宇宙暦196年1月7日
ゲーディア皇国が「パウリナ条約」破棄を宣言し、国防軍の強化に乗り出す。
皇国の条約破棄に、エレメスト統一連合は一方的な条約破棄を非難する。
1月8日
統一連合、皇国に対して経済制裁を開始する。
統一連合による経済制裁に対して、皇国はレメゲウム鉱石のエレメストへの輸出停止で対抗する。
1月10日
皇国の軍拡の動きに、統一連合軍は凍結していた軍備強化計画の再開を宣言。平和路線でパウリナ条約順守を求めていたエレメスト国民も、この事態に統一連合軍支持へと変わって行く。
2月20日
統一連合議会で、スパイ防止法の強化案と、皇国からの渡航者のエレメストへの入国審査を強化する法案が可決する。
3月1日
皇国、エレメストからの渡航者を規制する動きを見せ、両国に緊張が走る。
3月10日
統一連合、第5惑星開発事業団に対し、第5惑星圏内で採取される様々な資源の皇国への輸出を禁止するよう要請する。しかし、事業団側はそれを拒否し、あくまでも中立の立場を取る事を宣言する。
10月1日
統一連合軍の機密情報漏洩が発覚し、犯人として皇国人が逮捕される。
11月2日
皇国人と見られる青年による統一連合関連施設への自爆テロが発生する。一連の事件に対し、統一連合は対テロ法案を強化し、特に国内にいる皇国人に対して監視の目が強化される。
しかし、一連の事件に関して皇国は関与を否定する。
宇宙暦197年1月15日
統一連合政府は、皇国人のエレメストへの入国を完全に停止し、国内の残る皇国人の強制退去を命ずる。
2月5日
皇国国防宇宙軍、第4惑星近郊で大規模な軍事演習を開始。統一連合からの非難にさらされる。
2月10日
宇宙軍に続いて皇国国防地上軍が大規模演習を開始する。
3月10日
統一連合宇宙軍、パウリナ条約以降停止していた大規模演習を再開する。
4月1日
深まる両国の対立関係を修善しようと、皇国が和平会談を申し出るも、統一連合政府に拒否される。
4月15日
皇国、統一連合との関係修復のために、エレメストへのレメゲウム鉱石の輸出を再開を表明。一時的に両国の関係が緩和する。
5月1日
両国の関係が緩和した事で、皇国から統一連合に今一度和平会談を持ちかけるも、統一連合政府からは拒否される。
6月1日
皇国、再三の和平交渉の申し入れを統一連合政府に拒否され、国内にいるエレメスト人の強制退去を命じるも、レメゲウム鉱石の輸出は継続する。
7月1日
統一連合軍、宇宙艦隊をアフラ基地に集結させる。
統一連合宇宙軍の動きに、皇国は再びレメゲウム鉱石の輸出を停止を決定する。
7月5日
統一連合、皇国に対して和平会談の条件として、皇帝制の廃止とゲーディアの民主化を要求する。
7月7日
皇国議会は統一連合の要求を受け入れようとするも、貴族たちの猛反発にあって断念、統一連合の要求を拒否する。
7月8日
皇国国防軍、統一連合の要求拒否による事態の深刻化を懸念し、第2衛星にある宇宙要塞「アンリ・マーユ」の防衛力強化に乗り出す。
8月20日
統一連合宇宙軍、皇国に向けて遠征艦隊「第2艦隊(旗艦艦隊)、第6艦隊、第9艦隊、第12艦隊」を派遣する一方、皇国に対して最後通牒を突き付ける。
統一連合の最後通牒に、皇国議会並びに4大公家以下68の領主貴族による貴族会合が開かれる。
8月22日、皇国議会議長、議会の結果を持って皇国最高議会の招集を要求。2度目の皇国最高議会が開かれる。
そして‥‥‥
ゲーディア皇国首都(皇都)ミシャンドラ上層部中央区(皇居)
ゲーディア皇国国防軍総軍司令長官ネクロベルガー総帥は、総師官房長「ペントス・エヒュドラ」子爵と彼の秘書である「モーラ・ウルガ」を伴って、ゲーディア皇国第5代皇帝「ウルギアⅡ世」に謁見を求めて皇居へ参内する。
謁見の間に通されたネクロベルガーたちは、皇帝ウルギアⅡ世が出御すると、恭しく首を垂れて迎える。そして玉座に座った御年8歳の少年皇帝に、ネクロベルガーは現在の皇国の置かれた状況と、統一連合軍遠征艦隊の動きを説明する。
皇帝と彼らの間に立体映像で第3惑星圏と第4惑星圏が映し出され、ネクロベルガーの説明に合わせて立体映像が切り替わって少年皇帝に状況が説明される。
8月20日にアフラを出た統一連合軍遠征艦隊4個艦隊は、ホール・ワンからホール・ツーへと抜けて統一連合が保有する宇宙ステーション「ヘキサス」へと集結。25日には、ヘキサス駐留艦隊を編入した6個艦隊で、第4惑星へと進出する。
話を聞いている間、少年皇帝は玉座の右側の肘置きに身体を凭れかけ、玉座の右側でお座りしている銀色の毛をした狼(犬)の身体を頻りに撫でる。少年皇帝が撫でている銀色の狼(犬)の名前は「シルヴァ」と言い、ウルギアⅡ世が皇帝に即位した日にネクロベルガーがプレゼントしたものである。高性能センサーを始め様々な装備を内蔵した高性能ロボット犬で、その身体はお座りした状態で2m近い高さを持ち、その巨体ゆえに周囲を圧倒し、それが幼い皇帝の威厳にも一役買っている。
シルヴァはネクロベルガーのアドルとドルフと同様、要人警護用ロボット犬開発、通称「ケルベロス」計画によって製作されたロボット犬で、その最初の完成品、第1号でもある。ただ色々な機能を搭載した事で大型してしまい、完成したものの大きすぎて要人警護には向かないと判断されて長らく倉庫で眠っていたのだが、ノウァ帝暗殺事件を機に皇帝警護のために倉庫から引っ張り出して来たのだ。因みに、アドルが2号、ドルフが3号で、彼らはシルヴァの失敗を受けて小型化したものである。
プレゼントされた当初、ウルギアⅡ世はその余りの大きさに恐怖を感じていたのだが、大きいながらも警護対象者へ愛らしく振舞うシルヴァの動きと、その美しいく肌触りの良い毛並み、さらにはその巨体ゆえに少年皇帝を背に乗せて皇居内を走り回れるなど、今では片時も離れないほど愛着を持って接している。
そんなシルヴァを不安な感情を落ち着ける為か頻りに撫で続けるウルキアⅡ世に、現在までの状況を説明し終えたネクロベルガーは、参内した本来の目的を告げる。
「この事態に、72の領主貴族並びに皇国議会も統一連合艦隊に対して防衛戦已む無しとの結論に至っております。皇帝陛下にも御覚悟を決めていただきたく参内した次第で御座います」
ネクロベルガーの言葉にシルヴァの身体を撫でていたウルギアⅡ世の手が止まり、表情が強張ってギュッと銀色の毛を掴む。弱冠8歳ではあるものの、皇帝として今の状況をある程度理解し、そして危機的な状況である事を感じているのだ。
「ネクロベルガー総帥、余り陛下を怖がらせてはなりませぬ」
玉座とネクロベルガーの間辺りに立っている老侍従長が不安がるウルギアⅡ世の心中を察してネクロベルガーを窘める。
「申し訳ございません。しかし皇帝陛下に置かれましては何の御心配には及びません、戦争にはなりますが、我々国防軍が必ずや侵略者から国土を守って御覧に入れます」
「勝算はあるのですかな? ネクロベルガー総帥」
「ええ、有事に際して常に防衛策は取ってあります、我が軍に敗北はありません。この件で陛下がお心を乱される事は無いと断言いたします」
ネクロベルガーの勝利を確信したような、自身に満ちた言葉に少年皇帝の強張った表情が少し柔らぎ、再びペットの銀狼の毛を撫で始める。しかし、まだ不安の残る少年皇帝は、その不安を払拭する様に直接軍の最高司令官に問い質す。
「ほ、本当に‥‥‥」
声を発したものの、思ったよりも自分が発した声がか細かった事に驚き、直ぐに口籠ってしまう。黙ってしまったウルギアⅡ世は、軽く深呼吸をして心を落ち着かせ、子供ながらに皇帝としての威厳を示せるように注意しながら話し始める。
「ネクロベルガー総帥、信じてよいのだな?」
「はい、必ずや」
やはり自信に満ちたネクロベルガーの言葉と態度に、この軍司令長官は勝利を確信していると分かったのだが、それでもウルギアⅡ世は不安が拭えずにいた。そんな少年皇帝の気持ちを察した老侍従長は、代わりにパウリナ条約を破棄した事をウルギアⅡ世が後悔している事を口にする。
「陛下の祖母であらせられるパウリナ帝は、平和のために条約を統一連合と結ばれました。それを陛下の代で破棄してしまうとは‥‥‥本当にそれが正しい選択だったのですかな?」
「パウリナ条約は既に機能を果たしてはおりませんでした。統一連合は軍事力の縮小を謳っていながらも、ただ旧式になった艦艇を倉庫に閉まったのみで解体せず、何時でも宇宙艦隊に再編できる形を取っていました。その証拠に8個艦隊まで減させた宇宙艦隊が、今は元の12個艦隊に戻っています。我々が条約破棄を宣言してからまだ1年と8ヶ月ほどしか経過していないにもかかわらずです。これだけでも統一連合が条約を全く厳守していなかった証拠になります」
「確かにそれは分かりますが、戦争を回避する事は出来ないのですか?」
「もはや手遅れに近いですな、統一連合政府はこれを機に嘗ての連合による人類の統一を考えているのでしょう。あの頑なな和平会談の拒否が何よりの証拠です」
「そうですか、新たな戦争が起こるのですな。なんと嘆かわしい事で‥‥‥」
老侍従長は、少しワザとらしく嘆いて見せると、その行動に無表情なネクロベルガーの表情が微かに変化する。
「全人類が自己中心的な人間でしたら戦争が起こる事は無いでしょうが、人とはそう強くは生きられない生物なのです」
「??」
ネクロベルガーの発言に、その意図が理解できずに少年皇帝と老侍従長は怪訝な表情になる。
「冗談が過ぎましたかな? 何より此処からは軍の仕事です。全て我々にお任せください、万事うまく事を運びますので」
「う、うむ、頼んだぞネクロベルガー総帥」
「ネクロベルガー総帥、これよりそなたの言葉が皇帝陛下の言葉となって皇国の全てが動くのです。くれぐれもその事をお忘れなき様に‥‥‥」
「ハッ」
老侍従長がウルギアⅡ世が有事の際の皇国の全権を総軍司令長官である彼に委ねた事、そしてその責務を果たす事を告げると、ネクロベルガーは恭しく首を垂れてそれを拝命し、謁見の間から退出するのだった。
宇宙暦197年8月26日8:45
皇都ミシャンドラ第1階層第1総合病院内。
テニック・アーヴェスター男爵は、LDR前のベンチに座ってウトウトしていた。
午前5時過ぎに病院から妻のトアに陣痛が起こったと知らせが入り、テニックは娘のアルマを使用人に任せて、一人病院へ向かったのである。
ただ、何故か妻であるトアは、テニックが室内で付き添う事を拒否したので、仕方なく彼は部屋の前のベンチで出産が終わるのを待つ事になってしまった。
何故だろう? 前回娘のアルマの出産時に付き添った時に何かへまをしてしまったのだろうか? テニックは娘の出産時の事を思い出すが、何が駄目だったのかは分からず、結局女性は気難しいという結論に至っている。
そうこうしている内に、何時もよりも早く起きた事もあって、睡魔に襲われ思わずウトウトしてしまう。妻が頑張っているのに自分が眠る訳には行かないと、一度は睡魔を振り払ったものの、2分もしないうちにまた睡魔に襲われてしまったのだ。
「何だ奥さんが産みの苦しみを味わってるって言うのに、旦那は居眠りとは御大層な御身分で」
突然掛けられた嫌味な言葉にハッとしたテニックは、取り繕うようにしながら声の方に顔を向けた。が、声の主を見て不機嫌な顔になる。
「何だよ、俺の顔見てその顔はないだろ」
「此れは此れはミグッツ子爵殿では御座いませんか、一体どのような御用件ですか?」
テニックは声を掛けた人物に対してワザとらしく丁寧な口調で話しかける。
「何だとその仰々しい話し方は! 気持ち悪いな」
ジロードの困った様な表情に満足したテニックは、何時もと同じように話し始める。
「何しに来たんだジロード?」
「親友に対してそれは無いだろ」
「親友ねぇ‥‥‥」
「アハハ、ひでぇな、議員会館に居なかったから此処かなってな」
「そういう事か‥‥‥」
「ジロード・ミグッツ」子爵は、テニックと同じ上院議員で、ゲーディア皇国72貴族(領主)のひとつである第53都市「カムイ」を統治するカムイ伯ミグッツ家の者でもある。現在の当主は彼と15歳も年の離れた姉で、彼は家とは拘わらずに上院議員として気楽にひとり暮らしを謳歌していて、話し方でも分かるように、可なり貴族らしからぬ性格をしている。
「それにしてももうすぐ息子が生まれるって言うのに浮かない顔だな」
「お前は国家の一大事に呑気だな」
「ヘ、言いたい事は分かる。しかし俺たちには何も出来ないサ」
「ああ、そうだな‥‥‥」
現在、この第4惑星に向かってエレメスト統一連合軍の大艦隊が向かっている。
統一連合宇宙軍の一個艦隊の艦船数は、ゲーディア皇国国防軍の保有する全艦船数とほぼ同等の数であり、統一連合宇宙軍はその規模の艦隊を少なくとも12個艦隊所持している。パウリナ条約前は12個艦隊あり、それが条約によって8個艦隊まで減少(と統一連合政府は発表している)したのだが、ネクロベルガーのパウリナ条約破棄宣言によって、あっと言う間に元の艦隊数にまで回復してしまったのだ。
一応、皇国軍もパウリナ条約破棄以降、新型艦の建造を開始したためあの頃よりは艦船数も増えているだろうが、それでも真正面からぶつかればその圧倒的な物量によって押しつぶされてしまう事は目に見えている。あと、艦艇の補助兵器として新兵器を開発生産しているが、それがどこまで有効かはまだ未知数といった処である。
この事態はパウリナ条約破棄の時点で起こりうる災厄のシナリオとして、皇国軍部・議会内では予測されていた事であるが、皇国の外交政策を預かる「対外政策局※」にはまったく知らされておらず、ネクロベルガーによるパウリナ条約破棄宣言で初めて知ったのである。当然、事前に何も聞かされていなかった対外政策局は、蜂の巣を突いた様な事態になってしまう。対外政策局の上級職員でもあったテニックも同様に対応に四苦八苦する羽目になる。
とは言え、条約破棄は国の外交と国防に関わる重大な事柄であり、公表まで極秘としていたにしても、外務省の内部部局の局長が知らない訳が無いのだ。では何故対外政策局長が知らなかったのか? それは何とも馬鹿らしい事情があったのだ。外交の長である外務大臣が、対外政策局長の事を快く思っていなかった事が原因だというのだ。条約破棄は、公表まで極秘としていていた事もあり、外務大臣が不仲な対外政策局長にだけこの話をせず、さらにその他の部局の局長たちに圧力を掛けて、対外政策局長にこの事を話すのを禁止したというのである。何とも幼稚な理由ではあり、こんな事が罷り通るのかと呆れてしまう出来事である。
当然、対外政策局長は外務大臣に詰め寄った。そんな局長に対して大臣は「ああ忘れてた」とだけ言ったとか、それを聞いてテニックはふざけるなと怒り心頭であり、しかも時期的な事もあってか、外務大臣には厳重注意だけでお咎め無しというのも対外政策局の局長以下職員を怒らせる事態となった。
とは言え、状況が状況だけに此処でいじけてボイコットする訳にもいかず、統一連合政府との和平を模索するため特別チームが設けられ、テニックもその一員となって今後の政策と調整役を仰せつかる事となる。しかし交渉は難航し、最終的には皇国は停止していたレメゲウム鉱石の輸出の再開という最大の譲歩を見せるも上手く行かず、その中で妻トアが妊娠した事もあり、彼は産休でこの件から外される事となったのだ。そのため彼は現状が気になってしょうがないのである。
「で、アルマお嬢ちゃんは居ないのか?」
そんなテニックの心情を知ってか知らずか、ジロードはまったく違う話題を持ちだして来たので、彼は不満な顔で訴えるも、質問には答える。
「ああ、まぁ‥‥‥朝が早かったからな、ただ後から来る予定だから‥‥‥ほら噂をすればダ」
そう言ってテニックが廊下の方に視線を向けると、アーヴェスター家に仕える女性の使用人と共に歩いて来るアルマの姿が見えた。
「パパ~! 赤ちゃん生まれた?」
アルマはテニックの姿を確認すると、一目散に父親の許に走って行く。
「残念、まだだよ」
「そっか~」
まだ生まれていないと聞いたアルマは残念そうな顔をすると、テニックが座っているベンチの左隣に座る。
するとそこにジロードがいる事に気付いたアルマは、直ぐにベンチから降りて貴族である彼に礼儀正しく挨拶する。民間人から貴族になったアーヴェスター家としては、貴族たちに馬鹿にされない様に家族全員が礼儀作法を学んでいる。そのためまだ7歳のアルマにもそれが身体にしみこんでいて、その成果を遺憾なく発揮している。
只、付き合いの長いジロードにしてみれば何処か余所余所しくも見え、あまり好ましくは思っていない。彼からしたら好き好んで貴族に生まれたわけではないので、やめて欲しいとさえ思っているのだ。
テニックは娘が来た事で込み入った話が出来なくなったと、ジロードに目線で自身を連れてこの場から離れる様に訴える。それを受けてジロードは何故俺が? と表情で訴え返すも、仕方ないと承諾する。
「アルマちゃん、チョットパパを借りるけどいいかな? すぐに返すから」
「はい、よろしくてよ」
「う~ん、その言い回しは違———」
「じゃあアルマ、チョットだけ行って来る。娘をよろしくな」
「はい旦那様」
テニックは娘を使用人の女性に託すと、ジロードの腕を掴んでその場から移動する。
テニックはジロードを引っ張って待合室に来る。周囲には診察を待つ患者や付き添いの人、せわしなく動く看護師たちが居たが、余り気にせずに話を続ける。
「オイオイ強引だな‥‥‥」
「一体今は如何なってるんだ?」
「はぁ~、戦争は始まる。それは避けられないサ、72貴族も、皇国議会も統一連合との戦争は避けられないと考えてる」
「にしては、未だに皇国最高会議が開かれてるのは何でだろうな?」
「それは‥‥‥一種のパフォーマンスかもな」
「国の存亡がかかってるときにパフォーマンスねぇ」
「俺に言うなよ、四大公には四大公なりに何か俺たちには理解できない深~いお考えがあるんだろうサ。それより俺は総帥閣下の方が気がかりだな」
ネクロベルガーは、皇居に参内して皇帝に謁見して以降の足取りがつかめない。一体何処で何をしているのか皆目見当もつかないのだ。ただそれに付いて余り取沙汰されないのがテニックには不思議でならない。一応、この国の実質的な最高指導者なのにだ。
「やはり何処にいるのか分からないのか?」
「ああ、親衛隊が隠してるんだよ、国外逃亡するとかっている噂もある位だ。あくまでも噂だがな」
「出所は大方キンゲラ派の連中からか?」
「そうかもな、ただどっちにせよあと少しで全てが分かる。既に統一連合の遠征艦隊がアンリ・マーユ要塞に近付きつつあるらしいからな。しかもヘキサスの艦隊を取り込んだ大艦隊だとか」
「ハァー‥‥‥気が滅入る話だ」
「アレだけの艦隊を動かしたんだ、連合は本気って事だ。それは貴族も同じで徹底抗戦を早くから主張している。最後通牒を受け入れたら彼らは全てを失うんだからな、必死なものだよ」
「お前の姉上もな?」
「まぁな、でも姉貴は———」
すると待合室でテレビ映像が流れていた画面が一斉に切り替わり、行方不明だった実質的最高指導者の姿が映し出される。
『親愛なるゲーディア皇国国民、並びに勇敢なる国防軍将兵の諸君。
摂政、ネクロ‥‥‥ベルガーである。
皆も承知の事と思うが、今現在、我々の祖国は未曽有の危機に瀕している。
エレメスト統一連合が我々を国際平和を乱した罪として武力による懲罰行為を決定し、回避するには降伏せよと恫喝を始めたのである。
しかしこの主張がいかに的外れであるかは、皆も承知の上であると思う。
我々の軍事力はあくまでも国防の為であり、侵略の意思はない。
にも拘らず、我らの国防強化に不安を掻き立て、あらぬうわさを流し、遂にはその強大な軍事力を動かしたのだ。
其れこそ国際平和を乱す元凶である。
故に我々は如何なる力にも屈する事は無い!
我々はその様な理不尽に屈する事は無いのである!
私は此処に断言する!
武力をチラつかせ恫喝する傲慢な統一連合に、皇国が屈する事は未来永劫無いと!
いかなる困難にも我らは立ち向かい、打破すると、私は断言する!
故にこの理不尽かつ一方的で的外れな要求を、我々が受け入れる事は断じてない!
如何にその強大な力を行使しようと、我々が屈する事は無いのである。
よって我がゲーディア皇国は、此処に宣言する。
不遜にして傲慢なる侵略者、エレメスト統一連合に対し、宣戦布告する』
宣戦布告の言葉を聞いて、テニックは戦争が始まったのだと実感した。イヤ、実感は余り沸かなかった。只病院でネクロベルガーの統一連合に対する宣戦布告演説を聞いたのに、実感は余り沸かなかった。これが時間と共に、徐々に実感が湧いて来るのだと思うが、今はそれほど大きくはなかった。ただ「始まったか」という感情しかない。
と思っていると、ネクロベルガーの演説がまだ続いている事に気付く。
『皇国国民の諸君にはこのような結果となって大変申し訳ないと思っている。
しかし、この決定は避けては通れぬものと理解していただきたい。
そしてこれを機にこの国を出たいと思う者があれば、速やかにこの国を離れる事を許可する。
我々はその判断を非難するつもりはない。
そしてこの戦争が終結した時は、再び迎え入れる事を約束する。
そのときには戦後復興に力を振るっていただくことを期待している』
此処で映像が切れ、画面が真っ黒になる。
「おいマジか⁉」
「‥‥‥」
「本当に出て行ったらどうするんだよ!」
「落ち着けよ」
ネクロベルガーの言葉にジロードが興奮気味になったため、テニックは冷静な態度で落ち着かせる。
「オイオイやけに冷静だなお前は、国民に戦争が始まるから国から逃げてもいいよって言ってるんだぞ? 本当に逃げたらどうするんだよ!」
「それに付いては余り考えなくてもいいかもしれないぞ」
「何でだよ!」
「先ずはあんなこと言われて逆に出て行けないって思わないか?」
「ええ⁉ あ~う~ん‥‥‥だけどよ」
「それともうひとつ、皇国から出て一体何処に行くんだって事だ」
「えっ⁉ あ、ああ~」
テニックの言葉に合点がいったのか、ジロードは大いに納得する。抑々この国を出ていって、暮らせる場所が限られているのだ。まず一番はエレメストだが、そこと戦争するので行けるはずがない。と言うか、今現在エレメストは皇国人の入国を禁止しているのだ、行っても入国すること自体が出来ない。アフラやエレメスト周囲のコロニー群は皇国人を受け入れてくれるかもしれないが、しかしあそこも統一連合の一部である。戦争が始まった今となってはどうなるか分からない。もし移住出来ても、移住した彼らに対しての周囲の目は如何だろうか?
そうなると第5惑星への避難が考えられるが、あそこは単なる資源開発地であり、資源開発事業団というNGOが管轄している。資源採掘に従事する労働者の居住ステーションはあるものの、抑々一般人が居住するような場所は無いのだ。仮に住めたとしても、かなり苛酷な場所なので、到底一般市民が移住出来る場所では無い。
「総帥閣下がその事を知らない‥‥‥訳無いよな」
「まぁな」
「パパ~!」
すると背後から自分を呼ぶアルマの声が聞こえたため、テニックは振り返って自分のもとに走って来る娘を抱きとめる。
「パパ赤ちゃん生まれたよ!」
「そ、そうか!」
テニックは息子が生まれた喜びとは裏腹に、先程戦争が始まった事への不安からか素直に喜ぶ事が出来ずに複雑な感情になってしまう。
「ほらパパさんよ、奥さんと生まれた息子の処に行ってやれよ」
「あ、ああ‥‥‥」
「パパ急いで!」
「お、おう」
戸惑っているテニックを気遣ってか、ジロードが妻と生まれた息子の処に行くように促し、娘に手を引かれて妻と息子に会いに行くのだった。
※対外政策局・ゲーディア皇国の外務省の内部部局のひとつで、皇国外務省が外務省と名乗る前に使っていた名称でもある。業務内容は、日本の「総合外交政策局」と同じなので、そちらを見てください。