怠惰に創作

細々と小説の様なものを創作しています。設定など思い付いたように変更しますので、ご容赦ください。

アンリ・マーユ戦3

宇宙暦197年8月26日。

ネクロベルガーの宣戦布告演説が終わった直後、遠征艦隊全体に司令部から第一種戦闘配備が通告され、遠征艦隊は要塞を包囲するように左右に展開しつつ前進する。更にその直後にレーダーがホワイトアウトし、司令部や各艦隊との通信が遮断された。

原因はアンリ・マーユ要塞から発せられた強力なジャミングである。そのため広範囲にわたってレーダーや通信、誘導兵器の機能を阻害され、武装がミサイル主体のラッキーセブン号は戦闘力を半減させられたようなものであった。

 

「こっちの強みを潰したか……」

 

ベクスはジャミングでレーダーがホワイトアウトし、他の感とも通信が出来なくなったとの報告に舌打ち混じりに呟く。

 

「当然の処置です。予想できたはずですが……」

「分かってるよ。他の艦との連絡はレーザー通信で、此方から連絡艇を飛ばす事は無いだろうが一様用意しておけ」

「了解」

 

ビオラの指摘に言われなくてもと思いつつ、ベクスは命令を発する。

 

「心配しなくてもこっちにはビーム砲が装備されてますって」

 

ブランが2度目の改装の際に装備された127㎜単装ビーム砲を自慢するかのように会話に入ってくる。

 

「でも単装一基では弱くないですか?」

「それはそれおれの操船技術で……」

「お前たち! 戦闘は始まってるのだ静かにしろ!」

 

単装砲一基だけの装備に不安がるサーサに、ブランが自身の操船技術を誇示するような言葉を発しようとするが、それはビオラの怒号で阻止させられる。

こうして「ラッキーセブン号」艦橋内は静かになる。

一旦静かになると、ベクスを始めクルー達に言い知れぬ緊張が現れる。一分一秒がこんなにも長く感じた事が無いと思うくらい時間の経過が遅く感じられて仕方なかった。

今回の遠征は連合政府から独立自治権を許されておきながら、軍備を拡張して世界に要らぬ緊張をもたらす態度を取り続ける皇国に対しての遠征だあったが、その圧倒的ともいえる戦力に戦わずに敵は降伏するという風潮が遠征艦隊内に蔓延していて、その事をベクスは危惧していたのだが、いざ開戦となると自分自身の中に戦争が起きてしまったことに未だに現実味を帯びていない事に気付く。

おれも他の奴らと同じだな……。

自身の心の中に戦争は起らないという楽観した気持ちがあったことに、ベクスは正直苦笑してしまいたいくらい愚かだったとも思ったが、今はそれよりもこの戦場を生き残ることが先決と意識を敵要塞に集中する。

 

「ああーー!!」

 

突然、ブランが雄叫びを上げたため、ベクスは驚いて巨漢の操舵士に顔を向ける。

 

「チョット驚かせないでくださいよ中尉!」

「そうですよ。心臓が飛び出すかと思いましたよ!」

 

サーサとトムが自分たちを驚かした操舵士に抗議し、ベクスは心臓をドキドキさせながら言葉には出さなかったが彼女たちに賛同した。

すると、艦長席のひじ掛けに置いていた腕をビオラが掴んでいる事に気付いて彼女を見る。

 

「し、失礼しました」

 

ビオラは自分が艦長の腕を掴んでいる事に気付くと、軽く誤って手を離し、照れ隠しか軍帽を目部下に被りなおす。流石の鬼の副長も驚いたらしい。

この艦に限らず、今回の遠征に参加した将兵の中で実戦を経験した者は多くない。4年戦争勃発から45年、終戦から41年、それほど立つと嘗ての将兵の殆どが退役してしまっている。いくら軍人家系で厳しく育ったとはいえ、今回の初めての実戦、緊張して当然である。そこにあの雄叫びである。驚いて当然である。

ベクスは結構可愛いとこあるじゃないか。と思いつつも、今はそんなことをしている場合ではないと気持ちを切り替える。

 

「リヴァル中尉、こんな時にふざけるなよ」

「だって艦長。あいつら宣戦布告したくせに全然動かないじゃないですか」

 

確かにブラウの言うとおりである。開戦から10分が経過したが皇国がやった事と言えばジャミングでレーダーや通信を阻害しただけで、未だに戦闘艦一隻も発進していないのである。これは如何見てもおかしい。

一体的は何を考えているのか……。

ベクスが皇国軍の普通では考えられない行動を取っている事に疑問を持ちつつも、敵の狙いが何なのか分からず苛立ちだけが募って行く。

何故動かないのか? あの要塞の周囲にある岩石群は何なのか? 敵は我々を待っている? 頭の中を色々な可能性と疑問とがごっちゃになって目まぐるしく交錯する。

本来ならこういう事は艦隊司令部が行うものだが、ベクスは自身でもそういった考察をし、命令と照らし合わせつつ勝つための、或いは生き残るための行動を取るのである。

だが今回は敵が何もしてこないのである。艦隊から要塞に肉薄するには要塞との距離的と艦隊の進行速度で計算するに約一時間程かかる。そこから揚陸艇を出し、要塞内に陸戦部隊を送りこんで制圧する。これが目下の遠征軍の作戦である。

通常であれば敵の防衛艦隊との間に艦隊戦が展開し、それを蹴散らし、要塞の砲撃やミサイルに晒られつつも揚陸艇を発進させるというものだが。今回は敵の防衛艦隊は皆無である。その代わりと言っては何だが岩石群があるが、これは揚陸艇を発進させるには邪魔だが工作部隊によって容易に退かすことも出来る。多少時間はかかるだろうが苦ではない。まさかその時に基地から砲撃をするのか? いやそれも現実ではない。艦隊の攻撃で要塞の砲台を破壊すればいい事なのだから。

考えすぎだ、俺らしくない。

何があっても結局は自分が出来る事は限られているのだから、やれることだけをやればいい。と、取り合えず開き直って余計な事を考えるのを止めた。 昔はともかく今はそうしているのだから……。

 

「艦長! 前方、要塞から岩石群が飛んできます!」

 

開戦から約30分が経過したころ、トムから皇国軍に動きがあったことを告げる報告がなされる。しかもそれは要塞周辺にある岩石を飛ばしてきたというのである。

 

「石っころ投げて来たのか? 原始人だな彼奴ら、これなら文明人の俺らの勝ちだな」

 

皇国軍が岩石が飛んで来たことに対してブランがいち早く皮肉を言う。

結局飛んできた岩石群は、艦隊の前衛艦隊のビーム砲によって尽く消滅した。

 

「フン、石っころ位で最強の連合軍艦隊が倒せるかよ!」

「いや待て、いま消滅したって言ったよな」

「は、はい。岩石はビームの熱で消滅しました」

 

トムからの報告にベクスは思はず席から立ち上がる。

 

「艦長?」

「あれは岩石なんかじゃないダミーだ!」

「ダミー? あゝ確かに幾ら高温のビームだからって岩が消滅なんかしないか。砕けるだけだよな」

 

アンリ・マーユ要塞周辺の岩石は岩に見せかけたダミーだった。では一体何でそんな手の込んだことをした? 新の疑問がベクスの頭を持たれかけた時、その答えが報告される。

 

「か、艦長! 戦域全体にアンチ・ビーム・パウダーが急速に散布されています! いったいどこから……」

「どこからって、単純に考えればあのダミーに詰まってたって事だろ!」

 

ブランの言葉にベクスも同意見だった。 

アンチ・ビーム・パウダー【Anti・Beam・Powder(A・B・P)】は、磁気を帯びた細かい粒子を散布する事によってビームの拡散消滅させる対ビーム防御用の兵器である。但し、一度散布されると空間周囲に拡散してものの1,2分で効果を消失してしまうので、艦船などがビーム攻撃からの一時凌ぎで散布するものである。

だが、今回直径20m前後の岩石ダミーに詰められたA・B・Pが艦隊のビーム砲の直撃で破裂して周囲に一斉散布され、さらに無数のダミーが次から次に破裂したことで超高濃度のA・B・P場が出来てしまい、艦隊は誘導兵器に続いてビーム砲も使用不可になってしまった。

 

「これが狙いか!」

「か、艦長? 何か分かったのですか?」

「彼奴らはおれたちの攻撃手段を封じたんだよ」

「ですがそれでは敵も攻撃できませんが、それに何の意味が……」

 

確かにビオラの言う通りで、ジャミングとA・B・Pで攻撃を封じられるのは連合軍遠征艦隊だけではなく、皇国軍もその影響を受けてしまうのである。これでは両者戦闘出来ずにただズルズルと何もできずに時間だけが過ぎていくことになる。

 

「このままなら我々は敵の攻撃を受けずに要塞に肉薄できますし、工作部隊も揚陸部隊も安全に作戦を行う事が出来ます」

「本当にそう思うか?」

「……ふぅ……思いません」

 

溜息交じりにビオラは応え、ベクスもそれに同意するように頷く。

そして皇国軍の一連の不可解な行動に何の意味があるのか、終始疑問しか出てこないのだった……