怠惰に創作

細々と小説の様なものを創作しています。設定など思い付いたように変更しますので、ご容赦ください。

異星大戦記3

F‐409艦橋内では、第07パトロール隊からの戦闘要請によって動揺が走る。

本来の彼らの目的は統一連合の新造艦艦隊の追尾であり、戦闘ではないのだ。それなのに第07パトロール隊からの戦闘要請が来たことで事態が把握できずに混乱が起こる。

 

「一体如何したというのだ!」

「ハッ、07隊が敵艦隊に攻撃を仕掛けたようで、戦闘に参加せよと」

「何だと⁉」

「すでに08隊も戦闘参加の意思を見せています」

「なぜそうなる⁉ 我々の任務はあの艦隊の追尾だけだぞ?」

「それが、07隊が敵艦隊の頭を抑えられる位置に出た事で鹵獲を試みたのではないかと‥‥‥」

「功を焦ったというのか? 馬鹿者が!」

 

第07パトロール隊と第08パトロール隊の命令無視の迂闊な行動に、艦長のローン中佐は苦虫を潰した様な顔で艦橋の窓に広がる宇宙空間を凝視する。その先で今まさに戦闘が行われようとしているのだ。

 

「如何いたしますか艦長?」

 

窓の外を凝視して黙ってしまったローンに、副長のクリーグ大尉が命令を促すように声をかける。

 

「友軍が戦闘状態に入っているのを黙って見ているわけにはいかんだろ。至急彼らに続く、砲に火を入れ全速前進! ソルジャー隊の発進を急げ、E型にも武装させて何時でも出撃出来るよう待機させよ」

「E型を戦闘に使うのですか?」

「あくまで本艦の防衛にだ」

「イエッサー! 第一種戦闘配備のまま最大出力で前進! ソルジャー隊の発進急げ! E型の武装パイロットたちに何時でも出撃できるように待機命令を」

 

クリーグ大尉がローン中佐の命令を復唱して部下に伝える。

 

「イエッサー!」

 

命令を受け、部下たちはすぐさま各自命令を遂行するために動く。

F‐409格納庫内では、戦闘警報と共に待機所から飛び出したライルたちパイロットが各自の機体に乗り込んでいく。

ファウスト級の船体の中央には、滑走路とその奥にはソルジャーを搭載した格納庫がある。その格納庫内の左右の壁際にソルジャーが格納されており、ライルは格納庫内の無重力を利用して直接ソルジャー胸部にあるコックピットの場所まで飛んでいく。

 

「ザェバ少尉、これが初陣ですよね、ご武運を」

「あゝ、ありがとう‥‥‥」

 

ライルがコックピットまで飛んでいくと、彼が来た事で機体から離れる担当整備士に激励の声を掛けられ、照れくさくも軽く答えてコックピットの座席に滑り込む。

座席に座ってベルトを締めたライルは、スイッチを入れて機体を起動させてコックピットのハッチを閉じる。ハッチが閉じた事でコックピット内が真っ暗になるが、それは一瞬のことで、直ぐに機械音と共に計器類が光を放ってコックピット内を明るく照らし出し、カメラで撮られた周囲の映像がコックピット内の画面に映し出される。

 

『俺たち偵察隊にまで出撃要請だとよ』

 

ライルが出撃の準備を進めていると、偵察分隊の2番機に乗り込んだリャサックからの通信が入る。

一瞬、初陣の緊張から応えるか如何か躊躇したライルだったが、リャサックのお気楽な声を聴けば少しはこの緊張した気分を落ち着かせられるのではないかと考え、通信に応える。

 

「艦の防衛任せたぞ」

『何だよお堅いねぇ、緊張してんのか?』

「お前と違って危険な稼業なんでね」

『何だよそれじゃ俺が危険な事してないみたいじゃぇえかよ!』

 

ライルが緊張をほぐすためにリャサックと何気ない会話をしていると、コックピット画面の端にパイロットスーツに身を包んだ二人組が横切るのが見えた。彼らが待機所にいなかった偵察ソルジャー1番機のパイロットたちである。

 

『おおっと、エイットナー“御子爵様御一行カップル”の御登場だ』

 

二人組のパイロットに気付いたリャサックが、これでもかという皮肉をたっぷり滲ませた言葉でその二人組を評する。

偵察隊1番機を預かるのは「シュバリス・エイットナー」中尉と言い、ゲーディア皇国の72の領主貴族「エリゴス」侯爵家の人間である。彼は現当主の三男にあたる人物であり、当然彼自身も子爵の称号を持つ貴族である。

もう一人の方は、彼の従者である「ユーリ・バサラ」軍曹という女性で、ア・クーE型1番機のパイロットは彼女で、シュバリスは分析官である。

二人の関係は言葉通りの主人と従者といった関係で、常に二人一緒に行動しており、ユーリは献身的にシュバリスに仕えている。そんな二人の関係をライルは時代錯誤的であると思っているが、皇国貴族からしたら普通のことである。そのためライルたちとは身分差からくる何処か違う世界の住人といった空気を醸している。

特にリャサックは、イケメンで美人従者を侍らせているシュバリスを毛嫌いしていて、嫉妬の炎を燃やして敵視している。

しかしシュバリス自身はリャサックの敵視など意に介さないものの、従者のユーリそうも言ってられないようで、主人に無礼な振る舞いをして来る嫉妬男といつも衝突している。ついこの間などは虫の居所が悪かったのか、いつもは皮肉だけのリャサックがついに手を出しそうになった処をユーリに取り押さえられるという一幕もあったりと、ふたりは犬猿の仲でもある。

 

『ケ、ふたりで仲良く搭乗とはな』

「お前にはジークがいるだろ」

『馬鹿野郎! 俺にそんな趣味ねぇよ! ま、彼奴の可愛い顔見たらその手の奴には溜まらんかもしれねぇけどな』

「おい大丈夫か? ジークに文句‥‥‥ってさっきからジークの声が聞こえないけど如何した?」

『彼奴は置いてきた』

「置いてきた?」

『今回は偵察じゃなくて戦闘だからな、分析官殿は必要ないだろ』

「まぁそれもそうか」

『なのに彼奴らと来たら二人で仲良く乗り込んで見せつけてくれるよ! どうせ中でイチャ付きやがってるんだきっと!』

「ハイハイ‥‥‥」

 

シュバリスに嫉妬を滲ませるリャサックに呆れつつ、ライルは向かい側の壁面に係留されている分隊長機が動き出すのを見て忘れていた緊張感がよみがえる。

 

『死ぬなよ』

「あ、当たり前だ」

『何だよド緊張かよ』

「五月蠅い!」

 

ライルは自分を揶揄うリャサックとの通信をカットすると、機体を動かして分隊長に続く。分隊長機がカタパルトデッキに脚を乗せ、やや屈めた姿勢になって勢いよく飛び出して行く。

分隊長機を見送ったライルは、次は自分の番だと高鳴る心臓を抑えつつ「大丈夫」だと心の中で自分に言い聞かせる。

 

(この光景はパイロット養成所で何度も経験している。自分は誰よりもうまく、そして歴代最高得点を挙げたんだ。大丈夫、俺は死なない。俺はやり遂げる。俺は知ってる、勇気とは知識と経験だ。俺はソルジャー戦(シミュレーション)を何度も経験して知っている。俺は何時も誰よりも上手くやって来た。何時ものようにやれば大丈夫、何も問題ない俺は最強のパイロットだ‥‥‥)

 

ライルは自分に自己暗示を掛けて無理やりにでもぶり返した緊張感を抑え込み、覚悟を決めると自機の両足をカタパルトデッキの乗せて機体の姿勢を前屈み状態にさせる。

 

「ライル・ザェバ、出ます!」

 

ライルが出撃の意思を示すとカウントダウンが始まり、0の表示と共にライル機が勢いよく滑走路を走る。ライルは射出時に掛かる強いGによって座席に押し付けられながら宇宙に放出された。

宇宙に放出されたライルは、すぐさま先に出た分隊長機を探して彼の許へと向かう。

 

『ザェバ少尉、既に戦闘は始まっているようだ。俺に続け!』

「了解です」

 

ライルたちはすでに始まっている戦闘区域へ急ぐ。

戦闘区域では、統一連合の新造戦艦と護衛の4隻の「ジェプト」改型巡洋艦の対空火器による激しい攻撃が行われていて、そのため先に戦闘を始めていた07隊と08隊のソルジャー部隊は、中々近付く事が出来ずに苦戦を強いられているように見える。

今戦争の初期の頃の宇宙戦で、皇国軍はソルジャーを戦線に投入する事で統一連合軍を圧倒した。その理由のひとつとして、当時の連合艦隊の一部艦艇を除いて対空防御が脆弱だったことがあげられる。

というのも、嘗ては宇宙軍に航宙機などの小型機は存在していなかったのだ。レーダーによって超長距離から攻撃が可能なため、小型機などは無用の長物で、艦艇も長距離ミサイルを搭載したミサイル艦が主流となっていた。そのため戦争(結局この時期には戦争らしい戦争は起こっていない)は、ミサイル艦や基地からの長距離ミサイルの遠距離の打ち合いや敵ミサイルの迎撃が主流で、旧海戦のような艦船や航宙機による殴り合いのような戦闘は起きなかったのである。

しかし、先の4年戦争(アフラ解放戦争)時にジャミングが発明された事によって事態は一変する。レーダー、無線通信、センサー等が使用できなくなった事で、艦船は対艦戦を想定してビーム砲や中近距離ミサイルを装備する様になり、宇宙用の小型機である航宙艇(機)が開発されたのである。

とはいえ、この航宙艇、エレメストの様に大気がある場所なら羽などで空気抵抗等を利用して自由自在に方向を変えることが出来るが、大気の無い宇宙空間では無理である。そのため各部に付いたバーニア・ロケットを噴射する事で方向を変える必要があるのだが、方向を変える度に一々バーニアを吹かしているとあっという間に燃料が枯渇してしまう事になるため燃費が悪く、そのため発進すると出来るだけ方向を変えずに水平に一直線で敵艦に近付き、直前で対艦ミサイルを発射してバーニアを吹かして急上昇又は急降下旋回してそのまま帰還するという、旧時代の海戦の雷撃機を思わせる闘い方を取っているのだ。

しかし、この時代の戦闘艦の対空火器はコンピューター制御で射撃の精密性が高く、ジャミングでセンサーが使えないとはいえ、燃費の関係でほぼ一直線に向かって来る航宙艇は迎撃しやすい。一応、航宙艇は前後に細長くて正面の被弾面積が小さく設計されてはいるが、それでも被弾するときは被弾するものである、そのため航宙機のパイロットたちの間で航宙機は、その俗称である「突撃艇(機)」に対して、皮肉を込めて「特攻艇(機)」と揶揄されている。

それに対してソルジャーは、人型と言う特性から手足を振る事で姿勢制御するシステムが取り入れられており、バーニア・ロケットを吹かすことなく自由自在に方向転換をすることが出来る。そのため宇宙空間を不規則に移動して攻撃を回避する事が出来たのである。なので、比較的迎撃しやすい対突撃艇戦を想定して装備された対空火器ではソルジャーを捉える事が難しく、統一連合軍の初戦の大敗北の一因とも言われている。

そういった事情からか、統一連合宇宙軍がまず最初に取ったソルジャー対策が戦闘艦の対空火器の強化である。今回の新造戦艦の護衛を務める「ジェプト」級は、対空武装を従来の35㎜連装レーザー砲8基から16基に、さらに20㎜4連装レーザー機銃を8基も増設して、ハリネズミの如く対空砲が備わっているのである。

とはいえ、それは皇国軍も同じである。先行していた07、08隊のア・クーは比較的対空火器を回避しやすい遠距離で動き回りつつ、ライフルのビームで攻撃しており、その一発がジェプト級の一隻に被弾し爆発を起こしている。ただその一発で沈む事なく戦闘を継続していたが、その後も被弾したジェプト級に攻撃が集中したことで遂に撃沈された処でライルたちが戦闘区域に到達する。

 

『フッ、連合の奴らビーム攻撃に面食らってるかもな』

「でしょうね」

 

今までア・クーの武装にビーム兵器は無かった。初戦で宇宙で使用されたC型やその後に開発されたア・クーのバリエーション機にも、携帯ビーム兵器は無かった。抑々の理由はア・クーのジェネレーター出力が低かったこと、それと戦闘艦のビームに匹敵する威力のビームを、ソルジャーが携帯できる小ささに出来なかったという技術面の問題もあって開発されなかった。

一応、皇国軍の兵器開発部はソルジャー用の携帯ビーム兵器を早くから開発しようとはしていたようで、それがA型の次の機体であるB型である。

ア・クーB型は、サブジェネレーターとエネルギーTANKを一体化した巨大ランドセルを装備して強制的にビーム兵器を運用出来る様にした機体で、全長が11、5mもあるロング・ビーム・ランチャーを装備していた。その異様な姿から火炎放射器を装備しているようだと表現され、「フレイムスロウアー」と渾名されていた。

ただこれがソルジャーの売りでもある機動性や運動性を大幅に削ぐ形となり、ある程度生産はされたものの、短期間で生産はストップされてしまう。そして以降ビーム兵器を装備したア・クーは開発されなかったのだ。

そんな中、1年以上にも及ぶ硬直状態の中での技術革新もあって、遂にビーム兵器を携帯できる「ア・クーL型」が開発されたのである。

 

分隊長! 敵艦からソルジャーが!」

 

ライルたちが戦闘区域に到着するのと同時期に、統一連合の新造艦からソルジャーが発進する。

 

『何だ搭載してたのか‥‥‥それにしても今頃出してくるとは素人か?』

 

既に戦闘が始まり、戦闘区域内に敵がいるにもかかわらずのソルジャーの発進に、分隊長は統一連合軍の手際の悪さに呆れ気味に言葉を発し、それについてライルも同意見である。

いくら対空火器の弾幕で近付けさせていないとはいえ、敵の攻撃に晒されながらの出撃は危険を伴う、というか自殺行為にも等しい。下手をすれば格納庫から飛び出した瞬間を狙われ撃破される恐れもあるのだ。

しかしそんなことお構いなしに新造戦艦から次々とソルジャーが射出される。しかも運がいい事に、出撃時を狙われはしたものの、滑走路を移動中に撃破された機体はいなかった。

敵側の幸運に驚きつつも、ライルは敵新造戦艦のソルジャー展開が早い事に気付きく。彼らは新造艦の背後から追いかけて来たので、敵艦の全体像が見えていないのだ。ライルは対空砲火を掻い潜りながら敵新造戦艦の全体像が見える位置に移動する。そしてその全容を目の当たりにして驚愕する。

統一連合軍が建造した新造戦艦は、前方に3基もの滑走路を備えた大型艦で、ジェプト級に比べても大きさにかなりの差があるのだ。

 

「デカ! もしかすると『アスモ・ディウス』級に匹敵すんじゃ‥‥‥」

『ライル‥‥‥』

「・・・」

『ライル・ザェバ少尉!』

「あ、は、はい!」

『ボーっとするなよ、奴さんが来るぞ!』

 

分隊長の叱責で我に返ったライルは、画面にこちらに向かって来る3機のソルジャーの機影を見て緊張感と共に気を引き締め、余計な事を考えまいと戦闘に集中する。

敵新造艦から出撃してきたソルジャーは計9機で、3機1小隊に分かれて向かって来る。

 

「来る!」

 

向かってきた敵ソルジャー隊は、全て鹵獲されたア・クーのC型で構成されており、ライルの乗るL型に比べれば性能が劣る機体である。しかし機体の数は3機とライルたちより多く、油断ならない状況である。

ライルたち09隊には向かって来たC型3機は、散開して彼らに襲い掛かる。

装備するアサルトライフルから弾丸を乱射しつつ近付いてくる1機に対し、ライルはその弾丸を掻い潜りつつ接近し、すれ違いざまに後ろに振り返ってライフルからビームを3連射し、続けて僅かに砲身を上に向けて2連射する。

最初に発射した3発の内の1発がC型の足に被弾した事で相手はバランスを崩して不規則な動きとなり、そこに後から放った2発のビームが立て続けにヒットして敵機は真っ二つになって爆散する。

 

「よし!」

 

ライルは接敵してすぐに敵を撃破したことに好感触を得て、思わずガッツポーズを取ってしまうが、その瞬間に自分が人を殺してしまったのだと頭を過ぎり、心臓が締め付けられる思いになる。が、そこに別の敵機からの攻撃に晒され、焦ったライルはそれどころではなくなり機体を向かって来る敵機の方に向ける。

 

「チィ⁉」

 

しかし、ライルが向きを変えたときにはすでに敵機は可なり迫って来ていて、対処が遅れたライルは死を予感し恐怖に顔を引きつらせた次の瞬間、何処からともなく飛んできたビームに目の前の敵機が貫かれて爆散する。

 

『気を抜くな!』

「す、すいません分隊長。ありがとうございます」

『礼はいい、兎に角、動き回れ! 止まれば的になるぞ!』

「は、はい! (動き回れば死にはしないか‥‥‥)」

 

ライルは分隊長に言われるがままに機体を縦横無尽に動かしていく。すると仲間をやられた最後の1機が猛然と向かってきたため、ライルは機体出力の差を見せつける様に一気に引き離し、さらに旋回してあっという間に敵機の背後を取ってビームを連射する。

無数のビームの矢が敵機の腕や脚を吹き飛ばし、その中の一本が機体のど真ん中を貫いた処で敵機は爆発して果てる。

 

「フゥー‥‥‥」

 

自分たちに戦いを挑んで来た敵ソルジャー部隊を全て撃破したライルは、一息付ながらも増援がないか警戒する。

 

『流石だな、初陣で2機撃破とはな』

「いえ、まぐれです」

『謙遜するな、初陣というか、戦闘に出ても一機も撃破出来ずに母艦に戻るパイロットも多いんだ。それに比べればお前は優秀だ』

「あ、ありがとうございます!」

 

初陣で2機撃破したことを上官に褒められ、ライルは照れくささも在りつつも嬉しさを滲ませる。

 

『気を抜くな、まだ戦闘は終わってない』

「了解です」

 

ライルたちは敵小隊を撃破したものの、他の部隊はそうもいっていられないようで、ソルジャーの性能事態は上ではあるが、数的優位の他に3隻の巡洋艦の援護射撃もあってか、07と08両分隊とも敵機を撃墜するまでには至っておらず、宇宙空間を縦横無尽に飛びまわりつつ撃ち合っている。

 

『加勢に行くぞ』

「イエッサー!」

 

味方の苦戦に、ライルたちはすぐさま加勢に入る。ライルたちが加勢に入る事で数的優位がなくなった連合軍ソルジャー隊は、さっきまでの善戦が嘘のように次々と撃破されていく。

すると、そんな統一連合軍が苦戦するさなか、新造戦艦がひとり戦闘区域から逃げだすように離れて行く。

 

「何⁉ 味方を置いて逃げるのか⁉」

 

ライルが新造戦艦の離れて行くのを見て思わず叫んだと同時に、07隊と08隊のソルジャー分隊が追撃に移る。

ライルたちもそれに続こうとしたものの、まだ2機残っていた連合軍ソルジャーがそれを阻んでくるため追撃に参加出来ず、ライルは出遅れた事に口惜しさを感じつつも、残ったソルジャーの相手をするのだった‥‥‥。

 

 

 

 

 

機動戦艦ミラゼムのメインブリッジ内では、宇宙服に身を包んだクルーたちが刻一刻と不利になる戦況に戦々恐々としつつも必死に対応していた。

 

「やっぱりソルジャー全機出した方がよかったか?」

 

そんなさなか、ミラゼム艦長の「べクス・ホワイト」中佐は皇国軍とのソルジャー戦で味方が次々と撃破されていくのを見て、弱気になったのかついつい部隊を出し惜しみしてしまった事を後悔したと口走ってしまう。

ミラゼムには20機以上のソルジャーを搭載する能力があり、現在は18機搭載していたのだが、後々の事を考えてべクスは半分の9機しか出撃させなかったのだ。

 

「艦長‥‥‥聞こえましたよ」

 

誰にも聞こえないように小声で言った心算のべクスだったが、隣とはいえ少し離れた席に座る副長の「ビオラ・ルアン」少佐には聞こえた事に驚き、彼女から軽蔑するかのような鋭い視線を向けられる。

 

「あ、イヤ、何でもない副長、聞き流してくれ」

 

寄りにもよって副長に聞かれたと、べクスは慌てて自分の発言を聞き流してほしいと懇願する。

 

「全く‥‥‥」

 

相変わらずの弱気な艦長に、ビオラはため息交じりに落胆の色を滲ませた一言を呟く。それと同時にそんな情けないべクスが何故新造戦艦の艦長に選ばれたのかと改めて疑問を持ちつつも、今はそれどころではないためその疑問を頭の片隅に追いやりつつ、やれやれと言った表情で頭を振るだけに留める。

 

「ダメです第3ソルジャー小隊全滅! 後方から来る敵小隊、他の小隊と合流するつもりです」

 

オペレーターの「エネア・マルガー」少尉の悲痛な叫びにも似た報告に、べクスは苦虫を潰したような表情になる。

統一連合軍のソルジャーは、皇国軍から鹵獲したア・クーC型を使用しているので、今攻撃してきている皇国軍のア・クーL型には性能的に劣り、しかもL型は開発困難と思われていたソルジャー用のビーム兵器を装備しているのだ。

ただ、相手は6機で、しかもパトロール隊に所属しているソルジャーだったため、パイロットの腕もそれ程ではないだろうと予測したべクスは、ビオラの「ソルジャーの性能差も考慮して、もっと出撃させては?」と言う進言を退け、半分の3個小隊9機だけ出撃させたのである。だがふたを開けてみるとパトロール隊所属のパイロットの腕前は高く、数に劣るものの互角の戦闘をしており、しかも後方から迫る2機は、たった3分で1個小隊を全滅させてしまったのだ。

 

「仕方ない待機させた第4小隊‥‥‥イヤ、もう全機出すぞ!」

「この状況で出すつもりですか⁉」

 

既に乱戦に近い状態で追加のソルジャー隊を出すことの危険性にビオラが抗議する。

 

「だが追加を出さなければやられるのは我々だぞ」

「だから私は最初に―――」

「艦長! 前方の敵艦が後退を始めました!」

 

ビオラが優柔不断なべクスに苦言を呈していると、ミラゼムの進行を妨害しようと前に出ていたファウスト級が、ミラゼムからの艦砲射撃に押される形で後退を始める。

 

「よし、今だ! 全艦全速前進! ソルジャー隊に帰還命令を出せ!」

「艦長! この状況で―――」

「副長! ここで無駄に戦って損害を増やすよりあの要塞に逃げ込むことを第一に考えるべきだろう! 我々の目的地はあそこなのだから」

「チッ!」

 

此処でべクスは、ソルジャー部隊を回収して目的地であるアノン要塞へ逃げ込むことを指示する。それに対してビオラは乱戦状態であるため危険すぎると抗議するも、言葉をさえ着る様に今作戦の目的を告げられた事で反論できなくなり、その代わりに舌打ちしてしまう。

 

「ブラン! 全速で逃げろ!」

「あいよ!」

「サーサ! ベイト! 他の艦とソルジャー隊にも我々に続く様に通達しろ!」

「「了解!」」

 

べクスは副長を黙らせることに成功した余勢をかって、直ぐに操舵士の「ブラン・リヴァル」大尉に戦闘区域からの逃走を命令し、通信士の「サーサ・ラブレット」中尉とMASオペレーターの「ベイト・ホワース2世」少尉に他の艦やソルジャー部隊に自分たちに続くよう通達を出すよう指示する。

しかし皇国軍も逃がすわけもなく、いったん後退のそぶりを見せた07隊のファウスト級だったが、08隊のファウスト級が攻勢に加わった事で、再び進路を塞ごうと砲撃を加えながら前に出る。

 

「とにかくあっちこっちにいるファウスト級に向かって撃ち捲れ!」

 

べクスのアバウトな指示に、火器管制官の「リオン・スター」中尉は相変わらずと思いつつも、もうちょっと細かく指示が出せないのかと困惑してしまう。

 

「スター中尉、主砲1番2番は10時の方向、5番を8時の方向へ! 4番はそれまで通り後方のファウスト級への牽制を!」

「了解」

 

そこへビオラがべクスのアバウトな命令をかみ砕いてに指示を出す。

副長からの指示に短く返事をしたリオンは、艦長のアバウトな指示に副長が対応する事に、何だかんだ言ってふたりは相性がいいなと思う。

 

「全くこの艦の艦長になるために無理やり中佐に昇進したのはいいが、まさかこんなことになるとはな」

 

そこに艦長の愚痴が聞こえて来て、リオンは何時も通り無表情で職務を続けながらも、内心は「こんな時に愚痴るな!」と呆れてしまう。

 

「敵の勢力下を進むんです、予測できたことです。それにすぐに閣下と呼ばれるまでに昇進されるかもしれませんよ。ま、そのとき私は大佐ですがね」

「馬鹿いえ、2階級特進なんてまっぴら御免だ‥‥‥⁉ 副長、い、今何と―――」

 

生真面目で厳格が軍服を着てるようなビオラの冗談とも思える発言に、べクスは驚いて目を丸くしながら副長の方に顔を向けて聞き返し、同時にブリッジ内にいるクルー全員が副長を見る。

 

「何を見ている! さっさと仕事しろ!!」

「は、はい!」

 

部下たちから一斉に顔を見られたビオラは叱責して部下たちを任務に就かせ、未だに呆けた顔で自分の事を見ている艦長を一睨みで撃退する。ただ、発言に恥ずかしさがあった様で、その顔は赤くなってしまっていた。

 

「艦長! ラシードのトーストン艦長から通信が入ってます」

「何? こんな時に何を‥‥‥繋げてくれ」

「はい」

 

ミラゼムを護衛するジェプト級巡洋艦の一隻である「ラジット」から通信が入った事をサーサから告げられ、べクスは何事かと思いつつ繋ぐように指示する。

艦橋の上部のメイン画面にラジット艦長の「ロゼッタ・トーストン」少佐の顔が映し出される。

 

『ホワイト艦長』

「トーストン艦長、こんな非常時に如何なされました?」

『我々が殿を務めます、ミラゼムは一刻も早く先にアノン要塞へ向かってください』

「イヤ、しかし‥‥‥」

 

トーストン艦長の行き成りの提案に、べクスは驚きを隠せず返答に困って口籠る。べクスとしては全員でこの苦境を脱したかったからである。

 

『今作戦の是非は貴官が新型ソルジャーを受け取れるかどうかにかかってます。我々の希望である新型MASを必ず受け取ってください』

「‥‥‥わかりました。ご武運を」

 

べクスは今作戦はアノン要塞で完成した統一連合製の量産型ソルジャーと2機の特機とそのパイロットを受け取り、現在の連合宇宙軍の拠点である「ラクシャス」要塞へ無事に運ぶのが任務である。

べクスはトーストン艦長以下護衛艦の覚悟と期待を受け入れ、死地に残る決意をした彼女に敬礼する。それに応える様にロゼッタも敬礼し返したところで通信が切れる。

 

「聞いての通りだ。全速力でアノン要塞に逃げ込むぞ!」

「イエッサー!」

 

ミラゼムは、戦闘を奮戦する3隻の巡洋艦と残って戦闘を続けるソルジャー隊に任せて全速力で要塞へと逃走を開始する。

とはいえ、皇国軍もタダでミラゼムを逃がすはずもなく、先程砲撃で怯んで後退した07隊のファウスト級は、08隊のファウスト級が加わった事で勢いを取り戻したかのように砲撃を加えながら再び進路を塞ごうと前進し始める。

 

「ダメです! 敵、本艦に群がってきます!」

「攻撃続行、弾幕を張って敵を近付けさせるな!」

 

索敵担当官の「トム・グレファン」中尉から、敵がミラゼムを包囲しようとしている旨を伝えられ、べクスは殿部隊の覚悟を無駄にしないためにも、ここで諦める事なく攻撃の指示を出した次の瞬間、前方を塞ごうとする敵艦が突如爆発するのを目の当たりにする。

 

「何だ⁉ 何が起こった⁉ こちらの攻撃が当たったのか?」

「艦長! 前方から不明機2機が高速で戦闘区域に近付いてきます!」

「前方から不明機だと? まさか!」

「そのまさかだ、あの方角から来るのは間違いない‥‥‥味方だ! アノン要塞から救援が来たのだ。ブラン!」

「あいよあいよ!」

 

ミラゼムの前方より高速で接近する不明機2機をアノン要塞からの援軍だと確信したべクスは、この隙にアノン要塞へ逃げ込むため操舵士の名前を叫ぶ。するとブランはニンマリと笑みを浮かべてべクスの意図を読み取り、ミラゼムを全速力で前進させる。

前方でミラゼムの侵攻を妨害していたファウスト級が瞬く間に撃破され、青と赤の2機の見た事もないソルジャーが高速でミラゼムとすれ違い、その際に青い機体が敬礼して通り過ぎる。

そしてその青と赤の2機のソルジャーは、ミラゼムを追撃していた敵部隊を撃退するため、左右に分かれて各々戦闘に突入するのだった‥‥‥。