怠惰に創作

細々と小説の様なものを創作しています。設定など思い付いたように変更しますので、ご容赦ください。

アンリ・マーユ戦4

宇宙暦197年8月26日9:00。ゲーディア皇国摂政、ネクロベルガーの宣戦布告演説と時同じくして、ゲーディア皇国対外政策局は、エレメスト統一連合政府に対して最後通牒を突きつけて宣戦布告する。

皇国の宣戦布告を受けて、連合政府は直ちに前線に赴く遠征艦隊司令部に報告。それを受けて艦隊司令部は全艦隊に第一種戦闘配備を命じるのだった。

元々連合は惑星標準時の正午までに、遠征軍6個艦隊をもって要塞アンリ・マーユを完全包囲し、皇国に対して最後通告として12時間の猶予を与え、その間に何らかの回答が得らえなければ戦端を開く構えだったが、皇国に先手を打たれる形で開戦となった。

戦端が開かれると同時にアンリ・マーユを中心に周辺に強力なジャミングが発せられ、遠征艦隊のレーダーや通信、誘導兵器の使用が制限される。しかし、その後は皇国からの直接的な攻撃は無く。岩石群に囲まれたアンリ・マーユは不気味な静けさを守り続けた。

9:10

連合軍遠征艦隊は、第一戦闘配備のまま全速力でアンリ・マーユに接近しつつ艦隊を左右に展開、急展開で包囲を完成させつつ要塞占拠の為の揚陸部隊の準備を進める傍ら、要塞周辺に配備された岩石群の除去のため編制中だった工作部隊の編成を急がせる。

9:30

工作部隊の編成が終わり、工作艇を出そうとしたとき、皇国軍に動きが現れる。要塞周辺の岩石群の一部が遠征艦隊に向かって放たれたのである。

突如として行われた岩石ミサイル(ロケット?)攻撃に対して艦隊は主砲のビームによる岩石の迎撃を開始する。

戦艦、巡洋艦を中心に無数の光の筋が放たれ、比較的ゆっくりと向かってくる岩石群を次々と消滅させていく。岩石と思われていたものは単なるダミーバルーンで、ビームの熱によって次々と蒸発していった。

しかし、消滅した岩石の変わりに大量の、「アンチ・ビーム・パウダー【Anti・Beam・Powder】」が放出され、戦場全体を満たす様に広がって行く。

これによって連合・皇国両軍は誘導兵器とビーム兵器の両方を使用不可能となり、遠征艦隊司令部では皇国軍の真意が分からず一時混乱したものの、当初の作戦通りという何の変更のない行動に出る。

9:40

遠征艦隊は「A・B・P」が異常なほどの高濃度に散布された後も、次々とダミー岩石を放って来る。もはやダミーバルーンであり、内部には大量の「A・B・P」が詰まっている岩石を無視して前進するが、一定の時間ないし距離になったら破裂するよう設定されている様で、その後も自動的に破裂しては「A・B・P」が散布され続けて、通常であれば1,2分程度で効力を無くす「A・B・P」が、常に一定の濃度を保つという結果になっている。

そんな中、最初の被害が報告される。巡洋艦「フース・ターム」が、ダミーバルーンだと思って回避運動をせずに岩石に体当たりしたところ、本物の岩石だった為に船体を損傷するという被害を受けたのである。程度としては小破程度の損傷であったが、それを皮切りに、あちらこちらの艦隊で被害にあう艦船の報告が艦隊司令部に届く。

隊司令部は慌てて岩石を回避するように厳命するも、ジャミングの影響での連絡の混乱もあり、計178隻もの艦船が損害を受け、そのうち駆逐艦3隻、巡洋艦1隻が大破するという事態になるのだった……。

 

 

 

ゲーディア皇国軍パイロット「メヴィ・ヘルター」は、ネクロベルガー総帥の宣戦布告演説を、自機の狭いコックピットの中で効いていた。狭いと言ってもコックピット内には大人が3人が無理をすれば入れる広さはある。が、狭いと言われれば狭いのである。

演説が終わり、戦争が開始されたにもかかわらず、周囲は静かでメヴィには戦闘が始まったという実感も湧かず、只ボーっとにシートに背を預けて出撃の時を待つ。

コックピット内は、生命維持や通信などの必要最低限の機能だけが生きていて他はダウンしているので可なり薄暗く、暇を持て余したメヴィはその薄暗くて静かな環境を利用して、精神統一するため目を閉じ瞑想を始める。眠ってしまいそうな状態ではあるが、現在外で起こっている状況を鑑みれば、逆に緊張による興奮状態と言った方がよく。其れを落ち着かせるためにも彼は瞑想に入る。

時間的にはどれ位たったのだろうか。瞑想を始めて体感で十数分したところで通信が入り、瞑想時間が中断される。通信相手は同じ小隊のパイロットである「ジャス・ヴィングス」伍長である。大柄の黒人で見た目は厳ついが、少々気弱なところがあり、パイロットとしての腕は悪くないが、基本に忠実で生真面目な人物である。

 

『軍曹、ヘルター軍曹』

 

メヴィはどうせ暇を持て余しての通信だろうと初めは返事をしなかったのだが、しつこく声を掛けてくるので、此方も暇を持て余している身のため相手をすることにした。 

 

「如何した伍長」

『やっと返事した……』

 

返事が返ってくるのが遅い事に不満の色を見せながら、ジャス伍長は会話を続ける。

 

『ちょっと遅くないですか? 本当に戦争始まったんですかね?』

「総帥の演説聴いてなかったのか?」

『聞いてましたよ。でも全然何も起こらなんですけど』

「お前作戦の概要知ってんのか?」

『知ってますよ! 馬鹿にしないでください!』

「だったら心配するなよ。俺たちは待ってればいいんだよ」

『ですが……。あれからもう40分以上たってるんですよ。流石にトイレ行きたくなっちゃいましたよ』

 

するとそこに別の人物から通信が入る。

 

『おやおや、ヴィングスちゃんは作戦開始前にトイレに行ってないんですか? 駄目な子ですね』

『だ、誰がダメな子ですかスタッハード伍長! 言っときますけど我々がコックピットの中で待機して彼此2時間位になるんですよ! トイレにも行きたくなります』

 

通信に割り込んで来たのは同じ小隊の「ローク・スタッハード」伍長で、いつも明るく細かい事を気にしない性格で、青、赤、紫に染めた髪に身体の至る所にタトゥーを入れた女性パイロットで、生真面目なジャスを何時も揶揄っている。

 

「トイレならここでしちまえ、パイロットスーツにはそういった機能もある事ぐらい知ってるだろ?」

 

パイロットスーツには長時間の任務中の生理現象に対応するために、そう言った装備も施されている。

 

『嫌ですよ!』

『ジャスちゃん漏らしてもいいんだよ』

『誰が漏らしますか! そういうスタッハード伍長は如何なんですか!』

『あたし? もうしちゃったけど』

「えっ!」

『エッ!』

 

ロークの驚きのカミングアウトに、メヴィは思わずジャスと共に驚きの声を上げるが、当の彼女は冗談だと言わんばかりにふたりの反応に大笑いする。

 

『それより軍曹。何か音楽かけてくださいよ』

「あん? ああ……あれか、あれは俺が戦闘中に上がるために聞いてるだけだって知ってるだろ」

『ええー、だから軍曹はいつも一人でどっか行っちゃうじゃないですか。アタシ、軍曹の音楽センス良いと思ってたんで、聞きたいなーって』

『おい軍曹』

 

ここで、今まで小隊メンバーの会話を沈黙をもって聞いていたであろう小隊長が会話に入ってくる。

 

『軍曹、これは実戦だ。練習の時の様に単独で突っ込むなよ。命令だぞ』

「分かってますとエンガー中尉殿」

 

メヴィが所属している小隊の隊長「カシュー・エンガー」中尉は御年25歳とまだまだ若いのだが、何時も苦虫を潰した様な顔をして眉間にシュワを寄せている為、見た目はずっと老けていてベテランパイロットの様な風格がある。なので怒ると普通に怖い人物である。

エンガーは、メヴィの言葉に思うところがあるがそれ以上口を挟まなかった。と言うか挟めなかったというのが正解かも知れない。その直後にガタンと何かが外れる音がし、機体が揺れだしたのだ。これは出番が来たという合図で、小隊メンバーたちから会話が無くなる。顔は見えないが、みな一様に緊張しているであろうことは分かる。メヴィは何時でも発進出来る様に機体の起動手順を始める。

いよいよだな……。

メヴィは緊張の面持ちで起動手順を踏み、低い電子音と共に機体の全機能が動き出したことを全身で感じとる。薄暗かったコックピット内が明るくなり、同時にメヴィの目の前のモニター画面にガスマスクを付けた兵士の様な異様な姿のものが映し出される。

機動装甲兵【マヌーバー・アーマード・ソルジャー「Maneuver・Armored・Soldier」】一般的には略称の「M・A・S」或いは「ソルジャー」と呼ばれる人型機動兵器で、皇国軍が極秘裏に開発した新兵器である。

全長は15m、体重33t、歩兵の様に手持ち武器を切り替えて多目的な作戦に従事できる汎用性と、宇宙空間での機動性、新技術によって開発された合金による複合装甲による耐久性など、あらゆる新技術を盛り込んで開発された兵器である。

メヴィ達が乗っている機体は「ア・クー」という愛称が付けられた機体で、型式番号はMAS-001Cb/A2である。

するとモニター画面の隅にカウントダウンが表示される。

 

『そろそろ時間だ。お前たち、訓練通りにやればいい。敵を倒す事では無くて生き残る事だけを考えろ』

 

隊長のエンガーの言葉にジャスもローグも「了解」と了承したが、メヴィは敢えて返事はせず、隊長もその事に一々問いただす事もない。 

カウントダウンが0になり、真っ暗だった周囲が暗幕を一気に降ろされたが如く星々がきらめく宇宙空間になる。

目の前に広がる宇宙空間、その中で人気は目に映るのはエレメスト統一連合政府の遠征艦隊の艦艇群の姿である。

彼らは連合艦隊の真っ只中に放り出されたのである。

 

「なるほど、濃いな」

 

メヴィは測定器を見て、この宙域のA・B・Pが異常濃度になっていることを確認する。

それが終わると自分が持ち込んだ機器に手を伸ばしてスイッチを入れる。機体内にヘビメタの爆音と奇声が流れる。それに触発される様にメヴィも奇声を上げる。

 

「行くぞ行くぞ行くぞォォォォォォ!!! イェァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!」

 

奇声を上げたメヴィは、隊長の命令を忘れて単機で連合軍艦隊の真っ只中に突貫していくのだった……。