怠惰に創作

細々と小説の様なものを創作しています。設定など思い付いたように変更しますので、ご容赦ください。

アンリ・マーユ戦

「ふぅ~」

 

ラッキー7号こと駆逐艦「DY²-777」の艦長ベクス・ホワイトは、艦橋入り口のドアの少し前で頻呼吸を繰り返したり、身嗜みを整えつつ中に入る事を躊躇していた。

 

「何してるんだ艦長?」

 

かけられた声に驚いて背後を見ると、機関長のサガ・ペリリウス大尉が立っていた。

 

「何だ機関長か……」

「何だとはご挨拶だな。如何せ副長が怖くて入れないんだろ?」

 

機関長の言葉に反論したかったが全くその通りだった為、ベクスは口を開いただけで何も言葉が出てこなかった。

 

「ほら艦長、こんなとこに居ても何も解決しないんだからとっとと入る」

 

自身よりも年上の機関長に諭されるようにベクスは艦橋に入る。

艦橋に入ると案の定、艦橋にいる者全員の視線が降り注ぐ。特に副長のビオラ・ルアンのそれは痛い。極力それを気にしないようにベクスは艦長席に腰を下ろす。

艦長席は艦橋の丁度真ん中に当たる所にあり、一段高くなっていて決して広くはないものの、そこから艦橋全体を見渡す事が出来る。艦長の前には各クルーの席があり、ベクスから見て真正面が操舵席で、操舵士のブラン・リヴァル中尉が座っている。彼から見て右側には船務士のトム・グレファン少尉、その隣に通信士のサーサ・ラブレット少尉が座っている。ブランの左側には砲雷士のリオン・スター少尉が座り、その隣にはAI内臓の船体管理補助システムが鎮座している。このシステムのお陰でクルーたちは24時間職務に就く事も無く、そのための交代要員もいらず、最悪の事態が起こっても、自動操縦、自動戦闘などを熟すことも出来る優れものである。

とは言え、エレメスト統一連合軍では極力人の力が基本で、戦闘艦を完全自動化させる事は特定の条件以外では禁止されている。これは過去に起きた事件が原因なのだが、それはまたの機会に……。

そんな彼らを見ていたベクスは、クルーたちの背中が小刻みに震えている事に気付く。如何やら笑いをこらえて居る様だ。ここは艦長としての威厳を保つには、厳格に注意しなければならない。

 

「お前ら真面目にやれ!」

「艦長もですよ」

 

間髪入れずに入った副長の言葉にベクスは何も言えなくなってしまい。その様子に遂にクルーたちは笑いを堪えられずに大笑いする。

ベクスは恥ずかしさから軍帽を目部下にかぶって背もたれにずり込む。

 

「お前たちもいつまで笑ってる!」

 

副長の声は小鳥のさえずる様な美しい声でありながら人を射抜くような鋭さがあり、それがクルー全員を射抜いて艦橋が一瞬で静寂に包まれる。

ベクスは流石はと思って目部下に被った軍帽を上げて頼れる副長を見やるが、彼女からは「艦の指揮を預かる者として、これぐらいやっていただかないと困る」と言った視線を返されたので、再び軍帽で顔を隠す。

 

「ああ……あの、ウォホン!」

「ところで副長、おれらを呼んだのは何だ」

 

ベクスは咳払いで気を取り直して本題に入ろうとしたが、機関長に先を越される。

 

グレファン少尉」

「はい」

 

副長は船務長に声を掛けると、トムが端末を操作する。すると、艦長席と操舵席の間に設置されてある機械から3D映像が現れ、ジャガイモのような形の物体が映し出されている。

 

「これを見てください」

「アンリ・マーユ……だな」

「そうですね」

 

ベクスと機関長は映し出された立体映像をまじまじと見る。そこに映し出されているのは第4惑星第2衛星「アンリ・マーユ」の姿で、ここはゲーディア皇国宇宙軍の最重要拠点であり、ベクスたち遠征艦隊が現在向かっている場所でもある。

 

「これが先行している偵察隊から送られて来た現在のアンリ・マーユとその周辺の様子です」

「んん……?」

 

ベクスは3D映像のアンリ・マーユの周囲に無数の細かな点がある事に気付く。それは衛星を取り囲むように無数にある岩石で、正確な数は分からないが万はあるだろう。

 

「これは……」

「はい岩石です」

 

副長の至極当然の答えに「それは見ればわかるよ!」と突っ込みたかったが、彼女もそれ以上答えようがないのは分かっているので、その事には触れずにベクスは腕を組んでこの状況について思案する。

 

「皇国の艦隊はいないのか……」

「はい、アンリ・マーユの周辺はいません。ですがジャミングが酷くて探知が覚束無いようですが……」

「それは不思議だな。艦隊が出撃してないなら戦いにならんだろう。ってことは皇国は降伏する気か?」

「機関長それは早計かもしれませんな。第一、要塞周辺にはジャミングが掛かっている訳ですから、それに要塞周囲のあの岩石群は何でしょう」

「わからん」

「多分、我々が容易に要塞に近づけさせないためのものだろう」

「何だ。それでは皇国はおれらと戦争すると!?」

「まだそうと決まったわけでは……それなら要塞だけでの戦闘は避ける筈、近くに艦隊がいないのはどうしても解せない」

 

ベクスと機関長と副長は考え込んで無言になる。そこにブランが声を掛ける。

 

「新兵器があるとか」

「どんな兵器だ?」

「それは分かりませんが……。でも、噂はありますよ」

 

確かにブランの言うとおりである。かなり前から皇国は新兵器を開発しているという噂があった。だが、皇国内にそう言った兵器を開発している秘密の工場などの怪しげな施設は無く。情報部も証拠を掴んでいないため、あくまでも噂の域を出ないものではあるが、この手の噂は根強く残っていて、情報部もあきらめてはいないようなのだが……遠征が始まった今では、直接確かめるという状況になってしまっている。

そういう意味では鬼が出るか蛇が出るか分からないというのが、今回の遠征の不安要素でもある。とは言え、宇宙艦隊の半数が参加するこの作戦に、皇国軍がいかなる兵器を作ろうとも数の優位で圧倒できると思っている者が多いのも事実である。

 

「まぁ、此処は司令部の判断に任せるのが妥当だろう」

「そうだな」

「確かに」

 

副長も機関長も納得したところで駆逐艦艦橋での細やかな軍議は終わり、機関長は持ち場に戻るために艦橋を後にし、副長も艦長席の左側に側に自分の席について自分なりの分析を試みようとする。

ベクスは艦長席に身を預けてぼーっとモニターに広がる漆黒の闇とそこを航行する艦船群を眺める。

なんだか眠くもなってきている。だが、船務長の声に眠気が覚める。

 

「艦長。もう間もなくアンリ・マーユに到着します」

 

モニターに拡大投影されたアンリ・マーユの姿が映る。闇に浮かぶその姿は、先ほどの3D映像のように無数の岩石群を纏ってベクスの目に異様な光景に映り、意味もなく不安を煽ってくる。

……これは何かがある。

ベクスは直感を信じて誰ともなく声を掛ける。

 

「これは不味いかもしれない」

「はぁ?」

 

呟き程度の声にしかならなかったものの、近くにいたビオラが微かに聞こえたらしく、訊き返そうと声を掛ける。

 

「副長、艦を何時でも戦闘が出来るようにしてくれ」

「……分かりました。総員、第Ⅱ種戦闘配備!」

 

何時に無く真面目な表情のベクスに、ビオラもうなずいて戦闘配備を取らせる。

 

「ありがとう副長。それとポーク中佐に連絡を、一駆逐艦の艦長の感では司令部は動かないだろうからな」

 

そして自身の直属の上司でもある第243駆逐隊司令官に通信を入れるのだった……

遠征艦隊

宇宙暦197年8月、エレメスト統一連合宇宙軍はゲーディア皇国に対して遠征艦隊の派遣を決定。「遣外連合艦隊」の名称の許、宇宙軍の保有する宇宙艦隊の半数に及ぶ6個艦隊が作戦に参加する事となる。

作戦参加艦隊は、アフラ(月)からは第6艦隊、新設の第12艦隊。

L1宙域防衛要塞「アーシャ」駐留艦隊から第2艦隊(連合艦隊総司令部)。

L2宙域防衛要塞「アル・マティ」駐留艦隊から第9艦隊。

エレメスト統一連合軍・外部惑星防衛要塞「ヘキサス」駐留艦隊から第5艦隊、第10艦隊、計6個艦隊(戦闘艦艇数2400隻、輸送・補給等、補助艦艇数約1500隻)が参加する一大遠征となった。

そんな遠征艦隊の中に一隻の駆逐艦があった。第12艦隊第3分艦隊第24駆逐戦隊第243駆逐隊所属のミサイル駆逐艦「DY²-777」である。

ユーゴ型駆逐艦として宇宙暦162年に第1次軍備再建計画の時に建造され、その後2回の改修を経てパウリナ条約の下で廃棄される予定だったが、皇国との関係悪化で解体されずに残され、今では他のユーゴ改型と共に艦隊の艦艇数を押し上げるのに貢献している。

その艦長であるベクス・ホワイト大尉は艦長室で暇を持て余し、あくびをしていた。

なんとも緊張感のない事だが、彼を知る者はいつも「のんべんだらり」としていて緊張感のない人物として周囲には認知されていて、「いつもの事」という事でかたずけられる事だろう。

しかし彼のことを最もよく知っている者は、嘗ての覇気が無いと嘆いただろう。

嘗ての彼は士官学校を優秀な成績で卒業し、30歳で少佐になって駆逐艦の艦長に抜擢されるほどだったのだが、正義感が強く、不正を見て見ぬ振りが出来ない性格が幸いして上官と衝突を繰り返し、遂には大尉に降格して輸送艦の艦長に回される事になったのである。

それ以来彼は人が変わったように職務に身が入らなくなり、「適当に頑張っていればいいよ」と周囲に漏らすようになっていた。

そんなベクスではあったが、彼自身は今遠征に疑問を持っている。今回の遠征理由が少し稚拙だからである。無論これは彼が受けた印象からきているものなので、遠征自体を否定するものではない。

連合宇宙軍は遥か45年前に起きた4年戦争以来、戦争というものを経験していない。しかしそれに反比例して軍の規模だけは肥大して行っていた。これは第4惑星にゲーディア皇国という敵性国家、とわ言わないまでもそうなり得る国家があるため自然と軍事強化が進む傾向にあり、皇国から平和条約の締結を打診されて一時は軍縮傾向になったものの、ふたを開けてみれば連合は軍縮の進行をあーだこーだと言い訳して遅らせ、それでも規定を厳守して軍縮を推し進めた皇国側をあざ笑い、何時しか軍事力を背景に皇国を降伏させるつもりだったのかもしれない。

しかし、その事が逆に連合を陥れる結果となったのは否めない。ただでさえ軍事力に差があったのに更に開いてしまうのだから皇国軍部の心情は想像に難くない。そしてそれは軍部によるクーデターという容で現れ、それ以降、両国間での軍拡(表面上は軍拡も軍縮も行わない停滞期を装い)が推し進められていったのである。

そして遂に皇国がパウリナ条約を破棄(自分から提案して破棄するって……)して軍拡を宣言し、連合としても大々的に軍拡する事が出来るようになったが、今現在連合は不景気で、反対に皇国はエネルギー鉱石等の輸出で経済的にも絶好調で軍拡のスピードが予想以上に速いことから、まだ軍事力に大きな差がある今しかないと判断しての遠征だというのがもっぱらに噂である。

そんな事で戦争するなよ!

噂を聞いてベクスは内心そう思いたのだ。これが今遠征を稚拙と判断した理由である。とは言え、軍人として上からの命令は絶対だからと渋々承諾(承諾も何も自分の意志は関係ないのだが……)したのだった。

お陰で駆逐艦の艦長に返り咲く事が出来た。ただ階級は大尉(駆逐艦の艦長は基本的には少佐)のままなのだが……。

「あ~あ、かったるいな~」

ベクスはまた大口を開けて欠伸をする。更に先ほどから眠気も感じて来ていた。

「……昼寝でもしようかな」

すると呼び出しのブザーが鳴る。ベクスは昼寝でもしようと言った矢先にブザーが鳴ったので、悪い事をしようとして見つかったかのように慌ててそれに出る。

 

「ど、ど、ど、ど、如何した!」

 

慌てたため声が上ずった状態で出てしまったベクスに対して通信機の向こうの人物は冷静な言葉をかける。

 

「如何なさいましたか艦長?」

 

冷静でいてしかも何処となく冷たさのある声に、ベクスは思わず固唾を飲む。内線の相手は、彼がこの艦内で最も苦手としている副艦長のビオラ・ルアン中尉だったからだ。

 

「ああーああー副長。ああ……なんだ……俺は別に昼寝……じゃないや……」

「昼寝?」

「あ、イヤ、あのね。昼寝しようと思っただけで、昼寝はしてはいない……」

「艦長もう間もなく作戦宙域に到着します。艦橋に上がってください」

「あ、はい……。喜んで」

「それで、作戦任務中に昼寝をしていた件はあとで」

「いや違うって! 昼寝はしてないって!」

 

ベクスは弁解しようとしたが、その時には既に通信は切れていた。

顔から血の気が引いて眠気が吹っ飛んだベクスは、重い足取りで部屋を後にしたのだった……。

 

ベクスが通路に設置されたスライドハンドルを掴んで通路を進んでいく。艦内は重力が無く、壁に備わっているハンドル状の突起を掴んで移動するのが一般的である。だがこれがこの艦が旧式である事を物語っている。現在建造されている最新鋭艦などでは「疑似重力装置」が備わっていて、艦内でも重力下と同じように行動が出来るのだが、旧式であるユーゴ型には備わっていない。2回目の改修の時に設置する予定だったのだが、結局設置されないままだった。

ベクスが通路を進むと反対側から艦医のロイ・ホースト中尉が現れた。

 

「おや、艦長どうしたんですか? 顔色が悪いようですが……健康診断しますか」

「なんでやねん! 普通診察だろ」

 

とりあえず突っ込みを入れつつベクスは気持ちを落ち着ける。これから副長の処に行かねばならないのだ。しかも勘違いした彼女に会いに行かねばならない。

怖い……。

 

「副長に呼ばれてね」

「あゝそうでしか。それはご愁傷さまで」

 

副艦長の怖さは艦内の轟いており、ホーストは哀れな艦長のこの後の事を思いお悔やみの言葉を言って送り出す。

ベクスは軍医の言葉に思うところがあったが、その事は口にせずに別の話をする。

 

「もうすぐ作戦宙域に到着するので、一様医務室で準備して待機していてください」

「準備? 健康診断の……」

「なんでやねん! 戦闘が起こった時の負傷者の手当だよ!」

 

ベクスは軍医に突っ込みを入れつつ艦橋に向かうのだった……

エレメスト統一連合軍【人物紹介】

【人物】

ベクス・ホワイト・・・・・駆逐艦「DY²-777」艦長。階級・大尉。宇宙歴157年生まれ。

士官学校を優秀な成績で卒業し、30歳で少佐となって駆逐艦の艦長になる。しかし、若さと理想から正義感が強く、それが幸いして上官とのトラブルが絶えず、そのためか大尉に降格して輸送艦の艦長になる。

この一件で軍への理想を失ってやる気を消失し、それ以降は余り職務に専念する事が無くなり、周囲から「昼行燈」と揶揄されるようになる。

ゲーディア皇国への遠征のための軍備増強策の一環で老朽駆逐艦の艦長に返り咲くも、階級はそのまま留め置かれている。

名前の元ネタは「ペガサス級強襲揚陸艦2番艦・ホワイトベース

 

ビオラ・ルアン・・・・・駆逐艦「DY²-777」副艦長。階級・中尉。宇宙暦173年生まれ。

代々軍人を輩出している家系の生まれで、7人兄弟の4番目。

黒髪に黒い瞳、端正な顔立の美女なのだが、軍人家庭に生まれたために非常に厳格で融通が利かず、自分にも他者にも厳しい性格。そのため「昼行燈」と評されるベクスとは最悪な関係であるが、性格故に職務には忠実。

名前の元ネタは「ペガサス級強襲揚陸艦7番艦・アルビオン

 

ブラン・リヴァル・・・・・駆逐艦「DY²-777」の操舵士。階級・中尉。宇宙暦171年生まれ。

身長188cmで筋肉に包まれた屈強な身体をしている黒髪白人男性。軽薄でダジャレ好き、何時も他のクルーを揶揄っては喜んでいる。そのため他のクルーから「脳筋オヤジ」と言われるが、その時は決まって「俺はまだ20代だ!」と言い返すのがお決まりのパターン。

船務士のトムを勝手に子分にしている。

名前の元ネタは「ペガサス級強襲揚陸艦5番艦・ブランリヴァル」

 

トム・グレファン・・・・・駆逐艦「DY²-777」の船務士。階級・少尉。宇宙暦177年生まれ。

物静かで暇なときはゲームをしているオタク気質な金髪白人男性。そのお陰かどうかは分からないが、博学で色々な雑学を知っている。

ブランが自分の事を子分呼ばわりしている事に迷惑している。

通信士のサーサとは恋仲で、その事でブランに揶揄われる事があり、其れでも迷惑している。

名前の元ネタは「改ペガサス級強襲揚陸艦・グレイファントム」

 

サーサ・ラブレット・・・・・駆逐艦「DY²-777」の通信士。階級・少尉。宇宙暦178年生まれ。

金髪碧眼の白人女性。外見と声が幼い事を気にしている。

船務士のトムとは恋仲で、それをネタに揶揄うブランの事を嫌っている。

名前の元ネタは「ペガサス級強襲揚陸艦4番艦・サラブレット」

 

リオン・スター・・・・・駆逐艦「DY²-777」の砲雷士。階級・少尉。宇宙暦178年生まれ。

黒髪にブラウンの瞳の男性。不愛想で非常に無口。必要なこと以外喋らない。しかし、それは人との接し方が分からないためそうなっているだけで、ホントは人と会話が出来たらいいと思っている。が、いざ人と話すと硬直して上手く話せず、相手に不快な思いをさせたのではないかと日々後悔している。

名前の元ネタは「ペガサス級強襲揚陸艦6番艦・スタリオン」

ロイ・ホースト・・・・・駆逐艦「DY²-777」の衛生士。階級・中尉。宇宙暦166年生まれ。

青味がかった黒の髪色をした男性軍医。クルーに対して口煩くメディカルチェックを進めていて、医務室に通信が入るたびに「健康診断か?」と聞き返す。

名前の元ネタは「改ペガサス級強襲揚陸艦・トロイホース」

 

サガ・ペリリウス・・・・・駆逐艦「DY²-777」の機関長。階級・大尉。宇宙暦148年生まれ。

初老の黒人男性。基本的には機関や艦内整備、ダメージコントロールなどはAIにまかされてはいるが、不測の事態に対要するため機関士、応急士はある程度の人員がいて、彼はその長を務めている。

普段は温厚だが怒ると副艦長よりも怖いと噂されている。

名前の元ネタは「ペガサス級強襲揚陸艦1番艦・ペガサス」

 

【兵器】

名称・「DY²-777」

カテゴリー・駆逐艦

艦型(艦級)・ユーゴCUSTOMⅡ(C2)

全長・178m

所属・第3惑星エレメスト統一連合宇宙軍遣外連合艦隊・第12艦隊第3分艦隊第24駆逐戦隊第243駆逐隊。

エレメスト統一連合軍が宇宙暦162年に行った第1次軍備再建計画によって建造されたユーゴ型ミサイル駆逐艦を現代改修した戦闘艦。

宇宙暦173年に結ばれたパウリナ条約に際して破棄される事が決定するものの、ゲーディア皇国を警戒した連合軍が処分を遅らせたために破棄される順番が回ってこず、その最中、皇国との関係悪化を機に破棄されずに現代改修をされるも、艦隊には復帰されず(一様、パウリナ条約を厳守して)その後も留め置かれていたが、宇宙暦196年の皇国による一方的な条約破棄により、2度目の現代改修を経て艦隊に復帰する。

現代改修はされてはいるが、既に30年が経っている老朽艦である。

名称は駆逐艦を意味する「Destroyer」の「D」と、ユーゴ(Yugo.)の「Y」、2回の改修を受けているので「²」そして建造順の777番目である。

777と7が並んでいる為、他の者から「ラッキー(セブン)号」と呼ばれている。

武装

127㎜単装ビーム砲✖1(2回目の改修時に装備)

連装レーザー機関砲✖8(1回目の改装時に増設)

艦首部4連装ミサイルランチャー×2

甲板前部8連装ミサイルランチャー×1

甲板後部8連装ミサイルランチャー×1

乗員人数・32名

開戦

宇宙暦170年1月、ゲーディア皇国初代皇帝「ウルギア・ソロモス」は、帝位を娘の「パウリナ・ソロモス」に譲り退位した。

2代皇帝(女帝)となったパウリナは、対立関係を深めつつあったエレメスト統一連合政府との友好関係の強化を図る。

4年戦争中、同盟を結び、戦後は独立を認めた統一連合政府であったが、本音としてはアフラ解放戦線と同じく独立を認めず、戦争前の連合による世界統一が目的だったのだが、長引く戦乱で疲弊した連合にはもはや独自の力だけで戦争を早期終結させることが困難なところまで来ており、苦肉の策として政府首脳陣は皇国の戦争協力を要請することとなったのである。

これまで戦争協力を頑なに誇示してきた皇国であったが、連合からの自治権を認める条件に戦争参加を快諾、連合側として戦争の早期終了に貢献したのである。

そんな経緯の許生まれた皇国を連合が快く思っていないのは必定で、連合は故有れば皇国と一戦交えると噂されていた。しかし、戦争で疲弊した連合は国内経済や都市再建を優先して軍事は後回しにされ、更に再建での膨大な量の資源は皇国から購入する事となり、皇国は一気に資源輸出国として飛躍的に経済発展していくことになる。

特に、第4惑星でしか産出されないレメゲウムと呼ばれる鉱物(のちに他の資源小惑星にもある事が判明)は、圧縮して結晶化する事で膨大なエネルギーを取り出す事の出来る鉱物で、それによって皇国は政治的にも経済的にも有利な立場になって行く。

そして宇宙暦162年、国内再建が一段落した連合は、急速に発展する皇国を警戒して第一次軍備再建計画を発表、皇国を仮想敵国とし、急速に軍備拡張路線を突き進む。

一方、皇国では当時は余り軍事に力を入れていなかったものの、連合の動きに危機感を持ち、資源輸出によって得た潤沢な資金力を持って軍備拡張を進める。

こうして両国が軍拡競争へと向かう中、世界中の人々が再び戦争になるのではないのかと不安を抱える事になる。

そんな中、皇帝となったパウリナはこの対立構造を解消するため奔走し、宇宙暦173年に両国の発展と平和を願った平和条約の締結にこぎつけるのである。通称「パウリナ平和条約」と呼ばれるこの条約は、これ以上の軍拡を禁止して両国の協議によって軍縮を行うというもので、同年に第1回軍縮協議が行われる。ここでは具体的な軍縮案は提示されなかったが、翌年の第2回には提出された軍縮案がほぼ可決するに至ったのだった。

これで世界が平和になる。4年戦争のような悲劇が無くなると思われた宇宙暦177年7月、皇国でクーデターが勃発して2代皇帝パウリナが幽閉される。「7月事件」と呼ばれたそのクーデターの首謀者はパウリナ条約に反対する軍部将校たちで、3代皇帝にパウリナの兄のサスロ・ソロモスを据えて軍事政権を樹立したのである。

この政権の誕生に警戒を強める連合だったが、意外にも軍事政権はパウリナ条約を破棄する事は無く、表面上は条約を結んだままであった。しかし、軍縮に対しては一切を停止しこれ以降両国が軍縮を進める事は無くなったのだった。

ここから皇国内に暗雲が立ち込める事になる。まず手始めに宇宙暦180年にはクーデターを起こした軍部将校たちが、皇帝サスロの命を受けた近衛軍によって粛清されるという「5月事件」が起こり、その後も近衛軍による政治犯やその疑いがある者の粛清(虐殺)が頻発し、皇国内はサスロの恐怖政治によって支配されて行くのであった。

更に対外政策においては、皇国が秘密裏に軍拡をしているという情報により、連合との関係が完全に冷え切ってしまい、連合も水面下で軍拡の準備を行う事になり、世界は一気に緊張状態になって行くのだった。この時期、戦争が起こらず年を越して新年を迎える度に「奇跡の1年」「2年」「3年」と続いていき、何時これが終わりを迎えるのかと、不安と恐怖が世界中に蔓延して行くのだった。

そんな最中の宇宙歴189年4月、ある軍事施設を視察するため向かっていた公用車が何者かによって襲撃される事件が起きた。この襲撃により皇帝サスロは死亡。一緒にいた近衛軍司令長官も皇帝と運命を共にする。

皇帝と、その皇帝の片腕として恐怖の象徴であった近衛軍司令長官の死は、皇国全土に衝撃を与え、皇帝を襲撃した者たちはその勢いに乗って皇国首都ミシャンドラ・シティへ軍を向かわせたのであった。彼らは民主主義を掲げ、専制政治である皇室打倒を宣言して、新たな国家を築こうと立ち上がった者たちで、軍内部にもいた彼らが皇帝の死で一斉に蜂起したのだった。

しかし、彼らのクーデターは未遂に終わる。当時の皇国軍総司令官「サリュード・A・T・A・ネクロベルガー」元帥の迅速かつ的確な指揮のもと、情報が錯綜してパニック状態の軍を立て直してクーデター軍を鎮圧したのである。

クーデターを鎮圧して一気に皇国の実権を握ったネクロベルガーは、4代皇帝に先々代の皇帝パウリナの娘で、「7月事件」の際に行方不明(実際は身分を隠して月に亡命)になっていたノーヴァ・ソロモスを戴冠させ、自らは摂政となり、政治と軍事の両方の実権を握ることとなる。

更に宇宙暦195年にノーヴァが不慮の死(暗殺説あり)を遂げると、当時6歳の彼女の息子「ウルキア・ソロモスⅡ世」を5代皇帝に付けて自身は再び摂政となる。

さらに翌年の1月3日に、ネクロベルガーは平和条約パウリナ条約を破棄、皇国軍の軍備拡張計画を公に宣言する。

これを受けて、連合軍も翌日に極秘裏に進めていた軍備増強計画「88年計画」を公に発表し、当初小規模だったものを大規模に進めていくこととなった。

そして宇宙暦197年7月、エレメスト統一連合軍は、ゲーディア皇国に対して宇宙艦隊の派遣を決定。同年8月中頃に宇宙艦隊の半数である6個艦隊を第4惑星へと派遣する。

一路第4惑星へと向かった統一連合宇宙軍・遠征艦隊は、同年8月26日午前9時、その眼前に皇国軍の最前線基地ともいえる第4惑星の第2衛星「アンラ・マーユ」に到着するのだった……

第4惑星・ゲーディア皇国

宇宙暦152年2月1日午前8時。月首都「アフラシティ」は、月(アフラ)独立解放戦線によって占拠、他の都市も次々と戦線に呼応し、その日の内に月は解放戦線のものとなった。

翌2月2日「アフラ解放戦線」は、第3惑星「エレメスト統一連合」からの独立を宣言する。

この事態にエレメスト統一連合は急遽宇宙艦隊を結成し討伐に当たらせる。当時の艦隊は宇宙海賊討伐などの主眼とした治安維持部隊であり、 各宙域の治安維持部隊から抽出した合計100隻余りの艦艇で討伐艦隊を編成し、事態に当たらせたのである。

しかし、連合が艦隊戦や月面都市群への制圧戦まで想定して準備した結果、出撃までに5日と言う時間を要してしまう。この事が戦線側に対抗するに十分な時間を与えてしまい、統一連合軍は数の上では優勢だったにもかかわらず、敗北を喫するのだった。

そして開戦から2週間が過ぎた2月15日、第4惑星にて大事件が起こる。

当時の第4惑星行政長官「ウルギア・ソロモス」が統一連合に対してクーデターを起こしたのである。後に「ソロモス事変」と呼ばれたこの事件により、第4惑星は事実上、統一連合からの独立状態となった。

そして翌月の3月1日、ウルギア・ソロモスは、統一連合からの正式な独立と「ゲーディア皇国」建国を宣言。自らを初代皇帝としたのである。

しかし、同じ統一連合からの独立したにもかかわらず、その後皇国は戦争には関わろうとはせず。解放戦線からの再三の協力要請に対しては、終始資金と物資の援助、技術提供だけにと止まり、軍事的な支援をしようとはしなかった。

この行動に皇国内でも「戦線に味方すべし」という風潮になってはいたが、皇国軍が動く事は無く。業を煮やした一部の市民が義勇兵となって戦争に参加する事態になったのである。

だが、そんな軍事的に中立状態を守っていた皇国軍が動く時が来た。

宇宙暦155年12月、突如ゲーディア皇国はアフラ解放戦線に宣戦布告する。何と皇国は統一連合側で戦争に参加したのである。

この行動に解放戦線側は「恥知らず」「宇宙民の風上にも置けない」と皇国を痛烈に非難したものの、エレメスト=ゲーディア連合軍の攻撃により、宇宙歴156年1月15日にアフラ解放戦線は連合に無条件降伏し、月民の独立の夢はついえたのだった。

しかし、同じく統一連合からの独立を果たそうとしながらも、当初は戦争に参加する事無く日和見を決め込んでいた皇国は、終盤になって突如連合側に着いた事で戦争終結後の宇宙暦156年1月16日、統一連合により独立自治権を認められ、宇宙に出来た初の独立国家としての歴史を歩むこととなる。

そして宇宙暦197年8月26日……。

宇宙は再び戦火に包まれる事になるのだった……

序章

 「宇宙開発」・・・人類が無限に広がる宇宙に思いをはせ、人類の更なる発展や新たな生活の場を求め、母なる惑星を旅立つための事業。

暗黒の空に瞬く星々の世界に羽ばたくと言う意味で、「人類の巣立ち」と評する者もいる。

だが、其れには多くの解決しなければならない大きな問題があった。国家間の争い、民族対立、宗教対立、貧富の差等々……これらを解決するために、人類は一つの解決策を導き出した。統一国家の樹立である。

「エレメスト連合」・・・この国家の成立に人類は長い時を必要とした。問題解決のための話し合いや妥協案、武力による反対派の制圧、人々の希望と欲望と血と不満とを飲み込み統一国家が築かれたのである。

それが第3惑星・エレメスト統一連合である。

「月面都市計画」・・・連合の発足と共に、人類は急速に宇宙開発を進めていった。その最初の目的は、第3惑星の衛星アフラ(月)の開発である。

マスドライバーや起動エレベーターによって必要人員や物資が運ばれ、月面に無数の都市群が建設されて行った。

「反宇宙主義」・・・彼らの主張は、かつて大航海時代に世界を席巻した人々は、その先々にいる先住民を騙し、争い、虐殺したと、宇宙に出るのはその愚行を宇宙規模で行う事なのだと、仮に宇宙に人類以外の知的生命体がいなくとも、広がった人類が宇宙国家を築いて戦争に明け暮れ、今以上の悲劇をもたらす事になると言う「宇宙戦争論」を主張する。

しかし、その主張は受け入れられる事は無く。時代の流れに飲み込まれ何時しか消えていったのである。

「宇宙暦」・・・月都市計画が一定の成果を上げ、人類の月面都市移住が推し進められる中、統一連合政府は、更なる宇宙開発の計画と、宇宙時代の幕開けを宣言するため、それまでの暦から宇宙暦へと改暦する事を宣言した。

宇宙暦元年、統一連合政府は「コロニー計画」を発表、翌年からラグランジュポイント1にて建設を開始する。

宇宙歴10年、ラグランジュポイント2にて「第2次コロニー計画」開始。

宇宙暦77年、「第4惑星都市計画」始動。惑星面に第1都市「バルア・シティ」建設が開始される。

宇宙暦96年、グラッフ・ホールマン博士が、転送ゲート「ホール」の開発に成功。惑星間の移動・流通が飛躍的に上がる。

宇宙暦108年、「第5惑星資源開発計画」始動。前線となる宇宙ステーション「ペンターノン」建設開始。

宇宙暦149年、第4惑星に第72都市「アロンドマリウス・シティ」完成。連合による第4惑星都市建設計画が終了する。

そして宇宙暦152年、月首都「アフラ・シティ」でアフラ解放戦線が、エレメスト統一連合に対して宣戦布告する。

「4年戦争」・・・人類初の宇宙戦争。4年間続いた事から、後に4年戦争と呼ばれる事になるが、正確には3年11ヶ月と18日。

宇宙戦争と言われているが、3年以上第3惑星の地上戦がメインだった戦争。

統一連合政府による一連の宇宙開発の後、それら各都市群(月や第4惑星)やコロニー群などに対する政策が、まるで植民地政策であると言う不満が宇宙移民たちの中に蔓延し、連合と宇宙移民の間に対立構造を生むことになる。それは年を追うごとに埋めようのない溝となって行き、遂に不満は憤りとなって爆発して起こった戦争。

嘗て反宇宙主義者が予言? した宇宙戦争論が、宇宙暦が始まって1世紀半後に現実のもとなったと騒がれる。

結果的に戦争はエレメスト統一連合の勝利に終わるも、その後も解放戦線の残党がテロを起こし、戦争が終わって平和になると思いきや、不安定なまま情勢が進むこととなったのである……