怠惰に創作

細々と小説の様なものを創作しています。設定など思い付いたように変更しますので、ご容赦ください。

動き出す世界

宇宙暦197年8月26日

俺が皇国の歴史取材に訪れてから5年近くの歳月が経った。来るときはまさかこの国の国民になるなんて思いもしなかったし、選んだ部屋がのハウスキーパーが、とんだポンコツだった事も遠い昔のような感じられる。今ではこのポンコツハウスキーパーとの付き合いもそれなりに長くなり、もう昔ほど煩わしとは感じなくなった。

俺はあの当時に取材した懐かしい音声に耳を傾け、取材や調査と称して調べた数々の資料を眺めながら物思いに耽って気付けば夜になっていた。

 

グー‥‥‥

 

「そう言えばモーニングから何も食べてないなぁ‥‥‥腹減った~」

 

俺は行きつけのレストラン「モーニングスター」で朝食を取って以来、ずーっと部屋にこもって昔の資料を眺めて思い出に浸って何も食べていない事に気付いた。

 

「ハァー‥‥‥何喰おっかな~」

『何食タイ?』

 

するとハウスキーパーが俺の言葉に反応して夕食のメニューを聞いて来た。

 

「そうだな‥‥‥」

『コウイウ時ハピザ二限ルワネ』

「ピザか‥‥‥」

『モウ頼ンデアルカラ』

「おおい、勝手なことすんじゃねぇ!!」

『ピザ嫌イ? 2日二1回ハピザナノニ?』

「誰が2日に1回はピザだ! 週1‥‥‥週に2回くらいだよ!」

『貴方ノピザ頻度ノデータヲ出シマショウカ?』

「出さんでいいわ!」

 

出さんでいいと言ったのに、ポンコツは俺の目の前に俺がどれくらいピザを頼んでいるかのデータ表を映し出す。しかもこれ見よがしに俺の顔1㎝くらい処にだ。逆に見えねぇっつうの!

 

「分かった分かったピザで良いよ」

『了解、貴方~』

「貴方は余計だ!」

 

俺は根負けしてピザを頼んだが、大体このポンコツは何時もこうだ。人間様の要望を聞かずに勝手に何でもやりやがる。で、文句を言うとエビデンスを見せつけて俺を黙らせるんだ。如何なってるんだ? 他のハウスキーパーもこうなのか? 絶対に違うよな!

一応、俺の普段の行動や好みからそれを提案してるんだろうが、だからってこっちの都合もお構いなしにゴリ押して来るなんて如何なってるんだ? まったく‥‥‥。

俺はピザが来る時間を予測するため時計を見ると、19時8分‥‥‥9分になった処だった。その瞬間、俺の脳裏に今朝、ゲーディア皇国がエレメスト統一連合に宣戦布告していた事を思いだした。

戦争が始まったってのに、何で俺こんなに呑気な事してたんだ? アンリ・マーユ要塞での戦闘の結果は? あれから約10時間、まだやってるのか?

 

「そういや連合と皇国でドンパチが始まったんだよな。な~んか実感が湧かないんだよなぁ‥‥‥如何なったんだ?」

『戦闘ハズデニ終ワッテ、エレメスト統一連合軍艦隊ハ撤退シタソウヨ』

「えっ⁉ 連合が負けた⁉ てか早くない‥‥‥のか?」

『ゲーディア皇国ノ圧勝ミタイ』

「圧勝? 本当か?」

『データニナイ新兵器ノオ陰ミタイ』

「新兵器? あゝあの人型のね‥‥‥」

 

宇宙要塞アンリ・マーユ周辺で始まったエレメスト連合軍艦隊とゲーディア皇国軍との戦闘は、既に終了して皇国軍が勝ったようだ。新兵器のお陰の様だが‥‥‥俺は以前、あの兵器を偶然にも見た事がある。ミシャンドラ学園でな。本当にロボット兵器だったとは‥‥‥。

アンリ・マーユ要塞での戦闘は、開始が午前9時頃だったので、大体10時間の戦闘だった事になる。これって長いのか短いのかよく分からんが、大方の予想に反してゲーディア皇国が勝利した事は間違いない様だ。エレメスト連合艦隊が皇国に進軍して来た当初は、戦争にならずに皇国が降伏するとの見方が大半だったからな、とんだ番狂わせとなった訳だ。エレメスト統一連合は国力、軍事力共にゲーディア皇国を圧倒していて、その差は10倍とも言われているから多くの人々が連合勝利と判断するのは無理もない事だろう。

それにしても戦闘の様子をライブ中継して、国民に見せるとは思い切った行動に出たよな皇国軍は、まぁ俺はほとんど見てなかったけど。

それより皇国軍は戦端を開いてもし負けたりしたら如何するつもりだったんだ? そんなに勝つ自信があったのか? あの人型があったから自信があったのだろうが‥‥‥しかしその新兵器が本当に有効かどうかは実際に闘って見ない事には分からん。その新兵器が既存の兵器の延長上で出来た上位兵器なら有効性はある程度分かるだろう、しかしあの兵器は既存の兵器とは全く違う特殊な兵器だ。その運用法も此れから手探りの状態の筈なのに、結構大胆だな。

まぁ一応、人型の兵器と言えるものは存在する。ただし、それらは専ら兵士の戦闘力向上を図って作られた「パワードスーツ」だ。大体3m前後の大きさで、機甲部隊に追随するための機動歩兵と呼ばれる兵科に属する兵器だ。統一連合軍では、機甲部隊に所属する歩兵は機動歩兵に変わりつつある。ただし、コスト面で言えば従来の兵員輸送装甲車や歩兵戦闘車による歩兵の運搬の方が安価なため、まだまだそちらの方が多いがな。

パワードスーツは謂わば歩兵の補助装備で、通常の人間なら扱えない重火器を扱う事も出来て、1機で戦車とも対等以上に戦える代物だ。装甲は歩兵が使うアサルトライフルや手榴弾の爆風をも防ぐ事が出来、一般歩兵相手なら圧倒的な制圧力を持っている。最新型は低空ではあるが飛行も出来るため、戦闘ヘリに対しても優位に戦う事が出来ると可成りの高性能なのだ。

とは言え、流石に戦車砲や戦闘ヘリのミサイル、歩兵の携帯用のロケランなどが当たれば一巻の終わりなので、防御性能はそれほど高い訳ではない。ただそれは戦車や戦闘ヘリでも言える事なので、パワードスーツは今の戦争においては大きな役目を担っているとも言える。

そんなパワードスーツと同じと思われる皇国の新兵器だが、学園で見た時は15m以上あったから、パワードスーツの5倍位の大きさがありそうだ。チョットデカくないか? まぁ、パワードスーツは完全に地上用の兵器で、生命維持装置など宇宙に必要な装備がないためそれらを内蔵したらアレ位の大きさになるのか? よう分からんけど‥‥‥。

それにしてもあの学園長代理! 何が新型の宇宙用作業ロボットだよ! 普通に兵器だったじゃないか! 

まぁ、「これは軍の新兵器です」なんて口が裂けても言えるわけがないか‥‥‥。

それにあの時は俺もロボット兵器なて漫画の世界の話だと思ったからそれ以上突っ込まなかったしな。ただぼんやりと作業用から兵器に転用できるんじゃないかと考えただけだったけどな、間違いじゃなかった様だけど‥‥‥。

それにしても皇国軍は大胆だな。あんな重要機密の新兵器を学園の隣の広場で堂々と試験してたんだろ? しかも生徒たちも見てたからな。セキュリティ対策ガバガバじゃないのか? ってか、連合は何してたんだ? そんなガバガバセキュリティなのに何で見逃してるんだ? 情報部確りしろ! あとぼろ負けってさ‥‥‥。

俺は統一連合軍の情報部の無能っぷりに憤慨しつつ、ボロ負けした統一連合艦隊にも怒りを覚える。たった10時間でアレだけの艦隊が敗走するって如何なのよ?

 

「たった三分の一日で負けるなんて情けない。早すぎじゃねぇ? 俺戦場に行った事無いからよく知らんけど」

『早いかもね、貴方みたいに早漏———』

 

ハンマーの柄に手を賭けるとあのポンコツは黙った。相変わらず黙らすにはハンマーが必要だが、もう手慣れたもんだ。ってか俺は早漏じゃねぇ!!

それにしてもこのポンコツ、俺がハンマーで何処を壊す事を恐れてるんだ? 制御盤なのか? でもそこ壊しても俺が設定とか変えられなくなるだけだと思うんだが‥‥‥謎だ。ってか変えても意味ないんだけどね!

とは言え、此奴にそれを言うと今度はハンマー持っても黙らなくなりそうなので、何も言ってない。やっぱり引っ越そうかな?

まぁ、それはオイオイ考えるとして、それにしてもここに住んでから色々あったな。

あのグリビン医師殺人事件の後、Z計画関連の手掛かりを無くした俺は調査を諦めて通常の生活に戻った。歴史調査を細々とやりながらクエス雑誌社での仕事を熟す毎日だ。オカルト話を聞きつければ各都市を右に左にと駆けずり回って調査し、その傍らで取材して家ではこのポンコツハウスキーパーを相手をする毎日だ。色々不便や何やかんやあったけど、ある意味では平和と言っていい日常だ。

そんな最中、俺の下にある人物の訃報が届いた。俺がH計画の取材で会った「ネス・ディーン・栗三好」博士が亡くなったのだ。Z計画を諦めてから数ヶ月が経った頃だったかな。取材したときはあんなに元気だったのに、それから半年ほどで亡くなってしまったのには驚いた。死因は心臓発作らしい。

ただクリミヨシ博士の死に付いては噂があって、博士は1102研究所の自分の執務室で心臓発作に倒れたのだが、その時に部屋には他にもうひとり見知らぬ男がいたそうなのだ。しかし、研究員たちが博士に気を取られている隙にその男は忽然と消えてしまったらしい。その男が誰なのかは今もって謎で、俺も興味を持ったけど余りにも情報が少なすぎるので謎の男を特定する事は出来なかった。

俺も博士とは取材をさせてもらった縁があるから葬儀には出席したよ。そこで研究員のティアとあった。彼女が俺に博士の葬儀の招待状を出したんだ。そんで、これもZ計画以来久しぶりにブルジューノ捜査官とも会った。捜査官の奴、パックちゃんだけ? 俺の監視用に付けた警察犬を回収しに来てからまったく連絡寄越さなくなったからな。メールしても返信ないしで避けられてチョット‥‥‥かなり寂しかった。

んで、久しぶりに会ったてのに相変わらず冷たいのなんのって‥‥‥。

ああ、あとティアに彼氏がいる事がその時に知ったな。「セヨン・ネイミアン」って言いう若い男性研究員で、最初に顔を見たときどっかで会った事あるな~って思ったらんだけど、何の事無い、取材した時に俺にエッグを見せる事を躊躇していたあの若手研究員だった。ティアとそいつは既に婚約しているらしい。

ていうか、じゃあ何で俺が取材しに来た時にあんなにも思わせぶりな態度とったんだ? まったく女は怖ぇ~よ。

それから1か月後くらいかな、ネクロベルガーが摂政を辞職したのが話題になったな。ま、ノウァ帝は即位した時点で既に成人だったからな、本来なら摂政は要らなかったはずだが、彼女が亡命生活で帝王学を学んでいなかったから特別にネクロベルガーが摂政に就いていただけなんだよな。ネクロベルガーが摂政を辞して本格的にノウァ帝の親政が始まるって時に、まさかあんな事件が起こるなんて誰も予測して無かっただろうな。

その事件とは、ノウァ帝を襲った悲劇、爆弾テロによる「ノウァ帝暗殺事件」だ。

あの事件は宇宙暦194年10月1日に、皇居の敷地内に侵入した不審者を近衛が発見して呼び止めた時に事件が起こったんだ。その不審者は、近衛兵に呼び止められるとすぐさま逃走を図った。そしたら近衛兵に銃撃され(行き成り発砲とか結構物騒だな)、撃たれた不審者が倒れた途端に爆発したらしい。その時の損害は芝生と近くに会った植木程度で済んだしそうだ。あとは不審者自身か‥‥‥。

事件後、近衛軍は厳戒態勢を引いて事件の調査に当たる事になった。因みに親衛隊警察は蚊帳の外だったらしい。ブルジューノ捜査官が愚痴ってたな。ってか、こんな時にしかメールの返事を寄越さないんだからな! 俺は愚痴を聞いてもらう便利な男とでも思ってんのか彼奴は!

話を戻して、この事件は皇都(首都)ミシャンドラ・シティの特性のせいで起こったとも言える。皇国の各都市では、この手のテロが起こりにくいシステムになっている。最新の防犯カメラが網の目のように張り巡らされ、さらに警察(AIロボット)犬によって二重の防衛線を引かれているからだ。不審物が置かれれば、すぐに防犯カメラのAIが近くの警察犬を動かして調べさせ、それが爆弾などの危険物の場合はすぐさま処理班が出動する運びとなっている。

過去には面白い事例があって、爆弾を仕掛けたら警察犬がその爆弾を銜えて仕掛けた爆弾犯を追いかけ回すって珍事件があったらしい。爆弾犯も自分の作った爆弾で死にたくなかった様で、最終的には自分で解除したって話だ。笑ってはいけないと思うのだが、皇国では笑い話になっている。

話を戻すが、そんな皇国で起こった爆弾テロ未遂事件が「皇居爆破テロ事件」だ。ミシャンドラでは網の目の防犯カメラも警察犬も皆無だった事が、皇居での爆弾テロを容易にさせたのは間違いないだろう。

一応、空港などのセキュリティは他都市よりも厳重なのだが、犯人はミシャンドラ内で爆弾を作れば問題ないし、実際そうしてたらしい。皇居の警備は基本は近衛兵などの人なので、スキもあっただろう。要するに起こるべくして起こったとも言える事件だったんだ。その後は警戒が厳重になったけど、やっぱり人の手による警備が強化されただけだったし、その後もミシャンドラ・シティに防犯カメラや警察犬が配備される事は無かった。

最初って言った通りこの爆破テロはその後も続いた。ただ少々不思議なのが、皇居爆破テロ事件の後の爆弾テロ事件は、ミシャンドラ以外の宇宙都市で起こったものなんだ。第1都市「バルア」を皮切りに、第2都市「アガレス」第3都市「ヴァサーゴ」第5都市「マルバス」第7都市「アーモン」第9都市「ぺイモン」第10都市「ブエール」第12都市「シトリ」の8都市で起こっており、全て犯人の自爆で事件は終了している。自爆と言ったが、本当に犯人が自爆テロをしたのかというと微妙である。彼らは爆弾を隠し持っていた事で警察犬に囲まれ、そこで自暴自棄になって自爆して果てた、というのが流れ的にしっくりと来る事件だな。その時の被害も周囲の建物や設置物くらいで、あとは近付き過ぎた警察犬が巻き込まれて破壊されたくらいだ。市民の被害はゼロだった。

ミシャンドラ以外の都市ではこうなる事が目に見えていたはずなのに、一体犯人たちは何をしたかったのかと疑問に思う行動だ。俺だったら直ぐに降伏するけどな。まぁ、俺みたいなのが爆弾犯になんかならないか。

ただこの時のテロがラブライド平原内の都市に集中してたもんで、そこの第14都市レジエラに住んでいる俺としては、何時レジエラがテロの標的になるかと冷や冷やモノだったぜ。まぁ大丈夫だとは思ってたけどさ、気分的にね。

結局、爆弾犯が全員自爆した事で、犯人の狙いや黒幕が誰なのかは分からずじまいで、近衛軍と市警察の調査は終わっている。一応、犯人の身元は分かったのだが、誰も彼も身分を偽ってたし、判明した者もいるけどエレメストやアフラからと犯人たちの接点らしい接点がなく、結局動機は不明だったようだ。犯人全員死んじまったしな。

そしてこの連続自爆テロも、12月に入るとパッタリ起こらなくなり、そのため皆がチョットだけ油断していたんだと思う。だからその隙をつくようにあの事件、ノウァ帝暗殺事件が起こってしまったのだ。

その事件が起こったのが宇宙暦195年の事だ。その年の3月12日午前11時頃に、再び皇居で爆弾テロが起こったのだ。しかもこの爆破テロは皇居内で起こり、第4代目皇帝「ノウァ・ソロモス」と、その家族と警護官である4人の女性近衛士官が巻き込まれたのである。

ノウァ帝は瀕死の重傷を負い、夫で皇帝専属警護長である「エアニス・プラトニー」は彼女を庇おうとして爆風をモロにくらって即死した。しかい、ふたりの息子である「ウルギア・ソロモスⅡ世」は2人の警護官が咄嗟に庇ったお陰で無傷であったのは、不幸中の幸いだったかもな。

因みに他2名の警護官は、犯人が爆弾を見せた瞬間に、勇敢にも取り押さえようとして前に出たためにまともに爆風をくらって即死だったそうだ。

そして瀕死の重傷だったノウァ帝は医師たちの懸命な努力にも拘らず、3日後に息を引き取ってしまった。

この事件は大々的に皇国に広まり、皇国民はノウァ帝の死を悲しむと共に、ひとり残されたウルギアⅡ世に同情が集まったのは言うまでもない。そしてウルギアⅡ世が僅か6歳にしてゲーディア皇国第5代目皇帝に即位したのである。

ウルギアⅡ世を庇った2人の警護官は、2人とも重傷を負い、ひとりは運ばれた病院で死亡し、もう1人は重傷を負ったが何とか一命を取り留めた。しかし、ノウァ帝を守れなかった負い目からか、のちに彼女は自殺してしまったそうだ。何とも救いのない事件である。

その後は近衛軍が主体となって事件の調査が行われたのだが、犯人(は死んだけど)その黒幕や狙いなどは謎のままだそうだ。どの勢力からも声明は出されてないしな。

ただこれには皇居内に彼らに通じた協力者が居たと考えられている。一般人である爆弾テロ犯が皇居に潜入する事など無理があるはずで、しかし現に犯人は近衛の姿で侵入しているのだ。誰かが引き込んだと考えて当然だろうな。そしてその協力者が宰相の「フローグ・ソロモス」子爵だと宮中では専らの噂になっていた様だ。宰相をやっていたフローグ子爵は、ノウァ帝が死んだ事で宰相を辞職している。ただこれは皇帝が崩御や退位などして代替わりすると、それに伴い宰相も辞職して別の者に交代する決まりになっているからで、勿論彼がノウァ帝暗殺の首謀者で逮捕されたからではない。何だけど、フローグ子爵は皇帝の座を狙っていた事もあるからか、この爆破テロの黒幕ではないかと囁かれている。

ただ俺は流石にそれは無いと思っている。幾らなんでもそんな真っ先に疑われる様な事するはずがない。幾ら上級貴族と言っても、そんな欲望丸出しで生きて行けるほど人生イージーではないだろう。俺はフローグ子爵の肩を持つつもりはないが、彼が犯人だとは思えない。フローグからしたらいい迷惑かもな。

じゃ一体誰だ? となるのだが、やはり謎だ。当時彼是考察する者がいた様だが、どれもこれも根拠が弱いモノばかりでまったく分からない、というのが本当の処だ。

ノウァ帝が死去して、幼年皇帝が即位した皇国は如何なったかというと、相も変わらずあの2大貴族家が騒ぎ出す事になった。そう、アガレス大公家とヴァサーゴ大公家だ。彼らは皇帝が死んだって言うのに、新しい皇帝が6歳だから誰が摂政をやるのかとか、新宰相はどうするのかとかそんなことばかりだったらしい。

そしてこの時、摂政と宰相の空位を埋めるために初めて「皇国最高会議」が開かれる事になったのだ。

皇国最高会議と言うのは、皇帝が不在、或いは幼い状態で、尚且つ摂政がいない場合に限り、国政の重要な決断や重職の早期決定を4大公家の代表(基本は現当主、場合によっては元当主の出席も可)4人と、皇国議会議長の計5人で会議を開いて決めると言うものだ。

本来なら摂政がいれば最高会議自体開く必要は無く、そして摂政は皇国議会が決めるためわざわざ最高会議を開く必要はなかったのだが、今回は宰相も決めねばならないという事で、アガレス大公とヴァサーゴ大公が皇国最高議会の開催を求められ、これによってゲーディア皇国建国以来初の皇国最高会議が開かれる事になったのだ。

初めて行われた皇国最高議会では、言い出しっぺのアガレス大公とヴァサーゴ大公の意見が真っ向からぶつかる事になった。特に新宰相を決めるのに両大公家はバチバチで、殆ど平行線を辿っていてまったく決まる様子が無かった様だ。基本的に宰相は貴族でなければならないので、アガレスとヴァサーゴの2大派閥主導で話が進んだみたいだ。要するに両家のどっちが宰相に着くかだな。宰相は摂政と違いウルギアⅡ世が帝位に付いている限りその地位に就く事が出来るため、自身の権力も長続きする。なんたってウルギアⅡ世はまだ6歳で、何事も無ければ可なりの在位期間になるだろう。その間、その家が宰相を輩出する事が出来るのだから何方も宰相に就きたいだろう。

ただ摂政は皇帝の代理として皇帝に近い権限があるため摂政も捨てがたいのも事実だ。本当だったら両方自身の家で独占したいだろうが、何事もそうは問屋が卸さない。摂政が貴族である場合、宰相は別の貴族家でなければならないと皇国の法律に記載があるため、摂政と宰相が同じ貴族家の者が就く事は出来ない。さらに宰相と近衛軍長官は4大公家が持ち回り制で、前任者の大公家が次も宰相や近衛軍長官の地位に就く事は出来ない決まりになっている。これは多分ひとつの大公(貴族)家が権力を独占しない様にするための処置なのだろう。ただ過去には4大公以外の者がその地位に就いた事もあったが、それは全て皇帝のゴリ押しによって決まった特例で、規定としては4大公家の持ち回り制である。

あと、同じ皇帝の在位期間中に宰相と近衛軍長官が同じ貴族家の者である事も禁止されている。なので、サロス帝時代のヴァサーゴ大公家によるふたつの役職の独占は本来だったら禁止なのだ。ただあの時はネクロベルガーが近衛軍長官を辞退したいと申し出た事で、サロスが後任を後見人のひとつであるヴァサーゴ大公家から指名したためそうなったのだ。特例中の特例とも言え、正に皇帝の命令は法より上って事だな。

あと、摂政は皇国議会が決めるため、例え大公家と言えども皇国議会で却下されればそれまでだ。

結局、この会議はアガレス大公家とヴァサーゴ大公家の何方が宰相に就くかの話し合いが長々と続くだけとなり、バルア大公やガミジン大公、皇国議会議長は会議に出席しても蚊帳の外の様な状態になっていたとか。

ただこの会議、話し合いが平行線をたどると後日また、という事になるため何方も一歩も退かないと話し合いは伸びに伸びる事になる。この時は3週間ものあいだ会議が続いたそうだ。最初に皇国最高会議の開催理由に問題の早期解決のためと言ったが、結局、話し合いになると決まらないのだ。特に対立関係の者がいた場合はな。

それでは一体如何やって決着が付いたのかというと、会議が開かれる度に堂々巡りになっていた事で、遂に堪忍袋の緒が切れた皇国議会議長が、自分の意見を提案して無理やり押したのだそうだ。まさかの議長のブチギレで決定するとは驚きだが、その提案内容がネクロベルガーに摂政をまたやらせると言うものだった。

「あの人半年位前に辞めたばかりやん!」と言ったかどうかは分からないが、当然アガレス大公とヴァサーゴ大公は猛反発した。しかし、バルア大公とガミジン大公が賛成した事により、賛成3、反対2で通ってしまったらしい。

因みのバルア大公とガミジン大公が賛成したのは、早くこの無断で長いだけの会議を終わらせたいがためらしい。ただこれによってネクロベルガーは皇国議会だけでなく、バルア大公とガミジン大公のお墨付きをもらって摂政に返り咲いた事になる。

そして宰相の方だが、これも皇国議会議長によって3年毎にアガレス、ヴァサーゴがそれそれ交代で宰相に就く事を提案していて、此方も会議を早く終わらせたいというバルア、ガミジン両大公が賛成したことで、アガレス、ヴァサーゴ両大公も納得? して決まったらしい。ただその後どっちが最初に宰相になるかでまた言い争いが起こったらしいのだが、サスロ帝時代にヴァサーゴ家が摂政をしていたので、アガレス家が先にする事に決まった様だ。これによって最初はアガレス大公家の者が、3年後の宇宙暦198年にはヴァサーゴ大公家の者が宰相になり、以降3年毎に交代する事でようやく決着したのだ。

その後も大なり小なり様々な事件事故が皇国では起こったが、どれもこの「ノウァ帝暗殺事件」程インパクトのあるものは無かったな。俺自身も此れと言って大きな出来事も無く、結果としては平和な1年を送らせてもらったよ。

だが翌年の宇宙歴196年1月7日、ゲーディア皇国政府はとんでもない宣言をしたんだ。

それは、「パウリナ条約」の破棄である‥‥‥。

 

「我々はむやみに大きな力を持とうとしているものではない」

「我々の独立を守るため、其の為の正当な力を持つためである」

 

これはパウリナ条約破棄の翌日に、多くの将兵の前でネクロベルガーが行った演説での発言の一部である。この発言によってネクロベルガーが軍拡を狙っていた、と思われがちだが、本来は皇国軍自体がパウリナ条約破棄を目標にしていたと言った方がいいだろう。その最初の行動が、北部方面軍の将校らによるクーデター、所謂「7月事変」だ。クーデターの成功により軍事政権が発足し、いざパウリナ条約の破棄が成るかと思われたが、軍内にもパウリナ条約が統一連合軍の軍拡を抑えているとの意見から、反対する者もいた事から政権内での内輪モメが起こってしまい、程なくして軍事政権は崩壊してしまった。その後はパウリナ条約破棄の声は上がってはいないのだが、表面化していないだけで軍内では燻り続けていた様だ。

そうなると疑問が浮かぶ。なぜ今なのか? と‥‥‥。

その答えはあの当時は分からなかったが、今なら何となく分かる。要するにX計画、あの人型兵器が完成したからだろう。X計画が極秘の新兵器開発計画だと言うのは、世間は兎も角、俺たちの中では常識になっていた。だからあれを突けば軍に消されるから俺たちは手を出さなかったんだ。流石にそんな命知らずじゃねぇよ。

そしてあの人型兵器が完成して量産化するにあたり、パウリナ条約は足枷になる。パウリナ条約の根幹は軍縮である。しかし、エレメスト統一連合もゲーディア皇国も実際の処は軍縮を行ってはいないのだ。そんな形骸化した条約であったとしても、それでも両軍の軍拡だけは抑制していて、エレメストでは幾つかの兵器開発が止まったほどだ。だから皇国はこの新兵器の量産に当たり、条約を破棄したのだろう。そういう意味では律儀だな、量産の方も極秘でやればいいのに、と俺なんかは思ってしまう。

ま、実際にあの人型以外にも量産するモノがあって、表沙汰になったのは新型艦船や航宙戦闘艇、地上戦用の兵器だけで、あの人型の量産は表立って行われてはいなかった。

一体何処で開発・生産していたんだか‥‥‥。

ま、パウリナ条約破棄自体は統一連合軍も大歓迎だっただろう。皇国と同じく統一連合も凍結していた幾つかの兵器開発計画を復活させているからな。

そういう意味では宇宙暦196年は軍拡の年と言っていいだろう。まぁ、これに付いて俺はどっちもどっちという意見だ。条約に従って軍縮すると言った統一連合は、あの手この手で軍縮を遅らせたのだ。そのお陰で皇国ではクーデターの末に軍事政権が起こってしまい、皇国も軍縮を停止してしまったのだ。すると統一連合は、自分たちの事を棚に上げて条約違反だと非難し、自分達も軍縮を止めると言いだす始末だ。ただ市民の戦争反対感情もあって、両者とも新たな兵器開発や量産は行わなかった。

だがネクロベルガーによるパウリナ条約破棄は、統一連合にとっても渡りに船だったはずだ。戦争反対軍拡反対を謳っていた市民だって、「軍拡して世界征服を狙う専制(独裁)国家の魔の手から国民を守る」と、軍拡を正当化する大義名分が手に入ったのだからな。

そして宇宙暦197年8月26日、要は今日だな。エレメスト統一連合軍とゲーディア皇国軍との戦端が切られた。戦争が始まっちまったんだ。

ただ俺はこの戦争に少々疑問に思ってるんだ。それは何故、統一連合は皇国に艦隊を派遣したかだ。皇国に住んだおかげで現在のエレメストの状況はよく分からんが、幾ら前年にパウリナ条約を破棄して軍拡を宣言したとは言え、戦争を仕掛ける口実にはならないはずだろう? 実際は連合も軍拡を始めているんだ。皇国の国力は連合の10分の1と言われていて、それだけ国力に差があれば軍拡で連合が皇国に後れを取る事は無いはずだ。なのに攻め込んだ、まぁ、正確には降伏を迫ったんだけどな。

一応、ニュースなどでは皇国が提案したパウリナ条約を、皇国が破棄した事への罪とか何とか言ってるそうなんだが、俺は余り信じないなぁ。連合が戦争覚悟で艦隊を派遣したのは何故か? 俺は何か意図があると思ってる。

まずはシンプルに皇国の資源を狙ってと言うものだ。皇国にはレメゲウムというエネルギーを産み出す鉱物がある。それを狙ってという説だ。エネルギーは人の生活に重要なアイテムだ、それを効率的に確保したいのは誰しもが同じだ。その点で連合は皇国からレメゲウムを大量に輸入している。しかしも、その金額は年々上がっているのだ。その理由がネクロベルガーである。彼は皇国の三分の一のレメゲウム鉱山を所有している事から彼抜きでレメゲウムの価格を決める事は出来ないのだ。そしてネクロベルガーは皇国でのレメゲウムの価格を上げているのだ。それに対しての報復とも解決策だとも言われている。

その他にも、本来統一連合によって人類は統一されていたのに、皇国が独立したためにその統一が乱れてしまった事に対し、連合が今一度統一を果たそうとしたとも言われている。現に皇国の独立直後に、エレメストでは旧国家の復活を宣言して独立しようとする勢力が現れている。連合はそれら勢力を武力で征圧したものの、残党がテロ事件を起こすなど、未だに完全に鎮圧してはいないのだ。其れも此れも皇国が独立しているせいであると拡大解釈して、皇国を打倒し統一すればテロも沈静化するはずである! という考えから圧力をかけるために艦隊を派遣したとも言われている。

どれが本当の事なのか分からないし、まだ別の思惑があっての行動なのか持しれない。それともそれら全てが絡みあっての事なのか? 真相は分からない。

しかし表面上の理由は皇国がパウリナ条約を破って軍拡を始め、国際平和を乱したとして、其の制裁で艦隊を派遣した事になっている。

一部メディアはこの一連の騒動で、皇国が降伏して戦争が起こらないのではないかと言われていて、まぁ其れは先程も述べて通りだ。もし戦争になっても連合が勝利して終わる、少なくともエレメストの人々はそう思っていたかもしれない。しかし蓋を開ければ皇国の新兵器の前に呆気なく敗北したのだ。

さて、これからどうなるのだろうか? 連合軍はメンツもあってこれで終わるはずがないし、皇国もそう思っているだろう。戦争は続くよ何処までも、に成らない事を祈りつつ、俺はひとりのジャーナリストとしてこの状況を見て行こうと思う。

 

宇宙暦197年8月26日付け、著者「ブレイズ・オルパーソン」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボコボコボコ‥‥‥

 

「そろそろだな」

「ええ‥‥‥」

「もう後戻りは出来ないぞ」

「分かってる」

「にしても君がこの計画に乗るとは思わなかったよ、あんなに博士のことを尊敬していたのに」

「ええ、今でもまだ迷っている自分がいるわ、だけど、あの人の狂気じみた考えを知って考えが変わったの。進化した人類だけの世界を作るなんてとても正気とは思えない」

「まぁな‥‥‥」

「夢想染みてて実現するとは思えないけど、でもそのために多くに人々を抹殺する計画だけは阻止しないと、あの子たちにそんな恐ろしい事させたくないの」

「あゝ、だが博士の計画は阻止される。もうすぐ此処に統一連合の部隊が送られて来るはずだ」

「ええ、博士たちに気付かれない様に送った通信、あれで‥‥‥」

 

プシュー

 

「だけど何で彼らを解放するんだ? 早すぎないか?」

「いの、15歳になるまでカプセルの中なんて可哀想でしょ」

「かわいそうねぇ? 彼らは博士が想像した天使、謂わば怪物だぞ」

「そんな風に言わないで!」

「あ、ああ、悪かったよ‥‥‥」

 

バシャバシャ‥‥‥ピチャ‥‥‥ピチャ‥‥‥

 

「おはよう、私の天使‥‥‥」

 

ビー! ビー! ビー!

 

「警報⁉」

「来たか!」

「λをお願い!」

「あゝ! 君はμのカプセルも開放してくれ!」

「分かったわ!」

 

バーン! キュン!

 

「キャ!」

「な、何⁉」

「残念ですよ、ジーン・リッチ博士、ナイザ・ディチャルド博士」

「β‥‥‥」

「クソ!」

「貴方たちですね、パパの理想を邪魔したのは?」

「聞いてβ、博士のやっている事は間違ってるの!」

「いいえ、間違っているのはあなた方です、パパを裏切り、兄弟たちを無理やり起こそうとは‥‥‥」

「無駄だナイザ、彼奴らは博士の言いなりだ、何言っても聞きゃしない」

「そうです、我々にとってパパは創造主、我々子供たちはパパの役に立つためにいるのです」

「違う! ここにいる子達も、勿論あなたも自由なのよ!」

「おいやめろ、彼奴らはもう博士に洗脳されてるんだ、何っても無駄だ!」

「おしゃべりは此処までです、パパを裏切った者に死を!」

 

ドーン!! ガラガラガラ‥‥‥