怠惰に創作

細々と小説の様なものを創作しています。設定など思い付いたように変更しますので、ご容赦ください。

異星大戦記 プロローグ

無限に広がる黒き闇の世界。そこに瞬く無数の星々の煌めき‥‥‥。星の大海の中に沈み、その流れに身を任せ、何処までも続く暗き世界は、希望と絶望、興奮と恐怖に満ち溢れ‥‥‥。

 

「ハァ‥‥‥何言ってんだ俺‥‥‥」

 

俺は今、人型機動兵器のコックピット内でモニターに映る広大な宇宙を見ている、と言ってももちろん疑似体験、バーチャル・リアリティである。要するに俺はあるオンラインゲームの中にいるのだ。

そのゲームは、リアルロボットアニメの金字塔と呼ばれ、以降もシリーズ化されさまざまな媒体で活躍する人気シリーズとなっている。その初代アニメを元に開発されたオンラインゲームは、配信されるとそのリアルすぎる設定で話題を呼んで瞬く間に広がりを見せたのだ。

しかし、超話題のゲームだったが、配信から1ヶ月も立たずに利用者は半分にまで激減した。なんせこのゲーム、プレイ出来る時間が予め決められていおり、好きな時間に出来ないというデメリットがあるのだ。しかも、撃破されるとコンテニュー出来ずに再びゲームに参加するには翌日の配信時間まで待たねばならない、要するに戦死した者は復活し無いと言うのを再現しているのだ。

その他にも、攻撃の当たり処が悪ければ1発でゲームオーバーになる処や、武器の弾薬数やエネルギー、機体の推進剤(燃料)の積載量なども事細かに設定されている。よくある耐久値や威力が弱い武器は弾が無限などのゲーム特有の仕様が一切ないのである。徹底的にリアル志向(一部例外アリ)、運が悪ければ開始5分でゲームオーバーになったという噂も聞く、本格的な「VRサバイバル・シューティング・ゲーム」なのだ。

本編はアニメの主人公が所属する国家と敵対勢力の国家間による戦争の話で、アニメ本編で主人公が闘った戦場の他にも、外伝とうの関連作品からも戦場が選ばれていて、その数は50にも上るステージが用意されている。其処で主人公側、敵国側の二つの陣営に分かれて1ステージ5時間にも及ぶサバイバルバトルが繰り広げられる。

ゲーム内容は至ってシンプルだ。好きな陣営に所属し、その陣営が開発したユニットに乗って戦場を駆けまわって敵を撃破する。言ってしまえばそれだけだ。

まず、プレイヤーは自分が選んだ陣営の機体に乗って戦場で戦うのだが、一度所属した陣営に入ると、最後まで抜けられない仕様になっている。ただそれは後に修正され、ポイントを支払えば、陣営を変更する事も出来る。要するに敵への寝返りと言う訳だな。但し、陣営変更をすると、自分が使っていた機体が全部売却されてそのポイントだけを持って移る事になる。ただそれも変更され、今では1機だけ持って行けるように変更されている。これにはプレイヤー側の要望があったとされている。要は敵の機体を使えるのは鹵獲して使ってるっていう体で使用可能にしたって事だ。

ただ味方の機体に乗る敵がいると混乱する。一応識別信号があるため大丈夫、という事に成ってはいるのだが‥‥‥やはり時々間違える事がある。敵だと思ったら見方だったり、味方だと思ったら敵だったりと結構混乱する場面もある。ま、それもこのゲームの醍醐味と言ってしまえばそれまでだな。

プレイは配信が始まる午後7時から終了する午前12時までの5時間の間で、プレイヤーは何時でも好きな時間に参加出来る。しかし参加時間が短いと、クリア時の報酬ポイントが少ないと言うデメリットがある。ポイントは戦闘終了(途中終了でも)時にそれまでのプレイ時間によって得られるもので、より長い時間プレイしていればより多くのポイントがもらえる事になる。但し撃破されてゲームオーバーになると、獲得したポイントをすべて失うと言うシビアな設定になっている。そう言うのも人を選ぶゲームになった理由だろう。

そしてこのポイントだが、このゲームで得られるポイントは別名キャピタルと言って、一種のお金である。その使い道は、毎週月曜日に新たに追加されるステージへの購入資金である。これが足りないと次のステージに行けないので、同じステージでポイントを稼がなくてはならなくなる。下手をするとドンドン遅れる事にもなる。

主なポイントの稼ぎ方だが、まぁ当然だが敵の機動兵器や艦船、施設を破壊すれば得られる。ただ敵の撃破や施設の破壊をしなくても、ゲーム開始から終了まで逃げ隠れして生き残る事を1週間続けるだけでも次のステージ購入分のポイントは稼げる。但し、先程ポイントはお金といった様に、ポイントの使い道は他にもある。それは機体の改造や強化、新たな機体や武器などの装備品を購入する際に使う訳だ。

一応、機体の売却も出来るし、その際に今まで改造等で使った分のポイントも帰って来るので問題はない。ゲーム開始時に支給されるのは、「機動兵器、航宙(空)機、地上兵器(戦車など)、宇宙巡洋艦」の数種類だけなので、そいつで何とか戦場を駆けめぐって敵を撃破しながら最後まで生き残り、ポイントを稼いで次のステージへ進む。そしてステージが進めば、その頃に開発した新機体が購入欄に追加されて行くのである。

後は武器などの装備品も充実している。本来ならその機体が装備していない、或いは装備できない武器も、改造する事で装備させる事も出来る。そうやってドンドン自分のお気に入りの機体を見つけては改造と武装を施し、自分だけの機体で戦場を駆けるというのがこのゲームの醍醐味なのである。

そのリアル志向や各種緻密な設定のためか玄人受けするゲームであり、本物志向のマニアなどの一部に大うけしたゲームだ。無論俺もハマっている。

リアルに居場所がない俺の唯一輝ける場所、それが此処なのだ。

最初は5分とは言わないが1、2時間も闘っていると撃破されていた。大概撃破される理由は同じだ。敵を撃破しようと躍起になり過ぎたせいで、動きが直線的になった処を狙われるだな。如何も俺はこの手で撃破される事が多い。他には燃料の残量を気にしなきゃならないのに忘れてしまい、燃料切れで動かなくなった処を撃破された事もあったな。その時は、ゲームと分かっていても全く身動きが取れずに宇宙に漂う事になり、正直何も出来ない無力感にチョット怖かったな。しかも俺を見つけた奴、俺が動けないのを良い事に揶揄うように俺の周りをグルグル回ってから撃ちやがった。あの時は思わず「ひと思いの殺せぇぇぇ!!」って叫んじまったよ。

ただ、4回目に宇宙を漂った時に偶々同じ陣営の別プレイヤーに助けられて撃破されずに済んだ。あの時はゲームもにも拘らず、本当に感謝して仲間の大切さってものを教えられた気がしたよ。

だからかな、俺はその命の恩人(ちょっと大げさかもしれないがな)と共に戦う事にしたんだ。所謂ツーマンセルってやつだな。顔も名前も素性も知らないゲームでだけの相棒、ハンドルネームの「ライ」っていう名前だけしか知らない相手とコンビを組み、ある時は助け、ある時は助けられ、俺らは二人三脚で以降まったく撃破される事無くこのゲームを駆け抜けて行った。俺たちの活躍に他のプレイヤーも一目置く様になってよ、「青い2連星」なんて二つ名で呼ばれる様になったんだぜ。

二つ名の由来は俺が青色が好きで自分の機体を青一色に染めていたら、ライも俺も青色好きだからって機体を青くしてくれたんだ。青い機体が連携して攻撃して来るためその様な二つ名がついたって事だ。二つ名があるとアニメのエースパイロットの仲間入りしたみたいで気分が良かったな。アニメの世界に中に溶け込んだような感覚を得たよ。

だが今、この戦場には俺しかいない。ライの姿は無いんだ‥‥‥。

ゲームが配信されてから早1年が経とうとしている。そして最終ステージ、アニメでも最後の戦場にもなった宇宙要塞戦だ。俺はこのステージをひとりで闘わなければならない事になったんだ。

では何故この戦場にライがいないのかと言うと、それは前日の‥‥‥ひとつ前のステージでライがやられてしまったからなんだ。

それはライが家の事情で2日ほどゲームに参加出来なくて、最終ステージに行くためのポイントが不足した事が始まりだ。俺はすでにポイントが溜まっていたからライのサポートに回って彼奴にポイントを稼がせる事になった。

だがそんな時だ、問題が起こった。何故かライの奴が主人公機で参加したのだ。

主人公機、このアニメのタイトルにもなっている人型機動兵器の事で、特殊素材で出来た装甲のお陰で弱い実弾系武器での攻撃ではダメージを与える事ができず、それ故に初心者でも戦える機体だと一時期その機動兵器が戦場を闊歩していた時期もあった。

アニメ設定では高コストで量産できない機体で、開発者で主人公の父親が「量産されれば勝利は間違いない」と太鼓判を押すのに対して、「量産されればその高コストによって破産する」とまで言わしめた機体である。但し、実際に量産され活躍した量産機は主人公機のコストを抑えた廉価版であり、「開発者の言う量産とはその廉価版の事で、それが量産されたから勝利できた」という意見もある機体だ。ま、大概のアニメ作品の主人公機は特別だよな。

と言うのは置いといてだ。では、何故ライが主人公機で出て来た事が問題かと言うと、俺たちは量産機至上主義者だからだ。主人公機なんてハンデは要らねぇ! 男なら黙って量産機! の精神でこの戦場を闘い続けていたのに、あの時は裏切られた気持ちになったよ。

ただそんな俺に対し、ライの言訳が「ヒーローハンター(主人公機狩り)」をおびき寄せるためだと言ったんだ。

ヒーローハンター、このゲームも中盤に差し掛かった頃に噂され始めたプレイヤーの事だ。「ロッドバーロン」というハンドルネームで、搭乗機は勿論赤い。と言うか、主人公のライバルキャラが最初に乗っていた機体を使っていて、それを魔改造したらしく、本来ならビーム兵器を扱えない機体の筈なのに、魔改造のせいでビーム兵器も扱え、さらに機動性も限界以上に強化されていて、スピードは本家の3倍(あくまで噂)とまで言われる化け物級の機体なのだ。

そのロッドバーロンなのだが、如何も主人公機を狙って、と言うか、主人公機しか攻撃しない(その他の機体でも歯向かってきたら攻撃する)そうなのだ。だからヒーローハンターという異名を持つのだ。お陰で一時は戦場のプレイヤー機体の8割以上が主人公機と言われた序盤とは裏腹に、今では余り主人公機を見なくなった。それ位畏怖されたプレイヤーなのだ。まぁ、彼奴とステージが被らなければ遭遇する事は無いんだがな。

当然、量産機至上主義の俺たちには縁のないプレイヤーなのだが、如何もライは最近クリアが容易になって刺激が足りなくなった様で、それ故に刺激を求めてそいつと戦いたいと言い出したんだ。強い相手を求めての選択なのだが、其れとは別にもうひとつの理由もある。それは「二つ名(異名、通り名)」制である。これはただ単に周囲から羨望や畏怖の念から呼ばれているだけでは無い。結構ゲームに関係している。

と言うのも、周囲から二つ名で呼ばれる様になり、それがそれなりに知名度を持つと、その二つ名持ちプレイヤーには一種の懸賞金が賭けられるのだ。これはまるで昔の手配書の賞金首の様に、活躍すれば活躍するほど得られる賞金額(ポイント数)が増え続ける。だから敵勢力側のプレイヤーに付け狙われる事になるのだ。勿論、俺たち青い二連星も撃破すれば結構なポイントが得られる。だから敵側でプレイしているプレイヤーから結構狙われている。ま、俺とライのコンビネーションで返り討ちにしてるがな。

因みにフレンドリーファイアもこのゲームでは存在する。実際の戦場でも味方の弾丸や爆弾が当たったら死ぬからな。ただフレンドリーファイヤで撃破しても1ポイントにもならないから、フレンドリーファイヤなんてやっても意味がないんだ。

話が逸れたが、ロッドバーロンを誘い出して撃破出来れば相当なポイントが稼げる。ライはそう考えたのだ。俺もこの頃いなると張り合いが無くなったと実感してたからライの提案に乗ったよ、そいつがどれ程のプレイヤーであっても二人掛なら撃破できるってな。だが結果はもう分るだろ? 俺たちの惨敗って訳だ。ただこの時、ロッドバーロンは俺は撃破せずに見逃しやがったんだ。ライだけ撃破してそのまま戦場の中に消えちまった。自慢のスピードを生かしてあっと言う間にな。見逃したのは俺が量産機だった事と、ライが撃破されたショックで俺が戦意喪失したからだろう。彼奴の狙いはあくまでも主人公機だからな。

相棒を撃破され、戦場に取り残された俺の喪失感は相当なもんだった。これが仲間を失う事なのかって思ったね、実際はゲームだから翌日になれば何事もなくライはゲームに復帰して来るって分かってるけどよ、それでも‥‥‥なんて言ったらいいのかな、無力感? 絶望感? 悔しさ? そう言ったモノが綯交ぜになった感覚に陥ったんだ。

だからかな、俺は今日の配信でライを待たずに最終ステージに立ってる。ライの仇を打つ! そのためだけに量産機至上主義を捨てて主人公機で出撃したんだ。イヤ、もしかすると、俺の中でロッドバーロンを単独で撃破したらライより腕が上と証明できると思ったのかもしれない‥‥‥。

ま、何方にせよ俺は今、久しぶりにたった一人で戦場に立っているんだ。

‥‥‥いや、違うな、一昨日と一昨昨日の2日間ライは家の用事で参加しなかった。という事は、2日? イヤ1日ぶりか? まぁいいや‥‥‥。

 

 

☆彡

 

 

「はぁ~‥‥‥ちょっと早く入り過ぎたか‥‥‥」

 

ゲーム開始時刻より30分も前に入ったせいでかなり暇である。訳の分からない独り言を言うくらいに‥‥‥。

ただ顔を横に向けると、闇と光の点だけの世界に戦艦や巡洋艦などの宇宙艦船が整然と並んでいる。壮観な景色ってこう言うこと言うんだろうな。多分、全部モブなんだろうけど。プレイヤーもいるのかな? このゲーム、戦艦でもプレイできるんだ。やった事無いから如何いうプレイ方法なのかは分からないけどな。

そして正面に目を向けるとモニターに映し出される闇に浮かぶ異形の巨岩の塊‥‥‥俺たちが攻略すべき宇宙要塞の姿が見える。

本来だったら機動兵器のパイロットは宇宙空間が見える訳がないんだ。戦艦の格納庫でジッと出撃の時を待っているんだからな。けどゲームだから開始時刻まで一通り今回の戦場を見る事ができる。

すると唐突に目の前に一筋の閃光が伸び、そして幾つもの光が瞬き消えて行った。

 

「始まったか‥‥‥」

 

このゲームは開始時に各ステージ最初にチョットしたイベントを見る事ができる。戦闘に至るまでの演出ってやつだ。ただ自分が所属している勢力の一兵士の目線でしかそのイベントは拝めないから、相手側のイベントは内容が違う場合もある。

今回の最終ステージでは、負け込んだ敵国のトップが、味方側(俺目線での話)の総司令官に和平を申し込もうとして、敵国の実質的な指導者である息子に巨大なレーザー砲で焼かれるってイベントから始まるんだ。さっき俺が見た光の筋はそのレーザー砲の攻撃って事になる。俺の脳内にアニメのそのシーンが蘇る。

その時に、味方側も総司令官と共に艦隊の半数を失ってしまうんだ。多分それの演出なのだろうか? さっきから無線で色々と怒鳴り声やらなんやらが聞こえて来ている。

そして暫くして艦隊司令部から要塞への総攻撃命令が下された。ゲームの開始だ!

ゲームが始まると直ぐにモニターの映像が戦艦の格納庫内に変わり、オペレーターからの指示が来る。俺は格納庫内を進んでカタパルトに乗って出撃準備を整える。

 

「青い二連‥‥‥」

 

思わず「青い二連星のスカイ」って言いそうになった。何時も名乗ってからついな、今日はひとりだからハンドルネームのスカイだけで行く。

 

「スカイ、行きまーす!」

 

主人公機に乗ってるんだからこのセリフの方が良いだろう。本編では一回しか言ってないらしけどな。

カタパルトが勢いよく動き出し、戦艦から宇宙空間に飛び出した俺は、眼前に浮かぶ宇宙要塞へと向かう。要塞周辺の空間を縦横無尽に飛びまわり、モブだかプレイヤーだかを撃破しながら彼奴を探しまわる。

このゲームに参加した初期の頃は、5時間丸々参加したのに一機も撃破出来なかった事もあるが、今は結構撃破出来ている。これが馴れってものなんだろうか? 

俺は途中2度ほど母艦に帰って補給を受け、3度目の出撃の時だった。遂にあの赤い機体を発見した。俺は遭遇した時に弾薬や燃料が少ないと不味いので、結構早めに補給に帰っていて、その甲斐あって俺が奴に遭遇した時にはほぼ満タン状態だ。すぐさま俺は攻撃を仕掛けた。死角から一気に近付いてビームをぶっ放した! だが、彼奴はそれを運良く? 躱して逃げ出した。当然俺は追いかけた。初手で撃破出来なかったのは不味かったが、俺はまだ奴の後ろを取った状態で有利だ。俺とロッドバーロンは宇宙空間を縦横無尽に飛びまわる。

何時までも続くかに見えたロッドバーロンとの追いかけっこは、しかしそれは唐突に終わりを告げた。何度目かのビームを彼奴は機体を側転させて紙一重で躱しつつ、向きを変えて此方に正面を向けて来たのだ。彼奴は此方に向いたと同時にビームを乱射して来たので、俺は咄嗟にシールドでビームを防ぐ。しかし、ビームの盾ならまだしも、ただのシールドでビームを何発も受けとめる事は出来ない、俺はシールドと共に機体の左腕をも失ってしまう。

絶体絶命のピンチ、そう思った瞬間、突然俺と彼奴の間に無数のビームが通過する。見ると何処からともなくプレイヤーが大挙して押し寄せ、俺たちの戦闘に割り込んで来たんだ。如何やらヒーローハンターを撃破しようと集まった連中らしい。俺との戦闘に集中した処を討とうと言うハイエナみたいな魂胆なのだろう。なんせ彼奴の撃破ポイントは他の追随を許さないほど高額なのだ。チャンスがあればそれは狙いたくもなる。

本来だったら「邪魔するな!」と言いたいところだが、今はそれによって助かった事になる。感謝はしないがな。

さてこれから如何する? 左腕とシールドを失った状態で彼奴と渡り合えるのか? ここは一旦母艦に戻って修理と補給をするか? イヤ、そんなことをしたら彼奴を見失うかもしれない‥‥‥。

俺は迷った。まだ燃料とライフルの弾数には余裕があり、戦闘は続けられる。しかし損傷した状態で彼奴の勝てるのか? 無理をするか手堅く行くか、今すぐ判断しなければならない。何故ならあのハイエナ共が次々と彼奴に撃破されているのだ。戻るなら今が絶好のチャンスだ。もしハイエナ共を全員撃破されてから逃げても、彼奴の機動力ならすぐに追いつかれてやられてしまう。

 

「ん?」

 

俺が迷っていると、モニターの片隅で敵の一部が要塞を離れていく光景を目にする。

 

「暗殺されたのか⁉」

 

俺はその光景を目にして、要塞内に居る敵国の指導者が暗殺されるアニメお馴染みのイベントが発動した事を知る。撤退したのは彼の親衛隊で、暗殺の首謀者である妹に従うのを拒否して去って行ったのだ。このイベントを目にした俺は戦闘継続を決断した。多分これで要塞内に侵入する事ができる。そう判断したのだ。

彼奴と戦って思い知った。彼奴と宇宙空間で戦闘しても勝ち目はない。それだけ彼奴の機体の機動性と運動性はずば抜けているからだ。なら要塞内ならどうだ? 彼奴のご自慢の機動性も運動性も封じる事ができる。

俺はすぐさま要塞に接近する。要塞の砲撃が激しくなり、俺はそれをかいくぐりつつ要塞内への侵入を試みる。この頃になると敵の機動兵器が急に増える。指導者が温存していた機動兵器を妹が全機出したからだ。要するにプレイヤーだけでなくモブの機動兵器が一気に増えたのだ。しかし、俺はそんなの関係ないと、要塞から出て来たモブ機動兵器を撃破して要塞内に侵入する。

要塞内は入り組んでいるものの、迷路ではないため真っ直ぐ通路を進めば何処かに繋がっているので先へ進む。途中、モブが待ち伏せしていたが、それを難なく撃破してドンドン奥へと進んで行く。多分、彼奴も俺を追って中に入っている筈だ。要塞内に入る際に一回確認して彼奴がこちらに向かって来るのを見ている、主人公機を目の敵にしている以上、追って来ている筈だ。ただモブと挟み撃ちになる事だけは避けなければならないので、俺は強行軍で要塞の奥へと進む。お陰で途中モブにやられそうになる事もあったが、何とか無事に広い場所に出る事ができた。

 

「ここは機動兵器の格納庫か工廠かな?」

 

俺は開けた場所を見て回りそこが何なのかと推察していると背後からビームが飛んで来たので慌てて広場の中に逃げ込む。如何やら奴さんが来たみたいだ。

俺は広場の何だかよくわからないコンテナの様なモノの裏に身を隠し、彼奴が格納庫に足を踏み入れた時に狙い撃てるようにライフルを構えて待つ。流石に此処まで来るのにライフルのエネルギーの半分以上を使い果たし、あと十数発撃てるかどうかの処まで来ている。彼奴が姿を現した処を狙い撃って終わらせるのが俺の狙いだが、奴だって馬鹿じゃない、そんな事は承知の上だろうから何かしらのフェイントを使って入って来るだろう事は予測される。要はそれにひっからずに彼奴を撃破出来れば俺の勝ちだ。もし失敗したら白兵戦に移るしかない。俺は緊張の糸を張り詰めて彼奴が来るのを待った。

だが来ない。1分…2分……5分たったが奴は入って来ない。一分一秒がこんなにも長く感じた事が無いってくらい長い時間を待った気分だが、実際はまだ5分しかたっていない事が分かって驚いた。まったく現れない彼奴に俺のイライラが募り、緊張の糸が切れてしまった。

 

「何やってんだ彼奴!」

 

俺はしょうがなく危険を承知でコンテナの裏から出て入口の方に向かう。もし奴が入口の向こうで俺みたいに待ち伏せしていたら、身を晒した瞬間撃破される。俺はそれを警戒し、そこいらに浮かんで漂っている何かの残骸を手に取って入口の方へ投げる。しかし反応が無い。これは困った、この反応はそこに居ないからなのか、或いは引っ掛からなかったのかどっちだ? 結局俺は自身の目で確かめるしかなくなり入口まで近付く。壁際に隠れ、俺は出ると同時にビームをぶっ放して向こう側に移る。そういう確認方法を取る事にしてさっそっく行動に移す。

大きく深呼吸を繰り返し、恐怖と緊張でバクバクの心臓を落ち着ける。ただのゲームってのに大袈裟だよな。自分でもそう思う。でも、それだけ俺はこのゲームにのめり込んでいるって証拠でもある。しかも、ここまでに結構プレイヤーやモブを撃破してるからポイントが溜まってるんだ、それを失いたくないって気持ちもある。そしていざと思った瞬間、背後からビームが飛んで来て機体の頭部の一部を焼いた。俺はとっさにその場から飛びずさると共に、背後に向きを変える。すると、モニターに赤い機体が映し出された。

 

「彼奴だ! クソ、迂回してたのか!」

 

俺はすぐさま応戦して格納庫で撃ち合いが始まるが、奴は急に撃って来なくなる。如何やらライフルのエネルギーが切れた様だ。チャンス到来に俺はこのまま勢いに乗って奴を仕留めようとビームを発射する。しかし格納庫には障害物がいくつもあって、彼奴はそれらをうまく遮蔽物に使って難を逃れつつ俺に近付いて来た。

 

「あ、クソ!」

 

ビームが全く当たらないイライラと、こっちもいよいよライフルのエネルギーが切れかかってきて、余り無駄弾を撃てなくなってライフルの銃口を向けても容易に引き金を引けなくなった。彼奴はそれを感じ取ったのか、白兵戦用武器を取り出して真っ直ぐ此方に向かって来た。

 

「剣⁉ お前は斧だろが‼」

 

本来ビームの使えない機体である奴の白兵戦用武器は刃が発熱する斧なのだが、魔改造のお陰でビームの剣が使える様だ。

奴は剣を構えて俺に向かって突進して来る。ただ真っ直ぐ此方に来たので、俺はライフルを真正面に向けて全弾撃ち尽くす覚悟で引き金を引く。すると、彼奴はビームが放たれると同時に、持っていた弾切れライフルを投げつけて来た。俺の目の前でビームとライフルがぶつかり爆発する。奴はその爆風を目くらましに一気に距離を詰め、俺の眼前でビームの剣を振り上げる。

 

「クッ⁉」

 

俺は咄嗟にライフルを手放して後方へ下がる。すると、奴が振り下ろしたビームの刀身が俺の手放したライフルを真っ二つにし、小さな爆発を起こす。それを振り払うように奴はビームの剣の切っ先を俺に向けてまた突進して来る。

 

「舐めるなァァァ!!」

 

俺は奴のビームの剣を紙一重で躱すと、直ぐに忍者刀の様に背中に装備されている白兵戦用武器を手にする。剣を抜いた勢いのまま、俺は突進を躱された事で勢い余って通り過ぎた彼奴を背後から斬りつける。が、斬りつける瞬間に彼奴が振り返りつつ俺の機体の胴体にビームの剣を叩きつけた! 俺のビームの刀身も奴の肩に当たり、その熱で人型機動兵器の装甲を溶断して行くが、奴の剣も俺の胴体を溶断して行く。

互いのビームの剣が互いの機体を溶断した次の瞬間、俺の画面が真っ暗になってしまった。

そう、ゲームオーバーだ‥‥‥。

 

 

☆彡

 

 

「クソ!」

 

俺は真っ黒になった画面に向かって悪態を付いたが、ライとコンビを組んで以来、久しく見ていなかったこのゲームオーバーの画面は、相変わらず真っ黒で素っ気ないままだった。元々コンテニューが無いためただの真っ黒な画面にしかならない。まるで死んだらこうなりますとでも言いたげで、俺は正直最初にこの画面を見たとき怖かった記憶がある。

俺は負けたのだろうか? ただ俺は確かに彼奴の機体をビームの剣で溶断していた。なら相打ちか? まぁ、最後まで切った処は見れなかった。でも、あれだけ切り裂けば機体が爆発してもおかしくない。という事は、相打ちという事になる。ただ相打ちでは駄目なのだ。俺が稼いだポイントは‥‥‥。

 

「ゼ~ロ~‥‥‥か」

 

俺はドッと疲れが出るのを感じた。一応は仇は取ったのかな? 相打ちだけど‥‥‥。

 

「あーあ、明日も仕事だしもう寝るか‥‥‥その前に風呂は入るかな」

 

俺は明日に備えて風呂に入って寝ようと思った。しかし、急激に睡魔に襲われる。

 

「アレ、如何した‥‥‥そういやここんところ結構夜更かししてて寝る時間切り詰めてたな‥‥‥でも風呂くらいは入らないと会社の女どもが‥‥‥」

 

俺は睡魔に抗おうとしたが、重い瞼が言う事を聞かず、目を開くのを放棄した俺は闇の中に落ちてしまった‥‥‥。

 

 

 

 

 

ボコボコボコ‥‥‥

 

あれ? ここ何処だ?

 

ボコボコボコ‥‥‥

 

水の中か? って事は俺、風呂入ってるのか?

 

ボコボコボコ‥‥‥

 

って俺、水の中にいるのか? 潜ってるのか? 何で? まさか風呂に入って眠ってそのまま溺れて⁉

 

ボコボコボコ‥‥‥

 

何で⁉ 身体が動かない⁉ も、もしかして俺もう死んで‥‥‥。

うん? 誰だ? 人の気配がする‥‥‥。

ひとり暮らしの俺のマンションに人って事は泥棒か⁉

部屋に入って来る人間=泥棒って考えが至る所が如何かと思うけど、悲しいけど俺、友達も彼女も居ないのよね。って、そんなこと言ってる場合じゃねぇ! 人の気配を感じられるって事は俺はまだ死んで無いって事だ!

泥棒でも何でもいい! すぐさま俺を風呂から出してくれ! 窃盗に続いて殺人罪を追加されたくないだろ⁉

そして序に人工呼吸してくれ! この際男でもいい! 本当はスリーサイズがゾロ目の美女泥棒に介抱されたいが、贅沢は言ってられない!

 

プシュー

ゴボゴボゴボ‥‥‥

 

何だこの水を抜くような音は? あゝ成程、風呂の栓を抜いてくれたのか。た、助かった‥‥‥。

ゴボゴボゴボ‥‥‥

バシャバシャ‥‥‥

 

でも、栓抜くより引き上げてくれた方が早かったのに。すると身体に何かが覆いかぶさる感触を得て、俺は思わず目を開ける。すると俺の視界にあった事も無い女性の顔が映り込む。その女性は眼鏡を掛け、栗色の髪を後ろの方で纏めていて、見るからに偏差値が高そうな雰囲気を醸し出すインテリ系眼鏡女子だ。それも可なりの美人さんだ。

 

「おはよう、私の天使‥‥‥」

 

はぃ? 誰? 天使? 誰の事を言ってるんだ? もしかして俺の事か? 俺は会社の女どもから「オーク」って陰で呼ばれてんだぞ。天使って‥‥‥?

一体誰だ? イヤ待て、俺を助けてくれた優しい女の人だ、感謝はすれど文句を言っちゃあいけねぇな。

それとここは何処だ? 俺の部屋の浴室じゃない? うす暗くてよく分からん場所だ。

一体何処なんだ此処は! あゝそっか、これは夢なんだ。夢の世界。だったら見た事無いよな。

 

ビービービー!

 

すると突然けたたましい音が俺の鼓膜を打った。何だ? 一体何が起こってるんだ俺の夢で!

 

「警報!」

 

それは分かってる。

 

「来たか!」

 

何が来たの? って今度は男の声? あゝ、あっちの方に白衣を着た男が見える。本当にここ何処だ? 一体何の夢見てんだ俺? 情報量が多くて訳が分からん!

次から次へと俺の周りでは事態が急変している。俺は起き上がりたかったが何故か身体の自由が利かない。如何なってんだ? 夢だからか? イヤ、幾ら夢でも動けない事無いだろ‥‥‥? イヤ、そういう夢か?

 

「λをお願い!」

「あゝ! 君はμのカプセルも開放してくれ!」

「分かったわ!」

 

インテリたちが何か話してるぞ? ラムダだのミューだの何の事なんだ? 科学用語の隠語か何かか? インテリ系美女はどっか行っちゃったし‥‥‥。

 

バーン! キューン!

 

「キャ!」

 

何だ今の音? 銃声か? アニメやゲームでしか聞いた事無いけど、似てたよな! って、今度は銃持ったヤバい奴が来たのか? ってか、冷静に考えたら俺、いま裸って事だよな! ギャー見ないでー! って、そう言えばあの人バスタオル掛けてくれてたんだった。よかった‥‥‥よく無いよ! バスタオル掛ける前は俺の裸丸見えだっただろうが! あーあ、あんな美人に俺の節操のない裸を見られてしまった‥‥‥お婿に行けない‥‥‥。結婚する気ないけどね。

 

「な、何⁉」

「残念ですよ、ジーン・リッチ博士、ナイザ・ディチャルト博士」

 

は、博士? あゝ、そう言えばインテリ系美女も男の人も白衣着てたな。分かりやすい博士だ。でも、一体何が如何なってるのか誰か説明してくれよ⁉ 

 

「β‥‥‥」

「クソ!」

「貴方たちですね、パパの理想を邪魔したのは?」

「聞いてβ、博士のやっている事は間違ってるの!」

「いいえ、間違っているのはあなた方です、パパを裏切り、兄弟たちを無理やり起こそうとは‥‥‥」

「無駄だナイザ、彼奴らは博士の言いなりだ! 何言っても聞きゃしない!」

「そうです、パパは我々にとって創造主、我々子供たちはパパの役に立つためにいるのです」

「違う! ここにいる子供たちも、勿論あなたも自由なのよ!」

「おいやめろ、彼奴らは博士に洗脳されてるんだ、何を言っても無駄だ!」

 

もしかして此れテレビか? テレビ付けっぱなしで寝て、そのセリフを聞いて俺の脳内で勝手に作り出した映像を夢で見せてるって事か? 朝一で何かのドラマが流れてんのか? これなら合点がいく。ま~続きが気になるから取りあえずこのままで‥‥‥。

 

「おしゃべりは此処までです‥‥‥パパを裏切った者に死を!」

 

ドーン!! ガラガラガラ‥‥‥

 

な、なんだ今の爆音と振動は⁉ 地震⁉ 違う地震に爆発音なんて無い。ってか、夢で振動なんて感じないよな? って事は現実なのか?

 

「あ、ああ‥‥‥うう‥‥‥」

 

声が出ない! 何でだ! 動けないし声が出ない! 一体如何なってんだ俺の身体⁉ 

 

「ああ‥‥‥うう‥‥‥」

 

もう一度試したがやはり声が出ない。如何なってんだ? もうこんなセリフしか出て来ないよ。ううん? チョット身体が動かせるようになって来た。よ、良し、俺は一体どこに‥‥‥あれ? 俺の身体縮んでないか? 気のせいか?

俺はかけてもらったバスタオルで身体全体を隠し、身体を起こして周囲を見回す。まったく知らない場所だった。分かる事はただ一つ、自分の家でない事だけだ。

薄暗く、何か良く分からない計器や機械の様なものがある部屋。先程の爆音と地響きの原因であろう瓦礫の山が積み上がっていて、この部屋の全体は分からないものの、そんな事は如何でも良くなった。只々ここが何処なのかが知りたい。

 

「何とか助かったな」

 

するとインテリ系男子じゃなかった博士が‥‥‥博士はインテリか。まぁそれはこの際どうでもいい。その男の博士が此方に近付いて来た。背中に14、5歳そこらの女の子をおんぶしていて、彼女は虚ろな表情でバスタオルで包まれている。多分下は俺と同じで裸なんだろう。

 

「ええ、行きましょ。統一連合の部隊が私達を保護してくれるはずよ」

「そうだな、急ごう」

 

するとインテリ系眼鏡美女が俺に手を差し出した。

 

「走れる?」

「ああ‥‥‥うう‥‥‥」

 

クソ、まだ上手く喋れないのか、しかし身体は大分動けるようになった。多分走る事も出来るだろう。俺は頷く事で自分の意思を伝えてインテリ系眼鏡美女の手を取る。

 

ハァハァハァ‥‥‥

 

インテリ系美女に手を引かれながら部屋を出た俺は、窓も無い通路をひたすら走っていた。流石に文系なので体力が無いのだろう、彼女の走りは徐々に遅くなっていく。俺たちの前を走る女の子を負ぶったインテリ系男子も疲れ始めている。それに対して俺は全く疲れていない。俺ってこんなに体力あったか? 子供の頃から太ってて運動苦手だったはずなのに‥‥‥。

 

「止まれ!」

 

すると前方から完全武装した一団が現れ、アサルトライフル銃口をこちらに向けて俺たちを制止する。

 

「待ってくれ! 私はジーン・リッチ博士だ!」

 

インテリ系男子が名乗ると武装兵士たちの隊長らしき人物が合図し、それに従うように他の兵士たちが向けていた銃口を下げる。スゲ~、映画やアニメでしか見た事無い軍隊の動きだ。俺は一糸乱れぬ彼らの動きに感心してしまう。

 

「リッチ博士、それとディチャルド博士?」

「ええ、そうよ」

「迎えに来ました。彼らが博士の言う子供たちですか?」

「あゝそうだ」

「では此方へ‥‥‥博士と子供たちを援護する。円陣を組め!」

「ハッ!」

 

俺たちは完全武装の特殊部隊員に囲まれながら先を進む事になる。なんだかすごい事になってる。って言うか、今更だが‥‥‥俺、背が縮んでるよな。一応172㎝あるんだよ俺、そんな俺が見上げるくらい背が高いんだよ全員。これだと全員2m越えの人ばかりって事になる。そんなのあり得ない。

暫くするとエレベーターに辿り着き、そこでエレベーターが来るのを待つ。待っている間も警戒を怠らない特殊部隊員に、俺は映画やドラマの姿を直に見ているのだと感動すら覚えてしまう。

 

「トラブル発生!」

 

すると特殊隊員のひとりが警戒を促す言葉を発した。多分このひと女性だ。完全武装に顔も隠れているから性別分かんなかったけど、声聞いて何となくそう思った。こう言うのが気になるお年頃なのよ。歳は関係ないか‥‥‥。

すると通路の奥から人影が近付いて来るのが見えた。最初はよく見えなかったが、それが20代前半くらいの男性である事が分かった。片手に拳銃を持ってドンドン近付いて来る。

 

「β‥‥‥」

 

ベータ? 博士たちの事を「裏切り者」とか言って銃ぶっ放して来た奴か? そういや天井が落ちて来て部屋が瓦礫で分断されたから顔見ていなかったが‥‥‥すんげぇぇ~イケメンだな。なんかムカつくんだけど。

「博士、彼は?」

「彼奴は敵です! 攻撃を!」

「了解!」

 

すると7人居る特殊部隊の内の2名がアサルトライフルを構えて前に出る。

 

「止まれ! 止まらんと撃つぞ!」

 

特殊部隊員の警告に、ベータは全く動じずに歩いて来る。

 

「構わん撃て!」

 

隊長の命令一下、ライフルを構えていた特殊部隊員は一斉に銃を発射する。だが次の瞬間、俺は信じられない光景を目にした。なんとベータと呼ばれていた美青年が銃弾の雨の中を蛇行しながら走って此方に近付いて来たのだ。しかも壁走りと言う普通の人間が出来ない動きを見せ付けつつ、あっと言う間にアサルトライフルを撃つ特殊部隊員の目の前まで来たのだ。そして何の躊躇も無く手にした拳銃で特殊部隊員を撃ち殺す。身体は防弾チョッキで守られているから、それ以外の部分に銃弾を数発ぶち込んで、あっと言う間に特殊部隊員2名を殺害してしまう。

何なんだ彼奴! 平然と人殺しやがった⁉ しかも訓練を積んだであろう特殊部隊員あんなにあっさりと‥‥‥!

目の前で起こった事が只々信じられずに呆然と見ていると、今度は別の特殊部隊員ふたりがベータに攻撃を仕掛ける。

近距離なためか武器を拳銃に変えてベータを攻撃する。しかしそれを彼は脅威的な身体能力で躱しつつ特殊部隊員を始末して行く。

 

ポーン

 

と此処でエレベーターが来て扉が開く。

すぐさま博士や俺はエレベーターに飛び乗り、そして隊長と残った2名の兵士の内のひとりが乗り込み、もうひとりはナイフを片手にベータに組みついて時間を稼ぐために残った。

エレベーターの扉が閉まり、俺たちは無事上の階に進む事ができた。多分、残った隊員はベータに殺されただろう。あの女性隊員も最初の攻撃で殺された。一体何なんだ此処は? 悪い夢を見ている様だ‥‥‥夢? そうだこれは夢だ‥‥‥と思えたらどんなに楽だっただろう、これは夢じゃない現実なんだ。だって裸足の俺の足の裏には確りと床の冷たさが感じられる。身体に掛けられているバスタオルの感触、インテリ系眼鏡美女の手の温もり、それらを俺は感じている。これは現実なんだ‥‥‥。

エレベーターが無事に目的の階の到着し、俺は正直ホッとした。こういうのってエレベーターが途中で止まっちまうのがお約束だろ? でもまったくそんな事無く到着したから拍子抜けしたけど、安心もした。なんせ今の俺はバスタオル1枚でしかないんだ、また別のルートを歩かされるのはまっぴら御免だ。

エレベーターを降り、俺らが来たのはだだっ広い港のような場所だ。港の様なと言ったのは、如何見ても港にある桟橋の様に処に、2隻ほどの見た事も無い船? が止まっていたからだ。何でそれが船と分かるのかと言うと、イヤ、正確には船ではない、むかし使われていたスペースシャトルに似た形状をしている乗り物だ。えっ⁉ って事は、此処はもしかして‥‥‥。

 

「早くお乗りください」

 

隊長に言われるまま俺たちはそのシャトルの内のひとつに乗り込む。かと思ったが、それとは別の長方形と言う例えがピッタリな乗り物に乗せられた。如何やらこれがこの特殊部隊員が使っている乗り物の様だ。ってか、壁に穴開けてないか⁉ 如何すんの此れ⁉ その乗り物は壁を突き破って止まっているのだ。どうやって突き破った⁉

 

「博士と子供たちは回収した。各隊手筈通りに‥‥‥準備出来次第直ちに撤退しろ」

 

隊長が無線で他の隊と連絡して指示を出している。話を聞く限り、如何やら俺たちを此処から連れ出すのが目的の様だ。

 

「ν、早く乗って」

 

ニュー? あゝ俺の事か‥‥‥⁉ え、俺ニューって名前なのか? 作品の中にはそんな名前の機動兵器があったけど‥‥‥ううん? もしかして俺の名前ってギリシャ文字から来てるの? やっぱりここは地球なのか? だったらなんで俺は‥‥‥?

頭がパニックになりそうだ。あと俺に服を下さい。ズーッとバスタオル一枚でいるんです。寒くはないですが、とっても恥ずかしいです。今更だけど‥‥‥。

すると長方形が動き出し、壁に空けた穴を抜けていく。結構頑丈な造りなんだなこの長方形。などと思いながら、俺は外が気になって長方形の船にある丸くて小さな窓へ顔を近付けてみる。

 

「⁉」

 

すると俺の目の前に広大な宇宙空間が広がっていた。あのゲームで見る宇宙と同じ空間である。えっ! ほ、本当に宇宙⁉ 俺は目が覚めてから驚きの連続だ。裸で見知らぬ場所にいて、見知らぬ人に連れられ、何故か身体が縮み、そして今は宇宙空間にいる。そして宇宙空間の中に、ひときわ異彩を放つ岩石の塊が見えた。そしてそこから同じ様な長方形の船が次々と出て来るのが見える。出てくる長方形はさっき隊長さん連絡していた他の部隊だろう。という事は、俺たちがさっきまであの宇宙要塞の中にいたって事になる。なんかヤベえ! テンション上がって来たよ!

テンションが上がる中、俺はある事に気付いてしまった。俺の身体がまったく浮かんでいないという事だ。宇宙空間にいるなら無重力状態であるはずだ。なのに俺の身体がまったく浮かんでおらず、浮遊感も無い。まるで重力があるかの様だ。

アニメみたいにフワフワ浮きながら移動して見たいのに‥‥‥。

本当に宇宙か? 俺は今一度外が宇宙空間なのか疑いを持ってしまい見てみようとした瞬間、窓ガラスに映った俺の顔が見えた。さっきは気付かなかったが、少しばかり落ち着いたからか今は気が付いた。

窓ガラスに映る俺の顔は別人だった。改めて身体もまじまじと見てみたが、やはり縮んでいたと言うか、若返っている。多分10歳位に、そして何と言っても俺の顔が可なりの美少年に変わっていたのだ。一瞬女の子かと思うくらいの美少年だ。多分男の娘になっても十分行ける顔だ。やらんけど。

 

「此れって‥‥‥」

 

俺は此処に来て確信した‥‥‥ここは異世界だと‥‥‥俺はあの有名な異世界転生をしてしまったのだと分かったのだ。

 

異世界転生だァァァ———!!!」

 

俺がテンションMAXになって場所も考えずに叫んだ背後で、あの宇宙要塞の彼方此方で爆発が起こるのだった‥‥‥