇の撃沈報告も入らなくなっていく。

10:20

戦闘開始から35分、遠征艦隊は戦力の18%を失い、さらに3人の艦隊司令官が戦死するという損害を受けた。だが遠征艦隊総司令部は、戦死した3司令官の指揮していた艦隊を生き残った各艦隊に編入させて再編する命を出す。あくまで当初の作戦通りにアンリ・マーユ要塞攻撃を強行すると各艦隊に通達したのだった。

10:23

艦隊の再編が始まる最中、艦隊後方が攻撃される。なんと敵のPSが攻撃して来たのである。

一体どこにいたのか? と、多くの連合軍将兵は驚愕したが、答えは簡単である。ダミー岩石の中には破裂せずに艦隊を素通りしたものがいくつかあり、その中にもPSが潜んでいて、彼らが背後を突いたのである。攻撃すればABPが散布されるか岩石を削るだけだと思って、唯一使えたレーザー機銃で攻撃しなかった付けが、ここに来て遠征艦隊に災厄の結果をもたらしたのである。

ここに至って遠征艦隊総司令官アクセロ・トリュード大将は各艦隊に作戦の中止と、撤退を指示する。が、次の瞬間、目の前にあるアンリ・マーユ要塞からエネルギービームが飛来する。ABP散布下では出来ないはずのビームで攻撃されたのである。要塞砲のビームが連合軍艦艇を次々と串刺しにしていく。

既に遠征艦隊は要塞の射程圏内にまで入っていたが、要塞周辺はABPが低濃度でしか散布されておらず、更に皇国軍の奇襲によるパニックによりABPの霧が晴れた事に気付かなかった遠征艦隊は、不意打ちの様に攻撃を受ける事になる。

 

「馬鹿者! ABPが消えた事を何故報告せん!」

 

この言葉は総司令官アクセロ・トリュード大将が索敵担当の士官を叱責した時の言葉である。この直後に要塞砲のビームが第2艦隊旗艦「イグランド」に直撃し、船体が大きく損傷した。これが合図かのように次々とビームの直撃を受けたイグランドは船体を維持する事が出来ず、トリュード大将は各員に避難を支持し自らも脱出しようとしたが、直後に直撃したビームによってイグランドは轟沈、爆散してトリュード大将も戦死したのだった。

総司令官戦死は、遠征艦隊をいよいよ瓦解の危機へと陥れた。総司令官の任を継いだ第6艦隊司令官ロイ・バルトマ中将は、「とにかく撤退せよ!」と全軍に命令した後、自身が率いる第6艦隊の残存艦艇だけを引き連れ一目散に逃げだしてしまった。後任の総司令官がとっとと逃げてしまったことで、司令官を失っていた他の艦隊は各々戦隊長や艦長の判断で秩序なく逃走を開始、撃沈されるもの、降伏するものが続出し、もはや遠征艦隊は軍隊の体をなさなくなってしまったのである。

そんな中、第12艦隊司令官マディア・ベルヘム中将は、流れで殿を務める羽目になったが、搭乗艦「コンスラート」に数発の被弾を受けながらも、周辺の艦艇をまとめ上げつつ撤退する事に成功するのだった……。

アンリ・マーユ戦4

宇宙暦197年8月26日9:00。ゲーディア皇国摂政、ネクロベルガーの宣戦布告演説と時同じくして、ゲーディア皇国対外政策局は、エレメスト統一連合政府に対して最後通牒を突きつけて宣戦布告する。

皇国の宣戦布告を受けて、連合政府は直ちに前線に赴く遠征艦隊司令部に報告。それを受けて艦隊司令部は全艦隊に第一種戦闘配備を命じるのだった。

元々連合は惑星標準時の正午までに、遠征軍6個艦隊をもって要塞アンリ・マーユを完全包囲し、皇国に対して最後通告として12時間の猶予を与え、その間に何らかの回答が得らえなければ戦端を開く構えだったが、皇国に先手を打たれる形で開戦となった。

戦端が開かれると同時にアンリ・マーユを中心に周辺に強力なジャミングが発せられ、遠征艦隊のレーダーや通信、誘導兵器の使用が制限される。しかし、その後は皇国からの直接的な攻撃は無く。岩石群に囲まれたアンリ・マーユは不気味な静けさを守り続けた。

9:10

連合軍遠征艦隊は、第一戦闘配備のまま全速力でアンリ・マーユに接近しつつ艦隊を左右に展開、急展開で包囲を完成させつつ要塞占拠の為の揚陸部隊の準備を進める傍ら、要塞周辺に配備された岩石群の除去のため編制中だった工作部隊の編成を急がせる。

9:30

工作部隊の編成が終わり、工作艇を出そうとしたとき、皇国軍に動きが現れる。要塞周辺の岩石群の一部が遠征艦隊に向かって放たれたのである。

突如として行われた岩石ミサイル(ロケット?)攻撃に対して艦隊は主砲のビームによる岩石の迎撃を開始する。

戦艦、巡洋艦を中心に無数の光の筋が放たれ、比較的ゆっくりと向かってくる岩石群を次々と消滅させていく。岩石と思われていたものは単なるダミーバルーンで、ビームの熱によって次々と蒸発していった。

しかし、消滅した岩石の変わりに大量の、「アンチ・ビーム・パウダー【Anti・Beam・Powder】」が放出され、戦場全体を満たす様に広がって行く。

これによって連合・皇国両軍は誘導兵器とビーム兵器の両方を使用不可能となり、遠征艦隊司令部では皇国軍の真意が分からず一時混乱したものの、当初の作戦通りという何の変更のない行動に出る。

9:40

遠征艦隊は「A・B・P」が異常なほどの高濃度に散布された後も、次々とダミー岩石を放って来る。もはやダミーバルーンであり、内部には大量の「A・B・P」が詰まっている岩石を無視して前進するが、一定の時間ないし距離になったら破裂するよう設定されている様で、その後も自動的に破裂しては「A・B・P」が散布され続けて、通常であれば1,2分程度で効力を無くす「A・B・P」が、常に一定の濃度を保つという結果になっている。

そんな中、最初の被害が報告される。巡洋艦「フース・ターム」が、ダミーバルーンだと思って回避運動をせずに岩石に体当たりしたところ、本物の岩石だった為に船体を損傷するという被害を受けたのである。程度としては小破程度の損傷であったが、それを皮切りに、あちらこちらの艦隊で被害にあう艦船の報告が艦隊司令部に届く。

隊司令部は慌てて岩石を回避するように厳命するも、ジャミングの影響での連絡の混乱もあり、計178隻もの艦船が損害を受け、そのうち駆逐艦3隻、巡洋艦1隻が大破するという事態になるのだった……。

 

 

 

ゲーディア皇国軍パイロット「メヴィ・ヘルター」は、ネクロベルガー総帥の宣戦布告演説を、自機の狭いコックピットの中で効いていた。狭いと言ってもコックピット内には大人が3人が無理をすれば入れる広さはある。が、狭いと言われれば狭いのである。

演説が終わり、戦争が開始されたにもかかわらず、周囲は静かでメヴィには戦闘が始まったという実感も湧かず、只ボーっとにシートに背を預けて出撃の時を待つ。

コックピット内は、生命維持や通信などの必要最低限の機能だけが生きていて他はダウンしているので可なり薄暗く、暇を持て余したメヴィはその薄暗くて静かな環境を利用して、精神統一するため目を閉じ瞑想を始める。眠ってしまいそうな状態ではあるが、現在外で起こっている状況を鑑みれば、逆に緊張による興奮状態と言った方がよく。其れを落ち着かせるためにも彼は瞑想に入る。

時間的にはどれ位たったのだろうか。瞑想を始めて体感で十数分したところで通信が入り、瞑想時間が中断される。通信相手は同じ小隊のパイロットである「ジャス・ヴィングス」伍長である。大柄の黒人で見た目は厳ついが、少々気弱なところがあり、パイロットとしての腕は悪くないが、基本に忠実で生真面目な人物である。

 

『軍曹、ヘルター軍曹』

 

メヴィはどうせ暇を持て余しての通信だろうと初めは返事をしなかったのだが、しつこく声を掛けてくるので、此方も暇を持て余している身のため相手をすることにした。 

 

「如何した伍長」

『やっと返事した……』

 

返事が返ってくるのが遅い事に不満の色を見せながら、ジャス伍長は会話を続ける。

 

『ちょっと遅くないですか? 本当に戦争始まったんですかね?』

「総帥の演説聴いてなかったのか?」

『聞いてましたよ。でも全然何も起こらなんですけど』

「お前作戦の概要知ってんのか?」

『知ってますよ! 馬鹿にしないでください!』

「だったら心配するなよ。俺たちは待ってればいいんだよ」

『ですが……。あれからもう40分以上たってるんですよ。流石にトイレ行きたくなっちゃいましたよ』

 

するとそこに別の人物から通信が入る。

 

『おやおや、ヴィングスちゃんは作戦開始前にトイレに行ってないんですか? 駄目な子ですね』

『だ、誰がダメな子ですかスタッハード伍長! 言っときますけど我々がコックピットの中で待機して彼此2時間位になるんですよ! トイレにも行きたくなります』

 

通信に割り込んで来たのは同じ小隊の「ローク・スタッハード」伍長で、いつも明るく細かい事を気にしない性格で、青、赤、紫に染めた髪に身体の至る所にタトゥーを入れた女性パイロットで、生真面目なジャスを何時も揶揄っている。

 

「トイレならここでしちまえ、パイロットスーツにはそういった機能もある事ぐらい知ってるだろ?」

 

パイロットスーツには長時間の任務中の生理現象に対応するために、そう言った装備も施されている。

 

『嫌ですよ!』

『ジャスちゃん漏らしてもいいんだよ』

『誰が漏らしますか! そういうスタッハード伍長は如何なんですか!』

『あたし? もうしちゃったけど』

「えっ!」

『エッ!』

 

ロークの驚きのカミングアウトに、メヴィは思わずジャスと共に驚きの声を上げるが、当の彼女は冗談だと言わんばかりにふたりの反応に大笑いする。

 

『それより軍曹。何か音楽かけてくださいよ』

「あん? ああ……あれか、あれは俺が戦闘中に上がるために聞いてるだけだって知ってるだろ」

『ええー、だから軍曹はいつも一人でどっか行っちゃうじゃないですか。アタシ、軍曹の音楽センス良いと思ってたんで、聞きたいなーって』

『おい軍曹』

 

ここで、今まで小隊メンバーの会話を沈黙をもって聞いていたであろう小隊長が会話に入ってくる。

 

『軍曹、これは実戦だ。練習の時の様に単独で突っ込むなよ。命令だぞ』

「分かってますとエンガー中尉殿」

 

メヴィが所属している小隊の隊長「カシュー・エンガー」中尉は御年25歳とまだまだ若いのだが、何時も苦虫を潰した様な顔をして眉間にシュワを寄せている為、見た目はずっと老けていてベテランパイロットの様な風格がある。なので怒ると普通に怖い人物である。

エンガーは、メヴィの言葉に思うところがあるがそれ以上口を挟まなかった。と言うか挟めなかったというのが正解かも知れない。その直後にガタンと何かが外れる音がし、機体が揺れだしたのだ。これは出番が来たという合図で、小隊メンバーたちから会話が無くなる。顔は見えないが、みな一様に緊張しているであろうことは分かる。メヴィは何時でも発進出来る様に機体の起動手順を始める。

いよいよだな……。

メヴィは緊張の面持ちで起動手順を踏み、低い電子音と共に機体の全機能が動き出したことを全身で感じとる。薄暗かったコックピット内が明るくなり、同時にメヴィの目の前のモニター画面にガスマスクを付けた兵士の様な異様な姿のものが映し出される。

機動装甲兵【マヌーバー・アーマード・ソルジャー「Maneuver・Armored・Soldier」】一般的には略称の「M・A・S」或いは「ソルジャー」と呼ばれる人型機動兵器で、皇国軍が極秘裏に開発した新兵器である。

全長は15m、体重33t、歩兵の様に手持ち武器を切り替えて多目的な作戦に従事できる汎用性と、宇宙空間での機動性、新技術によって開発された合金による複合装甲による耐久性など、あらゆる新技術を盛り込んで開発された兵器である。

メヴィ達が乗っている機体は「ア・クー」という愛称が付けられた機体で、型式番号はMAS-001Cb/A2である。

するとモニター画面の隅にカウントダウンが表示される。

 

『そろそろ時間だ。お前たち、訓練通りにやればいい。敵を倒す事では無くて生き残る事だけを考えろ』

 

隊長のエンガーの言葉にジャスもローグも「了解」と了承したが、メヴィは敢えて返事はせず、隊長もその事に一々問いただす事もない。 

カウントダウンが0になり、真っ暗だった周囲が暗幕を一気に降ろされたが如く星々がきらめく宇宙空間になる。

目の前に広がる宇宙空間、その中で人気は目に映るのはエレメスト統一連合政府の遠征艦隊の艦艇群の姿である。

彼らは連合艦隊の真っ只中に放り出されたのである。

 

「なるほど、濃いな」

 

メヴィは測定器を見て、この宙域のA・B・Pが異常濃度になっていることを確認する。

それが終わると自分が持ち込んだ機器に手を伸ばしてスイッチを入れる。機体内にヘビメタの爆音と奇声が流れる。それに触発される様にメヴィも奇声を上げる。

 

「行くぞ行くぞ行くぞォォォォォォ!!! イェァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!」

 

奇声を上げたメヴィは、隊長の命令を忘れて単機で連合軍艦隊の真っ只中に突貫していくのだった……。

アンリ・マーユ戦3

宇宙暦197年8月26日。

ネクロベルガーの宣戦布告演説が終わった直後、遠征艦隊全体に司令部から第一種戦闘配備が通告され、遠征艦隊は要塞を包囲するように左右に展開しつつ前進する。更にその直後にレーダーがホワイトアウトし、司令部や各艦隊との通信が遮断された。

原因はアンリ・マーユ要塞から発せられた強力なジャミングである。そのため広範囲にわたってレーダーや通信、誘導兵器の機能を阻害され、武装がミサイル主体のラッキーセブン号は戦闘力を半減させられたようなものであった。

 

「こっちの強みを潰したか……」

 

ベクスはジャミングでレーダーがホワイトアウトし、他の感とも通信が出来なくなったとの報告に舌打ち混じりに呟く。

 

「当然の処置です。予想できたはずですが……」

「分かってるよ。他の艦との連絡はレーザー通信で、此方から連絡艇を飛ばす事は無いだろうが一様用意しておけ」

「了解」

 

ビオラの指摘に言われなくてもと思いつつ、ベクスは命令を発する。

 

「心配しなくてもこっちにはビーム砲が装備されてますって」

 

ブランが2度目の改装の際に装備された127㎜単装ビーム砲を自慢するかのように会話に入ってくる。

 

「でも単装一基では弱くないですか?」

「それはそれおれの操船技術で……」

「お前たち! 戦闘は始まってるのだ静かにしろ!」

 

単装砲一基だけの装備に不安がるサーサに、ブランが自身の操船技術を誇示するような言葉を発しようとするが、それはビオラの怒号で阻止させられる。

こうして「ラッキーセブン号」艦橋内は静かになる。

一旦静かになると、ベクスを始めクルー達に言い知れぬ緊張が現れる。一分一秒がこんなにも長く感じた事が無いと思うくらい時間の経過が遅く感じられて仕方なかった。

今回の遠征は連合政府から独立自治権を許されておきながら、軍備を拡張して世界に要らぬ緊張をもたらす態度を取り続ける皇国に対しての遠征だあったが、その圧倒的ともいえる戦力に戦わずに敵は降伏するという風潮が遠征艦隊内に蔓延していて、その事をベクスは危惧していたのだが、いざ開戦となると自分自身の中に戦争が起きてしまったことに未だに現実味を帯びていない事に気付く。

おれも他の奴らと同じだな……。

自身の心の中に戦争は起らないという楽観した気持ちがあったことに、ベクスは正直苦笑してしまいたいくらい愚かだったとも思ったが、今はそれよりもこの戦場を生き残ることが先決と意識を敵要塞に集中する。

 

「ああーー!!」

 

突然、ブランが雄叫びを上げたため、ベクスは驚いて巨漢の操舵士に顔を向ける。

 

「チョット驚かせないでくださいよ中尉!」

「そうですよ。心臓が飛び出すかと思いましたよ!」

 

サーサとトムが自分たちを驚かした操舵士に抗議し、ベクスは心臓をドキドキさせながら言葉には出さなかったが彼女たちに賛同した。

すると、艦長席のひじ掛けに置いていた腕をビオラが掴んでいる事に気付いて彼女を見る。

 

「し、失礼しました」

 

ビオラは自分が艦長の腕を掴んでいる事に気付くと、軽く誤って手を離し、照れ隠しか軍帽を目部下に被りなおす。流石の鬼の副長も驚いたらしい。

この艦に限らず、今回の遠征に参加した将兵の中で実戦を経験した者は多くない。4年戦争勃発から45年、終戦から41年、それほど立つと嘗ての将兵の殆どが退役してしまっている。いくら軍人家系で厳しく育ったとはいえ、今回の初めての実戦、緊張して当然である。そこにあの雄叫びである。驚いて当然である。

ベクスは結構可愛いとこあるじゃないか。と思いつつも、今はそんなことをしている場合ではないと気持ちを切り替える。

 

「リヴァル中尉、こんな時にふざけるなよ」

「だって艦長。あいつら宣戦布告したくせに全然動かないじゃないですか」

 

確かにブラウの言うとおりである。開戦から10分が経過したが皇国がやった事と言えばジャミングでレーダーや通信を阻害しただけで、未だに戦闘艦一隻も発進していないのである。これは如何見てもおかしい。

一体的は何を考えているのか……。

ベクスが皇国軍の普通では考えられない行動を取っている事に疑問を持ちつつも、敵の狙いが何なのか分からず苛立ちだけが募って行く。

何故動かないのか? あの要塞の周囲にある岩石群は何なのか? 敵は我々を待っている? 頭の中を色々な可能性と疑問とがごっちゃになって目まぐるしく交錯する。

本来ならこういう事は艦隊司令部が行うものだが、ベクスは自身でもそういった考察をし、命令と照らし合わせつつ勝つための、或いは生き残るための行動を取るのである。

だが今回は敵が何もしてこないのである。艦隊から要塞に肉薄するには要塞との距離的と艦隊の進行速度で計算するに約一時間程かかる。そこから揚陸艇を出し、要塞内に陸戦部隊を送りこんで制圧する。これが目下の遠征軍の作戦である。

通常であれば敵の防衛艦隊との間に艦隊戦が展開し、それを蹴散らし、要塞の砲撃やミサイルに晒られつつも揚陸艇を発進させるというものだが。今回は敵の防衛艦隊は皆無である。その代わりと言っては何だが岩石群があるが、これは揚陸艇を発進させるには邪魔だが工作部隊によって容易に退かすことも出来る。多少時間はかかるだろうが苦ではない。まさかその時に基地から砲撃をするのか? いやそれも現実ではない。艦隊の攻撃で要塞の砲台を破壊すればいい事なのだから。

考えすぎだ、俺らしくない。

何があっても結局は自分が出来る事は限られているのだから、やれることだけをやればいい。と、取り合えず開き直って余計な事を考えるのを止めた。 昔はともかく今はそうしているのだから……。

 

「艦長! 前方、要塞から岩石群が飛んできます!」

 

開戦から約30分が経過したころ、トムから皇国軍に動きがあったことを告げる報告がなされる。しかもそれは要塞周辺にある岩石を飛ばしてきたというのである。

 

「石っころ投げて来たのか? 原始人だな彼奴ら、これなら文明人の俺らの勝ちだな」

 

皇国軍が岩石が飛んで来たことに対してブランがいち早く皮肉を言う。

結局飛んできた岩石群は、艦隊の前衛艦隊のビーム砲によって尽く消滅した。

 

「フン、石っころ位で最強の連合軍艦隊が倒せるかよ!」

「いや待て、いま消滅したって言ったよな」

「は、はい。岩石はビームの熱で消滅しました」

 

トムからの報告にベクスは思はず席から立ち上がる。

 

「艦長?」

「あれは岩石なんかじゃないダミーだ!」

「ダミー? あゝ確かに幾ら高温のビームだからって岩が消滅なんかしないか。砕けるだけだよな」

 

アンリ・マーユ要塞周辺の岩石は岩に見せかけたダミーだった。では一体何でそんな手の込んだことをした? 新の疑問がベクスの頭を持たれかけた時、その答えが報告される。

 

「か、艦長! 戦域全体にアンチ・ビーム・パウダーが急速に散布されています! いったいどこから……」

「どこからって、単純に考えればあのダミーに詰まってたって事だろ!」

 

ブランの言葉にベクスも同意見だった。 

アンチ・ビーム・パウダー【Anti・Beam・Powder(A・B・P)】は、磁気を帯びた細かい粒子を散布する事によってビームの拡散消滅させる対ビーム防御用の兵器である。但し、一度散布されると空間周囲に拡散してものの1,2分で効果を消失してしまうので、艦船などがビーム攻撃からの一時凌ぎで散布するものである。

だが、今回直径20m前後の岩石ダミーに詰められたA・B・Pが艦隊のビーム砲の直撃で破裂して周囲に一斉散布され、さらに無数のダミーが次から次に破裂したことで超高濃度のA・B・P場が出来てしまい、艦隊は誘導兵器に続いてビーム砲も使用不可になってしまった。

 

「これが狙いか!」

「か、艦長? 何か分かったのですか?」

「彼奴らはおれたちの攻撃手段を封じたんだよ」

「ですがそれでは敵も攻撃できませんが、それに何の意味が……」

 

確かにビオラの言う通りで、ジャミングとA・B・Pで攻撃を封じられるのは連合軍遠征艦隊だけではなく、皇国軍もその影響を受けてしまうのである。これでは両者戦闘出来ずにただズルズルと何もできずに時間だけが過ぎていくことになる。

 

「このままなら我々は敵の攻撃を受けずに要塞に肉薄できますし、工作部隊も揚陸部隊も安全に作戦を行う事が出来ます」

「本当にそう思うか?」

「……ふぅ……思いません」

 

溜息交じりにビオラは応え、ベクスもそれに同意するように頷く。

そして皇国軍の一連の不可解な行動に何の意味があるのか、終始疑問しか出てこないのだった……

アンリ・マーユ戦2

モニターに映る第243駆逐隊司令は、憮然とした表情をしていた。

 

「僕はポークではない! ポートだ!」

「ああ済まない。間違えた」

「ワザとだろうが! いつもいつもお前は……」

 

隊司令の丸みを帯びて膨張し、両頬の肉が垂れ下がった顔は怒りの言葉を発する度にブルブル震える。その膨張したブルドックの様な顔を見るだけで、モニターに映っていない体系も容易に想像できる。

ブルドッ……ポート司令は、自身が指揮する隊の一隻が勝手に戦闘配備を始めた事と、その艦の艦長に呼びつけられた事に不満を隠すことはなかったが、部下の艦長の話を一様最後まで聞く。

 

「それで、貴様は皇国が戦端を開くと?」

「その可能性は大きいと思うんだが……」

「いつもの感か?」

「俺の感はよく当たるってお前も知ってるだろ?」

「お前ってな、僕は上官だぞ! いくら同期だってなれなれしくするな! 敬え!」

 

ポークことグンタフ・ポート中佐はベクスの宇宙軍士官学校時代の同期である。ベクスが少佐に昇進して駆逐艦の艦長になった時期には、彼は大尉で別の駆逐艦の副長をしていた。その後、とある問題でベクスが大尉に降格して輸送艦の艦長になって燻っている間に、彼は昇進を重ねて駆逐隊司令にまでなったのである。

因みに、隊(小隊)は同じ艦が4隻集まって形成される連合宇宙軍の最小艦隊編成で、戦艦なら戦艦隊、航宙母艦なら航宙隊、巡洋艦なら巡洋隊、そして駆逐艦が駆逐隊と呼称される。が、基本的には隊(小隊)単体で行動する事は偵察・哨戒任務に就く事が多い駆逐隊(稀に巡洋隊が付くことも)くらいで、他の隊は単独で行動する事は無く、幾つかの組み合わせっで戦隊を形成し、その戦隊単位で任務にあたる事が殆どである。

 

「あ、悪かった悪かった。ポーク司令殿」

「ポークじゃなくてポートだ!」

 

艦長と隊司令の会話に周りのクルーたちは可笑しくて笑いをこらえるのに必死になっていて、副長のビオラも、その事に気付いて注意したいのだが、モニター越しに居る隊司令の前では憚られると表情を強張らせるにとどまる。

 

「俺みたいな一艦長の意見じゃ司令部も取り合ってくれないだろうからな」

「それは一隊司令の僕だってそうだと思うが……」

「だったら戦隊司令に報告してくれ、其れならいいだろ」

「それはそうだが……」

 

通常、下の者が直属の上司に報告し、その上司が上に報告するというものだが、これだと途中で上申の必要なしと判断されてしまうとそこで途切れてしまう。この危険を回避するためには下の者が直接最上位に報告するのがいいのだが、それはそれでその間にいる上官との確執を生むことになるし、最上位者にそう簡単に会う事や聞き入れてもらう事が難しい。これらのことを踏まえたうえで、ポートは太いソーセージの様な指で自らの顎をさすりながら考え込む。

 

「一様報告はする」

 

ポートは同期の誼でベクスの感を信じて報告する事を告げる。

 

「艦隊司令部まで届くかはわからんぞ。それに、司令部がそんなこと考えていないとは思えないけどな」

「それだったら別にいい、今回の遠征はなまじ相手を圧倒する戦力だから相手は闘わずして降伏すると、戦争は起らない雰囲気に包まれている気がしてな」

「まぁ、それは……」

 

ベクスの指摘にポートは歯切れの悪い相槌を打たので、彼もその一人であったことが分かって内心呆れる。

 

「それじゃあ、頼みましたよポーク中佐殿」

「ポークじゃ—――」

 

最後に悪戯する子供の様にポートを怒らせてから通信を切らせたベクスは、思わずニヤニヤしてしまうのだが、隣のビオラの形相を見て自分の餓鬼っぽさを反省する。

 

「それで、如何します艦長?」

 

副長の怒り交じりの質問に、生きた心地がしないながらもここは艦長らしくは出来ないか……トホホ。

 

「勝手な事はするなと言われたからな……このままでいいだろう」

「分かりました」

 

一様、報告すべきことはしたとしてラッキー7号は大艦隊の真っ只中で唯一第Ⅱ種戦闘配備のままで司令部からの回答を待つ。

 

「艦長! アンリ・マーユ要塞に通常通信が入っています!」

 

突如、通信士のサーサがアンリ・マーユ要塞に皇国本星からの通信が張った事を報告する。

 

「通信? 暗号化?」

「いえそれが……通常通信です。しかも音声だけです」

「艦長」

「要するにおれたちにも聞いてくれって事だろう。ラブレット少尉」

「はい」

 

サーサは受信したアンリ・マーユ要塞に入った音声通信を艦内に流す。

 

『……政……ネクロ……ベルガーである』

 

驚くべきことに、通信はゲーディア皇国摂政「ネクロベルガー」からのものだった。

 

「うわ~、悪の親玉出た~」

 

ネクロベルガーの声にブランがいち早く反応する。

 

「親玉って……。もっと他に言い方無いんですか中尉」

「何だよ、そうだろ? 人権剥奪法なんてもんがある国なんて悪の国だろうがよ」

「それはそうだけど……」

 

ブランの言葉にトムは反論できずに黙り込む。そんな彼氏を助けるように今度はサーサが会話に入ってくる。

 

「中尉は言葉の響きだけで判断しているようだけど、人権を剥奪されるのは犯罪者だけですよ。理不尽に一般の市民から奪う訳じゃないんです」

「そうそう、そうですよ中尉。もっと勉強しないと」

「確かに犯罪を犯したやつは悪いけどよ。だからって人権奪っていいのかよ。人間だぜ彼奴らだって!」

「「そ、それは……」」

 

珍しく正論を言うブランに、サーサ&トムは反論できずに口ごもる。

 

「そこまでだ。お前らうるさくて何言ってるのか聞こえないぞ」

「何だよ艦長、聞いてんのかよ。以外に真面目」

「お前な、これは宣戦布告の演説だぞ。……多分」

 

初めは自信ありげに言ったものの、やはり自信がないのか「多分」という言葉を付けたしたため、クルーたちから一斉にため息をつかれる。

 

「お前たちね。俺かだって……」

「艦長、もう黙っててください」

「は、はい」

 

ビオラにピシャリと言われてベクスはシュンとしてしまう。それを見てクルーたちが一斉に笑い出すが、それに対して鬼の副長が米神を引く付かせる。

 

「お前ら一々笑ってるんじゃない!」

 

艦橋が静寂に包まれ、ネクロベルガーの演説だけがはっきりと聞こえる様になる。

 

『……この理不尽な要求に我々は断固とした態度で臨まなくてはならないのである! よって我がゲーディア皇国は、エレメスト統一連合政府に対し、宣戦を布告する!』

 

しかし、演説も佳境に入っていて、結局、途中に何を言っていたのかほとんど分からず宣戦布告の言葉を耳にするのだった……