怠惰に創作

細々と小説の様なものを創作しています。設定など思い付いたように変更しますので、ご容赦ください。

アンリ・マーユ戦2

モニターに映る第243駆逐隊司令は、憮然とした表情をしていた。

 

「僕はポークではない! ポートだ!」

「ああ済まない。間違えた」

「ワザとだろうが! いつもいつもお前は……」

 

隊司令の丸みを帯びて膨張し、両頬の肉が垂れ下がった顔は怒りの言葉を発する度にブルブル震える。その膨張したブルドックの様な顔を見るだけで、モニターに映っていない体系も容易に想像できる。

ブルドッ……ポート司令は、自身が指揮する隊の一隻が勝手に戦闘配備を始めた事と、その艦の艦長に呼びつけられた事に不満を隠すことはなかったが、部下の艦長の話を一様最後まで聞く。

 

「それで、貴様は皇国が戦端を開くと?」

「その可能性は大きいと思うんだが……」

「いつもの感か?」

「俺の感はよく当たるってお前も知ってるだろ?」

「お前ってな、僕は上官だぞ! いくら同期だってなれなれしくするな! 敬え!」

 

ポークことグンタフ・ポート中佐はベクスの宇宙軍士官学校時代の同期である。ベクスが少佐に昇進して駆逐艦の艦長になった時期には、彼は大尉で別の駆逐艦の副長をしていた。その後、とある問題でベクスが大尉に降格して輸送艦の艦長になって燻っている間に、彼は昇進を重ねて駆逐隊司令にまでなったのである。

因みに、隊(小隊)は同じ艦が4隻集まって形成される連合宇宙軍の最小艦隊編成で、戦艦なら戦艦隊、航宙母艦なら航宙隊、巡洋艦なら巡洋隊、そして駆逐艦が駆逐隊と呼称される。が、基本的には隊(小隊)単体で行動する事は偵察・哨戒任務に就く事が多い駆逐隊(稀に巡洋隊が付くことも)くらいで、他の隊は単独で行動する事は無く、幾つかの組み合わせっで戦隊を形成し、その戦隊単位で任務にあたる事が殆どである。

 

「あ、悪かった悪かった。ポーク司令殿」

「ポークじゃなくてポートだ!」

 

艦長と隊司令の会話に周りのクルーたちは可笑しくて笑いをこらえるのに必死になっていて、副長のビオラも、その事に気付いて注意したいのだが、モニター越しに居る隊司令の前では憚られると表情を強張らせるにとどまる。

 

「俺みたいな一艦長の意見じゃ司令部も取り合ってくれないだろうからな」

「それは一隊司令の僕だってそうだと思うが……」

「だったら戦隊司令に報告してくれ、其れならいいだろ」

「それはそうだが……」

 

通常、下の者が直属の上司に報告し、その上司が上に報告するというものだが、これだと途中で上申の必要なしと判断されてしまうとそこで途切れてしまう。この危険を回避するためには下の者が直接最上位に報告するのがいいのだが、それはそれでその間にいる上官との確執を生むことになるし、最上位者にそう簡単に会う事や聞き入れてもらう事が難しい。これらのことを踏まえたうえで、ポートは太いソーセージの様な指で自らの顎をさすりながら考え込む。

 

「一様報告はする」

 

ポートは同期の誼でベクスの感を信じて報告する事を告げる。

 

「艦隊司令部まで届くかはわからんぞ。それに、司令部がそんなこと考えていないとは思えないけどな」

「それだったら別にいい、今回の遠征はなまじ相手を圧倒する戦力だから相手は闘わずして降伏すると、戦争は起らない雰囲気に包まれている気がしてな」

「まぁ、それは……」

 

ベクスの指摘にポートは歯切れの悪い相槌を打たので、彼もその一人であったことが分かって内心呆れる。

 

「それじゃあ、頼みましたよポーク中佐殿」

「ポークじゃ—――」

 

最後に悪戯する子供の様にポートを怒らせてから通信を切らせたベクスは、思わずニヤニヤしてしまうのだが、隣のビオラの形相を見て自分の餓鬼っぽさを反省する。

 

「それで、如何します艦長?」

 

副長の怒り交じりの質問に、生きた心地がしないながらもここは艦長らしくは出来ないか……トホホ。

 

「勝手な事はするなと言われたからな……このままでいいだろう」

「分かりました」

 

一様、報告すべきことはしたとしてラッキー7号は大艦隊の真っ只中で唯一第Ⅱ種戦闘配備のままで司令部からの回答を待つ。

 

「艦長! アンリ・マーユ要塞に通常通信が入っています!」

 

突如、通信士のサーサがアンリ・マーユ要塞に皇国本星からの通信が張った事を報告する。

 

「通信? 暗号化?」

「いえそれが……通常通信です。しかも音声だけです」

「艦長」

「要するにおれたちにも聞いてくれって事だろう。ラブレット少尉」

「はい」

 

サーサは受信したアンリ・マーユ要塞に入った音声通信を艦内に流す。

 

『……政……ネクロ……ベルガーである』

 

驚くべきことに、通信はゲーディア皇国摂政「ネクロベルガー」からのものだった。

 

「うわ~、悪の親玉出た~」

 

ネクロベルガーの声にブランがいち早く反応する。

 

「親玉って……。もっと他に言い方無いんですか中尉」

「何だよ、そうだろ? 人権剥奪法なんてもんがある国なんて悪の国だろうがよ」

「それはそうだけど……」

 

ブランの言葉にトムは反論できずに黙り込む。そんな彼氏を助けるように今度はサーサが会話に入ってくる。

 

「中尉は言葉の響きだけで判断しているようだけど、人権を剥奪されるのは犯罪者だけですよ。理不尽に一般の市民から奪う訳じゃないんです」

「そうそう、そうですよ中尉。もっと勉強しないと」

「確かに犯罪を犯したやつは悪いけどよ。だからって人権奪っていいのかよ。人間だぜ彼奴らだって!」

「「そ、それは……」」

 

珍しく正論を言うブランに、サーサ&トムは反論できずに口ごもる。

 

「そこまでだ。お前らうるさくて何言ってるのか聞こえないぞ」

「何だよ艦長、聞いてんのかよ。以外に真面目」

「お前な、これは宣戦布告の演説だぞ。……多分」

 

初めは自信ありげに言ったものの、やはり自信がないのか「多分」という言葉を付けたしたため、クルーたちから一斉にため息をつかれる。

 

「お前たちね。俺かだって……」

「艦長、もう黙っててください」

「は、はい」

 

ビオラにピシャリと言われてベクスはシュンとしてしまう。それを見てクルーたちが一斉に笑い出すが、それに対して鬼の副長が米神を引く付かせる。

 

「お前ら一々笑ってるんじゃない!」

 

艦橋が静寂に包まれ、ネクロベルガーの演説だけがはっきりと聞こえる様になる。

 

『……この理不尽な要求に我々は断固とした態度で臨まなくてはならないのである! よって我がゲーディア皇国は、エレメスト統一連合政府に対し、宣戦を布告する!』

 

しかし、演説も佳境に入っていて、結局、途中に何を言っていたのかほとんど分からず宣戦布告の言葉を耳にするのだった……