怠惰に創作

細々と小説の様なものを創作しています。設定など思い付いたように変更しますので、ご容赦ください。

遠征艦隊

宇宙暦197年8月、エレメスト統一連合宇宙軍はゲーディア皇国に対して遠征艦隊の派遣を決定。「遣外連合艦隊」の名称の許、宇宙軍の保有する宇宙艦隊の半数に及ぶ6個艦隊が作戦に参加する事となる。

作戦参加艦隊は、アフラ(月)からは第6艦隊、新設の第12艦隊。

L1宙域防衛要塞「アーシャ」駐留艦隊から第2艦隊(連合艦隊総司令部)。

L2宙域防衛要塞「アル・マティ」駐留艦隊から第9艦隊。

エレメスト統一連合軍・外部惑星防衛要塞「ヘキサス」駐留艦隊から第5艦隊、第10艦隊、計6個艦隊(戦闘艦艇数2400隻、輸送・補給等、補助艦艇数約1500隻)が参加する一大遠征となった。

そんな遠征艦隊の中に一隻の駆逐艦があった。第12艦隊第3分艦隊第24駆逐戦隊第243駆逐隊所属のミサイル駆逐艦「DY²-777」である。

ユーゴ型駆逐艦として宇宙暦162年に第1次軍備再建計画の時に建造され、その後2回の改修を経てパウリナ条約の下で廃棄される予定だったが、皇国との関係悪化で解体されずに残され、今では他のユーゴ改型と共に艦隊の艦艇数を押し上げるのに貢献している。

その艦長であるベクス・ホワイト大尉は艦長室で暇を持て余し、あくびをしていた。

なんとも緊張感のない事だが、彼を知る者はいつも「のんべんだらり」としていて緊張感のない人物として周囲には認知されていて、「いつもの事」という事でかたずけられる事だろう。

しかし彼のことを最もよく知っている者は、嘗ての覇気が無いと嘆いただろう。

嘗ての彼は士官学校を優秀な成績で卒業し、30歳で少佐になって駆逐艦の艦長に抜擢されるほどだったのだが、正義感が強く、不正を見て見ぬ振りが出来ない性格が幸いして上官と衝突を繰り返し、遂には大尉に降格して輸送艦の艦長に回される事になったのである。

それ以来彼は人が変わったように職務に身が入らなくなり、「適当に頑張っていればいいよ」と周囲に漏らすようになっていた。

そんなベクスではあったが、彼自身は今遠征に疑問を持っている。今回の遠征理由が少し稚拙だからである。無論これは彼が受けた印象からきているものなので、遠征自体を否定するものではない。

連合宇宙軍は遥か45年前に起きた4年戦争以来、戦争というものを経験していない。しかしそれに反比例して軍の規模だけは肥大して行っていた。これは第4惑星にゲーディア皇国という敵性国家、とわ言わないまでもそうなり得る国家があるため自然と軍事強化が進む傾向にあり、皇国から平和条約の締結を打診されて一時は軍縮傾向になったものの、ふたを開けてみれば連合は軍縮の進行をあーだこーだと言い訳して遅らせ、それでも規定を厳守して軍縮を推し進めた皇国側をあざ笑い、何時しか軍事力を背景に皇国を降伏させるつもりだったのかもしれない。

しかし、その事が逆に連合を陥れる結果となったのは否めない。ただでさえ軍事力に差があったのに更に開いてしまうのだから皇国軍部の心情は想像に難くない。そしてそれは軍部によるクーデターという容で現れ、それ以降、両国間での軍拡(表面上は軍拡も軍縮も行わない停滞期を装い)が推し進められていったのである。

そして遂に皇国がパウリナ条約を破棄(自分から提案して破棄するって……)して軍拡を宣言し、連合としても大々的に軍拡する事が出来るようになったが、今現在連合は不景気で、反対に皇国はエネルギー鉱石等の輸出で経済的にも絶好調で軍拡のスピードが予想以上に速いことから、まだ軍事力に大きな差がある今しかないと判断しての遠征だというのがもっぱらに噂である。

そんな事で戦争するなよ!

噂を聞いてベクスは内心そう思いたのだ。これが今遠征を稚拙と判断した理由である。とは言え、軍人として上からの命令は絶対だからと渋々承諾(承諾も何も自分の意志は関係ないのだが……)したのだった。

お陰で駆逐艦の艦長に返り咲く事が出来た。ただ階級は大尉(駆逐艦の艦長は基本的には少佐)のままなのだが……。

「あ~あ、かったるいな~」

ベクスはまた大口を開けて欠伸をする。更に先ほどから眠気も感じて来ていた。

「……昼寝でもしようかな」

すると呼び出しのブザーが鳴る。ベクスは昼寝でもしようと言った矢先にブザーが鳴ったので、悪い事をしようとして見つかったかのように慌ててそれに出る。

 

「ど、ど、ど、ど、如何した!」

 

慌てたため声が上ずった状態で出てしまったベクスに対して通信機の向こうの人物は冷静な言葉をかける。

 

「如何なさいましたか艦長?」

 

冷静でいてしかも何処となく冷たさのある声に、ベクスは思わず固唾を飲む。内線の相手は、彼がこの艦内で最も苦手としている副艦長のビオラ・ルアン中尉だったからだ。

 

「ああーああー副長。ああ……なんだ……俺は別に昼寝……じゃないや……」

「昼寝?」

「あ、イヤ、あのね。昼寝しようと思っただけで、昼寝はしてはいない……」

「艦長もう間もなく作戦宙域に到着します。艦橋に上がってください」

「あ、はい……。喜んで」

「それで、作戦任務中に昼寝をしていた件はあとで」

「いや違うって! 昼寝はしてないって!」

 

ベクスは弁解しようとしたが、その時には既に通信は切れていた。

顔から血の気が引いて眠気が吹っ飛んだベクスは、重い足取りで部屋を後にしたのだった……。

 

ベクスが通路に設置されたスライドハンドルを掴んで通路を進んでいく。艦内は重力が無く、壁に備わっているハンドル状の突起を掴んで移動するのが一般的である。だがこれがこの艦が旧式である事を物語っている。現在建造されている最新鋭艦などでは「疑似重力装置」が備わっていて、艦内でも重力下と同じように行動が出来るのだが、旧式であるユーゴ型には備わっていない。2回目の改修の時に設置する予定だったのだが、結局設置されないままだった。

ベクスが通路を進むと反対側から艦医のロイ・ホースト中尉が現れた。

 

「おや、艦長どうしたんですか? 顔色が悪いようですが……健康診断しますか」

「なんでやねん! 普通診察だろ」

 

とりあえず突っ込みを入れつつベクスは気持ちを落ち着ける。これから副長の処に行かねばならないのだ。しかも勘違いした彼女に会いに行かねばならない。

怖い……。

 

「副長に呼ばれてね」

「あゝそうでしか。それはご愁傷さまで」

 

副艦長の怖さは艦内の轟いており、ホーストは哀れな艦長のこの後の事を思いお悔やみの言葉を言って送り出す。

ベクスは軍医の言葉に思うところがあったが、その事は口にせずに別の話をする。

 

「もうすぐ作戦宙域に到着するので、一様医務室で準備して待機していてください」

「準備? 健康診断の……」

「なんでやねん! 戦闘が起こった時の負傷者の手当だよ!」

 

ベクスは軍医に突っ込みを入れつつ艦橋に向かうのだった……